第224回:総務省・「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言(案)に対する提出パブコメ
しばらく、パブコメエントリが続くと思うが、まず、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第2次提言案(pdf)に対するパブコメを(5月10日〆切。総務省のリリース、意見公募要領(pdf)、電子政府HPの該当ページ参照。)を書いて提出したので、以下に載せておく。
詳しくは、提出パブコメを読んでもらえればと思うが、相変わらず、この研究会は、利用者視点を踏まえているどころか、かえって利用者視点を踏みにじっていると言った方が良い無責任な提言を垂れ流している。前回の第1次提言案での最大の問題は、日本レコード協会の提案する日本版携帯著作権グリーン・ダム計画だったが(第183回参照)、今回の第2次提言案の最も大きな問題点は、青少年保護を理由として送信者に対しデフォルトオンでの送信メールの内容確認の実施が認られる余地があるとする、通信の秘密をないがしろにする法的整理と、商業目的でのDPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術の実施の可能性が現時点であるとする、やはり通信の秘密を安易に考えすぎている法的整理の部分である。送信者・利用者にとってその存在と対象範囲について通常意識・検証し得ない送信メールの内容確認・DPI技術について、実施の余地があるとする法的整理を安易に認めることは、通信の秘密をないがしろにすることであり、実質的に事業者による検閲を是とするに等しい危険なことに他ならない。
次回は、内閣府の男女共同参画局のパブコメ(内閣府のリリース参照)の話になると思っている。
(以下、提出パブコメ)
1.氏名及び連絡先
氏名:兎園(個人)
連絡先:
2.意見要旨
・事業者による実質的な検閲を是とするに等しい、送信者に対するデフォルトオンでの送信メールの内容確認の実施の余地を認める法的整理に反対する。
・やはり事業者による実質的な検閲を認めるに等しい、DPI技術を利用した行動ターゲティング広告の実施が現時点で可能であるとする法的整理に反対する。
・携帯フィルタリングの完全義務化に反対する。
・青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正を求める。
・情報管理について、物理的な媒体の紛失等と情報の漏洩・滅失・毀損が混同されているが、情報と有体物は混同されるべきではない。
・今後は、前回と今回の提言案に見られるような利用者視点を無視した検討ではなく、真に利用者視点に立った地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。
3.意見
(1)第2~3ページ「Ⅰ1.(2)青少年被害の拡大」について
この項目において、項目タイトルが「青少年被害の拡大」とされ、項目中でも「青少年のCGMサービス利用に伴う被害も増加している」等と書かれている。しかし、用いられている警察庁の統計(「いわゆる出会い系サイトに関係した事件の検挙状況について」)は統計の分割と単年傾向の誇張による印象操作を含むものであり、同じく警察庁の統計(「少年非行等の概要(平成21年1~12月)」http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/syonenhikou_h21.pdf)によれば、福祉犯被害少年数は、平成12年から21年で、8291件、8153件、7364件、7456件、7627件、7258件、7375件、7014件、7170件となお減少傾向にあり、児童買春事件と児童ポルノ事件の被害児童総数の推移で見ても平成12年から21年で963名、1389件、1690件、1617件、1678件、1750件、1578件、1419件、1184件、1308件となお減少傾向にあり、全体として被害児童数等が増大傾向にあるという事実はない。
これらのような警察庁の統計は検挙事件を取り上げているに過ぎず、被害の実態を表しているとは言い難いという問題点もあり、このような数字からせいぜい言えることは、児童買春事件の被害が減り、児童ポルノ事件によりリソースを割くことが可能となり、その結果が出ているのだろうということぐらいでしかない。統計を分割して一部の傾向のみ、しかも単年の傾向のみを誇張してあたかも被害が「拡大」しているとすることは悪質な印象操作を含むものであり、行政における報告書の記載としては極めて不適切である。
この部分における記載は、上記のような平成12年以降の統計全体の数値をきちんとあげ、項目タイトルを「減少傾向にある青少年被害」、項目中の記載についても、「青少年の被害はなお減少傾向にある」等と統計全体に基づいた記載に全面的に書き直すべきである。
(2)第3~6ページ「Ⅰ1.(3)福祉犯被害の防止に向けた効果的な対策の方向性」について
この項目において、出会い系サイト規制法の平成20年改正と青少年ネット規制法について言及されている。しかし、そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。出会い系サイト規制法の改正も、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。(出会い系と非出会い系というサイトの分け方自体不適切であり、(1)で取り上げた警察庁の各種統計は到底詳細な分析に耐えるものではないが、平成20年から平成21年の被害児童数の増加については、平成20年の出会い系サイト規制法改正の施行が児童が絡む事件の地道な取り締まりにかえって悪影響を及ぼした恐れなしとしない。今後の取り締まりの動向には十分以上に注意するべきである。)
この部分ではこのような意見があることも書き加えるべきであり、啓発・教育等を中心とした地道な対策についてまで否定するつもりはないが、特に、可能な限り早期に、出会い系サイト規制法の改正前の形への再改正と青少年ネット規制法の廃止の検討を政府レベルで開始すると書くべきである。
(3)第6~7ページ「Ⅰ2.(1)フィルタリングサービスの普及改善」について
ここで、「携帯電話フィルタリングの解除の抑制については、危険性を十分に認識しないことによる安易な解除を防ぐための取組が求められる」と書かれている。
フィルタリングに関する規制については、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討してもらいたいとパブコメ等で再三意見を述べているが、今に至るもこのような本当の問題点を示す調査はなされていない。繰り返しになるが、フィルタリングについても、一部の者の一方的な思い込みによって安易に方針を示すことなく、本当の問題点を把握した上で検討を進めると書くべきである。
また、東京都等の地方自治体が、青少年保護健全育成条例の改正により、各自治体の定める理由によってしか子供のフィルタリングの解除を認めず、違反した事業者に対する調査指導権限を自治体に与え、携帯フィルタリングの実質完全義務化を推し進めようとしているが、このような青少年ネット規制法の精神にすら反している行き過ぎた規制の推進は、地方自治体法第245条の5に定められているところの、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反しているか著しく適正を欠きかつ明らかに公益を害していると認めるに足ると考えられるものであり、同じく不適切なその他の情報規制推進についても合わせ、総務大臣から各地方自治体に迅速に是正命令を出すべきである。
なお、フィルタリングについては、その政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えた過去がある。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。今までのところ、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗しているとする根拠はなく、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずであり、廃止するまでにおいても、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、このような不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。
(4)第7~17ページ「Ⅰ2.(2)青少年向けの機能制限等」について
この項目において、通信当事者ではないSNS等のCGMサービス運営者がそのサービス中の「ミニメール」内容確認を行うことが許されるかという点についての検討が行われているが、書かれている通り「ミニメール」の内容が通信の秘密に該当するのは当然のこととして、受信情報に関する自動的なフィルタリングについて受信当事者の同意があるとしてフィルタリングサービスのデフォルトオンが認められる要件を、「利用者」という語の一般化により送信者における送信情報の内容確認のデフォルトオンにまで拡大適用可能であるかの如き記載は通信の秘密との関係整理として不適切極まるものである。
この点、未知の受信情報について主体的に遮断・選択する必要性があり、デフォルトでオンとされてもフィルタリングサービスの存在と対象範囲について通常意識し得る立場の受信者の場合と、送ろうとする既知の情報について遮断・選択の必要性がなく、一旦デフォルトで内容確認サービスをオンとされてしまうとその内容確認の存在と対象範囲について通常は意識し得ない立場の送信者の場合では、完全に前提が異なるとするべきである。メールの内容確認を送信者に対しデフォルトオンで認める余地があるとすることは、実質、送信者が受信者しか知り得ないだろうと思って送る情報の内容について、知らない内に事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高い。受信情報のフィルタリングに関する要件を一方的に拡大解釈し、送信者に対するデフォルトオンのメールの内容確認の余地を認めることは、実質的にメール・通信の検閲の余地を認めるに等しく、憲法にも規定されている通信の秘密をないがしろにすることにつながりかねない極めて危険なことである。
これはデフォルトオンでメールの内容確認を行う場面が限定的であるか否かという問題ではなく、このような利用者視点とは到底思えない視点に基づいた、実質的な検閲を是とするかの如き通信の秘密に関する歪んだ整理の記載は、一切削除するべきである。
(5)第55~58ページ「Ⅱ6.(2)法的な課題」について
この部分において、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を用いた行動ターゲティング広告について「DPI技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されない。利用者の同意が明確かつ個別のものであることが必要なことは、前記②記載のとおりであるから、同意に当たっての判断材料を提供するという意味で、利用者に対してサービスの仕組みや運用について透明性が確保されるべきである。よって、DPI技術を用いた行動ターゲティング広告については、各事業者は、透明性の確保に向けて運用に当たっての基準等を策定し、これを適用することが望ましい」という整理がなされている。
書かれている通り、DPI(ディープ・パケット・インスペクション)技術を活用した行動ターゲティング広告の実施は、利用者の同意がなければ通信の秘密を侵害するものとして許されないのは当然のこととして、DPI技術はネットワーク中のパケットに対して適用されるものであり、一旦導入されてしまうと、その存在と対象範囲について通常の利用者は全く意識・検証し得ないものである。DPI技術についても、利用者が知らない内に通信内容が事業者に検閲されているという状態をもたらす危険性が極めて高く、実質的な検閲をもたらしかねない危険なものとして安易な法的整理はされてはならない。契約書によったとしても、それだけでは、明確かつ個別の同意が十分に得られ、利用者からDPI技術の存在と対象範囲について十分に意識・検証可能となっているとすることはできない。DPI技術の利用については、通常の利用者の明確かつ個別の同意を得ることは現時点では不可能であり、この部分の記載は、現時点で、法的課題を克服することは困難であり、基準等の作成もされるべきではないとされなくてはならない。
(6)第93~94ページ「Ⅲ4.(3)簡略化可能な手続」について
この部分における整理で、物理的な媒体の紛失等と情報の漏洩・滅失・毀損が混同されているが、情報と有体物は混同されるべきではない。
物理的な媒体が紛失等にあったとしても、技術的な保護措置が講じられていたことにより、情報の漏洩・滅失・毀損があったとは考えられない場合は確かにあるだろうが、例えば、暗号化がなされていたとしても、その紛失媒体に記録された情報のバックアップが取られていなかった場合など、やはり情報の滅失・毀損と評価されなければならない。また、真に利用者視点に立つならば、個人情報を記録した媒体が事業者の従業員等によりどのような状況で紛失されたか、またどのような手段によりその情報の漏洩等が防がれたかといった情報は、利用者が事業者のサービスを選択する上で極めて重要な情報となり得るものである。あくまでガイドラインレベルの話だが、ある手続きを一概に省略可能とすることはかえって硬直的な対応を招く恐れもある。
この部分における整理は、情報と有体物の混同に基づくのではなく、物理的な媒体が紛失等にあったとしても、技術的な保護措置が講じられていたことにより、情報の漏洩・滅失・毀損があったとは考えられない場合があるとする整理にした上で、どのような形のガイドラインが真に望ましいのかについてさらに検討が行われるべきである。
なお、経済産業省の「営業秘密の管理に関するワーキンググループ「営業秘密管理指針の再改訂(案)」に関する3月18日〆切の意見公募(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595210004&Mode=0参照)の「参考資料3:各種ガイドライン等について」中で、我が国における情報管理に関するものとして16にも及ぶガイドラインがあげられており、他にも例えば、消費者庁のホームページ(http://www.caa.go.jp/seikatsu/kojin/gaidorainkentou.html参照)で個人情報についてのみで39にも及ぶガイドラインがあげられているが、情報や事業毎に多少の違いが出て来るのはやむを得ないところもあるだろうが、同一分野に対してこの数はあまりにも多過ぎである。このようなガイドラインの過多から来るコンプライアンスの複雑化により正当な事業活動が妨げられている恐れもある。今後は、真の利用者視点に立ちつつ、このようなあまりにも多過ぎる各種ガイドラインの整理統合の検討が政府において進められることを期待する。
(7)その他・提言案全体について
前回の第1次提言案と同じく、この提言案全体を通じて、真の意味で利用者視点が全く踏まえられておらず、かえって利用者視点を踏みにじっていることは、極めて残念なことと言わざるを得ない。また、前の提言案の内容について、その後何らフォローアップの公表もなく、今回、第2次提言案が出されたが、このような無責任な提言の垂れ流しは行政のあり方として極めて問題がある。これらの点については、一利用者として総務省に猛省を促したい。
前回の提言案に対するパブコメで書いたことだが、特に、日本レコード協会が前回の第1次提言案中で提案していた日本版携帯著作権グリーン・ダム計画の検討の完全停止を再度求めるとともに、そのフォローアップの公表を求める。また、やはり前回の提言案に対するパブコメで書いたことだが、国民の基本的な権利を侵害する危険な著作権検閲にしか流れようのない著作権法中のダウンロード違法化条項の削除を総務省から文化庁に強く働きかけること、そして、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律のレベルで明文で書き込むこと、および、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術による著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律のレベルで明文で書き込むことを求める。
今後は、前回と今回の提言案に見られるような利用者視点を無視した検討ではなく、真に利用者視点に立った地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。
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