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2010年2月27日 (土)

番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載

 第201回で元となった答申案のことを取り上げたが、東京都青少年保護条例(正式名称は、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」)の改正案がこの2月24日に東京都から都議会に提出された。この改正案の全文をhimagine_no9氏が都議会図書館から複写され(Scribdへのリンク氏のサーバーのpdf文書(内容は同じ)へのリンク)、JFEUG氏がOCRを用いて比較資料を作成されている。

 これらのリンク先から直接読んで頂ければ良い話なのだが、条例改正案は改め文で読みにくいので、ここでも、元の青少年条例の改正部分を示すという形でその全文を転載しておきたいと思う。(特に新しい情報が含まれている訳ではないので今回は番外とした。また、折角作ったので、JFEUG氏のファイルのさらに訂正版のテキストファイルへのリンクもここに張っておく。)

 詳しくは下に載せる条例案本文を直接読んでもらえればと思うが、この東京都の青少年保護条例改正案は、第201回などで取り上げたその青少年問題協議会の答申を完全になぞり、やはり完全にパブコメは無視された形であり、その内容は、a.利用者と事業者から無意味にテラ銭を巻き上げることのみを目的とした携帯電話の推奨制度の導入(第5条の2)、b.児童ポルノを理由とした根拠なく曖昧な定義に基づく創作物(図書類又は映画等)の有害図書・不健全図書指定対象への追加(第7条第2号、第8条第1項第2号、第9条の2第1項第2号)、c.青少年の情報アクセスを超えて一般の情報アクセスに多大な制限を加えることになるだろう、1年間で不健全指定を六回受けたものに対する東京都による必要な措置の勧告・公表の導入(第9条の3)、d.都民は児童ポルノをみだりに所持しない責務を有するとする児童ポルノ所持の違法化(第18条の6の4。ただし、罰則はなし)、e.児童ポルノを理由とした曖昧な定義に基づく東京都に対する保護者と事業者に対する指導・調査権限の付与(第18条の6の5)、f.親から子供の監督権を奪い、子供の情報アクセス権・プライバシーを無視する形での携帯電話フィルタリングのほぼ完全な義務化と、携帯電話フィルタリングについての東京都に対する携帯電話事業者への勧告・公表・調査権限の付与(第18条の7の2)、g.青少年のインターネットの利用についての行政機関(想定しているのは主として警察だろう)による東京都への通報制度の導入と東京都に対する保護者への指導・調査権限の付与(第18条の8)という、違憲でない項目を探すことの方が難しいくらいの凄まじい規制のオンパレードである。

 都民のパブコメはおろか、書籍出版協会・雑誌協会が出したパブコメ(pdf)日本出版労働組合連合会が出したパブコメ(pdf)すら完全に無視された格好であり(恐らく他の多くの事業者・業界もこのパブコメには反対意見を出していたことだろう)、さらにこの条例の対象と今現在の日本における東京の一極集中を考えると、この表現規制の影響は、漫画やアニメ、ゲームなどの業界は無論のこと、出版業界全体、雑誌業界全体、アイドル業界、映画業界などおよそ表現にかかわる全業界に及ぶのは間違いなく、ネット規制という点からはあらゆるインターネット関連企業が関係し、携帯規制という点では、総務省の携帯フィルタリング導入騒動を考えても、全携帯電話キャリアとコンテンツ・プロバイダーがまたも甚大な被害を被る可能性も高い。

 甚だ心もとないところもあるのだが、東京全都民、東京都に事業所を構えるあらゆる企業と東京都議会議員が、真の良識でもって、このような有害無益かつ危険な規制強化しか含まれていない条例改正案を速やかに廃案にすることを私は心から願っている。

 次回は、「P2Pとかその辺のお話@はてな」でも取り上げられているアクセスコントロール規制強化の話も含め、知財本部の検討の話を書くつもりである。

(1)提案理由
 青少年の健全な育成を図るため、児童ポルノの根絶等への気運の醸成等に関する規定を設けるとともに、インターネット利用環境の整備等に関する規定を改めるほか、規定を整備する必要がある。

(2)条例改正案(赤字強調は追加部分)
目次
(略)
第二章 優良図書類等の推奨等(第五条—第六条)優良図書類等の推奨及び表彰(第五条・第六条)
第三章の三 児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた気運の醸成及び環境の整備(第十八条の六の二—第十八条の六の五)
第三章の四 インターネット利用環境の整備(第十八条の六の六—第十八条の八)

第三章の三 インターネット利用環境の整備(第十八条の七—第十八条の九)
(略)

(携帯電話端末等の推奨)
第五条の二 知事は、携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)で、青少年がインターネットを利用して青少年の健全な育成を阻害するおそれがある情報を得ることがないよう必要な配慮を行つていることその他の東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な育成に配慮した機能を備えていると認めるものを、青少年の年齢に応じて推奨することができる。
2 知事は、前項の規定による推奨をしようとするときは、東京都規則で定めるところにより、業界に関係を有する者、青少年の保護者、学識経験を有する者その他の関係者の意見を聴かなければならない。

(表彰)
第六条 知事は、青少年の健全な育成を図る上でうえに必要があると認めるときは、次の各号に掲げるものを表彰することができる。
 青少年を健全に育成するために積極的に活動し、その功績が特に顕著であると認められるもの
 青少年又はまたは青少年の団体で、その行動が他の模範になると認められるもの
 第五条前条の規定により知事が推奨した図書類、映画等及びがん具類で、特に優良であると認められるものを作成し、または公衆の観覧に供し、又はこれらに供したもの及びこれに関与したもの
 次条の規定による自主規制を行つた者で、青少年の健全な育成に寄与するところが特に大であると認められるもの

第三章 不健全な図書類等の販売等の規制

(図書類等の販売等及び興行の自主規制)
第七条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、次の各号のいずれかに該当する青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。
一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

(略)

(不健全な図書類等の指定)
第八条 知事は、次に掲げるものを青少年の健全な育成を阻害するものとして指定することができる。
一 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
二 販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等で、その内容が、第七条第二号に該当するもののうち、強姦等著しく社会規範に反する行為を肯定的に描写したもので、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく阻害するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
 販売され、又は頒布されているがん具類で、その構造又は機能が東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの
 販売され、又は頒布されている刃物で、その構造又は機能が東京都規則で定める基準に該当し、青少年又はその他の者の生命又は身体に対し、危険又は被害を誘発するおそれがあると認められるもの
2 前項の指定は、指定するものの名称、指定の理由その他必要な事項を告示することによつてこれを行わなければならない。
3 知事は、前二項の規定により指定したときは、直ちに関係者にこの旨を周知しなければならない。

(指定図書類の販売等の制限)
第九条 図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人、使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人、使用人その他の従業者(以下「図書類販売業者等」という。)は、前条第一項第一号又は第二号の規定により知事が指定した図書類(以下「指定図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けてはならない。
 図書類の販売又は貸付けを業とする者及び営業に関して図書類を頒布する者は、指定図書類を陳列するとき(自動販売機等により図書類を販売し、又は貸し付ける場合を除く。以下この条において同じ。)は、青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法により包装しなければならない。
 図書類販売業者等は、指定図書類を陳列するときは、東京都規則で定めるところにより当該指定図書類を他の図書類と明確に区分し、営業の場所の容易に監視することのできる場所に置かなければならない。
 何人も、青少年に指定図書類を閲覧させ、又は観覧させないように努めなければならない。

(表示図書類の販売等の制限)
第九条の二 図書類の発行を業とする者(以下「図書類発行業者」という。)は、図書類の発行、販売若しくは貸付けを業とする者により構成する団体で倫理綱領等により自主規制を行うもの(以下「自主規制団体」という。)又は自らが、次の各号に掲げる基準に照らし、それぞれ当該各号に定める第八条第一項第一号の東京都規則で定める基準に照らし、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認める内容の図書類に、青少年が閲覧し、又は観覧することが適当でない旨の表示をするように努めなければならない。
一 第八条第一項第一号の東京都規則で定める基準 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 第八条第一項第二号の東京都規則で定める基準 非実在青少年を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

2 図書類販売業者等は、前項に定める表示をした図書類(指定図書類を除く。以下「表示図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けないように努めなければならない。
3 図書類発行業者は、表示図書類について、青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法により包装するように努めなければならない。
4 図書類販売業者等は、表示図書類を陳列するとき(自動販売機等により図書類を販売し、又は貸し付ける場合を除く。)は、東京都規則で定めるところにより当該表示図書類を他の図書類と明確に区分し、営業の場所の容易に監視することのできる場所に置くように努めなければならない。
5 何人も、青少年に表示図書類を閲覧させ、又は観覧させないように努めなければならない。

(表示図書類に関する勧告
第九条の三 知事は、指定図書類のうち定期的に刊行されるものについて、当該指定の日以後直近の時期に発行されるものから表示図書類とするように自主規制団体又は図書類発行業者に勧告することができる。
2 知事は、図書類発行業者であつて、その発行する図書類が第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定(以下この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去一年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にあつては当該過去一年聞に、過去一年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあつては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が二以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に不健全指定を六回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。
4 知事は、前項の規定による公表をしようとする場合は、第二項の勧告を受けた者に対し、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。

 知事は、表示図書類について、前条第二項から第四項までの規定が遵守されていないと認めるときは、図書類販売業者等又は図書類発行業者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
(略)

(指定映画の観覧の制限)
第十条 興行場において、第八条第一項第一号又は第二号の規定により知事が指定した映画(以下「指定映画」という。)を上映するときは、当該興行場を経営する者及びその代理人、使用人その他の従業者は、これを青少年に観覧させてはならない。
 何人も、青少年に指定映画を観覧させないように努めなければならない。
(略)

第十三条 がん具類の販売を業とする者及びその代理人、使用人その他の従業者並びに営業に関してがん具類を頒布する者及びその代理人、使用人その他の従業者は、第八条第一項第三号第八条第一項第二号の規定により知事が指定したがん具類(以下「指定がん具類」という。)を青少年に販売し、又は頒布してはならない。
 何人も、青少年に指定がん具類を所持させないように努めなければならない。

(指定刃物の販売等の制限)
第十三条の二 何人も、第八条第一項第四号第八条第一項第三号の規定により知事が指定した刃物(以下「指定刃物」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けてはならない。
2 何人も、青少年に指定刃物を所持させないように努めなければならない。
(略)

(自動販売機等に対する措置)
第十三条の五 自動販売機等業者は、表示図書類若しくは青少年に対し性的感情を刺激し、残虐性を助長し、若しくは自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあり、第八条第一項第一号若しくは第二号の東京都規則で定める基準に準ずる内容の図書類(指定図書類を除く。)又は特定がん具類(指定がん具類を除く。)を収納している自動販売機等について、青少年が当該図書類又は特定がん具類を観覧できず、かつ、購入し、又は借り受けることができないように東京都規則で定める措置をとらなければならない。
(略)

(青少年の性に関する保護者等の責務)
第十八条の三 保護者及び青少年の育成にかかわる者(以下「保護者等」という。)は、異性との交友が相互の豊かな人格のかん養に資することを伝えるため並びに青少年が男女の性の特性に配慮し、安易な性行動により、自己及び他人の尊厳を傷つけ、若しくは心身の健康を損ね、調和の取れた人間形成が阻害され、又は自ら対処できない責任を負うことのないよう、慎重な行動をとることを促すため、青少年に対する啓発及び教育に努めるとともに、これらに反する社会的風潮を改めるように努めなければならない。
 保護者等保護者及び青少年の育成にかかわる者は、青少年のうち特に心身の変化が著しく、かつ、人格が形成途上である者に対しては、性行動について特に慎重であるよう配慮を促すように努めなければならない。
 保護者は、青少年の性的関心の高まり、心身の変化等に十分な注意を払うとともに、青少年と性に関する対話を深めるように努めなければならない。
(略)

第三章の三 児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都の責務)
第十八条の六の二 都は、児童ポルノ(児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項に規定する児童ポルノをいう。以下同じ。)を根絶すべきことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携し、児童ポルノを根絶するための環境の整備に努める責務を有する。
2 都は、青少年性的視覚描写物(第七条各号に該当する図書類又は映画等のうち当該図書類又は映画等において青少年が性的対象として扱われているもの及び第十八条の六の五第一項の図書類又は映画等をいう。以下同じ。)をまん延させることにより青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努めるとともに、事業者及び都民と連携し、青少年性的視覚描写物を青少年が容易に閲覧又は観覧することのないように、そのまん延を抑止するための環境の整備に努める責務を有する。
3 都は、みだりに性的対象として扱われることにより心身に有害な影響を受けた青少年に対し、その回復に資する支援のための措置を適切に講ずるものとする。
4 都は、事業者及び都民による児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延の抑止に向けた活動に対し、支援及び協力を行うように努めるものとする。

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた事業者の責務)
第十八条の六の三 事業者は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
2 事業者は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、その事業活動に関し、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、他の事業者と協力して、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないようにするための適切な措置をとるように努めるものとする。

(児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた都民等の責務)
第十八条の六の四 何人も、児童ポルノをみだりに所持しない責務を有する。
2 都民は、都が実施する児童ポルノの根絶に関する施策に協力するように努めるものとする。
3 都民は、青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて理解を深め、青少年性的視覚描写物が青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあることに留意し、青少年が容易にこれを閲覧又は観覧することのないように努めるものとする。

(青少年を性的対象として扱う図書類等に係る保護者等の責務)
第十八条の六の五 保護者等は、児童ポルノ及び青少年のうち十三歳未満の者であつて衣服の全部若しくは一部を着けない状態又は水着若しくは下着のみを着けた状態(これらと同等とみなされる状態を含む。)にあるものの扇情的な姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として描写した図書類(児童ポルノに該当するものを除く。)又は映画等において青少年が性的対象として扱われることが青少年の心身に有害な影響を及ぼすことに留意し、青少年が児童ポルノ及び当該図書類又は映画等の対象とならないように適切な保護監督及び教育に努めなければならない。
2 事業者は、その事業活動に関し、青少年のうち十三歳未満の者が前項の図書類又は映画等の対象とならないように努めなければならない。
3 知事は、保護者又は事業者が青少年のうち十三歳未満の者に係る第一項の図書類又は映画等で著しく扇情的なものとして東京都規則で定める基準に該当するものを販売し、若しくは頒布し、又はこれを閲覧若しくは観覧に供したと認めるときは、当該保護者又は事業者に対し必要な指導又は助言をすることができる。
4 知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者及び事業者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる。

第三章の四第三章の三 インターネット利用環境の整備

(インターネット利用に係る都の責務)
第十八条の六の六 都は、インターネットの利用に関する青少年の健全な判断能力の育成を図るため、普及啓発、教育等の施策の推進に努めるものとする。
2 都は、青少年がインターネットの利用に伴う危険性及び過度の利用による弊害について適切に理解し、これらの除去に必要な知識を確実に習得できるようにするため、青少年に対して行われるインターネットの利用に関する啓発についての指針を定めるものとする。

(インターネット利用に係る事業者の責務)
第十八条の七 青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者(青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成二十年法律第七十九号。以下「青少年インターネット環境整備法」という。)第五条に規定する青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者をいう。以下同じ。)及び青少年有害情報フイルタリングソフトウェア(青少年インターネット環境整備法第二条第九項に規定する青少年有害情報フィルタリングソフトウェアをいう。以下同じ。)に関係する事業を行う者(青少年インターネット環境整備法第三十条第一号のフィルタリング推進機関並びに同条第二号及び第六号の民間団体をいう。)は、その業務に関し提供等を行う青少年有害情報フィルタリングソフトウェア及び青少年有害情報フィルタリングサービス(青少年インターネット環境整備法第二条第十項に規定する青少年有害情報フイルタリングサービスをいう。以下同じ。)が、青少年がインターネットを利用して自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為を行い、又は犯罪若しくは被害を誘発することを容易にする情報を閲覧する機会を最小限にとどめるものとなるように努めなければならない。
2 インターネット接続役務提供事業者(青少年インターネット環境整備法第二条第六項に規定するインターネット接続役務提供事業者をいう。)は、インターネット接続役務(同条第五項に規定するインターネット接続役務をいう。)に係る契約を締結するに当たつては、当該契約の相手方に対し、青少年の利用の有無を確認し、利用者に青少年が含まれる場合には、青少年有害情報フィルタリングサービスを提供している旨を告知し、その利用を勧奨するように努めなければならない。
3 携帯電話インターネット接続役務提供事業者(青少年インターネット環境整備法第二条第八項に規定する携帯電話インターネット接続役務提供事業者をいう。以下同じ。)は、携帯電話インターネット接続役務(同条第七項に規定する携帯電話インターネット接続役務をいう。以下同じ。)に係る契約を締結するに当たつては、当該契約の相手方に対し、青少年の利用の有無を確認するように努めなければならない。
4 第十六条第一項第四号に掲げる施設を経営する者は、青少年が当該施設に備え付けられた機器によりインターネットを利用する場合には、青少年がインターネットを適正に利用できるように、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを利用した機器又は青少年有害情報フィルタリングサービスの提供を受けた機器の提供に努めなければならない。
5 青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者は、青少年のインターネットの利用に関する健全な判断能力の育成を図るため、その利用に伴う危険性及び過度の利用による弊害並びにこれらの除去に必要な知識について青少年が適切に理解できるようにするための啓発に努めるものとする。

(インターネット利用に係る事業者の責務)
第十八条の七 電気通信設備によるインターネット接続サービスの提供を行うことを業とする者(以下「インターネット事業者」という。)は、青少年の健全な育成を阻害するおそれがある情報を取り除くためのフィルタリング(インターネットを利用して得られる情報について一定の条件により受信するかどうかを選択することができる仕組みをいう。)の機能を有するソフトウェア(以下「青少年に有益なソフトウェア」という。)を利用したサービスを開発するとともに、利用者に提供するように努めなければならない。
2 インターネット事業者は、利用者と契約を行う際には、青少年の利用の有無を確認し、利用者に青少年が含まれる場合には、青少年に有益なソフトウェアを利用したサービスを提供している旨を告知し、その利用を勧奨するものとし、及びこれを利用することが可能であることを標準的な契約内容とするように努めなければならない。
3 インターネット事業者のために利用者と契約の締結の媒介、取次ぎ又は代理(以下「媒介等」という。)を業として行う者は、利用者と契約の締結の媒介等を行う際には、青少年の利用の有無を確認し、利用者に青少年が含まれる場合には、青少年に有益なソフトウェアを利用したサービスが存在する旨を告知し、その利用を勧奨するように努めなければならない。
4 第十六条第一項第四号に掲げる施設を経営する者は、青少年が当該施設に備え付けられた機器によりインターネットを利用する場合には、青少年がインターネットを適正に利用できるように、青少年に有益なソフトウェアを利用した機器の提供に努めなければならない。

(携帯電話端末等による青少年有害情報の閲覧防止措置)
第十八条の七の二 保護者は、青少年が携帯電話インターネット接続役務に係る契約(当該契約の内容を変更する契約を含む。以下同じ。)の当事者となる場合又は保護者が青少年を携帯電話端末等の使用者とする携帯電話インターネット接続役務に係る契約を自ら締結する場合において、青少年インターネット環境整備法第十七条第一項ただし書の規定により青少年有害情報フィルタリングサービスを利用しない旨の申出をするときは、東京都規則で定めるところにより、保護者が携帯電話インターネット接続役務提供事業者が提供するインターネットの利用状況に関する事項の閲覧を可能とする役務を利用すること等により青少年がインターネット上の青少年有害情報(青少年インターネット環境整備法第二条第三項に規定する青少年有害情報をいう。)を閲覧することがないように適切に監督することその他の東京都規則で定める正当な理由その他の事項を記載した書面を携帯電話インターネット接続役務提供事業者に提出しなければならない。
2 携帯電話インターネット接続役務提供事業者は、前項に規定する契約を締結するに当たつては、青少年又はその保護者に対し、青少年有害情報フイルタリングサービスの内容その他の東京都規則で定める事項を説明するとともに、当該事項を記載した説明書を交付しなければならない。
3 携帯電話インターネット接続役務提供事業者は、青少年有害情報フィルタリングサービスの利用を条件としない第一項に規定する契約を締結したときは、当該契約に係る同項の書面に記載された正当な理由その他の事項を、東京都規則で定めるところにより、書面又は電磁的方法により記録し、保存しなければならない。
4 知事は、携帯電話インターネット接続役務提供事業者が第二項又は前項の規定に違反していると認めるときは、当該携帯電語インターネット接続役務提供事業者に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる。
5 知事は、携帯電話インターネット接続役務提供事業者が前項の規定による勧告に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
6 知事は、前項の規定により公表しようとするときは、第四項の勧告を受けた携帯電話インターネット接続役務提供事業者に対し、意見を述べ、証拠を提出する機会を与えなければならない。
7 知事が指定した知事部局の職員は、第二項から第五項までの規定の施行に必要な限度において、当該携帯電話インターネット接続役務提供事業者の営業又は事業の場所に営業時間内において立ち入り、調査を行い、又は関係者に質問し、若しくは資料の提出を求めることができる。

(インターネット利用に係る保護者等の責務)
第十八条の八 保護者は、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用により、青少年がインターネットを適正に利用できるように努めるとともに、青少年がインターネットを利用して自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発することを防ぐため、青少年のインターネットの利用状況を適切に把握し、青少年のインターネットの利用を的確に管理するように努めなければならない。
2 保護者等は、家庭、地域その他の場において、インターネットの利用に関する青少年の健全な判断能力の育成を図るため、自らもインターネットの利用に伴う危険性及び過度の利用による弊害についての理解並びにこれらの除去に必要な知識の習得に努めるとともに、これらを踏まえて青少年とともにインターネットの利用に当たり遵守すべき事項を定めるなど適切な利用の確保に努めるものとする。
3 行政機関は、その業務を通じて、青少年がインターネツトを利用して自己若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発したと認めたときは、これを知事に通報することができる。
4 知事は、青少年がインターネツトを利用して自已若しくは他人の尊厳を傷つけ、違法若しくは有害な行為をし、又は犯罪若しくは被害を誘発したと認めるときは、その保護者に対し、当該青少年について再発防止に必要な措置をとるとともに、そのインターネットの利用に関し適切に監督するよう指導又は助言をすることができる。
5 知事は、前項の指導又は助言を行うため必要と認めるときは、保護者に対し説明若しくは資料の提出を求め、又は必要な調査をすることができる。

(インターネット利用に係る保護者等の責務)
第十八条の八 保護者は、青少年に有益なソフトウェアの利用により、青少年がインターネットを適正に利用できるように努めなければならない。
2 保護者及び青少年の育成にかかわる者は、家庭、地域その他の場において、インターネットの利用に関する健全な判断能力の育成を図るため、その利用に伴う危険性、過度の利用による弊害等についての青少年に対する教育に努めなければならない。

(インターネット利用に係る都の責務)
第十八条の九 都は、インターネットの利用に関する青少年の健全な判断能力の育成を図るため、普及啓発、教育等の施策の推進に努めるものとする。

(略)

(小委員会)
第二十四条の二(略)
7 前条第二十四条の規定は、小委員会の定足数及び表決数について準用する。
(略)

(3)附則
 この条例は、平成二十二年十月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
 第一条の規定平成二十二年四月一日
 第二条の規定中目次の改正規定(「児童ポルノの根絶に向けた気運の醸成及び環境の整備(第十八条の六の二)」を「児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向欠た気運の醸成及び環境の整備(第十八条の六の二—第十八条の六の五)」に、「(第十八条の七—第十八条の九)」を「(第十八条の六め六—第十八条の八)」に改める部分に限る。)、第七条、第九条の三及び第十八条の六の二の改正規定、第三章の三中第十八条の六の二の次に三条を加える改正規定、第三章の四中第十八条の七の前に一条を加える改正規定、第十八条の七の改正規定(同条に一項を加える部分を除く。)、第十八条の八の改正規定並びに第十八条の九を削る改正規定並びに次項及び附則第三項の規定 平成二十二年七月一日
 平成二十二年七月一日から同年九月三十日までの間、第二条の規定による改正後の東京都青少年の健全な育成に関する条例(以下「新条例」という。)第九条の三第二項中「第八条第一項第一号又は第二号」とあるのは「第八条第一項第一号」とする。
 新条例第九条の三第二項に規定する指定の回数の算定に当たっては、平成二十二年七月一日以後に新条例第八条第一項第一号の規定に該当するものとしてなされた指定及び同年十月一日以後に新条例第八条第一項第二号の規定に該当するものとしてなされた指定を対象とする。

(2010年2月28日の追記:1ヶ所誤記を見つけたので訂正した「資格」→「視覚」。1ヶ所だけだが念のため、さらに訂正したテキストファイルへのリンクをここに張っておく。)

(同日の追記:コメントを頂いている皆様ありがとうございます。私も個人でできる限りのことはしたいと思っておりますが、東京都民で、反対の意見をお持ちとのことであれば、直接自分の選挙区選出の都議員に働きかけるなど直に反対の意見を伝えることをお勧めします。ただ、何をするにしても、相手のことを考えて迷惑にならないように丁寧に意見を伝えること、威力業務妨害や脅迫となるようなことを絶対にしないようにすることはくれぐれも守って下さい。)

(2010年3月2日夜の追記:東京都議会第1回定例会は2月24日から始まっているが、今日から代表質問が始まっている(質問予定録画映像会議録参照)。明日以降も一般質問などが続くが、今回の都議会の審議は本当に要注意である。)

(2010年3月4日の追記:野上ゆきえ都議がそのtwitterで、この青少年保護条例が、総務委員会に付託され、18日の委員会で取り上げられる予定という情報を教えて下さっている。この条例の危険性を考えると、この審議はいくら注意してもしすぎではない。)

(2010年3月8日の追記:都議会のHPに3月2日の会議録3月3日の会議録がアップされており、上の3月2日の追記中に会議録へのリンクを追加した。)

(2010年3月12日の追記:コメントでご指摘頂いた誤記を訂正した「運携」→「連携」。念のため、さらに訂正したテキストファイルへのリンクをここに張っておく。(ご指摘ありがとうございます。))

(2010年3月21日の追記:誤記を見つけたので訂正した「性交類似行為」→「性交又は性交類似行為」(第7条第2号)。念のため、さらに訂正したテキストファイルへのリンクをここに張っておく。)

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2010年2月22日 (月)

第216回:リークされた模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)のインターネット関連部分

 オタワ大教授のマイケル・ガイスト氏がそのブログ記事で、海賊版対策条約(ACTA)のインターネット関連部分の条文がリークされたという話を書いている。この話は極めて重要と思っているので、今回はこの話を先に取り上げる。このリークされた部分(リーク文書へのリンク)に書かれているのは、以下のような条文である。(翻訳は例の如く拙訳。)

Article 2.17: Enforcement procedures in the digital environment

1. Each Party shall ensure that enforcement procedures, to the  extent set forth in the civil and criminal enforcement sections of this Agreement, are available under its law so as to permit effective action against an act of, trademark, copyright or related rights infringement which takes place by means of the Internet, including expeditious remedies to prevent infringement and remedies which constitute a deterrent to further infringement.

2. Without prejudice to the rights, limitations, exceptions or defenses to copyright or related rights infringement available under its law, including with respect to the issue of exhaustion of rights, each Party confirms that civil remedies, as well as limitations, exceptions, or defenses with respect to the application of such remedies, are available in its legal system in
cases of third party liability for copyright and related rights infringement.

3. Each Party recognize that some persons use the services of third parties, including online service providers, for engaging in copyright or related rights infringement. Each Party also recognizes that legal uncertainty with respect to application of intellectual property rights, limitations, exceptions, and defenses in the digital environment may present barriers to the economic growth of, and opportunities in, electronic commerce. Accordingly, in order to facilitate the continued development of an industry engaged in providing information services online while also ensuring that measures take adequate and effective action against copyright or related rights infringement are available and reasonable, each Party shall:
(a) provide limitations on the scope of civil remedies available against an online service provider for infringing activities that occur by:
(I) automatic technical processes and
(II) the actions of the provider's users that are not directed or initiated by that provider when the provider does not select the material, and
(III) the provider referring or linking users to an online location when, in cases of subparagraphs (II) and (III), the provider does not have actual knowledge of the infringement and is not aware of the facts or circumstances from which infringing activity is apparent; and

(b) condition the applicantion of the provisions of subparagraph (a) on meeting the following requirements:
(I) an online service provider adopting and reasonably implementing a policy to address the unauthorized storage or transmission of materials protected by copyright or related rights except that no Party may condition the limitations in
subparagraph (a) on the online service provider's monitoring its services or affirmatively seeking facts indicating that infringing activity is occurring; and
(II) an online service provider expeditiously removing or disabling access to material or activity, upon receipt of legally sufficient notice of alleged infringement, and in the absence of a legally sufficient response from the relevant subscriber of the online service provider indicating that the notice was the result of a mistake or misidentification. except that the provisions of (II) shall not be applied to the extent that the online service provider is acting solely as a conduit for transmissions through its system or network.

4. In implementing Article 11 of the WIPO Copyright Treaty and Article 18 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty regarding adequate legal protection and effective legal remedies against the circumvention of effective technological measures that are used by authors, performers or producers of phonograms in connection with the exercise of their rights and that restrict unauthorized acts in respect of their works, performances, and phonograms, each Party shall provide civil remedies, as well as criminal penalties in appropriate cases of willful conduct that apply to:
(a) the unauthorized circumvention of an effective technological measure that controls access to a protected work, performance, or phonogram; and
(b) the manufacture, importation, or circulation of a technology, service, device, product, component, or part thereof, that is: marketed or primarily designed or produced for the purpose of circumventing an effective technological measure; or that has only a limited commercially significant purpose or use other than circumventing an effective technological measure.

5. Each Party shall provide that a violation of a measure implementing paragraph (4) is a separate civil or criminal offense, independent of any infringement of copyright or related rights. Further, each Party may adopt exceptions and limitations to measures implementing subparagraph (4) so long as they do not significantly impair the adequacy of legal protection of those measures or the effectiveness of legal remedies for violations of those measures.

6. In implementing Article 12 of the WIPO Copyright Treaty and Article 19 of the WIPO Performances and Phonograms Treaty on providing adequate and effective legal remedies to protect rights management information, each Party shall provide for civil remedies, as well as criminal penalties in appropriate cases of willful conduct, that apply to any person performing any
of the following acts knowing that it will induce, enable, facilitate, or conceal an infringement of any copyright or related right:
(a) to remove or alter any rights management information without authority; and
(b) to distribute, import for distribution, broadcast, communicate, or make available to the public, copies of the works, performances, or phonograms, knowing that rights management information has been removed or altered without authority.

7. Each Party may adopt appropriate limitations or exceptions to the requirements of subparagraphs (a) and (b) of paragraph (6).

第2.17条 デジタル環境におけるエンフォースメント手続き

第1項 各加盟国は、インターネットを用いることで発生する、商標権、著作権あるいは著作隣接権権利侵害行為に対する効果的な措置を取ることを可能とするよう、侵害を抑止する迅速な救済措置、さらなる侵害を防止する救済措置を含め、本条約の民事的・刑事的エンフォースメントの章に書かれている限りのエンフォースメント手続きを国内法で担保しなければならない。

第2項 権利の消尽に関する事項を含め、その国内法で担保されている著作権あるいは著作隣接権に対する権利、権利制限、例外あるいは抗弁にかかわらず、各加盟国は、著作権と著作隣接権に関する第3者責任(訳注:間接侵害)のケースにおける民事的救済措置、並びにその救済措置の適用に関する制限、例外あるいは抗弁の担保をその法体系中でしなければならない。

第3項 各加盟国は、オンライン・サービス・プロバイダー(訳注:インターネット・サービス・プロバイダーという語を言い換えているが、恐らくインターネット以外の通信も含むと言いたいのだろう)を著作権あるいは著作隣接権の侵害のために用いる者がいることを認める。各加盟国はまた、デジタル環境における知的財産権、権利制限、例外と抗弁の適用に関する法的不明確性が、電子取引の経済的成長とその機会の障害となっているだろうことも認める。したがって、オンラインの情報サービス産業の持続的発展を促進し、著作権あるいは著作隣接権侵害に対する適切で効果的な措置を合理的な形で担保するため、各加盟国は、以下のことを行わなければならない:
(a)次のことによって発生する侵害行為について、オンライン・サービス・プロバイダーに対して使用可能な民事救済措置の範囲についてその責任制限を行うこと:
(Ⅰ)技術的な自動プロセス、及び
(Ⅱ)プロバイダーがそのデータを選別しない場合の、プロバイダーによって管理・開始されたものではないプロバイダーのユーザーの行為、及び
(Ⅲ)小段落(Ⅱ)と(Ⅲ)のケースで、プロバイダーが、侵害を実際に知らず、その事実あるいは侵害行為が見られる状況に気づいていなかった場合に、オンラインのある場所をユーザーに参照させる、あるいは、その場所とユーザーを接続すること;そして、

(b)(a)の規定の適用は、以下の要件を満たす場合とすること:
(Ⅰ)オンライン・サービス・プロバイダーが、著作権あるいは著作隣接権によって保護される物の不正蓄積あるいは不正送信に対する対策(原注:このような対策の例として、適切な状況において、サービス・プロバイダーのシステムあるいはネットワークにおける繰り返しの侵害者のアカウント・契約の停止がある。)を採用し、合理的に実施する場合。ただし、この(a)の責任制限において、いかなる加盟国も、オンライン・サービス・プロバイダーがそのサービスを監視すること、あるいは、侵害行為が生じていることを示す事実を積極的に探すことを条件とすることはできない;及び
(Ⅱ)オンライン・サービス・プロバイダーが、侵害の疑いの法的に十分なノーティスの受け取りに基づいて、そのノーティスの内容あるいは宛先が間違いであることを述べるオンライン・サービス・プロバイダーのユーザーからの返答がない場合に、その物へのアクセスあるいは行為を、迅速に止めるか取り除く場合。ただし、オンライン・サービス・プロバイダーがそのシステムあるいはネットワークを通じて単に伝送者として振る舞っている場合には、この(Ⅱ)の規定は適用されない。

第4項 その権利の行使に関係する形で著作権者、実演家あるいはレコード製作者によって用いられ、その著作物、実演あるいは録音に関する不正行為を制限する、有効な技術的保護手段の回避に対する適切な法的保護と法的救済措置に関する、WIPO著作権条約の第11条とWIPO実演・レコード条約の第18条を取り入れ、加盟国は、適切な意図的行動のケースにおける民事的救済措置と刑事的救済措置を規定する。この手段は、次のことに適用される。
(a)著作物、実演あるいは録音へのアクセスをコントロールする有効な技術手段の不正な回避;及び
(b)つまり、主として有効な技術的保護手段を回避する目的で販売されるか、主としてその目的のために設計されている、あるいは、有効な技術的保護手段を回避する以外に重要な商業的目的を持たない、技術、サービス、機器、製品、部品あるいはその一部をなす物の製造、輸入あるいは流通。

第5項 第4項に書かれている手段を破ることが、著作権あるいは著作隣接権侵害とは独立に、別々の民事あるいは刑事上の侵害行為となることを、各加盟国は規定しなければならない。さらに、第4項に書かれている手段について、この手段の適切な法的保護ありうはこの手段を破ることに対する法的救済措置の有効性を大きく損なうものでない限りにおいて、各加盟国は、第4項に書かれていいる手段について制限あるいは例外を採用することができる。

第6項 権利管理情報の保護のための適切で効果的な法的救済措置の規定に関する、WIPO著作権条約の第12条とWIPO実演・レコード条約の第19条を国内法に取り入れ、加盟国は、適切な意図的行動のケースにおける民事的救済措置と刑事的救済措置を規定する。この手段は、それが著作権あるいは著作隣接権侵害に寄与するか、それを可能とするか、助長するか、隠すだろうことを知りながら、次の行為を行う者に適用される:
(a)不正な権利管理情報の除去あるいは改変;及び
(b)その権利管理情報が不正に除去されているか改変されていることを知りながら、著作物、実演あるいは録音の複製物の頒布、頒布のための輸入、放送、送信あるいは公衆送信可能化。

第7項 各加盟国は、第6項の小段落(a)と(b)の要件について適切な制限あるいは例外を採用することができる。

 このリーク文書の真贋はやはり不明だが、偽物にしてはできすぎており、海賊版対策条約の交渉中で何らかの形で使われたものではないかと私は思っている。またいつの時点のものかも不明だが、条文の具体性から見てかなり最近のものではないかと思う。

 条文として曖昧なところもまだあるが、この条約は、ストライクポリシーについて、特にプロバイダーの責任制限のための条件として第3項(b)で露骨に例として言及されていることからも分かるように、およそ現状で想定していた通り、第3者責任(間接侵害)を規定し、その免責規定としてユーザーのネット切断をプロバイダーに強制するという形で3ストライクポリシーの実質的導入を図るものであると知れる。(各国政府は、これは強制ではないとする下らない言い訳を考えているのだろうが、間接侵害規定で脅してプロバイダーにユーザーのネット切断を課すのは強制に等しい。プロバイダーによるサービス監視を条件とすることはできない等のただし書きも、このようなストライクポリシーの強制に対しては意味を持たない。また、同じ条項で、ノーティス・アンド・テイクダウン手続きについても言及されているが、これも露骨にアメリカよりの形となっており、注意が必要である。)

 前回も書いた通り、このように間接侵害を規定してその免責規定としてインターネット・サービス・プロバイダーに個人のネット切断を強制するパターンを取るにせよ、このようなストライクポリシーは、通常の司法手続きを省いて一方的にネット切断という個人に極めて大きな影響を与える罰を与え、表現の自由に含まれる個人の知る権利、情報アクセスの権利を不当に抑制することになるのであり、新たな検閲の類型として、表現の自由に対する重大な侵害をもたらすものとして絶対に導入されてはならないものである。

 DRM回避規制についても、機器などを超えて、DRM回避技術・サービス自体まで対象とし、やはり「流通」("circulation")という曖昧かつ姑息な言葉が使われていることなどを見ても、この条文では、今の日本のDRM回避規制の大幅な強化、個人の情報アクセスまで危険なものとする法改正が必要となる可能性が高い。さらに、このような条文では、通常の企業のDRM技術・暗号技術の開発にすらリスクを発生させ、技術の発展に甚大な萎縮効果が発生させることになるだろう。(例外・制限を定められるともされているが、技術の発展が考えられる中で将来まで見越して適切な例外・制限を設けることが不可能であることは、著作権法上の権利制限に関する議論を見れば分かることである。)

 知財本部で今まさに、インターネット上の著作権侵害対策と称して、DRM回避規制について、プロバイダーの間接責任とストライクポリシーについて議論されているが(「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」の第1回(2月16日)議事次第第2回(2月22日)議事次第heatwave_p2p氏作成のtogetter1togetter2にまとめられているhimagine_no9氏のtwitter中継参照。ITproの記事も参照)、このような政府の規制強化の検討の背景にこの条約があることは明らかである。

 日本政府もこの条約に関する詳細について今なお公表していないが、ガイスト教授がそのブログ記事で書いているように、次回の海賊版対策条約についての次回国際会合はニュージーランドで4月12日から16日の日程に開催される予定であり、このタイミングで、国民の基本的な権利をないがしろにする検討が知財本部で全力で進められているのは、第198回で書いたように、ポリシーロンダリングで日本政府代表が国際会合の場でロクでもない口約束をして帰って来ていることの結果なのだろう。知財本部のワーキンググループの3月3日にさらにヒアリングと検討を行い、3月15日に中間とりまとめ案を出すという(予備日として3月24日も設けられている。第2回資料中にある今後のスケジュールについて(pdf)参照)、超ハイペース検討のあからさまなタイミングを見ても、恐らく、この検討会で最終的に出て来る案は、このリークされた条文に書かれていることをほぼそのままなぞり、実質的にストライクポリシーを導入するとするものになるのではないかという強い危惧を私は抱いている。しかし、このような国民の基本的な権利を完全にないがしろにするポリシーは絶対に導入されるべきではなく、今の状態でこのような危険な条約は妥結されないに越したことはないという私の考えに変わりはない。

 また、こちらはどこまで問題になるか分からないが、知財本部から、このワーキンググループの親調査会にあたる「コンテンツ強化専門調査会」の第3回(3月1日)開催案内と、「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」の第2回(2月26日)開催案内が公開されているので、一緒にリンクを張っておく。

 次回もこの続きで、やはり海賊版対策条約に絡む知財本部の検討の話を取り上げたいと思っている。

(2010年2月23日の追記:「P2Pとかその辺の話」で元のガイスト教授のブログ記事を翻訳紹介されているので、関心のある方は是非リンク先もご覧頂ければと思う。)

(2010年3月3日の追記:1ヶ所誤記を訂正した(「経時」→「刑事」)。)

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2010年2月19日 (金)

第215回:表現の自由の一般論(その3:情報アクセスに対する規制への表現の自由に関する違憲基準の適用)

 前回の話の続きで、情報に関する規制は通常いろいろな側面をもって行われるものであり、完全な分類が可能な訳ではないが、今まで問題になって来ている表現に関する規制について、まず情報アクセスに対する規制と考えられる類型について具体的にどう考えられるかという話を今回はまとめておきたい。やはり最初に、以下はあくまで個人的なまとめであることをお断りしておく。(憲法そのものについて、詳しくは、芦部信喜先生の「憲法」、「憲法学」、佐藤幸治先生の「憲法」、伊藤正己先生の「憲法」、長谷部恭男先生の「憲法」、浦部法穂先生の「憲法」等々の著名な憲法学の教科書を直接ご覧頂ければと思う。また、最近公表された日弁連の表現の自由に関する報告書(pdf)正誤表(pdf))も網羅的に一通り書かれているので非常にためになる。)

 インターネットの登場によって、個人の情報アクセスの機会は爆発的に増えた訳だが、権力の中にあって、そのことを心良く思わず、個人の知る権利、情報アクセスの権利を踏みにじって自分たちに都合の良いようにのみ情報をコントロールしようとする者もまた確かに存在している。このような歪んだ情報規制の動きは今後も完全に無くなりはしないだろうが、そのことが憲法の保障する表現の自由に照らして不当であることもまた変わらない。

 今までこのブログで取り上げて来た情報アクセスに対する規制の主なものとして、a.ブロッキング、b.強制フィルタリング、c.個人の情報アクセスの剥奪(ストライクポリシー)、d.情報の単純所持・取得・閲覧・アクセス罪の導入、e.情報の単純所持・取得・閲覧・アクセスの違法化(ダウンロード違法化)があげられる。

a.不透明な手続きにより課される特定の情報源の遮断・閉鎖(ブロッキング)
 児童ポルノ規制との関係で持ち出されることの多いサイトブロッキングだが、第211回で書いたように、行政機関の命令としてやろうと、自主規制としてやろうと、どのサイトがブロッキングの対象となるか等の具体的な情報は全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、ブロッキングにおいて運用の透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。そのため、国民から見て濫用の防止が不可能であり、必ず恣意的に濫用されることになるブロッキング等の措置は、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ない。(前回も書いた通り、ある情報源を完全に遮断・閉鎖し、そこに載っている表現物の発表・流通を完全に抑制し、表現の自由に含まれる個人の知る権利、情報アクセスの権利を不当に抑制することになるブロッキングのような手段は完全に検閲に該当すると私は考えている。)

b.特定の情報を遮断するように作られたソフト・機器・サービスの強制(フィルタリング義務化)
 青少年保護の観点から持ち出されることの多いフィルタリング義務化だが、中国の検閲ソフト導入計画「グリーン・ダム」計画を考えれば分かるように、フィルタリングソフト・機器・サービスを完全に義務化・強制して国民に押し付けた場合には、ブロッキングと同じく、ある情報を完全に遮断することになり、やはり表現の自由に含まれる個人の知る権利、情報アクセスの権利を不当に抑制することになるものとして検閲に該当することになる。(フィルタリングの対象の決め方・フィルタリングソフト・機器の不当な抱き合わせ商法の後押しで利権を作ることのみを目的とした今の青少年ネット規制法は、このような完全義務化でなく表現の自由の観点から違憲とまでは言えないにせよ、このような不当利権を作ることのみを目的とした立法が廃止されるべきであることに変わりはない。これに対して、詳細不明のため何とも言えないところもあるが、今東京都が狙っている子供の携帯フィルタリングの実質完全義務化の動きは、親の監督権なども絡む非常に難しい問題であることに加え、表現の自由とは別に大人だけのものでは無く、憲法は子供も含めて表現の自由・知る権利・情報アクセスの権利を保障していることをないがしろにするものだろう。)

c.個人の情報アクセスの抑制(ストライクポリシー)
 ストライクポリシーは著作権問題の中で取り上げられることが多い。ネット切断型の違法コピー対策であるストライクポリシーとして今まで考えられている主なパターンには、フランスで当初検討され、憲法裁判によって否定された行政機関の命令により個人のネット切断を行うパターンと、今現在海賊版対策条約(ACTA)の文脈の中で検討されているように、間接侵害を規定してその免責規定としてインターネット・サービス・プロバイダーに個人のネット切断を強制するパターンがあるが、どちらにせよ、このようなストライクポリシーは、通常の司法手続きを省いて一方的にネット切断という個人に極めて大きな影響を与える罰を与え、表現の自由に含まれる個人の知る権利、情報アクセスの権利を不当に抑制することになるのであり、結果として同じことである。ブロッキングやフィルタリングとはまた形が異なるが、ストライクポリシーも、表現の自由によって保障されている個人の知る権利、情報アクセスの権利を一方的に抑制するものとして、1種の検閲と考えられるべきものである。(もう1つ、フランスの3ストライク法の第2案のように、簡易裁判所を利用するパターンもあるが、運用次第ながら恐らくこれも実質的に同じことになるだろう。また、ネット切断ほどではないにしても、帯域制限などのやり方も同じく問題がある。)

 通常の司法手続きを省き、公平な審理もなく憲法の保障する個人の情報アクセスを恣意的かつ一方的に抑制する点で共通している、これらのa〜cは新たな検閲の類型として、表現の自由に対する重大な侵害をもたらすものとして絶対に導入されてはならないものである。

d.情報の単純所持・取得・ダウンロード・閲覧・アクセス罪の導入
 児童ポルノ規制との関連から取り上げられることの多い情報の単純所持罪等だが、このブログでは何度も繰り返している通り、アクセスと閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては例え児童ポルノにせよ情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なものである。意図にインターネット上の公開情報に安全に個人的にアクセスすることを回避不能の形で不可能とするこのような規制も、やはり、表現の自由に含まれた個人の知る権利、情報アクセスの権利を不当に害するものとしかなり得ない。(意図に関する限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような規制の危険性は回避不能である。インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も何ら危険性を減らすものではない。情報の単純所持罪の問題は罪刑法定主義や思想・良心の自由の問題とも絡むが、その話はまた別途補足という形で書きたいと思う。)

e.情報の単純所持・取得・ダウンロード・閲覧・アクセスの違法化(ダウンロード違法化)
 文化庁の暴走と国会議員の無知によってダウンロード違法化が行われたが、刑事罰のついていないこのような情報規制も、その実運用次第で、やはり、表現の自由に含まれた個人の知る権利、情報アクセスの権利を不当に害するものとなり得る恐れが出て来る危険な規制であることに変わりはない。実運用次第となるため、現時点で完全に違憲とまで言い切ることはできないが、著作権法上のダウンロード違法化はバランスを欠いた規制として違憲の疑いのある規制とは言えるだろう。(権利者団体の狙っているところだと思うが、刑事罰の付与と非親告罪化と合わせるとダウンロード違法化は、情報の単純所持罪と同等となり、完全な違憲規制となる。)また、憲法論の文脈で持ち出されることはあまり無いが、著作権法と不正競争防止法上のDRM回避規制も情報アクセスの問題となり得る。

 なお、この他にも今まで知る権利・情報アクセスの権利が問題となった話には、f.法廷での写真撮影・メモ取り等、g.情報公開法がある。

f.法廷での写真撮影・メモ取り等
 報道の自由の重要性そのものは認めながら、法廷での写真撮影を、法廷等の秩序維持に関する法律に基づいて禁止することは合憲とする判断が、北海タイムズ事件(昭和33年2月17日の最高裁判決(pdf))で示されたが(新聞などで法廷の写真が出て来ないのはこの判決のためである)、その後、法廷でのメモ取りについては、法廷メモ採取事件(平成元年3月8日の最高裁判決(pdf))で、表現の自由で保障される情報摂取を尊重し、裁判を認識し、記憶するためになされる限り尊重に値し、妨げられてはならないとされた。今後、さらに法廷でのtwitter中継についてどう考えるかということなどが問題となって行くことだろうが、裁判のネット中継をどう考えるかは非常に微妙な問題である。(今巷で騒がれている検察・警察の捜査の可視化の話の延長にある話として、このインターネット時代に裁判のネット中継をどう考えるかということについても真摯な議論が必要となって来ているだろう。)

g.情報公開法
 情報公開法(正式名称は、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」)については、上でリンクを張った日弁連の報告書に詳しく、このブログの本題からずれるので、ここで長々と問題点をあげつらうことはしないが、国民の知る権利を保障しようとするものだったはずながら、この法律の施行前に各官庁が駆け込みで大量の文書を廃棄していたり、不開示の理由が曖昧で良い上、その理由の正当性を確かめる方法が無いなど、やはり問題点の多い法律である。(この法律が問題となり最高裁まで行った最近の主な事件として、「独立した一体的な情報」という良く分からない基準によって一体的な情報とみなせるものは部分不開示ではなく全体不開示として良いとした大阪府知事交際費事件(平成13年3月27日の最高裁判決(pdf))、同じことを言っている愛知県知事交際費事件(平成14年2月28日の最高裁判決(pdf))、「独立した一体的な情報」という基準を実質的に取り消し、切り分けられる情報は可能な限り切り分けて開示するべきとした愛知県食糧費開示請求事件(平成19年4月17日の最高裁判決(pdf))、情報公開裁判においていわゆるインカメラ審理を否定した外務省事件(平成21年1月15日の最高裁判決(pdf))がある。)

 fとgは、いわゆる狭義の知る権利、積極的に政府機関等の情報の公開を要求することのできる権利に関するもので、あまりこのブログでは取り上げて来ていないが、無論、この意味での知る権利についても、行政機関に限らず裁判所や国会も含めて、今後も地道に改善が図られなければならないところが多い。

 今の日本の危機的状態を見るにつけ、特に、技術の発展・インターネットの普及に対応する形で登場して来た、ブロッキング、フィルタリング義務化、ストライクポリシーといった新たなタイプの検閲、やはり個人の情報に関する基本的な情報アクセスの権利を不当に害するものとしかなりようのない情報の単純所持罪、同じく情報アクセスの権利を不当に害する恐れのあるダウンロード違法化といった新しいタイプの情報規制の類型と表現の自由の関係をきちんと真正面から議論することは本当に喫緊の課題である。進んで国家権力に協力し、違憲規制の導入に積極的に加担するおよそ論外の超御用法学者がいることに加え、他の多くの法学者も法解釈学と称して単なる判例整理学者に堕し、このように新たな情報規制の類型に対する根本的な検討を完全に怠っているという状況では、このような新たに現れた検閲・表現の自由侵害に対する重要な法理論の発展を日本の法学界に期待することはほとんどできないが、別に法理論は法学者だけが立てるものではない。繰り返しになるが、このような真の国民的な「権利のための闘争」において何人も憚ることはない、私はあらゆる者に憲法論の重要性を知ってもらいたいと私は思っている。

 最後に最近のニュースについても少し紹介しておくと、知財本部で「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ(第1回(2月16日)議事次第第2回(2月22日予定)開催案内)」、「コンテンツ強化専門調査会第1回(2月19日)議事次第第2回(2月24日予定)開催案内)」、「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会第1回(2月16日)議事次第)」と、という3つの検討会が動いている(日経の記事internet watchの記事も参照)。中でも、やはり海賊版対策条約(ACTA)・ストライクポリシー・DRM回避規制強化を検討するだろう「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」は特に要注意である。

 PC onlineの記事になっているが、文化庁で、この2月18日に文化審議会・著作権分科会・法制問題小委員会が開催され、一般フェアユース条項導入の今年度の検討が始まった。

 内閣府の「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」の第1回(2月4日)の議事次第も公開された。その資料の内、今後の検討事項(案)(pdf)には、「3 インターネット上の児童ポルノ画像等の流通・閲覧防止対策の推進」という項目が入っているが、ここでサイトブロッキングというネット検閲に政府のお墨付きを与える可能性が高い。さらに「6 諸外国の児童ポルノ対策の調査」についても、自分たちの都合の良いようにのみ国際動向を作ってくる恐れが極めて強い。また、検討スケジュール案(pdf)によると、この会合は、ヒアリングは有識者3人のみ、しかもその1人が去年の児童ポルノ改正法審議で単純所持規制が必要とただひたすら感情論のみで訴えていた日本ユニセフ協会のアグネス・チャン氏という、さらに会合も2回か3回のみで後は各省庁が勝手に対策を持ち寄って合意という超出来レース会合であると知れる。(児童ポルノに関する事件については、時事通信の記事にあるように、最近、警察庁が平成21年の統計を公表している。実態を示しているかどうか良く分からないこの数字で一喜一憂することは無意味だが、警察庁の公表資料1(pdf)を良く見れば分かるように、平成20年に比べると増えているが、平成12年から通してみれば児童買春と児童ポルノ事件合わせた被害児童数はまだ減少傾向にあり、全体の被害児童数で見れば過去最悪でも何でもない。児童買春事件が減った分児童ポルノ事件に力を入れられて良かったというだけの話である。同時に日経の記事などでブロッキングが持ち出されているところから考えても、警察は、児童ポルノの単純所持罪の導入から今はサイトブロッキング、児童ポルノを理由としたネット検閲の推進の方に力点を移しているのだろう。また、internet watchの記事にあるように、出会い系サイトに関する事件についても統計を発表しているが、警察庁の公表資料2(pdf))を良く見れば分かる通り、全体で見た時の被害児童数は別に増えていない。このようなやり方は統計の分割による印象操作の典型例である。そもそも出会い系と非出会い系という区別をすること自体間違っているだろう。)

 東京都では、第201回でその答申案の話を取り上げた青少年保護条例改正案と、ネットカフェ規制条例案の2つが2月24日から始まる次の都議会第1回定例会に提出される予定となっている(東京都HPの東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案の概要インターネット端末利用営業の規制に関する条例案の概要参照。時事通信の記事internet watchの記事1記事2も参照)。

 ドイツでは、政権与党の一角に入った自由民主党のスポークスマンが、「ブロッキングではなく削除を」は正しい道であり、インターネットでも基本的な権利を尊重することが新政権の方針だとの発表を既に行っている(onlinepresse.infoの記事(ドイツ語)参照)。(testticker.deの記事(ドイツ語)に書かれている通り、ドイツでは、インターネットユーザーの大多数は児童ポルノサイトブロッキングにほとんど何の効果もないと考えているとのアンケート結果もまた出ている。)

 本当は、他の規制類型についても一緒に書くつもりだったが、やはり情報アクセスに対する規制の話だけで長くなってしまったので、他の表現に関する規制類型の話は、次に回したいと思う。ただ、もしかしたらその前にいくつか著作権関係の話を書くことにするかも知れない。

(2010年2月19日夜の追記:内容は変えていないが、上の文章に少し手を入れた。

 また、オタワ大教授のマイケル・ガイスト氏がそのtwitterで取り上げているが、海賊版対策条約(ACTA)について、ほぼ全党派の欧州議会議員から欧州委員会へ新たな質問状(doc)が投げられている。海賊版対策条約については、今なお極秘裏に検討が進められるという不気味な状態が続いている。)

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2010年2月11日 (木)

第214回:表現の自由の一般論(その2:表現の自由に関する違憲基準)

 第210回の続きで、今回は、表現の自由に関する違憲基準の話をまとめておきたい。表現の自由も絶対無制約ではあり得ないが、表現の自由は最も基本的な権利の1つであり、その制約は厳格な逆制約を受けるのである。やはり、最初に、以下はあくまで個人的なまとめであることをお断りしておく。(wikiでも良いのだが、より詳しくは、芦部信喜先生の「憲法」、「憲法学」、佐藤幸治先生の「憲法」、伊藤正己先生の「憲法」、長谷部恭男先生の「憲法」、浦部法穂先生の「憲法」等々の著名な憲法学の教科書を直接ご覧頂ければと思う。)

 第76回で書いた通り、ざっくりと言えば、表現の自由を中心とする精神的自由は全ての自由一般の基礎であり、これを規制する立法の合憲性は特に厳しい基準によって審査されなくてはならないとされ、特に「検閲」となる事前抑制型の規制が絶対に許されないのは勿論のこと、表現の自由に関する規制に関しては、規制目的が正当かつ重大であり、規制を正当化するに足る根拠が十分に明確であることに加え、表現に対する萎縮が発生しないよう規制範囲も明確でなければならないということになるのだが、教科書に書かれていることなども含めもう少し詳しく書いて行く。

 第210回で書いた通り、表現の自由を中心とする精神的自由権こそ自由な民主主義社会の最重要の基礎でありながら、不当な制限を受けやすい権利であること、憲法解釈上、財産権(第29条)や居住・移転・職業選択の自由(第22条)などの代表的経済的自由権においては、公共の福祉の制約を受けることが明文で規定されているが、表現の自由(第21条)においてはこのような公共の福祉に対する言及がなく、法文上絶対的な保障の形式が取られ、2つの自由権の間に差異が認められていることなどから、経済的自由権と比べて表現の自由を中心とする精神的自由権は優越的地位を有しているとする「2重の基準」説が通説上広く支持されており、判例にも取り入れられている。

 すなわち、経済的自由権を含む一般の立法については、議会の制定した法律として合憲性の推定を受け、その当事者がその違憲性を証明する必要があるとされ、「合理性の基準」(あくまで原則としてであるが、国民の生命と安全を守るために取られる消極的・警察的規制に対しては、その規制の必要性・合理性と同じ目的を達成できるよりゆるやかな規制手段の有無を元に判断する「厳格な合理性の基準」が、積極的・社会経済政策的規制に対しては、規制措置が著しく不合理であることの明白な場合に限って違憲とするという「明白性の原理」が適用される)という緩やかな違憲基準が適用されることになるが、このような一般の立法と比べ、法的に強い保障が与えられている表現の自由を制約する立法については、むしろ違憲性の推定がされ、より厳格な基準によらなければらないとされている。表現の自由を制約する立法については、規制を正当化するに足る根拠が明確に存在しており、規制の程度・手段が規制目的を達成する上で必要最小限のものであることが十分に規制権力側によって示されなければならないことに加え、検閲・事前抑制の禁止の法理と漠然性・過度の広汎性の故に無効の法理などがさらに適用されることになっているのである。

 検閲は、狭義には、公権力が外に発表されるべき表現の内容をあらかじめ審査し、不適当と認めるときは、その発表を禁止する行為と解されているが、このような狭い解釈は学説上も多く批判されている。「検閲」という語をを狭く解釈することで、このような禁止の実質的なすり抜けが許されてはならないのであり、純粋な意味での公権力に限らず、これに準じる機関・団体を通じて間接的に行われるものも検閲に当然含まれてしかるべきと、また、例え事後規制であろうと、表現物の発表・流通を完全に抑制しかねない規制も検閲に該当するとする方が妥当であり、表現の自由には消極的な情報入手・収集権も含めた知る権利・情報アクセス権が含まれていることから、情報アクセスそのものの抑制も検閲に該当すると私は考えている。

 漠然性・過度の広汎性の故に無効の法理は、表現行為に対する萎縮効果を最小限にしなければならないという憲法から必然的に導かれる要請から確立されているものであり、必ずしも厳密な区別が可能な訳ではないが、漠然性の故に無効の法理は、法文が不明確な場合は原則として法規それ自体が違憲であるとするものであり、過度の広汎性の故に無効の法理は、法文は一応明確でも、規制の範囲があまりにも広汎で違憲的に適用される可能性のある場合についても違憲とするものである。また、このような明確性の原理から、当然のように、表現の自由を規制する法令については、その意味を裁判所で憲法に適合するように解釈して違憲判断を避ける通常の意味での合憲限定解釈が許されないこともきちんと知っておく必要がある(wikiも参照)。解釈の不要な法律は無いが、表現行為に対する萎縮を発生させてはならないという憲法から必然的に導かれる要請から、表現の自由を規制する法律に関する限り、その解釈の明確性の判断基準はあくまで一般国民におかれるのである。(最近は、行政あるいは立法機関が、規制の範囲を曖昧・不明確にしたまま、まず規制ありきで規制強化の議論を行うことも間々見られるが、このような議論の仕方は法外なデタラメである。)

 表現の自由についてはこのような厳格な基準が用いられなければならないこととされているが、表現の自由に対する制約としては、その正当化事由としての公共の福祉との関係についても気をつけておく必要がある。表現の自由は、外的な表現行為に関わるため、他人又は公共の福祉との抵触の問題は当然避けられないが、他人の基本的な権利と抵触する場合の調整が必要であるのは無論のこととしても、公共の福祉という抽象的かつ曖昧な概念によってあらゆる基本的人権に対する制限が一律正当化されるとすることは、実質基本的人権の保障をないがしろにすることにつながることであり、厳に戒められなくてはならないのである。特に、第210回でも書いたように、表現の自由は、少数の表現・意見・思想を単にそれが少数であることのみをもって規制・弾圧することを許さないことも保障しているのであり、多数者の利益・意見のみをもって公共の福祉となし、表現の自由に関する制約が正当化されるとすることは決してあってはならないことである。(wikiに書かれている通り、公共の福祉についても様々なことが言われているが、公共の福祉によってあらゆる基本的人権を制約可能であるとする説は今ではほとんど全くと言って良いほど支持されていない。)

 表現の自由について公共の福祉による制約がどこまで可能であるかということは極めてナイーブな問題だが、表現の自由に関する制約の公共の福祉による正当化の余地は極めて狭いという立場に私は立つ。まずはっきりしていることは、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスの規制について公共の福祉によって正当化されることはあり得ないということである。また、表現の内容にかかわる規制について、それが他人の権利を害するものでない場合に、それが公共の福祉によって正当化されることも実質ないに違いない。かろうじて、表現の内容にかかわらない時・場所・方法などに関する表現内容中立規制についての場合のみ、公共の福祉によって正当化されることが考えられるが、これも公共の福祉といった抽象的かつ曖昧な概念のみをもって正当化されてはならず、上で書いた通り、具体的な状況に応じ、厳格な違憲審査基準に服さなければならないのは無論のことである。公共の福祉によっても、抽象的かつ曖昧な概念に基づく規制を認める余地は無く、かろうじて実際に具体的に存在している人間の集合的な場所・公共の場所における表現内容中立的な表現の自由の制約のみ認め得る余地があると私は考えているのである。(表現の内容にかかわる規制と、表現の内容にかかわらない時・場所・方法などに関する表現内容中立規制についての区別も、あらゆる場合で明確である訳では無く、実際にはいろいろと難しい問題を含んでいるが。また、他人の権利との調整の問題も決して単純では無く、極めて難しい問題である。)

 また、日本の判例では必ずしも採用されている訳では無いが、アメリカの影響はやはり強く、教科書などには良く載っているので、ここで一緒にアメリカの違憲基準のことも少し紹介しておく。

 アメリカで用いられている有名な表現の自由に関する違憲審査基準に、「明白かつ現在の危険(Clear and Present Danger)」の基準がある。この基準は、(1)ある行為が近い将来、ある実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であること、(2)その実質的害悪が極めて重大であり、その重大な害悪の発生が時間的に切迫していること、(3)規制手段がその害悪を避けるのに必要不可欠であることの3つの要件の存在が証明された時のみ、表現行為を規制することができるとするものである。考えてみれば分かると思うが、この「明白かつ現在の危険」の基準は、表現の内容にかかわる規制に適用されるものとして極めて厳格なものであり、自由の制約が違憲とされやすいという特徴がある。(wikiも参照。)

 同じく厳格なものとしてアメリカで用いられている基準に、「やむにやまれぬ必要不可欠な公共の利益(Compelling Interest)」の基準というものもある。この基準は、立法が目的とする公共の利益の重要性を分け、(1)その公共の利益が、重要性が最高度に高い、やむにやまれぬ必要不可欠なものでなければならず、(2)規制手段が、その公共の利益のみを達成する本当に必要な最小限度のものとして厳密に定められていなければならないとするものである。

 どちらかと言えば表現内容には直接かかわりのない表現内容中立規制に対して適用されるとされているものであるが、もう1つ有名なものとして、立法目的は十分に正当なものとして是認できる場合であっても、立法目的を達成するため規制の程度のより少ない手段が存在するかどうかを実質的・具体的に審査し、それがあり得る場合には、その立法は過度に広汎であり違憲とする、「より制限的でない他の選び得る手段(Less Restrictive Alternative)」といった基準もある。

 これら以外の基準もあり、加えてアメリカは判例法の国であるため様々な判例が実際にどのような状況で適用されたかということが重要となり、実際には、その違憲基準は通常の理解を超えるほど複雑怪奇を極める。(アメリカ法に対する理解も不十分なまま、デタラメに国際動向を唱えるバカも後を絶たないが、例えば、架空の児童を描写したポルノを対象とする、いわゆる児童ポルノを理由とした創作物規制について、個別の事件はどうあれ、アメリカの違憲基準に基づいて最終的に合憲とされる余地はほとんどない。ただし、アメリカで児童ポルノを理由とした魔女狩りの嵐が吹き荒れていることからも分かるように、児童ポルノ規制と表現の自由の問題、特に情報の単純所持規制と表現の自由の問題については、残念ながら、まだアメリカでもその問題の本質が十分に理解されているとは言い難い。またどこかで余裕あれば、まとめて紹介したいと思っているが、法規制の本当の意味での海外動向に関する議論は、最も良く取り上げられるアメリカについてすら今の日本では不十分であり、さらに欧州・英独仏などの動向となると主要国と言いながら目も当てられない状況である。)

 どの国のどの基準を取るにせよ、一番上に書いた通り、ざっくりと言えば、表現の自由に関する規制に関しては、特に厳格な基準に服し、規制目的が正当かつ重大であり、規制を正当化するに足る根拠が十分に明確であることに加え、表現に対する萎縮が発生しないよう規制範囲も明確でなければならないということになるが、判例や学説で長年に渡って練り上げられて来た様々な違憲基準・憲法解釈を良く理解しておくことは非常に重要である。

 自由の中の自由、自由な民主主義社会の最重要の基礎である表現の自由を、公権力の中にあって、自身が気に食わない、自分たちにとって都合が悪いという理由のみで不当に制限しようとする者たちは今まで絶えたことは無かったし、これからも絶えることは無いだろう。彼らは常に、国民の無知につけ込み、憲法を、公共の福祉を自分たちに都合の良いようにのみ解釈して、一般的な表現弾圧を正当化しようとするが、公共の福祉によっても、抽象的かつ曖昧な概念に基づいて表現規制・言論弾圧が認められるなどとする余地は全く無いのである。繰り返しになるが、表現の自由の、憲法の本質はこのような不当な権力の行使を規制することにある。統制を受けない権力は必ず腐敗し、暴走する。必要なのは権力による統制では無くて、権力の統制である。今の情報化社会にあって、憲法論の重要性は増しことすれ、減っていることはカケラも無い。

 本当は、表現に関する具体的な規制に対して違憲基準がどう適用されると考えられるかについても一緒に書きたいと思っていたが、違憲基準一般の話だけで長くなり過ぎてしまったので、その話はまた次回に。

 最後に少し最近のニュースも紹介しておくが、海賊版対策条約(ACTA)について、オタワ大教授マイケル・ガイスト氏のブログ記事に書かれている通り、欧州委員会が、欧州議会議員の質問に対し、ACTAは、大規模な違法行為を対象とするもので、インターネットにおける情報アクセスなどユーザーの基本的な権利を制限するものではないという簡単な回答を出している。しかし、権利者団体がストライクポリシーを求めているのも事実であり、これだけの説明では到底十分とは言えない。ACTAについては、引き続き大いに注意が必要である。

 マイコミジャーナルの記事BBCの記事になっている通り(人権侵害の可能性があるとする英国人権委員会上院の報告書も参照)、イギリスでは、第206回で取り上げたイギリス版ストライク法案であるデジタル経済法案が、フランスと全く同じように人権問題に発展し、当初から審議の難航が予想される展開となっている。

 イタリアにおける動画サイトを規制しようとする動きについて、同じくマイコミジャーナルの記事になっているので、これもリンクを張っておく。イタリアの問題は、実質ベルルスコーニ問題ではあるが、イタリア市民の反対によってこのような規制の導入が阻止されることを心から願う。

 また、文化庁では、2月15日に文化審議会・著作権審議会が開催され、2月18日にはその法制問題小委員会が開催される。今期最大の懸念として一般フェアユース条項の導入の議論が引き続き行われることとなっており、文化庁からも目は離せない。

(2月11日夜の追記:日経の記事1記事2になっているように、知財本部でも次の知財計画を作るための検討が始まる。「映画や音楽などの制作者の育成策を協議する調査会」も育成策にとどまるならともかく、例によって意味不明の理屈からロクでもない著作権保護強化を盛り込んでくる恐れがあるので気をつけておいた方が良いだろうが、今一番要注意なのは、2月16日に第1回が開催される「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」(開催案内)だろう。記事にあるように、ここで間違いなく技術的な著作権検閲と3ストライクポリシーの導入の検討がされるだろうし、海賊版対策条約(ACTA)も恐らく一緒に議論されると考えられる。)

(2月14日の追記:去年の5月にその司法取引について騒がれたアメリカの日本の漫画コレクターのアダルトコミック輸入・所持事件について(wired visionの記事参照)、6月の禁固刑(5年の執行猶予付き)が宣告されたとの続報が出されているが(wired.comの記事animenewsnetwork.comの記事参照)、この事件は州法に基づくものではなく、必ずしも正確な記述では無かったので、上の文章中の「各州の州法に基づくのだろう個別の事件はどうあれ」を「個別の事件はどうあれ」に改めた。この日本の漫画コレクターの事件で使われた法律も、アメリカの違憲基準に基づいて最終的に合憲とされる余地はほとんどない。この事件では、警察・検察が陪審制のバイアスと司法取引制度をかなり卑劣に使って容疑者を有罪に嵌めており、できることならさらに控訴してもらいたいものと私は思っている。)

(2月15日の追記:オタワ大教授のマイケル・ガイスト氏が、そのブログ記事で、米国通商代表部の人間が、やはり強制的な3ストライクは海賊版対策条約(ACTA)に入らないと言ったとする話を紹介しているが、ガイスト教授の「これは全てのことを語っていない。第1に、海賊版対策条約(ACTA)がフィルタリングを強制するような条項を含んでいるとした報道は私の知る限りない。つまり、これは何も新しいことを知らせるものではない。第2に、海賊版対策条約における3ストライクの議論は、条約で第三者責任(間接侵害)を取り上げることで、3ストライクへのドアを開くとするものだったはずである。このアプローチは、米国通商部の強制的な3ストライクはないとする説明と矛盾せず、なお同じ結果をもたらすものである。第3に、カナダにとっての観点から、海賊版対策(ACTA)における実質的な関心は、決して3ストライクにとどまることはない―DRM回避規制からノーティス・アンド・テイクダウンまで、この条約にはなおカナダ法の改正を必要とする条項が多く含まれている」というコメント通り、本当に気をつけなければならないのは、直接的な形より、第三者責任(間接侵害)をねじ込んでフィルタリングなり3ストライクなりをISPに実質的に強制しその著作権警察化を図るといった形による実質的な3ストライク制の導入である。この条約に関しては、実に懸念と不安しかない。)

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2010年2月 3日 (水)

第213回:知財本部・新たな「知的財産推進計画(仮称)」の策定に向けた意見募集(2月15日〆切)への提出パブコメ

t 前回少し書いた通り、知財本部から、「新たな『知的財産推進計画(仮称)』の策定に向けた意見募集」が2月15日〆切でかかっている。これも書いて提出したので、ここにその提出パブコメを載せておきたいと思う。

 詳しくは下の提出パブコメを読んでもらえればと、前の知財計画2009(pdf)の文章の詳細については第180回をご覧頂ければと思うが、ダウンロード違法化条項の撤廃、私的録音録画補償金の対象範囲の拡大への反対、無料の地上放送からのB-CASシステムの排除、著作権検閲・ストライクポリシーへの反対等も重要であることは言うまでもないとして、今回のパブコメで特にポイントとなりそうなのは、文化庁と権利者団体が結託していつものように骨抜きにしようとしている一般フェアユース条項の導入の検討、首相の軽率な発言によって今年また炎上することが想定される保護期間延長問題、国民の基本的な権利に関わる危険な条約であるにもかかわらず今なお各国政府間のみで極秘裏に進められている海賊版条約の検討についてだろうか。

(なお、私自身は、念のため一般的な情報・ネット・表現規制についても書いているが、このパブコメに意見を出す場合には、前の知財計画改訂において一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は無事削除されたこと、一般的な情報・ネット・表現規制問題は本来知財本部・事務局の管轄外であると考えられることにもご注意頂ければと思う。)

 また、この提出パブコメ中でも触れている海賊版対策条約については、この問題を世界で最も積極的に追っているカナダのオタワ大教授のマイケル・ガイスト氏のブログ記事やEFFの記事を、「P2Pとかその辺のお話」(関連エントリ1エントリ2エントリ3)で紹介されているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。

 海外動向で少し書きたいこともあるのだが、次回は、先に表現の自由の一般論の続きを書いておきたいと思っている。

(2010年2月4日の追記:やはり「P2Pとかその辺のお話」で、この1月26日から29日までメキシコで行われていた海賊版対策条約の交渉に関するガイスト教授の最新のブログ記事を紹介されているので、興味のある方は是非このリンク先のエントリも合わせご覧頂ければと思う。)

(2010年2月6日の追記:第133回で取り上げた犯罪計画、第199回で取り上げた人身取引計画をとりまとめた、犯罪閣僚会議で設置が決められた(去年12月22日の第14回の資料、設置について(案)(pdf)設置について(pdf)参照)、「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」の検討が、この4日から内閣府で始まっている(時事通信の記事毎日の記事参照)。6月から7月にかけて対策をまとめる方針とあり、児童ポルノ規制問題についても、この夏にかけてさらに印象操作とプロパガンダが激しくなることが予想されるが、加えて、この児童ポルノ排除対策ワーキングチームの不透明性自体大問題であると思うので、追加でこの話も「ハトミミ.com」に突っ込んだ。(念のため、提出した意見は、第212回の最後に追加で載せた。)

 また、そもそもインターネット・ホットラインセンターは潰すべきだと思っているので、元々おかしいガイドラインにどうこう言うつもりは無いのだが、警察傘下の半官検閲センターであるインターネット・ホットラインセンターが、東京都の条例を元に全国的に検閲を実施しようと、東京都の迷惑条例を関係条文に追加しようとするガイドラインの改正案をパブコメにかけているので(インターネット協会・ホットライン運用ガイドライン検討協議会の「『ホットライン運用ガイドライン改訂案』の改定内容に関する意見の募集について」参照。internet watchの記事も参照)、念のため、ここにもリンクを張っておく。細かな話をすればその他いろいろと曖昧になっているところも問題だろうが、このような東京都条例の追加は、第201回で取り上げた青少年問題協議会のデタラメな答申に基づいた東京都での条例改正の動きを見越して規制強化の既成事実化を図ろうとする動きの1つだろう。)

(以下、提出パブコメ)

・氏名:兎園
・電子メール:

・意見:
《要旨》

特に一般フェアユース条項の導入について可能な限り早期に導入すること、海賊版対策条約について慎重な議論及びその検討の詳細の公表、ダウンロード違法化条項の撤廃を求める。有害無益なものとしかなりようの無いインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に著作権の保護期間延長、補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大に反対する。今後真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。

《全文》
 最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2009を見ても、このような本当に政策的な決定は全くと言って良いほど見られない。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。

 今まで通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討してもらいたい。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。

 知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。

(1)「知的財産推進計画2009」について
a)一般フェアユース条項の導入について

 第59ページに書かれている、一般フェアユース条項の導入について、ユーザーに対する意義からも、可能な限り早期に導入することを求める。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。知財計画2010においては、このようなユーザーに対する意義も合わせて書き込んでもらいたい。また、フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならないことである。

 最近の文化庁・文化審議会・著作権分科会の「権利制限一般規定ワーキングチーム報告書」において、写真の写り込みや許諾を得て行うマスターテープ作成、技術検証のための複製など、形式的利用あるいは著作物の知覚を目的とするのでない著作物の不可避的・付随的利用に対してのみ、しかも要件に「社会通念上、著作者の利益を不当に害しない利用であること」と加えるという極めて限定的な形でのみフェアユースを規定しようとしているが、これほど限定したのでは、これはもはや権利制限の一般規定の名に値しない。これでは、仮に導入されたところで、いつも通り権利者団体にとってのみ都合の良い形で新たに極めて狭く使いにくい「権利制限の個別規定」が追加されるに過ぎず、著作権をめぐる今の混迷状況が変わることはない。

 著作物の公正利用には変形利用もビジネス利用も考えられ、このような利用も含めて著作物の公正利用を促すことが、今後の日本の文化と経済の発展にとって真に重要であえることを考えれば、形式的利用あるいは著作物の知覚を目的とするのでない著作物の不可避的・付随的利用に限るといった形で不当にその範囲を不当に狭めるべきでは無く、その範囲はアメリカ等と比べて遜色の無いものとされるべきである。

 権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

 個別の権利制限規定の迅速な追加によって対処するべきとする意見もあるが、文化庁と癒着権利者団体が結託して個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されているという惨憺たる現状において、個別規定の追加はこの問題における真の対処たり得ない。およそあらゆる権利制限について、文化庁と権利者団体が結託して、全国民を裨益するだろう新しい権利制限を潰すか、極めて狭く使えないものとして来たからこそ、今一般規定が社会的に求められているのだという、国民と文化の敵である文化庁が全く認識していないだろう事実を、政府・与党は事実としてはっきりと認めるべきであり、知財本部において文化庁における今現在の歪んだ検討を止め、知財の真の規制緩和のイニシアティブを取るべきである。また、このような国としての真の知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因をさらに増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局は、自ら解散することを検討するべきである。

b)保護期間延長問題について
 保護期間延長問題についても、第60ページに記載されているが、権利者団体と文化庁を除けば、延長を否定する結論が出そろっているこの問題について、文化庁が継続検討の結論を出していること自体極めて残念なことである。これほど長期間にわたる著作権の保護期間をこれ以上延ばすことを是とするに足る理由は何一つなく、知財計画2010では、著作権・著作隣接権の保護期間延長の検討はこれ以上しないとしてもらいたい。特に、流通事業者に過ぎないレコード製作者と放送事業者の著作隣接権については、保護期間を短縮することが検討されても良いくらいである。

c)海賊版対策条約(ACTA)について
 第44ページに書かれている、「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」についても、詳細は不明であるが、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、行政機関の決定や消費者との契約などに基づき一方的にネット切断という個人に極めて大きな影響を与える罰を加えることを可能とする、ストライクポリシーと呼ばれる対策を取ることを事実上プロバイダーに義務づけることといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項が検討される恐れがある。他の国が、このような危険な条項をこの条約に入れるよう求めて来たときには、そのような非人道的な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけるべきである。

 プライバシーや情報アクセスの権利、推定無罪の原理、弁護を受ける権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利の保障をきちんと確保し、ストライクポリシーのような非人道的な取り組みが世界的に推進されることを止めるため、この条約に「対審を必要とする通常の手続きによる司法当局の事前の判決なくしてエンドユーザーの基本的な権利及び自由に対してはいかなる制限も課され得ない」という条文を入れるべきであると日本から各国に強く働きかけるべきである。

 また、プロバイダーの責任やDRM回避規制についても、この条約で検討される恐れがあるが、下のd)、e)、f)に書いた通り、日本において、いたずらに今の著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクから生じている過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外であること、このプロバイダーの責任に関するセーフハーバーの要件においてストライクポリシーなどを押しつけるようなことは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであること、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化はなされるべきでないことを考え、危険な規制強化につながる恐れが極めて強いプロバイダーの責任やDRM回避規制に関する規定は除くべきであると、日本から各国に強く働きかけるべきである。

 さらに、この条約について、政府は、海外において既に政府・議会レベルで、その透明性・危険性が問題となりつつあることも考え(例えば、http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//TEXT+WQ+E-2010-0091+0+DOC+XML+V0//EN&language=ENhttp://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//TEXT+WQ+E-2010-0147+0+DOC+XML+V0//EN&language=ENhttp://techdirt.com/articles/20091123/1541197061.shtmlhttp://www.boingboing.net/2010/01/26/canadian-mp-demands.htmlhttp://www.theregister.co.uk/2010/01/21/acta_lammy/に書かれている通り、欧米加英などでは議員から既に理事会・政府等に対し海賊版対策条約の問題について質問が出されており、http://a2knetwork.org/ja/node/558に書かれている通り、国際消費者機構も共同宣言という形で海賊版対策条約の秘密性・危険性に対する懸念を表明している)、現状のような国民をバカにした概要だけで無く、その具体的な検討の詳細をきちんと公表するべきである。

 また、このような国民の基本的な権利に関わる危険な条約は特に慎重に議論されるべきであって、特に2010年といった妥結目標の記載は知財計画2010においては削除するべきである。

d)著作権法におけるいわゆる「間接侵害」への対応について
 第60ページには「間接侵害」の明確化についても記載されている。セーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 知財計画2010においては、著作権法の間接侵害の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると明記してもらいたい。

e)DRM回避規制について
 第61ページの「著作権侵害コンテンツを排除するための取組を強化する」という項目において、「コンテンツの技術的な制限手段の回避に対する規制の在り方」の検討について記載されているが、昨年7月にゲームメーカーがいわゆる「マジコン」の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴し、さらにこの2月にゲームメーカー勝訴の判決が出ていることなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。現状でも、不正競争法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。

 知財計画2010では、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化は検討しないとされるべきである。

 DRM回避規制に関しては、このような有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。

f)インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の責任について
 第61ページの「著作権侵害コンテンツを排除するための取組を強化する」という項目において、「プロバイダの責任の在り方等法的保護の在り方」の検討について書かれているが、動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件等を考えても、今現在、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあり、間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。

 ISPの責任の在り方の検討について、知財計画2010に書き込む際には、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

 なお、アクセスログの保存についても、プロバイダー責任制限との関係で検討されるべき話ではなく、それ自体で別途きちんと検討されなくてはならない話である。

g)権利者が民事的措置をより迅速かつ容易にとることができるようにするための方策について
 第61ページの「著作権侵害コンテンツを排除するための取組を強化する」という項目において、「権利者が民事的措置をより迅速かつ容易にとることができるようにするための方策」の検討について記載されており、関連することとして、知財本部は去年12月に、「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」において、「権利侵害者の特定を容易にするための方策(発信者情報の開示)」、「損害賠償額の算定を容易にするための方策」、「侵害コンテンツへ誘導するリンクサイト」等の項目に関する意見募集を行っている。

 このうち、「権利侵害者の特定を容易にするための方策(発信者情報の開示)」、「侵害コンテンツへ誘導するリンクサイト」については、これは間接侵害の問題であり、上のd)、f)で書いた通り、間接侵害の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみ行われるべきであり、プロバイダに対する標準的な技術等の義務付けを行わず、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入のみが検討されるべきである。

 「損害賠償額の算定を容易にするための方策」について、著作権団体が法定賠償制度の導入を求めているが、法定損害賠償制度については、平成21年1月の文化庁の「文化審議会著作権分科会報告書」においても、「過去の裁判例における第114条の5等の規定による損害額の認定の状況を踏まえれば、同規定はある程度機能しているものと考えられ、現行法によってもなお対応が困難であるとするまでの実態が認められるには至っていない」とされている整理を変えるべきであるとするに足る状況の変化は無く、法定損害賠償制度などの損害賠償額の算定を容易にするための方策の検討はされるべきでは無い。

 さらに付言すれば、法定損害賠償制度は、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものである(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/22/news028.html参照)。日本においてこのような制度は絶対に導入されてはならない。

 権利者が民事的措置をより迅速かつ容易にとることができるようにするための方策についても、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにつながる危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、このような教育や公開情報の検索を行うクローリングと現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力して検討を進めるべきである。

h)ネット上の違法コンテンツ対策、違法ファイル交換対策について
 第61ページの「著作権侵害コンテンツを排除するための取組を強化する」という項目に書かれている「ネット上の違法コンテンツ対策」の検討、項目番号281番の違法ファイル共有対策について、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を進めることを明記してもらいたい。

i)通信・放送の法体系の見直しについて
 第51ページに書かれている、放送と通信の法体系の総合的な検討について、ホームページ等に関しても通信の秘密を確保し、表現に関する規制は行わないという方針を明記してもらいたい。

j)新商標の導入の検討について
 第29ページに書かれている、新商標の導入の検討について、特許庁の新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書で、音の商標を新たな保護対象として追加する方針が示され、特許庁の産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会で検討が続けられているが、音の商標は、他の視覚的な商標とは異なる特色を有しているということが考慮されるべきであり、音に、会社名を連呼するような音だけでは無く単なる旋律も含まれ得、音の商標の使用に、単なるBGMとしての使用も含まれ得ることから、音については特に慎重に検討するべきである。登録除外については公益的な音だけでは不十分であり、余計な混乱を避けるため、音について、少なくとも、他人の著名な旋律・楽曲を登録から除外することを検討すると、パブリックドメインに落ちた著名な旋律・楽曲の登録のような不当な利得を得るための登録が排除されない限り、音について、その保護類型への追加は決してしないと、知財計画2010では明記してもらいたい。

(2)その他の知財政策事項について
a)ダウンロード違法化問題について
 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、今年の6月12日に、「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」は私的複製に当たらないとする、いわゆるダウンロード違法化条項を含む、改正著作権法が成立し、今年の1月1日に施行されたが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。

 総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において、中国政府の検閲ソフト「グリーン・ダム」導入計画に等しい、日本レコード協会による携帯電話における著作権検閲の提案が取り上げられるなど、既に弊害は出始めている。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような著作権検閲に対する懸念は、文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houkoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このような著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化は始めからなされるべきではなかったものである。文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除するべきである。

b)私的録音録画補償金問題について
 権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にするべきではない。

 文化庁の文化審議会著作権分科会における数年の審議において、補償金のそもそもの意義についての意義が問われたが、今に至るも文化庁が、天下り先である権利者団体のみにおもねり、この制度に関する根本的な検討を怠った結果、特にアナログチューナー非対応録画機への課金については既に私的録音録画補償金管理協会と東芝間の訴訟に発展している。ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金について、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後1年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、ブルーレイ課金・アナログチューナー非搭載録画機への課金に合理性があるとは到底思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。

 なお、世界的に見ても、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、この制度は、ほぼ権利者団体の際限の無い不当な要求を招き、莫大な社会的コストの浪費のみにつながっている。機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあり、その対象範囲と料率のデタラメさが、デジタル録音録画技術の正常な発展を阻害し、デジタル録音録画機器・媒体における正常な競争市場を歪めているという現実は、補償金制度を導入したあらゆる国において、問題として明確に認識されなくてはならないことである。

c)コピーワンス・ダビング10・B-CAS問題について
 私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2010では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するべきである。

d)著作権検閲・ストライクポリシーについて
 まだ実施されてはいないが、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において、携帯電話においてダウンロードした音楽ファイルを自動検知した上でそのファイルのアクセス・再生制限を行うという、日本レコード協会の著作権検閲の提案が取り上げられており、今現在、このような著作権検閲の提案が政府レベルで検討されかねない非常に危険な状態にあるが、通信の秘密という基本的な権利の適用は監視の位置がサーバーであるか端末であるかによらないものであること、特に、機械的な処理であっても通信の秘密を侵害したことには変わりはないとされ、通信の秘密を侵害する行為には、当事者の意思に反して通信の構成要素等を利用すること(窃用すること)も含むとされていることを考えると、このような日本レコード協会が提案している著作権対策は、明らかに通信の秘密を侵害するものである。

 また、本来最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行うことは、それ自体プライバシー権を侵害するものであり、プライバシーの観点からも、このような措置は導入されるべきでない。

 最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行う日本レコード協会が提案している違法音楽配信対策は、技術による著作権検閲に他ならず、憲法に規定されている表現の自由(情報アクセス権を含む)や検閲の禁止に明らかに反するものであり、通信の秘密や検閲の禁止、表現の自由、プライバシーといった個人の基本的な権利をないがしろにするものである、このような対策は絶対に導入されるべきでなく、また技術支援・実証実験等として税金のムダな投入がなされるべきではない。

 さらに付言すれば、日本レコード協会の携帯端末における違法音楽配信対策は、建前は違えど、中国でPCに対する導入が検討され、大騒ぎになった末、今現在導入が無期延期されているところの検閲ソフト「グリーン・ダム」と全く同じ動作をするものであるということを政府にははっきりと認識してもらいたい。このような検閲ソフトの導入については、日本も政府として懸念を表明しているはずであり、自由で民主的な社会において、このような技術的検閲が導入されることなど、絶対許されないことである。

 同じく、フランスで今なお揉めているネット切断型のストライクポリシー類似の、ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする電気通信事業者と権利者団体の連携による著作権侵害対策の検討が、警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で行われ、さらにネット切断までを含むストライクポリシーを著作権団体が求めているが、このような検討も著作権検閲に流れる危険性が極めて高い。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーは、この6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるとされ、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定されている。フランスでは今なおストライクポリシーに関して揉め続けているが、日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、警察庁などが絡む形で検討が行われている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討を進めることが担保されなくてはならない。

 これらの提案や検討からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。

e)著作権等に関する真の国際動向について国民へ知らされる仕組みの導入について
 また、WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。

f)天下りについて
 最後に、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)

(3)その他一般的な情報・ネット・表現規制について
 前回の知財計画改訂において、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目は削除されたが、常に一方的かつ身勝手な主張を繰り広げる自称良識派団体が、意味不明の理屈から知財とは本来関係のない危険な規制強化の話を知財計画に盛り込むべきと主張をしてくることが十分に考えられるので、ここでその他の危険な一般的な情報・ネット・表現規制強化の動きに対する反対意見も述べる。今後も、本来知財とは無関係の、一般的な情報・ネット・表現規制に関する項目を絶対に知財計画に盛り込むことのないようにしてもらいたい。

a)青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法について
 そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

b)児童ポルノ規制・サイトブロッキングについて
 児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むべきである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 また、児童ポルノ流通防止協議会において、警察などが提供するサイト情報に基づき、統計情報のみしか公表しない不透明な中間団体を介し、児童ポルノアドレスリストの作成が行われ、そのリストに基づいて、ブロッキング等を行うとする検討が行われているが、いくら中間に団体を介そうと、一般に公表されるのは統計情報に過ぎす、児童ポルノであるか否かの判断情報も含め、アドレスリストに関する具体的な情報は、全て閉じる形で秘密裏に保持されることになるのであり、インターネット利用者から見てそのリストの妥当性をチェックすることは不可能であり、このようなアドレスリストの作成・管理において、透明性・公平性・中立性を確保することは本質的に完全に不可能である。このようなリストに基づくブロッキング等は、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないのであり、小手先の運用変更などではどうにもならない。このような非人道的な検討しか行い得ない本児童ポルノ流通防止協議会は即刻解散されるべきである。

 サイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。

 児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益かつ危険極まりない規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。

 なお、民主主義の最重要の基礎である表現の自由に関わる問題において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならないことであり、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ていることは決して無視されてはならない。例えば、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカでは児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることや、アメリカにおいても、去年の1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、去年の2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていること、つい最近からのドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に13万筆を超える数の署名が集まったこと、ドイツにおいても児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、既に憲法裁判が提起されており(http://www.netzeitung.de/politik/deutschland/1393679.html参照)、総選挙の結果与党に入ったドイツ自由民主党の働きかけで、ネット検閲法であるとして児童ポルノブロッキング法の施行が見送られ、ブロッキングはせずにまずサイトの取り締まりをきちんと警察にやらせ、1年後にその評価をしてブロッキングの是非を判断することとされ(http://www.tomshardware.com/de/Zensur-Internet-ZugErschwG-Provider-Koalition,news-243605.html参照)、ドイツ大統領もこの児童ポルノサイトブロッキング法に対する署名を拒否したこと(http://www.zeit.de/politik/2009-11/sperre-gesperrt参照)なども注目されるべきである。スイスにおいて最近発表された調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制・ブロッキングの根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきである。

 自民党・公明党から、危険極まりない単純所持規制を含む児童ポルノの改正法案が国会に提出されているという危険な状態が今なお続いているが、政府・与党においては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないこととして、危険な法改正案が2度と与野党から提出されることが無いようにするべきである。かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。

 また、様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。

 インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化・規制強化は有害無益かつ危険なものとしかなりようがないということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待すると最後に繰り返しておく。

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