第203回:知財本部「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」に対する提出パブコメ
第198回で少し紹介した、知財本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」(12月11日正午〆切)について、パブコメを書いて提出したので、ここに載せておく。項目だけなのでわかりづらいが、このパブコメもかなり危険な項目が並んでおり、決して見過ごせないものである。
第198回で取り上げ、このパブコメにも書いた海賊版対策条約の話について、「P2Pとかその辺の話」でカナダのマイケル・ガイスト教授のブログ記事を翻訳・紹介されているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。この条約については、欧州インターネット・サービス・プロバイダー協会が明確に懸念を表明する文書(pdf)を公表するなど、既に国際的な波紋を呼びつつあるが、秘密裏に検討が進められるという不気味な状態が今なお続いている。
また、警視庁から、12月11日〆切で、「インターネットカフェ等の対策に関する意見募集」が行われているので、念のためここにリンクを張っておく(internet watchの記事も参照)。
後、著作権関係のパブコメとして、文化庁の「著作権法施行令の一部を改正する政令案」に関する意見募集(12月13日〆切。文化庁のリリース、電子政府HP1、意見募集要領1(pdf)、著作権法施行令改正案概要(pdf)参照)、「著作権法施行規則の一部を改正する省令案」及び「著作権法施行令の一部を改正する政令案に基づく文化庁告示案」に関する意見募集(12月13日〆切。文化庁のリリース、電子政府HP2、意見募集要領2(pdf)、著作権法施行規則改正案概要(pdf)、電子政府HP3、意見募集要領3(pdf)、告示案概要(pdf)参照)が残っている。概要だけでパブコメをかけることからしてどうかと思うが、次回は、これらの意見募集に対する提出パブコメエントリになるだろうと思っている。
(以下、提出パブコメ)
氏名:兎園
個人・団体の別:個人
連絡先:
意見:
(概要)
インターネット上の著作権侵害対策に関し、以下のことを求める。
・日本レコード協会提案の、検閲に該当する日本版著作権グリーン・ダム計画を止めること。
・閣議決定により、警察庁などが絡む形で検討が行われている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討を進めることを担保すること。
・憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むこと。
・憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むこと。
・発信者情報の開示、リンクサイト等について、いたずらに今の過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うこと無く、間接侵害や著作権侵害幇助に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討し、著作権侵害とならないセーフハーバーの範囲を著作権法上きちんと確定すること。このセーフハーバーの要件において、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなる、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断の押しつけなどをしないこと。
・文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)を撤廃すること。ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化を検討しないこと。
・著作権に関する教育・啓発活動には、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の情報に関する国民の基本的な権利についての情報も含め、著作権の保護強化も行き過ぎればまた非人道的なものとなるということに関して啓発・周知を図ること。
・模倣品・海賊版拡散防止条約について、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設すること、ストライクポリシーを取ることを事実上プロバイダーに義務づけることといった、非人道的かつ危険な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけること。危険な規制強化につながる恐れが極めて強いプロバイダーの責任やDRM回避規制に関する規定はこの条約から除くべきであると、日本から各国に強く働きかけること。この条約の検討の詳細をきちんと公表すること。
・文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除すること。
(1)侵害コンテンツの迅速な削除を容易にする方策について
まだ実施されてはいないが、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第一次提言案において、携帯電話においてダウンロードした音楽ファイルを自動検知した上でそのファイルのアクセス・再生制限を行うという、日本レコード協会の著作権検閲の提案が取り上げられており、今現在、このような著作権検閲の提案が政府レベルで検討されかねない非常に危険な状態にある。
これも実施されていないと思うが、同じく、著作権検閲に流れる危険性が極めて高い、フランスで今なお揉めているネット切断型のストライクポリシー類似の、ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする著作権侵害対策の検討が、警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」において勧められている。
通信の秘密という基本的な権利の適用は監視の位置がサーバーであるか端末であるかによらないものであること、特に、機械的な処理であっても通信の秘密を侵害したことには変わりはないとされ、通信の秘密を侵害する行為には、当事者の意思に反して通信の構成要素等を利用すること(窃用すること)も含むとされていることを考えると、日本レコード協会が提案している著作権対策は、明らかに通信の秘密を侵害するものである。
また、本来最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行うことは、それ自体プライバシー権を侵害するものであり、プライバシーの観点からも、このような措置は導入されるべきでない。
最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行う日本レコード協会が提案している違法音楽配信対策は、技術による著作権検閲に他ならず、憲法に規定されている表現の自由(情報アクセス権を含む)や検閲の禁止に明らかに反するものである。ここで、表現の自由や検閲の禁止という観点からも、このような対策は決して導入されてはならないものである。
付言すれば、日本レコード協会の携帯端末における違法音楽配信対策は、建前は違えど、中国でPCに対する導入が検討され、大騒ぎになった末、今現在導入が無期延期されているところの検閲ソフト「グリーン・ダム」と全く同じ動作をするものであるということを政府にははっきりと認識してもらいたい。このような検閲ソフトの導入については、日本も政府として懸念を表明しており、自由で民主的な社会において、このような技術的検閲が導入されることなど、絶対許されないことである。
このような提案は、通信の秘密や検閲の禁止、表現の自由、プライバシーといった個人の基本的な権利をないがしろにするものである。日本レコード協会が提案している、検閲に該当するこのような対策は絶対に導入されるべきでなく、また技術支援・実証実験等として税金のムダな投入がなされるべきではない。
フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーについても、この6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるものであるとして、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定された。フランスでは今なおストライクポリシーに関して揉め続けているが、日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、閣議決定により、警察庁などが絡む形で検討が行われている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討を進めることを担保するべきである。
これらの提案や検討からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。
今後は、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなる危険な技術による著作権検閲の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、このような教育や公開情報の検索を行うクローリングと現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。
(2)権利侵害者の特定を容易にするための方策(発信者情報の開示)について
動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられ、第一審で敗訴した「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件等を考えても、今現在、著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にある。
発信者情報の開示等について、いたずらに今の過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外であり、政府においては、今現在、著作権の間接侵害・侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるということをきちんと認識し、民事的な責任の制限しか規定していないプロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきである。
さらに、著作権の間接侵害事件や侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうことを考えると、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならないセーフハーバーの範囲を著作権法上きちんと確定することが喫緊の課題である。
セーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、今現在文化庁の文化審議会で検討されているように、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。
このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、税金のムダな浪費と技術の発展の阻害につながるだけの危険かつ有害無益な規制強化であり、絶対にあってはならない。プロバイダー責任制限法の検討においても、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討が進められなくてはならないことは無論のことである。
なお、アクセスログの保存についても、プロバイダー責任制限との関係で検討されるべき話ではなく、それ自体で別途きちんと検討されなくてはならない話である。
(3)アクセスコントロールの不正な回避を防止するための方策について
昨年7月にゲームメーカーがいわゆる「マジコン」の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴し、さらにこの2月にゲームメーカー勝訴の判決が出ていることなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。
かえって、著作権法において、私的領域におけるコピーコントロール回避まで違法とすることで、著作権法全体に関するモラルハザードとデジタル技術・情報の公正な利活用を阻む有害無益な萎縮効果が生じているのではないかと考えられる。
デジタル技術・情報の公正な利活用を阻むものであり、そもそも、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)は撤廃するべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。
また、知財計画2009で今年度にDRM回避規制に関する検討を行うこととされているが、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化は検討されるべきでない。
(4)損害賠償額の算定を容易にするための方策について
法定損害賠償制度については、平成21年1月の文化庁の「文化審議会著作権分科会報告書」においても、「過去の裁判例における第114条の5等の規定による損害額の認定の状況を踏まえれば、同規定はある程度機能しているものと考えられ、現行法によってもなお対応が困難であるとするまでの実態が認められるには至っていない」とされている整理を変えるべきであるとするに足る状況の変化は無く、法定損害賠償制度などの損害賠償額の算定を容易にするための方策の検討はされるべきでは無い。
さらに付言すれば、法定損害賠償制度は、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものである(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/22/news028.html参照)。日本においてこのような制度は絶対に導入されてはならない。
(5)侵害コンテンツへ誘導するリンクサイトについて
リンクサイトの問題も著作権の間接侵害や侵害幇助の問題であるが、上の(2)で書いた通り、今現在、著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるのであり、このような問題について、いたずらに今の過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外である。政府においては、今現在、著作権の間接侵害・侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるということをきちんと認識し、民事的な責任の制限しか規定していないプロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきであり、さらに、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であることを考え、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならないセーフハーバーの範囲を著作権法上きちんと確定するべきである。
上の(2)で書いた通り、このセーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、今現在文化庁の文化審議会で検討されているように、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことであり、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることも、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、税金のムダな浪費と技術の発展の阻害につながるだけの危険かつ有害無益な規制強化として絶対に行ってはならないことである。プロバイダー責任制限法の検討においても、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討が進められなくてはならないことは無論のことである。
(6)効果的な啓発活動について
ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、有害かつ危険な規制強化の検討では無く、教育・啓発活動などのより現実的かつ地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待するが、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。
違法コピー対策問題における権利者団体の主張はほぼ常に非常識かつ危険なものであると啓発・周知する必要性があることを考え、著作権に関する教育・啓発活動には、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の情報に関する国民の基本的な権利についての情報も含め、著作権の保護強化も行き過ぎればまた非人道的なものとなるということに関して啓発・周知を図るべきである。
(7)その他
(海賊版模倣品対策条約について)
模倣品・海賊版拡散防止条約についての詳細は不明であるが、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設すること、行政機関の命令あるいは消費者との契約に基づき一方的にネット切断という個人に極めて大きな影響を与える罰を加えることを可能とする、ストライクポリシーと呼ばれる対策を取ることを事実上プロバイダーに義務づけることといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項が検討される恐れがある。他の国が、このような危険な条項をこの条約に入れるよう求めて来たときには、そのような非人道的な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけるべきである。
さらに言えば、プライバシーや情報アクセスの権利、推定無罪の原理、弁護を受ける権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利の保障をきちんと確保し、ストライクポリシーのような非人道的な取り組みが世界的に推進されることを止めるため、この条約に「対審を必要とする通常の手続きによる司法当局の事前の判決なくしてエンドユーザーの基本的な権利及び自由に対してはいかなる制限も課され得ない」という条文を入れるべきであると、日本から各国に積極的に働きかけるべきである。
また、プロバイダーの責任やDRM回避規制についても、この条約で検討される恐れがあるが、上の(2)、(3)、(5)で書いた通り、日本において、いたずらに今の著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクから生じている過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外であること、このプロバイダーの責任に関するセーフハーバーの要件においてストライクポリシーなどを押しつけるようなことは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであること、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化はなされるべきでないことを考え、危険な規制強化につながる恐れが極めて強いプロバイダーの責任やDRM回避規制に関する規定は除くべきであると、日本から各国に強く働きかけるべきである。
国民の情報アクセスに極めて危険な影響を及ぼしかねない条項の検討が行われている恐れが強い、この模倣品・海賊版拡散防止条約について、政府は、現状のような国民をバカにした概要だけで無く、その具体的な検討の詳細をきちんと公表するべきである。
(ダウンロード違法化について)
文化庁の暴走と国会議員の無知によって、今年の6月12日に、「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」は私的複製に当たらないとする、いわゆるダウンロード違法化条項を含む、改正著作権法が成立し、来年の1月1日の施行を待つ状態である。
しかし、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。改正法は未施行であるが、既に、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第一次提言案において、中国政府の検閲ソフト「グリーン・ダム」導入計画に等しい、日本レコード協会による携帯電話における著作権検閲の提案が取り上げられるなど、既に弊害は出始めている。
そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような著作権検閲に対する懸念は、文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houkoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このような著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化は始めからなされるべきではなかったものである。文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除するべきである。
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