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2009年12月28日 (月)

第208回:2009年の落ち穂拾い

 およそロクなことは無かったが、年内のイベントも一通り終わったと思うので、今年も最後に落ち穂拾いをしておきたいと思う。

 まずは、著作権関係から。「Copy & Copyright Diary」で取り上げられているので、リンク先をご覧頂ければ十分だと思うが、民主党の岸本周平議員が、著作権の保護期間延長を求めて、文部科学副大臣に陳情を行っている。鳩山首相の発言に、民主党の岸本周平議員による陳情を考えても、来年はまた著作権保護期間延長問題が再燃するのだろう。首相の発言も民主党議員による陳情も深いことを考えていたものとは思えないが、それだけにタチが悪い話である。

 文化庁の文化審議会・著作権分科会では、法制問題小委員会基本問題小委員会が相変わらず要領を得ない検討を続けている。議事要旨からは何をやっているのだかさっぱり分からないが、一般フェアユース条項の導入の可否の検討を行っている法制問題小委員会の権利制限の一般規定ワーキングチームの検討は特に要注意である。

 細かな話はまた別途書きたいと思っているが、今日の官報号外第275号で著作権法施行令・施行規則を改正する政省令が公表された。

 知的財産権でも、他の特許などに関する細かな動きについては、非常にマニアックな話ばかりなのでほとんど取り上げて来なかったが、経済産業省・特許庁で、ここ最近でも、産業構造審議会・知的財産政策部会・商標制度小委員会、意匠制度小委員会・意匠審査基準ワーキンググループ、情報の保護等の在り方に関する小委員会・営業秘密の管理に関するワーキンググループ(知的財産政策部会のHP参照)などが開催されている。ガイドラインレベルの話は落ち着くべきところに落ちるだろうが、音の商標を含む新しい商標の導入の議論については引き続き注意しておいた方が良いだろう。

 また、この12月22日に総務省が原口一博大臣の名前を付けて「原口ビジョン(pdf)」なるペーパーを公開している。ハリボテのキーワードが並ぶいつもの総務省ペーパーだが、「ICTの利活用を阻む制度の抜本見直しー規制制度の集中的見直しを完了(2010年中、「ICT利活用促進一括化法」の制定)」ということが書かれていることには注意が必要だろう。総務省のことなので、規制緩和と言いながら有害無益な規制強化を図ってくることが十分に考えられる。

 総務省でも山ほどしょうもない検討会が開かれているが、中でも、日本版FCCの話が中心となりそうな「今後のICT分野における国民の権利保障等の在り方を考えるフォーラム」、ホワイトスペース活用に関する検討をすると思しき「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」(1月12日〆切で「ホワイトスペースの活用方策など新たな電波の利用方策に関する提案の募集」も行われている。)、日本レコード協会が提案する日本版携帯著作権グリーンダム計画の検討が引き続き行われると思われる「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」は要注意だろう。(特に、この全く利用者視点を踏まえていない「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の第4回会合資料中の「CGM(シー・ジー・エム)検討WGの設置について(案)(pdf)」の主な検討項目には、「青少年利用者向けに機能制限を行うための利用者年齢認証に向けた課題等の整理(中略)/利用者間のメッセージサービスにおける規約違反行為の監視に関する法的課題の整理 (例)いわゆる『ミニメール』の内容監視ついて、通信の秘密の保護との関係性の検討等/その他、青少年のコミュニティサイト利用に伴う福祉犯被害の防止に必要な施策(フィルタリングの推進等)に関する諸課題の整理」と書かれており、メールの検閲を含め、憲法すら無視した非道な規制強化の方針をこのワーキンググループなり研究会なりで、総務省が打ち出そうとしていると知れる。)

 規制改革会議の12月22日の公表資料(pdf)によると、今まで行って来た規制改革の提案受付は、来年1月から開設予定の「ハトミミ.com」に統合されるそうである。どこまで今の政府が聞く耳を持つかは不明だが、こうした窓口に地道に規制緩和の話を突っ込んでいくことも手として考えて行くべきだろう。

 世界に目を向けても良いニュースはあまり無いが、オーストラリア政府が中国を彷彿とさせるネット検閲を行おうとしているというニュース(cnetの記事参照)もあった。このような検閲の問題についてはさんざん書いているのでここでは繰り返さないが、最近の日本政府の動きを見るにつけ、このオーストラリアの話も対岸の火事と全く思えない。

 2010年1月1日は極悪非道なダウンロード違法化の施行日であり、良い年をと言う気には到底ならないが、政官業に巣くう全ての利権屋と非人道的な規制強化派に悪い年を。そして、このつたないブログを読んで下さっている全ての人に心からの感謝を。

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2009年12月23日 (水)

第207回:著作権の権利制限に関するイギリス政府の意見募集ペーパー

 前回、イギリスのストライク法案のことを取り上げたが、イギリス政府から今現在パブコメにかけられている、著作権の権利制限に関する提案がかなり具体的なものとなっているので、この話も国際動向の1つとして紹介しておきたいと思う。

 3月末までの意見募集にかかっているイギリス知的財産庁の報告書(pdf)イギリス知的財産庁のHP参照)は、「知的財産権に関するガワーズ・レビューの実現に向けた一歩:著作権の権利制限に関する第2意見募集」と題されていることからも分かるように、2006年のガワーズ・レビュー(イギリス知的財産庁のHP参照)の提案を受け、2008年1月に行われた意見募集の結果(結果概要(pdf)前回の意見募集ペーパー(pdf) )を踏まえて、さらに検討して条文案まで含めて案を具体化したという体裁を取っている。

 第17回で少し書いているが(イギリスの現行の権利制限規定についてさらに言いたいこともあるが、現行の条文(英語)についてはとりあえず著作権情報センターHPの訳参照)、イギリスの権利制限は、かなり狭く時代遅れなものとなっており、2006年のガワーズ・レビューはそれなりに先端的な拡充を提案していた。今度の報告書で、ある程度レビューに従って取り入れるとされたものもあるが、入れるべきでないとされたものもある。

 特に、取り入れるとされたものは、教育に関する権利制限の拡充(遠隔教育のため・抜粋の対象著作物の拡大)、図書館・文書館のための権利制限の拡充(保存のため)であり、取り入れないとされたものは、私的フォーマットシフトに関する権利制限、パロディ・カリカチュア・パスティーシュのための権利制限である。

 詳細については直接付録Aに載っている条文案などをご覧頂ければと思うが、取り入れるとされた権利制限について、ここでは、途中の第20ページと第41ページの要約部分に書かれていることを以下に訳出しておく。

We propose to:
・Extend the educational exceptions to permit certain broadcasts and study material (for example handouts of excerpts from copyright works) to be transmitted outside the institutional campus for the purposes of distance learning but only via secure networks.
・Extend the exception relating to small excerpts so that it covers film and sound recordings but this will not cover artistic works.

We also propose to retain existing provisos so that:
・The exception will apply only to the extent that licensing schemes are not in place.
...

We propose:
・to extend the current exception to allow libraries, archives, museums and galleries  to copy for preservation purposes films, sound recordings and certain  artistic works not already provided for, to enable the transfer of works to different formats and to enable more than one preservation copy to be
made;
・to ensure that legal deposit libraries are put in the same position as other libraries when it comes to copying for preservation purposes.

We further propose retaining for the amended exception existing features of the current exception, namely that:
・the exception continues to apply for preservation purposes;
・the scope of the exception retains current limits so it does not extend to e.g. performance or communication to the public;
・copying relates only to items within permanent collections;
・copies should only be made where it is not reasonably practicable to purchase another copy.
...

我々は次のことを提案する:
・遠隔教育の目的で、教材、放送等を、教育機関のキャンパス外に送信することを可能とするよう、教育目的の例外を拡大すること、ただし、セキュアなネットワークを通じた場合に限る。
・短い抜粋に関する例外を、映画や録音もカバーするように拡大すること、ただし、この例外は、芸術作品まではカバーしない。

また、以下の既存の条件も保持することを提案する:
・この例外は、ライセンススキームが無い場合にのみ適用される。

我々は次のことを提案する:
・保存の目的で、図書館、文書館、博物館と美術館に、今現在規定されていない映画、録音等を複製し、著作物を異なる媒体に移し、1つ以上のコピーを作成することを可能とするよう、現行の例外を拡大すること;
・保存の目的でコピーする場合、法定納本図書館も他の図書館と同じ立場でできると保証すること。

また、修正を受ける例外について、現在の例外の特徴を保持することも提案する、特に:
・この例外は、保存目的のみに適用される;
・この例外の範囲について現行の制限は保持される、つまり、それが、上演や公衆送信まで拡張されることは無い;
・コピーは、永久保存される収蔵品についてのみ可能である;
・他のコピーを買うことが合理的な範囲で実行可能でない場合のみ、コピーは作られ得る。

 これら自体が狭く作られていることも問題となり得ると思うが、さらに問題なのは、折角ガワーズ・レビューで取り入れるとされながら、今回の報告書で導入が否定された私的フォーマットシフトとパロディに関する権利制限についてだろう。

 これらの権利制限については、最初の第2ページから第6ページの要旨に、

FORMAT SHIFTING
6. Recognising the divergence between the current law, which does not permit private copying of legitimately owned content such as music, and what happens in practice, the Gowers Review recommended a limited form of private copying (format shifting). The first stage of the consultation followed this with a proposal to allow consumers to make a copy in another format of a work they
legally owned for playback on a device in their lawful possession. It was proposed that the exception would only apply to personal or private use and the owner would not be permitted to sell, loan or give away the copy or share it more widely.

7. Although the overall majority were in favour of the principle of introducing this exception, there was little consensus as to how the proposal could be implemented. The main points of contention surrounded the circumstances under which copies could be made (some suggesting only when there was an absolute technical requirement), the types of content that should be covered (some would
only accept copying of music, others wanted all types of content covered), and whether content holders would suffer significant harm as a result, and therefore require the introduction of a scheme for fair compensation (usually implemented
in other Member States through a system of “levies”).

8. The polarised nature of the responses to this proposal, in particular in relation to the issue of fair compensation, has highlighted the difficulty
of meeting the needs and expectations of both consumers and rights holders in the digital age. The narrow, UK-only format shifting measure considered in the first stage of the consultation does not appear to meet those needs. The recent
BIS/IPO Copyright Strategy concluded that discussions at EU level might be a possible way forward, and should include consideration of a broad exception to copyright for non-commercial use together with any requirement for fair
compensation.
...

PARODY, CARICATURE AND PASTICHE
16. The first stage of the consultation considered whether a new exception for parody, caricature and pastiche should be introduced. A fair dealing style exception was proposed.

17. Most respondents expressed no interest in this exception, and of those who commented opinions were quite polarised. Those in favour cited various reasons including promoting freedom of speech, and protecting the valuable cultural asset that parody represents. A minority incorporated caveats intended to restrict the extent of the exception in recognition of the potential negative
consequences for rights holders.

18. Rights holders were generally against the introduction of an exception.  Their objections included the vibrancy of the current parody scene in the UK, lack of evidence supporting change, and the potential financial and reputational
damage.

19. Overall, we do not believe that there is sufficient justification to introduce a new exception for parody in the UK now.There is scope for further
debate within an EU context about the potential for a non-commercial use exception which if implemented could cover some parody.
...

フォーマットシフト
6.合法に入手した音楽のようなコンテンツの私的複製を認めない現行法と、実際に行われていることの間の離隔を認め、ガワーズ・レビューは、限定された形の私的複製(フォーマットシフト)の導入を提言していた。これに続く、第1の意見募集においても、合法に所有している機器において再生するために、合法に入手した著作物を他のフォーマットに複製することを消費者に認めるとする提言が行われた。この例外は個人的あるいは私的な利用のみに適用され、所有者は、それをそれ以上販売も、貸与も、譲渡も共有もできないと提案されていた。

7.大多数がこの例外の導入に前向きだったにもかかわらず、この提案をどう法制化するかという点についてはほとんどコンセンサスが無かった。主な争点は、コピーが作られ得る状況(完全に技術的な要件が必要と示唆する意見があった)、カバーされるコンテンツのタイプ(音楽のコピーのみ認められるとする意見があり、全てのタイプのコンテンツをカバーすることを求める意見があった)、そして、権利者が結果として相当の損害を被るか否か、そのために公正な補償のための制度を導入する必要があるか否か(他のEU加盟国では、「補償金」制度として制度化されているところが多い)を巡るものだった。

8.特に公正な補償に関して、この提案に対する意見が両極端に分かれていることは、デジタル時代において消費者と権利者の間のニーズと期待を合わせることが困難であることをはっきり示している。第1の意見募集において考えられていた狭い、イギリス独自のフォーマットシフトのための権利制限は、このニーズと合致するものではないと思われる。最近のビジネス・イノベーション省と知的財産庁による報告書「著作権戦略(pdf)」も、この議論はEUレベルで進められるだろうものであり、そこで、非商用利用についてのより広い例外と、公正な補償の必要性についての考慮がなされるべきであると結論している。

パロディ、カリカチュアとパスティーシュ
16.第1の意見募集で、パロディ、カリカチュアとパスティーシュについての新たな例外を導入するべきかと訊ねた。フェアディーリング形式の例外が提案されていた。

17.多くの意見は、この例外について関心を示しておらず、このことについてコメントしているものは全く両極端に分かれていた。表現の自由の促進や、パロディの有する文化的価値の保護などの様々な理由から、これを支持する意見があった。少数だが、権利者に対するあるかも知れない負の影響を考え、例外の範囲を制限すべきという抗議の意見もあった。

18.権利者は概して例外の導入に反対だった。その反対理由は、現在のイギリスにおけるパロディ状況の不安定、改正を支持する理由の欠如、あるかも知れない経済的・人格的被害などである。

19.全体として、現在パロディのための新たな例外を導入するに足る理由があるとは我々は思わない。非商用利用のための例外として、パロディをカバーできるかどうかの可能性については、EUレベルのさらなる議論の範囲に入るものである。

と書かれているが、要するに、フォーマットシフトとのためとパロディのための権利制限という2つの一般ユーザーにとって重要な意味を持つだろう権利制限は、ガワーズ・レビューで導入が明確に謳われていたにもかかわらず、イギリスでも、例によって権利者団体の難癖と政治力で潰されたということである。EUレベルでより広い権利制限の検討をするべきと書いているが、いかなる国際条約にも抵触しないことをまず国内で導入せずしてどうするのか。国民全体を裨益する話だったとしても、自分たちに都合の良いように作った国際動向を理由にして、癒着団体の不利益となる法改正を潰すのは、政府・官僚が良く使うやり口の一つである。

 上で訳した部分だけでも分かると思うが、どこの国でも、権利者団体が言っていること、やっていることに変わりはない。技術の進歩に即して補償金制度抜きで私的なフォーマットシフトを認めて著作権法の法的安定性を高めること、表現の自由を考慮してパロディを明確に認めることなどは極めて妥当なことだと私も思うが、それに対して彼らが持ち出すのは、常に、潜在的な「あるかも知れない」不利益や自分たちに都合よく作った国際動向に過ぎない。現実に国民全体に及ぶだろう利益と、一部の団体の架空の不利益ではそもそも同じ秤にかけることすらできないと私は思うが、世界的に見て権利者団体の政治力がまだ強く、どこの国であれ、残念ながら、今後も、このような主張で国民全体を裨益するだろう法改正が潰されることは十分に考えられる。

 しかし、今現在権利者団体の政治力が強いとしても、実のところ、彼らが皆、一国の経済はおろか文化すらないがしろにしても、自身の既存のビジネスモデル・既得権益のみ守られれば良いと、その非道な主張を政治力の不当な行使によってごり押ししているに過ぎないということは、この情報化時代にあって、既にほとんどの者に見透かされていることである。彼らがインターネットの無かった時代をいくら懐かしんで足掻こうと、時計の針を戻すことはできない。イギリス政府も相当利権に蝕まれていると見えるが、権利者団体があらゆる国で常に言いつのる「複製=対価」の著作権神授説にほとんど合理性は無く、長い目で見れば、不当な既得権益は必ず排除されて行くものと私は考えている。

 前回取り上げたストライク法案と並行する形で、このように権利制限の拡充に関する検討も進められていることは注目されてしかるべきだが、かなり良くできていたガワーズ・レビューから考えると、権利制限について明らかな後退が見られることは非常に残念な話であり、このような政府と癒着団体による卑劣な細工に騙される事なく、イギリス国民が今後も地道に本当に時代にあった法改正を求めて行くことを、また、日本でも権利者団体は各種の権利制限についてほぼ同じ主張をしている訳だが、日本がフェアユースの議論において、イギリスと同じ道を辿らないことを私は願っている。

 また、「P2Pとかその辺の話」でも、前回取り上げたイギリスのストライク法案が取り上げられているので、興味のある肩は是非リンク先をご覧頂ければと思う。このような、現行法でも課され得る巨額の賠償かストライクかどちらかを選べと二者択一を迫るという恫喝は、フランスの3ストライク法の議論でも一部見られたものだが、こうした本来二者択一でないものを二者択一にすることもまた、良くある姑息な議論・問題のすり替え手段の1つである。今現在、問題が発生しているとするなら、まずその莫大な賠償額の方をどうするかということから議論するべきで、そこにストライクポリシーの議論は混ぜるべきではない。

 次回は、年内最後になると思うので、また落ち穂拾いエントリにしたいと思っている。

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2009年12月21日 (月)

第206回:イギリスのデジタル経済法案(イギリス版ストライクアウト法案)

 前回、知財本部の会合の話を取り上げたが、その議事録が公開されたので、そのリンクを最初に張っておく。

 この議事録中で、日本の知財学界の重鎮である、元東大教授の中山信弘氏は「戦略本部には、法案を作る能力が無いために、今までは戦略本部が戦略計画を作って、後は各官庁がそれを独自に実施しているという状態であったわけで、統一性がとれていなかった面が有るわけです。一例を挙げますと、政府として振興策を採り、今後の発展が期待されているコンテンツ産業の我が国の成長率は、世界の平均をはるかに下回っているわけであります。コンテンツは、知的財産制度と密接な関係に有るわけですけれども、その整備が遅れているにもかかわらず、各官庁の統一がとれていないというのが現状であります。この戦略本部が主導権をとって、きちっと各官庁を指導していくという、そういう立場をとっていただきたいと思います」と、明確に知財本部に苦言を呈しているが、この本部会合は30分という短時間で開催されたものであり、全ての意見は言いっぱなしに終わっている。

 菅副総理が最後に「単なる調整役ではなくて、戦略性を持った形での本部というものを、また色々知恵を借りて出していただきたいと思います」とは言っているが、やはり例年通り「専門調査会での検討を経て、来年前半に新たな知的財産推進計画を取りまとめ」ることとされ、鳩山首相・菅副総理を始めとして並んでいただろう大臣連が中山信弘先生の根本的な問題提起を理解したとは到底思えない状況である。この体たらくでは、残念ながら、来年も政策は迷走し続けるだろう。

 さて、まだ法案が貴族院(イギリス上院)に提出され委員会審議にかかっている段階であり、権利者団体以外ほぼあらゆる者に反対されていることを考えても、下院まで含めてこのまますんなり法案が通るとは思えないが、今回は、今現在イギリスで非難が沸騰しているデジタル経済法案、イギリス版ストライクアウト法案について紹介したいと思う。

 このデジタル経済法案には、孤児作品に関する事項なども含まれているので、もし何かあれば他の部分もそのうち紹介したいと思うが、ここでは、イギリス上院のHPに載っている当初の法改正案(pdf)から、通信法(2003年の現行通信法)改正部分の、ネット切断型の違法コピー対策、ストライクポリシーに関する第124A条から第124M条までを以下に抄訳する。

Online infringement of copyright: obligations of internet service providers
124A Obligation to notify subscribers of copyright infringement reports

(1) This section applies if it appears to a copyright owner that—
(a) a subscriber to an internet access service has infringed the owner’s copyright by means of the service; or
(b) a subscriber to an internet access service has allowed another person to use the service, and that other person has infringed the owner’s copyright by means of the service.

(2) The owner may make a copyright infringement report to the internet service provider who provided the internet access service if a code in force under section 124C or 124D (an “initial obligations code”) allows the owner to do so.

(3) A “copyright infringement report” is a report that—
(a) states that there appears to have been an infringement of the owner’s copyright;
(b) includes a description of the apparent infringement;
(c) includes evidence of the apparent infringement that shows the subscriber’s IP address and the time at which the evidence was gathered; and
(d) complies with any other requirement of the initial obligations code.

(4) An internet service provider who receives a copyright infringement report must notify the subscriber of the report if the initial obligations code requires the provider to do so.

(5) A notification under subsection (4) must include—
(a) a statement that it is sent under this section in response to a copyright infringement report made by a copyright owner;
(b) a description of the apparent infringement;
(c) evidence of the apparent infringement;
(d) information about copyright and its purpose;
(e) advice about how to obtain lawful access to copyright works;
(f) advice about the protection of electronic communications networks that use wireless telegraphy; and
(g) anything else that the initial obligations code requires it to include.

(6) The things that may be required under subsection (5)(g), whether in general or in a particular case, include in particular statements that—
(a) information about the apparent infringement may be kept by the internet service provider;
(b) the copyright owner may require the provider to disclose which copyright infringement reports made by the owner to the provider relate to the subscriber;
(c) following such a disclosure, the copyright owner may apply to a court to learn the subscriber’s identity and may bring proceedings against the subscriber for copyright infringement;
(d) the number and nature of copyright infringement reports relating to the subscriber may be taken into account for the purposes of any technical measures.

(7) In this section “notify”, in relation to a subscriber, means send a notification to the electronic or postal address held by the internet service provider for the subscriber (and sections 394 to 396 do not apply).

124B Obligation to provide copyright infringement lists to copyright owners
(1)
An internet service provider must provide a copyright owner with a copyright infringement list for a period if—
(a) the owner requests the list for that period; and
(b) an initial obligations code requires the internet service provider to provide it.

(2) A “copyright infringement list” is a list that—
(a) sets out, in relation to each relevant subscriber, which of the copyright infringement reports made by the owner to the provider relate to the subscriber, but
(b) does not enable any subscriber to be identified.

(3) A subscriber is a “relevant subscriber” in relation to a copyright owner if—
(a) the owner has made one or more copyright infringement reports in relation to the subscriber; and
(b) the number of the reports has reached the threshold (if any) set in the initial obligations code.

124C Approval of code about the initial obligations
(1)
The obligations of internet service providers under sections 124A and 124B are the “initial obligations”.

(2) If it appears to OFCOM—
(a) that a code has been made by any person for the purpose of regulating the initial obligations; and
(b) that it would be appropriate for them to approve the code for that purpose,
they may approve it, with effect from the date given in the approval.

(3) The provision that may be contained in a code and approved under this section includes provision that—
(a) specifies conditions that must be met for rights and obligations under the copyright infringement provisions or the code to apply in a particular case;
(b) requires copyright owners or internet service providers to provide any information or assistance that is reasonably required to determine whether a condition under paragraph (a) is met.

(4) The provision mentioned in subsection (3)(a) may, in particular, specify that a right or obligation does not apply in relation to a copyright owner unless the owner has made arrangements with an internet service provider regarding—
(a) the number of copyright infringement reports that the owner may make to the provider within a particular period; and
(b) payment in advance of a contribution towards meeting costs incurred by the provider.

(5) The provision mentioned in subsection (3)(a) may also, in particular, provide that—
(a) except as provided by the code, rights and obligations do not apply in relation to an internet service provider unless the number of copyright infringement reports the provider receives within a particular period reaches a threshold set out in the code;
(b) once the threshold is reached, rights or obligations apply in relation to a time before it was reached.

(6) OFCOM must not approve a code under this section unless satisfied that it meets the criteria set out in section 124E.

(7) Not more than one approved code may have effect at a time.

(8) OFCOM must keep an approved code under review.

(9) OFCOM may, at any time, for the purpose mentioned in subsection (2)—
(a) approve modifications that have been made to an approved code; or
(b) withdraw their approval from an approved code, with effect from a date given in the approval or withdrawal, and must do so if the code ceases to meet the criteria set out in section 124E.

(10) The consent of the Secretary of State is required for the approval of a code or the modification of an approved code.

(11) Where OFCOM give or withdraw an approval under this section, they must give notification of their approval or of its withdrawal.

(12) The notification must be published in such manner as OFCOM consider appropriate for bringing it to the attention of the persons who, in OFCOM’s opinion, are likely to be affected by the approval or withdrawal.

124D Initial obligations code by OFCOM in the absence of an approved code
(1)
For any period when sections 124A and 124B are in force but for which there is no approved initial obligations code under section 124C, OFCOM must by order make a code for the purpose of regulating the initial obligations.

(2) OFCOM may, but need not, comply with subsection (1) so far as the period falls six months or less after sections 124A and 124B come into force.

(3) A code under this section may do any of the things mentioned in section 124C(3) to (5).

(4) A code under this section may also—
(a) establish one or more bodies corporate with the capacity to make their own rules and establish their own procedures;
(b) determine the jurisdiction of a body established by the code or, for the purposes of the code, of any other person;
(c) confer jurisdiction with respect to any matter on OFCOM themselves (but this is subject to anything else in or under the copyright infringement provisions that relates to appeals by subscribers);
(d) provide for a person on whom jurisdiction is conferred to make awards of compensation, to direct the reimbursement of costs, or to do both;
(e) provide for such a person to enforce, or to participate in the enforcement of, any awards or directions made under the code;
(f) make other provision for the enforcement of such awards and directions; and
(g) make other provision for the purpose of regulating the initial obligations.

(5) OFCOM must not make a code under this section unless they are satisfied that it meets the criteria set out in section 124E.

(6) OFCOM must—
(a) keep a code under this section under review; and
(b) by order make any amendment of it that is necessary to ensure that while it is in force it continues to meet the criteria set out in section 124E.

(7) The consent of the Secretary of State is required for the making or amendment by OFCOM of a code under this section.

(8) Section 403 applies to the power of OFCOM to make an order under this section.

124E Contents of initial obligations code
(1)
The criteria referred to in sections 124C(6) and 124D(5) are—
(a) that the code makes the required provision about copyright infringement reports (see subsection (2));
(b) that it makes the required provision about the notification of subscribers (see subsection (3));
(c) that it makes provision about how internet service providers are to keep information about subscribers;
(d) that it limits the time for which they may keep that information;
(e) that it makes any provision about contributions towards meeting costs that is required to be included by an order under section 124L;
(f) that the requirements concerning enforcement and related matters are met in relation to the code (see subsection (4));
(g) that the provisions of the code are objectively justifiable in relation to the matters to which it relates;
(h) that those provisions are not such as to discriminate unduly against particular persons or against a particular description of persons;
(i) that those provisions are proportionate to what they are intended to achieve; and
(j) that, in relation to what those provisions are intended to achieve, they are transparent.

(2) The required provision about copyright infringement reports is provision that specifies—
(a) requirements as to the means of obtaining evidence of infringement of copyright for inclusion in a report;
(b) the standard of evidence that must be included;
(c) the required form of the report; and
(d) a time limit for making the report.

(3) The required provision about the notification of subscribers is provision that specifies, in relation to a subscriber in relation to whom an internet service provider receives one or more copyright infringement reports—
(a) requirements as to the means by which the provider identifies the subscriber;
(b) which of the reports the provider must notify the subscriber of; and
(c) requirements as to the form, contents and means of the notification in each case.

(4) The requirements concerning enforcement and related matters are—
(a) that OFCOM or another person has, under the code, the functions of administering and enforcing it, including the function of resolving copyright infringement disputes;
(b) that any such other person is sufficiently independent of internet service providers and copyright owners;
(c) that there is a person who, under the code, has the function of determining subscriber appeals;
(d) that that person is sufficiently independent of internet service providers, copyright owners and OFCOM; and
(e) that there are adequate arrangements under the code for the costs of the carrying out by a person mentioned in paragraph (a) or (c) of functions in relation to the code to be met by internet service providers and copyright owners.

(5) The provision mentioned in subsection (4) may include, in particular—
(a) provision for the payment, to a person specified in the code, of a penalty not exceeding the maximum penalty for the time being specified in section 124K(2);
(b) provision requiring a copyright owner to indemnify an internet service provider for any loss or damage resulting from the owner’s failure to comply with the code or the copyright infringement provisions.
...

124G Obligations to limit internet access: assessment and preparation
(1)
The Secretary of State may direct OFCOM to—
(a) assess whether one or more technical obligations should be imposed on internet service providers;
(b) take steps to prepare for the obligations;
(c) provide a report on the assessment or steps to the Secretary of State.

(2) A “technical obligation”, in relation to an internet service provider, is an obligation for the provider to take a technical measure against particular subscribers to its service.

(3) A “technical measure” is a measure that—
(a) limits the speed or other capacity of the service provided to a subscriber;
(b) prevents a subscriber from using the service to gain access to particular material, or limits such use;
(c) suspends the service provided to a subscriber; or
(d) limits the service provided to a subscriber in another way.

(4) The assessment and steps that the Secretary of State may direct OFCOM to carry out or take under subsection (1) include, in particular—
(a) consultation of copyright owners, internet service providers, subscribers or any other person;
(b) an assessment of the likely efficacy of a technical measure in relation to a particular type of internet access service; and
(c) steps to prepare a proposed technical obligations code.

(5) Internet service providers must give OFCOM any assistance that OFCOM reasonably require for the purposes of complying with any direction under this section.

(6) The Secretary of State must lay before Parliament any direction this section.

124H Obligations to limit internet access
(1)
The Secretary of State may at any time by order impose a technical obligation on internet service providers if the Secretary of State considers it appropriate in view of—
(a) an assessment carried out or steps taken by OFCOM under section 124G; or
(b) any other consideration.

(2) An order under this section must specify the date from which the technical obligation is to have effect, or provide for it to be specified.

(3) The order may also specify—
(a) the criteria for taking the technical measure concerned against a subscriber;
(b) the steps to be taken as part of the measure and when they are to be taken.

124I Code by OFCOM about obligations to limit internet access
(1)
For any period during which there are one or more technical obligations in force under section 124H, OFCOM must by order make a technical obligations code for the purpose of regulating those obligations.

(2) The code may be made separately from, or in combination with, any initial obligations code made under section 124D.

(3) A code under this section may—
(a) do any of the things mentioned in section 124C(3) to (5) or section 124D(4)(a)to (f)); and
(b) make other provision for the purpose of regulating the technical obligations.

(4) OFCOM must not make a code under this section unless they are satisfied that it meets the criteria set out in section 124J.

(5) OFCOM must—
(a) keep a code under this section under review; and
(b) by order make any amendment of it that is necessary to ensure that while it is in force it continues to meet the criteria set out in section 124J.

(6) The consent of the Secretary of State is required for the making or amendment by OFCOM of a code under this section.

(7) Section 403 applies to the power of OFCOM to make an order under this section.

(8) A statutory instrument containing an order made by OFCOM under this section is subject to annulment in pursuance of a resolution of either House of Parliament.

124J Contents of code about obligations to limit internet access
(1)
The criteria referred to in section 124I(4) are—
(a) that the requirements concerning enforcement and related matters are met in relation to the code (see subsection (2));
(b) that it makes any provision about contributions towards meeting costs that is required to be included by an order under section 124L;
(c) that it makes any other provision that the Secretary of State requires it to make;
(d) that the provisions of the code are objectively justifiable in relation to the matters to which it relates;
(e) that those provisions are not such as to discriminate unduly against particular persons or against a particular description of persons;
(f) that those provisions are proportionate to what they are intended to achieve; and
(g) that, in relation to what those provisions are intended to achieve, they are transparent.

(2) The requirements concerning enforcement and related matters are—
(a) that OFCOM or another person has, under the code, the functions of administering and enforcing it, including the function of resolving copyright infringement disputes;
(b) that any such other person is sufficiently independent of internet service providers and copyright owners;
(c) that there is a person who, under the code, has the function of determining subscriber appeals;
(d) that that person is sufficiently independent of internet service providers, copyright owners and OFCOM;
(e) that there are adequate arrangements under the code for the costs of the carrying out by a person mentioned in paragraph (a) or (c) of functions in relation to the code to be met by internet service providers and copyright owners; and
(f) that provision is made, in accordance with subsection (3), for the appeal to the First-tier Tribunal of determinations of subscriber appeals.

(3) The provision mentioned in subsection (2)(f) is provision—
(a) enabling a determination of a subscriber appeal to be appealed to the First-tier Tribunal, including on grounds that it was based on an error of fact, wrong in law or unreasonable;
(b) giving the First-tier Tribunal power, in relation to an appeal to it, to—
(i) withdraw a technical measure;
(ii) confirm a technical measure;
(iii) take any steps that a person administering or enforcing the code could take in relation to the act or omission giving rise to the technical measure;
(iv) remit the decision whether to confirm the technical measure, or any matter relating to that decision, to a person mentioned in subsection (2)(c);
(v) award costs;
(c) in relation to recovery of costs awarded by the Tribunal.

(4) The provision mentioned in subsection (2) may also (unless the Secretary of State requires otherwise) include, in particular—
(a) provision for the payment, to a person specified in the code, of a penalty not exceeding the maximum penalty for the time being specified in section 124K(2);
(b) provision requiring a copyright owner to indemnify an internet service provider for any loss or damage resulting from the owner’s infringement or error in relation to the code or the copyright infringement provisions;
(c) provision for the taking of a technical measure to be postponed until a subscriber appeal to a person mentioned in subsection (2)(c) or an appeal to the First-tier Tribunal has been determined.
...

124K Enforcement of obligations
(1)
Sections 94 to 96 apply in relation to a contravention of an initial obligation or a technical obligation, or a contravention of an obligation under section 124G(5), as they apply in relation to a contravention of a condition set out under section 45.

(2) The amount of the penalty imposed under section 96 as applied by this section is to be such amount not exceeding £250,000 as OFCOM determine to be—
(a) appropriate; and
(b) proportionate to the contravention in respect of which it is imposed.

(3) In making that determination OFCOM must have regard to—
(a) any representations made to them by the internet service provider;
(b) any steps taken by the provider towards complying with the obligations contraventions of which have been notified to the provider under section 94 (as applied); and
(c) any steps taken by the provider for remedying the consequences of those contraventions.

(4) The Secretary of State may by order amend this section so as to substitute a different maximum penalty for the maximum penalty for the time being specified in subsection (2).

(5) No order is to be made containing provision authorised by subsection (4) unless a draft of the order has been laid before Parliament and approved by a resolution of each House.

124L Sharing of costs
(1)
The Secretary of State may by order specify provision that must be included in an initial obligations code or a technical obligations code about payment of contributions towards costs incurred under the copyright infringement provisions.

(2) Provision specified under subsection (1) may relate to, in particular—
(a) payment by a copyright owner of a contribution towards the costs that an internet service provider incurs;
(b) payment by a copyright owner or internet service provider of a contribution towards the costs that OFCOM incur.

(3) Provision specified under subsection (1) may include, in particular—
(a) provision about costs incurred before the provision is included in an initial obligations code or a technical obligations code;
(b) provision for payment in advance of expected costs (and for reimbursement of overpayments where the costs incurred are less than expected);
(c) provision about how costs, expected costs or contributions must be calculated;
(d) other provision about when and how contributions must be paid.
...

オンライン著作権侵害:インターネット・サービス・プロバイダーの義務
第124A条
 著作権侵害報告を契約者に通知する義務
第1項 著作権者に、以下のように思われた時に、本条は適用される。
(a)インターネット・アクセス・サービスの契約者が、そのサービスを用いて著作権者の著作権を侵害したと思われた時;あるいは
(b)インターネット・アクセス・サービスの契約者が、他の者にそのサービスを使用することを許し、この他の者が、そのサービスを用いて著作権者の著作権を侵害したと思われた時。

第2項 著作権者は、第124C条あるいは第124D条により効力を有する規約(「当初義務規約」)によってそうすることが可能とされていれば、インターネット・アクセス・サービスを提供するインターネット・サービス・プロバイダーに対し、著作権侵害報告を作ることができる。

第3項 「著作権侵害報告」は、
(a)著作権者の著作権の侵害があると思われることを記載し;
(b)その推定される侵害に関する詳細を含み;
(c)その推定される侵害に対する証拠として、契約者のIPアドレスと、この証拠が集められた時を含み;そして
(d)当初義務規約のその他の要件に合致する報告である。

第4項 著作権侵害報告を受け取ったインターネット・サービス・プロバイダーは、当初義務規約がプロバイダーにそうすることを求めている場合は、その報告を契約者に通知しなくてはならない。

第5項 第4項における通知は、次の事項を含まなければならないー
(a)それが、著作権者によって作られた著作権侵害報告に対する応答として本条に基づき送られたものであるという記載;
(b)推定される侵害に関する詳細;
(c)推定される侵害に関する証拠;
(d)著作権とその目的に関する情報;
(e)著作物への合法なアクセスをどのようにして得るかということに関する助言;
(f)ワイヤレス電子通信ネットワークの保護に関する助言;
(g)その他当初義務規約が含めることを求めている事項。

第6項 第5項(g)により求められている事項は、一般的なことを目的とするものであれ特定のことを目的とするものであれ、特に次の事項を含むー
(a)推定される侵害のインターネット・サービス・プロバイダーによる保存に関する情報;
(b)プロバイダーへの著作権者によって作られた著作権侵害報告が関係している契約者についての開示を、著作権者はプロバイダーに求められること;
(c)そのような開示において、著作権者は、契約者の個人情報の開示を裁判所に要求でき、契約者に対し、著作権侵害訴訟を起こせること;
(d)契約者に関する著作権侵害報告の数と性質が、何かしらの技術的手段の目的において考慮に入れられること。

第7項 本条において、契約者に関する、「通知」とは、インターネット・サービス・プロバイダーが契約者について保持している電子あるいは郵便のアドレスに通知を送ることを意味する(ここで、第394条から第396条(訳注:正式な通知に関する条項)は適用されない)。

第124B条 著作権者への著作権侵害リストの提供義務
第1項
 以下の場合には、インターネット・サービス・プロバイダーは、著作権侵害リストを著作権者に提供しなければならないー
(a)著作権者がある期間のそのリストを要求し;そして
(b)当初義務規約が、インターネット・サービス・プロバイダーにそれを提供することを義務づけている場合。

第2項 「著作権侵害リスト」は、
(a)著作権者が作成した著作権侵害報告に関係する契約者を並べたものであるが、
(b)契約者が特定できるようにはされていないリストである。

第3項 以下の場合に、契約者は、著作権者に対し「関係する契約者」とされるー
(a)著作権者が、その契約者について1つあるいはそれ以上の著作権侵害報告を作成し;そして
(b)その報告の数が、(もしあれば)当初義務規約に規定されているしきい値を超えている場合。

第124C条 当初義務規約の承認
第1項
 第124A条と第124B条におけるインターネット・サービス・プロバイダーの義務が、「当初義務」である。

第2項 情報通信庁が、
(a)この当初義務を規定する目的で誰かによって規約が作られ;そして
(b)その目的に照らしてその規約を承認することが適切であると、
判断する時、情報通信庁はそれを承認し、この承認によって与えられた日からそれは効力を有する。

第3項 本条において承認される規約の規定は、次の規定を含み得るー
(a)著作権侵害規定あるいは個別のケースで適用される法令における権利と義務が満たすべき条件の特定;
(b)(a)の条件が満たされているか否かを決定する上で合理的に必要となる情報あるいは補助の提供を、著作権者あるいはインターネット・サービス・プロバイダーに対して求められるようにすること;

第4項 第3項(a)に記載されている規定は、次のことに関して特に取り決めをインターネット・サービス・プロバイダーと作っていない限り、著作権者に関して権利あるいは義務は適用されないことを明確に記載し得るー
(a)ある特定の期間内に、著作権者からプロバイダーに送られる著作権侵害報告の数;
(b)プロバイダーに発生する費用の負担分の前払い

第5項 第3項(a)に記載されている規定は、特に、次のことを規定することができるー
(a)特定の期間内に著作権侵害報告の数が規約で決められているしきい値を超えない限り、インターネット・サービス・プロバイダーに関して権利と義務は適用されないこと、ただし、規約に特段の定めがある場合はこの限りでない;
(b)一旦そのしきい値に達した場合は、その到達前に権利あるいは義務が適用されること。

第6項 第124E条に決められているクライテリアを満たさない限り、情報通信庁は本条に規定されている規約を承認してはならない。

第7項 2つ以上の承認規約が同時に効力を持つことは無い。

第8項 情報通信庁は、承認した規約について確認をし続けなければならない。

第9項 情報通信庁は、第2項に記載されている目的で、以下のことができるー
(a)承認した規約に加えられる修正の承認;あるいは
(b)承認した規約からの承認の取り消し、これは承認あるいは取り消しで与えられた日から効力を有する、また、第124E条で定められているクライテリアを満たさない場合はそうしなければならない。

第10項 規約の承認あるいは承認した規約の修正には、大臣の同意を必要とする。

第11項 本条に基づき承認を与えるか取り消すかした場合は、情報通信庁は、その承認あるいは取り消しの通知をしなければならない。

第12項 その承認あるいは取り消しによって影響を受けると情報通信庁が考える者に注目されるよう情報通信庁が適切と考えるやり方で、その通知は公表されなくてはならない。

第124D条 承認規約が無い場合に情報通信庁によって作られる当初義務規約
第1項
第124A条と第124B条が施行されたが、第124C条に基づいて承認された当初義務規約が存在していない時には、情報通信庁は、当初義務を規定する目的の規約を命令によって作らなければならない。

第2項 第124A条と第124B条の施行後6ヶ月以内については、情報通信庁は、第1項に従ってもよいが、その必要は無い。

第3項 本条に基づく規約にも、第124C条第3項から第5項が適用される。

第4項 本条に基づく規約は、以下のことを含み得るー
(a)自身の規則を作り、自身の手続きを定め得る1つあるいはそれ以上の主体を設立すること;
(b)規約によって設立される主体、あるいは、規約の目的に照らして他の者の裁判権を定めること;
(c)何らかの事項について情報通信庁自体に裁判権を与えること(ただし、契約者による上訴に関する著作権侵害規定に関係する事項を除く);
(d)裁判権を与えられた者に、補償、費用の裁定に関する指導、あるいはその両方ができるようにすること;
(e)そのような者に、この規約をエンフォースメントできるように、あるいは、このエンフォースメントに、規約に基づいてなされる裁定あるいは指導に関与できるようにすること;
(f)そのような裁定あるいは指導のエンフォースメントに関するその他の規定;
(g)当初義務を規定することを目的とするその他の規定;

第5項 第124E条に定められているクライテリアを満たさない限り、情報通信庁は、本条に基づく規約を定めてはならない。

第6項 情報通信庁は、
(a)本条に基づく規約を確認し続け;そして
(b)それが効力を有している間に、第124E条で定められているクライテリアを満たすことを確保するのに必要である場合には、命令によってその修正をしなければならない。

第7項 本条に基づく規約の情報通信庁による作成あるいは修正には、大臣の同意を必要とする。

第8項 第403条(訳注:情報通信庁によって作られる規則と命令に関する条項)が、本条に基づく命令の作成に関する情報通信庁の権限にも適用される。

第124E条 当初義務規約の内容
第1項
 第124C条第6項と第124D条第5項に記載されているクライテリアはー
(a)規約において、著作権侵害報告(第2項参照)に関して必要な規定を作ること;
(b)契約者への通知(第3項参照)に関して必要な規定を作ること;
(c)インターネット・サービス・プロバイダーがどのように契約者に関する情報を保持するかに関する規定を作ること;
(d)その情報をいつまで保持できるかを定めること;
(e)第124L条の命令によって含められなくてはならないとされる費用の分配に関する規定を作ること;
(f)規約に関係して、エンフォースメントとそれに関連する事項について満たすべき条件を定めること(第4項参照);
(g)関係する事項について、規定がその目的に照らし客観的に正当なものであること;
(h)その規定が、特定の者について、あるいは、特定の者に関する記載について、不当な区別をするようなものとなっていないこと;
(i)その規定が、達成すべきことに対して、バランスの取れたものとなっていること;そして
(j)その規定が達成すべきことに関して、透明性が保たれていること。

第2項 著作権侵害報告についての規定は、次のことを定めなければならないー
(a)報告に含まれる著作権侵害の証拠を得る手段について求められる要件;
(b)含まれるべき証拠に関する基準;
(c)報告で必要とされる様式;そして
(d)報告作成の期限。

第3項 インターネット・サービス・プロバイダーが1つあるいはそれ以上の著作権侵害を受け取った契約者への通知についての規定は、次のことを定めなければならないー
(a)プロバイダーが契約者を特定する上で用いる手段に関する条件;
(b)プロバイダーが契約者に通知することを求められた報告について;そして
(c)それぞれのケースにおける通知の様式、内容と手段に関する条件。

第4項 エンフォースメントと関連事項に関して、以下のことが必要とされるー
(a)情報通信庁あるいは他の者が、本条に基づき、著作権侵害に関する紛争解決の役割を含め、それを管理し、エンフォースする役割を果たすこと;
(b)そのような他の者は、十分にインターネット・サービス・プロバイダーと著作権者から独立していること;
(c)本条に基づき、契約者の上訴を判断する役割を果たす者がいること;
(d)その者は、十分にインターネット・サービス・プロバイダーと著作権者から独立していること;
(e)(a)あるいは(c)に記載されている者によって実施されることの費用について、規約に照らして適切な取り決めが、インターネット・サービス・プロバイダーと権利者の間でなされること。

第5項 第4項に記載されている規定は、特に、次の事項を含むことができるー
(a)第124K条第2項で規定されている時点における最大の罰金を超えることの無い罰金の支払いを、規約で特定される者に支払うとする規定;
(b)規約あるいは著作権侵害に関する規定に、著作権者の過失により従うことができなかった場合に、それによって生じた損失あるいは損害について、インターネット・サービス・プロバイダーを免責することを著作権者に求める規定;

(略:第6項 「著作権侵害紛争」と「契約者による上訴」という用語の解釈・定義規定。)

(略:第124F条 進展報告書に関する規定。インターネットにおける著作権侵害の状況について、情報通信庁が定期的に大臣に報告することと規定。)

第124G条 インターネットアクセスを制限する義務:評価と準備
第1項
 大臣は、以下のことをするよう情報通信庁に指示することができるー
(a)1つあるいはそれ以上の技術的義務をインターネット・サービス・プロバイダーに課すべきであるか否かを評価すること;
(b)その義務の準備に必要な措置を取ること;
(c)その評価あるいは措置に関する報告を大臣に提供すること。

第2項 インターネット・サービス・プロバイダーに関する「技術的義務」とは、そのサービスの特定の契約者に対して技術的手段を取るプロバイダーの義務である。

第3項 「技術的手段」とは、
(a)契約者に提供されるサービスのスピードあるいは容量を制限する;
(b)契約者に、特定の物へのアクセスを得ることをできなくするか、そのような利用を制限する;
(c)契約者に提供されるサービスを遮断する;あるいは
(d)他の形で契約者に提供されるサービスを制限する手段である。

第4項 第1項に基づいて、大臣が情報通信庁に実行するあるいは取ることを指示する評価と措置は、特に、次のことを含むー
(a)著作権者、インターネット・サービス・プロバイダー、契約者あるいはその他の者に対する意見聴取;
(b)特定のタイプのインターネット・アクセス・サービスに関する技術的手段の有効性に対する評価;そして
(c)技術的義務規約の提案のための措置。

第5項 本条に基づいて出される指示の目的に照らして、情報通信庁が合理的に求められる補助を、インターネット・サービス・プロバイダーは情報通信庁に与えなければならない。

第6項 大臣は、本条に基づく指示について全て国会に報告しなければならない。

第124H条 インターネット・アクセスを制限する義務
第1項
 大臣は、以下のことを考慮して適切だと考える時は、インターネット・サービス・プロバイダーに技術的義務を課すことができるー
(a)第124G条に基づき情報通信庁によって実行される評価あるいは取られる措置;あるいは
(b)その他の考慮。

第2項 本条に基づく命令は、その技術的手段が取られる日を特定するか、それが特定されるべきことを規定する。

第3項 命令はまた、次のことを定めることができるー
(a)契約者に対して関係する技術的手段が取られるクライテリア;
(b)その手段の一部として取られる措置と、それが取られるべき時。

第124I条 インターネット・アクセスを制限する義務について情報通信庁が作る規約
第1項
 第124H条により効力を有する1つあるいはそれ以上の義務があるとされる期間に、情報通信庁は、その義務を規定する目的で、技術的義務規約を命令により作らなければならない。

第2項 この規約は、第124D条に基づき作られる当初義務規約と別にあるいはともに、作られることができる。

第3項 本条に基づく規約はー
(a)第124C条第3項から第5項あるいは第124D条第4項(a)から(f)に記載されている事項を含むことができ;そして
(b)他の技術的義務を規定する目的の規定を作ることができる。

第4項 情報通信庁は、第124J条で定められているクラリテリアを満たさない限り、本条に基づく規約を作ってはならない。

第5項 情報通信庁は、
(a)本条に基づく規約を確認し続け;そして
(b)それが効力を有している間に、第124J条で定められているクライテリアを満たすことを確保するのに必要である場合には、命令によってその修正をしなければならない。

第6項 本条に基づく規約の情報通信庁による作成あるいは修正には、大臣の同意を必要とする。

第7項 第403条が、本条に基づく命令の作成に関する情報通信庁の権限にも適用される。

第8項 本条に基づいて情報通信庁によって作られる命令を含む規則等は、国会の決定によって廃止され得る。

第124J条 インターネット・アクセスを制限する義務についての規約の内容
第1項
 第124I条第4項に記載されているクライテリアはー
(a)規約に関係して、エンフォースメントとそれに関連する事項について満たすべき条件を定めること(第2項参照);
(b)第124L条の命令によって含めなくてはならないとされる費用の分配に関する規定を作ること;
(c)それを大臣が作成することを求める時に必要とされるその他の規定を作ること;
(d)関係する事項について、規定がその目的に照らし客観的に正当なものであること;
(e)その規定が、特定の者について、あるいは、特定の者に関する記載について、不当な区別をするようなものとなっていないこと;
(f)その規定が、達成すべきことに対して、バランスの取れたものとなっていること;そして
(g)その規定が達成すべきことに関して、透明性が保たれていること。

第2項 エンフォースメントと関連事項に関して、以下のことが必要とされるー
(a)情報通信庁あるいは他の者が、本条に基づき、著作権侵害に関する紛争解決の役割を含め、それを管理し、エンフォースする役割を果たすこと;
(b)そのような他の者は、十分にインターネット・サービス・プロバイダーと著作権者から独立していること;
(c)本条に基づき、契約者の上訴を判断する役割を果たす者がいること;
(d)その者は、十分にインターネット・サービス・プロバイダーと著作権者から独立していること;
(e)(a)あるいは(c)に記載されている者によって実施されることの費用について、規約に照らして適切な取り決めが、インターネット・サービス・プロバイダーと権利者の間でなされること。
(f)第3項に従い、契約者の上訴を判断する第一審の裁判所についての規定が作られること;

第3項 第2項(f)に記載されている規定は、
(a)間違った事実に基づく、法律の適用が間違っているあるいは不当である等の理由に基づき、第一審裁判所へ上訴することで、契約者の判断を可能とする;
(b)上訴に関して、第一審に以下の権限を与えるとする;
(ⅰ)技術的手段の除去;
(ⅱ)技術的手段の承認;
(ⅲ)技術的手段に関して行われる行為あるいは懈怠に対して、規約を管理し、エンフォースする者が、取ることのできる措置;
(ⅳ)第2項(c)に記載されている者に対して、技術的手段あるいはその他の事項を課す決定の緩和;
決定の
(ⅴ)費用の裁定;
(c)法廷によって裁定される費用の回復に関する規定である。

第4項 第2項に規定されている規定は、(大臣がそうでないことを求めない限り)特に、次の事項を含むことができるー
(a)第124K条第2項で規定されている時点における最大の罰金を超えることの無い罰金の支払いを、規約で特定されている者に支払うとする規定;
(b)規約あるいは著作権侵害に関する規定に、著作権者のミスにより従うことができなかった場合に、それによって生じた損失あるいは損害について、インターネット・サービス・プロバイダーを免責することを著作権者に求める規定;
(c)契約者による第2項(c)に記載されている者への上訴まで、あるいは、第一審の裁判所が上訴について決定する時まで、技術的手段を取ることを延期する規定;

(略:第5項 「著作権侵害紛争」と「契約者による上訴」という用語の解釈・定義規定。)

第124K条 義務のエンフォース
第1項
 当初義務あるいは技術的義務違反、あるいは第124G条第5項の義務違反に対しては、第45条(訳注:情報通信長による条件設定の権限に関する条項)に定められている条件違反に該当するものとして、第94条から第96条(訳注:情報通信庁によるエンフォースメント通知などに関する条項)が適ようされる。

第2項 第96条に基づいて、本条によって課される罰金は、25万ポンドを超えず、情報通信庁が、
(a)適切で;そして
(b)違反と比較してバランスの取れたものとして決定されるものとする。

第3項 この決定をする際には、情報通信庁は、次の事項を考慮に入れなければならないー
(a)インターネット・サービス・プロバイダーから提出される異議;
(b)(適用される場合は)第94条に基づいてプロバイダーに通知される義務違反に適うようにプロバイダーが取る措置;
(c)それらの違反の結果として生じたことの救済についてプロバイダーが取る措置;

第4項 大臣は、第2項で規定されている時点における最大の罰金の額の変更に関して本条を命令によって修正することができる。

第5項 命令案が国会に報告され、両院に承認されない限り、第4項により許される規定を含む命令は作られ得ない。

第124L条 費用の配分
第1項
 大臣は、著作権侵害規定に基づき発生した費用の分配について、当初義務規約あるいは技術的義務規約に含まれなければならない規定を、命令により定める。

第2項 第1項に基づいて定められる規定は、特に、次の事項に関係し得るー
(a)インターネット・サービス・プロバイダーに発生した費用の負担分の著作権者による支払い;
(b)情報通信庁に発生した費用の負担分の著作権者あるいはインターネット・サービス・プロバイダーによる支払い;

第3項 第1項で定められる規定は、特に、次の規定を含み得るー
(a)当初義務規約あるいは技術義務規約が含むべき発生した費用に関する規定;
(b)予想費用の前払い(と発生した費用が予想されたより少なかった場合には、超過分の返済)に関する規定;
(c)どのように費用、予想費用あるいは負担分が計算されるかということに関する規定;
(d)いつどのように負担分が支払われるかということについてのその他の規定;

(略:第124M条、用語の解釈・定義規定。)

 第124G条第3項でユーザーに課される技術的手段としてアクセス遮断があり得ることを明記している点からも、ストライク法案の1種であるとすぐに知れるが、これは、第188回で紹介したイギリス政府による3ストライクポリシーの提案をほぼそのまま条文化したものである。著作権団体の政治力はいまだ強く、イギリス政府もその圧力に負け、他のあらゆる者の意見を無視して、このような法案を国会に提出して来たものと見える。

 この法案は、憲法裁判で完全に否定されたフランスの3ストライク法案の第1案(第178回参照)、あるいは、ニュージーランドで一時導入されかかったものの、反発があまりにも大きかったために施行が見送られ、修正に関する検討が続けられている改正著作権法のストライク規定(第88回参照)に近く、実質的にインターネット・サービス・プロバイダーを著作権警察化し、大臣命令あるいは情報通信庁の権限で、著作権団体からの申告に基づいて推定有罪のネット切断を一方的にユーザーに課そうとする非道なものである。(また、「P2Pとかその辺のお話」で、最近明らかにされたというニュージーランドの修正ストライク規定が取り上げられているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。)

 前々回、既にネット大企業が反対に回ったことについて少し触れたが、イギリスでも、当然のように、政府与党と権利者団体以外にほとんどこのストライク法案の擁護者は見られない状況にあり、今後も何かあれば随時紹介して行きたいと思っているが、現状を見る限り、イギリスにおけるこのストライク法案の審議も、フランス同様、混乱を極めることになるだろう。

 第188回でも書いた通り、残念ながら、現状では世界的に見て著作権団体の方がまだ政治力が強く、このようにどこの国も政策的におよそロクなことを言い出さない状況が当分は続くのではないかと思うが、情報と技術の性質に対する完全な無理解を示し、国民の情報に関する最重要の基本権を侵害するものとしかなりようのない、ネット切断型のストライクポリシーや技術的な著作権検閲のような違法コピー対策は、失敗が約束されているものと私は考えている。

 なお、どこの国でもレーティング・認定・検閲利権の作り方は同じであり、やはり全く同じように批判されているので詳細は省略するが、このデジタル経済法は、1984年のビデオ録画法で今まで政府認定レーティング機関のレーティングの対象となっていたDVDなどに加えて、この法律を改正してビデオゲームもレーティングの対象として追加し、ゲームのレーティングを完全に義務化しようとしている点でもかなりタチが悪いものである。(このイギリスのレーティングシステムとこの法律の施行に関するゴタゴタについてさらに細かなことが気になるようであれば、政府認定検閲団体のイギリス映画倫理委員会の英語版wikiや1984年ビデオ録画法の英語版wikiを参照頂ければと思う。)

 今現在パブコメにかかっているイギリスの著作権の権利制限に関する提案についてもどうせなら一緒に紹介したいと思っていたが、ストライク法案の話だけでかなり長くなってしまったので、その話は次回に回したいと思う。

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2009年12月15日 (火)

第205回:知的財産戦略本部会合の資料と特許制度研究会の報告書

 前回少し書いた通り、これ以上無意味な知財計画など作ること無く、その役割を終えた知財本部は速やかに廃止してもらいたいものと個人的には思っているが、知財本部でこの12月8日に本部会合が開かれ、残念ながら、知財本部は存続するものと、また来年も知財計画が作られるものとされたようであり、特許庁からも、その特許制度研究会で同じく12月8日にまとめられた報告書が公表されている。今後の日本政府の動きを考える上でこれらの資料は非常に重要と思うので、今回は、これらの話を取り上げておきたいと思う。

(1)知的財産戦略本部会合(第24回・12月8日)の資料
 議事次第に並んでいる資料は、役所のものであるか有識者と称する人々のものであるかを問わず、例の如くほとんど全て何を言いたいのか良く分からないものばかりだが、その中に、「知的財産戦略について(pdf)」という知的財産戦略推進事務局が作った資料がある。

 相変わらず要領を得ない前置きの総論についても突っ込みたいところが無い訳ではないが、特に、最後の7ページ目で「知的財産を巡る喫緊の課題(ネット上の著作権侵害)」として、

・インターネット上であらゆる種類の著作権侵害コンテンツが氾濫
 全世界において日本のあらゆるコンテンツが無料で視聴・使用できる状態に!
(中略)
・2010年中の妥結を目指してACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)交渉が進む中、世界各国で様々な対策を実施
(例)フランス 侵害を3回繰り返した悪質なユーザーに対し、インターネットへの接続を強制的に遮断する措置を導入(いわゆる「スリーストライク制」)ACTA交渉を推進してきた日本が、他の先進諸国に大きく遅れてしまうおそれ!

・ネット配信ビジネスが飛躍する大きなチャンスを喪失する可能性
 世界をリードする抜本的な対策を早急に講じるとともに、2010年中にACTA交渉を妥結することが必要
 音楽の分野ではiTunes(アップル)がシェアを占めるものの、その他の分野では未だ大きな勢力は台頭しておらず、日本の企業にもチャンスがある。
→成長の大きな阻害要因を解決することで、世界的なビジネスモデルが出現!

と(赤字強調は私が付けたもの)、知財事務局が、あたかもフランスの非道な3ストライクポリシーがより進んだ政策であるかの如き印象操作を行い、ぬけぬけと模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)にこのような非道な政策を取り込もうとし、ポリシーロンダリングを図って来ていることは決して見過ごせない

 このような資料を見る限り、第198回でACTAについて書いたことや第203回に載せたパブコメで指摘した懸念はやはり妥当なものだったと言わざるを得ない。

 この資料で、ネットにおける著作権侵害・ビジネスと3ストライクポリシーとACTAが三段噺のように書かれているが、その論理的飛躍は指摘するまでもないだろう。フランスやイギリスの迷走・混乱のことを持ち出すまでも無く、導入されたとしたら情報の自由に関する個人の基本的な権利の侵害が発生する恐れが極めて高いストライクポリシーなど、国内で導入されるべきでないのは無論のこと、条約化されることなどとんでもないものである。本当にそのようなことが日本の主導で世界的に導入された日には、出現し得たかも知れないビジネスの芽までその混乱により国内から摘み取られたあげく、引き起こされる世界的混乱の最大の戦犯として日本が世界的に糾弾されることになるのは目に見えている。

 議事録はまだ公開されていないので、具体的にどのような議論がなされたかは不明だが、首相以下今の内閣の大臣を見渡しても、こうした本当に重要な論点についてまともに議論できる人間は皆無であり、ほとんど何の議論もされずにスルーされたのではないかと私は思っている。残念ながら、今の日本の立法府・行政府・司法府の役人・議員のレベルの低さを見る限り、こうして事務局の役人がデタラメな資料を作り、こうした公式会合で、本当の問題点のことなどカケラも理解しない大臣なり政治家の承認を取った形にして、危険な規制強化の既成事実化を図って行くという危険な動きが止まることは当分ないだろう。

 これからも地道にパブコメなどは出し続けるつもりだが、今の流れのまま締結されたら、日本が最大の戦犯とされるに違いないにもかかわらず、日本での反応がいまいち鈍いのは本当に残念である。

 また、この知財本部会合には、日本の知財学界の重鎮である元東大教授の中山信弘氏も「知的財産戦略本部の使命(pdf)」という資料を提出している。しょうも無い資料が並ぶ中で、これだけは非常に簡にして要を得た資料なので、興味のある方は是非リンク先の全文を読んで頂ければと思うが、この資料の、

1.成長戦略の必要性
(中略)
・しかし現在の知的財産制度は、基本的には、20世紀にはうまく機能した制度であるかもしれないが、デジタル技術を中心とした21世紀の制度として妥当であるのか、という点の再検討が喫緊の課題である。その意味から、この知的財産戦略本部を、官庁間の連絡役ではなく、その名の通り、成長戦略の一環として、戦略的に利用してゆくことが必要であると考える。

2.成長戦略の一例(コンテンツ・ビジネス)
(中略)
・リーマンショック以降の経済危機も大きな要因ではあるが、日本では、新たなことに挑戦するマインドは失せ、起業精神は衰え、ベンチャー企業の上場は壊滅状態にあり、一億総潔癖症候群に陥り、塹壕戦状態に陥っている。コンテンツ・ビジネスに関しては、まさに敵が箱根を越えているのに小田原城に立て籠もっているような感がある。日本には、アメリカのベンチャー企業に対抗する企業が現れないのには種々の理由が考えられ、多彩な施策が必要となる。

・知的財産制度だけではそれらを解決する切り札にはなりえないが、知的財産の側面から見れば、たとえば新たなネット・ビジネスを立ち上げようとすると、著作権法に抵触する場合が多く、著作権法が新たなネット・ビジネスの足を引っ張っていることは否定できない。まず最低限、産業・文化の発展の阻害要因を取り除き、次いで知的財産制度本来の目的である産業・文化の発展の道具となるべく、改革を急ぐべきである。

・詳細にわたるが、一例を挙げるならば、著作権法におけるフェアユース規定の導入、著作物の流通促進のための諸規定の充実、著作権の保護期間延長の阻止、等を検討すべきである。これらを通じ、コンテンツの流通・利用の促進を図り、早急に著作権者と利用者のウインウインの関係を構築することが肝要である。

という提言は、真に傾聴するに値する極めて明快なものである(赤字強調はやはり私が付けたもの)。省庁間の連絡役に堕している知財本部に関することも含め、昨今の迷走し続ける日本の著作権政策・知財政策に対する中山氏の臍を噛む思いが伝わって来る。具体的に会合でどのような議論が行われたかは不明だが、日本の知財学界の重鎮のこれほど明快な提言すら何の反響も呼び得ないなら、それこそ知財本部に存在価値など何一つ無い。

(2)特許制度研究会の報告書(12月8日)
 特許制度はかなり堅牢にできており、放っておいてもまずもって問題は無いので、特許の話は大体後回しになっているが、特許庁も、研究会を作ってほぼ法改正のための法改正の検討をしているという点では日本の役所の例に洩れない。

 日経の記事にあるように、さらに来年、経済産業省の産業構造審議会で検討をすると見え、即座に法改正をするという話ではないが、この特許制度研究会の報告書「特許制度に関する論点整理について(pdf)」の検討項目から、来年特許法の改正についてどのような検討が行われるかが分かるので、順番に検討項目と研究会の意見という結論らしき部分だけここに順にあげておきたいと思う。

 7ページ以降の「特許の活用促進」では、以下の5つの項目があげられている。

Ⅰ.登録対抗制度の見直し:
 実務上、登録が困難であること、特許権の取引に当たってはデュー・デリジェンスが実施されていること等を踏まえ、現行の民法の一般原則との関係に留意しつつ、当然対抗制度について検討を進めてはどうか。
Ⅱ.新たな独占的ライセンス制度の在り方:
 登録を効力発生要件としない新たな独占的ライセンス制度を整備し、登録を備えない独占的ライセンシーについても、無権原の実施者に対する差止請求は可能とすることについて検討を進めてはどうか。また、新たな独占的ライセンス制度では、登録・開示事項を最小限にした上で、登録を備えた独占的ライセンシーは、対抗関係に立つ第三者に対する差止請求も可能とすることについて検討を進めてはどうか。
Ⅲ.特許出願段階からの早期活用:
 出願後の特許を受ける権利に係る権利変動の登録・公示制度について検討を進めてはどうか。その場合、特許を受ける権利に係る権利変動の効力及び登録は、特許権にも引き継がれる(職権登録される)とすることについて検討を進めてはどうか。また、特許を受ける権利を目的とする質権の解禁について検討を進めてはどうか。
Ⅳ.実施許諾用意制度(ライセンス・オブ・ライト制度)の導入:
 制度導入については賛否が分かれたこと、制度の特許活用促進効果の見込みや詳細設計についての懸念も示されたことを踏まえ、特許権の活用の実態を見定め、制度の詳細設計に関する検討を深めつつ、制度の導入の是非について引き続き検討を行うべきではないか。

 22ページ以降の「多様な主体による利用に適したユーザーフレンドリーな制度の実現」では、以下の6つの項目が並んでいる。

Ⅰ.特許法条約(PLT)との整合に向けた方式的要件の緩和:
 PLTの主要項目のうち優先度の高いものについては、実現した場合の問題点等も考慮しながら、早期の実現に向けて検討を進めてはどうか。
Ⅱ.仮出願制度の導入:
 大学における仮出願の必要性を支持する意見がある一方、仮出願として独立した制度を創設することについては懸念が示された。したがって、仮出願に対するニーズについては、何らかの対応が必要としても、独立した制度の導入ではなく、既存の制度とPLT準拠の出願要件の緩和との組み合わせによる実現として検討を進めてはどうか。
Ⅲ.新規性喪失の例外規定における学術団体及び博覧会指定制度の廃止:
 学術団体及び博覧会指定制度については、廃止すべきとの意見が多かったため、廃止する方向で検討を進めてはどうか。
Ⅳ.審査着手時期の多段階化:
 遅い権利化のニーズにこたえる制度の導入については、賛否両論があるため、引き続き検討を行うべきではないか。
Ⅴ.公衆審査制度の拡充:
 特許付与前の公開の義務化及び特許付与後に権利の有効性を争う簡易な手段の導入については、双方とも賛否両論があった。したがって、公衆審査制度の拡充については、出願公開前に特許査定される案件の件数の増加状況を見極めつつ、過去の改正経緯も踏まえ、引き続き検討を行うべきではないか。
Ⅵ.冒認出願に関する救済措置の整備:
 真の権利者自らの出願の有無を問わずに、特許付与の前後を通じた権利の移転請求(名義の変更)を特許法上認めることについて検討を進めてはどうか。

 33ページ以降の「特許関係紛争の効率的・適正な解決に向けた制度整備」で並んでいる項目は、以下の6つである。

Ⅰ.侵害訴訟の判決確定後の無効審判等による再審の取扱い:
 確定した侵害訴訟が無効審判の確定審決に基づき再審となることを防止すべきとの意見が多かった。一方で、無効の遡及効を重視する公益的な側面と、「紛争の蒸し返し」の防止を重視する紛争解決手続上の側面のいずれを強調するかという価値判断に基づいて議論すべき、問題となるような事例はまれにしか生じないものであることも考慮すべき等の意見があったことを踏まえ、各制度案の具体的な効果、実務上の問題点等を精査しつつ、検討を進めてはどうか。
Ⅱ.特許の有効性判断についての「ダブルトラック」の在り方:
 特許の有効性判断が2つのルートで行われ得ることについては、紛争処理における侵害訴訟と無効審判の役割についての考え方等により多様な意見が出された。したがって、「ダブルトラック」の在り方については、両者の機能及び役割分担を整理した上で、各種の制度案の具体的な効果、実務上の問題点等を精査しつつ、引き続き検討を行うべきではないか。
Ⅲ.裁判所における技術的争点に関する的確な判断を支える制度整備:
 技術的争点に関する裁判官の判断を支援する体制を強化すべきとの意見が多かったため、技術的争点の判断を支援するための具体策について、引き続き検討を行うべきではないか。ただし、技術的争点の判断に必要な情報が適切に裁判官に提供されていれば、必ずしも裁判官が理系のバックグラウンドを有しているかどうかは技術的争点の判断に影響しないとの意見が多かった。
Ⅳ.無効審判ルートの在り方:
 無効審判ルートの在り方については多様な指摘がなされた。無効審判ルートの在り方については、迅速・効率的な紛争解決、無効審判当事者の公平性、制度利用者の手続保障等の視点から、各制度案の具体的な効果、実務上の問題点等を精査しつつ、引き続き検討を行うべきではないか。
Ⅴ.無効審判の確定審決の第三者効:
 特許法第167条の制度改正については賛否両論があるため、引き続き検討を行うべきではないか。
Ⅵ.審決・訂正の部分確定/訂正の許否判断の在り方:
 審決の確定及び訂正の許否判断を請求項単位で行うことに賛成する意見が多かった一方、ユーザーにとっての分かりやすさについての懸念や国際的な制度調和についての指摘があったことから、各制度案の具体的な効果、実務上の問題点等を精査しつつ、検討を進めてはどうか。

 53ページ以降の「特許保護の適切なバランスの在り方」で並んでいるのは、以下の5つの項目である。

Ⅰ.特許の保護対象:
 特許の保護対象については、現行のままで問題ないとの意見が多く、早急に見直すべきとの意見は出なかったため、法改正の必要はないと考えるのが適当ではないか。
Ⅱ.職務発明制度:
 現状では、改正法が適用される事件が発生していないため、再度の法改正は難しいことや、改正について賛否両論があったことから、新法の運用状況を見守りつつ慎重に検討を行うべきではないか。
Ⅲ.差止請求権の在り方:
 差止請求権を制限する何らかの規定を特許法に設けることについては賛否両論があった。したがって、差止請求権の制限の在り方については、引き続き検討を行うべきではないか。
Ⅳ.裁定実施権制度の在り方:
 現行の裁定実施権制度が機能していないことを理由に制度改正を検討する余地があるとの指摘があったものの、裁定制度の対象は安易に拡大すべきではないとの意見や、裁判所を判断主体とすることについての課題を指摘する意見もあった。したがって、裁定実施権制度の在り方については引き続き慎重に検討を行うべきではないか。
Ⅴ.特許権の効力の例外範囲(「試験又は研究」の例外範囲)の在り方:
 「試験又は研究」の範囲の明確化又は拡大については賛否両論があっため、「試験又は研究」の範囲についての司法解釈の蓄積を注視しつつ、慎重に検討を行うべきではないか。

 いちいち突っ込んで行くと切りが無く、ほぼ制度ユーザーにしか関係のない話なので、ここで細かな突っ込みをすることはしないが、この報告書で出されている方向性にかかわらず、これらの検討項目は全てニーズ不明か法的整理の非常に厄介なものばかりであり、引き続き検討としても後1年かそこらでおいそれと結論が出せるとは思えないものばかりである。(あり得るとしたら、確かに日経の記事にあるように冒認出願に関する救済措置の整備くらいだろうか。)

 恐らく来年の産業構造審議会の検討でさらにふるいにかけられるだろうが、特許についても、本当のニーズを不明確にしたまま、現状の制度でそれなりに担保されている法的安定性をないがしろにして法改正のための法改正がなされることがないことを私は願っている。

 次回は、また海外著作権動向の話をするつもりである。

(12月15日夜の追記:今日の違法P2P違法ファイル共有ユーザー一斉取り締まりに関する権利者団体の記者会見で、日本の権利者団体も3ストライクを求めると明確に打ち出した(internet watchの記事ITproの記事AV watchの記事参照)。3ストライクポリシーに関しては、上でも書いたように、権利者団体と癒着している文化庁・日本政府によってポリシーロンダリングが狙われる可能性が高く、海賊版条約(ACTA)の議論は本当に要注意である。)

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2009年12月10日 (木)

第204回:著作権法施行令の一部を改正する政令案・著作権法施行規則の一部を改正する省令案に対する提出パブコメ

 著作権法施行令の一部を改正する政令案・著作権法施行規則の一部を改正する省令案についてパブコメを書いて提出した(両方とも12月13日〆切。文化庁のリリース1電子政府HP1意見募集要領1(pdf)著作権法施行令改正案概要(pdf)、文化庁のリリース2電子政府HP2意見募集要領2(pdf)著作権法施行規則改正案概要(pdf)電子政府HP3意見募集要領3(pdf)告示案概要(pdf)参照)。かなりマニアックな政省令案に関する意見だが、念のため以下に載せておく。

 相変わらず良いニュースはカケラも無いが、ここで、少し最近の話も紹介して行くと、まず児童ポルノ規制に関して、関係省庁が「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」を作り、来夏に総合対策をまとめるという方針を固めたというニュースがあった(毎日の記事参照)。地道な対策を進めることに反対するつもりはさらさら無いが、今の役所のレベルを考えると、この総合対策でも危険かつ有害なことを言い出す可能性が極めて高く、来年の夏にかけて児童ポルノ規制問題について気の休まる時は無いだろう。

 また、警察利権の拡大のみを至上主義として危険極まる児童ポルノ規制強化を目論む警察庁を擁する内閣府が、一昨年の調査とまったく変わりなく、何の予備情報も与えずに性・暴力表現を規制するべきか否かと直接面談で聞くというひどい印象操作調査を再び行い、その結果を公表している(内閣府HPの「男女共同参画社会に関する世論調査」中の「メディアにおける性・暴力表現に関する意識について」参照。サーチナニュースの記事も参照)。このような世論調査どころか世論操作といった方が良い結果に基づいて言えることは何も無いが、この世論操作調査を用いた官製プロパガンダがまた来年にかけて激しくなると予想される。

 第199回で少し紹介した(「P2Pとかその辺のお話」も参照)、イギリスのストライク法については、早速グーグル、ヤフー、フェースブック、イーベイといったネット大企業が反対に回るなど(BBCの記事、記事中のマンデルソン英経済大臣に対する手紙(pdf)参照)、法案の提案早々混乱を予想させる展開となっている。

 スペインは、さらに悪いことに、政府が一方的にサイトの閉鎖を行えるとする法案を提案して来ているが、提案早々反対運動が盛り上がり、炎上の様相を呈して、サイトの閉鎖を行うことは無いと首相が発言するに至るが、なお問題は当分収まりそうにない状況となっている(New York Timesの記事EXPATICAの記事Winnipeg Free Pressの記事boingboingの記事参照)。

 第120回で紹介したアメリカの著作権皇帝法について、ヴィクトリア・エスピネル氏が上院の承認を受け、知財エンフォースメントコーディネーター、いわゆる著作権皇帝となったというニュースもあった(BroadbandBreakfastの記事NationalJournalの記事参照)。エスピネル氏がどう動くかはまだ分からないが、およそロクでもない自国の制度を他国に押し付けるアメリカの動きが活発化する可能性も強く、アメリカからも引き続き目を離すべきではないだろう。

 現行の欧州特許条約との整理をどうするのかという点も含め今のところ具体性に乏しく、話が簡単に進むとは思えないが、EU共通特許制度・域内の特許の紛争処理を一元処理するEU特許裁判所の創設について、EU理事会が合意したとするニュースもあったので(日経の記事、EUのリリース参照)、念のため一緒に紹介しておく。

 これ以上無意味な知財計画など作ること無く、その役割を終えた知財本部は速やかに廃止してもらいたいものと個人的には思っているが、知財本部でこの8日に本部会合が開かれ(議事次第参照)、残念ながら、知財本部は存続するものと、また来年も知財計画が作られるものとされたようである(時事通信の記事参照)。

 また、特許庁からも、その特許制度研究会でまとめられた報告書(pdf)が公表されている(日経の記事も参照)。

 上でざっと話したことも含め、海外動向の紹介の続きもしたいと思っているが、次回は、その前に、これらの知財本部と特許庁の動きについて取り上げておきたいと思っている。

(以下、政令案に対する提出パブコメ)

1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:略
4.連絡先:
5.項目名
(1)Ⅱ 美術品等の譲渡等の申出のための画像掲載関係
(2)Ⅲ 送信の障害の防止等のための複製関係
(3)Ⅳ 情報検索サービス関係
(4)Ⅴ 電子計算機における著作物利用に伴う複製関係
(5)その他(ダウンロード違法化について)

6.意見
(1)Ⅱ 美術品等の譲渡等の申出のための画像掲載関係

 政令案概要の本項目において、オークションのための画像掲載が認められるには、「①画像を文部科学省令で定める基準に適合する大きさ又は精度にすること」か、「②画像のインターネット送信を行う際に、電磁的方法により複製を防止する手段(コピープロテクション)をかけ、かつ、画像の精度が①の基準より緩やかなものとして文部科学省令で定める基準に適合するようにすること」を必要とするとしている。

 ここで、さらに要件を文部科学省令に委任しているが、関係省庁が多岐に渡るオークションに関する要件を文化庁あるいは文部科学省単独で制定できる省令に委任することは適切でない。最低でも閣議決定を必要とする政令レベルで全ての要件を定めるべきである。

 また、全ての要件を政令で定めるものとして、さらに技術の進展があると考えられ、ケース毎に様々な適切な対応があり得ると考えられるオークションのような分野において、画一的な技術的要件による限定を用いることは、今後の技術の発展を阻害することにつながる恐れが強く、引いては文化の発展をも阻害する恐れがある。この要件は「著作物の表示の精度が、譲渡若しくは貸与をしようとする著作物の原作品若しくは複製物の大きさ又はこれらに係る取引の態様その他の事情に照らし、これらの譲渡又は貸与の申出のために必要と認められる限度のものであり、かつ、公正な慣行に合致すると認められるものであること」といった一般的な要件のみによるべきである。

 なお、さらに言うなら、このような事項について政令委任自体適切では無く、本来、改正法において一般的な要件により規定しておくべきだったものである。

(2)Ⅲ 送信の障害の防止等のための複製関係
 政令案概要の本項目において、改正法第47条の5の「特定送信」を「①受信者からの求めに応じて自動的に行う送信で自動公衆送信以外のもの(例:ストレージサービスにおけるオンデマンド送信等)」、「②受信者からの求めに応じて自動的に行う送信以外の送信で電子メールの送信その他の文部科学省令で定めるもの」とした上で、権利制限の対象となる著作物について、送信可能化されたものと、「①電気通信回線に接続している特定送信装置の特定送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該特定送信装置の特定送信用記録媒体として加え、若しくは当該記録媒体を当該特定送信装置の特定送信用記録媒体に変換し、又は当該特定送信装置に情報を入力すること」、「②その特定送信用記録媒体に情報が記録され、又は当該特定送信装置に情報が入力されている特定送信装置について、電気通信回線への接続を行うこと」をされたものも含むようにするとしている。

 ここで、さらに要件を文部科学省令に委任しているが、関係省庁が多岐に渡るサーバー管理に関する要件を文化庁あるいは文部科学省単独で制定できる省令に委任することは適切でない。最低でも閣議決定を必要とする政令レベルで全ての要件を定めるべきである。

 また、全ての要件を政令で定めるものとして、技術の発展と様々なケースが考えられる通信技術に関して、今の政令案・省令案にあるようにその類型を列挙型で制限することは、技術の発展を阻害し、引いては文化の発展をも阻害する恐れがあり、決して適切でない。「特定送信」の要件は、「通信ネットワークにおいて第3者間の通信を仲介するための送信で自動公衆送信以外のもの」といった一般的な要件のみによるべきである。権利制限の対象となる著作物の行為についても、無意味な規制となる恐れが強い今の案では無く、「通信ネットワークにおいて第3者間の通信を仲介するための送信をし得るようにするための行為」といった一般的な要件のみによるべきである。

 なお、さらに言うなら、このような事項について政令委任自体適切では無く、本来、改正法において一般的な要件により規定しておくべきだったものである。

(3)Ⅳ 情報検索サービス関係
 政令案概要の本項目において、権利制限の対象となる検索サービス事業者について、「①情報の収集、整理及び提供をプログラムにより自動的に行うこと」、「②文部科学省令で定める方法に従い情報検索サービス事業者による情報の収集を禁止する措置がとられた情報を収集しないこと」、「③ネットワーク上の情報を収集しようとする場合において、既に収集した情報について②の措置がとられたことが判明したときは、当該情報の記録を消去すること」を基準とするとしている。

 ここで、情報の収集を禁止する措置の要件をさらに文部科学省令に委任しているが、関係省庁が多岐に渡る検索サービスに関する要件を文化庁あるいは文部科学省単独で制定できる省令に委任することは適切でない。最低でも閣議決定を必要とする政令レベルで全ての要件を定めるべきである。

 また、全ての要件を政令で定めるものとして、技術の発展と様々なケースが考えられる検索サービスに関して、今の省令案にあるようにその類型を列挙型で制限することは、技術の発展を阻害し、引いては文化の発展をも阻害する恐れがあり、決して適切でない。この要件は、「情報の収集、整理及び提供を自動的に行うこと、公正な慣行に従い情報の収集を禁止する措置がとられた情報を収集しないこと、収集した情報について後に情報の収集を禁止する措置が取られたことを知ったときは、当該情報の記録を消去すること」といった一般的な要件のみによるべきである。

 なお、さらに言うなら、このような事項について政令委任自体適切では無く、本来、改正法において一般的な要件により規定しておくべきだったものである。

(4)Ⅴ 電子計算機における著作物利用に伴う複製関係
政令案概要の本項目において、改正法第47条の8の電子計算機における著作物の利用に伴う複製の目的外利用について、受信者からの求めに応じ自動的に行われる送信の受信(項目には第49条第1項第9号と誤記されているが、改正法第49条第1項第7号の規定より。)に準じるものとして「著作物の送信の求めに応じてブラウザキャッシュの使用のために必要なものとして送信される信号の受信」を規定し、これらの受信を行わずに利用する場合は、このような行為を目的外利用として違法とするとしている。

 しかし、電子計算機上で使われる通信プログラムはウェブブラウザに限るものでは無く、一時キャッシュはほぼあらゆる通信において用いられている技術であることを考えると、このように単一のプログラムのみを挙げることは、いたずらに法的不安定性を増すだけである。類型を追加すれば良いというものでは無く、そもそも技術の発展が考えられるこのような事項について列挙型の制限をかけること自体決して行われるべきでないことである。この要件は、「電子計算機におけるキャッシュとして使用されるために必要なものとして送信される信号の受信」といった一般的な要件のみによるべきである。

 なお、さらに言うなら、このような事項について政令委任自体適切では無く、本来、改正法において一般的な要件により規定しておくべきだったものである。

(5)その他(ダウンロード違法化について)
 本意見募集は政令案を対象としており、法改正自体を対象とするものでは無いが、ここで、非道極まる民意無視が行われた前回の法改正についての意見も合わせ述べる。

 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、今年の6月12日に、「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」は私的複製に当たらないとする、いわゆるダウンロード違法化条項を含む、改正著作権法が成立し、来年の1月1日の施行を待つ状態である。

 しかし、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。改正法は未施行であるが、既に、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第一次提言案において、中国政府の検閲ソフト「グリーン・ダム」導入計画に等しい、日本レコード協会による携帯電話における著作権検閲の提案が取り上げられるなど、既に弊害は出始めている。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような著作権検閲に対する懸念は、文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houkoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このような著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化は始めからなされるべきではなかったものである。文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除するべきである。

(以下、省令案に対する提出パブコメ)

1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:略
4.連絡先:
5.項目名
(1)Ⅱ 著作物の表示の大きさ又は精度に係る基準
(2)Ⅲ 電子メールの送信その他の送信
(3)Ⅳ 送信可能化された情報の収集を禁止するための措置の方法

6.意見
(1)Ⅱ 著作物の表示の大きさ又は精度に係る基準

 省令案において、著作物の表示の大きさ又は精度に係る基準を定めるとしているが、政令案への意見に書いた通り、関係省庁が多岐に渡るオークションに関する要件を文化庁あるいは文部科学省単独で制定できる省令に委任することは適切でない。最低でも閣議決定を必要とする政令レベルで全ての要件を定めるべきである。

 また、政令案への意見で書いた通り、さらに技術の進展があると考えられ、ケース毎に様々な適切な対応があり得ると考えられるオークションのような分野において、画一的な技術的要件による限定を用いることは、今後の技術の発展を阻害することにつながる恐れが強く、引いては文化の発展をも阻害する恐れがあることを考え、オークションに関する権利制限については、政令において、一般的な要件のみにより規定するべきである。

(2)Ⅲ 電子メールの送信その他の送信
 省令案において、改正法第47条の5の特定送信に含まれる送信の列挙を行うとしているが、政令案への意見に書いた通り、関係省庁が多岐に渡るサーバー管理に関する要件を文化庁あるいは文部科学省単独で制定できる省令に委任することは適切でない。最低でも閣議決定を必要とする政令レベルで全ての要件を定めるべきである。

 また、政令案への意見で書いた通り、技術の発展と様々なケースが考えられる通信技術に関して、今の政令案・省令案にあるようにその類型を列挙型で制限することは、技術の発展を阻害し、引いては文化の発展をも阻害する恐れがあり、決して適切でないことを考え、「特定送信」は、政令において、一般的な要件のみにより規定するべきである。

(3)Ⅳ 送信可能化された情報の収集を禁止するための措置の方法
 省令案において、検索サービスの情報の収集を禁止する措置に関する類型の列挙を行うとしているが、政令案への意見に書いた通り、関係省庁が多岐に渡る検索サービスに関する要件を文化庁あるいは文部科学省単独で制定できる省令に委任することは適切でない。最低でも閣議決定を必要とする政令レベルで全ての要件を定めるべきである。

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2009年12月 4日 (金)

第203回:知財本部「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」に対する提出パブコメ

 第198回で少し紹介した、知財本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」(12月11日正午〆切)について、パブコメを書いて提出したので、ここに載せておく。項目だけなのでわかりづらいが、このパブコメもかなり危険な項目が並んでおり、決して見過ごせないものである。

 第198回で取り上げ、このパブコメにも書いた海賊版対策条約の話について、「P2Pとかその辺の話」でカナダのマイケル・ガイスト教授のブログ記事を翻訳・紹介されているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。この条約については、欧州インターネット・サービス・プロバイダー協会が明確に懸念を表明する文書(pdf)を公表するなど、既に国際的な波紋を呼びつつあるが、秘密裏に検討が進められるという不気味な状態が今なお続いている。

 また、警視庁から、12月11日〆切で、「インターネットカフェ等の対策に関する意見募集」が行われているので、念のためここにリンクを張っておく(internet watchの記事も参照)。

 後、著作権関係のパブコメとして、文化庁の「著作権法施行令の一部を改正する政令案」に関する意見募集(12月13日〆切。文化庁のリリース電子政府HP1意見募集要領1(pdf)著作権法施行令改正案概要(pdf)参照)、「著作権法施行規則の一部を改正する省令案」及び「著作権法施行令の一部を改正する政令案に基づく文化庁告示案」に関する意見募集(12月13日〆切。文化庁のリリース電子政府HP2意見募集要領2(pdf)著作権法施行規則改正案概要(pdf)電子政府HP3意見募集要領3(pdf)告示案概要(pdf)参照)が残っている。概要だけでパブコメをかけることからしてどうかと思うが、次回は、これらの意見募集に対する提出パブコメエントリになるだろうと思っている。

(以下、提出パブコメ)

氏名:兎園
個人・団体の別:個人
連絡先:

意見:
(概要)

インターネット上の著作権侵害対策に関し、以下のことを求める。
・日本レコード協会提案の、検閲に該当する日本版著作権グリーン・ダム計画を止めること。
・閣議決定により、警察庁などが絡む形で検討が行われている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討を進めることを担保すること。
・憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むこと。
・憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むこと。
・発信者情報の開示、リンクサイト等について、いたずらに今の過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うこと無く、間接侵害や著作権侵害幇助に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討し、著作権侵害とならないセーフハーバーの範囲を著作権法上きちんと確定すること。このセーフハーバーの要件において、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなる、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断の押しつけなどをしないこと。
・文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)を撤廃すること。ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化を検討しないこと。
・著作権に関する教育・啓発活動には、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の情報に関する国民の基本的な権利についての情報も含め、著作権の保護強化も行き過ぎればまた非人道的なものとなるということに関して啓発・周知を図ること。
・模倣品・海賊版拡散防止条約について、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設すること、ストライクポリシーを取ることを事実上プロバイダーに義務づけることといった、非人道的かつ危険な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけること。危険な規制強化につながる恐れが極めて強いプロバイダーの責任やDRM回避規制に関する規定はこの条約から除くべきであると、日本から各国に強く働きかけること。この条約の検討の詳細をきちんと公表すること。
・文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除すること。

(1)侵害コンテンツの迅速な削除を容易にする方策について
 まだ実施されてはいないが、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第一次提言案において、携帯電話においてダウンロードした音楽ファイルを自動検知した上でそのファイルのアクセス・再生制限を行うという、日本レコード協会の著作権検閲の提案が取り上げられており、今現在、このような著作権検閲の提案が政府レベルで検討されかねない非常に危険な状態にある。

 これも実施されていないと思うが、同じく、著作権検閲に流れる危険性が極めて高い、フランスで今なお揉めているネット切断型のストライクポリシー類似の、ファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対して警告メールを送付することなどを中心とする著作権侵害対策の検討が、警察庁、総務省、文化庁などの規制官庁が絡む形で「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」において勧められている。

 通信の秘密という基本的な権利の適用は監視の位置がサーバーであるか端末であるかによらないものであること、特に、機械的な処理であっても通信の秘密を侵害したことには変わりはないとされ、通信の秘密を侵害する行為には、当事者の意思に反して通信の構成要素等を利用すること(窃用すること)も含むとされていることを考えると、日本レコード協会が提案している著作権対策は、明らかに通信の秘密を侵害するものである。

 また、本来最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行うことは、それ自体プライバシー権を侵害するものであり、プライバシーの観点からも、このような措置は導入されるべきでない。

 最も基本的なプライバシーに属する個人端末中の情報について、内容を自動検知し、アクセス制限・再生禁止等を行う日本レコード協会が提案している違法音楽配信対策は、技術による著作権検閲に他ならず、憲法に規定されている表現の自由(情報アクセス権を含む)や検閲の禁止に明らかに反するものである。ここで、表現の自由や検閲の禁止という観点からも、このような対策は決して導入されてはならないものである。

 付言すれば、日本レコード協会の携帯端末における違法音楽配信対策は、建前は違えど、中国でPCに対する導入が検討され、大騒ぎになった末、今現在導入が無期延期されているところの検閲ソフト「グリーン・ダム」と全く同じ動作をするものであるということを政府にははっきりと認識してもらいたい。このような検閲ソフトの導入については、日本も政府として懸念を表明しており、自由で民主的な社会において、このような技術的検閲が導入されることなど、絶対許されないことである。

 このような提案は、通信の秘密や検閲の禁止、表現の自由、プライバシーといった個人の基本的な権利をないがしろにするものである。日本レコード協会が提案している、検閲に該当するこのような対策は絶対に導入されるべきでなく、また技術支援・実証実験等として税金のムダな投入がなされるべきではない。

 フランスで導入が検討された、警告メールの送付とネット切断を中心とする、著作権検閲機関型の違法コピー対策である3ストライクポリシーについても、この6月に、憲法裁判所によって、インターネットのアクセスは、表現の自由に関係する情報アクセスの権利、つまり、最も基本的な権利の1つとしてとらえられるものであるとして、著作権検閲機関型の3ストライクポリシーは、表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにするものとして、真っ向から否定された。フランスでは今なおストライクポリシーに関して揉め続けているが、日本においては、このようなフランスにおける政策の迷走を他山の石として、このように表現の自由・情報アクセスの権利やプライバシーといった他の基本的な権利をないがしろにする対策を絶対に導入しないこととするべきであり、閣議決定により、警察庁などが絡む形で検討が行われている違法ファイル共有対策についても、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討を進めることを担保するべきである。

 これらの提案や検討からも明確なように、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。今後は、このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を通信法に法律レベルで明文で書き込むことを検討するべきである。 

 今後は、国民の基本的な権利を必ず侵害するものとなる危険な技術による著作権検閲の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、このような教育や公開情報の検索を行うクローリングと現行のプロバイダー責任制限法と削除要請を組み合わせた対策などの、より現実的かつ地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。

(2)権利侵害者の特定を容易にするための方策(発信者情報の開示)について
 動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられ、第一審で敗訴した「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件等を考えても、今現在、著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にある。

 発信者情報の開示等について、いたずらに今の過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外であり、政府においては、今現在、著作権の間接侵害・侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるということをきちんと認識し、民事的な責任の制限しか規定していないプロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきである。

 さらに、著作権の間接侵害事件や侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうことを考えると、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならないセーフハーバーの範囲を著作権法上きちんと確定することが喫緊の課題である。

 セーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、今現在文化庁の文化審議会で検討されているように、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

 このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、税金のムダな浪費と技術の発展の阻害につながるだけの危険かつ有害無益な規制強化であり、絶対にあってはならない。プロバイダー責任制限法の検討においても、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討が進められなくてはならないことは無論のことである。

 なお、アクセスログの保存についても、プロバイダー責任制限との関係で検討されるべき話ではなく、それ自体で別途きちんと検討されなくてはならない話である。

(3)アクセスコントロールの不正な回避を防止するための方策について
 昨年7月にゲームメーカーがいわゆる「マジコン」の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴し、さらにこの2月にゲームメーカー勝訴の判決が出ていることなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。

 かえって、著作権法において、私的領域におけるコピーコントロール回避まで違法とすることで、著作権法全体に関するモラルハザードとデジタル技術・情報の公正な利活用を阻む有害無益な萎縮効果が生じているのではないかと考えられる。

 デジタル技術・情報の公正な利活用を阻むものであり、そもそも、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)は撤廃するべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。それ以前に、私法である著作権法が、私的領域に踏み込むということ自体異常なことと言わざるを得ない。

 また、知財計画2009で今年度にDRM回避規制に関する検討を行うこととされているが、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化は検討されるべきでない。

(4)損害賠償額の算定を容易にするための方策について
 法定損害賠償制度については、平成21年1月の文化庁の「文化審議会著作権分科会報告書」においても、「過去の裁判例における第114条の5等の規定による損害額の認定の状況を踏まえれば、同規定はある程度機能しているものと考えられ、現行法によってもなお対応が困難であるとするまでの実態が認められるには至っていない」とされている整理を変えるべきであるとするに足る状況の変化は無く、法定損害賠償制度などの損害賠償額の算定を容易にするための方策の検討はされるべきでは無い。

 さらに付言すれば、法定損害賠償制度は、アメリカで一般ユーザーに法外な損害賠償を発生させ、その国民のネット利用におけるリスクを不当に高め、ネットにおける文化と産業の発展を阻害することにしかつながっていないものである(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/22/news028.html参照)。日本においてこのような制度は絶対に導入されてはならない。

(5)侵害コンテンツへ誘導するリンクサイトについて
 リンクサイトの問題も著作権の間接侵害や侵害幇助の問題であるが、上の(2)で書いた通り、今現在、著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるのであり、このような問題について、いたずらに今の過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外である。政府においては、今現在、著作権の間接侵害・侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるということをきちんと認識し、民事的な責任の制限しか規定していないプロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきであり、さらに、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であることを考え、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならないセーフハーバーの範囲を著作権法上きちんと確定するべきである。

 上の(2)で書いた通り、このセーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、今現在文化庁の文化審議会で検討されているように、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことであり、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることも、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、税金のムダな浪費と技術の発展の阻害につながるだけの危険かつ有害無益な規制強化として絶対に行ってはならないことである。プロバイダー責任制限法の検討においても、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の国民の基本的な権利をきちんと尊重する形で検討が進められなくてはならないことは無論のことである。

(6)効果的な啓発活動について
 ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、有害かつ危険な規制強化の検討では無く、教育・啓発活動などのより現実的かつ地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待するが、違法コピー対策問題における権利者団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。

 違法コピー対策問題における権利者団体の主張はほぼ常に非常識かつ危険なものであると啓発・周知する必要性があることを考え、著作権に関する教育・啓発活動には、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の情報に関する国民の基本的な権利についての情報も含め、著作権の保護強化も行き過ぎればまた非人道的なものとなるということに関して啓発・周知を図るべきである。

(7)その他
(海賊版模倣品対策条約について)
 模倣品・海賊版拡散防止条約についての詳細は不明であるが、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設すること、行政機関の命令あるいは消費者との契約に基づき一方的にネット切断という個人に極めて大きな影響を与える罰を加えることを可能とする、ストライクポリシーと呼ばれる対策を取ることを事実上プロバイダーに義務づけることといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項が検討される恐れがある。他の国が、このような危険な条項をこの条約に入れるよう求めて来たときには、そのような非人道的な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけるべきである。

 さらに言えば、プライバシーや情報アクセスの権利、推定無罪の原理、弁護を受ける権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利の保障をきちんと確保し、ストライクポリシーのような非人道的な取り組みが世界的に推進されることを止めるため、この条約に「対審を必要とする通常の手続きによる司法当局の事前の判決なくしてエンドユーザーの基本的な権利及び自由に対してはいかなる制限も課され得ない」という条文を入れるべきであると、日本から各国に積極的に働きかけるべきである。

 また、プロバイダーの責任やDRM回避規制についても、この条約で検討される恐れがあるが、上の(2)、(3)、(5)で書いた通り、日本において、いたずらに今の著作権の間接侵害や侵害幇助のリスクから生じている過大な法的不安定性をさらに拡大するような法改正を行うことなど論外であること、このプロバイダーの責任に関するセーフハーバーの要件においてストライクポリシーなどを押しつけるようなことは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであること、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化はなされるべきでないことを考え、危険な規制強化につながる恐れが極めて強いプロバイダーの責任やDRM回避規制に関する規定は除くべきであると、日本から各国に強く働きかけるべきである。

 国民の情報アクセスに極めて危険な影響を及ぼしかねない条項の検討が行われている恐れが強い、この模倣品・海賊版拡散防止条約について、政府は、現状のような国民をバカにした概要だけで無く、その具体的な検討の詳細をきちんと公表するべきである。

(ダウンロード違法化について)
 文化庁の暴走と国会議員の無知によって、今年の6月12日に、「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」は私的複製に当たらないとする、いわゆるダウンロード違法化条項を含む、改正著作権法が成立し、来年の1月1日の施行を待つ状態である。

 しかし、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「事実を知りながら」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正によって進むのはダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードのみであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。改正法は未施行であるが、既に、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第一次提言案において、中国政府の検閲ソフト「グリーン・ダム」導入計画に等しい、日本レコード協会による携帯電話における著作権検閲の提案が取り上げられるなど、既に弊害は出始めている。

 そもそも、ダウンロード違法化の懸念として、このような著作権検閲に対する懸念は、文化庁へのパブコメ(文化庁HPhttp://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/houkoku.htmlの意見募集の結果参照。ダウンロード違法化問題において、この8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念は完全に無視された。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではない)や知財本部へのパブコメ(知財本部のHPhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keikaku2009.htmlの個人からの意見参照)を見ても分かる通り、法改正前から指摘されていたところであり、このような著作権検閲にしか流れようの無いダウンロード違法化は始めからなされるべきではなかったものである。文化庁の暴走と国会議員の無知によって成立したものであり、ネット利用における個人の安心と安全を完全にないがしろにするものである、百害あって一利ないダウンロード違法化を規定する著作権法第30条第1項第3号を即刻削除するべきである。

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2009年12月 2日 (水)

第202回:東京都青少年問題協議会答申素案に対する提出パブコメ

 前回取り上げた東京都の「青少年問題協議会」の答申素案(pdf)概要(pdf))に対するパブコメ(12月10日〆切。東京都のリリース参照)を書いて提出した。今まで書いて来た内容をまとめたものに過ぎないが、誰かの参考になるかも知れないので、ここに載せておく。

 繰り返しになるが、この東京都の青少年問題協議会の答申素案の内容はあまりにも非道いものであり、可能な限り多くの方にこのパブコメは出してもらいたいと私は思っている。

(以下、提出パブコメ)

1.氏名:兎園
2.連絡先:

3.意見概要

 全体として危険極まりない規制強化のことしか書かれていない本答申素案は全て白紙に戻すべきであり、このように有害かつ危険な規制強化の素案しか出せないような青少年問題協議会は即刻解散するべきである。

 特に、推奨携帯電話認定制度の創設、インターネット事業者に対する公的機関への通報義務等導入・メール検閲の都からの要請、携帯フィルタリング完全義務化、フィルタリングに関する第三者機関に対する都の介入、条例による児童ポルノの単純所持規制の導入、児童ポルノの単純所持規制導入の都から国に対する要請、ジュニアアイドル誌の販売等に関する自主規制の申し入れ、ジュニアアイドル誌の児童ポルノ法改正による規制の都から国への要請、極めて曖昧な概念に基づく漫画やアニメ、ゲーム等あらゆる架空の表現に対する規制の都から国への要請、児童ポルノ等を理由としたブロッキング、根拠の無い不健全図書指定の対象拡大、性行為に関する描写が含まれているということのみを理由とした漫画などあらゆる架空の表現物に対する包括的な規制の導入、青少年保護という条例の目的を大きく逸脱する、不健全図書指定に基づく都による改善勧告制度の導入に反対する。

 替わりに以下の4つのことを行うことを強く求める。
・青少年ネット規制法の廃止を都から国に要請すること。
・出会い系サイト規制法を改正前の形に戻すことを国に要請すること。
・児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキング、架空の表現の規制は極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような非人道的な規制は絶対に行うべきではないと国に要請すること。
・児童ポルノ規制に関して必要なことは、現行ですら曖昧にすぎるその定義の厳格化のみであると国に申し入れること。

 今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、情報に関する各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。

4.意見
(答申素案全体について)

 この答申素案はあまりにも非道く、地方自治体の報告書として到底読むに耐えないものであり、首都東京が人口が最も集中する日本最大の都市であることから、その有害かつ危険な影響は日本全国に及ぶと考えられ、私自身は東京都民ではないが、このような危険極まる動きを見かねてここに意見を提出するものである。

 ほぼ徹頭徹尾、規制を推進しようとする者の有害かつ危険な暴論・妄言を垂れ流したものに過ぎない、この答申素案は全て白紙に戻すべきであり、このように有害かつ危険な規制強化の素案しか出せないような青少年問題協議会は即刻解散するべきである。例え、今後、この種の問題に対する検討を再開する必要が出てくるとしても、都民の声がきちんと反映されるように、そのメンバー選定から細心の注意を払い、そのメンバー選定自体についてパブコメを募集してから検討を開始するべきである。

 この答申素案は、問題点の把握からほぼ全て間違っており、小手先の修正ではどうにもならない。全て白紙に戻されるべきと思っており、この部分だけを直せば良いというものでは全くないが、以下、特に問題のある方向性を指摘して行く。

(1)「第1章 ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について」(第3ページ以降)について
 第23ページの「(ア)青少年にとって安全で安心な機能を備えた携帯電話等を都が推奨する制度を創設する」において、「子どもの安全・安心の確保の観点から必要な機能のみを備えた携帯電話等について、事業者の申請に基づき都が推奨する制度を創設し(中略)推奨基準を策定する機関と認定する機関を別途のものとし、新規の携帯電話等の開発状況に応じて適切に基準を更新するとともに、中立な立場から認定を行う仕組みとする」と書かれているが、携帯電話においてニーズを反映した機能に関する競争環境がきちんと保たれているようであれば、このような推奨制度など全く必要ない。このような機関は単なる都庁の天下り先として機能し、その天下りコストが携帯電話端末に全て転嫁される恐れが強く、かえって、携帯電話端末における正常な競争が阻害され、利用者が真に必要とする安心・安全な端末の開発が妨げられ、全体として利用者の不利益となる恐れが極めて強い。このような制度は決して創設されるべきでない。

 第24ページから第25ページの「(ア)子どものネット・ケータイ利用状況を保護者が管理できるサービスや、青少年が安心して利用できる携帯電話等の提供を促すための要請を行う」において、「サイト運営事業者等、インターネット接続事業者、携帯電話等事業者等は、青少年が援助交際(売春)・買春相手の勧誘に係る書き込みや他人に害悪や迷惑を与えるメールの発信等の不健全な行為を行った場合は、削除のみならず、注意、勧告、利用制限、脱退措置、違約金の徴収、解約等を行うとともに、その事実を公的機関に情報提供する旨の規約又は約款を設けることが適当であり、その旨都から要請する」と書かれているが、公的機関への通報義務などは、安直に入れると過大な義務とリスクをインターネット上に発生させることになりかねないものであり、非常に慎重に検討しなければならない問題である。また、ここで行為としてメールの発信が含まれており、インターネット事業者にメールの検閲をやらせようとしていると見えるが、これは、通信の秘密や検閲の禁止などの憲法にも規定されている国民の基本的な権利を完全に侵害するものとならざるを得ない。このような対策においては、インターネットにおける責任とリスクの分配に関する慎重な検討が必要であり、現時点でこのような要請をするべきでは無い。特に、このような対策については、通信の秘密や検閲の禁止、プライバシーの権利などの憲法にも規定されている国民の基本的な権利を保障しつつ検討が進められなくてはならないのは無論のことである。

 第28ページの「(イ)青少年が使用する携帯電話等については、原則としてフィルタリングを解除できないようにするとともに、保護者によるフィルタリング解除の申出を受け入れるべき正当な事由を限定的に定め、容易にフィルタリングを解除できない仕組みを制度化する」において、「青少年が使用する携帯電話については、原則としてフィルタリングを解除できないようにすべきであり、(中略)事由を限定的に定め、携帯電話等事業者はこの事由に該当する場合のみ例外的に申出を受け入れる仕組みの制度化を、都において検討すべき」と書かれており、東京都は、子供のフィルタリングに関する選択権すら親から奪い、完全に携帯フィリタリングを義務化することを考えているようであるが、このような携帯フィルタリングの完全義務化は、親に子供に対する判断能力・責任能力は無いとするに等しく、完全に市民をバカにした施策であり、検討すらされるべきではない。

 この答申素案により都が導入を目論んでいるほど非道な完全義務化ではないが、携帯フィルタリング義務化は青少年ネット規制法(正式名称は、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」)にも規定されている。しかし、そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。この青少年ネット規制法は、一昨年から昨年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立したものであり、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。この青少年ネット規制法を超え、現実を無視した規制強化を推進しようとすることほど有害無益なことは無く、この点において、東京都がなすべきことがあるとしたら、青少年ネット規制法の廃止を都から国に要請することのみである。

 また、去年の出会い系サイト規制法の改正についても、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。この改正は、憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反し、表現の自由などの国民の最重要の基本的な権利をないがしろにするものであり、この点においても、東京都がなすべきことがあるとしたら、出会い系サイト規制法の改正前の形に戻すことを国に要請することのみである。

 第28ページから第29ページの「(エ)フィルタリングから除外されるべきサイトの基準について、実態に照らし、青少年が実際に被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者機関への要請等を行う」及び「(オ)第三者機関認定サイトを標準設定で閲覧可能にしてしまうフィルタリング方式の在り方について、携帯電話等事業者に対して見直しを要請する」において、「望ましいフィルタリングの水準に関する規定を条例に盛り込むなどして、フィルタリング開発事業者及び第三者機関に対して注意喚起を行う」こと、及び、都による「フィルタリング基準への見直し等」や第三者機関の「認定基準の見直し」の要請、「第三者機関の認定の有無のみにとらわれず、コミュニティ機能を有したサイトについてはフィルタリングにより遮断することを基本とし」、都によるブラックリスト方式のホワイトリスト方式化することを要請することなどが書かれている。しかし、国なり地方自治体なりが、こうして本来自由であるべき市民の情報アクセスに介入し、圧力をかけようとすることは、憲法に規定されている、民主主義の最重要の基礎である表現の自由を明らかに侵害することであり、これらのような要請は一切なされるべきではない。人間の行為から引き起こされる問題をコミュニケーションの場の所為にすることには、常に危険な論理のすり替えがあるのであって、このような規制強化は、そもそも最初からアプローチが完全に間違っている。誰であろうが、人と人とのコミュニケーションを止めることは最後できないことを思えば、本当に重要なことは、インターネットに散らばる膨大な情報を自ら取捨選択する情報リテラシー能力であって、この能力を高める本当の国民教育抜きにしては、いかなる規制も意味をなさない。上でも書いたように、フィルタリング規制に関して都がなすべきことは、青少年ネット規制法の廃止を要請することのみである。

 今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、地道な施策のみに注力する検討が進むことを期待する。

(2)「第2章 児童を性の対象として取り扱うメディアについて」(第35ページ以降)について
 本章の記載は全て、危険かつ有害な児童ポルノ規制の強化を目論む規制推進派の、表現規制の根拠とするに全く足らない暴論・妄言が垂れ流されているのみであり、特に、従来の児童ポルノに加えて、勝手に「児童を性の対象として取り扱う図書類」という曖昧な概念を作ったあげく、これも含めて規制の対象とするべきという印象操作が延々と続くが、このような危険かつ有害な主張を堂々と地方自治体の報告書案に載せたことについて、東京都には猛省してもらいたい。

 いちいち指摘することはできないが、第36ページで、単純所持規制が無いため、「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持し楽しむことは『自由』とされており、このことが児童を性の対象とする風潮を助長し、また、児童ポルノの被写体とされた児童・女性の著しい精神的虐待をもたらしている」と一方的に断定しているが、この主張に全く根拠は無い。ジュニアアイドル誌についても、「特に扇情的なものでない限り、(中略)現在のところ『児童ポルノ』に当たらないものと解釈されている」として、これが問題であるかの如き印象操作を行っているが、特に扇情的でも猥褻でもないアイドル誌に何の問題があるのか私にはさっぱり分からない。さらに、勝手に作った「児童を性の対象として取り扱う図書類」という曖昧な概念で一般的かつ網羅的に漫画やゲームなども含めあらゆる表現を規制をしようと、第37ページから第38ページで、「子どもを性的対象とする図書類は、青少年の健全な育成を阻害するものであるとともに、青少年を性欲の対象としてとらえる風潮や青少年の性的虐待を助長するものであることから、青少年が閲覧できなければそれでよく、一般に流通することには問題がないとは言えない」とやはり一方的に書いているが、このような強力効果論は、児童ポルノ以前に一般的なポルノの規制の根拠としてほぼ完全に否定されているものであり、一般的かつ網羅的な表現規制の根拠としてはほとんど一顧だに値しないものである。

 第40ページ以降の方策でも、単純所持規制について、狂ったキリスト教国の動きのみを取り上げ、一昨年の内閣府の調査を引き合いに出しているが、この調査は何の予備情報も与えずに規制するべきか否かと直接面談で聞くというひどいものであり、このような世論調査どころか世論操作といった方が良い結果や作られた国際動向に基づいて言えることは何一つない。

 第41ページから第42ページにおいて、「児童ポルノを製造・販売・所持してはならない旨を定める規定などを設けるべき」と、都のレベルで危険極まりない単純所持規制を勝手に行うとし、さらに、やはり検閲とならざるを得ず極めて危険な「児童ポルノのブロッキングの推進」を行い、「児童ポルノの単純所持について(中略)国会において早期に法律による犯罪化を実現することが必要であ」り、都と協議会から「政府及び国会による単純所持罪の実現に向けた迅速な取組を強く要望する」としているが、児童ポルノの単純所持規制やブロッキングは極めて危険な規制であり、どのレベルであろうと、決して導入されてはならないものである。

 閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 サイトブロッキングについても、天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。

 ジュニアアイドル誌についても、第43ページにおいて、「条例上、青少年に対する図書類等の販売等の自主規制の対象にこのようなジュニアアイドル誌を位置づけるとともに、自主規制団体に対し、このようなジュニアアイドル誌の販売等に関する自主規制を申し入れる」としているが、特に扇情的でも猥褻でもないものについて何の問題があるのか全く不明であり、表現に絡む話だけに、アイドル誌と児童虐待の関係についてより精査し、その関係が明確にされない限り、このような自主規制は申し入れられるべきでない。

 やはり第43ページにおいて、都と協議会から「ジュニアアイドル誌についての全般的な規制の在り方については、立法府において、児童ポルノ法や児童福祉法の改正、その他の法律の制定等により措置すること」を国に求めるとしているが、いたずらに児童ポルノの定義をさらに曖昧にすることは危険極まりないことであり、このような要請は決してなされるべきでは無い。児童ポルノの定義について、都から国に求めることがあるとすれば、現行ですら曖昧にすぎるその定義の厳格化のみである。

 第44ページで、漫画やアニメ、ゲーム等の一般的な表現の規制についても、日本弁護士連合会の明快な反論を一方的に切って捨て、やはり勝手に「子どもを強姦する、輪姦するなど極めておぞましい子どもに対する性的虐待をリアルに描いた漫画等の流通を容認することにより、児童を性の対象とする風潮が助長されることは否定できないであろう」と決めつけ、さらに、「児童を性的対象とした漫画等の多くは、幼児・小学生とされる児童が積極的に性的行為を受け入れる描写が見られ、このような漫画等を子どもに見せて性的虐待を行う危険性も大きい」とも書いているが、このような一部の者の単なる不快感に基づく全く根拠の無い印象のみを理由として、国民の最重要の基本権である表現の自由を制約することなどあり得ない。

 第44ページから第46ページにかけても、キリスト教国の狂った規制の例のみをあげ、国際潮流を勝手に作り、「少なくとも児童に対する性行為等を写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画等については、児童ポルノ法その他の法律により、可能な限り早期に何らかの規制を行うことが必要である。当協議会としてはこの点について、政府及び国会による迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである」として、一方的に漫画やアニメ、ゲーム等あらゆる表現を規制するべきとしているが、このような規制を正当化するに足る具体的根拠は答申素案全体を通じて全く何も示されていない。さらに言えば、「少なくとも児童に対する性行為等を写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画等」とは極めて曖昧であり、このような曖昧な概念に基づいて一般的かつ網羅的に表現を規制することなど絶対にあってはならないことである。

 児童ポルノ法だろうが他の法律によろうが、アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する児童の描写を理由とした規制の拡大は、現実の児童保護という目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。

 さらに、答申素案は、「児童を性的対象とする漫画等は、児童を性の対象として取り扱う、つまり児童を性的に搾取し、虐待することを是認する表現である点では、実在の児童を被写体とした児童ポルノと違いがない」と空想と現実をごっちゃにする狂気を垂れ流したあげく、第46ページで、「著しく性的感情を刺激するとまでは言えず、現行条例の基準では不健全図書指定の対象とできない漫画等であっても、(中略)著しく悪質なものについては、その内容そのものが、青少年の性に関する健全な判断能力その他青少年の健全な成長を阻害するものであると考えられることから、少なくとも、青少年のこれらの漫画等へのアクセスを遮断することが適当」として、「条例における不健全図書指定基準に、このような著しく悪質な内容の漫画等を追加するとともに、自主規制団体による表示図書制度においても、児童を性的対象とする内容の漫画等が対象とされるよう、働きかけを行う」としているが、著しく性的感情を刺激せず、猥褻とは考えられない表現が青少年の健全な成長を阻害するものであるとするに足る具体的根拠は何も無く、このような不健全図書指定の対象拡大はされるべきではないものである。

 第46ページで、「児童を性的対象とする内容の漫画等で、写真やビデオと同程度にリアルに描写したものや強姦等の著しく悪質なものは、青少年のアクセスの遮断のみならず、一般人のアクセスも制限する取組や、インターネットからの削除、ブロッキングの推進などの取組を関係業界に働きかけることが適当」としているが、漫画等について、青少年のアクセスの遮断のみならず、一般人のアクセスも制限する取組を行おうとしているなど、この現代に中世さながらの検閲の復活を目論むおぞましい取り組みとしか言いようが無く、このようなことは絶対になされるべきでない。

 また、第46ページから第47ページに、「ラブ・コミック」等について「自主規制を行うことについて、出版・流通業界に努力を求めることなどを検討すべき」と書かれているが、自主規制だろうと、性行為に関する描写が含まれているということだけをもって、漫画などの表現物に対して何らかの包括的な規制をかけようとすることは決して妥当ではない。

 さらに付言すれば、この答申素案は、キリスト教国を中心とした狂った規制の動向のみを取り上げ、あたかもそれが国際動向であるかの如き極悪非道な印象操作を行っているが、児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならない。児童ポルノ規制に関しては、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカで は児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることも見逃されるべきではない。例えば、アメリカだけを例にあげても、FBIが偽リンクによる囮捜査を実行し、偽リンクをクリックした者が児童ポルノがダウンロードしようとしたということで逮捕、有罪にされるという恣意的運用の極みをやっている(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080323_fbi_fake_hyperlink/参照)、単なる授乳写真が児童ポルノに当たるとして裁判になり、平和だった一家が完全に崩壊している(http://suzacu.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html参照)、日本のアダルトコミックを所持していたとして、児童の性的虐待を何ら行ったことも無く、考えたことも無い単なる漫画のコレクターが司法取引で有罪とされている(http://news.goo.ne.jp/article/wiredvision/nation/2009news1-19920.html参照)、児童ポルノ所持罪で起訴され、有罪とされようとしていた男性が、逮捕・起訴から11ヶ月後にどうにか児童ポルノを勝手に保存するウィルスの存在を証明し、かろうじて人生の完全破壊を免れた(http://abcnews.go.com/Technology/WireStory?id=9028516&page=1参照)などの数々の非人道的な例をあげることができ、欧米のキリスト教国家を中心とした狂った単純所持規制を含む児童ポルノ規制による、非人道的な事件の数々は枚挙に暇が無い状況である。単純所持規制を導入している西洋キリスト教諸国で行われていることは、中世さながらの検閲と魔女狩りであって、このような極悪非道に倣わなければならない理由は全く無い。

 しかし、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ており、アメリカにおいても、この1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、この2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることや、つい最近からのドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に13万筆を超える数の署名が集まったこと、ドイツにおいても児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、既に憲法裁判が提起されており(http://www.netzeitung.de/politik/deutschland/1393679.html参照)、総選挙の結果与党に入ったドイツ自由民主党の働きかけで、ネット検閲法であるとして児童ポルノブロッキング法の施行が見送られ、ブロッキングはせずにまずサイトの取り締まりをきちんと警察にやらせ、1年後にその評価をしてブロッキングの是非を判断することとされ(http://www.tomshardware.com/de/Zensur-Internet-ZugErschwG-Provider-Koalition,news-243605.html参照)、ドイツ大統領もこの児童ポルノサイトブロッキング法に対する署名を拒否したこと(http://www.zeit.de/politik/2009-11/sperre-gesperrt参照)なども注目されるべきである。スイスにおいて最近発表された調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制の根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、地方自治体の検討において、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。

 児童ポルノ等の規制について、都から国へ要請するべきことがあるとすれば、極めて危険かつ有害な単純所持規制等を含む児童ポルノ規制法改正案が自民・公明の両党によって今臨時国会に再び提出されるなど、民主主義の最大の基礎である情報の自由に関する個人の基本的な権利を侵害する動きが再び強まっていることを考え、このような動きを止め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキング、架空の表現の規制は極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような非人道的な規制は絶対に行うべきではないということのみである。

 児童ポルノ対策としては、単純所持規制・創作物規制といった危険極まりない規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、実際の児童の保護のための教育・訓練・啓発の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。

(3)「第3章 青少年の健全な成育を取り巻く環境整備について」について
 第50ページに、「短期間に不健全図書類の指定を繰り返し受ける図書類発行業者については、条例の表示に関する努力義務(条例第9条の2第1項)を果たしていないものと考えられる。このような業者に対しては、期間や指定回数等の基準を定めた上で、都から改善に係る勧告を行い、勧告に従わない場合には、社名等の公表を行うなどの手続を取ることができるよう、条例に規定を置くことを検討すべき」と書かれているが、都が一方的に悪書と認定する図書について、青少年のアクセスを超えて、その発行そのものを抑止することになるこのような施策は、青少年保護という条例の目的を大きく逸脱するものである。このような事実上の検閲は、確実に国民の基本的な権利である表現の自由に抵触することになるものであり、絶対に行われるべきでない。

 同第50ページに、「インターネット通信事業者、プロバイダー及びインターネットを利用した通信販売事業者は、ネット上の通信販売やオークションにおいて、青少年に相応しくないと思われる物品を扱っているサイトへのアクセスや閲覧をさせないための有効なシステム(ブロッキングシステム)の開発向上を推進することが必要」と書かれている。ここでブロッキングとはどのようなシステムを想定しているのか不明確であるが、一般的なプロッキングであるとすると、上でも書いた通り、いかなる目的であれ、どのようなやり方を取ろうと、検閲としかなりようが無いブロッキングシステムの開発などされるべきでは無い。

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