第201回:東京都青少年問題協議会答申素案に対するパブコメ募集
既に「チラシの裏(3周目)」や「表現の数だけ人生がある」で取り上げられているが、昨日、11月26日に、東京都の「青少年問題協議会」で検討されていた答申素案(pdf)(概要(pdf))が12月10日〆切でパブコメにかけられた(東京都のリリース参照)。このブログでは、地方自治体レベルの話はあまり取り上げていないのだが、この答申案はあまりにも非道いので、今回は、この東京都の報告書のことを取り上げる。
この東京都の「青少年問題協議会」は、そのメンバー(pdf)に、超御用学者の前田雅英教授や後藤啓二ECPAT/ストップ子ども買春の会顧問弁護士などが並んでいることからも分かるように、最初から出来レースであり、答申案もこのメンバーにしてこの結論ありの非道極まるものである。(この協議会の審議における、これらのメンバーによる数々の有害かつ危険な暴論・妄言については、「『反ヲタク国会議員リスト』メモ」の関連エントリ1、関連エントリ2や「弁護士山口貴士大いに語る」などをご覧頂ければと思う。)
パブコメのリリースに書かれている、
1 ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について
・青少年にとって安全・安心な携帯電話を、都が推奨する制度を創設すべきである。
・不健全な行為を意図的に行った青少年の保護者に対し、指導・勧告等を行い、責任の自覚を促すべきである。
・青少年が使用する携帯電話について、保護者が容易にフィルタリングを解除できないよう手続きを厳格化すべきである。
・フィルタリングから除外されるべきサイト基準について、実態に照らし、青少年が被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者認定機関への要請等を行うべきである。2 児童を性の対象として取り扱うメディアについて
・児童ポルノを始め、児童を性の対象として取り扱うメディアの根絶・追放のため、機運の醸成と環境の整備に努めるべきである。
・国に対し、児童ポルノの「単純所持」の処罰化を強く要望すべきである。
・いわゆる「ジュニアアイドル誌」へ子どもの売り込みを行った保護者に対する指導・勧告の仕組みを検討すべきである。
・児童を性の対象とする漫画等のうち、著しく悪質な内容のものを、追放の対象として明確化するとともに、「不健全図書」の指定対象に追加すべきである。
・児童・生徒の性行為を描写した、小・中学生を対象とする「ラブ・コミック」を、レーティング(推奨年齢の表示)の対象とすべきである。
というポイントからもすぐに分かるが、この報告書の全体的方向性には有害無益かつ危険な規制色しか無い。メンバーからして好き勝手ができるのだろうが、このような規制強化の根拠として並べられていることも、いつも規制推進派が喚き立てるデタラメばかりである。
この答申案(pdf)(概要(pdf))は、問題点の把握からおかしく、いちいち指摘することができないくらい問題だらけで、全て白紙に戻されるべきと私は思うが、それでも、特に危険なところをピックアップして行くと、まず、ネット・携帯規制が取り扱われている「第1章 ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について」で、第23ページに、
(ア)青少年にとって安全で安心な機能を備えた携帯電話等を都が推奨する制度を創設する。
(中略)
そこで、子どもの学齢に応じ、子どもの安全・安心の確保の観点から必要な機能のみを備えた携帯電話等について、事業者の申請に基づき都が推奨する制度を創設し、必要な場合において、保護者や学校が安心して子どもに持たせることができる安全な携帯電話等の普及を図ることが考えられる。この推奨制度については、推奨基準を策定する機関と認定する機関を別途のものとし、新規の携帯電話等の開発状況に応じて適切に基準を更新するとともに、中立な立場から認定を行う仕組みとすることが望ましい。
(後略)
と書かれているが(赤字強調は私が付けたもの。以下、引用部分について同じ)、携帯電話においてニーズを反映した機能に関する競争がきちんと行われているようであれば、このような推奨制度など全く必要ないだろう。利用者・事業者からテラ銭を巻き上げるためのみに無意味に携帯電話の認定機関を作ろうとするなど、東京都も自身の利権強化・天下り先確保に余念が無いと見える。(総務省へのパブコメ(例えば第183回参照)などで度々書いているが、これは、青少年ネット規制法によるフィルタリング義務化に乗じて健全サイト認定機関を作った総務省のやり口と全く同じである。国のレベルでも、地方自治体のレベルでも役所のやることは全く変わらない。)
第25ページには、
(ア)子どものネット・ケータイ利用状況を保護者が管理できるサービスや、青少年が安心して利用できる携帯電話等の提供を促すための要請を行う。
(中略)
また、サイト運営事業者等、インターネット接続事業者、携帯電話等事業者等は、青少年が援助交際(売春)・買春相手の勧誘に係る書き込みや他人に害悪や迷惑を与えるメールの発信等の不健全な行為を行った場合は、削除のみならず、注意、勧告、利用制限、脱退措置、違約金の徴収、解約等を行うとともに、その事実を公的機関に情報提供する旨の規約又は約款を設けることが適当であり、その旨都から要請する。
(後略)
と書かれているが、公的機関への通報義務などは非常に慎重に検討しなければならない問題であり、安直に入れると、過大な義務とリスクをインターネット上に発生させることになりかねないものである。さらに、対象行為にメールの発信まで入っているが、インターネット事業者にメールの検閲をやらせようとするなどメチャクチャだろう。東京都にとっては、通信の秘密や検閲の禁止などの憲法にも規定されている国民の基本的な権利はどうでも良いらしい。
第28ページには、
(イ)青少年が使用する携帯電話等については、原則としてフィルタリングを解除できないようにするとともに、保護者によるフィルタリング解除の申出を受け入れるべき正当な事由を限定的に定め、容易にフィルタリングを解除できない仕組みを制度化する。
ネット・ケータイについての知識が子どもに比して劣りがちな一般の保護者全てに対して、子どもに携帯電話等を利用させるに当たって最適なフィルタリング方法・水準の選定を求めることは難しいことから、保護者の知識や意識の在り様にかかわらず、子どもを守ることのできる仕組みが必要である。
このため、青少年が使用する携帯電話については、原則としてフィルタリングを解除できないようにすべきであり、例外的にフィルタリングの解除を行う場合についても、保護者が安易に子どもの言いなりとなって解除の申出を行うことのないよう、フィルタリング解除の申出をすることのできる正当な事由について、「子どもの就労・就学の必要上やむを得ない事情がある場合」等の事由を限定的に定め、携帯電話等事業者はこの事由に該当する場合のみ例外的に申出を受け入れる仕組みの制度化を、都において検討すべきである。
と書かれているが、東京都は、青少年のネット利用などによって生じた問題について「まず第一に責任を問われるべきはその青少年の保護者である」(答申案の第23ページ参照)としながら、子供のフィルタリングに関する選択権すら親から奪い、完全に携帯フィリタリングを義務化するつもりのようである。このような携帯フィルタリングの完全義務化は、この項目に書かれている通り、親に子供に対する判断能力・責任能力は無いとするに等しく、完全に市民をバカにした施策である。青少年ネット規制法における携帯フィルタリング義務化自体有害無益なものと私は思っているが(IT本部提出パブコメ参照)、それを超えて、こうした現実を無視した規制強化を推進しようとすることほど有害無益なことは無いだろう。
第28ページから第29ページには、
(エ)フィルタリングから除外されるべきサイトの基準について、実態に照らし、青少年が実際に被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者機関への要請等を行う。
第三者機関(EMA)による認定を受けたコミュニティサイト等を利用した青少年が犯罪に巻き込まれる等の被害が発生しているが、この背景には、第三者機関が考える「青少年にとって健全なサイト」と、実際に「青少年にとって安全なサイト」との違いがあるものと考えられる。例えばEMAでは、実際に会うことさえしなければ、子どもが見知らぬ異性とメールで交際することも健全なコミュニケーションとして認めるべきとの考えの下、たとえ出会いを目的としたコミュニティであったとしても、サイト運営者が書き込み内容に対して適正な監視や削除を実施するなど子どもの安全に十分配慮しているならばフィルタリングの対象とすべきではないという考え方をとる場合がある。
しかし、現実問題として、そのような認定サイトの利用を通じて実社会において被害に遭う青少年が発生している限り、保護者の立場からは、フィルタリングの対象とすべきではないかとの声も上がっている。
そこで、現在の条例においては、フィルタリングについては「青少年の健全な育成を阻害するおそれがある情報を取り除くため」との目的のみが規定され、フィルタリングの水準に関する規定がないことから、「実社会において青少年にとって違法・有害な行為が行われる機会を最小限に留めること」等、望ましいフィルタリングの水準に関する規定を条例に盛り込むなどして、フィルタリング開発事業者及び第三者機関に対して注意喚起を行う必要がある。
さらに、フィルタリング開発事業者や第三者機関がフィルタリングの対象外としていたサイトに起因して青少年が実際に被害・危険に遭った事例等をこれらの事業者等にフィードバックし、青少年が被害に遭わないために実効あるフィルタリング基準への見直し等を要請していく。
また、不適切な目的による青少年の検索や年齢詐称等が可能なまま改善の見られないコミュニティサイトについても、第三者機関の認定を受けてフィルタリングの対象から除外されることのないよう、認定基準の見直しを求める。(オ)第三者機関認定サイトを標準設定で閲覧可能にしてしまうフィルタリング方式の在り方について、携帯電話等事業者に対して見直しを要請する。
現在、携帯電話等のブラックリスト方式のフィルタリングでは、EMAの認定サイトについては閲覧可能となっている。これについては、アに述べたような状況があることから、携帯電話等事業者に対し、青少年が利用する携帯電話等については、第三者機関の認定の有無のみにとらわれず、コミュニティ機能を有したサイトについてはフィルタリングにより遮断することを基本とし、第三者機関認定サイトの中で保護者が閲覧しても良いと判断したサイトについてのみ、後から閲覧可能にできるような仕様にすることについて検討するよう、携帯電話等事業者に対し要請していく。
と書かれている。どうやら、東京都は、総務省が主導して作ろうとしている携帯フィルタリング利権に割り込み、規制の対象をあらゆるサイトに拡大したくて仕方がないようだが、そもそも、国なり地方自治体なりが、こうして本来自由であるべき市民の情報アクセスに介入し、圧力をかけようとすること自体、表現の自由に照らして極めて大きな問題がある話である。第50回、第54回で、警察庁の出会い系サイト規制強化について書いた通り、人間の行為から引き起こされる問題をコミュニケーションの場の所為にすることには、常に危険な論理のすり替えがあるのであって、このような規制強化は、そもそも最初からアプローチが完全に間違っているのである。誰であろうが、人と人とのコミュニケーションを止めることは最後できないことを思えば、本当に重要なことは、インターネットに散らばる膨大な情報を自ら取捨選択する情報リテラシー能力であって、この能力を高める本当の国民教育抜きにしては、いかなる規制も意味をなさないだろう。
第35ページ以降の児童ポルノ規制を取り扱っている「第2章 児童を性の対象として取り扱うメディアについて」は、ネット・携帯規制関連部分に輪をかけて非道い。この章では、従来の児童ポルノに加えて、勝手に「児童を性の対象として取り扱う図書類」という曖昧な概念を作ったあげく、これを規制の対象とするべきという印象操作が延々と続く。
いちいち指摘することはできないくらいだが、第35ページの現状と課題というところからして、「インターネットが本格的に普及して以降、わが国社会において児童を性の対象とする風潮が以前より強く見られる」、「他に提供する目的のないいわゆる『単純所持』は禁止されず、インターネットを中心におぞましい児童ポルノが蔓延している」、「ジュニアアイドル誌といわれる、幼児や小学生の女の子がポーズをとらされた半裸・水着姿の写真集が、(中略)未だ一般書店等においては普通に販売されている」、「子どもに対する強姦や輪姦、近親相姦などの過激な性的行為を描写した漫画、アニメやコンピュータ・グラフィックス(CG)を用いたリアルな表現によるゲーム等の創作物については、法律においては何らの規制もされておらず、一般書店やインターネット上で容易に購入できる状況にある」、「児童・生徒の性行為を描写した漫画が、小学生・中学生用に『ラブ・コミック』などとして大手出版社を含む多くの出版社から販売等されている。(中略)子どもに誤った性のイメージを植え付けている」等々と印象操作と不合理のオンパレードである。
第36ページでも、単純所持規制が無いため、「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持し楽しむことは『自由』とされており、このことが児童を性の対象とする風潮を助長し、また、児童ポルノの被写体とされた児童・女性の著しい精神的虐待をもたらしている」と根拠無く一方的に断定しているが、これは、いつもの規制推進派のタチの悪い強力効果プロパガンダをそのまま垂れ流したものである。ジュニアアイドル誌についても、「特に扇情的なものでない限り、(中略)現在のところ『児童ポルノ』に当たらないものと解釈されている」として、これが問題であるかの如き印象操作を行っているが、特に扇情的でも猥褻でもないアイドル誌に何の問題があるのか私にはさっぱり分からない。さらに、勝手に作った「児童を性の対象として取り扱う図書類」という曖昧な概念で一般的かつ網羅的に漫画やゲームなども含め表現を規制をしようと、第37ページから第38ページで、「子どもを性的対象とする図書類は、青少年の健全な育成を阻害するものであるとともに、青少年を性欲の対象としてとらえる風潮や青少年の性的虐待を助長するものであることから、青少年が閲覧できなければそれでよく、一般に流通することには問題がないとは言えない」とやはり一方的に書いているが、これも規制推進派が良く垂れ流すタチの悪い強力効果プロパガンダであって、表現規制の根拠としてはほとんど一顧だに値しないものである。
第40ページ以降の児童ポルノに対する方策も、危険かつデタラメ極まる話ばかりであり、単純所持規制について、例の如く狂ったキリスト教国の動きのみを取り上げ、一昨年の内閣府の印象操作調査を引き合いに出して、印象操作を行ったあげく、第41ページから第42ページで、
児童ポルノを含めた児童を性的対象とする行為及びこれを助長する行為の追放・根絶に向けた機運の醸成と環境の整備に努める責務を都の責務として規定するとともに、都民、事業者についても、子どもを性の対象として取り扱う風潮の根絶に取り組むべきことや、児童ポルノを製造・販売・所持してはならない旨を定める規定などを設けるべきである。そして、これを受け、児童ポルノを青少年から遮断することはもちろん、一般人からも遮断する取組、インターネット上からの児童ポルノ画像の削除とブロッキングを推進する取組、児童に対し危険の所在とこれを回避する術を具体的に教える被害予防教育・啓発、都民に対し児童ポルノを「見ない、売らない、作らない」ことを訴求する啓発等を強力に推進することが必要である。
さらに、児童ポルノ法においては、国及び地方公共団体は、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のため、調査研究の推進、保護を行う者の資質の向上、関係機関の連携協力体制の強化、民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めることを規定している(第16条)。
これを踏まえ、都においては、児童ポルノに係る被害者の支援に関する都の責務を条例等において明らかにするとともに、児童やその関係者が児童の性に関する被害やトラブルについて相談しやすい体制の確保や、相談に基づく心のケア、プロバイダ等への削除依頼要請の代行や削除依頼方法の教示、ネット上における児童ポルノの削除や児童ポルノのブロッキングの推進に関する事業者等への働きかけ等への積極的な取組みを推進すべきである。
児童ポルノの単純所持については、その処罰化が必要であるが、国際的要請に対する対応が求められている問題であること、インターネット上の氾濫を効果的に規制するためには都内のみの規制では実効性が薄いことなどを踏まえ、国民的合意の下で全国一律に実施されることが適当であり、国会において早期に法律による犯罪化を実現することが必要である。なお、この場合において、意図せざる所持が処罰の対象とならないよう配慮することは当然であり、また、規制の対象が現行児童ポルノ法よりも狭まることのないよう留意することが必要である。
このため、当協議会は、政府及び国会による単純所持罪の実現に向けた迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである。
と、都のレベルで危険極まりない単純所持規制を勝手に行い、国にも単純所持罪の導入を求め、やはり都のレベルでも検閲に他ならないブロッキングを推進するとしているのである。
このブログでは既に何度も繰り返していることだが、閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。
児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。
また、サイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。
ジュニアアイドル誌にしても、答申案の第43ページに、
条例上、青少年に対する図書類等の販売等の自主規制の対象にこのようなジュニアアイドル誌を位置づけるとともに、自主規制団体に対し、このようなジュニアアイドル誌の販売等に関する自主規制を申し入れるほか、不健全図書指定審査等の過程や、関係機関からの情報提供等により、都がこのような保護者を把握した場合、保護者に対して調査・指導・勧告等を行うことができる権限を条例に規定することが考えられる。
一方、ジュニアアイドル誌についての全般的な規制の在り方については、立法府において、児童ポルノ法や児童福祉法の改正、その他の法律の制定等により措置することが適当であることから、当協議会においては、このような取組についても政府及び国会による迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである。
と書かれており、ここで、児童ポルノ法の改正についてわざわざ触れられているが、いたずらに児童ポルノの定義をさらに曖昧にすることは危険極まりないことである。特に扇情的でも猥褻でもないものについて何の問題があるのか私にはさっぱり分からない。また、自主規制についても、表現に絡む話だけに、自主規制団体に自主規制を申し入れる前に、アイドル誌と児童虐待の関係についてより精査が必要だろう。(児童福祉の観点から、児童福祉法あるいは労働基準法に基づいて、写真モデル業における児童の虐待・就労を止めるという話なら、まだ分からなくもないが、今の国と地方自治体の議員や役人のレベルから考えて、そうした児童のケアが中心となる地道な方向に話が進むとは到底思えない。)
さらに、漫画やアニメ、ゲーム等の規制についても、日本弁護士連合会の明快な反論を一方的に切って捨て、やはり勝手に「子どもを強姦する、輪姦するなど極めておぞましい子どもに対する性的虐待をリアルに描いた漫画等の流通を容認することにより、児童を性の対象とする風潮が助長されることは否定できないであろう」(第44ページ)と決めつけているが、規制推進派の脳内を除き、このような風潮が助長されているのを私は全く知らない。さらに、「児童を性的対象とした漫画等の多くは、幼児・小学生とされる児童が積極的に性的行為を受け入れる描写が見られ、このような漫画等を子どもに見せて性的虐待を行う危険性も大きい」(第44ページ)らしいが、このような危険性もやはり私の知るところでは無い。規制推進派の狂った妄想が堂々と役所の報告書に載せられる方がよほど危険なことだろう。
第44ページから第46ページにかけても、キリスト教国の狂った規制の例のみをあげ、国際潮流を勝手に作り、
少なくとも児童に対する性行為等を写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画等については、児童ポルノ法その他の法律により、可能な限り早期に何らかの規制を行うことが必要である。当協議会としてはこの点について、政府及び国会による迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである。
と、漫画やアニメ、ゲーム等も規制するべきとしているが、このような規制を正当化するに足る根拠は相変わらず全く何も示されていないのである。(そもそも、「写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画等」とは何のことだか良く分からないが、この報告書全体が、規制推進派の妄言の垂れ流しであること、この前段で、番外その18で取り上げた、表現の自由に対する重大な侵害に他ならないアダルトゲームの自主規制の動きについて「限定的」と一方的に印象操作を加えていることなどを考えても、リアルでない通常のデフォルメによる漫画・アニメ・ゲームなどあらゆる表現を対象としていると考える方が妥当だろう。)
やはりこのブログでは何度も繰り返していることだが、児童ポルノ法だろうが他の法律によろうが、その他の法律による、アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大は、現実の児童保護という目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。
さらに、「児童を性的対象とする漫画等は、児童を性の対象として取り扱う、つまり児童を性的に搾取し、虐待することを是認する表現である点では、実在の児童を被写体とした児童ポルノと違いがない」とデタラメな暴論を吐いたあげく、国への要望に加えて、東京都も、表現の自由に関する個人の基本的な権利などどうでも良く、自分たちの権限拡大さえできれば良いと思っているのだろう、第46ページで続けて、
例えば、著しく性的感情を刺激するとまでは言えず、現行条例の基準では不健全図書指定の対象とできない漫画等であっても、児童を性的対象とする内容のもの、特に強姦(児童が幼児や小学生であるとの設定の場合には、性行為への合意があっても刑法の強姦罪に当たる年齢であることから、合意に関する描写の有無にかかわらず、包括的に強姦に当たるとみなされよう)、近親相姦等、著しく悪質なものについては、その内容そのものが、青少年の性に関する健全な判断能力その他青少年の健全な成長を阻害するものであると考えられることから、少なくとも、青少年のこれらの漫画等へのアクセスを遮断することが適当であると考えられる。
このため、条例における不健全図書指定基準に、このような著しく悪質な内容の漫画等を追加するとともに、自主規制団体による表示図書制度においても、児童を性的対象とする内容の漫画等が対象とされるよう、働きかけを行うことが必要である。
また、児童を性的対象とする内容の漫画等で、写真やビデオと同程度にリアルに描写したものや強姦等の著しく悪質なものは、青少年のアクセスの遮断のみならず、一般人のアクセスも制限する取組や、インターネットからの削除、ブロッキングの推進などの取組を関係業界に働きかけることが適当である。
と、訳の分からない理屈で、不健全図書指定の対象を広げようとしている。特に、最後に、漫画等について、青少年のアクセスの遮断のみならず、一般人のアクセスも制限する取組を行おうとしているなど、この現代に中世さながらの検閲の復活を目論む規制推進派の本音がだだ洩れになっているとしか言いようが無い。
また、「ラブ・コミック」という言い方は始めて知ったが、自主規制だろうと、性行為に関する描写が含まれているということだけをもって、漫画などの表現物に対して何らかの包括的な規制をかけようとすることは決して妥当ではないだろう。
最後の「第3章 青少年の健全な成育を取り巻く環境整備について」では、不健全図書指定による規制の強化と、インターネットを利用した不健全図書類等の売買等をできないように、青少年に相応しくないと思われる物品を扱っているサイトへのアクセスや閲覧をさせないための有効なシステム(ブロッキングシステム)の開発の推進が言われているが、これらの規制強化は、上の不健全図書の対象拡大と合わせ考えると、青少年のアクセスを超えて、一般人の情報アクセスに多大の制限を加えることになるのではないかと私は懸念する。(第50ページの具体的方策で、フィルタリングでは無く、ブロッキングと書かれていることは偶然では無いだろう。到底成功し得ないだろうが、東京都は、インターネットを対象とした網羅的な検閲の実施を目論んでいるとしか思えない。)
とにかく、いちいち指摘しきれないほど、この東京都の答申案は問題だらけであり、全体として危険極まりない規制強化の方向性しか打ち出されていない。国のレベルでも、地方自治体のレベルでもやっていることに違いは無い、東京都は、今、その利権官庁としての牙を剥き出しにし、市民の生活と安全を完全にないがしろにして自身の利権・権限強化のみを図ろうとして来ているのであり、可能な限り多くの都民の方に、このパブコメは出してもらいたいと私は思っている。
私のパブコメは提出次第ここに載せたいと思っており、次回は、この提出パブコメエントリになるだろうと思う。
(2009年11月27日夜の追記:誤記を直し、文章に少し手を入れた。また、「『反ヲタク国会議員リスト』メモ」、「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」、「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」でも、このパブコメのことが取り上げられているので、ここにリンクを追加しておく。)
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コメント
こんばんわ。
前回の東京都の青少年保護育成条例の強化の結果を
以下のページに報告しました。
http://like700.hp.infoseek.co.jp/53.html#ken-filter
その結果、東京都の強姦犯罪が増えました。
今回、それを強化したら、どのくらい強姦犯罪が増えるのでしょうか。
投稿: ランナー | 2009年12月20日 (日) 00時24分
ランナー様
度々コメント・情報ありがとうございます。
ランナー様の統計のまとめは重要なデータだと思いますが、他のファクターが多すぎるため、正であれ負であれ、情報規制と犯罪との間に何らかの相関があるとすることに対して、私自身は常に極めて懐疑的です。
だからこそ、このような規制強化で実質的に犯罪が減るということは無いだろうと私も思っており、このような規制強化は有害無益なものと、このパブコメの結果を受けて、東京都がどうするのかは今後も注意して行かなければならないと思っています。
投稿: 兎園 | 2009年12月21日 (月) 21時19分
>他のファクターが多すぎるため、正であれ負であれ、情報規制と犯罪との間に何らかの相関があるとすることに対して、
>私自身は常に極めて懐疑的です。
RESをどうもありがとうございます。
そうですね、相関関係があることを見つけてても、
どういうファクター(隠れたファクターが重要なポイントであることもある)
が原因で何が起こったかは、相関関係だけからは、何も証明することができませんね。
相関関係は、何かを考えるヒントとして参考にすれば良いだろうと思います。
PS: 先に紹介したページの4番目のグラフに、神奈川県の強姦件数の推移のグラフを追加しておきました。
http://like700.hp.infoseek.co.jp/53.html#ken-filter
神奈川県では、2008年から強姦件数が増加に転じたようです。
青少年を深夜に外出させない「戒厳令」をしいて、確実に強姦を減らせる施策を実施したにもかかわらずです。
それ以外の、表現規制の施策が、青少年の健全育成に、「戒厳令」の効果を打ち消すほどの害を及ぼしているのではないかと考えます。
投稿: ランナー | 2010年1月 3日 (日) 09時11分