第200回:「新たな人身取引対策行動計画(仮称)」(案)に対する提出パブコメ
前回取り上げた内閣官房の「新たな人身取引対策行動計画(仮称)」(案)に対する意見募集(12月3日〆切)について、パブコメを書いて提出した。今まで書いてきたパブコメをまとめただけの内容だが、誰かの参考になるかも知れないので、提出したパブコメをここに載せておく。
(2009年11月26日の追記:今日、東京都の「青少年問題協議会」で検討されていた答申素案(pdf)(概要(pdf))がパブコメにかけられた(東京都のHP参照)。このブログでは、地方自治体レベルの話はあまり取り上げていないのだが、この答申案はあまりにも非道いので、次回はこの東京都の報告書のことを取り上げたいと思う。)
(以下、提出パブコメ)
1.氏名:兎園
2.連絡先:
3.意見概要
・第3ページ「③ 児童の性的搾取に対する厳正な対応」の項目から、例え児童ポルノに対してであろうと、情報に対するものとして極めて不適切な「ゼロ・トレランス(不寛容)」の語を削除してもらいたい。
・政府・与党にあっては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。
・児童ポルノ対策について、有害無益な規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、社会啓発・広報活動、児童の保護に関する教育・訓練の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。
4.意見及び理由
(意見)
・第3ページ「③ 児童の性的搾取に対する厳正な対応」について
本項目において、「児童に対する性的搾取について、「ゼロ・トレランス(不寛容)』の観点から対処することとし、児童買春・児童ポルノ事犯に対しては、国外犯規定の適用を含め、児童買春・児童ポルノ禁止法違反等により徹底的に取り締まるとともに、より一層厳正な科刑の実現に努める。また、児童ポルノ等の排除に向けた取組を強化する」と書かれているが、例え児童ポルノに対するもの、情報そのものに対する観点として極めて不適切な「ゼロ・トレランス(不寛容)の観点から対処する」という記載を削除してもらいたい。
極めて危険かつ有害な単純所持規制等を含む児童ポルノ規制法改正案が自民・公明の両党によって今臨時国会に再び提出されるなど、民主主義の最大の基礎である情報の自由に関する個人の基本的な権利を侵害する動きが再び強まっていることを考え、このような動きを止め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、この項目に、「児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定し、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかける。」との記載を追加してもらいたい。
児童ポルノ対策としては、単純所持規制・創作物規制といった有害無益な規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、社会啓発・広報活動、児童の保護に関する教育・訓練の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。
(理由)
例えそれが児童ポルノに関するものであろうと、情報そのものに対して「ゼロ・トレランス」があり得ると、絶対に禁止されるべき情報・思想があるとすることは、新たに思想犯罪を作り、この現代に恐るべき思想警察・異端審問を復活させることを認めるに等しく、このように情報そのものに対する観点として極めて不適切な「ゼロ・トレランス(不寛容)」の語は、政府の公式の行動計画に使用されてはならないものである。
この「ゼロ・トレランス」という語は、極めて危険かつ有害な、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制を推進するために、規制推進派によって便利に使われているものであるが、閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。
児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。
アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。
単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。
また、サイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。
児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。
さらに付言すれば、児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならない。児童ポルノ規制に関しては、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカでは児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることも見逃されるべきではない。例えば、アメリカでは、FBIが偽リンクによる囮捜査を実行し、偽リンクをクリックした者が児童ポルノがダウンロードしようとしたということで逮捕、有罪にされるという恣意的運用の極みをやっている(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080323_fbi_fake_hyperlink/参照)、単なる授乳写真が児童ポルノに当たるとして裁判になり、平和だった一家が完全に崩壊している(http://suzacu.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html参照)、日本のアダルトコミックを所持していたとして、児童の性的虐待を何ら行ったことも無く、考えたことも無い単なる漫画のコレクターが司法取引で有罪とされている(http://news.goo.ne.jp/article/wiredvision/nation/2009news1-19920.html参照)などの、極悪かつ非人道的な例が知られている。つい最近も、カナダで、現実に何の被害も発生しておらず、本来表現の自由として許容されるべきものであるにも関わらず、架空のイラストをダウンロードした青年が、禁固3月、執行猶予18月の有罪判決を受けるという事件が起こり(http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20091116/dms0911161145000-n2.htm参照)、アメリカで、児童ポルノ所持罪で起訴され、有罪とされようとしていた男性が、逮捕・起訴から11ヶ月後にどうにか児童ポルノを勝手に保存するウィルスの存在を証明し、かろうじて人生の完全破壊を免れたという事件が起こるなど(http://abcnews.go.com/Technology/WireStory?id=9028516&page=1参照)、欧米のキリスト教国家を中心とした狂った単純所持規制を含む児童ポルノ規制による、非人道的な事件の数々は枚挙に暇が無い状況である。単純所持規制を導入している西洋キリスト教諸国で行われていることは、中世さながらの検閲と魔女狩りであって、このような極悪非道に倣わなければならない理由は全く無い。
しかし、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ており、アメリカにおいても、この1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、この2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることや、つい最近からのドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に13万筆を超える数の署名が集まったこと、ドイツにおいても児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、既に憲法裁判が提起されており(http://www.netzeitung.de/politik/deutschland/1393679.html参照)、総選挙の結果与党に入ったドイツ自由民主党の働きかけで、ネット検閲法であるとして児童ポルノブロッキング法の施行はひとまず見送られ、ブロッキングはせずにまずサイトの取り締まりをきちんと警察にやらせ、1年後にその評価をしてブロッキングの是非を判断することとされたこと(http://www.tomshardware.com/de/Zensur-Internet-ZugErschwG-Provider-Koalition,news-243605.html参照)なども注目されるべきである。スイスにおいて最近発表された調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制の根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。
極めて危険かつ有害な単純所持規制等を含む児童ポルノ規制法改正案が自民・公明の両党によって今臨時国会に再び提出されるなど、民主主義の最大の基礎である情報の自由に関する個人の基本的な権利を侵害する動きが再び強まっているが、このような動きを止め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、政府において、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定し、かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけるべきである。
児童ポルノ対策としては、単純所持規制・創作物規制といった有害無益な規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、社会啓発・広報活動、児童の保護に関する教育・訓練の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。
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