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2009年11月17日 (火)

第198回:模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)のインターネット関連部分に関するリーク資料

 この11月4日から6日にかけて模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の国際会合が開かれた(経産省HPに載っている会合概要(pdf)参照)。この概要ではさっぱり分からないのだが、この条約についても相変わらず非常に危険な話が秘密裏に進んでいるようである。

 この海賊版対策条約については、カナダのオタワ大学教授のマイケル・ガイスト氏がそのブログにおいて非常に強い警鐘を発しているので、興味のある方は是非ご覧頂ければと思うが、最近のエントリで取り上げられている9月30日付けのEUの資料(pdf)(なお、Wikileaksにも同じ資料(pdf)が載っている)は、この条約のインターネット関連部分でどのようなことが検討項目とされているのか、この条約がいかに危険であるかを示す非常に重要な資料だと思うので、ここで取り上げておきたいと思う。(他にも、EEFの記事1記事2TorrentFreakの記事なども参照。英語が分かれば、経緯も含めて問題点を分かり易く解説されているガイスト教授のビデオ解説も必聴である。)

 恐らく偽物ではないと思うが、この資料は、9月22から24日に行われたアメリカ・EU間の会合でアメリカがEUに口頭で提示した、海賊版対策条約のインターネットに関する部分の案を、EUが各加盟国に説明するため作ったもののようであり、具体的には、以下のような項目が並んでいる。(他の部分も含めての概要資料については、第167回参照。)

Section 1: Baseline obligations inspired by article 41 TRIPs, imposing adequate and effective legal remedies, as provided in relevant sections of ACTA (civil, penal), for internet infringements.

Section 2:
ACTA members have to provide for third-party liability.

Section 3: Safe-harbours for liability regarding ISPs, based on Section 512 of the Digital Millennium Copyright Act (DMCA), including a preamble about the balance between the interests of internet service providers (ISPs) and right-holders. See also KORUS Chapter 18.10.30. According to US, the language proposed is somewhere in the "middle" between the WIPO internet treaties, KORUS and the DMCA, which probably means that it is more detailed than the first but not as specific as the latter.

ISPs are defined as in Section 512 (k) of DMCA

On the limitations from 3rd party liability: to benefit from safe-harbours, ISPs need to put in place policies to deter unauthorised storage and transmission of IP infringing content (ex: clauses in customers' contracts allowing, inter alia, a graduated response). From what we understood, the US will not propose that authorities need to create such systems. Instead they require some self-regulation by ISPs.

This Section 3 should also contain "broad" provisions regarding notice-and-takedown mechanisms.

Section 4: Will focus on technical protection measures (TPMs). Language inspired by US-Jordan Free-Trade Agreement (article 4.13), as well as by the WIPO Internet Treaties (articles 11 WCT and 18 WPPT):
- Parties to provide adequate civil and criminal remedies that are specific to TPM infringements, i.e. treat these as separate offenses form "general" copyright infringements.
- TPM infringements would be: (i) prohibition of circumvention of access controls and; (ii) prohibition of manufacture and trafficking of circumventing DRM devices.
- There will be exceptions to these prohibitions available to ACTA members.
- "Fair use" will not be circumscribed.
- There will be no obligation for hardware manufacturers to ensure interoperability of TPMs.

Section 5: Will focus on Rights' Management. Language inspired by US-Jordan Free-Trade Agreement (article 4.13), as well as by the WIPO Internet Treaties (articles 11 WCT and 18 WPPT):
- Parties to provide adequate civil and criminal remedies for rights' management infringements.
- Right' management infringements would be stripping (works?) of rights' management information

第1条:インターネットにおける侵害に関する、ACTAの(刑事的・民事的)関連各条に規定されている通り、適切で効果的な法的救済を課すものである、TRIPs協定第41条(訳注:TRIPs協定については特許庁HPの翻訳参照)から来る基本的な義務を規定。

第2条:ACTA加盟国は第3者責任に関する規定を整備しなければならない。

第3条:インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と権利者の利益のバランスに関する前文を含め、アメリカのデジタルミレニアム著作権法(DMCA)(訳注:アメリカ著作権法については著作権情報センターHPの翻訳参照)の第512条に基づく、ISPの責任に関するセーフハーバーを規定。米韓FTA(KORUS)の第18.10.30条も見ること(注:米韓FTA全文(英語)(pdf)参照)。アメリカによると、提案されている話は、インターネット関連WIPO条約とKORUSとDMCAの「中間」のものとのことだが、これは、最初のものよりは詳細だが、最後のものよりは具体的でないということを意味しているようである。

ISPは、DMCAの第512条(k)のように定義される。

第3者責任の制限も規定される:セーフハーバーを享受するためには、(例えば、特に、消費者との契約によりストライクポリシーを可能とするなど)知的財産侵害コンテンツの違法な蓄積と送信を抑止する対策を取らなくてはならないとすること。我々の理解では、各政府がこのようなシステムを導入しなければならないとすることをアメリカは求めようとしていない。その代わりに、彼らは何かしらのISPによる自主規制を求めている。

この第3条は、ノーティス・アンド・テイクダウン制に関する「幅広い」規定も含む。

第4条:本条は、技術的保護手段を取り扱う。話は、米ヨルダンFTA(第4.13条)(注:米ヨルダンFTA全文(英語)(pdf)参照)並びに、インターネット関連WIPO条約(WIPO著作権条約(WCT)第11条とWIPO実演家・レコード条約(WPPT)第18条)(訳注:著作権情報センターHPのWCTの翻訳とWPPTの翻訳参照)から来ている:
−加盟国は、「一般的」著作権侵害とは別の侵害として取り扱われる、技術的保護手段の侵害に対する適切な民事的・刑事的救済を規定する。
−技術的保護手段の侵害とは、(ⅰ)アクセスコントロールの回避の禁止と;(ⅱ)DRM回避装置の製造と取引の禁止である。
−ACTAの加盟国には、これらの規定に対する例外が用意される。
−「フェアユース」は制限されない。
−技術的保護手段の相互運用性を確保するため、ハードウェア製造業者に対する義務は含まれない。

第5条:本条は、権利管理を取り扱う。話は、米ヨルダンFTA(第4.13条)並びに、インターネット関連WIPO条約(WCT第11条とWPPT第18条)から来ている:
−加盟国は、権利管理侵害に対する適切な民事的・刑事的救済を規定する。
−権利管理侵害とは、権利管理情報の除去(をした著作物?)である。

 いつものようにアメリカは自国の制度を他人に押し付けるツールとしてこの条約も利用しようとしているようだが、アメリカでも権利者団体による激しいロビー攻勢があると見え、中でも、この条約で非人道的なストライクポリシー(上で「ストライクポリシー」と訳しているが、直訳すると「段階的レスポンス」である。)を世界的にISPに押しつけしようとしている点は非道極まる。(自主規制と称しているが、セーフハーバーの要件として包括的にストライクポリシーを強要するなら同じことである。)

 あっさりと書かれているが、第3者責任に関する規定も非常にタチが悪い。第3者責任とは、民事であれば間接侵害、刑事であれば著作権侵害幇助の責任であり、その不明確性から、インターネット利用の法的安定性が著しく損なわれているという状態に今現在あると、下手な形で規定を作るとさらに危険な方向へとバランスを崩すことになるということは常々パブコメなどで指摘していることだが、残念ながら、あまり政策決定のレベルで理解されているとは思えないところである。

 また、これだけでは何とも言えないが、DRM回避規制に関しても、日本政府のことなので、放っておくとまた危険な規制強化を言い出しかねないだろう。

 上でリンクを張った今回の会合概要で「交渉参加国はデジタル環境における権利の行使、刑事上の執行について有意義な議論を行いました」と書かれているが、今の日本政府にとっての「有意義」は、国民にとっての「危険」と言い換えて良いと思っているくらい、今の政府を私は全く信用していない。条約交渉であり、そう簡単に進むとは思えないが、アメリカはこの資料に書かれているような危険な項目を俎上に乗せて来たことだろうし、どうせポリシーロンダリングで日本政府代表はロクでもない検討項目を持ち帰って来ていることだろう。日本は「ACTAの早期実現を目指し、今後も交渉参加国との議論を主導していく所存」らしいが、このような危険な条約は締結しない方が良いくらいのものである。(大体、情報と法規制に関する極めて難しい問題についてきちんと考えられる者が今の日本政府内にいるとは私には到底思えない。どこの党の議員だろうが、どこの役所の官僚だろうが、この点についてはほとんどお話にならない。芯まで腐った連中の頭からはほぼ常に極めて危険かつ有害な規制案しか出てこない。今の立法府と行政府(司法府も含めても良いが)のレベルはそれくらい低い。)

(なお、今回の会合で、「利害関係者及び公衆に交渉過程において意見表明の機会を与えるなど、透明性の重要性について議論」したらしいが、この条約については、今なお秘密を厳重に守りながら先を急ぎ、次回は2010年1月にメキシコで会合を行い、「2010年中の可能な限り早期の実現を目指し、議論を続ける意図を確認」するなど、相変わらず不信感を増すやり方しか取っていない。)

 上でリンクを張ったように、このように政府レベルのみで秘密裏に危険な条約を検討していることについて、既に世界的には否定的な反応も多く出て来ている。それに対し、元々この条約は日本が言い出したものであり、もし今の流れのまま締結されたら、日本が最大の戦犯とされるに違いないにもかかわらず、日本での反応がいまいち鈍いのが個人的には残念でならない。

 直近のパブコメとして、知財本部から12月11日正午〆切で「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」が行われるが(internet watchの記事も参照)、相変わらず危険な項目が並んでおり、この海賊版対策条約についても含め、また意見を出さざるを得ないと考えている。

 他にも最近の話を少し紹介しておくと、パブコメとしては、文化庁から、12月13日〆切で「著作権法施行令の一部を改正する政令案」に関する意見募集も行われている(文化庁のリリース電子政府HP意見募集要領(pdf)著作権法施行令改正案概要(pdf)参照)。文化庁のことなのでどうしようも無いが、政令案の概要だけでパブコメをかけることからしてどうかと思うものである。

 また、元衆議院議員の保坂展人氏が、そのブログで児童ポルノ改正に関する水面下の動きが加速していると述べている。どういう状態にあるのか詳細は分からないが、児童ポルノ規制法改正問題についてもかなりざわついて来ているのは見過ごせない。

 次回は、上のパブコメに意見を提出し次第、その内容を載せたいと思っているが、動向次第で他の話を書くことにするかも知れない。

(2009年11月17日夜の追記:保坂展人氏がそのブログにおいて続報を載せている。47newsの記事によると、自民党が17日の法務部会で単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正案の再提出を決定する一方、民主・社民は慎重姿勢を崩していないということとされているが、保坂氏が述べているように、水面下ではかなりの切り崩し工作が行われているのだろう。この問題からも目を離すことはできない。

 また、日本版変形ストライクポリシーを推進している、「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」が、そのガイドライン案(pdf)に対して12月15日〆切でパブコメを募集しているので(CCIFのリリース参照)、念のため、ここにリンクを張っておく。

(2009年11月18日夜の追記:保坂展人氏がそのブログにおいて続々報を乗せている。保坂氏が述べている通り、「『悪質な児童ポルノ』の規制と、『表現の自由』をどう両立させるのかは、公開の場でしっかり議論されてしかるべき」なのだが、政策について公開の場での議論を避けるバカな国会議員もいまだに多く、先行きは不安である。)

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