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2009年11月27日 (金)

第201回:東京都青少年問題協議会答申素案に対するパブコメ募集

 既に「チラシの裏(3周目)」や「表現の数だけ人生がある」で取り上げられているが、昨日、11月26日に、東京都の「青少年問題協議会」で検討されていた答申素案(pdf)概要(pdf))が12月10日〆切でパブコメにかけられた(東京都のリリース参照)。このブログでは、地方自治体レベルの話はあまり取り上げていないのだが、この答申案はあまりにも非道いので、今回は、この東京都の報告書のことを取り上げる。

 この東京都の「青少年問題協議会」は、そのメンバー(pdf)に、超御用学者の前田雅英教授や後藤啓二ECPAT/ストップ子ども買春の会顧問弁護士などが並んでいることからも分かるように、最初から出来レースであり、答申案もこのメンバーにしてこの結論ありの非道極まるものである。(この協議会の審議における、これらのメンバーによる数々の有害かつ危険な暴論・妄言については、「『反ヲタク国会議員リスト』メモ」の関連エントリ1関連エントリ2や「弁護士山口貴士大いに語る」などをご覧頂ければと思う。)

 パブコメのリリースに書かれている、

1 ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について
・青少年にとって安全・安心な携帯電話を、都が推奨する制度を創設すべきである。
・不健全な行為を意図的に行った青少年の保護者に対し、指導・勧告等を行い、責任の自覚を促すべきである。
・青少年が使用する携帯電話について、保護者が容易にフィルタリングを解除できないよう手続きを厳格化すべきである。
・フィルタリングから除外されるべきサイト基準について、実態に照らし、青少年が被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者認定機関への要請等を行うべきである。

2 児童を性の対象として取り扱うメディアについて
・児童ポルノを始め、児童を性の対象として取り扱うメディアの根絶・追放のため、機運の醸成と環境の整備に努めるべきである。
・国に対し、児童ポルノの「単純所持」の処罰化を強く要望すべきである。
・いわゆる「ジュニアアイドル誌」へ子どもの売り込みを行った保護者に対する指導・勧告の仕組みを検討すべきである。
・児童を性の対象とする漫画等のうち、著しく悪質な内容のものを、追放の対象として明確化するとともに、「不健全図書」の指定対象に追加すべきである。
・児童・生徒の性行為を描写した、小・中学生を対象とする「ラブ・コミック」を、レーティング(推奨年齢の表示)の対象とすべきである。

というポイントからもすぐに分かるが、この報告書の全体的方向性には有害無益かつ危険な規制色しか無い。メンバーからして好き勝手ができるのだろうが、このような規制強化の根拠として並べられていることも、いつも規制推進派が喚き立てるデタラメばかりである。

 この答申案(pdf)概要(pdf))は、問題点の把握からおかしく、いちいち指摘することができないくらい問題だらけで、全て白紙に戻されるべきと私は思うが、それでも、特に危険なところをピックアップして行くと、まず、ネット・携帯規制が取り扱われている「第1章 ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について」で、第23ページに、

(ア)青少年にとって安全で安心な機能を備えた携帯電話等を都が推奨する制度を創設する。
(中略)
 そこで、子どもの学齢に応じ、子どもの安全・安心の確保の観点から必要な機能のみを備えた携帯電話等について、事業者の申請に基づき都が推奨する制度を創設し、必要な場合において、保護者や学校が安心して子どもに持たせることができる安全な携帯電話等の普及を図ることが考えられる。この推奨制度については、推奨基準を策定する機関と認定する機関を別途のものとし、新規の携帯電話等の開発状況に応じて適切に基準を更新するとともに、中立な立場から認定を行う仕組みとすることが望ましい。
(後略)

と書かれているが(赤字強調は私が付けたもの。以下、引用部分について同じ)、携帯電話においてニーズを反映した機能に関する競争がきちんと行われているようであれば、このような推奨制度など全く必要ないだろう。利用者・事業者からテラ銭を巻き上げるためのみに無意味に携帯電話の認定機関を作ろうとするなど、東京都も自身の利権強化・天下り先確保に余念が無いと見える。(総務省へのパブコメ(例えば第183回参照)などで度々書いているが、これは、青少年ネット規制法によるフィルタリング義務化に乗じて健全サイト認定機関を作った総務省のやり口と全く同じである。国のレベルでも、地方自治体のレベルでも役所のやることは全く変わらない。)

 第25ページには、

(ア)子どものネット・ケータイ利用状況を保護者が管理できるサービスや、青少年が安心して利用できる携帯電話等の提供を促すための要請を行う。
(中略)
 また、サイト運営事業者等、インターネット接続事業者、携帯電話等事業者等は、青少年が援助交際(売春)・買春相手の勧誘に係る書き込みや他人に害悪や迷惑を与えるメールの発信等の不健全な行為を行った場合は、削除のみならず、注意、勧告、利用制限、脱退措置、違約金の徴収、解約等を行うとともに、その事実を公的機関に情報提供する旨の規約又は約款を設けることが適当であり、その旨都から要請する。
(後略)

と書かれているが、公的機関への通報義務などは非常に慎重に検討しなければならない問題であり、安直に入れると、過大な義務とリスクをインターネット上に発生させることになりかねないものである。さらに、対象行為にメールの発信まで入っているが、インターネット事業者にメールの検閲をやらせようとするなどメチャクチャだろう。東京都にとっては、通信の秘密や検閲の禁止などの憲法にも規定されている国民の基本的な権利はどうでも良いらしい。

 第28ページには、

(イ)青少年が使用する携帯電話等については、原則としてフィルタリングを解除できないようにするとともに、保護者によるフィルタリング解除の申出を受け入れるべき正当な事由を限定的に定め、容易にフィルタリングを解除できない仕組みを制度化する。
 ネット・ケータイについての知識が子どもに比して劣りがちな一般の保護者全てに対して、子どもに携帯電話等を利用させるに当たって最適なフィルタリング方法・水準の選定を求めることは難しいことから、保護者の知識や意識の在り様にかかわらず、子どもを守ることのできる仕組みが必要である。
 このため、青少年が使用する携帯電話については、原則としてフィルタリングを解除できないようにすべきであり、例外的にフィルタリングの解除を行う場合についても、保護者が安易に子どもの言いなりとなって解除の申出を行うことのないよう、フィルタリング解除の申出をすることのできる正当な事由について、「子どもの就労・就学の必要上やむを得ない事情がある場合」等の事由を限定的に定め、携帯電話等事業者はこの事由に該当する場合のみ例外的に申出を受け入れる仕組みの制度化を、都において検討すべきである。

と書かれているが、東京都は、青少年のネット利用などによって生じた問題について「まず第一に責任を問われるべきはその青少年の保護者である」(答申案の第23ページ参照)としながら、子供のフィルタリングに関する選択権すら親から奪い、完全に携帯フィリタリングを義務化するつもりのようである。このような携帯フィルタリングの完全義務化は、この項目に書かれている通り、親に子供に対する判断能力・責任能力は無いとするに等しく、完全に市民をバカにした施策である。青少年ネット規制法における携帯フィルタリング義務化自体有害無益なものと私は思っているが(IT本部提出パブコメ参照)、それを超えて、こうした現実を無視した規制強化を推進しようとすることほど有害無益なことは無いだろう。

 第28ページから第29ページには、

(エ)フィルタリングから除外されるべきサイトの基準について、実態に照らし、青少年が実際に被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者機関への要請等を行う。
 第三者機関(EMA)による認定を受けたコミュニティサイト等を利用した青少年が犯罪に巻き込まれる等の被害が発生しているが、この背景には、第三者機関が考える「青少年にとって健全なサイト」と、実際に「青少年にとって安全なサイト」との違いがあるものと考えられる。例えばEMAでは、実際に会うことさえしなければ、子どもが見知らぬ異性とメールで交際することも健全なコミュニケーションとして認めるべきとの考えの下、たとえ出会いを目的としたコミュニティであったとしても、サイト運営者が書き込み内容に対して適正な監視や削除を実施するなど子どもの安全に十分配慮しているならばフィルタリングの対象とすべきではないという考え方をとる場合がある。
 しかし、現実問題として、そのような認定サイトの利用を通じて実社会において被害に遭う青少年が発生している限り、保護者の立場からは、フィルタリングの対象とすべきではないかとの声も上がっている。
 そこで、現在の条例においては、フィルタリングについては「青少年の健全な育成を阻害するおそれがある情報を取り除くため」との目的のみが規定され、フィルタリングの水準に関する規定がないことから、「実社会において青少年にとって違法・有害な行為が行われる機会を最小限に留めること」等、望ましいフィルタリングの水準に関する規定を条例に盛り込むなどして、フィルタリング開発事業者及び第三者機関に対して注意喚起を行う必要がある。
 さらに、フィルタリング開発事業者や第三者機関がフィルタリングの対象外としていたサイトに起因して青少年が実際に被害・危険に遭った事例等をこれらの事業者等にフィードバックし、青少年が被害に遭わないために実効あるフィルタリング基準への見直し等を要請していく。
 また、不適切な目的による青少年の検索や年齢詐称等が可能なまま改善の見られないコミュニティサイトについても、第三者機関の認定を受けてフィルタリングの対象から除外されることのないよう、認定基準の見直しを求める

(オ)第三者機関認定サイトを標準設定で閲覧可能にしてしまうフィルタリング方式の在り方について、携帯電話等事業者に対して見直しを要請する。
 現在、携帯電話等のブラックリスト方式のフィルタリングでは、EMAの認定サイトについては閲覧可能となっている。これについては、アに述べたような状況があることから、携帯電話等事業者に対し、青少年が利用する携帯電話等については、第三者機関の認定の有無のみにとらわれず、コミュニティ機能を有したサイトについてはフィルタリングにより遮断することを基本とし、第三者機関認定サイトの中で保護者が閲覧しても良いと判断したサイトについてのみ、後から閲覧可能にできるような仕様にすることについて検討するよう、携帯電話等事業者に対し要請していく。

と書かれている。どうやら、東京都は、総務省が主導して作ろうとしている携帯フィルタリング利権に割り込み、規制の対象をあらゆるサイトに拡大したくて仕方がないようだが、そもそも、国なり地方自治体なりが、こうして本来自由であるべき市民の情報アクセスに介入し、圧力をかけようとすること自体、表現の自由に照らして極めて大きな問題がある話である。第50回第54回で、警察庁の出会い系サイト規制強化について書いた通り、人間の行為から引き起こされる問題をコミュニケーションの場の所為にすることには、常に危険な論理のすり替えがあるのであって、このような規制強化は、そもそも最初からアプローチが完全に間違っているのである。誰であろうが、人と人とのコミュニケーションを止めることは最後できないことを思えば、本当に重要なことは、インターネットに散らばる膨大な情報を自ら取捨選択する情報リテラシー能力であって、この能力を高める本当の国民教育抜きにしては、いかなる規制も意味をなさないだろう。

 第35ページ以降の児童ポルノ規制を取り扱っている「第2章 児童を性の対象として取り扱うメディアについて」は、ネット・携帯規制関連部分に輪をかけて非道い。この章では、従来の児童ポルノに加えて、勝手に「児童を性の対象として取り扱う図書類」という曖昧な概念を作ったあげく、これを規制の対象とするべきという印象操作が延々と続く

 いちいち指摘することはできないくらいだが、第35ページの現状と課題というところからして、「インターネットが本格的に普及して以降、わが国社会において児童を性の対象とする風潮が以前より強く見られる」、「他に提供する目的のないいわゆる『単純所持』は禁止されず、インターネットを中心におぞましい児童ポルノが蔓延している」、「ジュニアアイドル誌といわれる、幼児や小学生の女の子がポーズをとらされた半裸・水着姿の写真集が、(中略)未だ一般書店等においては普通に販売されている」、「子どもに対する強姦や輪姦、近親相姦などの過激な性的行為を描写した漫画、アニメやコンピュータ・グラフィックス(CG)を用いたリアルな表現によるゲーム等の創作物については、法律においては何らの規制もされておらず、一般書店やインターネット上で容易に購入できる状況にある」、「児童・生徒の性行為を描写した漫画が、小学生・中学生用に『ラブ・コミック』などとして大手出版社を含む多くの出版社から販売等されている。(中略)子どもに誤った性のイメージを植え付けている」等々と印象操作と不合理のオンパレードである。

 第36ページでも、単純所持規制が無いため、「自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持し楽しむことは『自由』とされており、このことが児童を性の対象とする風潮を助長し、また、児童ポルノの被写体とされた児童・女性の著しい精神的虐待をもたらしている」と根拠無く一方的に断定しているが、これは、いつもの規制推進派のタチの悪い強力効果プロパガンダをそのまま垂れ流したものである。ジュニアアイドル誌についても、「特に扇情的なものでない限り、(中略)現在のところ『児童ポルノ』に当たらないものと解釈されている」として、これが問題であるかの如き印象操作を行っているが、特に扇情的でも猥褻でもないアイドル誌に何の問題があるのか私にはさっぱり分からない。さらに、勝手に作った「児童を性の対象として取り扱う図書類」という曖昧な概念で一般的かつ網羅的に漫画やゲームなども含め表現を規制をしようと、第37ページから第38ページで、「子どもを性的対象とする図書類は、青少年の健全な育成を阻害するものであるとともに、青少年を性欲の対象としてとらえる風潮や青少年の性的虐待を助長するものであることから、青少年が閲覧できなければそれでよく、一般に流通することには問題がないとは言えない」とやはり一方的に書いているが、これも規制推進派が良く垂れ流すタチの悪い強力効果プロパガンダであって、表現規制の根拠としてはほとんど一顧だに値しないものである。

 第40ページ以降の児童ポルノに対する方策も、危険かつデタラメ極まる話ばかりであり、単純所持規制について、例の如く狂ったキリスト教国の動きのみを取り上げ、一昨年の内閣府の印象操作調査を引き合いに出して、印象操作を行ったあげく、第41ページから第42ページで、

 児童ポルノを含めた児童を性的対象とする行為及びこれを助長する行為の追放・根絶に向けた機運の醸成と環境の整備に努める責務を都の責務として規定するとともに、都民、事業者についても、子どもを性の対象として取り扱う風潮の根絶に取り組むべきことや、児童ポルノを製造・販売・所持してはならない旨を定める規定などを設けるべきである。そして、これを受け、児童ポルノを青少年から遮断することはもちろん、一般人からも遮断する取組、インターネット上からの児童ポルノ画像の削除とブロッキングを推進する取組、児童に対し危険の所在とこれを回避する術を具体的に教える被害予防教育・啓発、都民に対し児童ポルノを「見ない、売らない、作らない」ことを訴求する啓発等を強力に推進することが必要である。
 さらに、児童ポルノ法においては、国及び地方公共団体は、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のため、調査研究の推進、保護を行う者の資質の向上、関係機関の連携協力体制の強化、民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めることを規定している(第16条)。
 これを踏まえ、都においては、児童ポルノに係る被害者の支援に関する都の責務を条例等において明らかにするとともに、児童やその関係者が児童の性に関する被害やトラブルについて相談しやすい体制の確保や、相談に基づく心のケア、プロバイダ等への削除依頼要請の代行や削除依頼方法の教示、ネット上における児童ポルノの削除や児童ポルノのブロッキングの推進に関する事業者等への働きかけ等への積極的な取組みを推進すべきである。
 児童ポルノの単純所持については、その処罰化が必要であるが、国際的要請に対する対応が求められている問題であること、インターネット上の氾濫を効果的に規制するためには都内のみの規制では実効性が薄いことなどを踏まえ、国民的合意の下で全国一律に実施されることが適当であり、国会において早期に法律による犯罪化を実現することが必要である。なお、この場合において、意図せざる所持が処罰の対象とならないよう配慮することは当然であり、また、規制の対象が現行児童ポルノ法よりも狭まることのないよう留意することが必要である。
 このため、当協議会は、政府及び国会による単純所持罪の実現に向けた迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである。

と、都のレベルで危険極まりない単純所持規制を勝手に行い、国にも単純所持罪の導入を求め、やはり都のレベルでも検閲に他ならないブロッキングを推進するとしているのである。

 このブログでは既に何度も繰り返していることだが、閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 また、サイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。

 ジュニアアイドル誌にしても、答申案の第43ページに、

 条例上、青少年に対する図書類等の販売等の自主規制の対象にこのようなジュニアアイドル誌を位置づけるとともに、自主規制団体に対し、このようなジュニアアイドル誌の販売等に関する自主規制を申し入れるほか、不健全図書指定審査等の過程や、関係機関からの情報提供等により、都がこのような保護者を把握した場合、保護者に対して調査・指導・勧告等を行うことができる権限を条例に規定することが考えられる。
 一方、ジュニアアイドル誌についての全般的な規制の在り方については、立法府において、児童ポルノ法や児童福祉法の改正、その他の法律の制定等により措置することが適当であることから、当協議会においては、このような取組についても政府及び国会による迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである。

と書かれており、ここで、児童ポルノ法の改正についてわざわざ触れられているが、いたずらに児童ポルノの定義をさらに曖昧にすることは危険極まりないことである。特に扇情的でも猥褻でもないものについて何の問題があるのか私にはさっぱり分からない。また、自主規制についても、表現に絡む話だけに、自主規制団体に自主規制を申し入れる前に、アイドル誌と児童虐待の関係についてより精査が必要だろう。(児童福祉の観点から、児童福祉法あるいは労働基準法に基づいて、写真モデル業における児童の虐待・就労を止めるという話なら、まだ分からなくもないが、今の国と地方自治体の議員や役人のレベルから考えて、そうした児童のケアが中心となる地道な方向に話が進むとは到底思えない。)

 さらに、漫画やアニメ、ゲーム等の規制についても、日本弁護士連合会の明快な反論を一方的に切って捨て、やはり勝手に「子どもを強姦する、輪姦するなど極めておぞましい子どもに対する性的虐待をリアルに描いた漫画等の流通を容認することにより、児童を性の対象とする風潮が助長されることは否定できないであろう」(第44ページ)と決めつけているが、規制推進派の脳内を除き、このような風潮が助長されているのを私は全く知らない。さらに、「児童を性的対象とした漫画等の多くは、幼児・小学生とされる児童が積極的に性的行為を受け入れる描写が見られ、このような漫画等を子どもに見せて性的虐待を行う危険性も大きい」(第44ページ)らしいが、このような危険性もやはり私の知るところでは無い。規制推進派の狂った妄想が堂々と役所の報告書に載せられる方がよほど危険なことだろう。

 第44ページから第46ページにかけても、キリスト教国の狂った規制の例のみをあげ、国際潮流を勝手に作り、

 少なくとも児童に対する性行為等を写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画等については、児童ポルノ法その他の法律により、可能な限り早期に何らかの規制を行うことが必要である。当協議会としてはこの点について、政府及び国会による迅速な取組を強く要望するものであり、都においても国に対しこの旨の要望を行うべきである。

と、漫画やアニメ、ゲーム等も規制するべきとしているが、このような規制を正当化するに足る根拠は相変わらず全く何も示されていないのである。(そもそも、「写真やビデオと同程度にリアルに描写した漫画等」とは何のことだか良く分からないが、この報告書全体が、規制推進派の妄言の垂れ流しであること、この前段で、番外その18で取り上げた、表現の自由に対する重大な侵害に他ならないアダルトゲームの自主規制の動きについて「限定的」と一方的に印象操作を加えていることなどを考えても、リアルでない通常のデフォルメによる漫画・アニメ・ゲームなどあらゆる表現を対象としていると考える方が妥当だろう。)

 やはりこのブログでは何度も繰り返していることだが、児童ポルノ法だろうが他の法律によろうが、その他の法律による、アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大は、現実の児童保護という目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。

 さらに、「児童を性的対象とする漫画等は、児童を性の対象として取り扱う、つまり児童を性的に搾取し、虐待することを是認する表現である点では、実在の児童を被写体とした児童ポルノと違いがない」とデタラメな暴論を吐いたあげく、国への要望に加えて、東京都も、表現の自由に関する個人の基本的な権利などどうでも良く、自分たちの権限拡大さえできれば良いと思っているのだろう、第46ページで続けて、

 例えば、著しく性的感情を刺激するとまでは言えず、現行条例の基準では不健全図書指定の対象とできない漫画等であっても、児童を性的対象とする内容のもの、特に強姦(児童が幼児や小学生であるとの設定の場合には、性行為への合意があっても刑法の強姦罪に当たる年齢であることから、合意に関する描写の有無にかかわらず、包括的に強姦に当たるとみなされよう)、近親相姦等、著しく悪質なものについては、その内容そのものが、青少年の性に関する健全な判断能力その他青少年の健全な成長を阻害するものであると考えられることから、少なくとも、青少年のこれらの漫画等へのアクセスを遮断することが適当であると考えられる。
 このため、条例における不健全図書指定基準に、このような著しく悪質な内容の漫画等を追加するとともに、自主規制団体による表示図書制度においても、児童を性的対象とする内容の漫画等が対象とされるよう、働きかけを行うことが必要である。
 また、児童を性的対象とする内容の漫画等で、写真やビデオと同程度にリアルに描写したものや強姦等の著しく悪質なものは、青少年のアクセスの遮断のみならず、一般人のアクセスも制限する取組や、インターネットからの削除、ブロッキングの推進などの取組を関係業界に働きかけることが適当である。

と、訳の分からない理屈で、不健全図書指定の対象を広げようとしている。特に、最後に、漫画等について、青少年のアクセスの遮断のみならず、一般人のアクセスも制限する取組を行おうとしているなど、この現代に中世さながらの検閲の復活を目論む規制推進派の本音がだだ洩れになっているとしか言いようが無い。

 また、「ラブ・コミック」という言い方は始めて知ったが、自主規制だろうと、性行為に関する描写が含まれているということだけをもって、漫画などの表現物に対して何らかの包括的な規制をかけようとすることは決して妥当ではないだろう。

 最後の「第3章 青少年の健全な成育を取り巻く環境整備について」では、不健全図書指定による規制の強化と、インターネットを利用した不健全図書類等の売買等をできないように、青少年に相応しくないと思われる物品を扱っているサイトへのアクセスや閲覧をさせないための有効なシステム(ブロッキングシステム)の開発の推進が言われているが、これらの規制強化は、上の不健全図書の対象拡大と合わせ考えると、青少年のアクセスを超えて、一般人の情報アクセスに多大の制限を加えることになるのではないかと私は懸念する。(第50ページの具体的方策で、フィルタリングでは無く、ブロッキングと書かれていることは偶然では無いだろう。到底成功し得ないだろうが、東京都は、インターネットを対象とした網羅的な検閲の実施を目論んでいるとしか思えない。)

 とにかく、いちいち指摘しきれないほど、この東京都の答申案は問題だらけであり、全体として危険極まりない規制強化の方向性しか打ち出されていない。国のレベルでも、地方自治体のレベルでもやっていることに違いは無い、東京都は、今、その利権官庁としての牙を剥き出しにし、市民の生活と安全を完全にないがしろにして自身の利権・権限強化のみを図ろうとして来ているのであり、可能な限り多くの都民の方に、このパブコメは出してもらいたいと私は思っている。

 私のパブコメは提出次第ここに載せたいと思っており、次回は、この提出パブコメエントリになるだろうと思う。

(2009年11月27日夜の追記:誤記を直し、文章に少し手を入れた。また、「『反ヲタク国会議員リスト』メモ」、「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」、「表現規制について少しだけ考えてみる(仮)」でも、このパブコメのことが取り上げられているので、ここにリンクを追加しておく。)

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2009年11月25日 (水)

第200回:「新たな人身取引対策行動計画(仮称)」(案)に対する提出パブコメ

 前回取り上げた内閣官房の「新たな人身取引対策行動計画(仮称)」(案)に対する意見募集(12月3日〆切)について、パブコメを書いて提出した。今まで書いてきたパブコメをまとめただけの内容だが、誰かの参考になるかも知れないので、提出したパブコメをここに載せておく。

(2009年11月26日の追記:今日、東京都の「青少年問題協議会」で検討されていた答申素案(pdf)概要(pdf))がパブコメにかけられた(東京都のHP参照)。このブログでは、地方自治体レベルの話はあまり取り上げていないのだが、この答申案はあまりにも非道いので、次回はこの東京都の報告書のことを取り上げたいと思う。)

(以下、提出パブコメ)

1.氏名:兎園
2.連絡先:

3.意見概要
・第3ページ「③ 児童の性的搾取に対する厳正な対応」の項目から、例え児童ポルノに対してであろうと、情報に対するものとして極めて不適切な「ゼロ・トレランス(不寛容)」の語を削除してもらいたい。
・政府・与党にあっては、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。
・児童ポルノ対策について、有害無益な規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、社会啓発・広報活動、児童の保護に関する教育・訓練の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。

4.意見及び理由
(意見)
・第3ページ「③ 児童の性的搾取に対する厳正な対応」について
 本項目において、「児童に対する性的搾取について、「ゼロ・トレランス(不寛容)』の観点から対処することとし、児童買春・児童ポルノ事犯に対しては、国外犯規定の適用を含め、児童買春・児童ポルノ禁止法違反等により徹底的に取り締まるとともに、より一層厳正な科刑の実現に努める。また、児童ポルノ等の排除に向けた取組を強化する」と書かれているが、例え児童ポルノに対するもの、情報そのものに対する観点として極めて不適切な「ゼロ・トレランス(不寛容)の観点から対処する」という記載を削除してもらいたい。

 極めて危険かつ有害な単純所持規制等を含む児童ポルノ規制法改正案が自民・公明の両党によって今臨時国会に再び提出されるなど、民主主義の最大の基礎である情報の自由に関する個人の基本的な権利を侵害する動きが再び強まっていることを考え、このような動きを止め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、この項目に、「児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定し、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかける。」との記載を追加してもらいたい。

 児童ポルノ対策としては、単純所持規制・創作物規制といった有害無益な規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、社会啓発・広報活動、児童の保護に関する教育・訓練の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。

(理由)
 例えそれが児童ポルノに関するものであろうと、情報そのものに対して「ゼロ・トレランス」があり得ると、絶対に禁止されるべき情報・思想があるとすることは、新たに思想犯罪を作り、この現代に恐るべき思想警察・異端審問を復活させることを認めるに等しく、このように情報そのものに対する観点として極めて不適切な「ゼロ・トレランス(不寛容)」の語は、政府の公式の行動計画に使用されてはならないものである。

 この「ゼロ・トレランス」という語は、極めて危険かつ有害な、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制を推進するために、規制推進派によって便利に使われているものであるが、閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。

 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。

 アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大も議論されているが、このような対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。

 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。

 また、サイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。

 児童ポルノ規制法に関しては、既に、提供及び提供目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことは、現行ですら過度に広汎であり、違憲のそしりを免れない児童ポルノの定義の厳密化のみである。

 さらに付言すれば、児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならない。児童ポルノ規制に関しては、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカでは児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることも見逃されるべきではない。例えば、アメリカでは、FBIが偽リンクによる囮捜査を実行し、偽リンクをクリックした者が児童ポルノがダウンロードしようとしたということで逮捕、有罪にされるという恣意的運用の極みをやっている(http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080323_fbi_fake_hyperlink/参照)、単なる授乳写真が児童ポルノに当たるとして裁判になり、平和だった一家が完全に崩壊している(http://suzacu.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html参照)、日本のアダルトコミックを所持していたとして、児童の性的虐待を何ら行ったことも無く、考えたことも無い単なる漫画のコレクターが司法取引で有罪とされている(http://news.goo.ne.jp/article/wiredvision/nation/2009news1-19920.html参照)などの、極悪かつ非人道的な例が知られている。つい最近も、カナダで、現実に何の被害も発生しておらず、本来表現の自由として許容されるべきものであるにも関わらず、架空のイラストをダウンロードした青年が、禁固3月、執行猶予18月の有罪判決を受けるという事件が起こり(http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20091116/dms0911161145000-n2.htm参照)、アメリカで、児童ポルノ所持罪で起訴され、有罪とされようとしていた男性が、逮捕・起訴から11ヶ月後にどうにか児童ポルノを勝手に保存するウィルスの存在を証明し、かろうじて人生の完全破壊を免れたという事件が起こるなど(http://abcnews.go.com/Technology/WireStory?id=9028516&page=1参照)、欧米のキリスト教国家を中心とした狂った単純所持規制を含む児童ポルノ規制による、非人道的な事件の数々は枚挙に暇が無い状況である。単純所持規制を導入している西洋キリスト教諸国で行われていることは、中世さながらの検閲と魔女狩りであって、このような極悪非道に倣わなければならない理由は全く無い。

 しかし、欧米においても、情報の単純所持規制やサイトブロッキングの危険性に対する認識はネットを中心に高まって来ており、アメリカにおいても、この1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、この2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることや、つい最近からのドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に13万筆を超える数の署名が集まったこと、ドイツにおいても児童ポルノサイトブロッキング法は検閲法と批判され、既に憲法裁判が提起されており(http://www.netzeitung.de/politik/deutschland/1393679.html参照)、総選挙の結果与党に入ったドイツ自由民主党の働きかけで、ネット検閲法であるとして児童ポルノブロッキング法の施行はひとまず見送られ、ブロッキングはせずにまずサイトの取り締まりをきちんと警察にやらせ、1年後にその評価をしてブロッキングの是非を判断することとされたこと(http://www.tomshardware.com/de/Zensur-Internet-ZugErschwG-Provider-Koalition,news-243605.html参照)なども注目されるべきである。スイスにおいて最近発表された調査でも、2002年に児童ポルノ所持で捕まった者の追跡調査を行っているが、実際に過去に性的虐待を行っていたのは1%、6年間の追跡調査で実際に性的虐待を行ったものも1%に過ぎず、児童ポルノ所持はそれだけでは、性的虐待のリスクファクターとはならないと結論づけており、児童ポルノの単純所持規制の根拠は完全に否定されているのである(http://www.biomedcentral.com/1471-244X/9/43/abstract参照)。欧州連合において、インターネットへのアクセスを情報の自由に関する基本的な権利として位置づける動きがあることも見逃されてはならない(http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/09/491&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en参照)。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。

 極めて危険かつ有害な単純所持規制等を含む児童ポルノ規制法改正案が自民・公明の両党によって今臨時国会に再び提出されるなど、民主主義の最大の基礎である情報の自由に関する個人の基本的な権利を侵害する動きが再び強まっているが、このような動きを止め、児童ポルノを理由とした非道な人権侵害を防ぐため、政府において、児童ポルノを対象とするものにせよ、いかなる種類のものであれ、情報の単純所持・取得規制・ブロッキングは極めて危険な規制であるとの認識を深め、このような規制を絶対に行わないことと閣議決定し、かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけるべきである。

 児童ポルノ対策としては、単純所持規制・創作物規制といった有害無益な規制強化の検討を即刻止め、現行法の地道なエンフォース、社会啓発・広報活動、児童の保護に関する教育・訓練の実施といった地道な対策のみが進められることを期待する。

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2009年11月20日 (金)

第199回:「新たな人身取引対策行動計画」(案)に対するパブコメ募集

 既に「チラシの裏(3周目)」で取り上げられているので、リンク先をご覧頂くだけでも十分だと思うが、内閣官房が「新たな人身取引対策行動計画」(案)(pdf)に対するパブコメの募集を12月3日〆切で開始した(内閣官房の募集ページ参照)。

 この計画案(pdf)のメインの対象が人身売買にあることには注意する必要があるが、児童ポルノに関しても、第3ページに、

③ 児童の性的搾取に対する厳正な対応
 児童に対する性的搾取について、「ゼロ・トレランス(不寛容)」の観点から対処することとし、児童買春・児童ポルノ事犯に対しては、国外犯規定の適用を含め、児童買春・児童ポルノ禁止法違反等により徹底的に取り締まるとともに、より一層厳正な科刑の実現に努める。また、児童ポルノ等の排除に向けた取組を強化する。

との記載がある。この記載は明確に今現在ざわついている法改正について言及しているものでは無いが、ここで、「ゼロ・トレランス(不寛容)」という語がここに入っていることは、決して看過できない

 「表現の自由で守られる法益と児童ポルノによって失われる人権というものとの比較をすれば、それは表現の自由という部分が大幅に削られて構わない」という鳩山邦夫元総務大臣の違憲発言が飛び出した今年2月18日の衆議院予算委員会(議事録参照)、自公議員による数々の違憲発言が飛び出した今年6月26日の衆議院法務委員会(議事録参照)で、感情論のみで根拠無く単純所持規制と創作物規制を求める公明党の丸谷佳織元議員がこの「ゼロトレランス」という語を連発していることからも分かるように、この「ゼロ・トレランス」という語は、規制派によって、極めて非人道的な単純所持規制・創作物規制を推進するための便利なキーワードとして使われているものである。

 このブログでは何度も繰り返していることだが、例えそれが児童ポルノに関するものであろうと、他のあらゆること以上に、情報そのものに対する「ゼロ・トレランス」はあり得ない。情報そのものに対して「ゼロ・トレランス」があり得るとすることは、新たに思想犯罪を作り、この現代に恐るべき思想警察・異端審問を復活させることを認めるに等しいのである。閲覧とダウンロードと取得と所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものとなる。「自身の性的好奇心を満たす目的で」、積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、思想の自由や罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。また、どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されないことである。

(欧米を中心としたキリスト教国の単純所持規制を含む狂った児童ポルノ規制に関しては、つい最近も、ITmediaの記事ABC Newsの記事に書かれている通り、アメリカで、児童ポルノ所持罪で起訴され、有罪とされようとしていた男性が、逮捕・起訴から11ヶ月後にどうにか児童ポルノを勝手に保存するウィルスの存在を証明し、かろうじて人生の完全破壊を免れたという事件が起こっている。この場合はたまたまウィルスの存在が証明できたからまだ良かったようなものの、欧米主要キリスト教国の児童ポルノ裁判は既に推定有罪の魔女裁判と化しているので、一旦有罪とされたらどうしようもない。実際にこの手のウィルスによってなす術も無く有罪とされ、人生を完全に破壊された者も欧米ではかなりいるのではないかと私は思う。)

 以前の「人身取引対策行動計画」を見ると、この語は入っておらず、児童ポルノに関しては「児童買春・児童ポルノ事犯を始めとする少年の福祉を害する犯罪の実態について広報啓発を実施しているが、今後もあらゆる広報媒体を活用して、社会啓発・広報活動を積極的に推進する」、「児童買春・児童ポルノ事犯を始めとする少年の福祉を害する犯罪の被害に遭った児童の保護に関し、被害少年対策の必要性、被害少年に接する際の留意事項、少年の人権及び特性に配慮した活動について教育・訓練を実施する」等と書いてあるだけである。役所内の動きは分からないが、このように児童ポルノ規制に関する記載を変えたのは、まず間違いなく国民の生活と安全をないがしろにしても自己の権限強化のみが図れれば良いとばかりに、児童ポルノ規制の強化を強力に推進している警察庁だろう(警察庁と結びついている規制派の団体あるいは議員の働きかけもあったのではないか)。去年の、内閣官房の犯罪計画案(第133回参照)、あるいは、総務省の違法・有害報告書案(第135回参照)と比べれば、実にあっさりとした記載ではあるが、こうして役所の報告書にわざと分かりにくく規制強化のための文章を紛れ込ませ、短い期間でこっそりとパブコメを取って、それだけで民意を聞いたことにして、規制強化の既成事実化を図って行くのは、日本の役所のいつもの手口である。

 例によってこのパブコメも出す必要があると思っており、提出次第、私の書いたパブコメはここに載せたいとと思っている。

 相変わらず良いニュースは無いが、他の話も紹介しておくと、internet watchの記事時事通信の記事にもなっている、JASRACの創立70周年パーティでの鳩山首相の著作権保護期間の70年への延長に最大限努力するという発言が波紋を広げている。既に、「Copy & Copyright Diary」や「P2Pとかその辺のお話@はてな」などで取り上げられているので、リンク先をご覧頂ければ十分だと思うが、著作権保護期間延長問題に、今の時点で油を注ぐのは愚鈍の極みである。著作財産権の保護期間の延長は、単に国民から権利者団体への財の移動を意味するのであり、著作権の保護期間延長に、文化的にも経済的にも合理性が無いことはほぼ明らかになっているのである。(なお、この問題においては、既に永遠の保護となっている人格権の問題と混同している者、意図的に混同させようとしている者がいることに常に注意する必要がある。)

 また、第188回で紹介したように、ストライクポリシーに傾斜していたイギリス政府が、権利者団体の強力なロビー活動によるものだろう、やはり強硬な態度を崩さず、ネット切断型の違法コピー対策を可能とする法案の議論を開始しようとしているようである(BBCの記事Telegraphの記事Zeropaidの記事EFFの記事TorrentFreakの記事p2pnetの記事参照)。どうなるかは何とも言えないが、今のまま行けば、イギリスもフランス同様まず法案の審議から相当迷走することになるだろう。

 他に香港でも著作権法の改正提案がされているようである(crienglishの記事China Viewの記事7thspaceの記事THRの記事参照)。現時点の提案では、ストライクポリシーやダウンロード違法化は入っていないようであり、香港はイギリス系の私的複製のための権利制限の狭いフェアディーリング国だったと記憶しているが、特に補償金制度を導入すること無く、メディアシフトのために権利制限を広げようとしているらしいことは注目に値する。

 フィリピンで単純所持罪を含む改正児童ポルノ法がじきに発効する見込みとの毎日の記事もあったが、このようなニュースは、フィリピンがキリスト教国であるという背景を抜きにしては理解され得ない。フィリピンも、これで魔女狩り国の一員となり、児童ポルノに関しては欧米同様の混乱を極めると容易く予想される。

 イギリスや香港などの話も随時紹介したいと思っているが、次回は、提出パブコメエントリになるのではないかと思っている。

(2009年11月20日夜の追記:単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正案を自公が今臨時国会に提出した(毎日の記事参照)。保坂展人氏がそのブログ記事で書いているように、この臨時国会で急転直下成立へという可能性はかなり低いと見て良いのではないかとは思うが、「『社民党が表現の自由と立法事実の再確認』などと面倒なことを言わなければ、天ぷらをあげるように衆参両院を数日で弾丸通過したという危険性は相当にあった」とも書いている通り、この問題も引き続き危険な状態が続くことになるのだろう。この問題についてその危険性を党としてきちんと認識して頑張ってくれている社民党は本当に有り難い。

 保護期間延長問題に関しては、時事通信の記事にもあるように、鳩山首相に続き川端文科相も延長に意欲を見せるなど、この問題については閣僚レベルでの無理解が著しい。早速MIAUが反対声明internet watchの記事も参照)を出しているので、そのリンクも張っておく。この反対声明にもある通り、著作権の保護期間延長については、「『メリットは無いのに、デメリットは確実にある』というのが、国内外を問わず多くの専門家の意見が一致するところ」だろう。また、著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)も、同じく、反対意見を公表した。

 欧州におけるストライクポリシーとインターネットの自由を巡る動きについて、朝日が記事を載せているので合わせてリンクを張っておく。この記事では、イギリスのストライクポリシーに関しても少し触れられているが、TorrentFreakの記事にもあるように、イギリスでも、その自由民主党が、このストライクポリシーを酷評するなど、早速法案審議の荒れを予想させる展開となっている。)

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2009年11月17日 (火)

第198回:模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)のインターネット関連部分に関するリーク資料

 この11月4日から6日にかけて模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)の国際会合が開かれた(経産省HPに載っている会合概要(pdf)参照)。この概要ではさっぱり分からないのだが、この条約についても相変わらず非常に危険な話が秘密裏に進んでいるようである。

 この海賊版対策条約については、カナダのオタワ大学教授のマイケル・ガイスト氏がそのブログにおいて非常に強い警鐘を発しているので、興味のある方は是非ご覧頂ければと思うが、最近のエントリで取り上げられている9月30日付けのEUの資料(pdf)(なお、Wikileaksにも同じ資料(pdf)が載っている)は、この条約のインターネット関連部分でどのようなことが検討項目とされているのか、この条約がいかに危険であるかを示す非常に重要な資料だと思うので、ここで取り上げておきたいと思う。(他にも、EEFの記事1記事2TorrentFreakの記事なども参照。英語が分かれば、経緯も含めて問題点を分かり易く解説されているガイスト教授のビデオ解説も必聴である。)

 恐らく偽物ではないと思うが、この資料は、9月22から24日に行われたアメリカ・EU間の会合でアメリカがEUに口頭で提示した、海賊版対策条約のインターネットに関する部分の案を、EUが各加盟国に説明するため作ったもののようであり、具体的には、以下のような項目が並んでいる。(他の部分も含めての概要資料については、第167回参照。)

Section 1: Baseline obligations inspired by article 41 TRIPs, imposing adequate and effective legal remedies, as provided in relevant sections of ACTA (civil, penal), for internet infringements.

Section 2:
ACTA members have to provide for third-party liability.

Section 3: Safe-harbours for liability regarding ISPs, based on Section 512 of the Digital Millennium Copyright Act (DMCA), including a preamble about the balance between the interests of internet service providers (ISPs) and right-holders. See also KORUS Chapter 18.10.30. According to US, the language proposed is somewhere in the "middle" between the WIPO internet treaties, KORUS and the DMCA, which probably means that it is more detailed than the first but not as specific as the latter.

ISPs are defined as in Section 512 (k) of DMCA

On the limitations from 3rd party liability: to benefit from safe-harbours, ISPs need to put in place policies to deter unauthorised storage and transmission of IP infringing content (ex: clauses in customers' contracts allowing, inter alia, a graduated response). From what we understood, the US will not propose that authorities need to create such systems. Instead they require some self-regulation by ISPs.

This Section 3 should also contain "broad" provisions regarding notice-and-takedown mechanisms.

Section 4: Will focus on technical protection measures (TPMs). Language inspired by US-Jordan Free-Trade Agreement (article 4.13), as well as by the WIPO Internet Treaties (articles 11 WCT and 18 WPPT):
- Parties to provide adequate civil and criminal remedies that are specific to TPM infringements, i.e. treat these as separate offenses form "general" copyright infringements.
- TPM infringements would be: (i) prohibition of circumvention of access controls and; (ii) prohibition of manufacture and trafficking of circumventing DRM devices.
- There will be exceptions to these prohibitions available to ACTA members.
- "Fair use" will not be circumscribed.
- There will be no obligation for hardware manufacturers to ensure interoperability of TPMs.

Section 5: Will focus on Rights' Management. Language inspired by US-Jordan Free-Trade Agreement (article 4.13), as well as by the WIPO Internet Treaties (articles 11 WCT and 18 WPPT):
- Parties to provide adequate civil and criminal remedies for rights' management infringements.
- Right' management infringements would be stripping (works?) of rights' management information

第1条:インターネットにおける侵害に関する、ACTAの(刑事的・民事的)関連各条に規定されている通り、適切で効果的な法的救済を課すものである、TRIPs協定第41条(訳注:TRIPs協定については特許庁HPの翻訳参照)から来る基本的な義務を規定。

第2条:ACTA加盟国は第3者責任に関する規定を整備しなければならない。

第3条:インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)と権利者の利益のバランスに関する前文を含め、アメリカのデジタルミレニアム著作権法(DMCA)(訳注:アメリカ著作権法については著作権情報センターHPの翻訳参照)の第512条に基づく、ISPの責任に関するセーフハーバーを規定。米韓FTA(KORUS)の第18.10.30条も見ること(注:米韓FTA全文(英語)(pdf)参照)。アメリカによると、提案されている話は、インターネット関連WIPO条約とKORUSとDMCAの「中間」のものとのことだが、これは、最初のものよりは詳細だが、最後のものよりは具体的でないということを意味しているようである。

ISPは、DMCAの第512条(k)のように定義される。

第3者責任の制限も規定される:セーフハーバーを享受するためには、(例えば、特に、消費者との契約によりストライクポリシーを可能とするなど)知的財産侵害コンテンツの違法な蓄積と送信を抑止する対策を取らなくてはならないとすること。我々の理解では、各政府がこのようなシステムを導入しなければならないとすることをアメリカは求めようとしていない。その代わりに、彼らは何かしらのISPによる自主規制を求めている。

この第3条は、ノーティス・アンド・テイクダウン制に関する「幅広い」規定も含む。

第4条:本条は、技術的保護手段を取り扱う。話は、米ヨルダンFTA(第4.13条)(注:米ヨルダンFTA全文(英語)(pdf)参照)並びに、インターネット関連WIPO条約(WIPO著作権条約(WCT)第11条とWIPO実演家・レコード条約(WPPT)第18条)(訳注:著作権情報センターHPのWCTの翻訳とWPPTの翻訳参照)から来ている:
−加盟国は、「一般的」著作権侵害とは別の侵害として取り扱われる、技術的保護手段の侵害に対する適切な民事的・刑事的救済を規定する。
−技術的保護手段の侵害とは、(ⅰ)アクセスコントロールの回避の禁止と;(ⅱ)DRM回避装置の製造と取引の禁止である。
−ACTAの加盟国には、これらの規定に対する例外が用意される。
−「フェアユース」は制限されない。
−技術的保護手段の相互運用性を確保するため、ハードウェア製造業者に対する義務は含まれない。

第5条:本条は、権利管理を取り扱う。話は、米ヨルダンFTA(第4.13条)並びに、インターネット関連WIPO条約(WCT第11条とWPPT第18条)から来ている:
−加盟国は、権利管理侵害に対する適切な民事的・刑事的救済を規定する。
−権利管理侵害とは、権利管理情報の除去(をした著作物?)である。

 いつものようにアメリカは自国の制度を他人に押し付けるツールとしてこの条約も利用しようとしているようだが、アメリカでも権利者団体による激しいロビー攻勢があると見え、中でも、この条約で非人道的なストライクポリシー(上で「ストライクポリシー」と訳しているが、直訳すると「段階的レスポンス」である。)を世界的にISPに押しつけしようとしている点は非道極まる。(自主規制と称しているが、セーフハーバーの要件として包括的にストライクポリシーを強要するなら同じことである。)

 あっさりと書かれているが、第3者責任に関する規定も非常にタチが悪い。第3者責任とは、民事であれば間接侵害、刑事であれば著作権侵害幇助の責任であり、その不明確性から、インターネット利用の法的安定性が著しく損なわれているという状態に今現在あると、下手な形で規定を作るとさらに危険な方向へとバランスを崩すことになるということは常々パブコメなどで指摘していることだが、残念ながら、あまり政策決定のレベルで理解されているとは思えないところである。

 また、これだけでは何とも言えないが、DRM回避規制に関しても、日本政府のことなので、放っておくとまた危険な規制強化を言い出しかねないだろう。

 上でリンクを張った今回の会合概要で「交渉参加国はデジタル環境における権利の行使、刑事上の執行について有意義な議論を行いました」と書かれているが、今の日本政府にとっての「有意義」は、国民にとっての「危険」と言い換えて良いと思っているくらい、今の政府を私は全く信用していない。条約交渉であり、そう簡単に進むとは思えないが、アメリカはこの資料に書かれているような危険な項目を俎上に乗せて来たことだろうし、どうせポリシーロンダリングで日本政府代表はロクでもない検討項目を持ち帰って来ていることだろう。日本は「ACTAの早期実現を目指し、今後も交渉参加国との議論を主導していく所存」らしいが、このような危険な条約は締結しない方が良いくらいのものである。(大体、情報と法規制に関する極めて難しい問題についてきちんと考えられる者が今の日本政府内にいるとは私には到底思えない。どこの党の議員だろうが、どこの役所の官僚だろうが、この点についてはほとんどお話にならない。芯まで腐った連中の頭からはほぼ常に極めて危険かつ有害な規制案しか出てこない。今の立法府と行政府(司法府も含めても良いが)のレベルはそれくらい低い。)

(なお、今回の会合で、「利害関係者及び公衆に交渉過程において意見表明の機会を与えるなど、透明性の重要性について議論」したらしいが、この条約については、今なお秘密を厳重に守りながら先を急ぎ、次回は2010年1月にメキシコで会合を行い、「2010年中の可能な限り早期の実現を目指し、議論を続ける意図を確認」するなど、相変わらず不信感を増すやり方しか取っていない。)

 上でリンクを張ったように、このように政府レベルのみで秘密裏に危険な条約を検討していることについて、既に世界的には否定的な反応も多く出て来ている。それに対し、元々この条約は日本が言い出したものであり、もし今の流れのまま締結されたら、日本が最大の戦犯とされるに違いないにもかかわらず、日本での反応がいまいち鈍いのが個人的には残念でならない。

 直近のパブコメとして、知財本部から12月11日正午〆切で「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関する調査」が行われるが(internet watchの記事も参照)、相変わらず危険な項目が並んでおり、この海賊版対策条約についても含め、また意見を出さざるを得ないと考えている。

 他にも最近の話を少し紹介しておくと、パブコメとしては、文化庁から、12月13日〆切で「著作権法施行令の一部を改正する政令案」に関する意見募集も行われている(文化庁のリリース電子政府HP意見募集要領(pdf)著作権法施行令改正案概要(pdf)参照)。文化庁のことなのでどうしようも無いが、政令案の概要だけでパブコメをかけることからしてどうかと思うものである。

 また、元衆議院議員の保坂展人氏が、そのブログで児童ポルノ改正に関する水面下の動きが加速していると述べている。どういう状態にあるのか詳細は分からないが、児童ポルノ規制法改正問題についてもかなりざわついて来ているのは見過ごせない。

 次回は、上のパブコメに意見を提出し次第、その内容を載せたいと思っているが、動向次第で他の話を書くことにするかも知れない。

(2009年11月17日夜の追記:保坂展人氏がそのブログにおいて続報を載せている。47newsの記事によると、自民党が17日の法務部会で単純所持規制を含む児童ポルノ規制法改正案の再提出を決定する一方、民主・社民は慎重姿勢を崩していないということとされているが、保坂氏が述べているように、水面下ではかなりの切り崩し工作が行われているのだろう。この問題からも目を離すことはできない。

 また、日本版変形ストライクポリシーを推進している、「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会(CCIF)」が、そのガイドライン案(pdf)に対して12月15日〆切でパブコメを募集しているので(CCIFのリリース参照)、念のため、ここにリンクを張っておく。

(2009年11月18日夜の追記:保坂展人氏がそのブログにおいて続々報を乗せている。保坂氏が述べている通り、「『悪質な児童ポルノ』の規制と、『表現の自由』をどう両立させるのかは、公開の場でしっかり議論されてしかるべき」なのだが、政策について公開の場での議論を避けるバカな国会議員もいまだに多く、先行きは不安である。)

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2009年11月 9日 (月)

第197回:EU通信ディレクティブ妥協案

 既に「P2Pとかその辺のお話」で取り上げられているので、リンク先をご覧頂ければ十分とは思うが、フランスの最初の3ストライク法案を否定したEUの通信ディレクティブについて、新たな妥協案について合意されたということが話題になっており、ストライクポリシーを巡るEUレベルのせめぎ合いについては重要だと思うので、ここでも取り上げることにする。(また、このことは、cnetの記事ITproの記事にもなっている。)

 この合意を伝えるEUのリリースでは、合意案の主要な改正点として、

1. A right of European consumers to change, in 1 working day, fixed or mobile operator while keeping their old phone number.
2. Better consumer information.
3. Protecting citizens' rights relating to internet access by a new internet freedom provision.
4. New guarantees for an open and more "neutral" net.
5. Consumer protection against personal data breaches and spam.
6. Better access to emergency services, 112.
7. National telecoms regulators will gain greater independence.
8. A new European Telecoms Authority that will help ensure fair competition and more consistency of regulation on the telecoms markets.
9. A new Commission say on the competition remedies for the telecoms markets.
10. Functional separation as a means to overcome competition problems.
11. Accelerating broadband access for all Europeans.
12. Encouraging competition and investment in next generation access networks.

1.昔の電話番号を保持したまま固定あるいは携帯電話事業者を、1週間で変える、欧州消費者の権利。
2.消費者へのより良い情報開示。
3.新たなインターネットの自由の規定によるインターネットアクセスに関する市民の権利の保護。
4.オープンでより「中立的な」ネットの新たな保証。
5.個人情報流出とスパムに対する消費者保護。
6.緊急サービス112へのよりよいアクセス。
7.各国の通信規制当局はより独立性を得る。
8.新たな欧州通信当局による、通信市場における公平な競争とよりよい調和の促進。
9.通信市場における競争の改善について、委員会が発言できるようになる。
10.競争の問題を克服する手段としての機能的分離。
11.全ての欧州市民に対するブロードバンドアクセス提供の加速。
12.次世代のアクセスネットワークにおける競争と投資の促進。

という項目が並んでいる。他の部分についても言いたいことが無い訳ではないのだが、ここでは、最大の論争の種となっている3.のインターネットの自由の規定に関する項目の部分だけ訳出しておきたいと思う。

3. Protecting citizens' rights relating to internet access by a new internet freedom provision (full text: see Annex 1): Following  the strong request of the European Parliament, and after long negotiations on this point, the new telecoms rules now explicitly state that any measures taken by Member States regarding access to or use of services and applications through telecoms networks must respect the fundamental rights and freedoms of citizens, as they are guaranteed by the European Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms and in general principles of EU law. Such measures must also be appropriate, proportionate and necessary within a democratic society. In particular, they must respect the presumption of innocence and the right to privacy. With regard to any measures of Member States taken on their Internet access (e.g. to fight child pornography or other illegal activities), citizens in the EU are entitled to a prior fair and impartial procedure, including the right to be heard, and they have a right to an effective and timely judicial review.

Commissioner Reding said on this matter: "The new internet freedom provision represents a great victory for the rights and freedoms of European citizens. The debate between Parliament and Council has also clearly shown that we need find new, more modern and more effective ways in Europe to protect intellectual property and artistic creation. The promotion of legal offers, including across borders, should become a priority for policy-makers. 'Three-strikes-laws', which could cut off Internet access without a prior fair and impartial procedure or without effective and timely judicial review, will certainly not become part of European law."

3.新たなインターネットの自由の規定によるインターネットアクセスに関する市民の権利の保護(全文については付記1参照):EU議会の強い要請に従い、この点について長い交渉を経て、新たな通信規制には、通信ネットワークを通じたサービスとアプリケーションへのアクセスあるいはその利用に関して加盟国が取るどのような手段も、欧州人権条約とEU法の基本原則によって保障されているところの、市民の基本的な権利と自由を尊重しなければならないということが明示的に記載されることとなった。このような措置は、民主的な社会において、特に適切で必要なものである。特に、加盟国は、推定無罪の原則とプライバシーの権利を尊重しなければならない。インターネットアクセスに関して加盟国が取る手段(例えば、児童ポルノあるいは他の違法行為に対して取るもの)に関して、EU市民は、聴取される権利も含め、事前の公正で公平な手続きを受ける権利を有し、有効かつ時宜を得た司法審理を受ける権利も有する。

委員のレディングはこの点について次のように言った:「新たなインターネットの自由の規定は、欧州市民の権利と自由に関する重要な勝利を示すものである。議会と理事会の間の論争から、ヨーロッパにおいて知的財産権と芸術的創造を保護する、新しく、より現代的でより効果的な方法を我々が見つけたことは明らかである。越境取引を含む、合法提供の促進こそ、政策立案者の優先事項とされるべきである。事前の公平で公正な手続き、あるいは、有効かつ時宜を得た司法審査を伴わずに、インターネットアクセスの遮断を可能とする『3ストライク法』は、まずもって欧州法の一部とはならないだろう。」

 また、付記1に書かれている、インターネットの自由に関する規定の現時点の案は以下のようなものである。(なお、この訳については「P2Pとかその辺のお話」の訳も参照した。)

The new Internet Freedom Provision
Article 1(3)a of the new Framework Directive

"Measures taken by Member States regarding end-users' access to or use of services and applications through electronic communications networks shall respect the fundamental rights and freedoms of natural persons, as guaranteed by the European Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms and general principles of Community law.

Any of these measures regarding end-users' access to or use of services and applications through electronic communications networks liable to restrict those fundamental rights or freedoms may only be imposed if they are appropriate, proportionate and necessary within a democratic society, and their implementation shall be subject to adequate procedural safeguards in conformity with the European Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms and general principles of Community law, including effective judicial protection and due process. Accordingly, these measures may only be taken with due respect for the principle of presumption of innocence and the right to privacy. A prior fair and impartial procedure shall be guaranteed, including the right to be heard of the person or persons concerned, subject to the need for appropriate conditions and procedural arrangements in duly substantiated cases of urgency in conformity with the European Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms. The right to an effective and timely judicial review shall be guaranteed."

インターネットの自由に関する新規定
新フレームワーク指令第1条第3項a

「電気通信ネットワークを通じたサービスとアプリケーションへのエンドユーザーのアクセスとその利用に関して加盟国が取るどのような手段も、欧州人権条約とEU法の基本原則で保障されている通り、自然人の基本的な権利と自由を尊重しなければならない。

 エンドユーザーの基本的な権利あるいは自由を制約しかねない、電気通信ネットワークを通じたサービスとアプリケーションへのアクセスとその利用に関して加盟国が取るどのような手段も、それらが民主的社会において特に適切で必要なものである場合においてのみ、課され得るものであり、その手段の実施は、欧州人権条約とEU法の基本原則に則り、有効な司法手続きと正当な法に従う手続きを含む、適切な手続きの保障に適うものでなければならない。すなわち、これらの手段は、推定無罪の原理とプライバシーの権利を十分に尊重して取られなければならない。エンドユーザーあるいはその関係者の聴取される権利も含め、欧州人権条約に従い、十分立証された緊急のケースにおいて、適切な条件と手続きの方式を必須とする、事前の公正で公平な手続きが保障される。有効かつ時宜を得た司法審査を受ける権利も保障される。」

 「P2Pとかその辺の話」にも書かれているように、この合意案がフランスのいわゆる3ストライク法を否定するものであるかどうかは意見が錯綜しているのだが、努力の跡は見られるものの、残念ながら、この合意案はあくまで妥協の産物であり、フランスの今の3ストライク法第2案を明確に否定する形とはなっていない。(フランスの今の3ストライク法第2案の問題点については第191回第195回参照。なお、リリースによると、レディング情報社会・メディア担当欧州委員が、いわゆる「3ストライク法」について述べているようだが、これも一般的な話であり、特にフランスの今の3ストライク法第2案を念頭においた発言ではないだろう。)

 第116回で取り上げた以前の修正138条と比較しても、一見、規定の充実が図られ、後退していないようにも見えるが、この新条項は、「事前の公正で公平な手続き」(「司法」の語を含まない)と「有効かつ時宜を得た司法審査を受ける権利」についてわざと曖昧に書かれており、略式手続きだが、一応司法手続き利用型に変更された今のフランスの3ストライク法第2案はおろか、以前の完全に行政機関内のみでネット切断が完結し得る第1案すら否定しているかどうか怪しい完全に玉虫色の規定となっているのである。(第178回で取り上げたように、この第1案は、フランスの憲法裁判所によって完全に否定されているのだが。)

 恐らく、EU議会に新しく入った海賊党の議員も含め、情報の自由の重要性を理解しているEU議員は、フランスの今の3ストライク法第2案を否定するべく努力したことだろうが、EUの構造的な問題もあり、フランスとの政治力のせめぎ合いでこのような玉虫色の妥協案で合意せざるを得なくなったのだろう。(情報と法規制に関する話はまず問題点の理解からして難しいのだが、その理解さえきちんとできていれば、今のフランスの3ストライク法第2案を否定するのはそれほど難しくない。以前の修正138条に「対審を必要とする通常の手続きによる」という語を追加して、「対審を必要とする通常の手続きによる司法当局の事前の判決なくしてエンドユーザーの基本的な権利及び自由に対してはいかなる制限も課され得ない」とするだけである。)

 現時点ではまだ合意したという段階に過ぎず、本当に指令として成立するためには、今後6週間以内に予定されているEU議会とEU理事会の本会議において可決される必要がある。合意として公表されており、今の条項を見ても、これ以上のどんでん返しは考えにくいのだが、このレベルであったとしても、フランスの3ストライク法第2案の施行や他の国の検討に対するプレッシャーにはなるだろう。(また、これは指令なので、各国でその規定を国内法に組み入れる必要があるが、予定通り可決された場合、この期限は2011年5月までとなるようである。)

 しかし、何より重要なことは、インターネットへのアクセスは基本的な権利として位置づけられ、ネットにおける行き過ぎた著作権規制・情報規制は情報に関する基本的な権利を侵害するものとなるということが、欧州では、政策決定のレベルにおいても明確に認識されて来ているということである。また、このリリースにおいて、インターネットアクセスに対して国が取る手段の例として、児童ポルノ規制が明示的に挙げられていることも注目に値する。児童ポルノ規制に関する問題は、西洋諸国を支配するキリスト教道徳を直撃する問題だけに、著作権規制以上に厄介なのだが、問題の本質に対する理解が全く進んでいないということも無い。その行き過ぎた規制によって既に西洋諸国は混乱を来しており、相当時間がかかるかも知れないが、そのブロッキングや単純所持規制を含む児童ポルノ規制が情報に関する基本的な権利を侵害するものとなるという理解は、欧州においても次第に浸透して行くことになるだろう。(ただし、ストライクポリシーを明確に否定する形になっていないのと同様、プレッシャーにはなり得るだろうが、この新条項はサイトブロッキングを明確に否定する形にはなっていない。なお、フランスで騒がれた著作権規制としてのストライクポリシーと、ドイツで騒がれた児童ポルノ規制としてのサイトブロッキングについては、それなりに欧州でも理解が進んでいると思うが、それ以前の、著作権規制としてのダウンロード違法化と、児童ポルノ規制としての情報の単純所持規制の非人道性に関する理解は、残念ながら、世界的に見てもまだ不十分である。)

 情報と法規制に関する問題の理解は常に難しく、どこの国においてもこの手の話は一朝一夕に進むものではないが、例え少しずつだとしても、行き過ぎた規制に対する反動としてだとしても、世界的に確実に問題の理解が進んでいるということもまた事実である。この理解は今後も進んで行くと、情報に関する自由をその最大の基礎とする民主主義国家においては、情報に関する非人道的な規制は長い目で見れば確実に排除されて行くと私は常に確信している。

(2009年10月9日夜の追記:今日のinternet watchの記事でリンクが張られていたので気づいたが、EU議会によるリリースもあったので、そのリンクをここに追加しておく。このエントリで引用したリリースはEU委員会によるものである。)

(2009年10月10日夜の追記:私的録画補償金管理協会(SARVH)がアナログチューナー非搭載DVD録画機に対する補償金の支払いを求めて東芝を提訴したとのニュースがあった(internet watchの記事AV watchの記事ITproの記事Phile webの記事参照)。裁判がどうなるかはどうにも分からないが、どう転んでも、私的録音録画補償金問題はこれでほぼ詰みの状態となる。相変わらずの消費者無視をまずどうにかしてもらいたいと思うが、今度の裁判で制度のそもそもの意義が問い直されることになるだろうと私は期待している。

 また、来年の3月末で地デジ専用B−CASカードの登録制度を廃止するとB−CAS社が発表している(ITmediaの記事AV watchの記事参照)。この問題についてもこれで終わりではないが、無料の地上デジタル放送のB−CASシステムは実質これで完全にエンフォース不能となり死ぬことが確定した。)

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2009年11月 3日 (火)

第196回:リヒテンシュタイン著作権法の権利制限関連規定

 やはり欧州の小国で、今度はリヒテンシュタインである。

 リヒテンシュタイン著作権法から、権利制限に関する部分を以下に訳出する。(翻訳は拙訳。)

E. Schranken des Urheberrechts
Art. 22 Privilegierte Werkverwendungen
1)
Veroffentlichte Werke durfen fur besondere Zwecke verwendet werden. Als besonderer Zweck gilt:
a) jede Werkverwendung im personlichen Bereich und im Kreis von Personen, die untereinander eng verbunden sind, wie Verwandte oder Freunde;
b) die Verwendung des Werks zur Veranschaulichung im Unterricht oder zur wissenschaftlichen Forschung, soweit dies zur Verfolgung nicht kommerzieller Zwecke gerechtfertigt ist und nach Moglichkeit die Quelle sowie der Name der Urheberin angegeben werden;
c) die Vervielfaltigung des Werks auf Papier oder einem ahnlichen Trager mittels photomechanischer Verfahren oder anderer Verfahren mit ahnlicher Wirkung fur Unterrichtszwecke, fur die wissenschaftliche Forschung oder fur die interne Information und Dokumentation in Betrieben, offentlichen Verwaltungen, Instituten, Kommissionen und ahnlichen Einrichtungen;
d) die digitale Vervielfaltigung fur Unterrichtszwecke und fur die wissenschaftliche Forschung ohne unmittelbaren oder mittelbaren wirtschaftlichen oder kommerziellen Zweck.

2) Wer nach Abs. 1 Bst. c zur Vervielfaltigung berechtigt ist, darf die fur den besonderen Zweck erforderlichen Vervielfaltigungen auch durch Dritte herstellen lassen; als Dritte im Sinne dieses Absatzes gelten auch Bibliotheken, andere offentliche Institutionen und Geschaftsbetriebe, die ihren Benutzerinnen Kopiergerate zur Verfugung stellen.

3) Ausserhalb des privaten Kreises sind nicht zulassig:
a) die vollstandige oder weitgehend vollstandige Vervielfaltigung im Handel erhaltlicher Werkexemplare;
b) die Vervielfaltigung von Werken der bildenden Kunst;
c) die Vervielfaltigung von graphischen Aufzeichnungen von Werken der Musik;
d) die Aufnahme von Vortragen, Auffuhrungen oder Vorfuhrungen eines Werkes auf Ton-, Tonbild- oder Datentrager.

4) Dieser Artikel findet keine Anwendung auf Computerprogramme.

Art. 23 Vergutung fur die privilegierten Werkverwendungen
1)
Fur das Vervielfaltigen von Werken im Rahmen der privilegierten Werkverwendungen nach Art. 22 Abs. 1 und 2 wird der Urheberin eine Vergutung geschuldet.

2) Aufgehoben

3) Wer Leerkassetten und andere zur Aufnahme von Werken geeignete Ton- und Tonbildtrager herstellt oder importiert, schuldet der Urheberin dafur eine Vergutung.

4) Die Vergutungsanspruche konnen nur von einer in Liechtenstein zugelassenen Verwertungsgesellschaft (Art. 50 ff.) geltend gemacht werden.

Art. 24 Entschlusselung von Computerprogrammen
1)
Der Code eines Computerprogramms darf vervielfaltigt und seine Codeform ubersetzt werden, sofern folgende Bedingungen erfullt sind:
a) die Handlungen sind unerlasslich, um die erforderlichen Informationen zur Herstellung der Interoperabilitat eines unabhangig geschaffenen Computerprogramms mit anderen Programmen zu erhalten;
b) die Handlungen werden von einer zur Verwendung des Vervielfaltigungsstucks eines Computerprogramms berechtigten Person oder in deren Namen von einer hierzu ermachtigten Person vorgenommen;
c) die fur die Herstellung der Interoperabilitat notwendigen Informationen sind noch nicht ohne weiteres zuganglich gemacht; und
d) die Handlungen beschranken sich auf die Teile des Programms, die zur Herstellung der Interoperabilitat notwendig sind.

2) Die nach Abs. 1 gewonnenen Informationen durfen nicht:
a) zu anderen Zwecken als zur Herstellung der Interoperabilitat des unabhangig geschaffenen Programms verwendet werden;
b) an Dritte weitergegeben werden, es sei denn, dass dies fur die Interoperabilitat des unabhangig geschaffenen Programms notwendig ist;
c) fur die Entwicklung, Vervielfaltigung oder Verbreitung eines Programms mit im wesentlichen ahnlicher Ausdrucksform oder fur andere, das Urheberrecht verletzende Handlungen verwendet werden.

3) Auf das Recht der Entschlusselung gemass Abs. 1 kann nicht verzichtet werden.

Art. 25 Verbreitung gesendeter Werke
1)
Die Rechte, gesendete Werke zeitgleich und unverandert wahrnehmbar zu machen oder im Rahmen der Weiterleitung eines Sendeprogrammes weiterzusenden, konnen nur uber eine in Liechtenstein zugelassene Verwertungsgesellschaft (Art. 50 ff.) geltend gemacht werden.

2) Die Weitersendung von Werken uber technische Einrichtungen, die von vornherein auf eine kleine Empfangerzahl beschrankt sind, wie Anlagen eines Mehrfamilienhauses oder einer geschlossenen uberbauung, ist erlaubt.

3) Dieser Artikel ist nicht anwendbar auf die Weiterleitung von Programmen des Abonnementsfernsehens und von Programmen, die nirgends in Liechtenstein empfangbar sind.

Art. 26 Archivierungs- und Sicherungskopien
1)
Um die Erhaltung des Werks sicherzustellen, darf davon eine Kopie angefertigt werden. Ein Exemplar muss in einem der Allgemeinheit nicht zuganglichen Archiv aufbewahrt und als Archivexemplar gekennzeichnet werden.

1a) offentlich zugangliche Bibliotheken, Bildungseinrichtungen, Museen und Archive durfen die zur Sicherung und Erhaltung ihrer Bestande notwendigen Werkexemplare herstellen, soweit kein unmittelbarer oder mittelbarer wirtschaftlicher oder kommerzieller Zweck verfolgt wird.

2) Wer das Recht hat, ein Computerprogramm zu gebrauchen, darf davon eine Sicherungskopie herstellen, soweit dies fur die Benutzung des Computerprogramms notwendig ist; diese Befugnis kann nicht vertraglich wegbedungen werden.

Art. 26a Vorubergehende Vervielfaltigungen
Vorubergehende Vervielfaltigungen, die fluchtig oder begleitend sind und einen integralen und wesentlichen Teil eines technischen Verfahrens darstellen und deren alleiniger Zweck es ist,
a) eine ubertragung in einem Netz zwischen Dritten durch einen Vermittler oder
b) eine rechtmassige Nutzung eines Werks oder anderen Schutzobjekts zu ermoglichen, und die keine eigenstandige wirtschaftliche Bedeutung haben, sind zulassig.

Art. 26b Vervielfaltigungen zu Sendezwecken
1)
Das Vervielfaltigungsrecht an nichttheatralischen Werken der Musik kann bei der Verwendung von im Handel erhaltlichen oder zuganglich gemachten Ton- oder Tonbildtragern zum Zweck der Sendung nur uber eine in Liechtenstein zugelassene Verwertungsgesellschaft (Art. 50 ff.) geltend gemacht werden.

2) Gemass Abs. 1 hergestellte Vervielfaltigungen durfen weder veraussert noch sonst wie verbreitet werden; sie mussen vom Sendeunternehmen mit eigenen Mitteln hergestellt werden. Sie sind wieder zu loschen, wenn sie ihren Zweck erfullt haben. Art. 12 Abs. 2 bleibt vorbehalten.

Art. 26c Verwendung durch Menschen mit Behinderungen
1)
Ein Werk darf in einer fur Menschen mit Behinderungen zuganglichen Form vervielfaltigt werden, soweit diesen Personen die sinnliche Wahrnehmung des Werks in seiner bereits veroffentlichten Form nicht oder nur unter erschwerenden Bedingungen moglich ist.

2) Solche Werkexemplare durfen nur fur den Gebrauch durch Menschen mit Behinderungen und ohne Gewinnzweck hergestellt und in Verkehr gebracht werden.

3) Fur die Vervielfaltigung und Verbreitung ihres Werks in einer fur Menschen mit Behinderungen zuganglichen Form hat die Urheberin Anspruch auf Vergutung, sofern es sich nicht nur um die Herstellung einzelner Werkexemplare handelt.

4) Der Vergutungsanspruch kann nur von einer in Liechtenstein zugelassenen Verwertungsgesellschaft (Art. 50 ff.) geltend gemacht werden.

Art. 27 Zitate
1)
Veroffentlichte Werke durfen zitiert werden, wenn das Zitat zur Erlauterung, als Hinweis oder zur Veranschaulichung dient und der Umfang des Zitats durch diesen Zweck gerechtfertigt ist.

2) Das Zitat als solches und die Quelle mussen bezeichnet werden. Wird in der Quelle auf die Urheberschaft hingewiesen, so ist diese ebenfalls anzugeben.

Art. 28 Museums-, Messe- und Auktionskataloge
Ein Werk, das sich in einer offentlich zuganglichen Sammlung befindet, darf in einem von der Verwaltung der Sammlung herausgegebenen Katalog abgebildet werden; die gleiche Regelung gilt fur die Herausgabe von Messe- und Auktionskatalogen.

Art. 29 Werke auf allgemein zuganglichem Grund
1)
Ein Werk, das sich bleibend an oder auf allgemein zuganglichem Grund befindet, darf abgebildet werden; die Abbildung darf angeboten, veraussert, gesendet oder sonstwie verbreitet werden.

2) Die Abbildung darf nicht dreidimensional und auch nicht zum gleichen Zweck wie das Original verwendbar sein.

Art. 30 Aufnahmen fur Sendezwecke
1)
Fur eine erlaubte Sendung oder Weitersendung darf ein Werk auf Ton-, Tonbild- oder Datentrager aufgenommen werden.

2) Eine zu diesem Zweck entstandene Aufnahme darf nicht veraussert oder sonstwie verbreitet werden.

Art. 31 Berichterstattung uber aktuelle Ereignisse
1)
Soweit es fur die Berichterstattung uber aktuelle Ereignisse erforderlich ist, durfen die dabei wahrgenommenen Werke festgehalten, vervielfaltigt, vorgefuhrt, gesendet, verbreitet, weitergesendet oder sonstwie wahrnehmbar gemacht werden.

2) Zum Zweck der Information uber aktuelle Fragen durfen kurze Ausschnitte aus Presseartikeln sowie aus Radio- und Fernsehberichten vervielfaltigt, verbreitet und gesendet oder weitergesendet werden; der Ausschnitt und die Quelle mussen bezeichnet werden. Wird in der Quelle auf die Urheberschaft hingewiesen, so ist diese ebenfalls anzugeben.

E 著作権の制限
第22条 著作物の特別な利用
第1項
 公開された著作物の特別な利用は許される。特別な目的としては以下のものが許される:
a)私的領域内と、親類あるいは友人のように互いに密接に結びついた者の間での、あらゆる著作物の利用;
b)それが商業的な目的を有するものでなく、可能な場合は元と著作者の名前を示す限りにおいて、授業における提示あるいは科学研究への利用;
c)授業のため、科学研究のため、あるいは、企業、官公庁、機関、委員会あるいは同様の施設内の内部での情報伝達と資料作成のための、複写手続きあるいは同様の働きをする他の手続きによる、紙あるいは同様の媒体への著作物の複写;
d)間接的にも直接的にも、経済的あるいは商業的目的を有さない、授業と科学研究のためのデジタル複製。

第2項 第1項c)により複製することを認められるものは、特別な目的のために必要とされる場合、その複製を、第3者に作成させることができる。本項における第3者として、図書館、他の公的機関と企業も認められ、その利用者に複写機を利用させることができる。

第3項 私的領域の他、次のことは許されない:
a)市場で複製が入手可能な著作物の全部あるいはほぼ全部の複製;
b)絵画の著作物の複製;
c)図により表わされた音楽の著作物の複製;
d)録音、録画あるいはデータ媒体上の著作物の、演奏、上演、上映からの録音録画。

第4項 本条はコンピュータプログラムには適用されない。

第23条 著作物の特別な利用のための補償
第1項
 第22条第1項と第2項の特別な著作物の利用における著作物の複製から、著作権者は補償を受ける。

第2項(削除)

第3項 ブランクカセットと他の著作物の録音録画に適した物を製造あるいは輸入した者は、著作権者に補償金を支払う義務を負う。

第4項 補償の請求は、(第50条で規定されている)リヒテンシュタインで認められた著作権管理団体のみによって行使され得る。

第24条 コンピュータプログラムの解読
第1項
 次の条件が満たされている限りにおいて、コンピュータプログラムのコードを複製することができ、そのコード形式を翻案することができる:
a)独立開発コンピュータプログラムと他のプログラムの間の相互運用性を確保するために必要な情報を得るために、その作業が必要不可欠であり;
b)その作業が、コンピュータプログラムの複製物の利用を合法的に可能な者によってか、その権限を与えられた者の名においてなされ;
c)相互運用性の確保のために必要な情報が、他にアクセス可能とされることが無く;
d)その作業が、相互運用性の確保に必要なコンピュータの部分に限られる場合。

第2項 第1項に従い得られた情報について、次のことは許されない:
a)
独立開発プログラムの相互運用性の確保の他の目的に用いること;
b)第3者に渡すこと、ただし、独立開発プログラムの相互運用性の確保に必要な場合はその限りでない;
c)本質的に同様の表現形式のプログラムの開発、複製あるいは頒布など、著作権を侵害する作業に利用すること。

第3項 第1項の解読の権利を放棄することはできない。

第25条 放送された著作物の再送信
第1項
 合法的に放送された著作物を、改変なく同時に知覚されるように、あるいは、放送番組の再放送として送信することは、(第50条で規定されている)リヒテンシュタインで認められた著作権管理団体の許諾を受けてのみなされ得る。

第2項 集合住宅あるいは建物の共通部分の設備のように、始めから受信数が少数に限られている技術的な機器による著作物の再送信は許される。

第3項 本条は、契約テレビの番組と、リヒテンシュタインでは受信不可能な番組の再送信には適用されない。

第26条 保存と保護のためのコピー
第1項
 著作物を保存するために、そのコピーを1部作成することは認められる。複製物は、公衆にアクセス不可能とされている保管所に補完されなければならず、資料としての複製物として特徴づけられるものでなければならない

第1a項 直接的にも間接的にも経済的あるいは商業的利益を目的としない限り、公衆にアクセス可能とされた図書館、教育機関、美術館と文書館は、保存と保護のために必要な著作物の複製物を作成することができる。

第2項 コンピュータプログラムを利用する権利を有する者は、その保存のためにコピーを1つ作成することができる。

第26a条 過渡的な複製
一時的あるいは付随的で、技術的なプロセスの一体不可分かつ本質的な部分をなし、
a)ネットワークにおいて第3者間の通信を仲介するか、
b)独立の経済的価値を持たず、著作物等の合法な利用を可能とする、
目的を有する過渡的な複製は許される:

第26b条 放送目的の複製
第1項
 市場で入手可能な録音録画媒体を利用した、放送目的での、非演劇音楽著作物の複製は、(第50条で規定されている)リヒテンシュタインで認められた著作権管理団体の許諾を受けてのみなされ得る。

第2項 第1項に従い作成された複製は、譲渡も頒布もされてはならない。それは、放送事業者により、自らの手段を用いて作成されなければならない。目的が果たされたとき、それは再び消去される。第12条第2項(訳注:人格権の行使に関する規定)は留保される。

第26c条 障害者による利用
第1項
 公表された形において既に障害者に知覚可能なものでないか、厳しい条件のみで可能である限りにおいて、著作物は、障害者にアクセス可能な形式に複製され得る。

第2項 この複製物は、障害者の利用のためにのみ許され、営利目的で作成され得ず、市場に持ち込んでもならない。

第3項 障害者にアクセス可能な形式での著作物の複製と頒布に対し、それが個々の複製物のみに関しない限りにおいて、著作権者は、補償を要求することができる。

第4項 補償の請求は、(第50条で規定されている)リヒテンシュタインで認められた著作権管理団体によってのみなされ得る。

第27条 引用
第1項
 注釈、指摘あるいは解説のためになされる場合には、これらの目的によって正当化される範囲において、公表された著作物の引用が許される。

第2項 引用であること及びその元が示されなくてはならない。この引用元には、著作者が示され、これらが同じくはっきりと書かれなくてはならない。

第28条 博物館、展覧会とオークションのカタログ
収集品として公衆にアクセス可能な形で展示される著作物は、収集品の管理のために発行されるカタログに載せることができる;展覧会とオークションのカタログについても同様である。

第29条 公共の場所にある著作物
第1項
 公共の場所にある著作物は、写し取ることができる;このように写し取られたものは、提供、譲渡、送信あるいは頒布することができる。

第2項 三次元に写し取ることはできず、写し取られたものは、原著作物と同じ目的で利用することはできない。

第30条 放送目的での記録
第1項
 合法的な放送あるいは再送信のために、著作物を録音録画あるいはデータ媒体に記録することは許される。

第2項 この目的で作られた記録は、譲渡も頒布もされ得ない。

第31条 時事の出来事の報道
第1項
 時事の出来事の報道に必要である限りにおいて、知覚可能とされた著作物について、固定、複製、送信、頒布、再送信あるいは知覚可能な形にすることができる。

第2項 時事の問題に関する情報伝達を目的として、報道記事、並びに、ラジオ・テレビの報道の短い部分は、頒布、送信あるいは再送信することができる;ただし、その部分と元は示されなければならない。この引用元には、著作者が示され、これらが同じくはっきりと書かれなくてはならない。

 リヒテンシュタインの権利制限規定も、ヨーロッパの中では、割とオーソドックスな部類に入ると思うが、条文を見れば分かる通り、ルクセンブルクで、ダウンロード違法化やストライクポリシーの導入などは行われていない。また、これらの非人道的な規制について検討されているという話も聞かない。(なお、ルクセンブルグはEUに加盟しているが、リヒテンシュタインは加盟していないので、EUの規則や指令などに縛られることは無い。)

 また、リヒテンシュタインの場合、自前の私的録音録画補償金制度は有していないが、私的録音録画補償金請求権などを有する著作権管理団体として認められているのはスイスの音楽著作権団体SUISAであり、実質スイスの対象と料率が自動的に適用されることとなっているようである。スイスと自由貿易地域を構成している小国としてはあり得る判断だろうとは思うが、このようなことをリヒテンシュタインの消費者・国民が知っているとは到底思えない。第66回第67回で紹介したように、スイスでも補償金制度が消費者に受け入れられている訳では決して無く、リヒテンシュタインでも、消費者がこの制度がそもそも抱えている矛盾に気づいたところで、補償金問題は炎上することだろう。

 最後に少し最近の話も紹介しておくと、前回取り上げたフランスにおける3ストライク法の動向について、「P2Pとかその辺のお話」や、マイコミジャーナルの記事でも取り上げられているので、興味のある方はリンク先を是非ご覧頂ければと思う。これらの記事にもあるように、フランスの3ストライクポリシーを何度も否定して来たEU議会が、民主主義の最重要の基礎である原理を無視して、フランス政府と権利者団体の非道な圧力に屈しつつあることは、実に残念でならない。

 ストライクポリシーについては、ITmediaの記事にもあるように、イギリス政府も推進しようとしているが(第188回も参照)、「P2Pとかその辺のお話」のブログ記事1でも紹介されているように、インターネット・サービス・プロバイダーがそのような措置は人権侵害として訴訟も辞さない構えを見せているなど、フランスに続いて、イギリスもストライクポリシーの検討で当分揉めそうな情勢である。(ただし、「P2Pとかその辺のお話」のブログ記事2でも書かれているように、ドイツの連立政権は今のところストライクポリシーの導入を明確に否定している。そもそもドイツこそ最も非道なダウンロード違法化国であることを忘れてはならないが、ストライクポリシーに関することも含め、秋の総選挙で勝って与党入りしたドイツ自由民主党(FDP:看板に偽りしかない日本の政党と異なり、きちんと自由主義的であり民主主義的である)が、ドイツの政策決定にかなりの影響を及ぼしていることは注目に値する。)

 また、ドイツでは、レコード会社などにより、デジタルの私的複製を許容する権利制限規定は憲法違反であるとするメチャクチャな憲法裁判が提起されていたが、この訴えは無事憲法裁判所によって先月棄却された(ZEITの記事heiseの記事golemの記事、憲法裁判所のリリース棄却の決定文参照)。

 今のところ、次回も、海外の著作権動向の紹介をしたいと考えている。

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