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2009年10月12日 (月)

第193回:PCへの私的複製補償金賦課を否定するオーストリア最高裁の判決

 第168回で、少し記事(heiseの記事Die Presseの記事)を紹介したが、オーストリア最高裁でも、PCへの私的複製補償金を否定する判決が今年の春に出されているので、遅ればせながら、ここで、その内容を少し紹介しておきたいと思う。

 第149回で、その私的複製補償金関連規定を紹介しているが、オーストリアも、ドイツと同様、私的録音録画媒体だけではなく、複写機などにまで補償金を賦課し、著作権管理団体に青天井の補償金請求権を与え、当事者間で話がつかない場合は最終的には全て裁判で片をつけるという、極めてタチの悪い法制を取っており、どこをどうやっても補償金については揉めるようになっている。(なお、オーストリアに私的録音録画機器補償金は無いため、例えば、MP3プレーヤーは専用録音媒体として課金対象となるという仕切りをしている。)

 その中で、2009年2月に出された判決(pdf)は、汎用のPCに対する私的複写補償金の賦課を求めてさんざん訳の分からない策動を続けていたオーストリアの著作権団体に業を煮やしたメーカーが、PCは補償金の対象外であることの確認を求めて起こした訴訟の結果として出されたものである。この判決の最後の部分を抜粋して、以下に訳出する。(訳はいつもの如く拙訳。)

...
Der PC kann Daten nur elektronisch (digital) auf Datentragern abspeichern, Kopien auf Papier oder einem ahnlichen Material (etwa einer Overheadfolie) vermag er nicht herzustellen. Ein PC kann also kein reprographisches Verfahren oder ein der Reprographie ahnliches Verfahren ausfuhren. Hinzu kommt, dass PC auch bereits im Jahr 1996 weit verbreitet im Privatbereich eingesetzt wurden. Hatte der Gesetzgeber die Geratevergutung auch auf PC angewendet wissen wollen, ware deren ausdruckliche Erwahnung - zumindest in den den Gesetzestext erlauternden Bemerkungen - zu erwarten gewesen. Auch anlasslich der Novellierungen des § 42b UrhG (UrhG-Novellen 2003 und 2005) sah der Gesetzgeber keine Veranlassung, PC in die Geratevergutung miteinzubeziehen.
...

Dass der Gesetzgeber einen wirtschaftlichen Ausgleich im Sinn der finanziellen Beteiligung der Urheber fur die (erweiterte) freie Werknutzung anstrebte, rechtfertigt eine uber den Wortlaut hinausgehende Auslegung der Gesetzesbestimmung uber die Reprographievergutung nicht, wenn die Anknupfung an bestimmte Gerate(bestimmteVervielfaltigungsverfahren) deutlich aus dem Gesetz hervorgeht.

Da sich die deutsche Rechtslage, auf die sich die Beklagten fur ihre Auffassung berufen, von der osterreichischen insoweit unterscheidet, als das osterreichische UrhG von „reprographischen oder ahnlichen Verfahren" spricht, § 54a dUrhG aber von „Ablichtung eines Werkstucks oder in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung" ausgeht, sind die zum deutschen Recht (in der vor dem 1. Janner 2008 geltenden Fassung) vertretenen Ansichten nicht fur die Klarung der osterreichischen Rechtslage heranzuziehen. Im Ubrigen hat der Bundesgerichtshof (I ZR 18/06 = CR 2009, 9 f) jungst ausgesprochen, dass der PC nicht zu den nach UrhG vergutungspflichtigen Vervielfaltigungsgeraten gehort.
...

2.5. Als Ergebnis ist daher festzuhalten:
Reprographievergutung ist nur fur Gerate zu leisten, die ihrer Art nach zur reprographischen oder nach ahnlichen Verfahren ausgefuhrten Vervielfaltigung bestimmt sind; dies trifft auf Personal-Computer (PC) nicht zu, fur sie ist keine Reprographievergutung zu leisten.
...

(前略)
PCは、データを電子的に(デジタルで)データ媒体に記録できるに過ぎず、それは、紙あるいは類似の物(例えばOHP)へのコピーを作成することはできない。PCは、複写あるいは複写類似の手続きを実行することはできない。また、PCは既に1996年には販売され、私的領域に持ち込まれている。立法者が、機器補償金をPCにも適用したいと思っていたならば、−少なくとも条文の解説において−その明確な注釈があったことだろう。第42b条の改正(2003年と2005年の改正)の際にも、立法者はPCを補償金の対象とする示唆を与えていない。
(中略)

(拡大された)著作物の自由利用に対する著作権者の財産的分与という意味において経済的バランスを取ろうと立法者が努めたことをもって、法律から特定の機器(特定の複製プロセス)と結びつくことが明らかである場合において、複写補償金に関する法律の字義を超えた解釈が正当化されるということは無い。

オーストリア著作権法で「複写(reprographischen)あるいは類似の手続き」と書かれているのに対し、ドイツ著作権法の第54a条では「著作物の複写(Ablichtung)あるいは類似の働きをする手続き」と書かれているのであり、被告がその意見の中で持ち出しているドイツの法解釈は、ドイツ法(2008年1月から施行されている)に対して持ち出され得るだろうが、オーストリアの法解釈の説明として引き合いに出すことはできない。また、最近、ドイツ最高裁(事件番号I ZR 18/06)も、PCは著作権法上の補償金の対象となる複製機器ではないと判断している。
(中略)

2.5 したがって、以下の通り結論する:
複写補償金は、その手法が複写あるいは類似の手続きによって実行される複製に決められている機器のみに課される。パーソナル・コンピュータ(PC)はこれに該当せず、私的複写補償金が課されることは無い。
(後略)

 読めば分かる通り、この判決により、オーストリアはPCは明確に複写補償金の対象外であるとした。ここで問題になっていたのは私的複写補償金であるが、判決で引用されている通り、私的録音補償金のMP3プレーヤー、PC内の媒体に対する課金についても以前に争われており、(第149回でも少し触れているが、)その2005年7月の判決(pdf)で、やはり、オーストリアの最高裁は、

5. Ergebnis
Nicht jedes Tragermaterial, sondern nur solches, das der gesetzlichen Umschreibung des § 42b Abs 1 UrhG entspricht, unterliegt der in dieser Bestimmung normierten Leerkassettenvergutung. Das trifft zwar auf Tragermaterial, das in MP3-Playern integriert ist, und auf wechselbare Speicherkarten fur solche Gerate zu, die in weit uberwiegenden Maß fur Vervielfaltigungen zum eigenen oder privaten Gebrauch benutzt werden. Demgegenuber werden Festplatten fur Computer in wirtschaftlich nicht zu vernachlassigendem Ausmaß multifunktional verwendet und fallen deshalb - gemessen am Zweck dieser Bestimmung - nicht unter § 42b Abs 1 UrhG.
...

5.結論
全ての記録媒体が、特にこのようなものは、オーストリア著作権法第42b条第1項の規定におよそ関係してはいるが、そこで規定されているブランクカセット補償金に服することはない。その圧倒的多数が自己のあるいは私的領域での複製に使われている、MP3プレーヤーに一体化されている記録媒体と、このような機器のための様々な記録カードは、確かに該当するだろうが。それに対し、コンピュータのハードディスクは経済的に全く無視できない程度に多用途に使われており、したがって、−規定の目的を考慮すると−第42b条第1項に含まれるものでは無い。
(後略)

と、私的録音補償金についてもPCに対する課金を明確に否定しており、今のところ、オーストリアでは、汎用機器・媒体に対する私的複製補償金課金の余地はほとんど無くなっていると考えて良いだろう。

 この判決のように、汎用機器・媒体に対して補償金を賦課しないとする判断は、法的安定性を考えればほぼ当然と言って良いものである。ヨーロッパだからと言って、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無く、あらゆるところで補償金の不当な対象拡大のみが行われている訳では無いと今一度繰り返しておこう。

 この制度における補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのであり、ほぼあらゆる国において、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのが補償金問題の真の実情である。表向きはどうあれ、大きな家電・PCメーカーを国内に擁しない欧州各国は、私的録音録画補償金制度を、外資から金を還流する手段、つまり、単なる外資規制として使っているに過ぎない。

 機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が今後も進んで行くであろうこと、制度自体に本質的な法的不安定性が内在していることを考えると、どこの国であれ、著作権団体が引き続きぬけぬけと不当な対象拡大を狙って来ることは間違いなく、オーストリアでも、補償金に関する裁判闘争が止むことは当分ないだろうと私は予想しており、また何か動きがあれば紹介したいと考えている。

 ついでに紹介しておくと、ドイツでも、この6月に、著作権団体と媒体メーカーが、汎用媒体以外の何物でもないUSBメモリへの補償金課金を行うという珍妙な妥協を図っている(heiseの記事ZDNetの記事、ドイツの媒体メーカー団体のリリース(pdf)参照)。このように、ほとんど音楽用に使われているとは思えない汎用媒体に対する課金を認めようとすることは、補償金の対象をさらに曖昧にすることにしかつながらず、極めて大きな禍根を残すことなるものである。ドイツでは相変わらず、消費者不在の中、メーカーと権利者団体の間で訳の分からない妥協が図られ続けているようだが、このようなやり方で問題の本質が片付く訳はなく、こうしたUSBメモリなどへのバカげた補償金賦課に消費者が気づいたところで、ドイツでも補償金問題は再燃することだろう。

 日本でも、アナログチューナー非搭載デジタル録画機に対する補償金の支払いをメーカーが拒否するなど(internet watchの記事参照)、補償金に関する争いに終わりは見えない。制度の本質的な意味を問う事無く、上っ面だけを糊塗するごまかしの検討を文化庁が続けた日本において、このようなメーカーの支払い拒否はほとんど当然の帰結である。文化庁の私的録音録画小委員会に消費者代表委員を出していた主婦連も、10月7日の要望書で、当然のように、このような消費者無視も甚だしい補償金賦課の動きを批判している。(この要望書によると、とうの昔に見解の相違が顕在化していたこのような機器の扱いについて、文化庁は、何の審議も経ずに、消費者も無視して9月8日に一方的に対象とすべきとする文書を出していたようである。)この問題について書かれた小寺信良氏のITmediaの記事で、氏がいみじくも指摘しているように、補償金制度は崩壊しつつある「ガラスの城」である。最終的にどうなるかは分からないが、この問題も行き着くところまで行き着くしかないだろう。

(10月17日の追記:昨日、アナログチューナー非搭載デジタル録画機に対する補償金の支払いについてメーカー団体のJEITAが文化庁の対応を非難する意見を公表した(AV watchの記事ITmediaの記事JEITAのリリース参照)。)

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