第192回:EU著作権指令に列挙されている権利制限
第11回で、私的複製関連部分を取り上げているが、権利制限一般の話をする上で重要なので、ここで、2001年のEU著作権指令について、他も含め権利制限関連部分の全訳を作っておく。
Article 5 Exceptions and limitations
1. Temporary acts of reproduction referred to in Article 2, which are transient or incidental [and] an integral and essential part of a technological process and whose sole purpose is to enable:
(a) a transmission in a network between third parties by an intermediary, or
(b) a lawful use of a work or other subject-matter to be made, and which have no independent economic significance, shall be exempted from the reproduction right provided for in Article 2.
2. Member States may provide for exceptions or limitations to the reproduction right provided for in Article 2 in the following cases:
(a) in respect of reproductions on paper or any similar medium, effected by the use of any kind of photographic technique or by some other process having similar effects, with the exception of sheet music, provided that the rightholders receive fair compensation;
(b) in respect of reproductions on any medium made by a natural person for private use and for ends that are neither directly nor indirectly commercial, on condition that the rightholders receive fair compensation which takes account of the application or non-application of technological measures referred to in Article 6 to the work or subject-matter concerned;
(c) in respect of specific acts of reproduction made by publicly accessible libraries, educational establishments or museums, or by archives, which are not for direct or indirect economic or commercial advantage;
(d) in respect of ephemeral recordings of works made by broadcasting organisations by means of their own facilities and for their own broadcasts; the preservation of these recordings in official archives may, on the grounds of their exceptional documentary character, be permitted;
(e) in respect of reproductions of broadcasts made by social institutions pursuing non-commercial purposes, such as hospitals or prisons, on condition that the rightholders receive fair compensation.
3. Member States may provide for exceptions or limitations to the rights provided for in Articles 2 and 3 in the following cases:
(a) use for the sole purpose of illustration for teaching or scientific research, as long as the source, including the author's name, is indicated, unless this turns out to be impossible and to the extent justified by the non-commercial purpose to be achieved;
(b) uses, for the benefit of people with a disability, which are directly related to the disability and of a non-commercial nature, to the extent required by the specific disability;
(c) reproduction by the press, communication to the public or making available of published articles on current economic, political or religious topics or of broadcast works or other subject-matter of the same character, in cases where such use is not expressly reserved, and as long as the source, including the author's name, is indicated, or use of works or other subject-matter in connection with the reporting of current events, to the extent justified by the informatory purpose and as long as the source, including the author's name, is indicated, unless this turns out to be impossible;
(d) quotations for purposes such as criticism or review, provided that they relate to a work or other subject-matter which has already been lawfully made available to the public, that, unless this turns out to be impossible, the source, including the author's name, is indicated, and that their use is in accordance with fair practice, and to the extent required by the specific purpose;
(e) use for the purposes of public security or to ensure the proper performance or reporting of administrative, parliamentary or judicial proceedings;
(f) use of political speeches as well as extracts of public lectures or similar works or subject-matter to the extent justified by the informatory purpose and provided that the source, including the author's name, is indicated, except where this turns out to be impossible;
(g) use during religious celebrations or official celebrations organised by a public authority;
(h) use of works, such as works of architecture or sculpture, made to be located permanently in public places;
(i) incidental inclusion of a work or other subject-matter in other material;
(j) use for the purpose of advertising the public exhibition or sale of artistic works, to the extent necessary to promote the event, excluding any other commercial use;
(k) use for the purpose of caricature, parody or pastiche;
(l) use in connection with the demonstration or repair of equipment;
(m) use of an artistic work in the form of a building or a drawing or plan of a building for the purposes of reconstructing the building;
(n) use by communication or making available, for the purpose of research or private study, to individual members of the public by dedicated terminals on the premises of establishments referred to in paragraph 2(c) of works and other subject-matter not subject to purchase or licensing terms which are contained in their collections;
(o) use in certain other cases of minor importance where exceptions or limitations already exist under national law, provided that they only concern analogue uses and do not affect the free circulation of goods and services within the Community, without prejudice to the other exceptions and limitations contained in this Article.
4. Where the Member States may provide for an exception or limitation to the right of reproduction pursuant to paragraphs 2 and 3, they may provide similarly for an exception or limitation to the right of distribution as referred to in Article 4 to the extent justified by the purpose of the authorised act of reproduction.
5. The exceptions and limitations provided for in paragraphs 1, 2, 3 and 4 shall only be applied in certain special cases which do not conflict with a normal exploitation of the work or other subject-matter and do not unreasonably prejudice the legitimate interests of the rightholder.
第5条(例外と制限)
第1項 次のことを可能とすることのみを目的とし、独立した経済的重要性を持たない、技術的なプロセスの必要不可欠な部分をなす、過渡的で付随的な一時的複製は、第2条に規定されている複製権から除外される。(a)仲介としての第3者間のネットワーク通信、あるいは
(b)第2条で規定されている複製権の例外となるべき、独立の経済的重要性を持たない、著作物等の合法利用
第2項 加盟国は、次の場合について第2条で規定されている複製権の制限あるいは例外を規定することができる。
(a)公正な補償を権利者が受け取っているという条件で、楽譜を例外として、写真技術あるいは他の類似の効果を持つプロセスによって実行される、紙あるいは類似の媒体上の複製;
(b)第6条に規定される技術的保護手段の採用あるいは非採用を考慮に入れた公正な補償を権利者が受け取っているという条件で、直接的にも間接的にも商業的でない目的のために、自然人によって私的利用のためになされる、媒体への複製;
(c)直接的にも間接的にも経済的あるいは商業的利益を得ようとするものでない、公衆にアクセス可能とされた図書館、教育機関あるいは博物館による、又は、文書館によってなされる特別な複製行為;
(d)自身の装置によって、自身の放送のため、放送機関によってなされる、著作物の一時的録音録画;公的文書館におけるこの録音録画の保存も、その例外的な資料的性質のために、許される;
(e)公正な補償を権利者が受け取っているという条件で、病院あるいは監獄のような、非常業的目的を有する社会的機関によってなされる、放送の複製;
第3項 加盟国は、次の場合に第2条と第3条に規定されている権利の例外あるいは制限を規定することができる:
(a)教育あるいは科学研究における提示のみを目的とした利用、ただし、それが不可能でない限り、著作者の名前を含めて、元が示されなければならず、達成されるべき非商業的目的により正当化される範囲に限る;
(b)その特定の障害によって必要とされる範囲に限り、その障害に直接的に関係し、非商業的性質を有する、障害を有する人々の便益のための利用;
(c)それが不可能でない限り、著作者の名前を含めて、元が示される限りにおいて、そのような利用が明示的に留保されていない場合の、時事の経済、政治あるいは宗教的事項について出版された記事、あるいは、同じ性質を有する放送著作物等の、公衆伝達、公衆送信あるいは報道機関による複製、あるいは、それが不可能でない限り、著作者の名前を含めて、元が示される限りにおいて、その情報伝達目的によって正当化される範囲での、時事報道と結びついた形での著作物等の利用;
(d)その特定の目的によって必要とされる範囲に限り、その利用が公正な慣行と合致し、それが不可能でない限り、著作者の名前を含めて、元が示されることを、それが既に合法的に公衆に入手可能とされた著作物等に関するものであることを条件として、批評あるいは論評のような目的のための引用;
(e)公共の安全、あるいは、行政、立法あるいは司法手続きにおける報告の適正な実行を確保するための利用
(f)その情報伝達目的により正当化される範囲に限り、それが不可能でない限り、著作者の名前を含めて、元を示すことを条件として、政治的演説の利用、並びに、公共の演説あるいは類似の著作物等の抜粋;
(g)宗教的儀式あるいは公的な機関によって行われる公的な儀式における利用;
(h)建築物あるいは彫刻の著作物のような、公共の場所に永続的に置かれるために作られた著作物の利用;
(i)著作物等の偶然の入り込み
(j)芸術作品の展示あるいは販売の宣伝の目的での、他の商業的利用を除き、そのイベントのプロモーションに必要な限りでの利用;
(k)カリカチュア、パロディあるいはパスティーシュのための利用;
(l)機器のデモンストレーションあるいは修理と結びついた形での利用;
(m)建築物の再建のための、建築物あるいは建築物のデッサンあるいは設計図の形の、美術的著作物の利用;(n)そのコレクションに含まれている販売あるいはライセンス条項にかかわりなく、第2項(c)で規定されている機関の施設内の専用端末による、公衆の個々のメンバーへの、研究あるいは私的学習を目的とした伝達あるいは送信利用
(o)本条に含まれている他の例外と制限にかかわらず、それがアナログ利用のみに関係し、欧州共同体内における物とサービスの自由な流通に影響しないことを条件として、国内法で既に存在している例外あるいは制限での比較的重要性の低い他のケースにおける利用;
第4項 加盟国が、第2項と第3項を目的として複製権の例外あるいは制限を設ける場合、認められる複製行為の目的によって正当化される範囲で、第4条に規定されている頒布権にも例外あるいは制限を設けることができる。
第5項 第1、2、3、4項で規定されている例外と制限は、著作物等の通常の利用を害さず、権利者の正当な利益に不合理な損害を与えない特別な場合にのみ適用される。
この著作権指令を作った時に、各国の権利制限規定をほぼ網羅するように作っているはずなので、ヨーロッパ全体として、2001年当時考えられていた権利制限の類型は大体この程度であったことが分かる。
指令(ディレクティブ)であり、具体的な組み入れは各国の国内法に委ねられているので、今まで紹介して来ている通り、EUでも国毎に権利制限規定はかなりバラツキがあるが、このように一般条項を含まない列挙型の権利制限の国際的な取り決めを作ってしまったことが、EU全体にとって非常に大きな足かせとなってしまっている。
新しい公正利用の類型が出てこないということが仮定できるなら、将来の対応を無視して、一般条項抜きで権利制限に関する国際的取り決めを作っても良いだろうが、常に技術の発展が考えられる中で、このような形を取るのは決して妥当なことでは無いだろう。
(列挙されている権利制限を作ることが「できる」とされているだけなので、強いて解釈すれば、挙げられている権利制限以外にも作ることができると考えられなくもないが、そうすると限定列挙自体意味をなさなくなるので、ここで挙げられている権利制限以外作ることはできないと考える方が妥当だろう。ただし、今のところこの指令の解釈について欧州司法裁判所で争われるといった大きな問題は発生していないので、最終的にどう解釈されるのかは良く分からない。
また、指令中には強行規定的なものとするべき権利制限条項も含まれているが、必ずしも作ることを必要とされていない辺り、欧州レベルにおいても権利制限に関する考察がまだ深まっていなかったことを示している。)
ヨーロッパにおいてもフェアユース導入の議論は皆無では無いが、こうした指令があるのでは、実際の導入は日本よりも遥かに困難だろうし、それ以前に、技術の発展・インターネットの普及によって新たに出て来た様々な公正利用の類型に対応して新たに個別の権利制限条項を作ることすら難しいだろう。
この著作権指令についても、そのうち改正の機運が出て来ると思うが、それまでにおいて、欧州においてある種の権利制限の類型が存在していないことをもって、そのような権利制限を作ることが国際的に見て妥当でないという結論を導こうとするのは大きな間違いである。(文化庁と権利者団体は今後もそういった形で「国際動向」を作ろうとして来ることだろうが。)
また、欧州ではほぼこの著作権指令の形のまま国内法にしている国もあるくらいであり、本来権利制限条項の規定はこれくらいシンプルであっても良いはずだろう。文化庁が権利者団体と癒着して、権利制限条項をわざと狭く使いづらいものとしている日本で、一般フェアユース条項導入の議論が始まったのは、ほとんど彼らの自業自得と言って良い。今後の議論がどうなるかは予断を許さないが、今の日本の状況では、一般フェアユース条項があった方が良いのは確かなことだろう。
最後に、本家フランスが3ストライク制導入で揉める中、先に変形3ストライク制を導入してしまった韓国で、混乱が続いているということを伝える日経のネット記事があったのでリンクを張っておく。どこの国であれ、行き過ぎた著作権保護は混乱しかもたらさない。韓国もまた反面教師国の1つである。
しばらく、著作権関連の各国動向紹介のシリーズを続けて行こうかと思っている。
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