第182回:総務省・「通信・放送の総合的な法体系の在り方」答申案に対する提出パブコメ
総務省の「通信・放送の総合的な法体系の在り方」答申案(pdf)に対する意見募集(7月21日〆切。総務省のリリース、電子政府の該当ページ、概要(pdf)、意見募集要領(pdf)も参照)に対してパブコメを提出したので、ここに載せておく。
良いニュースは全く無いが、一緒に少し紹介しておくと、昨日の夜の密室政策談合で、自民・公明・民主の3党の間で、単純所持を原則禁止することで合意したとのニュースがあった(TBSの記事参照)。捜査機関に対する努力規定など何の意味も無い。あの喧々諤々の国会審議は一体何だったのか。所詮与党も民主党も、全て同じ穴のムジナであり、全てどこまで行っても、旧来の談合政治しかできない最低の妥協政党である。唯一この問題を正しく理解して下さっている社民党の保坂議員のブログ記事(その論点整理も非常に良くできているので、是非一読をお勧めする)によると、10日と14日は衆議院法務委員会が開催される予定は無いそうだが、この与野党の政策談合による合意でネットに対する死刑宣告は下ったに等しい。保坂議員には是非引き続き頑張ってもらいたいと思うし、個人的に最後まで諦めるつもりはないが、児童ポルノ規制問題については、最低最悪の状態をさらに下に突き抜け、主として流動的な国会情勢に賭けるしか無いという状況に落ち入りつつある。
児童ポルノに関しては、リンクを張っただけの少年が児童ポルノ公然陳列幇助で逮捕され、書類送検された(internet watchの記事、ITmediaの記事、J-CASTの記事参照)。印象操作のための捜査としか思えないが、児童ポルノ規制法に関しては、このように現行法ですら危険極まりない、拡大解釈による恣意的な運用が行われているのである。単純所持規制が付け加わった日には、この現代日本で、あり得ない惨状が現出することだろう。
また、一連の動きの中で関連してくる事件として、児童ポルノでは無いが、海外での騒動の種になった「レイプレイ」の無修正改造版をファイル共有ネットワーク上に流したことが猥褻物公然陳列に当たるとして、逮捕者が出ている(時事通信のネット記事、産経のネット記事、京都新聞のネット記事参照)。著作権法違反ならいざ知らず、どこまで行ってもCGに過ぎないものであり、このようなゲームが本当に猥褻物に当たるかどうかすら怪しいだろう。今の警察にとって事件は解決するものでは無く、規制強化のために作るもののようである。このように印象操作のためのあまりも露骨な恣意的な捜査を行う警察など、全く信用に値しない。
最後に1つだけ海外のニュースを紹介しておくと、「P2Pとかその辺のお話」でも紹介されているように、第181回で取り上げた3ストライク法案の第2案が、フランスの上院を賛成189名、反対142名で通過した(Numeramaの記事、AFPの記事、PC INpactの記事も参照)。この法案もこれで下院での審議に移るが、上院通過版の法案を見ても、本質的な部分で修正が入った訳では無く、まだまだ揉め続けるだろう。
(7月10日夜の追記:保坂議員のブログ記事によると、児童ポルノ規制問題に関しては、与野党の間にまだ隔たりがあるようである。TBSの記事はかなり飛ばし気味だと分かったが、火の無いところに煙は立たないので、捜査機関に対する無意味な努力義務規定で単純所持規制をごまかして通そうとする危険極まりない折衷案が、与野党の密室政策談合で検討されているのだろう。この問題については、断頭台に首が載った状態が続くことに変わりはない。(?様、ぼるてっかー様、コメント・情報ありがとうございます。)
(7月17日の追記:入れ忘れていたので、タイトルに「総務省・」を追加した。)
また、今日、MIAUが児童ポルノ法改正に関して声明(解説)を出したので(internet watchの記事も参照)、これもリンクを張っておく。この声明も、問題点を良くとらえているものと思う。)
(以下、提出パブコメ)
1.氏名及び連絡先
氏名:兎園(個人)
連絡先:
2.意見要旨
放送が放送法によって包括的な規制を受けている理由として、有限希少な周波数を占用するものであることもきちんとあげ、インターネットによる通信を、放送とともにコンテンツ規律の対象とする必要性は認められないとする考え方を私は強く支持する。今後の具体的な法制の検討においては、このような考え方を厳格に守り、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも慎重に進めてもらいたい。今後、危険な規制強化の検討では無く、現在の放送通信各法における不必要な規制の洗い出しと、特に放送がインターネットにおける情報流通と競争できるようにするための放送規制の緩和といった、真に国民全体を裨益する地道な検討のみが行われることを期待する。
特に個別の論点として、以下の4点を私は強く求める。
・放送関連四法の集約に合わせ、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルに入れること。
・現行の「電気通信事業法」を核とした伝送サービス規律に関わる制度の大括り化を図る際、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、法律レベルに明文で書き込むこと。
・同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を法律レベルに明文で書き込むこと。
・青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正。
3.意見
(1)第4ページ「(2)民間の創意工夫を生かした新技術導入の促進」について
この項目において、技術基準について触れられているが、今現在無料の地上放送にコピー制限のための技術基準として導入されているB−CASシステムは談合システムに他ならない。これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B−CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能している。情報通信審議会・デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会において、現行システムと併存させる形でチップやソフトウェア等の新方式を導入することが提言されているが、無意味な現行システムの維持コストに加えて新たなシステムの追加で発生するコストまでまとめて消費者に転嫁される可能性が高いこのような弥縫策は、一消費者として全く評価できないものである。
総務省は過去の情報通信審議会において、コピーワンスの導入のために無料地上波にB−CASシステムを導入するのが適当という結論を出し、平成14年6月に省令改正(「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式の一部を改正する省令」)まで行って、その導入を推進している。無料の地上放送へのB−CASシステムの導入をもたらしたこの省令改正を、総務省は失策として認めるべきである。
技術基準の柔軟性の向上も必要であるが、現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とする、無料の地上放送において暗号化を施しコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。法的にもコスト的にも、どんな形であれ、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、放送関連四法の集約に合わせ、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルに入れることを、私は一国民として強く求める。
(2)第7ページ「(1)伝送サービス規律の再編」について
ダウンロード違法化問題やプロバイダーにおける違法コピー対策問題における権利者団体の主張、児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。
また、児童ポルノに関するネット規制の1つとして検討されているサイトブロッキングについても、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させることなど、検閲にしかなりようが無く、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないブロッキングもまた導入されてはならないものである。
このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、この項目において書かれている、現行の電気通信事業法を核とした伝送サービス規律に関わる制度の大括り化を図る際には、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、法律レベルに明文で書き込むことを検討してもらいたい。同じく、憲法に規定されている検閲の禁止から、技術的な著作権検閲やサイトブロッキングのような技術的検閲の禁止を法律レベルに明文で書き込むことを検討してもらいたい。
(3)第11ページ「(1)メディアサービス(仮称)の範囲」について
放送が放送法によって包括的な規制を受けている理由として、有限希少な周波数を占用するものであることもきちんとあげ、インターネットによる通信を、放送とともにコンテンツ規律の対象とする必要性は認められないとする考え方を私は強く支持する。今後の具体的な法制の検討においては、この考え方を厳格に守り、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも慎重に進めてもらいたい。
なお、この項目において、プロバイダー責任制限法についても触れられているが、今後、プロバイダの責任の在り方について検討する際には、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討してもらいたい。特に、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。
(4)第17ページ「(4)「オープンメディアコンテンツ」に関する規律」について
この項目において、青少年ネット規制法、フィルタリングサービスの導入促進及び改善、「e−ネットづくり!」宣言といった官製キャンペーンについて触れられている。
しかし、そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。なお、付言すれば、出会い系サイト規制法の改正も、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
フィルタリングについても、その過去の政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えた。この問題については、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討してもらいたい。また、フィルタリングで無意味に利権を作ろうとしている総務省と携帯電話事業者他の今の検討については、完全に白紙に戻されるべきである。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。
官製キャンペーンについても、総務省への参加申請・登録の要請や総務省製のロゴマークの販促といった、ニーズを無視したいつもの官製キャンペーンに過ぎず、普通に考えて税金のムダ使いしかならない、「e−ネットづくり!」宣言のような官製キャンペーンに私は反対する。今以上に、規制よりにしかならないだろう官製「自主憲章」やガイドラインなども不要である。
この点においては、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種の問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、地道な教育・啓発に関する施策のみに注力する検討が進むことを期待する。
(5)第19ページ「5.プラットフォーム規律」について
コンテンツ規律の中に、既存のプラットフォーム規律である有料放送管理事業に係る規律を位置づけること自体に反対するものではないが、放送に関するコンテンツ規律の中に、異質なプラットフォーム規制を混ぜることによって、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも注意してもらいたい。
(6)報告書全体について
放送が放送法によって包括的な規制を受けている理由として、有限希少な周波数を占用するものであることもきちんとあげ、インターネットによる通信を、放送とともにコンテンツ規律の対象とする必要性は認められないとする考え方を私は強く支持する。今後の具体的な法制の検討においては、このような考え方を厳格に守り、現在の放送・通信法の対象外にまで不必要な規制が及ぼされることがないよう、くれぐれも慎重に進めてもらいたい。
従来、放送が勝手に相当部分を独占して来た情報流通が、インターネットの発展によって崩れてきたということこそ、通信と放送の関係における問題の本質である。今後は、危険な規制強化の検討では無く、現在の放送通信各法における不必要な規制の洗い出しと、特に放送がインターネットにおける情報流通と競争できるようにするための放送規制の緩和といった、真に国民全体を裨益する地道な検討のみが行われることを期待する。
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コメント
どうも、昨日の合意とやらは反対派の枝野議員の都合がつかない時間を狙って、推進派の小宮山が行ったものらしい。
修正案が出た場合はそれ以上議論できないらしいが、どうにかできないのだろうか?
投稿: | 2009年7月10日 (金) 10時55分
TBSのニュースで「単純所持規制で与野党原則合意」
ttp://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4180098.html
内容が内容だったので、民主党と枝野議員の事務所に電話して聞いてみました。
民主党の製作調査の方はまだ協議中で内容はわからないとのこと。
枝野議員の事務所の方は、はっきりと合意していないと否定してくれました。
単純所持禁止、3号ポルノ、附則2条、どれも反対のままだそうです。
やはり、TBSの先走りというか、偏向報道だったようです。
投稿: ぼるてっかー | 2009年7月10日 (金) 12時09分