第179回:イギリス文化省の「デジタル・ブリテン」最終報告書に含まれている海賊版対策
第151回で、イギリス文化省の「デジタル・ブリテン」中間報告書を取り上げたが、この6月18日に、その最終報告書(pdf)が公表された(イギリス文化省のリリース、報告書のHP)。
これもまた、日本の報告書と同じで、その通りになるとは全く限らないものだが、現時点でのイギリス政府の考え方を知る上で重要な資料と思うので、今回は、この最終報告書の内容を紹介しておきたいと思う。(この報告書は非常に大部のもので、あくまでメインは通信放送政策であり、ここで取り上げるのは、その知財関係の部分に過ぎない。なお、知財とは直接関係しないが、Businessweekの記事でも触れられているように、固定銅線網にブロードバンド化のための税をかけるという案もイギリス国内で相当議論を呼ぶのではないかと思う。)
まず、第1章の概要(第7ページ~)の中から、特に海賊版対策を目的としたもの等法制に関する部分を抜粋して以下に訳出する。(いつもの如く、以下全て翻訳は拙訳。)
45 In relation to rights, the Government believes piracy of intellectual property for profit is theft and will be pursued as such through the criminal law. The civil infringement of taking someone else’s intellectual property or passing it on to others through file-sharing without any compensating payment is, in plain English, wrong. However, the Government also believes, and the evidence suggests, that most people, given a reasonable choice would much prefer not to do wrong or break the law. The objective of the Government’s policy is therefore three-fold. Firstly, to provide a framework that encourages the growth of legal markets for downloading that are inexpensive, convenient and easily accessible for consumers.
46 Secondly, through encouraging suitable information and education initiatives, to ensure that consumers are fully aware of what is and is not lawful. And thirdly we aim to provide for a graduated response by rights-holders and ISPs so that they can use the civil law to the full to deter the hard core of users who wilfully continue unlawful activity. The Government intends to provide initially for Ofcom to have a duty to secure a significant reduction in unlawful file sharing by imposing two specific obligations: notification of unlawful activity and, for repeat-infringers, a court-based process of identity release and civil action. The Government is also providing for intermediate technical measures by ISPs, such as bandwidth reduction or protocol blocking, if the two main obligations have been reasonably tried but, against expectations, shown not to have worked within a reasonable but also reasonably brisk period.
47 As part of the Government’s desire to encourage inexpensive but legal consumer access to digital content, we will also make some changes to the legislative framework around copyright licensing, to tackle problems such as those surrounding the use of so-called orphan works and thus help digital markets in those works to develop.
48 Fundamental changes to existing analogue models of rights, monetisation and personal security capabilities require a total re-thinking of business models. The private sector will be doing its own research. But as set out in ‘Building Britain’s Future’ the Technology Strategy Board has a major and growing role in addressing collaborative and pre-competitive research and innovation in key sectors of our economy. Digital Britain is one of the core programmes for the Technology Strategy Board which has committed £30m to Digital Britain- related research and a minimum of £10m to specific innovation programmes. They will use the next generation broadband networks as test-beds to enable infrastructure providers, content owners and consumers to come together to trial innovative projects on micropayments and other methods of monetisation of digital content, new rights models and new methods of ensuring personal digital security.
49 Creative content is not restricted to the traditional analogue industries of the performing arts, film and broadcasting. Other countries such as Canada extend the model of cultural tax relief beyond the film industry to the interactive and online worlds. CGI, electronic games and simulation also have a significant role in Britain’s digital content ecology and in our international competitiveness. Each of these has the same capability as the more traditional sectors, such as film, to engage us and reflect our cultural particularism. They may in future have a cultural relevance to rival that of film. The Government has therefore committed to work with the industry to collect and review the evidence for a tax relief to promote the sustainable production for online or physical sale of culturally British video games. This work will balance any potential support with the need for fair competition and ensure value for money for taxpayers.
45 権利に関して、政府は、営利目的での知的財産権の侵害行為は窃盗であり、このようなものは刑法によって訴追されるべきであると考える。他人の知的財産権の民事的な侵害、あるいは、何らの補償なくそれをファイル共有を通じてイギリス国内で他者に提供することは、間違っている。しかしながら、ほとんどの人々は、合理的な選択肢を与えられれば、間違ったことをすることも法律を破ることも無いと、政府は信じており、そのように証拠も示唆している。したがって、政府の政策目標は、3つの側面を有している。第1に、安価で、便利で、消費者にとって簡単にアクセス可能な合法ダウンロード市場の発展を促進すること。
46 第2に、適切な情報と教育戦略の促進を通じて、消費者に、確実に、何が合法で何が違法かを完全に気づかせること。そして、第3に、意図的に違法な行為を続けている中核ユーザーを完全に抑止するための民事手続きを使えるようにし、権利者とインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)に段階的対応を提供することを我々は目的とする。違法行為の通知と、繰り返しの侵害者に対する、司法判断に基づく個人情報開示と民事の手続きという2つの特別な義務を科すことで、違法なファイル共有を確実に相当減らすことを、情報通信庁に義務づけることを、政府はまず意図している。2つの主な義務が合理的に試されたが、予想に反して、合理的に合理的な短期間で機能しないことが示された場合、政府はまた、帯域制限やプロトコル・ブロッキングのような、介入技術手段をISPに提供する。
47 消費者の安価で合法なデジタルコンテンツへのアクセスを促進するという政府の希望については、著作権ライセンスを取り巻く法的枠組みを何がしか変え、いわゆる孤児作品の利用を取り巻く問題のような問題に取り組み、このようにして、このような作品のデジタル市場の発展の後押しをすることを考えている。
48 権利、マネタイズと個人のセキュリティ能力のアナログモデルに対する根本的な変化は、ビジネスモデルの完全な再考を必要としている。民間部門も自身の研究を行うことだろう。しかし、「ブリテンの未来構想」において立案されているように、技術戦略委員会は、我々の経済におけるキー部門における協力的で前競争的な研究に対する取り組みに、主な成長要因があると見ている。デジタル・ブリテンは、3000万ポンドをデジタル・ブリテン関連の研究に、少なくとも1000万ポンドを特定のイノベーション・プログラムに向けることを決めた技術戦略委員会のコア・プログラムの1つをなすものである。それらは、インフラ提供者、コンテンツ所有者と消費者が、デジタルコンテンツの小額決済他のマネタイズ方法、新たな権利モデルと個人的なデジタルセキュリティを確保する新たな方法に関する革新的なプロジェクトをともに試すことを可能とするための実証実験のような、次世代のブロードバンド・ネットワークのために使われる。
49 創造的なコンテンツは、伝統的なアナログの実演芸術、映画と放送産業に限られるものではない。カナダのような他の国は、文化減税のモデルを、映画産業から、インタラクティブなオンラインの世界まで広げている。CG、電子ゲームとシミュレーションもまた、ブリテンのデジタルコンテンツ環境と我々の世界的競争の中で、大きな役割を担っている。これらのそれぞれは、映画のような、より伝統的な部門と同じ潜在力を有しており、我々の注意を引き、我々の文化的特性を反映している。それらは、将来的に、フィルムに対抗する文化的な正当性を有するようになることだろう。したがって、政府は、この産業とともに、文化的なブリテンのビデオゲームのオンラインあるいは物理的な販売のための適切な製作を促進する税軽減のための証拠の収集と検討の仕事を行うと約束した。この仕事は、公正な競争の必要性に対するあらゆる潜在的なサポートとバランスが取れ、納税者に対する金銭的価値が確かに有るものでなくてはならない。
より具体的な内容は、第105ページからの「第4章 デジタル世界における創造的産業」に書かれているが、第111ページからの「法制の提案」については、第113ページにまとめがついているので、上と重なるところもあるが、その部分をさらに以下に訳出する。
Legislation to reduce unlawful peer-to-peer file-sharing
The key elements of what we are proposing to do are:
・Ofcom will be placed under a duty to take steps aimed at reducing online copyright infringement. Specifically they will be required to place obligations on ISPs to require them:
- to notify alleged infringers of rights (subject to reasonable levels of proof from rights-holders) that their conduct is unlawful; and
- to collect anonymised information on serious repeat infringers (derived from their notification activities), to be made available to rights-holders together with personal details on receipt of a court order.Ofcom will also be given the power to specify, by Statutory Instrument, other
conditions to be imposed on ISPs aimed at preventing, deterring or reducing
online copyright infringement, such as:
・Blocking (Site, IP, URL);
・Protocol blocking;
・Port blocking;
・Bandwidth capping (capping the speed of a subscriber’s Internet connection and/or capping the volume of data traffic which a subscriber can access);
・Bandwidth shaping (limiting the speed of a subscriber’s access to selected protocols/services and/or capping the volume of data to selected protocols/
services); and
・Content identification and filtering.This power would be triggered if the notification process has not been successful after a year in reducing infringement by 70% of the number of people notified.
違法P2Pファイル共有を減らすための法制
我々が提案していることのキーとなる要素は次のようなものである:
・情報通信庁は、オンライン著作権侵害を減らすことを目的として歩を勧める義務の下に置かれる。特に、彼らには、ISPに次の義務を課すことが求められることになる:
-(権利者から提出される合理的なレベルの証拠によって)権利を侵害していると考えられる者に、その行動が違法なものであることを通知すること;そして、
-(その通知された行為から)深刻な繰り返しの侵害者についての匿名のまま情報を収集し、裁判所の命令の受理とともに、個人情報とともにそれを権利者に入手可能とすること。情報通信庁は、法定のツールとして、オンライン著作権侵害を予防し、防止しあるいは減らすことを目的とした以下のようなISPに課される他の条件を特定する権限を与えられる:
・ブロッキング(サイト、IP、URL);
・プロトコル・ブロッキング;
・帯域の上限設定(契約者のインターネット接続のスピードの上限設定及び/又は契約者がアクセス可能なデータトラフィックの量の上限設定)
・帯域シェイピング(契約者の特定のプロトコル/サービスへのアクセス及び/又は特定のプロトコル/サービスのデータ量の上限設定)
・内容の特定とフィルタリング。このような権限は、通知手続きが、1年後、通知を受けた人々の数の70%の侵害を減らすことに成功しない場合に、開始される。
前回書いたように、フランスでは、憲法裁判で3ストライクアウトポリシーの本質が否定されたが、今なお、イギリスの方針は、中間報告書(第151回参照)で書かれていたことと変わらず、ISPに警告通知を出すことや侵害を繰り返すユーザーの情報を収集することを義務づけようとしており、ISPの著作権警察化を図ろうとしていると見える。
当たり前の話で、警告通知などの全コストをISP、消費者あるいは国家負担とすると、権利者団体によって警告通知要請が乱発され、混乱をまねくことになるに違いないのだが、この最終報告書を読んでも、警告通知や情報収集のコスト負担についてイギリスがどう考えているのかはいまだ良く分からない。
第151回で、エンフォースメントの主体となる権利エージェンシーというものがどうなるのか良く分からないとも書いたが、第4章の第25段落で「産業界の主体(中間報告書に記載されている『権利エージェンシー』あるいは今の用語で『権利機関』)が、情報通信庁のためのこれらの法律の起草に参加し、賛同することを我々は期待し、全ての権利者とISPがこれにおいて役割を果たすことを我々は促す。」と書かれているくらいで、この権利エージェンシーについても、この最終報告書でもやはり良く分からないことに変わりは無い。
フランスやニュージーランドの例を見ても、このような変形ストライクポリシーはまず入り口のところでコケそうな気もするが、イギリスの考えでは、さらに、どのような形を取るにせよ、このようなポリシーの導入後、6ヶ月経っても効果が見られない場合には、追加措置を検討し、1年後に上記の引用箇所の後半に書かれているような技術的な手段をさらに導入しようとするらしい。以前の中間報告書にはここまではっきりと書かれていなかったように思うが、このような技術による著作権検閲は、法的・技術的に極めて問題が大きく、検閲の禁止や表現の自由の観点から見ても非常に危険なものである。
イギリスがどのように、このような変形ストライクポリシー・技術による著作権検閲を押し進めるのか、そもそも押し進められるのかも良く分からないが、見る限り法的・技術的・ビジネス的に問題は山積みであり、今のところうまく行くようには私には全く思えない。(今のところ非常に難しいように思うが、もし、本当にこのようなポリシーが導入された場合には、英米は裁判(判例法)の国なので、生じた混乱について裁判で時間をかけて軌道修正して行くことになるのだろう。)
さらに、法制絡みの話として、他にいくつか気になったところもいくつか訳しておくが、まず、第113ページに、フェアユースについて、
FAIR USE
32. A number of people have raised with us during this process whether the current IP infringement framework reflects the digital environment, and whether provisions for ‘fair use’ by citizens are reasonable. The Government has considered whether, in the round there should also be a modernisation of ‘fair use’ rights for consumers to reflect the realities of the digital age. The Government has concluded that the scope for such modernisation is heavily constrained within the EU copyright framework. The Government is however considering the scope to amend the copyright exceptions regime where we believe exemptions exist, in areas such as distance learning and the preservation of archive material and intends to announce a consultation on these later this year. Clearly, on the broader question of modernisation of fair use rights, further work remains to be done.ファアユース
32.今度のプロセスを通じて、最近の知的財産権侵害の枠組みがデジタル環境を反映したものであるかどうか、「フェアユース」規定が市民にとって合理的なものかどうかについて、かなりの数の人々が我々に問題提起をして来た。政府は、今回、デジタル時代の現実を反映して、消費者のための「フェアユース」の権利の現代化が必要かどうかを検討した。政府は、そのような現代化の範囲は、EUの著作権法制の中で大きな制約を受けているという結論を得た。しかしながら、政府は、著作権の例外制度の範囲の改正について、遠隔教育やアーカイブ資料の保存など制限が存在して良いと思う部分があることを考慮し、今年の後半に検討を開始するつもりである。疑いも無く、フェアユースの権利の現代化のようなより大きな問題についても、さらになすべき仕事は残っている。
と書かれている。要するにEUの枠内ではフェアユースの導入は難しいが、検討を続けるということである。この書き方を見ても、欧州でのフェアユース規定導入は今のところ期待薄だが、欧州においてもフェアユース導入の議論があるというくらいの参考にはなるだろう。
また、恐らく、イギリスでも放送局がわめいているためだろう、かなりトリッキーな書き方になっているが、私的録画補償金問題についても、第119ページに、
REUSE - THE RIGHT TO RECORD
62. Recording equipment (e.g. PVRs, DVD Recorders) enables consumers to record copyright material that can be viewed at the leisure of the consumer over an indefinite period of time. The market for recording equipment is growing, and forecasts suggest that consumers are increasingly turning to time-shifted and non-linear viewing.63. Industry participants argue that consumers should pay for a ‘right to copy’, reimbursing the copyright holder for the privilege of (a) retaining a recording of the material, and (b) being able to watch the material outside of the linear broadcast window.
64. The UK music industry already has a well established licensing regime for audio copyright material, and it is argued that this should be replicated for visual content.
65. A system of reuse charges already exists in Europe, generating ?568m in 2004 across the 22 EU states that employ it. Most of this income is recycled back to the copyright holder, with a proportion retained for national cultural initiatives. Oliver & Ohlbaum estimate that a similar system in the UK could generate c.£176m pa by 2012, and c.£206m pa by 2015 in reuse charges.
66. In the UK, however, broadcasters already benefit from substantial public intervention of a kind not available in a range of other EU States e.g. the TV Licence fee, direct Government grants and regulatory assets (e.g. spectrum allocation, EPG position). While the Government recognises that a reuse system has the potential to generate significant incremental revenues for UK content, it is not persuaded that in the current economic climate it would be right to add to the retail cost of recording devices. Government will keep this issue under review and will invite Ofcom to assess the cost/benefit and framework required for the introduction of ‘re-use’ fees for private copying and format shifting.
再利用-録画権
62.録画機器(例、アナログビデオ、DVD録画機)は、消費者によって限りの無い時間にかけて好きに見られるよう、著作物を録画することを消費者に可能とするものである。この録画機器の市場は成長しており、消費者を大きくタイムシフト・異時視聴へと向けると予想も示唆している。63.産業関係者は、消費者は「複製権」のために支払うべきであり、(a)録画媒体の保持と(b)直接的な放送ウィンドウの外で媒体を見るが可能になることという恩恵のために、著作権者に補償をするべきだと主張している。
64.イギリスの音楽産業は既に、音楽媒体についてライセンス体制を作り上げており、それを映像コンテンツにも適用するべきだと主張している。
65.再利用料のシステムは既にヨーロッパにおいて存在しており、それを採用している22のEU諸国全体で2004年に5億6800万ユーロを生み出している。この収入のほとんどは著作権者に戻されるが、その一部は、国家的な文化事業のために取り置かれる。オリバー&オールバウムは、イギリスにおける似たようなシステムは、再利用料として2012年には1億7600万ポンドを、2015年には2億600万ポンドを生み得ると試算している。
66.しかしながら、イギリスにおいては、放送局は既に、他のEU諸国においては手に入らないような類いの、例えば、テレビ視聴料、政府による直接的な認可と規制資産(例えば、帯域の割当、EPGの位置等)のような、実質的な公的介入から利益を得ている。政府は、再利用システムが、イギリスのコンテンツのためにかなりの収入増をもたらし得ることは認めるものの、今の経済情勢の中で、録画デバイスの小売りコスト増をまねくことが正しいとは全く思わない。引き続きこのことを検討し続けるとともに、私的複製とフォーマットシフトに対する「再利用」料の導入に必要となるコスト・ベネフィット分析と枠組みの評価をするよう、政府は、情報通信庁に促す。
という記載が入っている。結論は、引き続き検討という日本のお役所のようなものだが、私的録音録画補償金問題において、公的に与えられている各種の既得権益は補償金の一種と考える必要があるということや、社会全体としてのコスト・メリット分析が非常に重要であるということを正しく認識している点で、イギリスは今のところ録画補償金制度の導入に非常に否定的であると考えて良いだろう。
文化庁へのパブコメには度々書いている(例えば、第154回参照)が、コンテンツ産業振興として使われる税金も補償金の一種ととらえられるのであり、放送局についても、各種の受信料や電波帯域の割当などの公的な既得権益を全て補償金の一種ととらえることは当然可能である。イギリスにおいて私的録音録画補償金制度が存在していないことで何か不都合が生じているという話も聞かず(上で録音についてライセンススキームが存在していると言っているが、法的な私的複製補償金はイギリスには存在していないので、これはiTunesなどにおける契約を指したものだろう)、権利者団体があらゆる国で常に言いつのる「複製=対価」の著作権神授説にほとんど合理性は無く、まともにコスト・メリット分析をやれば、外資からの資本の還流手段として抜け目無くこの制度を利用している、大手メーカーを国内に擁していない欧州大陸各国ならいざしらず、普通の国なら全体として損という結果が出るだけだろう。権利者団体の言うことをどこまでも丸呑みにするしか能の無い腐り切った日本政府に期待はほとんどできないが、私的録音録画問題について、これらの点を正しく認識している政府が世界には存在していることは注目されても良いのではないかと思う。
また、孤児作品についても、何かしらの許諾スキームの導入を考えているようだが、最終的にどのような形になるのかはこの報告書からはまだ良く分からない。法定の罰金上限の引き上げ(5千ポンドから5万ポンドへの引き上げ)や、他にも、ケーブルによる放送の再送信を著作権侵害でないとするイギリス著作権法第73条の除去なども検討されているので、もし興味があれば、報告書本文に直接当たってもらえればと思う。
フランスでの憲法裁判の結果、欧州各国でのいわゆるストライクポリシー採用の芽はほとんど消えたのではないかと私は思っているが、フランスでもサルコジ大統領が相変わらず往生際悪く、著作権問題についてとことんまでやると宣言するなど(GNTの記事参照)、欧州において、ストライクポリシーの余波は当分残りそうである。
最後に1つだけ著作権関係の国際ニュースを紹介しておくと、オランダで、下院の委員会が、ダウンロード違法化とセットで私的録音録画補償金を完全に廃止するという提案をしたようである(tweakers.netの記事、De Telegraafの記事、Trouwの記事参照)。非常に大胆な提案だが、記事を読んでも賛否ともにあり、非常に危険な妥協としてどこかで止まるのではないかと私は思っている。なお、このような提案とオランダにおけるフィリップスの存在は決して無関係では無いだろう。
(6月25日の追記:昨日(6月24日)に知財本部で「知的財産推進計画2009」(pdf)が決定されたので(知財本部のHP、本部会合議事次第も参照)、次回は、この知財計画の内容について書きたいと思っている。)
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