第172回:内閣府・「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(素案)」に対する提出パブコメ
内容はほぼ今まで出して来た各種パブコメのまとめだが、第170回で取り上げた青少年ネット規制法の基本計画素案に対してパブコメを提出したので、念のために、ここに載せておく。
次回は、フランスの3ストライクアウト法案の内容の紹介をしようかと思っている。
(5月19日夜の追記:フランスで、今日、3ストライク法案に対して憲法裁判所への訴えが提起された(01netの記事、ZDNetの記事参照)。この裁判の結果次第で、また条文が変わってくる可能性があるのだが、次回は、現時点での条文の紹介をしたいと思っている。)
(以下、提出パブコメ)
(1)官製キャンペーンについて
第8ページの「第2 5.(2)インターネット利用者・事業者の主体的な活動への支援」に書かれている、官製キャンペーンについて、総務省への参加申請・登録の要請や総務省製のロゴマークの販促といった、ニーズを無視したいつもの官製キャンペーンに過ぎず、普通に考えて税金のムダ使いしかならない、「e-ネットづくり!」宣言のような官製キャンペーンに反対する。今以上に、規制よりにしかならないだろう官製「自主憲章」やガイドラインなども不要である。
また、このような官製キャンペーンの受け皿となるのであろう、第13ページの「第4 5.その他のインターネットの利用環境整備に向けた活動に対する支援」に書かれている「安心ネットづくり促進協議会」の全事業について、その必要性について、きちんとした再検討を行ってもらいたい。
(2)携帯電話フィルタリングについて
第10ページの「第3 2.(2)携帯電話・PHSのフィルタリングの閲覧制限対象の適正化支援」において、健全サイト認定第3者機関を支援するとしているが、フィルタリングで無意味に利権を作ろうとしている総務省と携帯電話事業者他の今の方針については、完全に白紙に戻されるべきである。
携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。
(3)インターネット・ホットラインセンターについて
第10ページの「第3 3.フィルタリング提供事業者による閲覧制限対象の把握の支援」、及び、第14ページの「第5 2.(1)インターネット・ホットラインセンターを通じた削除等の対応依頼推進」に書かれている、インターネット・ホットラインセンターについて、その廃止を求める。
サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。
(4)児童ポルノ規制について
第14~第15ページの「第5 2.(2)事業者や民間団体の効果的な閲覧防止策の検討支援」において、児童ポルノサイトブロッキングの検討を支援するとしているが、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利を含む)や検閲の禁止といった国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないサイトブロッキングは導入されてはならないものである。
また、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持・アクセス・ダウンロード・収集・取得・閲覧等の規制・犯罪化は、恣意的にしか運用され得ず、利用者から見て回避不能の危険極まるものであり、新たな思想犯罪を作り出す非人道的なものとして絶対導入されるべきでない。創作物の規制についても、ごく一部の国内団体等の根拠のない、保護法益すら無視した一方的な主張で、憲法で保障されている表現の自由が規制されることなどあってはならないことである。
かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。
児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならない。児童ポルノ規制に関しては、最近、ドイツのバンド「Scorpions」が32年前にリリースした「Virgin Killer」というアルバムのジャケットカバーが、アメリカでは児童ポルノと見なされないにもかかわらず、イギリスでは該当するとしてブロッキングの対象となり、プロバイダーによっては全Wikipediaにアクセス出来ない状態が生じたなど、欧米では、行き過ぎた規制の恣意的な運用によって弊害が生じていることも見逃されるべきではない。アメリカにおいて、この1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、この2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることや、つい最近からのドイツ国会への児童ポルノサイトブロッキング反対電子請願(https://epetitionen.bundestag.de/index.php?action=petition;sa=details;petition=3860)に既に8万筆を超える数の署名が集まっていることなども注目されるべきである。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。
(5)基本計画素案全体について
そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。一昨年から昨年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立した今の青少年ネット規制法による規制は、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、次の法改正の検討時には速やかに法律の廃止が検討されるべきであり、この基本計画において、今後、青少年ネット規制法の廃止を速やかに検討すると明記してもらいたい。
また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
なお、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、政府全体で、特に公正取引委員会において、規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強めるべきであり、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。出会い系サイト規制法は、その曖昧さから別件逮捕のツールとして使われ、この制度によって与えられる不透明な許認可権限による、警察の出会い系サイト業者との癒着・天下り利権の強化を招く恐れが極めて強い。これらの危険な法律の運用については慎重の上に慎重が期されるべきである。
政府与党にあっては今までの行いを猛省し、今後は、これらの法律の廃止・元の形への再改正の検討とともに、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、主として、基本計画素案の他の項目に書かれているような、各種の地道な教育・啓発に関する施策のみに注力する検討が進むことを期待する。
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