第175回:フランスの3ストライクアウト法案(その3:その他補足)
前々回、前回の続きで、フランスの上下院通過版3ストライク法案(pdf)(正式名称は、「インターネットにおける創造の保護と頒布促進法案」("Le projet de loi favorisant la diffusion et la protection de la creation sur internet")。通称は、Hapopi法("Haute Autorite pour la Diffusion des Oeuvres et la Protection des Droits sur Internet"「インターネット上における著作物の頒布と権利の保護のための公的機関」の略))について、もう少しだけ補足を書いておく。
改正法案では、教育法を改正して、第336-3条に規定されている利用者の義務や、著作物の違法頒布が芸術的創造に与える危険について教えるとしていたり、映画産業法の改正をして、映画館の封切りからビデオ媒体になるまでの期間を決めていたり、ジャーナリストの作品の利用について細かな規定を作っていたりもする。
例え、このまま法改正案が通ったとしても、純粋なダウンロードの扱いが微妙なまま残されるだろうことは、前々回に書いた通りだが、権利制限条項については、図書館に関するものだけ変えようとしているので、その部分だけ念のため以下に訳出する。(赤字強調部分が追加部分。なお、フランスの私的複製に関する権利制限条項については、第16回参照。)
Art. L. 122-5. Lorsque l'oeuvre a ete divulguee, l'auteur ne peut interdire :
...
8° La reproduction d'une oeuvre et sa representation,effectuee a des fins de conservation ou destinee a preserver les conditions de sa consultationsur placea des fins de recherche ou d'etudes privees par des particuliers, dans les locaux de l'etablissement et sur des terminaux dedies par des bibliotheques accessibles au public, par des musees ou par des services d'archives, sous reserve que ceux-ci ne recherchent aucun avantage economique ou commercial;第122-5条 公表された作品について、作者は次のことを禁止できない。
(中略)
8°建物内の提供端末による、個人による私的な調査研究の目的でのその場での照会の条件を守る、あるいは、保存の目的で実行される、公衆にアクセス可能となっている図書館、博物館あるいは公文書館による著作物の複製とその上演、ただし、それらが経済的あるいは商業的利益を求めない場合に限る。
細かな話だが、このような法改正は図書館で資料のデジタル化ができることを明確にするものだろう。(無論、日本のように国会図書館のみに限るといった無意味に厳し過ぎる限定は入っていない。)
フランスでは、60人以上の議員の同意により、法律の可決後公布前に憲法裁判の提起が可能であるため、この法案は今現在、当然のように憲法裁判にかかっている。補足として、ここで、フランス社会党による憲法裁判所への訴状(pdf)の概要も以下に訳しておく。(PC INpactの記事、Numeramaの記事、フランス社会党のリリース、フランス社会党のウルヴォアス議員のブログ記事も参照。)
SOMMAIRE
1. Le defaut d'information des parlementaires et l'atteinte au principe de clarte et de sincerite des debats parlementaires.
2. Des mesures legislatives manifestement inappropriees a l'objectif poursuivi par le legislateur
. Une loi contournable
. Une loi contre-productive
. Une loi inapplicable
. Une loi couteuse3. Une conciliation manifestement desequilibree entre la protection des droits d'auteur et la protection de la vie privee.
4. La meconnaissance par le legislateur de sa propre competence
5. Le caractere flou et imprecis du manquement institue par la loi (article 11).
6. Une sanction manifestement disproportionnee (article 5)
a - Sur le principe de la suspension de l'acces a Internet
b - La double sanction resultant de l'obligation pour l'abonne dont l'acces a Internet a ete suspendu de continuer a payer le prix de son abonnement.7. Une telle sanction ne peut etre prononcee que par l'autorite judiciaire
8. Les competences et les pouvoirs exorbitants reconnus a la HADOPI (article 5)
a - Les pouvoirs exorbitants accordes aux agents publics de la HADOPI
b - Le pouvoir discretionnaire des agents prives charges de saisir la HADOPI.
c - Le pouvoir d'appreciation exorbitant confere a la commission de protection des droits dans le cadre du mecanisme de sanction graduee.
d - Cette marge de manoeuvre expose non seulement les ≪ abonnes ≫ a l'arbitraire de cette autorite, mais risque en outre d'entrainer des atteintes caracterisees au principe d'egalite.9. Une atteinte caracterisee au principe du respect des droits de la defense et au droit a un recours effectif (article 5).
10. L'instauration d'une presomption de culpabilite. L'imputabilite des actes de telechargement et l'atteinte caracterisee au principe de personnalite des delits et des peines (article 11 et 5).
11. L'article 10 viole le principe de proportionnalite et porte atteinte a la liberte d'expression
a. L'article 10 de la loi viole le principe general de proportionnalite
b. L'article 10 de la loi viole la liberte d'expression概要
1.国会における情報の欠如と国会審議の透明性と信義則の原理に対する侵害
2.立法の追求する目的に大して明らかに不適切な立法措置
.回避可能な法律
.創造性に反する法律
.実運用不能の法律
.コストばかりかかる法律3.著作権の保護と私的生活の保護の間の明らかにバランスを欠いた調整
4.立法府による自らの権限範囲の無視
5.この法律が作り出す欠陥の曖昧かつ不明確な性質(改正法案第11条(訳注:利用者の義務を定めた著作権法第336-3条を含む条項))
6.明らかにバランスを欠いた罰(改正法案第5条(訳注:公的機関を規定する第331-12条以下を含む条項))
a-インターネットへのアクセスの遮断の原理について
b-インターネットへのアクセスを遮断された者が、その契約料金を支払い続けなければならないことから来る二重の罰7.このような罰は、司法当局によってしか課され得ない
8.公的機関に認められる法外な権限と権力(改正法案第5条)
a-公的機関の役人に与えられる法外な権力
b-公的機関への訴えができる民間代理人の裁量権
c-段階的罰のメカニズムの枠内で権利保護委員会に与えられる法外な判断権
d-その運用の幅が、契約者を、この機関の恣意による危険に晒すのみならず、さらに、平等の原理に対する明白な侵害をもたらす危険がある9.防衛の権利の尊重の原理と有効な救済を求める権利に対する明白な侵害(改正法案第5条)
10.推定有罪の導入。通信行為の責任と罪と罰の個人性の原理の明白な侵害(改正法案第11条と第5条)
11.改正法案第10条はバランスの原理に反しており、表現の自由を侵害するものである
a.この法案の第10条は、一般的なバランスの原理に違反している
b.この法案の第10条は、表現の自由を侵害するものである
詳細はリンク先に当たってもらえればと思うが、この法案がどのような点からフランスの憲法違反として反対されているのかはこれだけでも大体分かるだろう。著作権の保護が重要でないなどということを言うつもりは無いが、このようなスリーストライク法案は、明らかにバランスを欠いており、通常の民主主義国家のほとんどの憲法で規定されているだろう、情報アクセス権を含む表現の自由、プライバシーの権利等々、民主主義の最重要の基礎である精神的自由とそれを守るための仕組みを蹂躙するものとなるだろうと私も考える。
(なお、上で取り上げられている改正法案第10条は、
Art. L. 336-2. - En presence d'une atteinte a un droit d'auteur ou a un droit voisin occasionnee par le contenu d'un service de communication au public en ligne, le tribunal de grande instance, statuant le cas echeant en la forme des referes, peut ordonner a la demande des titulaires de droits sur les oeuvres et objets proteges, de leurs ayants droit, des societes de perception et de repartition des droits visees a l'article L. 321-1 ou des organismes de defense professionnelle vises a l'article L. 331-1, toutes mesures propres a prevenir ou a faire cesser une telle atteinte a un droit d'auteur ou un droit voisin, a l'encontre de toute personne susceptible de contribuer a y remedier.
第336-2条 オンライン公衆通信サービスの内容によって引き起こされ、著作権あるいは著作隣接権侵害が存在する時には、大審裁判所は、迅速審理でもしもの場合を規定し、保護を受ける作品の権利の保持者、権利者、第321-1条に規定された著作権料徴収分配団体あるいは第331-1条に規定された職業的保護団体の求めに応じ、その救済に寄与すると考えられるあらゆる者の意を無視して、このような著作権あるいは著作隣接権の侵害を防止あるいは停止するのに適当なあらゆる手段を命じることができる。
という第336-2条を含むものである。このように、裁判所が、フィルタリングの強制も含め、あらゆることを命じられるとすることは、一般的なバランスの原理に反し、表現の自由が侵害され得るとしているのである。)
これほど基本的な問題についてフランスの憲法裁判所がどのような判断を示すか、フランスの動向は引き続き注目しておく必要がある。フランスの3ストライクアウト法案については、この憲法裁判の判決が出され次第、また続報を書きたいと思っている。
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