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2009年4月29日 (水)

第170回:内閣府・「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(素案)」に対するパブコメ募集

 青少年ネット規制法第12条に書かれている「基本計画」の素案が5月25日〆切でパブコメにかかった。(電子政府の該当ページ意見募集要領(pdf)素案概要(pdf)基本計画素案本文(pdf)internet watchの記事参照。なお、パブコメの対象ではないようだが、基本計画の作成と推進のための「幹事会の設置について(pdf)」なるペーパーも一緒に公表されている。)

 対応する有識者会議が違うためか(この素案に対応している会議は「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会」である)、児童ポルノの規制強化について既にデタラメな与野党案が両方とも国会に提出されている状態で安心しているのか、何かの空気を読んでいるのか、何故か良く分からないが、この基本計画素案(pdf)は、以前の、共謀罪早期導入や児童ポルノ規制強化を謳う内閣府の犯罪計画案(第133回参照)や、ロリコンを思想犯罪化し、国民の情報・表現・思想等々の最も基本的な精神的自由と安全を脅かすと宣言して来た総務省の違法有害報告書案(第135回参照)と比べると、危険な項目は少なく、格段に規制強化色は薄くなっている。基本的に情報モラル・リテラシー教育/啓発運動とフィルタリングの導入促進を中心とした地道な取り組みを推進するとしているもので、最近出された役所のネット規制絡みのペーパーとしては格段に出来が良い。(無論、比較の問題で今までが非道すぎただけの話であり、上の検討会の4月7日(第4回)の資料(pdf)によると、素案の後に本格的な案を作るようなので、次の案でより非道い項目を追加してくるという可能性も否定できないが。)

 出来が良いとは言っても、総務省関係では、第8ページの、

(2)インターネット利用者・事業者の主体的な活動への支援
 地球温暖化防止の国民運動として取り組まれている「チーム・マイナス6%」のように、インターネット利用者・事業者などが自らインターネットの利用環境整備に向け具体的に取り組むことを決め、ロゴマークなどを用いてそれを明らかにし、実践するなどの、取組主体の更なる広がりを促進する活動を支援する。

といった記載や、第13ページの、

5.その他のインターネットの利用環境整備に向けた活動に対する支援
 産学連携した自主的取組を推進する民間団体である安心ネットづくり促進協議会等のインターネットの利用環境整備に向けた活動を支援する。

といった記載で触れられている、安心ネットづくり(第137回参照)の話や、第10ページの、

(2)携帯電話・PHSのフィルタリングの閲覧制限対象の適正化支援
 携帯電話・PHSのフィルタリングサービスにより、青少年有害情報に該当しない情報まで閲覧を制限されることがないよう、民間の第三者機関による青少年保護に配慮した運営体制等をとるウェブサイトを認定する取組等を支援する。

というブラックリスト商法の正当化(第139回参照)の話については、繰り返し釘を差しておきたいと思うし、警察庁関係では、これもいつも通りだが、第10ページの、

3.フィルタリング提供事業者による閲覧制限対象の把握の支援
 フィルタリングによる閲覧制限対象の把握を支援するため、インターネット・ホットラインセンターが一般利用者から通報されたウェブサイトのURL情報を、フィルタリング提供事業者へ継続的に提供することを支援する。

といった記載や、第14ページの、

(1)インターネット・ホットラインセンターを通じた削除等の対応依頼推進
 インターネット上に氾濫する違法情報・有害情報への対策を進めるため、インターネット・ホットラインセンターを通じた、インターネット上の違法情報・有害情報の削除依頼を推進するとともに、いわゆる出会い系サイトや会員制サイト等における違法情報のインターネット・ホットラインセンターへの通報が促進されるよう、サイバーパトロール業務の民間委託を推進する。

といった記載で触れられている、半官検閲センターであるインターネット・ホットラインセンターについて、その存在自体に対する反対意見をまた出したいと思う。

 児童ポルノ規制に関しては、デタラメな与野党の案が既に両方とも国会に提出されてしまっているためか、大きくは第14ページで、

(1)取締り推進及び体制強化
 インターネットを通じた青少年等の犯罪被害の抑止に資する、いわゆる出会い系サイト上の禁止誘引行為、インターネット上の児童ポルノ事犯等サイバー犯罪の取締りを推進するとともに、これに必要な取締り体制を強化するほか、サイバー犯罪を犯した者に対する厳正な科刑を実現する。

と、単に取り締まり強化としか書かれていないものの、同ページの下から第15ページに、

(2)事業者や民間団体の効果的な閲覧防止策の検討支援
 インターネット上の児童ポルノについて、被害者である青少年の権利を保護するため、事業者及び民間団体における効果的な閲覧防止策の検討を支援する。

と、やはり、どこをどうやっても検閲にしかならないサイトブロッキングをまだ検討するとしている点は非常にタチが悪く、児童ポルノ規制強化・児童ポルノサイトブロッキングに対する反対意見も引き続き出して行く必要があると思っている。

(なお、警察が大手サイトへの閲覧防止措置要請を検討しているという話もあり(産経のネット記事参照)、青少年ネット規制法の第21条に書かれているサーバー管理者の閲覧防止措置努力義務(基本計画の第4ページでも触れられている)の運用にも注意しておいた方が良いかも知れない。)

 そもそも、これらの個別の各点以前に、本来主として情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきと、あらゆる者の反対を受けながら、一部の寄生議員と規制官庁の暴走のみによって成立した青少年ネット規制法など、一国民・一ユーザー・一消費者として全く評価できないものであり、基本計画において、今後、青少年ネット規制法の廃止を速やかに検討すると明記するべきであるという意見を出すつもりであるが、この基本計画の他の項目は各種の地道な教育・啓発・調査に関する取り組みが多く、どうして有害無益な法律を作る前にこうした地道な取り組みのみの推進ができなかったのかと非常に残念に思う。

 このパブコメについても、提出次第ここに載せるつもりである。

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2009年4月26日 (日)

第169回:オランダ著作権法の私的複製補償金関連規定・補償金問題の現状

 他にも書きたいことはいろいろあるのだが、前回の続きで、オランダ著作権法(pdf)英語版(pdf))の私的複製補償金関連規定と補償金問題の現状の紹介を済ませておく。

 前回省略した部分も含めて、オランダ著作権法の私的複製補償金関連規定を以下に訳出する。(翻訳は拙訳。翻訳に当たっては英語版も参照した。なお、第16c条は再掲。)

Artikel 16c
1
. Als inbreuk op het auteursrecht op een werk van letterkunde, wetenschap of kunst wordt niet beschouwd het reproduceren van het werk of een gedeelte ervan, mits het reproduceren geschiedt zonder direct of indirect commercieel oogmerk en uitsluitend dient tot eigen oefening, studie of gebruik van de natuurlijke persoon die de reproductie vervaardigt.

2. Voor het reproduceren, bedoeld in het eerste lid, is de fabrikant of de importeur van een voorwerp dat bestemd is om een werk ten gehore te brengen, te vertonen of weer te geven ten behoeve van de maker of diens rechtverkrijgenden een billijke vergoeding verschuldigd.

3. Voor de fabrikant ontstaat de verplichting tot betaling van de vergoeding op het tijdstip dat de door hem vervaardigde voorwerpen in het verkeer kunnen worden gebracht. Voor de importeur ontstaat deze verplichting op het tijdstip van invoer.

4. De verplichting tot betaling van de vergoeding vervalt indien de ingevolge het derde lid betalingsplichtige een voorwerp als bedoeld in het eerste lid uitvoert.

5. De vergoeding is slechts eenmaal per voorwerp verschuldigd.

6. Bij algemene maatregel van bestuur kunnen nadere regelen worden gegeven met betrekking tot de voorwerpen ten aanzien waarvan de vergoeding, bedoeld in het tweede lid, verschuldigd is. Bij algemene maatregel van bestuur kunnen voorts nadere regelen worden gegeven en voorwaarden worden gesteld ter uitvoering van het bepaalde in dit artikel met betrekking tot de hoogte, verschuldigdheid en vorm van de billijke vergoeding.

7. Indien een ingevolge dit artikel toegelaten reproductie heeft plaatsgevonden, mogen voorwerpen als bedoeld in het eerste lid niet zonder toestemming van de maker of zijn rechtverkrijgenden aan derden worden afgegeven, tenzij de afgifte geschiedt ten behoeve van een rechterlijke of bestuurlijke procedure.

8. Dit artikel is niet van toepassing op het verveelvoudigen van een met elektronische middelen toegankelijke verzameling als bedoeld in artikel 10, derde lid.

Artikel 16d
1
. De betaling van de in artikel 16c bedoelde vergoeding dient te geschieden aan een door Onze Minister van Justitie aan te wijzen, naar zijn oordeel representatieve rechtspersoon, die belast is met de inning en de verdeling van deze vergoeding overeenkomstig een reglement, dat is opgesteld door deze rechtspersoon, en dat is goedgekeurd door het College van Toezicht, bedoeld in de Wet toezicht collectieve beheersorganisaties auteurs- en naburige rechten. In aangelegenheden betreffende de inning en vergoeding vertegenwoordigt deze rechtspersoon de makers of hun rechtverkrijgenden in en buiten rechte.

2. De rechtspersoon, bedoeld in het eerste lid, staat onder toezicht van het College van Toezicht, bedoeld in de Wet toezicht collectieve beheersorganisaties auteurs- en naburige rechten.

3. Bij algemene maatregel van bestuur kunnen nadere voorschriften worden gegeven betreffende de uitoefening van het toezicht op de in het eerste lid bedoelde rechtspersoon.

Artikel 16e
1
. De hoogte van de in artikel 16c  bedoelde vergoeding wordt vastgesteld door een door Onze Minister van Justitie aan te wijzen stichting waarvan het bestuur zodanig is samengesteld dat de belangen van de makers of hun rechtverkrijgenden en de ingevolge artikel 16c, tweede lid, betalingsplichtigen op evenwichtige wijze worden behartigd. De voorzitter van het bestuur van deze stichting wordt benoemd door Onze Minister van Justitie.

Artikel 16f
Degene die tot betaling van de in artikel 16c bedoelde vergoeding verplicht is, is gehouden onverwijld of binnen een met de in artikel 16d, eerste lid, bedoelde rechtspersoon overeengekomen tijdvak opgave te doen aan deze rechtspersoon van het aantal van de door hem geimporteerde of vervaardigde voorwerpen, bedoeld in artikel 16c, eerste lid. Hij is voorts gehouden aan deze rechtspersoon op diens aanvrage onverwijld die bescheiden ter inzage te geven, waarvan kennisneming noodzakelijk is voor de vaststelling van de verschuldigdheid en de hoogte van de vergoeding.

Artikel 16g
Geschillen met betrekking tot de vergoeding, bedoeld in de artikelen 15i, tweede lid, 16b en 16c, worden in eerste aanleg bij uitsluiting beslist door de rechtbank te 's-Gravenhage.

Artikel 16ga 
1
. De verkoper van de in artikel 16c, tweede lid, bedoelde voorwerpen is gehouden aan de in artikel 16d, eerste lid, bedoelde rechtspersoon op diens aanvraag onverwijld die bescheiden ter inzage te geven waarvan de kennisneming noodzakelijk is om vast te stellen of de in artikel 16c, tweede lid, bedoelde vergoeding door de fabrikant of de importeur betaald is.

2. Indien de verkoper niet kan aantonen dat de vergoeding door de fabrikant of de importeur betaald is, is hij verplicht tot betaling daarvan aan de in artikel 16d, eerste lid, bedoelde rechtspersoon, tenzij uit de in het eerste lid genoemde bescheiden blijkt wie de fabrikant of de importeur is.

第16c条
第1項
 直接的にも間接的にも商業的利益を得る目的でなく、コピーを行う自然人自身の稽古、研究あるいは利用のためになされる、文芸、科学あるいは芸術の著作物あるいはその一部のコピー(reproduceren)は、著作権の侵害とは見なされない。

第2項 第1項に規定されているコピーに当てられる物の製造者あるいは輸入者は、著作者あるいは権利者のための適切な補償の支払いのために聴取を受け、あるいは、報告すること。

第3項 製造された物が取引に供された時に、製造者に補償金支払いの義務が発生する。輸入者に対しては、輸入の時に、この義務が発生する。

第4項 補償金の支払い義務は、第3項の支払い義務者が、第1項に規定されている対象を輸出する場合には、消滅する。

第5項 補償は対象1つにつき1回のみ行われ得る。

第6項 政令によって、第2項に規定されている支払われるべき補償の対象となると考えられる物に関して、さらなる規則が定められ得る。政令によって、適切な補償の料率、義務と形式に関して、さらなる規則が定められ得、本条の実施の条件が与えられ得る。

第7項 本条で認められるコピーは、司法あるいは行政手続きのためになされるので無い限り、著作者あるいは権利者の許諾無く、第3者に渡されてはならない。

第8項 本条は、第10条第3項に規定されている、電子的な手段によりアクセス可能とされたデータベースの複製には適用されない。

第16d条
第1項
 第16c条に規定されている補償の支払いは、司法大臣によって、代表する者と考えられ指定された法人になされ、この法人は、この補償の徴収と分配を規則に従い行い、この規則は、この法人によって作られ、著作権と著作隣接権の徴収団体管理法に規定されている管理委員会の承認を必要とする。この法人は、徴収と分配に関して、法の内外で著作者あるいは権利者を代表していなくてはならない。

第2項 第1項に規定されている法人は、著作権と著作隣接権の徴収団体管理法に規定されている管理委員会によって管理される。

第3項 政令によって、第1項に規定されている法人の管理の実施に関して、さらなる規則が定められ得る。

第16e条
第1項
 第16c条に規定されている補償の料率は、司法大臣によって指定された協会によって決められ、その理事会は、著作者あるいは権利者と、第16c条第2項に記載されている支払い義務者の代表の数が等しくなるように構成される。この協会の理事長は、司法大臣によって指名される。

第16f項
第16c条に規定されている補償の支払い義務を負う者は、第16d条第1項に規定されている法人に、遅滞無くあるいはこの法人と取り決めた期間内に、製造あるいは輸入した、第16c条第1項に規定されている物の数を通知しなくてはならない。これらの者は、また、その求めに応じて遅滞無く、支払うべき補償金の量を決めるために必要な資料を、この法人に提供する義務を負う。

第16g条
第15i条第2項、第16b条と第16c条に規定されている、補償に関する争いの第一審は、ハーグ地裁の専属管轄とする。

第16ga条
第1項
 第16c条第2項に規定されている物の販売業者は、その求めに応じて遅滞無く、第16d項第1項に規定されている法人に、第16c条第2項に規定されている補償が、製造者あるいは輸入者によって支払われたかどうかを確かめるために必要な資料を提供しなければならない。

第2項 製造者あるいは輸入者によって補償が支払われたと販売業者が示すことができない場合、第1項に記載されている書類によって誰が製造者あるいは輸入者であるのかを示さない限り、販売業者が第16d条第1項に規定されている法人に、その支払いをする義務を負う。

 ここで、第16項第1項に書かれている、補償金の徴収と分配を行う団体としては、私的複製補償金協会(Stichting Thuiskopie)が指定されているが、それとは別に、第16e条第1項に書かれている、補償金の料率を決定する団体としては、私的複製補償金交渉協会(Stichting Onderhandelingen Thuiskopievergoedingen:紛らわしいので、以下SONTと略す。)が指定されている。

 私的複製補償金協会のHPに料率表が載っているが、今のところ、オランダにおける私的複製補償金の対象は録音録画専用媒体のみであり、CD-R/RW、DVD±R/RW、MD、オーディオ・ビデオカセットのみとなっている。

 無論、私的複製補償金制度を導入しているほとんどの国の例に洩れず、オランダでも、2006年に、携帯音楽プレーヤーとハードディスクレコーダーへの課金の問題が大騒ぎになり、SONTでの検討の結果、2006年11月には、これらの機器には課金しないということが決定され、司法大臣もそのことを追認している。(司法省のリリース英語版)、司法大臣文書(pdf)、当時のZDnet.nlの記事参照。)

 さらに、徴収と分配しかしないはずの私的複製補償金協会が、メモリーカードについて勝手に仮料率を決めて課金を求めて動くということもあったようであり、2007年3月には、司法大臣がメモリーカードへの課金を否定し、このような私的複製補償金協会の暴走を強く批判している。(司法省のリリース司法大臣文書(pdf)参照。)

 また、2007年3月末には、著作権管理団体管理委員会の報告(pdf)を受け、透明性に欠け補償金の分配をきちんと行っていなかった私的補償金協会に対して、司法大臣がその改善指導を行っている。(司法省のリリース英語版)、司法大臣文書(pdf)参照。なお、補償金の分配について、私的複製補償金協会と権利者団体の間で裁判にまでなっている。)

 この3月末のリリースでも、司法省は、補償金の分配のデタラメさから、2008年中は料率と対象範囲の変更はされるべきではないと書いているが、権利者団体の際限の無い不当な補償金拡大要求によってもたられる無用のゴタゴタに心底うんざりしたのか、オランダは、2007年11月5日の司法大臣決定(pdf)で、補償金の料率と範囲を固定して2008年末までそれを維持するとし、補償金制度を公式に凍結するに至っている。

 権利者団体が、このような政府による補償金制度の凍結を不当として政府を相手に訴えを起こすが、2008年1月にはハーグ地裁に、このような政府による決定の余地は残されているとして即刻退けられている。(判決、当時のtweakers.netの記事参照。)

 また、以前から、媒体のメーカーと輸入業者と私的録音録画管理協会の間でも私的複製補償金に関する裁判闘争も続いており、例えば、2008年6月25日にも、やはりハーグ地裁で、両者の争いから、私的複製補償金は、明示あるいは黙示の許諾を有する複製を対象とするものではないとする判決が出されているが、判決自体矛盾しており結論も曖昧に過ぎるため、問題解決にはあまり役立っていないのではないかと思う。(なお、この裁判が継続中かどうかは不明だが、どちらから控訴されていてもおかしくないだろう。)

 その後も、2008年10月に司法省は凍結の1年延長を決定しており、今もこの凍結は継続中である。(司法省のリリース英語版)、司法大臣文書(pdf)参照。)

 要するに、ほぼ権利者団体代表で構成されている私的複製補償金協会(理事会等の構成メンバーリスト参照)が、補償金拡大運動を行い、それがSONTを通じた交渉や反対派の各種ロビー活動によってどうにか止まっているというのがオランダの現状のようである。オランダにおいては私的複製補償金の対象範囲が専用録音録画媒体のみに維持されているが、このことと欧州随一の大手電機メーカーであるフィリップスがオランダにあることとは無関係では無いだろう。

 今現在、2010年を目処に、私的複製補償金協会が、性懲りも無く補償金拡大運動を再開し始めているようだが(fd.nlの記事参照)、オランダでも、メーカー等はそもそもバランスを欠いた現行の補償金システム自体を批判しており、フィリップスの存在を考えても、オランダで権利者団体の政治力による不当な押し倒しが成立する可能性は低いのではないかと思う。凍結が再延長される可能性も十分にあるだろう。

 ポルトガルと並び、オランダも事実上補償金制度を凍結している。非道な著作権強権国家が居並ぶ欧州においても、権利者団体の際限の無い不当な要求からもたらされる社会的混乱にうんざりし、補償金の対象を録音録画専用媒体のみに限り、補償金の対象拡大を事実上凍結した国は存在しているのである。繰り返しになるが、欧州だからと言って、メーカーや消費者が納得して補償金を払っているということはカケラも無い、権利者団体がその政治力を不当に行使し、歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき、不当に対象を広げ料率を上げようとしているだけというのがあらゆる国における実情である。補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのだ。

 最後に、最近のニュースも少し紹介しておくと、欧州における実演家の保護期間延長がEU議会で可決された(reuterの記事afterdawn.comの記事参照)。問題の本質を全く理解していない話だが、EU議会は、95年への延長を70年とするという妥協案で延長を通した。議決は賛成377名、反対178名、棄権37名と、反対派の努力にもかかわらず、まだメジャーレーベルと権利者団体の欧州における政治力はまだかなり強いと見える。これで、この案はEU理事会での最終決定に移される。反対の国も存在しているようだがどうなるか、先行きは怪しい。

 スウェーデンにおける、プロバイダー責任制限型の情報開示手続きを整備する著作権法改正についても、そのうち紹介できればと思っているが、その影響について「P2Pとかその辺の話」で取り上げられているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。

 また、中国が、ソースコード開示強制認証制度の近日中の導入を政府に通告してきているようである(読売のネット記事産経のネット記事参照)。日米欧で全力をあげて排除してもらいたいと思うが、中国のやることもメチャクチャである。

(4月27日夜の追記:ブルーレイ課金の著作権法施行令改正について、文化庁と経産省が合意に達したとのニュース(ITmediaの記事internet watchの記事日経TechOnの記事参照)があったが、また消費者そっちのけで利害調整が行われようとしている。やり方としては、ブルーレイ課金を施行令改正で行った上で、施行令とは別の施行通知に関係者かンでの意見の相違が顕在化した場合の将来の見直しの可能性について書くことを考えているようだが、既に意見の相違がこれ以上は無いくらいに顕在化しているこの問題について、このようなやり方を取ることは確実に将来に禍根を残すだけだろう。)

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2009年4月21日 (火)

第168回:オランダ著作権法の私的複製関連規定

 スウェーデンと韓国の著作権法改正の動向も気になるのだが、調べるのにまだ時間がかかるので、先にオランダ著作権法の私的複製関連規定の紹介をやっておきたいと思う。

オランダの著作権法(pdf)英語版(pdf))の各種権利制限は第16章に規定されており、第15条からの報道、引用、行政立法司法、障害者、教育、図書館のためといった、お決まりの権利制限の後、私的複製のための権利制限は、第16b条から第16m条に、以下のように規定されている。(翻訳は拙訳。なお、翻訳に当たっては英語版も参照した。)

Artikel 16b
1
. Als inbreuk op het auteursrecht op een werk van letterkunde, wetenschap of kunst wordt niet beschouwd de verveelvoudiging welke beperkt blijft tot enkele exemplaren en welke uitsluitend dient tot eigen oefening, studie of gebruik van de natuurlijke persoon die zonder direct of indirect commercieel oogmerk de verveelvoudiging vervaardigt of tot het verveelvoudigen uitsluitend ten behoeve van zichzelf opdracht geeft.

2. Waar het geldt een dag-, nieuws- of weekblad of een tijdschrift of een boek of de partituur of de partijen van een muziekwerk en de in die werken opgenomen andere werken, blijft die verveelvoudiging bovendien beperkt tot een klein gedeelte van het werk, behalve indien het betreft:
a. werken, waarvan naar redelijkerwijs mag worden aangenomen geen nieuwe exemplaren tegen betaling, in welke vorm ook, aan derden ter beschikking zullen worden gesteld;
b. in een dag-, nieuws- of weekblad of tijdschrift verschenen korte artikelen, berichten of andere stukken.

3. Waar het geldt een werk, als bedoeld bij artikel 10, eerste lid, onder 6°, moet de verveelvoudiging door haar grootte of door de werkwijze, volgens welke zij vervaardigd is, een duidelijk verschil vertonen met het oorspronkelijke werk.

4. Indien een ingevolge dit artikel toegelaten verveelvoudiging heeft plaatsgevonden, mogen de vervaardigde exemplaren niet zonder toestemming van de maker of zijn rechtverkrijgenden aan derden worden afgegeven, tenzij de afgifte geschiedt ten behoeve van een rechterlijke of bestuurlijke procedure.

5. Bij algemene maatregel van bestuur kan worden bepaald dat voor de verveelvoudiging, bedoeld in het eerste lid, ten behoeve van de maker of diens rechtverkrijgenden een billijke vergoeding is verschuldigd. Daarbij kunnen nadere regels worden gegeven en voorwaarden worden gesteld.

6. Dit artikel is niet van toepassing op het reproduceren, bedoeld in artikel 16c, noch op het nabouwen van bouwwerken.

Artikel 16c
1
. Als inbreuk op het auteursrecht op een werk van letterkunde, wetenschap of kunst wordt niet beschouwd het reproduceren van het werk of een gedeelte ervan, mits het reproduceren geschiedt zonder direct of indirect commercieel oogmerk en uitsluitend dient tot eigen oefening, studie of gebruik van de natuurlijke persoon die de reproductie vervaardigt.

2.  Voor het reproduceren, bedoeld in het eerste lid, is de fabrikant of de importeur van een voorwerp dat bestemd is om een werk ten gehore te brengen, te vertonen of weer te geven ten behoeve van de maker of diens rechtverkrijgenden een billijke vergoeding verschuldigd.

3. Voor de fabrikant ontstaat de verplichting tot betaling van de vergoeding op het tijdstip dat de door hem vervaardigde voorwerpen in het verkeer kunnen worden gebracht. Voor de importeur ontstaat deze verplichting op het tijdstip van invoer.

4. De verplichting tot betaling van de vergoeding vervalt indien de ingevolge het derde lid betalingsplichtige een voorwerp als bedoeld in het eerste lid uitvoert.

5. De vergoeding is slechts eenmaal per voorwerp verschuldigd.

6. Bij algemene maatregel van bestuur kunnen nadere regelen worden gegeven met betrekking tot de voorwerpen ten aanzien waarvan de vergoeding, bedoeld in het tweede lid, verschuldigd is. Bij algemene maatregel van bestuur kunnen voorts nadere regelen worden gegeven en voorwaarden worden gesteld ter uitvoering van het bepaalde in dit artikel met betrekking tot de hoogte, verschuldigdheid en vorm van de billijke vergoeding.

7. Indien een ingevolge dit artikel toegelaten reproductie heeft plaatsgevonden, mogen voorwerpen als bedoeld in het eerste lid niet zonder toestemming van de maker of zijn rechtverkrijgenden aan derden worden afgegeven, tenzij de afgifte geschiedt ten behoeve van een rechterlijke of bestuurlijke procedure.

8. Dit artikel is niet van toepassing op het verveelvoudigen van een met elektronische middelen toegankelijke verzameling als bedoeld in artikel 10, derde lid.
...

Artikel 16h
1
. Een reprografische verveelvoudiging van een artikel in een dag-, nieuws- of weekblad of een tijdschrift of van een klein gedeelte van een boek en van de in zo'n werk opgenomen andere werken wordt niet beschouwd als inbreuk op het auteursrecht, mits voor deze verveelvoudiging een vergoeding wordt betaald.

2. Een reprografische verveelvoudiging van het gehele werk wordt niet beschouwd als inbreuk op het auteursrecht, indien van een boek naar redelijkerwijs mag worden aangenomen geen nieuwe exemplaren tegen betaling, in welke vorm dan ook, aan derden ter beschikking worden gesteld, mits voor deze verveelvoudiging een vergoeding wordt betaald.

3. Bij algemene maatregel van bestuur kan worden bepaald dat ten aanzien van de verveelvoudiging van werken als bedoeld bij artikel 10, eerste lid, onder 1°, van het in een of meer der voorgaande leden bepaalde mag worden afgeweken ten behoeve van de uitoefening van de openbare dienst, alsmede ten behoeve van de vervulling van taken waarmee in het algemeen belang werkzame instellingen zijn belast. Daarbij kunnen nadere regels worden gegeven en nadere voorwaarden worden gesteld.

Artikel 16i
De vergoeding, bedoeld in artikel 16h, wordt berekend over iedere pagina waarop een werk als bedoeld in het eerste en tweede lid van dat artikel reprografisch verveelvoudigd is. Bij algemene maatregel van bestuur wordt de hoogte van de vergoeding vastgesteld en kunnen nadere regels en voorwaarden worden gesteld.

Artikel 16j
Een met inachtneming van artikel 16h vervaardigde reprografische verveelvoudiging mag, zonder toestemming van de maker of zijn rechtverkrijgende, alleen worden afgegeven aan personen die in dezelfde onderneming, organisatie of instelling werkzaam zijn, tenzij de afgifte geschiedt ten behoeve van een rechterlijke of administratieve procedure.

Artikel 16k
De verplichting tot betaling van de vergoeding, bedoeld in artikel 16h, vervalt door verloop van drie jaar na het tijdstip waarop de verveelvoudiging vervaardigd is. De vergoeding is niet verschuldigd indien de betalingsplichtige kan aantonen dat de maker of diens rechtverkrijgende afstand heeft gedaan van het recht op de vergoeding.

Artikel 16l
1
. De betaling van de vergoeding, bedoeld in artikel 16h, dient te geschieden aan een door Onze Minister van Justitie aan te wijzen, naar zijn oordeel representatieve rechtspersoon, die met uitsluiting van anderen belast is met de inning en de verdeling van deze vergoeding.

2. In aangelegenheden betreffende de inning van de vergoeding vertegenwoordigt de rechtspersoon, bedoeld in het eerste lid, de makers of hun rechtverkrijgenden in en buiten rechte.

3. De rechtspersoon, bedoeld in het eerste lid, hanteert voor de verdeling van de geinde vergoedingen een reglement. Het reglement behoeft de goedkeuring van het College van Toezicht, bedoeld in de Wet toezicht collectieve beheersorganisaties auteurs- en naburige rechten.

4. De rechtspersoon, bedoeld in het eerste lid, staat onder toezicht van het College van Toezicht, bedoeld in de Wet toezicht collectieve beheersorganisaties auteurs- en naburige rechten.

5. Het eerste en tweede lid vinden geen toepassing voorzover degene die tot betaling van de vergoeding verplicht is, kan aantonen dat hij met de maker of zijn rechtverkrijgende overeengekomen is dat hij de vergoeding rechtstreeks aan deze zal betalen.

Artikel 16m
Degene die de vergoeding, bedoeld in artikel 16h, dient te betalen aan de rechtspersoon, bedoeld in artikel 16l, eerste lid, is gehouden aan deze opgave te doen van het totale aantal reprografische verveelvoudigingen dat hij per jaar maakt.
De opgave, bedoeld in het eerste lid, behoeft niet gedaan te worden, indien per jaar minder dan een bij algemene maatregel van bestuur te bepalen aantal reprografische verveelvoudigingen gemaakt wordt.

第16b条
第1項
 直接的にも間接的にも商業的な利益を得る目的以外であるいは自身のためのみにその複製をなす自然人自身の稽古、研究、又は、利用のためになされ、若干数に限られる、文芸、科学あるいは芸術の著作物の複製(verveelvoudiging)は、著作権を侵害するものとは見なされない。

第2項 日刊紙、新聞、週刊誌、雑誌、本、楽譜あるいは音楽の著作物の一部とこれらの著作物に含まれる他の著作物に適用される場合、以下の場合を除き、著作物の小部分にさらに限られなくてはならない。
.著作物の複製物が、いかなる形でも、対価と引き換えに第3者に入手可能とされることが無いと合理的に考えられる場合;
.日刊紙、新聞、週刊誌、雑誌に公表された短い記事、報告その他の物の場合;

第3項 第10条第1項第6号で規定されている著作物(訳注:絵や建築、彫刻等)の場合、複製は、複製の大きさか手法において、元の著作物と明確に異なっていなくてはならない。

第4項 本条で認められる複製が行われる場合、司法あるいは行政手続きのためになされるので無い限り、著作者あるいは権利者の許諾無く、第3者に渡されてはならない。

第5項 政令によって、著作者あるいは権利者のための、第1項に規定されている複製の適切な補償を定め得る。それによって、さらなる規則が定められ得、さらなる条件が与えられ得る。

第6項 本条は、第16c条に規定されているコピー(reproduceren)、あるいは、建築物の複製建築には適用されない。

第16c条
第1項
 直接的にも間接的にも商業的利益を得る目的でなく、コピーを行う自然人自身の稽古、研究あるいは利用のためになされる、文芸、科学あるいは芸術の著作物あるいはその一部のコピー(reproduceren)は、著作権の侵害とは見なされない。

第2項 第1項に規定されているコピーに当てられる物の製造者あるいは輸入者は、著作者あるいは権利者のための適切な補償の支払いのために聴取を受け、あるいは、報告すること。

第3項 製造された物が取引に供された時に、製造者に補償金支払いの義務が発生する。輸入者に対しては、輸入の時に、この義務が発生する。

第4項 補償金の支払い義務は、第3項の支払い義務者が、第1項に規定されている対象を輸出する場合には、消滅する。

第5項 補償は対象1つにつき1回のみ行われ得る。

第6項 政令によって、第2項に規定されている支払われるべき補償の対象となると考えられる物に関して、さらなる規則が定められ得る。政令によって、適切な補償の料率、義務と形式に関して、さらなる規則が定められ得、本条の実施の条件が与えられ得る。

第7項 本条で認められるコピーは、司法あるいは行政手続きのためになされるので無い限り、著作者あるいは権利者の許諾無く、第3者に渡されてはならない。

第8項 本条は、第10条第3項に規定されている、電子的な手段によりアクセス可能とされたデータベースの複製には適用されない。

(中略:第16d条から第16条ga条までのその他補償金に関する規定については、オランダにおける私的複製補償金問題に関する現状と合わせ、回を分けて紹介する。)

第16h条
第1項 日刊紙、新聞、週刊誌、雑誌あるいは本の小部分、そして、それらの著作物に含まれた他の著作物の複写は、その複製に対して補償が支払われる限り、著作権を侵害するものとは見なされない。

第2項 その複製について補償が支払われ、その複製物が、いかなる形でも、対価と引き換えに第3者に入手可能とされることが無いと合理的に考えられる本についての場合、著作物全体の複写は著作権を侵害するものとは見なされない。

第3項 政令によって、第10項第1項第1号に規定されている著作物(訳注:本、パンフレット、新聞、雑誌等)の複製に関して、公共サービスの実施のため、公益団体においてなされる仕事の実行のために、前各項の規定の適用除外を作り得る。これによって、さらなる規則が定められ得、さらなる条件が与えられ得る。

第16i条
 第16h条に規定されている補償は、本条の第1項と第2項で規定されている通りに複写されるところの著作物のページ毎で計算される。政令によって、補償の料率が定められ得、さらなる規則と条件が与えられ得る。

第16j条
 司法あるいは行政手続きのためになされる場合を除き、著作者あるいは権利者の許諾無く、第16h条に規定されている複写物が渡され得るのは、同じ企業、組織、機関で働く者のみである。

第16k条
 第16h条に規定されている、補償支払いの義務は、複製がなされて時から3年間で消滅する。補償の義務を負う者が、著作者あるいは権利者が補償の権利を放棄したことを示した場合、補償は課されない。

第16l条
第1項
 第16h条に規定されている補償の支払いは、司法大臣によって、代表する者と考えられ指定された法人になされ、この法人は補償の徴収と分配を排他的に行う。

第2項 補償の徴収に関して、第1項で規定されている法人は、法の内外で、著作権者あるいは権利者を代表していなくてはならない。

第3項 第1項で規定されている法人は、徴収された補償金の分配に規則を適用する。この規則は、著作権と著作隣接権の徴収団体管理法に規定されている管理委員会の承認を必要とする。

第4項 第1項に規定されている法人は、著作権と著作隣接権の徴収団体管理法に規定されている管理委員会によって管理される。

第5項 第1項と第2項は、補償の義務を負う者が、直接補償を支払うことを著作者あるいは権利者と合意したと示した場合には、適用されない。

第16m項
 第16h項に規定されている補償を第16l条第1項に規定されている法人に支払う者は、年毎に作成した複製数の記録を作成しなくてはならない。
 年毎に作成される複製数が、政令によって定められる数よりも少ない場合、前段に規定されている記録が作成される必要は無い。

 オランダの著作権法は、私的複製関連規定を3つに分けて書くというかなりトリッキーなことをやっている。特に、第16b条と第16c条の区別は微妙だが、第16b条は昔からあった古典的な私的複製規定で、第16c条は新技術による複製に対応するため後から追加されたもののようであり、比べてみるといくつか細かな違いがある。

 訳ではそれぞれ複製とコピーと訳し分けたが、第16b条でVerveelvoudiging、第16c条ではReproducerenという用語の使い分けがなされており、対象が違うことを一応示している。といっても、これらは通常の用語としては同じ意味であり、用語だけでは本当の区別はつかない。実際に違う点としては、第16b条は、若干数と複製部数を限定しているが、第16c条にはそのような限定は無い点や、第16b条は、第2項でさらに著作物の小部分に限り私的複製が認められるとしているが、第16c条にはそのような限定は無い点があげられるが、これらの違いは、新しく発展した技術によるデジタル録音録画等について、数や部分を限定することは無意味ということを反映したものだろう。

 オランダにおけるその他の私的複製補償金関連規定と補償金問題の現状の紹介については、また長くなるので回を分けたいと思うが、その第5項で、政令で補償を定められるとしているものの、第16b条の古典的な私的複製について何らかの補償が定められている様子は無い。オランダにおける私的複製補償金を規定しているのは、主としてデジタル録音録画を対象としている第16c条以下である。その第2項に明記されている通り、新聞や雑誌、本等の私的複製・複写は古典的なものとして第16条b条の対象となるのではないかと考えられるが、そのためか、オランダでは、家庭用コピー機等に対する課金は行われていない。

 自然人によるものとして、通常の家庭内等における私的複製については、第16b条か第16c条に該当するはずだが、第16条h条以下の規定は自然人の限定が入っておらず、これらは法人を対象とするものと分かる。日本では企業内の複製・複写について明確な規定が無いが、このように企業・法人内に限られる複製についても権利制限を行っている国もかなり存在していることはもっと注目されても良いだろう。法人内複製の扱いが明確でないことも、日本の私的複製問題をややこしくしている要因の一つだと私は考えている。(なお、この法人内複写補償金は、私的複製補償金協会とは別の複写権協会が、従業員数などに応じて徴収している。)

 また、見てもらえば分かるように、オランダはダウンロード違法化をしていない。また、オランダでダウンロード違法化やストライクポリシーの導入が検討されているという話も聞かない。ダウンロード違法化やストライクポリシーに関しては、オランダも様子見国の一つと考えて良いのではないかと思う。ダウンロード違法化やストライクポリシーのような非道な政策を推進している国は、世界でも数えるほどしか無いのである。

(なお、この私的複製関連規定の後にも、放送のため、宗教儀式のため、公共の場に永続的に置かれている物のため、偶然の写り込みのため、パロディ・カリカチュア・パスティーシュのため、美術品の展示・販売のため、データベースのアクセスのためと言った西洋ではお馴染みの権利制限が並ぶ。興味のある方は、リンク先の元の条文をご覧頂ければと思うが、オランダ著作権法が第19条から第22条で、わざわざ肖像の複製に関する権利制限を規定し、著作権と肖像権の奇妙な混同を示しているのはかなり奇妙と言わざるを得ない。)

 最後に少しニュースを紹介しておくと、ドイツと同様、オーストリアでも、PCに対する私的複製補償金の課金は最高裁で否定された(heise onlineの記事Die Presseの記事参照)。判決が読めればまた詳細を紹介したいと思うが、非道な著作権強健国家が居並ぶヨーロッパにおいても、決して不当な利権の拡大のみが行われている訳ではない。

 また、文化庁で基本問題小委員会の第1回も開催されたようだが(ITmediaの記事internet watchの記事ITproの記事PC Onlineの記事)、ポジショントークしかできないメンバーが多数を占めるこの小委員会に何かを期待する方が間違っている。私的録音録画補償金問題については、別途、懇談会による利害調整もする予定のようであり、こちらも合わせて追いかけて行く必要が出てくるのだろう。(なお、PC Onlineの記事で、会合後に確認したところ、著作権課長が「文化庁が議論のレールを敷くようなやり方はしない」と述べたと書かれているが、怒りのあまり開いた口がふさがらない。比較的バランスの取れた意見を言っていた者を全て排除し、権利者団体代表中心で委員会を恣意的に構成すること自体既に議論のレールを敷いているに等しい。歪んだ「複製=対価」の著作権神授説に基づき補償金問題や保護期間延長問題について悪辣な事務局整理ペーパーを出してくるのも時間の問題だろう。国民と文化の敵と化した極悪非道な文化庁の卑劣に付ける薬はもはや無い。)

 他の話を挟むことになるかも知れないが、引き続き、オランダのその他の私的複製補償金関連規定と補償金問題の現状についても紹介したいと思っている。

(3月22日の追記:パブコメで反対した(第155回も参照)、不正競争防止法の改正法が残念ながら成立した(時事通信のネット記事産経のネット記事参照)。他の凶悪な法案に比べると影響は小さいだろうと考えられるとは言え、このように余計な混乱を招くだけの実質的に無意味な法改正は、されないに越したことは無かったと私は今でも思っている。)

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2009年4月15日 (水)

第167回:アメリカ政府から公表された模倣品・海賊版対策条約の概要資料

 フランスの3ストライクアウト法案の最終形を紹介することになるのではないかと思っていたのだが、意外にも、両院で通過した法案が異なることから来る再議決で3ストライク法案が否決された(「P2Pとかその辺の話」のブログ記事ITmediaの記事cnetの記事参照)ので、今回は、模倣品・海賊版条約に関して、先日、アメリカから公開された文書を取り上げることにする。(ただし、フランスの3ストライク法案は完全に廃案となった訳ではなく、さらに修正・再提出の上、今月末にも再々議決にかけられる予定のようであり、今後もフランスの動きは要注目である。)

 4月6日に公表された概要資料(pdf)(アメリカ通商代表部のリリースも参照)から、条約の構成を示している部分を全訳すると、以下のようになる。(翻訳は拙訳)

CHAPTER ONE INITIAL PROVISIONS AND DEFINITIONS
This chapter will focus on clarifying issues that arise throughout the agreement, such as Objective, Scope and Definitions. The chapter may also include interpretive principles.

CHAPTER TWO LEGAL FRAMEWORK FOR ENFORCEMENT OF INTELLECTUAL PROPERTY RIGHTS
Section 1: Civil Enforcement

Civil enforcement refers to providing courts or other competent authorities with the authority to order/take specific actions when it is established that a party has violated intellectual property laws, and the rules on when and how to use those powers. The issues under discussion in this section include:
- scope of the section - which intellectual property rights would be covered by the provisions of this section;
- the definition of adequate damages and the question of how to determine the amount of damages, particularly when a right holder encounters difficulties in calculating the exact amount of damage it has incurred;
- the authority of the judicial authorities to order injunctions which require that a party desist from an infringement;
- remedies, including the destruction of goods that have been found to be infringing an intellectual property right and under what conditions and to what extent materials and implements that have been used in the manufacture or creation should be destroyed or disposed of outside the channels of commerce;
- provisional measures, such as the authority for judicial authorities or other competent authorities to order, in some circumstances, the seizure of goods, materials or documentary evidence without necessarily hearing both parties; and
- the reimbursement of reasonable legal fees and costs.

Section 2: Border Measures
Border measures refer to actions that customs and other competent authorities would be authorized to take to prevent goods that infringe intellectual property rights from crossing borders. The term also describes the procedures that must accompany these actions. Elements under discussion in this section include:
- scope of the section - which intellectual property rights will be covered, and whether border measures should only apply to importations or should equally apply to the export and the transit of goods;
- a de minimis exception that could permit travelers to bring in goods for personal use;
- procedures for right holders to request customs authorities to suspend the entry of goods suspected to infringe intellectual property rights at the border;
- authority for customs to initiate such suspension ex officio (on their own initiative, without a request from the rights holder);
- procedures for competent authorities to determine whether the suspended goods infringe intellectual property rights;
- measures to ensure that infringing goods are not released into free circulation without the right holder's permission, and possible exceptions;
- the forfeiture and destruction of goods that have been determined to infringe intellectual property rights, and possible exceptions;
- responsibility for storage and destruction fees;
- capacity of competent authorities to require right holders to provide a reasonable security or equivalent assurance sufficient to protect the defendant and to prevent abuse, and - authority to disclose key information about infringing shipments to right holders.

Section 3: Criminal Enforcement
This section relates to the cases for which Parties should provide for criminal procedures and penalties. Issues being discussed under this heading include:
- clarifying the scale of infringement necessary to qualify for criminal sanctions in cases of trademark counterfeiting and copyright and related rights piracy;
- clarifying scope of criminal penalties;
- in which cases the relevant authorities should be empowered to take action against infringers on their own initiative (ex officio, i.e. without complaint by right holders) with respect to infringing activities;
- the authority to order searches and/or seizure of goods suspected of infringing intellectual property rights, materials and implements used in the infringement, documentary evidence, and assets derived from or obtained through the infringing activity;
- the authority of judicial authorities to order the forfeiture and destruction of the infringing goods;
- the authority of judicial authorities to order the forfeiture of the assets derived from or obtained, directly or indirectly, through the infringing activity;
- the authority of judicial authorities to order forfeiture and/or destruction of materials and implements that have been used in the production of the infringing goods;
- criminal procedures and penalties in cases of camcording motion pictures or other audiovisual works; and
- criminal procedures and penalties in cases of trafficking of counterfeit labels.

Section 4: Intellectual Property Rights Enforcement in the Digital Environment
This section of the agreement is intended to address some of the special challenges that new technologies pose for enforcement of intellectual property rights, such as the possible role and responsibilities of internet service providers in deterring copyright and related rights piracy over the Internet. No draft proposal has been tabled yet, as discussions are still focused on gathering information on the different national legal regimes to develop a common understanding on how to deal best with these issues.

CHAPTER THREE INTERNATIONAL COOPERATION
Cross-border trade in counterfeit and pirated goods is a growing global problem that often involves organized criminal networks. ACTA participants need to work together to tackle this challenge. The chapter on international cooperation is expected to address the following types of issues:
- recognition that international enforcement cooperation is vital to realize fully effective protection of intellectual property rights;
- cooperation among the competent authorities of the Parties concerned with enforcement of intellectual property rights, consistent with existing international agreements;
- sharing of relevant information such as statistical data and information on best practices among the Signatories in accordance with international rules and related domestic laws to protect privacy and confidential information; and
- capacity building and technical assistance in improving enforcement, including for developing country parties to the agreement and for third countries where appropriate.

CHAPTER FOUR ENFORCEMENT PRACTICES
Where chapter two will focus on the laws that should be in place to promote better enforcement of intellectual property rights, this chapter is intended focus on the methods used by authorities to apply those laws. Areas that the enforcement practices chapter may cover include:
- fostering of expertise among competent authorities in order to ensure effective enforcement of intellectual property rights;
- collection and analysis of statistical data and other relevant information such as best practices concerning infringement of intellectual property rights;
- internal coordination among competent authorities concerned with enforcement of intellectual property rights, including formal or informal public/private advisory groups;
- measures to allow customs authorities to better identify and target shipments, which are suspected to contain counterfeit or pirated goods;
- publication of information on procedures regarding the enforcement of intellectual property rights, and
- promotion of public awareness of the detrimental effects of intellectual property rights infringement.

The obligations or recommendations in this chapter for enforcement practices and sharing of information with the public shall take into account and be consistent with existing international agreements and the need to protect investigative techniques, confidential law enforcement information and privacy rights.

CHAPTER FIVE INSTITUTIONAL ARRANGEMENTS
This chapter will include all necessary provisions for the institutional set up, including questions related to the implementation of the agreement, how and when to hold meetings of the Parties, and other administrative details of the agreement.

CHAPTER SIX FINAL PROVISIONS
The final provisions of the agreement include details on how the agreement will function, such as how to become a party to the agreement, how to withdraw from the agreement and how to amend the agreement in the future.

第1章 最初の規定と定義
 この章は、条約を通じ、対象、範囲、定義等の事項の明確化に焦点を当てる。この章はまた解釈に関する原則を含む。

第2章 知的財産権のエンフォースメントに関する法的枠組み
第1節:民事的エンフォースメント

 民事的エンフォースメントは、ある者が知的財産法を破ったときに特定のアクションを命じる/取る裁判所あるいは他の権限を有する当局と、この権限はいつどのように使われるかに関する。この節で議論されている事項は以下のことを含む:
-本節の範囲-この節の規定でどの知的財産権がカバーされるか;
-適切な侵害の定義、特に、権利者に生じた侵害の正確な量を計算することが困難である場合に、どのように侵害の量を決定するかの問題;
-侵害停止命令を出す司法当局の権限;
-知的財産権を侵害する発見物品の破棄を含む救済措置、製造に使われた物と装置がどのような条件でどこまで破棄され、あるいは販路から排除されるかについて;
-ある状況において、両者の聴衆を行うことなく、物あるいは証拠資料の差し押さえを命じる、司法当局あるいは他の権限を有する当局の一時的手段;そして
-合理的な法的費用の償還。

第2節:税関取り締まり
 税関取り締まりは、知的財産権侵害物品の越境を阻止するために、税関と他の権限を有する当局が取るアクションに関する。このアクションが伴うべき手続きも記載する。この節で議論されている要素は、以下のようなものである:
-この節の範囲-どの知的財産権がカバーされるか、税関取り締まりは輸入だけに適用されるべきか、それとも、等しく輸出や通過物品にも適用されるべきか;
-旅行者に私的利用のための物品の持ち込みを認める最低限の例外;
-知的財産権を侵害していると考えられる物品の運び込みを税関で止めるための権利者による税関当局への要求手続き;
-(権利者の申し立て無しになされる)非親告で職権差し止めを開始する税関の権限;
-疑義物品が知的財産権を侵害しているかどうかを決定する権限を有する当局の手続き;
-侵害物品が、権利者の許諾無く自由な流通に流されないことを確保する手段;
-知的財産権を侵害していると決定された物品の没収と破棄、および、可能な例外;
-保管と破棄料の責任;
-訴えられた者を保護し、権利の濫用を防ぐ、合理的な保障あるいは公平な安全性を提供するよう権利者に求める、権限を有する当局の、そして-侵害積み荷に関してキーとなる情報を権利者に開示する当局の権能;

第3節:刑事的エンフォースメント
 この節は、各国が刑事手続きと刑罰として提供するべき件に関する。この節で議論されている事項は以下のことを含む:
-商標の模倣品と、著作権と著作隣接権の海賊版のケースで、刑事罰を科すのに必要と認められる侵害のスケールの明確化;
-刑罰の範囲の明確化;
-侵害行為に関して、どのようなケースで関係当局が自ら(非親告で、つまり、権利者による訴え無く)侵害者に対するアクションを開始できる権能を与えられるべきか;
-知的財産権を侵害すると考えられる物品、侵害に用いられた物と装置、証拠資料と、侵害行為から派生するか得られた財産の捜査及び/あるいは押収をする権限;
-侵害物品の製造に用いられた物と装置の没収と破棄を命じる司法当局の権限;
-映画あるいはその他のオーディオビジュアル作品の盗撮のケースにおける刑事手続きと刑事罰;
-模倣ラベルの取引のケースにおける刑事手続きと刑事罰;

第4節:デジタル環境における知的財産権のエンフォースメント
 条約のこの節は、インターネットにおける著作権と著作隣接権の海賊行為の抑止についてのインターネットサービスプロバイダーの役割と責任のような、新技術が知的財産権のエンフォースメントに与えるいくつかの特別な挑戦に向けられている。まだドラフトはテーブルに載せられておらず、議論は様々な国の法制に関する情報を集め、この事項の最も良い取扱い方に関する共通理解を構成しようとしているところである。

第3章 国際協力
 模倣品と海賊版の越境取引は、間々組織的な犯罪ネットワークを含み、大きくなり続けている世界的な問題である。ACTAの参加国はともに協力してこの試練に立ち向かう必要がある。国際協力に関する章は、次のタイプの事項に向けられる予定である:
-国際的なエンフォースメントの協力が、知的財産権の完全に有効な保護を実現するために非常に重要であることの認識;
-既存の国際条約と整合的な、知的財産権のエンフォースメントに関係する各国の権限を有する当局間の協力;
-プライバシーと個人情報を守る国際ルールと各国法を一致する形での、署名国間での統計データやベストプラクティスのような関係データの共有;そして
-エンフォースメントの改善のための能力強化と技術援助が、条約に参加する発展途上国と、適切な第3国のために含まれる。

第4章 エンフォースメントの実務
 第2章が、知的財産権のエンフォースメントのよりよいエンフォースメントを推進するために置かれる法に焦点を置いているのに対し、この章は、それらの法を適用する当局によって使われる手段に力点が置かれる。エンフォースメントの実務の章がカバーするエリアは次のことを含む:
-知的財産権の効果的なエンフォースメントを確保するための権限を有する当局におけるエキスパートの育成;
-統計データや、知的財産権の侵害に関するベストプラクティスのような、その他の関連情報の収集と分析;
-公式あるいは非公式の官民の助言グループを含め、知的財産権のエンフォースメントに関係し、権限を有する当局間の国際協力;
-模倣品あるいは海賊版を含むと考えられる対象の積み荷をより良く特定できるようにするための関税当局の措置;
-知的財産権の侵害の有害な影響に関する公衆の意識の啓発;

エンフォースメントの実務と情報公開のためのこの章の義務あるいは推奨は、情報とプライバシーの権利に関する秘密の法的エンフォースメント、技術的捜査を禁止する、既存の国際条約と必要性を考慮し、それと一致していなければならない。

第5章 機構に関する取り決め
 この章は、条約の実施に関する問題、各国の会合をどのようにいつ開くのか、また、条約その他の管理上の詳細を含め、設置される機構のために必要なあらゆる規定を含む。

第6章 最後の規定
 条約の最後の規定には、各国がどのように条約に参加し、脱退し、将来的に条約をどのように改正するといった、条約がどう機能するのかの詳細を含む。

 資料を見る限り、あまり内容が固まっているとも思えず、すぐに成立するといった様子には見えないが、この概要資料のレベルでも、旅行者に私的利用のための物品の持ち込みを認める最低限の例外や、非親告での税関・刑事取り締まり、インターネットにおける著作権侵害抑止についてのインターネットサービスプロバイダーの責任といった危険な考えが示されていることはいくら注意してもしすぎではない。

 この概要資料だけでは、非親告での取り締まりの対象が著作権まで及ぶかどうかはあまり明らかではないのだが、模倣品・海賊版対策条約について最近Wikileaksにリークされたより詳しい文書(pdf)を読むと、その中の日米共同提案(2008年10月16日付けのもの、pdf全体の第43~48ページ参照)中に、

Section 3 Criminal Enforcement
ARTICLE 2.14: TRADEMARK COUNTERFEITING AND COPYRIGHT OR RELATED RIGHTS PIRACY

1.Each Party shall provide for criminal procedures and penalties to be applied at least in case of willfull trademark counterfeiting [Option J: trademark infringement caused by confusingly similar trademark goods] or copyright or rerated rights piracy on a commercial scale. Willful copyright or related rights piracy on a commercial scale include:
(a)significant willful copyright or related right infringements that have no direct or indirect motivation of financial gain; and
(b)willful copyright or related rights infringements for purpose of commercial
...

ARTICLE 2.17: EX OFFICIO CRIMINAL ENFORCEMENT
Each Party shall provide that its [Option J: competent] authorities may act upon their own initiative to initiate [Option J: investigation][Option US: legal action] with respect to criminal offences described in Section 3 and 4.

第3節 刑事的エンフォースメント
第2.14条:商標の模倣行為と著作権、著作隣接権の海賊行為
.商業的なスケールでの、意図的な商標の模倣行為[日本によるオプション:混同を生じる類似商標品による商標侵害]あるいは著作権、著作隣接権の海賊行為に適用される刑事手続きと刑罰を、各国は規定する。商業的なスケールでの、意図的な著作権、著作隣接権の海賊行為には、以下のものが含まれる:
(a)金銭的な収入を得ようとする直接的あるいは間接的意図を有しない、大量の意図的な著作権あるいは著作隣接権の侵害
(b)商業目的でなされる意図的な著作権あるいは著作隣接権の侵害
(中略)

第2.17条:非親告の刑事エンフォースメント
 第3、4節に書かれた犯罪に関して、各国は、[日本によるオプション:権限を有する]当局が自ら[日本によるオプション:捜査][アメリカによるオプション:法的アクション]を開始できるようにする。

書かれており、この条約の提案事項に明確に著作権の非親告罪化が含まれていると分かるのである。オプションとして著作権を削るという提案が日本からなされている様子も無く、国内での議論がほぼ否定的なところに落ち着いた著作権の非親告罪化の問題について、日本政府(実際に中身を見ているのはどうせ文化庁だろうが)は勝手に国を売ろうとしているのだ。これが国民に対する背任でなくて何だと言うのか。最近の日本政府・規制官庁の極悪非道な所業は本当に止まるところを知らない。(このリーク文書が本物かどうかという問題はあるのだが、偽物にしては出来すぎており、私は本物だろうと考えている。)

 とにかくあらゆる点において今の日本政府は全く信用できない。模倣品・海賊版対策条約も危険であると知れた。すぐに成立する様子は無いとは言え、この条約について、税関取り締まりにおけるプライバシー侵害、インターネットにおける著作権検閲に対する反対に加えて、今後、正確な情報の公開と著作権の非親告罪化条項の削除を強く求めて行かなくてはならないと私は考えている。

 4月20日から、文化庁ので基本問題小委員会が開催される(開催案内参照)が、開催案内に載っている委員17名の内、ぱっと見ただけでも権利者(団体)代表が9名を占めるという非道い人選である。さらにデタラメなことに、前年度の各委員会と比べると、法学者等もどちらかと言えばバランスの取れた発言をしていた人々がほぼ排除されており、この委員会で基本問題など議論できる訳が無い。保護期間延長問題や私的録音録画補償金問題といった著作権法上の極めて重要な基本問題が、天下り利権で権利者団体と癒着し腐り果てた文化庁によってこのように恣意的に選ばれるメンバーのみで検討されるということこそ本当の基本問題であると私は言い続けよう。引き続き追いかけて行くつもりだが、この委員会に期待できるところは全く無い、歪み切った著作権神授説に基づき結論ありきで消費者代表の集団いじめに血道を上げるだろう腐った委員会など即刻解散してもらいたいものと私は心底思っている。

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2009年4月 9日 (木)

第166回:ポルトガルの私的複製補償金関連規定

 前々回の続きで、ポルトガルの私的複製補償金関連規定の紹介を済ませておきたい。

 ポルトガル著作権法(pdf)で私的複製補償金を規定しているのは、以下の第82条である。(翻訳は拙訳。)

Artigo 82.°Compensacao devida pela reproducao ou gravacao de obras
1
- No preco de venda ao publico de todos e quaisquer aparelhos mecanicos, quimicos, electricos, electronicos ou outros que permitam a fixacao e reproducao de obras e, bem assim, de todos e quaisquer suportes materiais das fixacoes e reproducoes que por qualquer desses meios possam obter -se, incluir-se-a uma quantia destinada a beneficiar os autores, os artistas, interpretes ou executantes, os editores e os produtores fonograficos e videograficos.

2 - A fixacao do regime de cobranca e afectacao do montante da quantia referida no numero anterior e definida por decreto-lei.

3 - O disposto no n.o 1 deste artigo nao se aplica quando os aparelhos e suportes ali mencionados sejam adquiridos por organismos de comunicacao audiovisual ou produtores de fonogramas e videogramas exclusivamente para as suas proprias producoes ou por organismos que os utilizem para fins exclusivos de auxilio a diminuidos fisicos visuais ou auditivos.

第82条 著作物の複製あるいは録音録画に関する補償
第1項
 著作物の録音録画あるいは複製が可能である、化学的、電子的、電気的その他の機器並びに、そのような機器に使われ得る録音録画・複製媒体の市販価格には、著作者、実演家あるいはレコード・ビデオ製作者に与えられる補償金が含まれる。

第2項 前項に規定されている補償金の料率と徴収は、法令によって定められる。

第3項 本条第1項の規定は、自らの製作のためのみにそれを用いるレコード・ビデオ製作者、視聴覚障害の補助のためのにそれを使用する機関によって入手された記載の機器あるいは媒体に対しては、適用しない。

 また、さらに細かなことを規定している法令第62/98号からも主立ったところを以下に訳出する。(やはり翻訳は拙訳。なお、表は2004年の改正法を掲載している官報(pdf)から引用した。)

Artigo 1.°Objecto
1
...
2 - O disposto na presente lei nao se aplica aos computadores, aos seus programas nem as bases de dados constituidas por meios informaticos, bem como aos equipamentos de fixacao e reproducao digitais.

Artigo 2.°Compensacao devida pela reproducao ou gravacao de obras
Com vista a beneficiar os autores, os artistas interpretes ou executantes, os editores e os produtores fonograficos e videograficos, uma quantia e incluida no preco de venda ao publico:
a) De todos e quaisquer aparelhos mecanicos, quimicos, electronicos ou outros que permitam a fixacao e reproducao de obras como finalidade unica ou principal, com excepcao dos equipamentos digitais;
b) Dos suportes materiais virgens digitais ou analogicos, com excepcao do papel, previstos no n.° 4 do artigo 3.°, bem como das fixacoes e reproducoes que por qualquer desses meios possam obter-se.

Artigo 3.°Fixacao do montante da remuneracao
1
- A remuneracao a incluir no preco de venda ao publico dos aparelhos de fixacao e reproducao de obras e prestacoes e igual a 3% do preco de venda, antes da aplicacao do IVA, estabelecido pelos respectivos fabricantes e importadores.
...

4 - No preco de venda ao publico, antes da aplicacao de IVA, de cada um dos suportes, analogicos e digitais, e incluida uma remuneracao, nos termos a seguir indicados:

Table...

Artigo 6.°Comissao de acompanhamento
1
- e constituida uma comissao presidida por um representante do Estado designado por despacho do Primeiro-Ministro e composta por uma metade de pessoas designadas pelos organismos representativos dos titulares de direito, por um quarto de pessoas designadas pelos organismos representativos dos fabricantes ou importadores de suportes e aparelhos mencionados no artigo 3.° e por um quarto de pessoas designadas pelos organismos representativos dos consumidores.

2 - Os organismos convidados a designar os membros da comissao, bem como o numero de pessoas a designar por cada um, serao determinados por despacho do Ministro da Cultura.

3 - A comissao reune pelo menos uma vez por ano, sob convocacao do seu presidente ou a requerimento escrito da maioria dos seus membros, para avaliar as condicoes de implementacao da presente lei.

4 - As deliberacoes da comissao sao aprovadas por maioria dos membros presentes, tendo o presidente voto de qualidade.
...

第1条 対象
第1項
(省略:根拠法の列挙)
第2項 この法令の規定はコンピュータ、そのプログラム、情報技術によって作られたデータベース、並びに、デジタル録音録画・複製機器には適用されない。

第2条 著作物の録音録画・複製に対する補償
 著作者、実演家あるいはレコード・ビデオ製作者に与えられるために、次の物の市販価格には補償金が含まれる:
a)その唯一のあるいは主たる目的が、著作物の録音録画あるいは複製を可能とするものである、化学的、電子的、電気的その他の機器、ただし、デジタル機器を除く;
b)そのような機器に使われ得る、第3条第4項に規定されているデジタルあるいはアナログのブランクメディア。

第3条 補償金額
第1項
 著作物と実演の録音録画・複製機器の市販価格に含まれる補償金額は、製造業者と輸入業者を代表する者によって確定される、消費税課税前の市販価格の3%に等しい。
(中略:第2、3項で商業的に公共に供される複写機についての補償金も市販価格の3%であることを規定)
第4項 消費税課税前の市販価格において、それぞれのアナログあるいはデジタル媒体に含まれる補償金額は、次の通りである:

(中略:金額は上の表参照。第4条で例外の適用を受ける方法、第5条で徴収団体を規定)

第6条 評価委員会
第1項
 総理大臣によって指名される国家を代表する者がその議長を務め、権利者を代表する団体によって指名される半数と、第3条の機器媒体の販売輸入業者を代表する団体によって指名される4分の1と、消費者を代表する団体によって指名される4分の1によって、委員会は構成される。

第2項 委員会の委員を指名する者として呼ばれる団体、並びに、それぞれによって指名される委員の数は、文化大臣令によって決められる。

第3項 委員長の要請あるいは委員の過半数の書面による要求により、この法令の実施を評価するため、委員会は最低年1回は会合を開く。

第4項 委員会の審議は委員の多数によって決される、同数の場合は委員長が決定票を入れる。
(後略)

 改正前の法令は料率や対象範囲を文化大臣と財務大臣の共同令で定めるとしていたが、ポルトガルは、この法令の2004年の改正(上でもリンクを張った改正法(pdf)参照)によって、コンピュータ及びデジタル機器を明示的に補償金の対象外とするとともに、補償金の対象となる媒体もCD(R、RW)、MD、DVD(R、RW、RAM)、オーディオカセット、VHSビデオカセットといった専用媒体のみを列挙して、改正に議会の議決が必要な法令に直接書き込む形に改め、事実上、補償金の対象拡大を凍結している。(無論、プリンターやスキャナー等は対象外である。改正前の条文は、ポルトガル文化省のHP("Direito de Autor"→"Legislacao Legislacao nacional"→"Decreto-lei n.° 62/98, de 1 de Setembro")参照。)

 ポルトガル議会のHPに載っている法改正の審議資料を読んだところでは、2003年の12月に憲法裁判所で、このような法律・法令によらない補償金賦課は憲法違反と判断されたことが法改正に大きな影響を与えたようであり、ポルトガルにおいても、補償金に関する争いが憲法裁判にまで発展し、結果として事実上の補償金の対象拡大の凍結がなされるに至ったということは注目に値する。(憲法裁判所の判決では、私的複製補償金は実質税に相当し、改正前の規定は、税は法律によって定められなくてはならないとしているポルトガル憲法の第103条第2項に抵触すると判断している。今後、日本の議論がどうなるかは全く分からないが、このポルトガルの判断は、補償金を実質著作権税としようとする文化庁・権利者団体の目論見について、法律による税の規定を定めている日本国憲法第84条からも、問題提起し得ることを示唆している。)

 また、技術の進展も考えると範囲と料率の確定が実質不可能なためだったろうとは思うが、PCを含むデジタル機器・汎用媒体を明示的に補償金の対象外としたことも、将来を見据えた英断として高く評価したい。ドイツなどの状況を見ても、権利者団体に青天井の補償金請求権を与えることは、常に社会的混乱しかもたらさないのである。世界的に見てもその改革は困難を極めることと思うが、機器・媒体を離れ音楽・映像の情報化が進む中、「複製=対価」の著作権神授説と個別の機器・媒体への賦課を基礎とする私的複製・録音録画補償金は、既に時代遅れのものとなりつつあると言っても差し支えないだろう。

(評価委員会についても念のため訳したが、何も書いていないことからも分かるように、この評価委員会には補償金の対象範囲や料率の決定権は無い。委員などはフランスと同じ比率になっており、もしこの委員会であらゆることが決定されていたとしたら、ポルトガルでも、フランスと同じ様にデタラメな拡大のみが行われていたに違いない。)

 文化庁や権利者団体は、「複製=対価」の著作権神授説に随まで毒されたドイツやフランスなどの非道な著作権強権国家の話ばかりを強調するが、技術の進展を考えて、デジタル機器を明示的に補償金の対象から除外し、録音録画専用媒体の課金だけを残し、補償金の対象拡大を事実上凍結した国はヨーロッパにも存在しているのである。片寄った見方で国際動向を「作る」ことなど許されることではない。補償金の対象・料率に関して、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無いのだ。

 今現在ポルトガルで補償金問題が大いに騒がれているという話は聞かないが、ポルトガルでも訳の分からない国際動向なり著作権神授説なりに基づいて権利者団体が不当な要求を募らせて来ないとも限らない。また何かあれば、ポルトガルの状況についても随時紹介したいと思っている。

 最後に、最近のニュースも少し紹介しておくと、この4月6日に知財本部が第3期基本方針を決定した(日経のネット記事参照)。4月6日の会合資料に載っている基本方針案(pdf)概要(pdf))の通りに決定されたのだろうと思うが、基本方針というほどのことは無く、いつも通りの検討項目が並んでいる。日本ブランド戦略(pdf)というこれまた別に作る意味がさっぱり分からない報告書も決定されたようである。

 また、同じく4月6日にアメリカ政府が模倣品・海賊版対策条約の概要を公表した(cnetの記事、アメリカ通商代表部のリリース概要文書(pdf)参照)。条約なので、そう簡単に成立するとは思えないが、模倣品・海賊版対策条約については気になっており、この文書への突っ込みもどこかで別に書ければと思っているところである。

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2009年4月 6日 (月)

番外その16:ダウンロード違法化問題に関する民主党・川内博史議員の質問主意書と政府の答弁書の転載

 民主党の川内博史議員が、ダウンロード違法化問題に関して政府に質問主意書を投げていたが、これに対する政府の答弁書が公表された(経過)。(川内博史議員のブログの関連エントリ1も参照。)

 リンク先を見てもらえば良い話ではあるのだが、法案に関する現時点での政府の見解として重要な内容を含んでいると思うので、念のため、ここにもその全文を転載しておく。

 いつものお役所答弁だが、政府(文化庁)の見解としては、外国では保護期間切れの扱いとなる映画やアメリカでフェアユースが認められた著作物の、その国からのダウンロードについても、その自動公衆送信が国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであり、かつ、その事実を知りながらダウンロードしてデジタル方式の録音又は録画を行う場合には違法ということのようである。予想通りの答弁だが、このような運用が本当になされた日には、さらに混乱に拍車をかけることになるだろう。

 また、答弁は、このような違法ダウンロードについてもキャッシュの場合は権利制限の対象となるとしているが、第47条の8のキャッシュの権利制限における「これらの利用又は当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合に限る。」という限定の解釈についてはぼかして書いており、実際のケースでこの限定がどう効いてくるかについては何とも言えないことに変わりはない。(キャッシュの人為的な再コピーが権利制限の対象とならないとする見解も予想通りだが、第42回でも書いた通り、このように完全に他人が知り得ない行為を違法とする法律は、法律として致命的な欠陥を抱えているのであり、今のままでは社会に変な歪みを与えることになるだろう。)

 便乗詐欺対策についても、各種媒体や講習会等を通じた広報啓発活動によって改正の内容について広く国民へ周知するとしているだけだが、ダウンロード違法化に関して、いつもの広報啓発活動が何らかの対策になるとは全く思えない。ユーザーから見て何が違法で何が合法かの区別は常につかず、その行為に1個人しか絡まないダウンロードにおいて、エスパーでも無い限り証明も反証もできない「事実を知って」という精神的要件も危険なものとしかなりようが無い。これは周知広報すれば良いとかそういうレベルの問題ではないのである。

 この答弁も紋切り型のお役所答弁に過ぎず、去年の法制小委への提出パブコメにも書いた通り、ダウンロード違法化に関して8000件以上のパブコメの7割方で示された国民の懸念は今なおほとんど全くと言って良いほど何も解消していない。

 このような答弁でごまかされる者などいないだろう。こうした活動をして下さる議員が一人でもいることは本当に有り難いのだが、民主党も党としてはどうにも当てにならないので、ダウンロード違法化問題についても先行きは実に不安である。

(なお、答弁では、一般フェアユース条項の導入の議論にこのダウンロード違法化法案は直接影響しないとしているが、「直接」と修飾語をつけているということは、間接的には影響してくる可能性があると政府(文化庁)も認識していると推測される。また、私的録音録画補償金問題は、今後、基本問題小委員会とやらで検討されるのではないかと思っていたが、この答弁は、それとは別に利害関係者の意見交換の場を設けることも検討しているかのように読める。私的録音録画小委員会についてどこでどのように検討されることになるのかも気になるところである。)

 ついでに一つ最近のニュースも紹介しておくと、特許に関して、特許庁の無効審判の制限と裁判所への判断の一本化の検討を開始するという日経のネット記事があった。判断の一本化が望ましいのはその通りだと思うが、実際の整理は非常に難しいのではないかと思う。

(以下、転載)

著作権法の一部を改正する法律案に関する質問主意書

 今国会に提出された著作権法の一部を改正する法律案(平成二十一年三月十日閣法第五十四号。以下「法案」という。)の内容について、第百六十八回国会において提出した質問主意書(質問第二一六号。以下「先の質問」という。)及び答弁書(内閣衆質一六八第二一六号。以下「先の答弁」という。)を踏まえ、先の質問における指摘が本法案において十分に反映されているとは評価し難いとの認識に基づき、以下質問する。

 法案第三十条第一項第三号の新設条項における「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」(以下「本項規定」という。)について質問する。
1)本項規定には、専ら映画の著作物につき我が国よりも著作権の保護期間が短く、かつ文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約第七条第八項を根拠とする相互主義を採用している国において自動公衆送信されている昭和二十九年(西暦千九百五十四年)から三十四年(西暦千九百五十九年)に公開された映画を我が国において視聴する目的でダウンロードする行為は含まれるのか。また、この場合において法案第四十七条の八の「当該複製物の使用が著作権を侵害しない場合」が成立し得る事例は想定しているのか。
2)本項規定には、アメリカ合衆国著作権法第百七条におけるフェアユース規定(権利者の利益を不当に害しない公正な利用であれば、許諾なしに著作物の利用ができるとするもの)に基づき当該国の法律上は合法的にアップロードされ、自動公衆送信されている著作物を我が国において視聴する目的でダウンロードする行為は含まれるのか。
3)先の答弁では「適法サイトに関する情報の提供について運用上の工夫が必要であること」を文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会の報告書に記載したと述べているが、本項規定は先の質問において指摘した「一般国民がインターネットにアクセスする行為に対して常に、かつ高確率で損害賠償を負うリスクを生じさせる結果となる」危険性を一方的に増大させる恐れが大きいと評せざるを得ないものと思料される。このような規定を創設すること自体、諸外国の著作権法におけるフェアユース規定の否定に直結するものであり、このことは我が国の知的財産戦略本部においても提言されている将来的なフェアユース規定の創設を著しく妨げる要因と成り得るのではないか。

 法案第四十七条の八の規定について質問する。
1)先の質問において「仮に現行の著作権法でキャッシュが『複製』と解釈されても権利制限を加えるべきではないとする」文化審議会事務局(以下「事務局」という。)の見解につき「見解に基づく条文が法律に明記されなければ意味を為さないのではないか」と指摘したところであるが、本条項を追加しなければキャッシュが外形的に「複製」とみなされ、違法と成り得る恐れが生じた為に創設するのか。
2)一般に、インターネットを閲覧する際に使用されるブラウザと呼ばれるソフトウェアは特定のフォルダにキャッシュを蓄積する構造となっているが、違法複製物のキャッシュがフォルダに収納されている時点では本条項の規定により合法と解される場合、キャッシュをフォルダから内蔵記憶装置の他の領域(自動公衆送信状態に置かないことを前提とする。以下同じ。)や、外部記憶装置に移動する場合、本条項の規定は適用されるのか。

 先の質問において、本法案が成立・施行された場合に便乗して振り込め詐欺やワンクリック詐欺、恐喝行為等が増大する恐れについて指摘したところ、先の答弁では「御指摘のような被害が生じないよう、仮に同項の規定の適用除外の範囲を拡大する場合には、当該制度改正の内容について広く国民への周知を図ることが重要であると考えている」とされているが、現時点で具体的に「御指摘のような被害が生じないよう」どのような対策を実施する予定であるのか。何ら予定が無い場合、係る犯罪の発生が当然に予見し得る政策を平成十九年秋に実施された意見募集で示された多くの一般国民の反対を押し切って強行する以上、無責任との謗りを免れ得ないものと思料されるが、その点につき政府の見解を問う。

 平成二十年度まで文化審議会著作権分科会(以下「分科会」という。)に設置されていた私的録音録画小委員会の後継組織について質問する。
1)事務局が私的録音録画補償金における「利害関係者」と認定している立場の者は、どのような立場の者であるのか、全ての列挙を求める。
2)報道によると、当該組織は非公開の私的懇談会として設置されるとのことであるが、このような形態で設置する理由は何か。分科会はその閉鎖性ないし情報開示に対する消極的姿勢が平成十六年の国会審議において批判に晒され、同年度より公開を原則として来た経緯があるものと承知しているが、当該組織の設置形態はこうした経緯に真っ向から反するものではないのか。
3)当該組織の構成員の選定基準については分科会委員や私的録音録画小委員会の専門委員に準じているのか。特に当該組織の議事が非公開とされていることにつき、事務局の意向に沿った「利害関係者」が優先的に集められると共に私的録音録画小委員会において事務局の議事進行に批判的な立場の委員または専門委員を排除し、事務局の求める結論に沿った形で議事を円滑に進める意図に基づき非公開とするのではないかとの批判が一部で生じているが、その点につき政府の見解を問う。

右質問する。

衆議院議員川内博史君提出著作権法の一部を改正する法律案に関する質問に対する答弁書

一の1)及び2)について
 お尋ねの「自動公衆送信されている昭和二十九年(西暦千九百五十四年)から三十四年(西暦千九百五十九年)に公開された映画を我が国において視聴する目的でダウンロードする行為」及び「自動公衆送信されている著作物を我が国において視聴する目的でダウンロードする行為」については、当該自動公衆送信が国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであり、かつ、その事実を知りながら当該自動公衆送信を受信してデジタル方式の録音又は録画を行う場合には、今国会に提出している著作権法の一部を改正する法律案(以下「法案」という。)における著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第三十条第一項第三号に該当する。また、1)の後段のお尋ねの趣旨が必ずしも明らかでないが、当該録音又は録画が、当該視聴のための電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められる限度で当該電子計算機の記録媒体に行われるものである場合には、法案における著作権法第四十七条の八の規定により、当該録音又は録画については、複製権は及ばない。

一の3)について
 文化庁としては、法案における著作権法第三十条第一項第三号の規定は、「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について(報告)」(平成二十年十一月二十七日知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会)における「権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」に関する提言を踏まえた所要の規定を創設するかどうかに関する検討に直接影響するものとは考えていない。

二の1)について
 法案における著作権法第四十七条の八の規定は、平成二十一年一月の文化審議会著作権分科会報告書(以下「報告書」という。)における「機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて」の検討を踏まえ、電子計算機において著作物を利用する場合に当該電子計算機による情報処理の過程で行われる著作物の蓄積に関し、複製権が及ばない範囲を明確にするために創設するものである。

二の2)について
 お尋ねの「移動する場合」の趣旨が必ずしも明らかでないが、法案における著作権法第四十七条の八の規定の適用を受けて作成されたキャッシュを用いて当該キャッシュに係る著作物を新たに複製する場合における当該複製行為については、同条の規定により複製権が制限されるものではない。

三について
 文化庁としては、法案が成立した場合には、インターネット、広報誌その他の媒体の活用、「著作権セミナー」その他の講習会や研修会の開催等を通じた広報啓発活動を行うとともに、関係団体による広報啓発活動を支援することにより、改正の内容について広く国民への周知に努めてまいりたいと考えている。

四の1)について
 お尋ねの「利害関係者」の趣旨が必ずしも明らかでないが、報告書においては、私的録音録画補償金制度の見直しに関する関係者として、「例えば権利者、メーカー、消費者など」と記載されている。

四の2)及び3)について
 お尋ねの「私的録音録画小委員会の後継組織」の趣旨が必ずしも明らかでないが、報告書に記載された「関係者が忌憚のない意見交換ができる場」を設けることに関しては、現在検討中である。また、文化庁としては、私的録音録画補償金制度の見直しに関する検討を行うに際して、御指摘のような「事務局の求める結論に沿った形で議事を円滑に進める意図に基づき非公開とする」との意図は有していない。

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2009年4月 3日 (金)

第165回:ポルトガルの私的複製・権利制限関連規定

 各国の著作権法紹介も地道にやって行きたいと思っており、今回は、ポルトガルの私的複製関連他の権利制限規定を紹介する。

 まず、ポルトガル著作権法(pdf)から権利制限規定の抜粋とその翻訳を以下に示す。(いつもの如く、翻訳は拙訳。)

CAPITULO II
Da utilizacao livre

Artigo 75.°
Ambito
1
- Sao excluidos do direito de reproducao os actos de reproducao temporaria que sejam transitorios, episodicos ou acessorios, que constituam parte integrante e essencial de um processo tecnologico e cujo unico objectivo seja permitir uma transmissao numa rede entre terceiros por parte de um intermediario, ou uma utilizacao legitima de uma obra protegida e que nao tenham, em si, significado economico, incluindo, na medida em que cumpram as condicoes expostas, os actos que possibilitam a navegacao em redes e a armazenagem temporaria, bem como os que permitem o funcionamento eficaz dos sistemas de transmissao, desde que o intermediario nao altere o conteudo da transmissao e nao interfira com a legitima utilizacao da tecnologia conforme os bons usos reconhecidos pelo mercado, para obter dados sobre a utilizacao da informacao, e em geral os processos meramente tecnologicos de transmissao.

2 - Sao licitas, sem o consentimento do autor, as seguintes utilizacoes da obra:
a) A reproducao de obra, para fins exclusivamente privados, em papel ou suporte similar, realizada atraves de qualquer tipo de tecnica fotografica ou processo com resultados semelhantes, com excepcao das partituras, bem como a reproducao em qualquer meio realizada por pessoa singular para uso privado e sem fins comerciais directos ou indirectos;
b) A reproducao e a colocacao a disposicao do publico, pelos meios de comunicacao social, para fins de informacao, de discursos, alocucoes e conferencias pronunciadas em publico que nao entrem nas categorias previstas no artigo 7.°, por extracto ou em forma de resumo;
c) A seleccao regular de artigos de imprensa periodica, sob forma de revista de imprensa;
d) A fixacao, reproducao e comunicacao publica, por quaisquer meios, de fragmentos de obras literarias ou artisticas, quando a sua inclusao em relatos de acontecimentos de actualidade for justificada pelo fim de informacao prosseguido;
e) A reproducao, no todo ou em parte, de uma obra que tenha sido previamente tornada acessivel ao publico, desde que tal reproducao seja realizada por uma biblioteca publica, um arquivo publico, um museu publico, um centro de documentacao nao comercial ou uma instituicao cientifica ou de ensino, e que essa reproducao e o respectivo numero de exemplares se nao destinem ao publico, se limitem as necessidades das actividades proprias dessas instituicoes e nao tenham por objectivo a obtencao de uma vantagem economica ou comercial, directa ou indirecta, incluindo os actos de reproducao necessarios a preservacao e arquivo de quaisquer obras;
f) A reproducao, distribuicao e disponibilizacao publica para fins de ensino e educacao, de partes de uma obra publicada, contando que se destinem exclusivamente aos objectivos do ensino nesses estabelecimentos e nao tenham por objectivo a obtencao de uma vantagem economica ou comercial, directa ou indirecta;
g) A insercao de citacoes ou resumos de obras alheias, quaisquer que sejam o seu genero e natureza, em apoio das proprias doutrinas ou com fins de critica, discussao ou ensino, e na medida justificada pelo objectivo a atingir;
h) A inclusao de pecas curtas ou fragmentos de obras alheias em obras proprias destinadas ao ensino;
i) A reproducao, a comunicacao publica e a colocacao a disposicao do publico a favor de pessoas com deficiencia de obra que esteja directamente relacionada e na medida estritamente exigida por essas especificas deficiencias e desde que nao tenham, directa ou indirectamente, fins lucrativos;
j) A execucao e comunicacao publicas de hinos ou de cantos patrioticos oficialmente adoptados e de obras de caracter exclusivamente religioso durante os actos de culto ou as praticas religiosas;
l) A utilizacao de obra para efeitos de publicidade relacionada com a exibicao publica ou venda de obras artisticas, na medida em que tal seja necessario para promover o acontecimento, com exclusao de qualquer outra utilizacao comercial;
m) A reproducao, comunicacao ao publico ou colocacao a disposicao do publico, de artigos de actualidade, de discussao economica, politica ou religiosa, de obras radiodifundidas ou de outros materiais da mesma natureza, se nao tiver sido expressamente reservada;
n) A utilizacao de obra para efeitos de seguranca publica ou para assegurar o bom desenrolar ou o relato de processos administrativos, parlamentares ou judiciais;
o) A comunicacao ou colocacao a disposicao de publico, para efeitos de investigacao ou estudos pessoais, a membros individuais do publico por terminais destinados para o efeito nas instalacoes de bibliotecas, museus, arquivos publicos e escolas, de obras protegidas nao sujeitas a condicoes de compra ou licenciamento, e que integrem as suas coleccoes ou acervos de bens;
p) A reproducao de obra, efectuada por instituicoes sociais sem fins lucrativos, tais como hospitais e prisoes, quando a mesma seja transmitida por radiodifusao;
q) A utilizacao de obras, como, por exemplo, obras de arquitectura ou escultura, feitas para serem mantidas permanentemente em locais publicos;
r) A inclusao episodica de uma obra ou outro material protegido noutro material;
s) A utilizacao de obra relacionada com a demonstracao ou reparacao de equipamentos;
t) A utilizacao de uma obra artistica sob a forma de um edificio, de um desenho ou planta de um edificio para efeitos da sua reconstrucao ou reparacao.

3 - e tambem licita a distribuicao dos exemplares licitamente reproduzidos, na medida justificada pelo objectivo do acto de reproducao.

4 - Os modos de exercicio das utilizacoes previstas nos numeros anteriores nao devem atingir a exploracao normal da obra, nem causar prejuizo injustificado dos interesses legitimos do autor.

5 - e nula toda e qualquer clausula contratual que vise eliminar ou impedir o exercicio normal pelos beneficiarios das utilizacoes enunciadas nos n.°s 1, 2 e 3 deste artigo, sem prejuizo da possibilidade de as partes acordarem livremente nas respectivas formas de exercicio, designadamente no respeitante aos montantes das remuneracoes equitativas.

Artigo 76.°
Requisitos

1 - A utilizacao livre a que se refere o artigo anterior deve ser acompanhada:
a) Da indicacao, sempre que possivel, do nome do autor e do editor, do titulo da obra e demais circunstancias que os identifiquem;
b) Nos casos das alineas a) e e) do n.°2 do artigo anterior, de uma remuneracao equitativa a atribuir ao autor e, no ambito analogico, ao editor pela entidade que tiver procedido a reproducao;
c) No caso da alinea h) do n.°2 do artigo anterior, de uma remuneracao equitativa a atribuir ao autor e ao editor;
d) No caso da alinea p) do n.°2 do artigo anterior, de uma remuneracao equitativa a atribuir aos titulares de direitos.

2 - As obras reproduzidas ou citadas, nos casos das alineas b), d), e), f), g) e h) do n.°2 do artigo anterior, nao se devem confundir com a obra de quem as utilize, nem a reproducao ou citacao podem ser tao extensas que prejudiquem o interesse por aquelas obras.
3 - So o autor tem o direito de reunir em volume as obras a que se refere a alinea b) do n.°2 do artigo anterior.

Artigo 77.°
Comentarios, anotacoes e polemicas
1
- Nao e permitida a reproducao de obra alheia sem autorizacao do autor sob pretexto de a comentar ou anotar, sendo, porem licito publicar em separata comentarios ou anotacoes proprias com simples referencias a capitulos, paragrafos ou paginas de obra alheia.
2 - O autor que reproduzir em livro ou opusculo os seus artigos, cartas ou outros textos de polemica publicados em jornais ou revistas podera reproduzir tambem os textos adversos, assistindo ao adversario ou adversarios igual direito, mesmo apos a publicacao feita por aquele.

Artigo 78.°
Publicacao de obra nao protegida
1
- Aqueles que publicarem manuscritos existentes em bibliotecas ou arquivos, publicos ou particulares, nao podem opor -se a que os mesmos sejam novamente publicados por outrem, salvo se essa publicacao for reproducao de licao anterior.
2 - Podem igualmente opor -se a que seja reproduzida a sua licao divulgada de obra nao protegida aqueles que tiverem procedido a uma fixacao ou a um estabelecimento ou restabelecimento do texto susceptiveis de alterar substancialmente a respectiva tradicao corrente.

Artigo 79.°
Preleccoes
1
- As preleccoes dos professores so podem ser publicadas por terceiros com autorizacao dos autores, mesmo que se apresentem como relato da responsabilidade pessoal de quem as publica.
2 - Nao havendo especificacao, considera -se que a publicacao so se pode destinar ao uso dos alunos.

Artigo 80.°
Processo Braille

Sera sempre permitida a reproducao ou qualquer especie de utilizacao, pelo processo Braille ou outro destinado a invisuais, de obras licitamente publicadas, contanto que essa reproducao ou utilizacao nao obedeca a intuito lucrativo.

Artigo 81.°
Outras utilizacoese consentida a reproducao:
a)
Em exemplar unico, para fins de interesse exclusivamente cientifico ou humanitario, de obras ainda nao disponiveis no comercio ou de obtencao impossivel, pelo tempo necessario a sua utilizacao;
b) Para uso exclusivamente privado, desde que nao atinja a exploracao normal da obra e nao cause prejuizo injustificado dos interesses legitimos do autor, nao podendo ser utilizada para quaisquer fins de comunicacao publica ou comercializacao.

第2章 自由利用

第75条 範囲
第1項
 そのような仲介が、通信内容を変化させず、情報の利用に関するデータ入手のために市場で認められている正当な利用に影響せず、一般的に純粋な通信プロセスである限りにおいて、過渡的あるいは付随的になされ、技術的プロセスの一体不可分な一部をなし、その唯一の目的が、仲介として第3者間のネットワーク通信か、保護を受ける著作物の合法利用を可能とするものであり、それ自体で、経済的重要性を持たず、ネットワークにおけるブラウジング、通信システムの効率的な動作等を可能とする行為としてなされる一時的複製は、複製権から除かれる。

第2項 著作権者の同意が無くとも、著作物の次の利用は合法である。
a)私的な目的のみのための、紙あるいは類似の媒体への、複写技術あるいは類似のプロセスを通じて実現される、著作物の複製、ただし、楽譜は除き、個人による私的利用のためになされるものに限り、直接的にであれ間接的にであれ商業目的のものも除く;
b)第7条(訳注:保護の対象とならないものを規定)で規定されているカテゴリーに入らない、情報、演説、公衆に対して行われる会合を目的とし、抜粋としてあるいは概要の形において、社会的な通信手段によってなされる複製あるいは記録;
c)刊行物の選考の形でなされる、定期刊行物の記事の通常の記事の選択;
d)求める情報の目的によって正当化される場合の、文学あるは芸術作品の断片の、時事報道への挿入としてなされる、何がしかの手段による、固定、複製、あるいは公衆送信;
e)公衆に当てられるのではない部数で、その機関の適正な活動に必要なだけに限られ、直接的にせよ間接的にせよ、経済的あるいは商業的利益を得ることを目的とせず、著作物の保存に必要な複製行為として、公共図書館、公文書館、非商業文書館、あるいは、研究又は教育機関によってなされる、以前に公衆に入手可能とされた著作物の全体あるいは一部の複製;
f)その教育機関内の教育のみを目的とする、公表された著作物の一部の複製、配布、頒布、ただし、直接的にであれ間接的にであれ、経済的あるいは商業的利益を得ようとしない場合に限る。
g)著作物の種類、性質によらず、それが達成しようとする目的によって正当化される限りでの、批評、議論あるいは教育を目的とした、他の者の著作物の引用あるいは概要の挿入;
h)教育用著作物への他の者の著作物の短い断片の挿入;
i)直接的あるいは間接的に営利を求めず、その特定の障害によって厳密に必要とされる手段に直接的に結びついた形で、障害者のためになされる、著作物の複製、公衆送信あるいは頒布;
j)公式の国歌あるいは国頌歌の、宗教的行為あるいは宗教行事における宗教的な性質のみを有する著作物の演奏と公衆送信;
l)他の商業利用を除く形で、イベントの宣伝に必要な限りでの、芸術作品の公衆展示あるいは販売の広報のためになされる著作物の利用
m)明示の留保がない場合の、時事報道、政治、経済あるいは宗教論、放送著作物あるいは他の同じ性質の題材の複製、通信あるいは頒布;
n)公共の安全、あるいは、行政、立法、司法手続きの適正な進行あるいは報告の確保を目的とした著作物の利用;
o)売買あるいはライセンスに服さず、その収集品に合わせられない形での、個人的な調査研究あるいは公的な構成員のためになされる、図書館、博物館、文書館と学校内の利用端末による通信あるいは頒布;
p)放送によって伝えられた場合の、病院や監獄のような場所での、営利を目的とせず、社会的教育のためになされる著作物の複製
q)例えば、建築や彫刻のように、公の場に永続的に置かれるために作られた著作物の利用;
r)著作物あるいは他の保護を受ける題材の偶然の写り込み;
s)機器の展示あるいは修理に関する著作物の利用;
t)改築あるいは修復を目的とする、建築物の図面と、建築の形式を有する芸術作品の利用;

第3項 その複製行為の目的によって正当化される範囲で、適法に複製された物は適法に配布され得る。

第4項 前各項に規定されている利用の実施態様は、著作物の通常の利用を妨げるものでも、著作権者の正当な利益を害するものでもあってはならない。

第5項 適正な補償金額に関することを含め、その実施形式についての、関係者間の自由な合意の可能性を排除することはないが、本条第1、2、3項に列挙されている利用の受益者の通常の実施を排除する、あるいは、妨げることを目的とする全ての契約条項は無効である、

第76条 条件
第1項
 前条に規定されている自由利用は、次の事項を伴わなければならない。
a)特定のための記載、可能である場合は常に、作者と編者、著作物の題名と他の状況;
b)前条第2項段落a)とe)の場合においては、著作権者に与えられるべき、アナログ環境においては、その性質上編者がその複製に対して受ける、適切な補償;
c)前条第2項段落h)の場合においては、著作権者と編者に与えられるべき適切な補償;
d)前条第2項段落p)の場合においては、権利者に与えられるべき適切な補償;

第2項 前条第2項段落b)、d)、e)、f)、g)の場合において、複製あるいは引用される著作物と、それを利用する著作物との間で混同が生じることがあってはならず、その複製あるいは引用によって、その著作物の利益が不当に害されることがあってはならない。

第3項 前条第2項段落b)に規定されている著作物を一冊にまとめることは、著作権者のみが有する権利である。

第77条 注釈と議論
第1項
 注釈を理由として、その著作権者の許可なく他の者の著作物を複製することは許されないが、他の者の著作物の章、段落、ページへの単なる参照を用いた適切な別々の注釈として出版することは適法なこととして許される。

第2項 本あるいはパンフレットに、新聞や雑誌等に公表された議論について、自身の記事、手紙、あるいは他の文章を公表する者は、その者によってなされた出版の後において、等しい権利を相手に認めることで、議論の相手の文章を複製することができる。

第78条 保護を受けない作品の出版
第1項
 公的あるいは私的な、図書館あるいは文書館に存在している原稿を出版する者は、その者の教示の複製でない限り、同じ物を他の者がまた出版することに反対できない。

第2項 保護を受けない作品について、通説を実質的に変更するほどに、疑わしい文章の確定あるいは復元を行った者が明らかにした教示に基づいてなされる複製については反対可能である。

第79条 講義
第1項
 その出版をした者が個人的に責任を有する報告として出すとしても、教師の講義は、著作権者の許可を受けてのみ出版され得る。

第2項 特に説明が無い場合、それは、生徒の使用のみに当てられているものと考えられる。

第80条 点字のケース
視覚障害者のため、ブライユ点字法あるいは他の方法によって、適法に公表された作品の複製あるいは他の利用をすることは、そのような複製あるいは利用が商業目的でない場合、常に認められる。

第81条 他の利用
次の複製は許される:
a)商業的に手に入れられないか、入手不可能な著作物の、科学的あるいは人文学的な関心のみのための、その利用に必要な期間だけの、一つの複製;
b)私的な範囲に限られる利用、ただし、著作物の通常の利用を妨げず、著作権者の正当な利益を害さず、公衆提供あるいは広告のために利用されない場合に限る。

 この条文は、2008年4月の改正後のものであるが、見てもらえば分かる通り、ポルトガルは明確なダウンロード違法化を行っていない。また、ポルトガルにおいて、ストライクポリシーが検討されているという話も聞かない(2008年4月の時点で既にドイツではダウンロード違法化を行っていたはずだが、ポルトガルはダウンロード違法化をせず、権利制限についてはその拡充のみを行っている。)

 私的複製に関する条文が、第75条第2項段落a)と第81条段落b)に分かれているのは、元々紙に対する複写だけしか考えていなかったものを、いつなされたものか正確には分からないが、第81条を追加する形で他の媒体や技術に対応させたのだろう。(これもいつの時代に除いたのかは不明だが、私的複写からの楽譜の除去が、音楽著作権団体の理不尽な政治力の結果を如実に示している。)

 第81条には、だめ押しのように、ベルヌ条約の3ステップテストの文言が付け加えられているが、この条文の解釈上、ダウンロードは違法であるとする確定判決がポルトガルで出されているということは聞かない。

 今のところ、ダウンロード違法化やストライクポリシーについては、ポルトガルも様子見国の一つに分類されるとして良いだろう。良く見て行けば行くほど、ダウンロード違法化やストライクポリシーを真面目に導入してエンフォースしようともがいている国は世界でも数えるほどしかないのである。

 また、第75条第5項で、私的複写も含めて、権利制限として列挙されている利用を排除・制限するような契約を原則無効としていることも注意しておいた方が良い。今まで紹介して来た国にもいくつかあったが、法律上私的複製を強行規定的に書いている国が存在していることは、もっと注目されて良い事実である。

 第81条段落a)で絶版著作物の研究のための複製が明確に認められているということも注意しておきたい。ドイツもそうだが、私的複製の範囲が狭い国でも、絶版著作物の入手のための権利制限がある等の違いが存在しているケースもあり、私的複製問題においては本来こうした点も含めきちんとした国際比較がなされなくてはならないはずなのである。

 なお、様々な政治的圧力のためだろう、ポルトガルの権利制限も、かなりトリッキーに細かな規定がいろいろと入っているが、各権利制限項目自体は比較的簡潔に書かれている。例えば、機器の修理については第75条第2項段落s)で、機器の修理に関する利用と極あっさり書かれている。機器の補修・修理に関する日本の規定はえらく狭くややこしいが、機器の補修・修理についてなど本来これくらいの規定でも良かったのではないかと思う。ついでに言っておくと、図書館資料の原本保存のための電子化についても、国会図書館という超特殊図書館のみに認めている、あるいは、認めようとしている国を、日本以外に私は知らない。

 また他の話を挟むことになるのではないかと思うが、今回の続きとしてポルトガルの私的複製補償金関連の紹介もじきにしたいと思っている。

 最後に、知財関係のニュースも少し紹介しておくと、実際に最終的にどうなるかは何とも言えないが、欧州の実演家保護期間延長問題について、その国内事情もあってか、イギリスが、70年への妥協案も含め、延長に対して慎重姿勢に転じたようである(Numeramaの記事参照)。

 また、ドイツの音楽事業者協会が、2008年版の音楽ダウンロード報告書(pdf)を公表しているので、その第25ページから、違法ダウンロードに関する図をここに引用しておく。第13回でも書いたように、ドイツは2007年の9月にダウンロード違法化の明確化を行い、その法改正案の施行は2008年1月からされている訳だが、ドイツの音楽事業者言うところの違法ダウンロード(ファイル交換全てを違法としていたり、無料=違法といった間違った考えに基づいた上で、適当にアンケート調査を取っているという問題が、ドイツでも恐らく存在していることだろうが)は、ダウンロード数で2007年の31200万曲という数字から2008年で31600万曲と特に減少は見られず、違法ユーザーとするP2Pユーザー数についても2007年の335万人から374万人とどちらかと言えば微増の傾向が見られるくらいである。2005年当時から見ると、確かに微減と言えなくもないのだが、これは、ダウンロード違法化がどうこうと言うより、2006年からの非道な対P2Pユーザー訴訟拡大戦略(図に民事手続きの数も書かれているが、2005年で395件だったものが、2006年には2811件、2007年には15699件と実にバカげた数字になっている。)による萎縮効果だろう。しかし、このような非道な大量訴訟戦略を取ってすら、結局、社会的コストの途方も無い浪費に終わり、著作権法に関するモラルハザードがじっくりと進行するだけに終わるということが既に数字上も現れつつある。さらに、これだけのことをやっても、特に有料音楽配信ユーザーが劇的に伸びるということは無論無く、2005年で303万人だったものが、2006年で395万人、2007年で409万人、2008年で447万人と何もしなくても伸びたのではないかと思う数字を示しているに過ぎない。ダウンロード違法化を行い、かつ、それをエンフォースしようとした唯一の国であるドイツで、既にダウンロード違法化政策は事実上完全に破綻しつつある。悪い結果を考えずに実行するのはただのバカだが、悪い結果を知ってなお実行するのは完全な気違いである。既に狂っている文化庁と日本政府にはもはや何を言ってもムダかも知れないが、ダウンロード違法化は、どこをどう考えても百害あって一利ない最低の政策であると私はどこまでも言い続けるだろう。

(4月3日夜の追記:日本の権利者団体が特に問題としているのは違法着うたではないかと思うが、ドイツでは、そうした通常のホームページの無料ユーザーは、2005年で344万人、2006年で385万人、2007年で372万人、2008年で426万人と、ダウンロード違法化の明確化前後で大きな影響があったとは思えない数字となっているということも、念のため指摘しておく。そもそも「無料=違法」という考え自体間違っているのだが。)

(4月4日夜の追記:図書館の資料保存のための権利制限自体は既に第31条第1項第2号に規定されているので、問題は、図書館の資料保存のための権利制限そのものではなく、その原本保存のための電子化である。上の文章を修正したが、誤解を招く書き方をしていたことを謹んでお詫びする。

また、フランスの下院がこの4月3日に、3ストライク法案を16名(定数は577名)という驚くべき少なさの出席議員のみで可決した(La Tribuneの記事nouvel Obsの記事01netの記事参照)。上院と下院で多少条文が違うため、今後、両院協議会で最終的な審議がされることになるが、ネット切断等の本質的な部分は結局修正されずに終わったようであり、この協議で本質的な部分を変更することは困難ではないかと思う。無論ユーザー等からの非難は囂々と巻き起こっているが、現時点で大統領が署名を拒否するとも考えづらく、3ストライク法案はこのままごり押しで通されそうな気配がただよって来ている。最終的に条文が確定したところで、また紹介したいと思うが、この体たらくでは、フランスも、大革命であがなった自由の意味を完全に見失っているとしか言いようが無い。)

(左が図8「著作権侵害の推移−2004〜2008年のインターネットファイル交換における」うち、赤線が違法ダウンロード(単位百万)、オレンジ色の線がブロードバンドユーザー数(単位百万)、黒線が民事手続き数。右が図9「合法/違法の音楽をインターネットから入手したユーザー数」うち、オレンジ色の棒が違法音楽タイトル(ファイル交換)(単位百万人)、灰色の棒が無料音楽タイトル(ホームページ)(単位百万人)、赤の棒が有料音楽タイトル(単位百万人))

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