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2009年3月24日 (火)

第163回:イギリス知的財産庁の意見募集ペーパー「デジタル社会における著作権」

 第151回で、イギリス文化省の「デジタル・ブリテン」中間報告書のことを取り上げたが、その中の海賊版対策に関する項目について、この13日に、イギリス知的財産庁が、「デジタル社会における著作権」という意見募集ペーパーを公表している(イギリス知財庁のリリースペーパー本文(pdf))。

 「デジタル・ブリテン」中間報告書でいまいち良く分からなかったデジタル権利エージェンシーについては、やはり要領を得ないのだが、ペーパー(pdf)の付録Aを読むと、要するに、権利者団体なりが集まって作る団体であって、任意で著作物の登録が行え、登録された著作物に対しては合法性・品質を保証する英国規格院検査証が使用可能となり、民事的なエンフォースや著作権啓蒙キャンペーン行うというものを考えているようである。

 その上で、法制の提案としては、これも付録Bから引用するが、

Annex B: Preventing and reducing online copyright infringement: the obligations

1 This paper sets out a basic proposal for legislation that would place specific obligations on ISPs within a framework that requires a code to establish the detail of how those obligations are to work. The code would also have the scope to go further and require further action from ISPs in relation to repeat infringers. All aspects of the code would have to be approved by Ofcom in accordance with their normal principles of proportionality, objective justification etc.

2 Notification obligation
2.1
The specific obligation in terms of notification will sit on ISPs. Any ISP will be obliged to notify an account holder, upon receipt of appropriate evidence (standards to be set by the code) from a rights holder of copyright infringement on that account, of the existence of such evidence.

2.2 A request in respect of a specific infringement may only be made by the rights holder of that material or someone authorised to act on their behalf. There may need to be a time limit as to how long after an infringement occurs a request may be made.

2.3 The ISP will have to send a notification to the account holder setting out the details of the alleged infringement. The notification will also have to provide:
・advice and guidance on securing wireless networks;
・a statement that it the notification is sent pursuant to the legislation;
・advice on how/where to access legitimate content;
・information about copyright and why it is important; and
・anything else specified by the code.

2.4 The standard of evidence required from rights holders should be as high as can be reasonably demanded. The template used by the BPI in the MOU trial should serve as a model for this as it has proved satisfactory to all the ISPs in the trial and has not provoked any particular concerns by consumers affected.

3 Serious Infringer Obligation

3.1 The second obligation is to maintain data relating to the notifications sent to their customers on behalf of each rights holder or their designated agent. To be absolutely clear - there is no intention to require ISPs to monitor the activity of their customers. Rather, they will collate information on the number of times they have been requested to send notifications to each customer by each rights holder or their representative.

3.2 In practical terms this means that an ISP would need to know, and be able on an anonymous basis to relate to any individual rights holder, the account holders against whom there has been the highest number of notifications at any given point.

3.3 The ISP would need to be able to alert the rights holder, upon request, of the next time they received an infringement notification in respect of one of these serious infringers. The rights holder could then use that infringement event as the basis to go to court to get an order for the release of the personal details of the account holder in order to take legal action. The rights holder would then be able to present evidence in relation to all the notified infringements by that account holder in any subsequent litigation.

4 Code of practice
...
4.6 Provisions in the code may also:
・require ISPs to restrict the network access of an account holder by:
-constraining the amount of data that they can access in a period of time;
-constraining the speed at which they can access data;
-restricting access to specific traffic protocols;
-suspending access to the internet until they have taken appropriate action (for example completing a questionnaire designed to educate on the importance of copyright); and
-other technical tools that might be appropriate and proportionate as a mechanism for preventing or reducing online copyright infringement.
...

付録B:オンライン著作権侵害の予防と防止:法的義務

 このペーパーは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)に対して特定の義務を課す法制の基本的な提案も行うものである。また、この枠組みは、これらの義務がどのように機能するかについての細かなことを定める規約を必要とする。この規約は、その先の範囲、反復違反者との関係でISPに求められるさらなる行動も含む。この規約は、バランス、客観性、正当性等々の通常の原理と一致するよう、あらゆる点で、情報通信庁の認可を必要とする。

2 通知の義務
2.1
 通知に関して特定の義務がISPに課される。全てのISPは、そのアカウントにおいて著作権侵害がなされていることについて適切な証拠(規約によって定められる基準による)を、権利者から受け取ったとき、そのような証拠の存在について、アカウント保持者に通知する。

2.2 特定の侵害に関する請求は、その物の権利者あるいは、その代理として行動する権利を有する者によってのみ行使され得る。侵害が生じてから請求がなされるまでの期間について期限を設ける必要がある。

2.3 ISPは、侵害容疑の詳細について明確に書かれた通知を、アカウント保持者に送らなくてはならない。通知は、次のものも提示しなくてはならない:
・ワイヤレスネットワークのセキュリティに関するガイダンスと助言;
・通知が法律に基づくものであるという記述;
・どこで/どのように合法的なコンテンツにアクセスできるかについての助言
・著作権とどうしてそれが重要であるかに関する情報;そして
・規約によって特定される他の事項。

2.4 権利者に求められる証拠の基準は、合理的に求められる限り高いものであるべきである。試行の中で全てのISPにとって満足の行くものであり、関係する消費者の懸念も引き起こさないものであることが示されたものであるので、試行の合意の中で全英レコード産業協会(BPI)によって使われたテンプレートがそのモデルとして使われるべきだろう。

3 深刻な侵害者に対する法的義務
3.1
 第2の法的義務は、権利者あるいはその指定する代理人に変わってその利用者に送った通知に関するデータを保持することである。完全に明確にしておくが-ISPにその利用者の行動を監視させることを求める意図は無い。そうでは無く、ISPは、各権利者あるいは代理人から各利用者への通知請求の回数の情報を集めることになるだろう。

3.2 実務的な言葉で言えば、これは、ISPは、ある時点で最大数の通知が出されたアカウント保持者を知っているべきということを、匿名性の原則に基づきながら、その者を個々の権利者に知らせることができるということを意味する。

3.3 ISPは、求めに応じて、これらの深刻な侵害者が侵害通知を再び受けた場合、そのことについて権利者に注意することができることとされるべきである。その後、法的アクションを起こすために、アカウント保持者の個人情報の開示命令を得るべく法廷へ赴く基礎として、権利者は、この侵害に関するイベントを用いることができる。そして、権利者は、その後の全ての訴訟において、アカウント保持者の通知を受けた全ての侵害に関し証拠を提出可能となる。

4 運用規約
(中略)
4.6 規約の規定は次のものを含み得る:
・以下によって、アカウント保持者のネットワークアクセスを制限することをISPに求めること:
-ある期間の間に彼らがアクセスできるデータ量の制限;
-彼らのデータアクセス速度の制限;
-特定のトラフィックプロトコルのアクセスの制限;
-適切な行動(例えば、著作権の重要性についての教育のために作られたアンケートに答えることなど)まで、そのインターネットへのアクセスを遮断すること;そして
-オンライン著作権侵害を予防あるいは防止するための機構として適切でバランスの取れたものである、他の技術的な手段。
(後略)

と、ISPにユーザーへの警告通知の義務と、この通知回数が多い深刻な侵害者についての権利者への報告義務を課すことを考えているようである。

 オプションとしてではあるがネット切断についても書かれており、イギリスも、フランスやニュージーランドで揉めるだけ揉めているストライクポリシーを採用しようと、ISPの著作権警察化を図ろうともがいていることが、このペーパーからは見て取れる。実際のところ、フランスで公的機関(第104回参照)が行うとしていることを、イギリスでは、権利者団体らにデジタル権利エージェンシーを作らせ、そことISPに振り分けようとしているというだけのことである。

 警告通知などの全コストはISPが負わされることになるのではないかと思うが、その場合、まず間違いなく警告通知要請が乱発され、混乱をまねくことになるだろう。しかし、この要請の主体となるのであろうデジタル権利エージェンシーについては、その費用対効果の面から、権利者側からもケチがついており(MusikWeekの記事P2P Blogのブログ記事参照)、この案の通りに行くかどうかは実に怪しい。(著作権の任意登録システムと組み合わせたところが多少他の国とは違っていると言えば違っているのかも知れないが、そもそもどこの国であれ、第56回で書いたように、この手のインセンティブ付き登録システムがうまく機能するとは到底思えない。)

 「デジタル・ブリテン」最終報告書の取りまとめなど、また動きがあれば紹介したいと思っているが、この体たらくでは、イギリスもストライクポリシーで当分揉め続けることになるのではないかと思う。

(3月25日の追記:ニュージーランド政府が、大問題となった改正著作権法のストライク条項の施行を断念し、その改正に着手すると発表したとのニュースがあった(Scoopの記事NBRの記事参照)。今後どうなるかは読めないが、ニュージーランドのこのような動きは、イギリスやフランスでのストライクポリシーの検討にも何かしらの影響を及ぼして行くことだろう。

 また、スペインでは、ある上院議員が、私的複製補償金の廃止の検討について言及したようである(internautas.orgの記事参照)。非道な著作権強権国家・補償金大国スペインにおいて、「あらゆるデジタルメディアに私的複製補償金を課す改正知的財産法の施行後3年を経て、このような無差別の追加コストは、その作品のための著作者への補償として最上の方法では無く、かえって、私たちの国の技術発展の重荷となり、国民の経済的損失となっていることがはっきりした」というのは、間違いではないだろう。日本と同様、ヨーロッパにおいても各者の利害が複雑に絡み合っている私的複製補償金を廃止するのは現実的には極めて困難だと思うが、このような考えが、ヨーロッパにおいても政治のレベルに明確に伝わって来ているということは非常に大きい。)

(3月25日夜の追記:今日の文化審議会著作権分科会で補償金問題のそもそも論を検討する基本問題小委員会の設置が決まったようである(internet watchの記事参照)。この問題に終わりは無い。)

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著作権国際動向(イギリス)」カテゴリの記事

コメント

ところで、イギリスと言えば文化大臣が2006年末に公表されたGowers Reviewを破棄すると宣言したそうですが(コピライト2009年1月号)、これで与党・労働党と野党・保守党が揃って著作隣接権延長に舵を切ったと言うことなんですかね。

投稿: 謎工 | 2009年3月26日 (木) 14時07分

謎工様

コメントありがとうございます。

Gowers Reviewを明確に破棄したという話は聞かないので、まだ生きているのではないかと思いますが、確かに最近のイギリスの動きはこのReviewを全く反映していませんね。(Gowers Reviewは非常に良い出来のレポートだっただけに残念です。それと済みません、2009年1月号で関係する記事を私には見つけられなかったのですが、コピライトの何ページでしょうか。)

欧州における著作隣接権(実演家の)保護期間延長問題についても、EU議会での議決はひとまず4月末まで延期されましたが、95年を70年への延長にするといった変な妥協案でまた無理矢理議決を図ってくる可能性もありそうです。(全く問題の本質を理解していない話ですが。)
http://blogs.telegraph.co.uk/shane_richmond/blog/2009/03/23/copyright_extension_debate_what_did_you_think

こうした動きについて、イギリスの法学界も不信感を募らせてるようです。
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/letters/article5955450.ece

権利者団体・メジャーレーベル等がイギリス政府にかなりの圧力をかけているのでしょう、今後どうなるかは何とも言えませんが、欧州における著作権問題の先行きはかなり不穏です。

投稿: 兎園 | 2009年3月26日 (木) 22時57分

参考になります。面白いです♪どうも、ありがとうございます!

投稿: ももみ | 2010年2月 4日 (木) 21時00分

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