第157回:新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対する提出パブコメ
第155回で取り上げた新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対して、パブコメを提出したので、ここに載せておく。
先に最近のニュースも少し紹介しておくと、まず、知財本部から、恒例の知財計画の見直しに関するパブコメの募集がかかった(3月25日〆切。知財本部のリリース、個人用提出フォーム(法人・団体用)、電子政府の該当ページ、意見募集要項(pdf)、知財計画2008(pdf))。知財計画2008の内容については既に第103回で書いているので、新たなエントリを立てることはしないが、パブコメは提出次第ここに載せたいと思っている。ダウンロード違法化問題、保護期間延長問題、私的録音録画補償金問題、B-CAS・DRM規制問題、青少年ネット規制法・出会い系サイト規制法の問題、違法コピー対策・海賊版対策条約の問題、フェアユースの導入、情報・表現規制問題等々、問題は常に山積みである。
各国の著作権法についても順次紹介したいと思っているところだが、スウェーデンで知財法改正案が国会を通ったとする記事(The Localの記事、ecransの記事)もあったので、念のためリンクを張っておく。これらの記事によると、この法改正は、それまで刑事事件でのみ(警察あるいは検察に対してのみ)認められていた、ファイル共有におけるIPアドレスからのユーザー情報の開示について、裁判所の決定とともにインターネットアクセスプロバイダーから権利者へ情報開示をさせるという、民事的な手続きの整備を行うもののようである(法改正案(pdf)(スウェーデン語))。しかし、この法改正については、実質的にプライバシーを侵害する著作権検閲を認めるものであり、著作権団体を警察以上の著作権警察とするものと批判されてもいるようである(反対派のHP(スウェーデン語))。
また、やはり第155回で取り上げた、不正競争防止法の改正法案が、この2月27日に閣議決定され、国会に提出されている(経産省のリリース、概要1(pdf)、概要2(pdf)、新旧対照条文(pdf))ので、経産省のリリースにリンクを張っておく。残念ながら、経産省も無意味な規制強化に余念が無いと見える。
(3月4日夜の追記:「チラシの裏(3週目)」で既に細かな突っ込みをされているが、児童ポルノ規制法改正に関して、民主党が、2回以上の取得に対して罰則を設ける児童ポルノ2ストライクアウト法案の了承手続きを取った(民主党のリリース)。この案は、去年の5月の時点(第96回参照)とほぼ同じであり、ネットの特性を考えると、このような法改正が危険であることに変わりはない。金の問題もさることながら、政策的な面でも今の民主党は信頼できない。)
(3月5日夜の追記:知財本部の「知的財産による競争力強化専門調査会」で、第3期の基本方針について検討されている。こ基本方針自体に対するパブコメは既に終了しているが、この基本方針の在り方についての案(pdf)(3月3日の資料より)の内容は、今後の知財計画に反映されて行くだろうものであり、上記の知財計画パブコメの参考になると思うので、ここにリンクを張っておく。)
(以下、提出パブコメ)
(意見概要)
不当な利得を得るための登録・権利行使が考えられる、音について、その不登録事由等について十分な検討を経ないまま、新たな保護類型として追加することに反対する。
(意見本文)
報告書案では、音の商標を新たな保護類型として追加する方針としているが、音の商標は、他の視覚的な商標とは異なる特色を有しているということが考慮されるべきであり、音に、会社名を連呼するような音だけでは無く単なる旋律も含まれ得、音の商標の使用に、単なるBGMとしての使用も含まれ得ることから、音については特に慎重に検討するべきである。
例えば、パブリックドメインに落ちた著名な旋律が商標登録されてしまうと、その旋律を広告や動画やサイトや店のBGMに商標権者の使用許諾無く使えなくなるということになり得るが、このような商標登録・権利行使は、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の本来の法目的をないがしろにする、不当な利得を得るための、商標の不当な登録・権利行使であり、決して認められてはならないものである。(商標法第29条の調整規定で著作権と抵触する場合は商標使用ができないとされているが、パブリックドメインに落ちたものには関係ないものと考えられる。)
新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループの第3回で、座長がこの点について、「パブリックドメインに落ちている音楽の著作物の一部を特定の一事業者が独占するといっても、あくまでも商標としてですね。商標として、今のところでいえば、出所表示的な対応において使用されていると、出所を表示するために、そういう表示として独占するということになるわけです。」と説明しているが、実際には、音の場合に何をもって出所表示的な使用とするのかは非常に曖昧であり、このような説明では、上記のような懸念は全く払拭されない。
報告書案で公益的な音については登録除外とするとしているが、これだけでは不十分である。余計な混乱を避けるため、音について、少なくとも、他人の著名な旋律・楽曲を登録から除外することを検討するべきであり、上記のような不当な利得を得るための登録が排除されない限り、音については、その保護類型への追加は決してされるべきではない。
また、他のタイプのものも含め新しいタイプの商標全体について、諸外国の不登録事由・使用における例外・権利制限規定等を精査し、可能な限り取り入れるようにするべきである。
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