第161回:フランスの私的複製補償金問題の現状
今回は、フランスの私的複製補償金問題の現状についてざっと取り上げておきたいと思う。(フランスというと3ストライク法案も今下院の審議にかかっているが、大いに揉める中、様々な修正も入っており、また一区切り付いたところで紹介したいと考えている。)
第16回で書いたように、フランスの私的複製補償金委員会は、委員長を国の代表として、権利者団体代表が2分の1、メーカー団体代表が4分の1、消費者代表が4分の1となっていて、権利者団体は国の代表を抱き込むだけで課金対象をいくらでも広げることができるという非道い構成を取っており、以前から、メンバーの半数を占めている権利者団体代表が、適当な料率を提案して、それを過半数で可決するというやりたい放題のことをやっていたため、2007年の11月(議事録(pdf))の委員会で、メーカー代表から委員会の構成・進め方自体に問題があるという非難がされた後、2008年2月の委員会(議事録(pdf))から、メーカー団体代表が完全に出席しなくなり、出席メンバー数が委員会を開催するための充足数に満たず委員会を開催できないことも間々あるという異常事態が続いていた。
そして、第105回で紹介したように、去年の7月11日に、私的複製補償金は、合法の私的複製に対する補償に限られるのであって、非合法なコピーに関する補償まで含めて考えていた前回の料率決定は誤りであり破棄されるべきであるとフランス行政裁判所が判決を下すと、ようやくその後の9月の委員会(議事録(pdf))からメーカー代表も姿を見せ、何回かに渡ってメーカー側もフルメンバーに近い形で参加するのだが、日本と似たようなアンケート調査から補償金維持拡大を主張する権利者団体と、行政裁判所の判決を引き合いに出し、複製ソースや用途の観点などから縮小を主張するメーカー団体等で議論は完全に平行線を辿り、結局、再びメーカー代表が参加しなくなる中、強行採決に近い形で12月17日に全ての機器・媒体に対する料率完全維持が決定(決定本文(pdf))されるに至る。
この12月17日の議事録(pdf)を見ると、委員会の出席は、メーカー代表とされる1名、消費者代表とされる2名、権利者団体代表12名とデタラメな片寄りを見せており、法律的には成立しているとしても、これでは公平性も何もあったものではないだろう。(権利者団体やメーカー団体の主張は、日本と大して変わらないので省略するが、興味のある方は、フランスの私的複製補償金委員会のHPに載っている各議事録を追って頂ければと思う。ただし、消費者代表については、消費者連合(UFC)のような制度に批判的な普通の消費者団体は、この委員会は出席するだけ汚点になると思っているのか、2007年当初から全く参加しておらず、家族国家連合(UNAF)や消費研究組合(ASSECO-CFDT)のようなスジ違いの団体が、ピントのずれた発言や票入れをしている。)
その結果、この委員会ではもはやどうしようもないということで、機器メーカー代表のAV機器協会(SIMAVELEC)やAV情報機器国際企業組合(SECIMAVI)、媒体メーカー代表の情報画像メディア協会(SNSII)など(これらの団体は委員会に席も持っているが、議決を行った回には欠席している。)から、この12月17日の決定に対してまた行政裁判が起こされるという事態になっているのである(PC INPACTの記事参照)。
繰り返しになるが、欧州だからと言って消費者やメーカーが納得して補償金を支払っているということは全く無い。第122回で紹介した補償金制度改革プランの先行きこそ良く分からないものの、世間の批判などどこ吹く風とばかりに、この3月16日にも補償金委員会でやはり勝手にブルーレイ課金を決める(PC INPACTの記事参照)など、このようなやり方が続く限り、フランスでも、私的複製補償金問題に関して裁判等による争いが止むことはないだろう。
次回も、著作権国際動向の話をするつもりである。
(3月21日の追記:補償金・・・様、コメント・情報ありがとうございます。なかなか手が回っていませんが、ラテンアメリカの国々も含め、世界各国の私的複製関連規定も順々に紹介して行きたいと思っています。
今のところ、アルゼンチンの著作権法に補償金制度は入っていませんし、まだラテンアメリカ諸国では補償金制度を導入した国は無いと思いますが、教えて頂いた記事にもある通り、アルゼンチンでも権利者団体が結構前から補償金制度創設のためのロビー活動をしており、アルゼンチンのフィルムス上院議員が、最近、この3月にも補償金制度創設法案を提出するべく何らかのクライテリアを作りたいと権利者団体と相談し、そのことを自身のブログに載せたところ、この議員は、早速反対派からも猛烈な抗議のロビー活動を受け、権利者団体・ユーザー・メーカー等関係各者全ての間でコンセンサスが出来ない限り、法案を提出しないことを約束させられたようです(反対派のブログ記事参照)。アルゼンチンの著作権法は少し特殊なところもあるのですが、関係各者の意見に日本と大きな違いは見られず、短時間でコンセンサスを作り法案を提出することはおよそ困難でしょう。ただ、このような形で明確に戦端が開かれた以上議論は活発化すると思いますし、分かる限りでまた動きがあれば適宜順を繰り上げて、アルゼンチンのことを紹介したいと思います。)
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コメント
いつも興味深く拝見させていただいています。
国内の補償金の議論でも、公平な評価機関をつくって、というようなことが文化庁から提案されたりしていましたが、フランスを見れば、それがどれだけ危険なことか分かりますね。
ところで、私は言葉の壁があってよく分からないのですが、アルゼンチンでも補償金制度の導入が議論されているのでしょうか。現在、どうなっているのかよく分かりませんが、法案もあるようです。ご参考まで。
http://www.lanacion.com.ar/nota.asp?nota_id=1106981
投稿: 補償金・・・ | 2009年3月19日 (木) 11時36分