第158回:知財本部・知財計画2008の見直しに関する提出パブコメ
内容は、ほぼ今まで出してきたパブコメのまとめだが、前回少し取り上げた、知財計画2008の見直しに関するパブコメも書いて提出したので、ここに載せておく。
(表現規制に関することから、このブログをご覧になっている方へ:このブログは行きがかり上、表現規制一般の問題も取り扱っているが、知財規制と表現規制は似て非なるものである。私自身は知財政策に関する各項目に関して書きたいこともあり、各規制官庁がいろいろと表現規制一般の問題について書き込もうとしてくる可能性も高いため、合わせてこのパブコメに表現規制の話を書いているが、児童ポルノ法などの表現規制一般の話は本来は知財本部の管轄外と思われることにはご注意頂きたい。去年のメモにも同趣旨のことを書いたが、念のため。)
(3月10日夕方の追記:残念ながら、ダウンロード違法化を含む著作権法の改正案が閣議決定されたとのことである(47newsの記事、マイコミジャーナルの記事参照)。出来レースにもほどがあるが、これで、ダウンロード違法化問題の審議は国会の場へと完全に移る。党や国会議員に手紙を出す等、個人でできることは限られるが、今後も私はできる限りのことをして行くつもりである。(jabo様、コメントありがとうございます。))
(以下、提出パブコメ)
(概要)
有害無益なものとしかなりようの無いインターネットにおける今以上の知財保護強化、特に、ダウンロード違法化、著作権の保護期間延長、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大に反対する。今後、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が進むことを期待する。
(本文)
最終的に国益になるであろうことを考え、各業界の利権や省益を超えて必要となる政策判断をすることこそ知財本部とその事務局が本当になすべきことのはずであるが、知財計画2008を見ても、このような本当に政策的な決定は全くと言って良いほど見られない。知財保護が行きすぎて消費者やユーザーの行動を萎縮させるほどになれば、確実に文化も産業も萎縮するので、知財保護強化が必ず国益につながる訳ではないということを、著作権問題の本質は、ネットにおける既存コンテンツの正規流通が進まないことにあるのではなく、インターネットの登場によって新たに出てきた著作物の公正利用の類型に、今の著作権法が全く対応できておらず、著作物の公正利用まで萎縮させ、文化と産業の発展を阻害していることにあるのだということを知財本部とその事務局には、まずはっきりと認識してもらいたい。特に、最近の知財・情報に関する規制強化の動きは全て間違っていると私は断言する。
今まで通り、規制強化による天下り利権の強化のことしか念頭にない文化庁、総務省、警察庁などの各利権官庁に踊らされるまま、国としての知財政策の決定を怠り、知財政策の迷走の原因を増やすことしかできないようであれば、今年の知財計画を作るまでもなく、知財本部とその事務局には、自ら解散することを検討してもらいたい。そうでなければ、是非、各利権官庁に轡をはめ、その手綱を取って、知財の規制緩和のイニシアティブを取ってもらいたい。
知財本部において今年度、インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化はほぼ必ず有害無益かつ危険なものとなるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待し、本当に決定され、実現されるのであれば、全国民を裨益するであろうこととして、私は以下のことを提案する。
(1)「知的財産推進計画2008」について
a)ダウンロード違法化問題について
知的財産推進計画2008の第90ページに書かれている、ダウンロード違法化問題について、今年度の文化庁の文化審議会著作権分科会において、情を知ってダウンロードする行為を違法化するとの方針が示されたが、一人しか行為に絡まないダウンロードにおいて、「情を知って」なる要件は、エスパーでもない限り証明も反証もできない無意味かつ危険な要件であり、技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、このようなダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ないものである。このような法改正を押し通せば、結局、ダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードがさらに進行するだけであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。どう転ぼうが、ダウンロード違法化は百害あって一利ない最低の法改正である。プログラムも含め、あらゆる著作物のダウンロード違法化に、私は今なお完全に反対する。
違法ダウンロードによる権利者の経済的不利益が大きいとする根拠も薄弱であり、去年から状況にほとんど変化はなく、ダウンロード違法化の合理的な根拠は今なおほとんど全くと言って良いほど何もないにもかかわらず、去年の私的録音録画小委員会中間整理に対して集まった8千件以上のパブコメの7割方で示された国民の反対・懸念を完全に無視し、文化庁は、その文化審議会において、ダウンロード違法化の方針を含む報告書を最後まで押し通した。このような非道極まる民意無視は到底許されるものではなく、知財計画2009において、文化庁の方針を白紙に戻し、ダウンロード違法化を絶対にしないと必ず明記してもらいたい。
b)私的録音録画補償金問題について
私的録音録画補償金問題については、第91ページに記載されているが、権利者団体等が単なる既得権益の拡大を狙ってiPod等へ対象範囲を拡大を主張している私的録音録画補償金問題についても、補償金のそもそもの意味を問い直すことなく、今の補償金の矛盾を拡大するだけの私的録音録画補償金の対象拡大を絶対にしないということを、知財計画2009では明記してもらいたい。
ブルーレイ課金についても、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後半年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、現時点でブルーレイ課金に合理性があるとは私には全く思えない。わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。私的録音録画小委員会で補償金のそもそもの意義が問われた中で、その解決をおざなりにしたまま、ブルーレイ課金のような合理的根拠に乏しい対象拡大がなされるべきではない。
また、私的録音録画補償金問題に関する今後の検討について書くのであれば、最近の著作権分科会報告書で今後文化庁が設けるとされた、権利者、メーカー、消費者などの関係者が忌憚のない意見交換ができる場について、これを公開にするとともに、より公平を期して、消費者・ユーザー代表を3分の1、メーカー代表を3分の1、権利者代表を3分の1とすることを知財計画2009で明記してもらいたい。権利者が不利という声があがるのかも知れないが、この程度の数の有識者を納得されられなくて、国民の理解が得られると思うことなど片腹痛い。真に国民の理解が得られない法改正・対象範囲の拡大などされるべきではない。
c)保護期間延長問題について
保護期間延長問題についても、第91ページに記載されているが、権利者団体と文化庁を除けば、延長を否定する結論が出そろっているこの問題について、文化庁が継続検討の結論を出したこと自体極めて残念なことである。これほど長期間にわたる著作権の保護期間をこれ以上延ばすことを是とするに足る理由は何一つなく、知財計画2009では、著作権・著作隣接権の保護期間延長の検討はこれ以上しないとしてもらいたい。特に、流通事業者に過ぎないレコード製作者と放送事業者の著作隣接権については、保護期間を短縮することが検討されても良いくらいである。
d)コピーワンス問題について
コピーワンス問題についても、第91~92ページに記載されているが、私はコピーワンスにもダビング10にも反対する。そもそも、この問題は、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能するB-CASシステムの問題を淵源とするのであって、このB-CASシステムと独禁法の関係を検討するということを知財計画2009では明記してもらいたい。検討の上B-CASシステムが独禁法違反とされるなら、速やかにその排除をして頂きたい。また、無料の地上放送において、逆にコピーワンスやダビング10のような視聴者の利便性を著しく下げる厳格なコピー制御が維持されるのであれば、私的録画補償金に存在理由はなく、これを速やかに廃止するということもここに明記してもらいたい。
e)公正利用の各種類型に対する権利制限について
また、第85~86、95ページに書かれている、検索エンジンのための利用、通信過程等における一時的蓄積、研究開発のための利用、リバースエンジニアリングのための利用、図書館におけるアーカイブ化のための利用など、権利者の利益を害さず、著作物の通常の利用も妨げないような著作物の公正利用の各種類型についてはきちんとした権利制限による対応が必要である。これらの公正利用を萎縮させて良いことなど全くなく、これらの類型について著作権法上の権利制限を速やかに設けると、知財計画2009には明記してもらいたい。
f)海賊版対策について
第50ページに書かれている、「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」について、そのような条項がよもや真面目に検討されることはないと思うが、もしどこかの国が、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設することといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項をこの条約に入れるよう求めて来たときには、そのような非人道的な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけるとすることを、明記してもらいたい。
g)違法ファイル交換対策について、
第58ページに書かれている、違法ファイル共有対策について、通信の秘密やプライバシー、情報アクセス権等の国民の基本的な権利をきちんと尊重しつつ対策を進めることを明記してもらいたい。
h)通信・放送の法体系の見直しについて
第85ページに書かれている、放送と通信の法体系の総合的な検討について、著作隣接権に関する記載を削除するか、著作隣接権は拡大しないということを明記してもらいたい。インターネットという流通コストの極めて低い流通手段において、著作隣接権を発生させることは、絶対にやってはならない最低の愚策である。また、この部分において、HP等に関しても通信の秘密を確保し、表現に関する規制は行わないという方針を明記してもらいたい。
i)ネット規制について
また、第92ページには、フィルタリングに関する記載があるが、その政策決定の迷走により、総務省は携帯電話サイト事業者に無意味かつ多大なダメージを与えている。この問題については、知財計画2009に書くに当たって、フィルタリングの存在を知り、かつ、フィルタリングの導入が必要だと思っていて、なお未成年にフィルタリングをかけられないとする親に対して、その理由を聞くか、あるいはフィルタリングをかけている親に対して、そのフィルタリングの問題を聞くかして、きちんと本当の問題点を示してから検討するという記載にしてもらいたい。
なお、フィルタリングで無意味に利権を作ろうとしている総務省と携帯電話事業者他の今の検討については、完全に白紙に戻されるべきである。携帯フィルタリングについて、ブラックリスト方式ならば、まずブラックリストに載せる基準の明確化から行うべきなので、不当なブラックリスト指定については、携帯電話事業者がそれぞれの基準に照らし合わせて無料で解除する簡便な手続きを備えていればそれで良く、健全サイト認定第3者機関など必要ないはずである。ブラックリスト指定を不当に乱発し、認定機関で不当に審査料をせしめ取り、さらにこの不当にせしめた審査料と、正当な理由もなく流し込まれる税金で天下り役人を飼うのだとしたら、これは官民談合による大不正行為以外の何物でもない。このようなブラックリスト商法の正当化は許されない。
そもそも、青少年ネット規制法は、あらゆる者から反対されながら、有害無益なプライドと利権を優先する一部の議員と官庁の思惑のみで成立したものであり、速やかに廃止が検討されるべきものである。また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正についても、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
j)新しいタイプの商標について
第37ページに書かれている、新しいタイプの商標の保護について、特許庁の新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書案で、音も含め、導入する方針が示されているが、音の商標は、他の視覚的な商標とは異なる特色を有しているということが考慮されるべきであり、音に、会社名を連呼するような音だけでは無く単なる旋律も含まれ得、音の商標の使用に、単なるBGMとしての使用も含まれ得ることから、音については特に慎重に検討するべきである。登録除外については公益的な音だけでは不十分であり、余計な混乱を避けるため、音について、少なくとも、他人の著名な旋律・楽曲を登録から除外することを検討すると、パブリックドメインに落ちた著名な旋律・楽曲の登録のような不当な利得を得るための登録が排除されない限り、音について、その保護類型への追加は決してしないと、知財計画2009では明記してもらいたい。
(2)「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」について
デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告書「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について」の内容は、知財計画2009に盛り込まれて行くものと思うが、この内容について以下のことを求める。
a)一般フェアユース条項の導入について
この報告書に書かれている、一般フェアユース条項の導入について、ユーザーに対する意義からも、可能な限り早期に導入することを求める。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。知財計画2009においては、このようなユーザーに対する意義も合わせて書き込んでもらいたい。一般フェアユース条項を導入している国には、アメリカの他に台湾やイスラエルもあり、これらの国の条文等も参考になると考えられる。フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならないことである。
なお、権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。
b)DRM回避規制について
昨年7月にゲームメーカーがいわゆる「マジコン」の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴し、さらにこの2月にゲームメーカー勝訴の判決が出ていることなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。現状でも、不正競争法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。
知財計画2009では、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上のDRM回避規制の強化は検討しないとされるべきである。DRM回避規制に関しては、このような有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。
c)インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の責任について
動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕され、検察によって姑息にも略式裁判で50万円の罰金を課された「第(3)世界」事件等を考えても、今現在、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあり、間接侵害事件や著作権侵害幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であり、間接侵害や著作権侵害幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することは喫緊の課題である。ただし、このセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政機関なり天下り先となるだろう第3者機関なりの関与を必要とすることは、検閲の禁止・表現の自由等の国民の権利の不当な侵害に必ずなるものであり、絶対にあってはならないことである。
ISPの責任の在り方の検討について、知財計画2009に書き込む際には、プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付け等を行わないことを合わせ明記するとともに、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を検討するとしてもらいたい。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由の観点から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。
d)著作権法におけるいわゆる「間接侵害」への対応について
セーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。
知財計画2009においては、著作権法の間接侵害の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされると明記してもらいたい。
(3)その他新たに知財計画に盛り込むべきことについて
ダウンロード違法化問題やプロバイダーにおける違法コピー対策問題における権利者団体の主張、児童ポルノ法規制強化問題・有害サイト規制問題における自称良識派団体の主張は、常に一方的かつ身勝手であり、ネットにおける文化と産業の発展を阻害するばかりか、インターネットの単純なアクセスすら危険なものとする非常識なものばかりである。このような一方的かつ身勝手な規制強化の動きを規制するため、憲法の「表現の自由」に含まれ、国際人権B規約にも含まれている国民の「知る権利」を、あらゆる公開情報に安全に個人的にアクセスする権利として、著作権法・通信法等の関係法規に明文で書き込むことを検討してもらいたい。
閲覧とダウンロードと所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持や取得の規制は有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものであり、このような情報の単純所持規制に私は反対する。積極的あるいは意図的に画像を得た場合であるなどの限定を加えたところで、エスパーでもない限りこのような積極性を証明することも反証することもできないため、このような情報の単純所持や取得の規制の危険性は回避不能であり、罪刑法定主義にも反する。繰り返し取得としても、インターネットで2回以上他人にダウンロードを行わせること等は技術的に極めて容易であり、取得の回数の限定も、何ら危険性を減らすものではない。児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持・取得を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。架空の表現に関する規制も同時に議論されているが、ごく一部の国内団体等の根拠のない、保護法益すら無視した一方的な主張で、憲法で保障されている表現の自由が規制されることなどあってはならないことである。警察なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことであり、憲法で禁止されている検閲に該当するブロッキングのような規制も導入されるべきではない。児童ポルノ法に関しては、既に、提供・販売、提供・販売目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことがあるとしたら、現行ですら曖昧な児童ポルノの定義の厳密化のみである。
児童ポルノ規制の検討においては、児童ポルノの閲覧の犯罪化と創作物の規制まで求める「子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」の根拠のない狂った宣言を国際動向として一方的に取り上げ、児童ポルノ規制の強化を正当化することなどあってはならない。かえって、児童ポルノの単純所持規制・創作物規制といった非人道的な規制を導入している諸国は即刻このような規制を廃止するべきと、そもそも最も根本的なプライバシーに属し、何ら実害を生み得ない個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の国際的かつ一般的に認められている基本的な権利からあってはならないことであると、日本政府から国際的な場において各国に積極的に働きかけてもらいたい。
様々なところで検討されている有害サイト規制についても、その規制は表現に対する過度広汎な規制で違憲なものとしか言いようがなく、各種有害サイト規制についても私は反対する。
情報・表現規制については、アメリカにおいても、この1月に連邦最高裁で児童オンライン保護法が違憲として完全に否定され、この2月に連邦控訴裁でカリフォルニア州のゲーム規制法が違憲として否定されていることも注目されるべきである。政府・与党内の検討においては、このような国際動向もきちんと取り上げるべきであり、一方的な見方で国際動向を決めつけることなどあってはならない。
また、WIPO等の国際機関にも、政府から派遣されている者はいると思われ、著作権等に関する真の国際動向について細かなことまで即座に国民へ知らされる仕組みの導入を是非検討してもらいたい。
最後に、知財政策においても、天下り利権が各省庁の政策を歪めていることは間違いなく、知財政策の検討と決定の正常化のため、文化庁から著作権関連団体への、総務省から放送通信関連団体・企業への、警察庁からインターネットホットラインセンター他各種協力団体・自主規制団体への天下りの禁止を知財本部において決定して頂きたい。(これらの省庁は特にひどいので特に名前をあげたが、他の省庁も含めて決定してもらえるなら、それに超したことはない。)
インターネットにおけるこれ以上の知財保護強化は既に有害無益かつ危険なものであるということをきちんと認識し、真の国民視点に立った知財の規制緩和の検討が知財本部でなされることを期待すると最後に繰り返しておく。
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コメント
違法「着うた」入手も規制 著作権法改正を閣議決定
ttp://www.47news.jp/news/2009/03/post_20090310093602.html
ダウンロード違法化が閣議決定されてしまいました
投稿: jado | 2009年3月10日 (火) 11時46分
警察がさっそく「出会い系サイト」を拡大解釈しはじめたようです。兎園さんの言うとおりになりましたね。
2009-04-02 - 奥村徹弁護士の見解(hp@okumura-tanaka-law.com)
■[児童福祉法][児童ポルノ・児童買春][性犯罪][有害情報]ミクシィやモバゲー、人気交流サイトに異例の削除要請…警視庁
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20090402#1238654235
コミュニティ単位で事業者を認定しているようです。
法13条の指示は「インターネット異性紹介事業者」へのものだから、警察は実態をそう認識しているということですね。
じゃあ、7条で届け出る必要がありますね。
これは、ミクシィらは反発しないと、ただの出会い系の集合体みたいですよ。
投稿: taffy | 2009年4月 2日 (木) 17時52分
こっちの記事だと
インターネット検閲を強化したい警察&フィルタリングを強化したいインターネットホットラインセンター
vs
規制強化はしたくないEMA
という構図のようですね。
人気の「健全」携帯サイト、実際は「不健全」で大量削除
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090402-OYT1T00715.htm
私は基本的にネット規制には反対なんで、どちらの団体もいらないと思いますが。
規制が過剰にならないよう、規制を規制すべきです。
投稿: taffy | 2009年4月 3日 (金) 15時50分
taffy様
コメント・情報ありがとうございます。
警察庁や総務省といった規制官庁の規制競争は本当に不毛かつ危険です。本来、こうした権力の濫用を招く危険な規制を規制するために憲法が存在している(この点について、今の日本国憲法は非常に良くできています)はずなのですが、最近、憲法無視も甚だしい形で規制官庁・規制議員が危険な規制強化を推進していることを見るにつけ、暗澹とした気持ちにならざるを得ません。
投稿: 兎園 | 2009年4月 3日 (金) 20時06分
幇助の範囲も拡大したようです。
ちょっとこれには呆れました。
http://mainichi.jp/select/today/news/20090401k0000m040183000c.html?link_id=RSH04
アフィリエイト広告:代理店社長立件へ 神奈川県警
2009年4月1日 2時34分 更新:4月1日 8時35分
児童ポルノ画像投稿サイトに、成果に応じて報酬を支払うアフィリエイト広告を仲介してサイト運営を支えたとして、神奈川県警少年捜査課などは1日、大阪府豊中市の広告代理店社長の男(40)を児童買春児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)ほう助容疑で、横浜地検小田原支部に書類送検する。違法サイトの「資金源」との指摘もある広告収入に踏み込み、広告代理店を立件するのは全国初となる。【吉住遊】
投稿: taffy | 2009年4月 4日 (土) 08時37分
taffy様
コメントありがとうございます。
internet watch記事
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/05/09/15641.html
にも書かれているように、過去にはリンクサイトの摘発の例もあります。(この事件が今どうなっているのかは良く分かりませんが。)
こうした事件を見るにつけ、十分以上に現行法は機能していると思いますが、広告事件のことを考えても、現行法の運用においてすら、予見不能・回避不能な形で、児童ポルノ事件に巻き込まれる危険性が高まっているように思います。
民事については、プロバイダー責任制限法で、ある程度のセーフハーバーが設けられていますが、刑事についてもやはり何らかの形でセーフハーバーを作る必要があるのではないかと私は思っています。
(「奥村徹弁護士の見解」
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20090401
でも広告事件について触れており、参考になります。)
投稿: 兎園 | 2009年4月 5日 (日) 07時59分