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2009年2月19日 (木)

第155回:技術情報の保護等の在り方に関する小委員会最終報告書の公表と新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対するパブコメ募集

 今まで紹介して来た話の続きで、今回は、営業秘密(不正競争防止法)と商標の話を少し書いておきたいと思う。

(1)技術情報の保護等の在り方に関する小委員会最終報告書
 技術情報の保護等の在り方に関する小委員会の最終報告書がこの2月16日に公表された(経産省のリリース報告書本文(pdf))。

 私もパブコメで、このようなそもそもの法目的を超える法改正はおかしく、より一般的な目的での行為は刑法や不正アクセス防止法で対処するべきではないかと指摘したのだが、結局、詐欺等行為又は管理侵害行為による営業秘密の取得罪、管理任務に背く行為による営業秘密の領得罪の目的要件を今までの「不正の競争の目的」からより一般的な「図利加害目的」とするという内容に変更は無かった

 2月6日に開かれた最後の小委員会の資料中のパブコメの結果(pdf)で、この目的要件のすり替えについて、

この点につきましては、仮に競業目的が存在しないとしても、図利加害目的をもつ者によって営業秘密が保有者である事業者の管理の外に出されてしまった場合には、原状回復を図ることは困難であって、その者やその者から開示を受けた者が営業秘密を公知化したり、競業企業に開示したりすることが容易になってしまいます。そして、そのようにして特定又は不特定の競業企業が当該営業秘密を利用可能な状況が生じてしまうと、被害にあった事業者は、競争上の優位性の源泉ないしその基礎を失うことになり、事業活動自体に深刻な影響を及ぼす被害を受けることになりかねません。したがって、図利加害目的をもって保有者である事業者の管理下にある営業秘密を侵害する行為は、まさに不正競争防止法の保護法益たる「公正な競争秩序」を阻害する行為であるということ ができるものと考えられ、現に、現行法の民事規定におきましても、図利加害目的が要件として規定されているところであります(不正競争防止法第2条第1項第7号参照)。

と経産省は書いているが、何故刑法や不正アクセス防止法によって対処できないのかという点についての説明は無い。「公正な競争秩序」は別に不正競争防止法のみによって守られている訳ではなく、不正競争防止法はあくまで、そのために「不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」としているのである。不正競争防止法の第2条第1項第7号も、営業秘密の使用又は開示にかかる民事罰の要件であって、詐欺、管理侵害、背任による営業秘密の取得の刑事罰の目的要件のすり替えの必要性がそこから導かれる訳ではない。(議事録が公開されていないので何とも言えないが、恐らく口頭でも大した説明は無かったのではないかと思う。)

 意見募集の結果を見ると、より広い目的要件で営業秘密の保護を図った方が良いと思い込んでいる企業から賛成意見が多く出されているように見受けられるが、この手の実質的に無意味な法改正は、余計な混乱を招くだけであり、全体として有害無益なものとしかなりようがないということがなかなか広く理解されないのは残念である。 

 このレベルの法改正だと、いつ改正法案が国会に提出されることになるのかも良く分からないが、このような法改正はされない方が良いと私は今でも思っている。

(2)新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対するパブコメ募集
 第140回で少し紹介した、新しいタイプの商標に関する報告書案がパブコメにかかった(3月17日〆切。特許庁のリリース提出フォーム電子政府の該当ページ意見募集要項(pdf)報告書本文(pdf))。

 報告書本文(pdf)の要点は、従来の古典的な商標に、動き、ホログラム、輪郭のない色彩、位置、音の商標を追加するということである。

 この内、視覚的なものである、動き、ホログラム、色彩、位置については、ある程度従来の商標からの類推も効くだろうが、音に関しては特に注意しておかないといけない。会社名を連呼するような音について文句を言う人間は別にいないだろうが、音といった場合、単なる旋律も入るのであり、単なるBGMが問題となり得るのである。登録除外については、

②公益的な音
 緊急用のサイレンや国歌(他国のものを含む。)等の公益的な音の商標 は、一私人に独占を許すことは妥当でないことから、その登録を認めないよう規定を整備することが適切と考えられる。

と第18ページに書かれているが、恐らく例外はこれだけでは十分でない。例えば、パブリックドメインに落ちた過去の著名な旋律・楽曲を商標登録することで不当な利得を得ようとする者などが必ず出てくることだろう。(商標法第29条の調整規定で著作権と抵触する場合は商標使用ができないとされているが、パブリックドメインに落ちたものには関係ない。)

 小委員会の第3回で、座長がこの点について、「パブリックドメインに落ちている音楽の著作物の一部を特定の一事業者が独占するといっても、あくまでも商標としてですね。商標として、今のところでいえば、出所表示的な対応において使用されていると、出所を表示するために、そういう表示として独占するということになるわけです。」と説明しているが、実際には、音の場合に何をもって出所表示的な使用とするのかは非常に曖昧であり、商標の使用には、広告や(インターネット経由での)役務の提供への使用なども含まれているので、この点をおざなりにしたまま進めると非常に厄介な問題を引き起こすことになるだろう。パブリックドメインに落ちた著名な旋律が商標登録されてしまうと、その旋律を広告や動画やサイトや店のBGMに商標権者の許可無く使えなくなるということになりかねないのだが、これは決して正しいことでは無いに違いない。しかも、商標登録は登録料を払い続ける限りいくらでも存続するので、ある意味著作権よりタチが悪い。

 もう少し考えるつもりではいるが、余計な混乱を避けるため、音については特に他人の著名な旋律・楽曲を登録から除外するように、他のタイプのものも含め新しいタイプの商標全体について、諸外国の除外・例外規定を精査し、できる限り取り入れるようにするべきであるという意見を出すつもりでいる。

 最後に、実演家の保護期間延長決議案をEU議会の法務委員会が通したという記事を「P2Pとかその辺の話」で紹介されているので、リンクを張っておく。欧州でも、実演家の保護期間延長問題は、欧米でも、著作権団体、メジャーレーベルを除き、学界、ユーザー・消費者等々ほとんど全ての者から反対されているが、団体・レーベル側の政治力はまだ相当強いと見える。次はEU議会本会議での議決となるが、欧州におけるこの問題の先行きはかなり危うい。

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