第154回:ブルーレイ課金著作権法施行令案への提出パブコメ
前々回取り上げた、ブルーレイ課金著作権法施行令案へのパブコメを書いて提出したので、ここにも載せておく。
(以下、提出パブコメ)
1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:(略)
4.連絡先:
5.意見
(概要)
本施行令改正案は、ブルーレイを私的録音録画補償金の対象に加えようとするものであるが、私的録音録画小委員会で補償金のそもそもの意義が問われた中で、その解決をおざなりにしたまま、このような合理的根拠に乏しい対象拡大をするべきではない。
(意見)
確かにこのブルーレイ課金は、ダビング10解禁のために文部科学大臣と経済産業大臣の間で暫定的な措置として合意されたという経緯がある(平成20年6月の両大臣記者会見http://www.meti.go.jp/speeches/data_ed/ed080617j.html及びhttp://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/08070402.htm参照)が、ダビング10への移行で多少混乱が生じたことを除けば、前後で何かが大きく変わった気はしない。
確かに今はコピーフリーのアナログ放送もあるが、ブルーレイにアナログ放送を録画することはまずもって無いと考えられるため、アナログ放送の存在もブルーレイ課金の根拠としては薄弱であり、そのアナログ放送も2011年には止められる予定となっているのである。
特に、権利者団体は、ダビング10への移行によってコピーが増え自分たちに被害が出ると大騒ぎをしたが、移行後半年以上経った今現在においても、ダビング10の実施による被害増を証明するに足る具体的な証拠は全く示されておらず、現時点でブルーレイ課金に合理性があるとは私には全く思えない。
わずかに緩和されたとは言え、今なお地上デジタル放送にはダビング10という不当に厳しいコピー制限がかかったままである。こうした実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しい制限を課している機器と媒体にさらに補償金を賦課しようとするのは、不当の上塗りである。
本施行令改正案は、ブルーレイを私的録音録画補償金の対象に加えようとするものであるが、私的録音録画小委員会で補償金のそもそもの意義が問われた中で、その解決をおざなりにしたまま、このような合理的根拠に乏しい対象拡大をするべきではない。
必要であれば、最近の著作権分科会報告書で今後文化庁が設けるとされた、権利者、メーカー、消費者などの関係者が忌憚のない意見交換ができる場で、ブルーレイについても合わせて合意形成を目指すべきである。この意見交換の場は、公開にするとともに、より公平を期して、消費者・ユーザー代表を3分の1、メーカー代表を3分の1、権利者代表を3分の1とするべきである。権利者が不利という声があがるのかも知れないが、この程度の数の有識者を納得されられなくて、国民の理解が得られると思うことなど片腹痛い。真に国民の理解が得られない法改正・対象範囲の拡大などされるべきではない。(学者を入れて、全て4分の1ずつとしても良いが、私的録音録画小委員会において、補償金制度に対して国民視点に立った真の政策提言が出来なかった法学者を入れる必要はない。)
なお、本施行令案では、追加指定が暫定的な措置であることが全く担保されていないため、去年6月の文部科学大臣・経済産業大臣間の合意は実質破棄されているのではないかと思うが、間接的にではあるが国民によって選ばれた両大臣間の合意に基づいて課金を行うことが各省庁に求められているということであれば、この追加指定を時限措置とし、暫定的な措置であることが明確に担保されなくてはならない。(記者会見でも、両大臣は、ブルーレイ課金は「暫定的な措置」であると明言している。)現行の私的録音録画補償金の仕組みは、一旦新たな対象を追加してしまうと、また各省の合意が無ければそれを取り除くことができなくなるという点でも問題を抱えているのであり、そうした本質的な問題点の検討をなおざりにしたまま、恒久的な形でブルーレイ課金を行うことは、両大臣の合意に基づいても不適切である。
最後に念のため、上の意見の前提兼今後の検討の参考として、一昨年の私的録音録画小委員会の中間整理に対して私が提出した意見のまとめを以下に転記しておく。
1.そもそも、著作権法の様な私法が私的領域に踏み込むこと自体がおかしいのであり、私的領域での複製は原則自由かつ無償であることを法文上明確にすること。また、刑事罰の有無に関わらず、外形的に違法性を判別することの出来ない形態の複製をいたずらに違法とすることは社会的混乱を招くのみであり、厳に戒められるべきこと。
2.特に、補償金については、これが私的録音録画を自由にすることの代償であることを法文上明確にすること。すなわち、私的録音録画の自由を制限するDRM(コピーワンスやダビング10ほどに厳しいDRM)がかけられている場合は、補償措置が不要となることを法文上明確にすること。
3.また、タイムシフト、プレースシフト等は、外形的に複製がなされているにせよ、既に一度合法的に入手した著作物を自ら楽しむために移しているに過ぎず、このような態様の複製について補償は不要であることを法文上明確にすること。実質権利者が30条の範囲内での複製を積極的に認めているに等しい、レンタルCDやネット配信、有料放送からの複製もこれに準じ、補償が不要であることを明確にすること。
4.私的録音録画の自由の確保を法文上明確化するとした上で、私的録音録画を自由とすることによって、私的複製の範囲の私的録音録画によってどれほどの実害が著作権者に発生するのかについてのきちんとした調査を行うこと。
この実害の算定にあたっては、補償の不必要な私的複製の形態や著作権者に損害を与えない私的複製の形態があることも考慮に入れ、私的録音録画の著作権者に与える経済的効果を丁寧に算出すること。単に私的録音録画の量のみを問題とすることなど論外であり、その算定に当たっては入念な検証を行うこと。
5.この算出された実害に基づいて補償金の課金の対象範囲と金額が決められること。特に、その決定にあたっては、コンテンツ産業振興として使われる税金も補償金の一種ととらえられることを念頭に置くこと。この場合でも、将来の権利者団体による際限の無い補償金要求を無くすため、対象範囲と金額が明確に法律レベルで確定されること。あらゆる私的録音録画について無制限の補償金要求権を権利者団体に与えることは、ドイツ等の状況を見ても、社会的混乱を招くのみであり、ユーザー・消費者・国民にとってきちんとセーフハーバーとして機能する範囲・金額の確定を行うこと。
あるいは、実害が算出できないのであれば、原則にのっとり、私的録音録画補償金制度は廃止されること。
6.集められた補償金は、権利者の分配に使用されることなく、全額違法コピー対策やコンテンツ産業振興などの権利者全体を利する事業へ使用されること。
(12月14日の追記:メーカー側(JEITA)がパブコメを提出したとのリリースがあった(リリース、意見本文(pdf)、AV watchの記事、ITmediaの記事参照)。)
| 固定リンク
« 第153回:文化審議会著作権分科会報告書 | トップページ | 第155回:技術情報の保護等の在り方に関する小委員会最終報告書の公表と新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ報告書(案)に対するパブコメ募集 »
「文化庁・文化審議会著作権分科会」カテゴリの記事
- 第492回:文化庁の2月29日時点版「AIと著作権に関する考え方について」の文章の確認(2024.03.03)
- 第490回:「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集(2月12日〆切)に対する提出パブコメ(2024.01.28)
- 第488回:2023年の終わりに(文化庁のAIと著作権に関する考え方の素案、新秘密特許(特許非公開)制度に関するQ&A他)(2023.12.28)
- 第487回:文化庁のAIと著作権に関する考え方の骨子案と総務省のインターネット上の誹謗中傷対策とりまとめ案(2023.12.10)
- 第473回:閣議決定された著作権法改正案の条文(2023.03.12)
コメント
もうなんていうか権利者団体っていうのは放っておくとどこまでも搾取してこようとしますね。
権利に一定の対価を出すのは当然だと思いますが、現在の取れそうな所はどんどんゴネて見境なく搾取しようと言うのは見ていて辟易としてしまいます・・・。
投稿: ウェルシュ | 2009年2月17日 (火) 07時39分