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2009年1月29日 (木)

第150回:スペインの私的複製関連規定

 今回はスペインの私的複製関連規定の紹介をしたいと思う。

 スペイン著作権法(pdf)から関連部分を以下に訳出する(翻訳は拙訳)。

CAPITULO II. LIMITES.

Articulo 31. Reproducciones provisionales y copia privada.

1. No requeriran autorizacion del autor los actos de reproduccion provisional a los que se refiere el articulo 18 que, ademas de carecer por si mismos de una significacion economica independiente, sean transitorios o accesorios y formen parte integrante y esencial de un proceso tecnologico y cuya unica finalidad consista en facilitar bien una transmision en red entre terceras partes por un intermediario, bien una utilizacion licita, entendiendo por tal la autorizada por el autor o por la Ley.

2. No necesita autorizacion del autor la reproduccion, en cualquier soporte, de obras ya divulgadas cuando se lleve a cabo por una persona fisica para su uso privado a partir de obras a las que haya accedido legalmente y la copia obtenida no sea objeto de una utilizacion colectiva ni lucrativa, sin perjuicio de la compensacion equitativa prevista en el articulo 25, que debera tener en cuenta si se aplican a tales obras las medidas a las que se refiere el articulo 161. Quedan excluidas de lo dispuesto en este apartado las bases de datos electronicas y, en aplicacion del articulo 99.a, los programas de ordenador.
...

Articulo 34. Utilizacion de bases de datos por el usuario legitimo y limitaciones a los derechos de explotacion del titular de una base de datos.
1. El usuario legitimo de una base de datos protegida en virtud del articulo 12 de esta Ley o de copias de la misma, podra efectuar, sin la autorizacion del autor de la base, todos los actos que sean necesarios para el acceso al contenido de la base de datos y a su normal utilizacion por el propio usuario, aunque esten afectados por cualquier derecho exclusivo de ese autor. En la medida en que el usuario legitimo este autorizado a utilizar solo una parte de la base de datos, esta disposicion sera aplicable unicamente a dicha parte. Cualquier pacto en contrario a lo establecido en esta disposicion sera nulo de pleno derecho.

2. Sin perjuicio de lo dispuesto en el articulo 31, no se necesitara la autorizacion del autor de una base de datos protegida en virtud del articulo 12 de esta Ley y que haya sido divulgada:
a. Cuando tratandose de una base de datos no electronica se realice una reproduccion con fines privados.
...

Articulo 39. Parodia.
No sera considerada transformacion que exija consentimiento del autor la parodia de la obra divulgada, mientras no implique riesgo de confusion con la misma ni se infiera un dano a la obra original o a su autor.

Articulo 40. Tutela del derecho de acceso a la cultura.
Si a la muerte o declaracion de fallecimiento del autor, sus derechohabientes ejerciesen su derecho a la no divulgacion de la obra, en condiciones que vulneren lo dispuesto en el articulo 44 de la Constitucion, el Juez podra ordenar las medidas adecuadas a peticion del Estado, las Comunidades Autonomas, las Corporaciones locales, las instituciones publicas de caracter cultural o de cualquier otra persona que tenga un interes legitimo.

Articulo 40 bis. Disposicion comun a todas las del presente capitulo.
Los articulos del presente capitulo no podran interpretarse de manera tal que permitan su aplicacion de forma que causen un perjuicio injustificado a los intereses legitimos del autor o que vayan en detrimento de la explotacion normal de las obras a que se refieran.

第2章 権利制限
第31条 一時的複製と私的複製

第1項 独立した経済的意味を持たず、一時的あるいは付随的で、技術的プロセスと一体不可分をなし、その唯一の目的が、仲介として第3者間のネットワーク通信をか、この法律あるいは著作権者によって許可される合法的な利用を可能とすることにある場合、一時的な第18条(訳注:複製の定義規定)に規定されている複製行為は、著作権者の許可を必要としない。

第2項 合法的にアクセスした著作物から私的利用目的のため自然人によってなされ、得られた複製物の利用が何ら収集あるいは営利を目的としてないとき、どのような媒体に対する複製であれ、著作権者の許可を必要としない、ただし、第161条(訳注:私的複製と技術的保護手段回避規制の間の調整規定)に規定されている手段が適用されているかどうかを考慮した上で第25条の適正な補償がされなくてはならない。本項の規定から、電子的データベースと、第99条aに規定されている、コンピュータープログラムは除く。

(中略:第31条の2…公共の安全、公的手続き、障害者のための権利制限、第32条…教育のための権利制限、第33条…時事報道に関する権利制限)

第34条 合法的な利用者とデータベースの所有者の利用権に対する制限
第1項
 この法律の第12条(訳注:データベースを保護の対象とすると規定している)で保護を受けるデータベースあるいはそのコピーの合法的な利用者は、そのデータベースの著作権者の許可無く、そのデータベースの内容にアクセスするために必要な、利用者自身のための通常の利用に必要なあらゆる行為を行うことが可能であり、ここに著作権者の排他的権利が及ぶことは常に無い。合法的な利用者がデータベースの一部のみを使うことを許可されている場合、本規定はその部分のみに適用される。本規定に反する契約は全て無効である。

第2項 第31条の規定を害してはならず、次の場合は、本法律の第12条の保護を受ける公表されたデータベースの著作権者の許可を必要としない:
a.非電子的データベースを使い、私的な目的のために複製がなされる場合。

(中略:第34条第2項bとc…教育や公共の安全、行政司法手続きのためのデータベースの利用、第35条…報道付随あるいは公共の場所に置かれた著作物の権利制限、第36条…放送のための権利制限、第37条…図書館等のための権利制限、第38条…国家の公的活動と宗教的儀式のための権利制限)

第39条 パロディー
 元の著作物と混同の恐れがなく、元の著作物あるいはその著作権者に対して害をもたらさない限り、公表された作品のパロディーは、著作権者の同意を必要とする変形とは見なされない。

第40条 文化アクセス権の保障
 著作権者の死あるいは死の宣言後、権利保有者による著作物の非公表の権利の行使によって、憲法の第44条の規定(訳注:文化アクセス権の保障を規定している)が危うくなる場合、国家、地方自治体、文化的性格を有する公的機関、あるいは正当な利害を有する他の者の求めに応じ、裁判所は適切な措置を命じることができる。

第40条の2 本章の全てに共通の規定
本章の各条は、著作権者の利益を不当な害を与え、著作物の通常の利用を妨げる形の適用を許すように解釈されてはならない。

 確かに、スペインは、私的複製を合法的にアクセスした著作物からの複製に限定しており、文化庁と権利者団体の大好きなダウンロード違法化を行った、数少ない非道国家の一つに属するが、第40回第80回でも書いた通り、スペインがこの合法アクセス要件をまともにエンフォースしようとした、あるいは、している様子は全く無い。このようなダウンロード違法化によって、スペインで違法ダウンロードが減ったという話も無論聞かない。(ただし、このような合法アクセス要件は明文で存在していたので、第80回で、スペインについて、フランスのように3ステップテスト要件を入れただけでダウンロード違法化国とされたのではないかとした点は間違っていた。ここで謹んで訂正する。)

 また、私的複製からデータベースとプログラムが除かれて別規定となっている点も実に奇妙である。上のデータベースに関する第34条も変だが、プログラムについて第99条で、

Articulo 99. Contenido de los derechos de explotacion.
Sin perjuicio de lo dispuesto en el articulo 100 de esta Ley los derechos exclusivos de la explotacion de un programa de ordenador por parte de quien sea su titular con arreglo al articulo 97, incluiran el derecho de realizar o de autorizar:
a. La reproduccion total o parcial, incluso para uso personal, de un programa de ordenador, por cualquier medio y bajo cualquier forma, ya fuere permanente o transitoria. Cuando la carga, presentacion, ejecucion, transmision o almacenamiento de un programa necesiten tal reproduccion debera disponerse de autorizacion para ello, que otorgara el titular del derecho.
...

第99条 利用権の内容
この法律の第100条(バグの除去、セキュリティ、研究、バージョンアップ、相互運用性の確保等ためのプログラム用の権利制限)の規定を害することが無ければ、第97条の規則の権利者も含め、コンピュータープログラムの利用の排他的権利を有する者は、次のことを実現あるいは許可する権利を有する:
a.私的利用のためも含め、あらゆる媒体と形式への、恒久的あるいは一時的な、コンピュータープログラムの部分的あるいは全体的複製。プログラムのロード、表示、実行、送信あるいは保存がそのような複製を必要とする場合は、権利者はそのための許可を与えているものと見なす。
(後略)

と、プログラム用の権利制限が優先するとはしているものの、私的複製まで制限し得るとしている点など、不当かつ無意味にユーザーに厳しい。(権利者団体なり、ソフトウェア企業団体なりの間の不毛な角突き合いの結果、こうなっただけだろうが。)

 しかし、スペインが、私的複製と技術的保護手段回避規制の間の調整規定の第161条で、

Articulo 161. Limites a la propiedad intelectual y medidas tecnologicas.
1. Los titulares de derechos sobre obras o prestaciones protegidas con medidas tecnologicas eficaces deberan facilitar a los beneficiarios de los limites que se citan a continuacion los medios adecuados para disfrutar de ellos, conforme a su finalidad, siempre y cuando tales beneficiarios tengan legalmente acceso a la obra o prestacion de que se trate. Tales limites son los siguientes:
a. Limite de copia privada en los terminos previstos en el articulo 31.2.
...

第161条 知的財産権の制限と技術的保護手段
第1項 著作権者、あるいは、保護を受ける有効な技術的保護手段の提供者は、以下に挙げる権利制限の受益者に対し、受益者が合法的に問題の著作物にアクセスした場合、その目的に適う形で、その益を受けられるよう適切な容易化措置を取らなければならない。
a.第31条第2項の規定にある私的複製の権利制限
(後略)

と、DRM回避規制に対して私的複製の権利制限がある程度優先し得るという考え方を示している点は興味深い。各国のDRM回避規制規定の紹介まではまだ手が回っていないが、第69回で取り上げたベルギーや第87回で取り上げたイタリアなども私的複製の強行規定性をある程度肯定する条文の書き方をしており、良く調べてみれば、私的複製の方が優先するとしている国ももっと出てくるのではないかと思う。(日本ではあっさりと著作権法第30条第1項第2号でDRM回避規制の方を優先させてしまったが、第45回で書いたように、この条文は撤廃されるべきだと私は思っている。)

(なお、スペインのパロディーに関する権利制限規定もなかなか面白いと思ったので一緒に訳した。この第39条は、パロディーに関して簡潔明瞭にして要を得た悪くない規定ぶりだと私は思う。)

 やはり今のところ、ダウンロード違法化に関する限り、どこの国であれ本当にポジティブな効果があったという話は全く聞かず、スペインもまた、ドイツとは正反対の意味でダウンロード違法化の反面教師になっているとしか私には思えないのである。

 最後に少し、最近のニュースも紹介しておきたい。まず、特許庁が、またぞろ特許法の抜本的な法改正をすると言い出している(朝日のネット記事フジサンケイビジネスアイのネット記事参照)が、この26日の第1回の研究会の資料を見ても一体何をしたいのだか良く分からない有様である。どこの役所も、ニーズを無視して無意味に抜本的な法改正をと言い出すのは本当にどうにかして欲しい。

 また、インターネット録画機「ロクラク」について、知財高裁でこれを合法とする判決が出された(知財情報局の記事時事通信のネット記事47newsの記事日経のネット記事判決文(pdf)参照)。問答無用で最高裁まで行くと思われるのでぬか喜びはできないが、日本でもこのような判決が出され始めたことは注目に値する。

P2Pとかその辺のお話」で既に紹介されているが、TIMESの記事によると、イギリスは3ストライクポリシーの採用に及び腰のようである。この混乱必死のポリシーに関して及び腰でない方がおかしいのだが、知財政策上の今年一番の世界的波乱要因として、このポリシーを強力に推進しようとしているフランスの政策動向には本当に要注目である。

 次回は、他の話を挟むかも知れないが、これまた極めて厄介な、スペインの私的複製補償金関連規定を紹介しようかと思っている。

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