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2009年1月11日 (日)

第147回:共謀罪創設のための法改正案に含まれているウィルス作成罪等の創設、あらゆる電磁的記録の差し押さえ・令状無しのアクセス記録保持命令の可能化

 第145回の追記でも触れたが、先月、犯罪閣僚会議で、犯罪計画2008が特に問題箇所の変更はないまま決定されており、共謀罪の創設を含む法改正案についても今年は注意を高めておくに越したことはない。

 共謀罪自体は、国会でも修正が入るほどの大トピックとして、いろいろなところに書かれており、これ以上何も言うことが無いくらいなので、ここでは、共謀罪の陰に隠れているがやはり重要な問題点である、ウィルス作成罪等の創設や、あらゆる電磁的記録の差し押さえ・捜査機関による令状無しのアクセス記録保持命令の可能化の部分について犯罪計画案に対する提出パブコメについて少し補足をしておきたいと思う。(念のために書いておくと、提出パブコメに書いたように私も共謀罪創設には反対である。)

(1)ウィルス作成罪等の創設
 アニメ画像1枚の著作権違反でウィルス作成者が別件逮捕されたのは記憶に新しいが、このような別件逮捕をして恬として恥じない政府に相応しく、今なお継続審議となっている法案(概要(pdf)要綱(pdf)新旧対照条文(pdf)理由(pdf)法改正案(改め文pdf)修正案1修正案2修正案3))中のウィルス作成罪等に関する規定もひどいものである。

この法案は、刑法の法改正として、

第十九章の二不正指令電磁的記録に関する罪(新設)
(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二
 人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

 前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。

 前項の罪の未遂は、罰する。

(不正指令電磁的記録取得等)
第百六十八条の三
 前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

という規定を追加しようとしているが、読めば分かる通り、コンピュータ/プログラムが使用者の意図に沿うべき動作をするかどうかという純主観的要件に全てがかかってしまっているため、このような要件では、ソフトウェアの通常のバージョンアップや不正コピー対策ですら恣意的に該当するとされてしまいかねない。

 ウィルス作成罪等について、人がどのような意図でコンピュータ/プログラムを使用するかは、他の誰にも知り得ないことであるため、プログラムの作成者・提供者から見たとき、今の法案の規定は完全にお手上げであり、罪刑法定主義等の観点からも問題があり、今のままでは情報産業全体に甚大な萎縮効果をもたらす可能性が高いと、このような非客観的かつ曖昧な要件しか含まず、恣意的な運用しか招きようのない危険な形で刑罰が規定されることはあってはならないことであると私は考えているのである。

(2)あらゆる電磁的記録の差し押さえ・捜査機関による令状無しのアクセス記録保持命令の可能化
 この法改正案は、刑事訴訟法に以下のような条文を追加する改正も含んでいる。

第九十九条
2(新設)
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
(中略)

第百九十七条
3(新設)
捜査については、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、九十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう求めることができる。この場合において、当該電磁的記録について差押え又は記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。

4(新設) 前二項の規定による求めを行う場合において、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる。
(後略)

 差し押さえるべき物がコンピューターである場合には、このコンピューターと接続されているあらゆる記録媒体上の情報を差し押さえを可能としようとし、捜査機関による令状無しのアクセス記録保持命令についても可能としようとしているのだが、昨今のインターネットの状況を考えると、ほとんどインターネット上のあらゆるサーバー上の情報が差し押さえの対象となり得、差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強く、また、令状無しのアクセス記録保持命令についても捜査権の濫用が懸念される。

 捜索する場所と押収する物の範囲を曖昧にし、令状無しで捜査用強制命令を出すことを可能とする、このような刑事訴訟法の基本的枠組みの変更は、憲法第35条の、

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

という令状主義・国民の権利をないがしろにするものであり、引いては捜査機関による濫用によって通信の秘密やプライバシーの侵害にもつながるのではないかと私は考えているのである。

 共謀罪の陰に隠れて、これらの問題点があまり議論されていないのは残念だが、サイバー犯罪条約と国際組織犯罪条約締結のための法改正の問題点は共謀罪ばかりではない。のっけから迷走しているとは言え、今国会の情勢はいくら気をつけ過ぎても気をつけ過ぎということはない。

 まだ年初であり、大したニュースはないが、いくつか紹介しておくと、「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」という民間協議団体が、その政策提言案について意見を求めている(ITproの記事マイコミニュースの記事internet watchの記事も参照)。番外その8のついでに突っ込んだ「デジタル・コンテンツ法有識者法フォーラム」のバカげたネット権創設の提言よりはマシだが、やはり既存のコンテンツのネット流通が進んでいないことを問題としている点でピントがずれていると私は思う。この提言には、会長として中山信弘東大名誉教授、副会長として角川歴彦角川グループ会長、世耕弘成参議院議員、和田洋一スクウェア・エニックス社長という錚々たるメンバーが名を連ねており、その政府与党に対する影響力を考えても、残念ながら今年も、コンテンツ流通という無意味なキーワード(第78回参照)に引き摺られて日本の知財政策・コンテンツ政策は大いに迷走することとなるのだろう。

 「チラシの裏(3週目)」など、既にいろいろなところで取り上げられているが、「子どもの人権と表現の自由を考える会」が、児童ポルノ法改正問題に関する各政党への質問状とその回答(民主党、共産党、国民新党、公明党が回答。自民、社民、新党日本は無回答。)を公開している(ITmediaの記事も参照)ので、念のために、ここでもリンクを張っておく。今後選挙で票を投じる際にも参考になるもので、非常に有り難い。

 文部科学省の今年の天下り状況も公表されていた(リリース再就職状況(pdf)。相変わらず学校・教育関係への天下りが多い。)ので、念のため、リンクを張っておく。

 次回は、各国著作権法の紹介の続きをしようかと考えている。

(2月24日夜の追記:taffy様、コメントありがとうございます。

 ただ、少年による強姦犯の摘発件数増に関しては、様々な要因が考えられるので、この数字だけでは何とも言えないかと思います。情報規制の強化と犯罪件数の関係については、常に慎重に考えるべきだと私は思っています。

 また、「チラシの裏(3週目)」様で既に細かな突っ込みをされていますが、児童ポルノ関係の話も引き続き危険な状態が続いています。taffy様も是非できることをされるよう、どうかよろしくお願い致します。)

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コメント

ネットで見つけたコピペですが、これってどうなんでしょう?

<有害情報規制によって性犯罪が増えた?>

警察庁「少年非行等の概要(平成20年1~12月)」

少年による強姦犯の件数 128件

(内訳)
1月~6月  45件
7月~12月 83件

前期に比べ後期は2倍ちかくも増えており、明らかに増加傾向にあると思われる。
2007年の発生件数は121件である。

グラフでは
http://like700.hp.infoseek.co.jp/42.html#Rape-toukei

時期的に考えると、ケータイのフィルタリングなど、有害情報規制の強化が大きいと思われる。

投稿: taffy | 2009年2月22日 (日) 23時59分

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