第148回:オーストリア著作権法の私的複製関連規定
変則的になるが、重要なパブコメ結果などが出ているので、最初に最近のニュースの紹介からして行きたいと思う。
まずは、文化庁から、法制問題小委員会と過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の報告書案に対するパブコメ結果(法制小委分のリリース、電子政府の該当ページ、パブコメ結果(pdf)、意見全体(pdf)、過去小委分のリリース、電子政府の該当ページ、パブコメ結果(pdf)、意見全体(pdf))が出ている。法制問題小委員会のパブコメ結果を見ると、個人からはほとんどダウンロード違法化に反対する声とパブコメの形骸化を懸念する声しか見られないが、今日(1月16日)の最後の法制問題小委員会(開催案内)や、1月26日の上位の著作権分科会(開催案内)でも、文化庁はなお無理矢理ダウンロード違法化を押し通してくることだろう。だが、今の政局の混迷を見ても、この問題の先はまだ長い。
次に、総務省の違法・有害報告書案についても、1月14日に開催された、第10回の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」(議事次第)で取りまとめが行われ(Internet watchの記事、マイコミニュースの記事も参照)、提出された意見(概要(pdf)、全体(pdf))を受けて、小手先の修正(pdf)を加えられただけで大筋全く変わりのない報告書案(pdf)が出されている。(最終版は今日(1月16日)公表されるらしいが、ほとんど変更はないのではないかと思う。)
意見では、単純所持規制や創作物規制への懸念も多く見られるが、総務省の答えは、児童ポルノの単純所持の禁止及び擬似児童ポルノの規制の当否については、検討会における議論の対象外とにべもない。そもそも検討の対象外なら、規制よりに書くべきではないと思うが、この点は残念ながら修正されなかった。児童ポルノの法益侵害の部分も、民主党の規制派議員の一人である円より子参議院議員の国会発言のみを引用して、児童ポルノ規制法は「児童を性欲の対象としてとらえることのない健全な社会を維持することをも その目的としている」と法律を超えた解釈を追加している点も、さらに不安を募らせる。児童ポルノ規制関連の動きに関しては、引き続き最大限の注意を払って行く必要がある。
意見に対する他の回答もほとんどは取るに足らないお為ごかしばかりだが、 「e-ネットづくり!」宣言関連部分の指摘に対して、総務省が「御指摘の『天下り利権の強化』は決してあってはならないと認識して」いると、日本の官庁にしては珍しく、天下り利権の強化に対する反対を明言している点だけは素直に評価しておきたい。無論、この言葉が嘘にならないよう総務省の動きを今後も十分見張って行かないといけないが。
(なお、総務省の回答によると、インターネットホットラインセンターには、平成20年12月22日現在、警察のOBは一人も在籍していないらしいので、このセンターについては、今後このブログでは、天下りを取って、半官検閲センターとだけ言うことにする。今現在天下り先でないとしても、その運用の問題点が解消される訳ではなく、さらに今後天下り先とするねらいもあるだろうことを考えると、やはりこのセンターは速やかに廃止されるべきと私は思っている。)
知財本部からは、第10回(平成20年度第5回)の「知的財産による競争力強化専門調査会」(議事次第)でも、意見募集の結果(pdf)が出され、第3期の基本方針の検討がされている。項目毎にまとめられた概要なので良く分からないが、この結果を見る限り、残念ながら、ここでも、個人レベルの意見が反映されそうな気配は無い。
第140回で少し書いたが、特許庁の1月9日の「新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ」で、音や動画でも商標を認めようとする報告書案(pdf)が出されている(時事通信のネット記事、フジサンケイビジネスアイの記事も参照)のでリンクを張っておく。
知財政策ということでは、文科省がiPS細胞に対する特許取得の支援拡大をするという記事(読売のネット記事)もあった。もはや完全に国民・文化の敵と化した文化庁に何かを期待する方が間違っているのだろうが、文部科学省・文化庁には、ダウンロード違法化のようなバカげた無法政策を捨て、こうした地道な施策のみやっていてもらいたいと心底思っているのは私だけではあるまい。
経団連からは、優先政策事項(添付の解説資料)が出されている。知財政策については、解説資料中に、「知的財産政策を強化し、世界特許の構築に向けた制度・運用の国際調和・相互承認の推進、模倣品・海賊版対策の強化などを行う。中長期的観点から、わが国の先進的技術の国際標準化を目指し、官民一体としての国際標準総合戦略を推進し、競争力の強化を図る。併せて、デジタル化・ネットワーク化時代に相応しい著作権制度を整備する。政府の「経済成長戦略大綱」に基づき、約13.6兆円となっているコンテンツ産業の市場規模を10年後に約5兆円拡大する。 」と書かれているくらいだが、政官業の腐敗のトライアングルの一角の頂点に立つ組織が提言する優先政策事項なので、念のためにリンクを張っておく。
さて、前置きが長くなったが、今年も地道に各国著作権法の紹介を続けて行きたいと思っており、今回は、オーストリア著作権法の私的複製関連規定を取り上げたいと思う。
以下、翻訳(拙訳)である。
Vervielfaltigung zum eigenen und zum privaten Gebrauch
§ 42. (1) Jedermann darf von einem Werk einzelne Vervielfaltigungsstucke auf Papier oder einem ahnlichen Trager zum eigenen Gebrauch herstellen.
(2) Jedermann darf von einem Werk einzelne Vervielfaltigungstucke auf anderen als den in Abs. 1 genannten Tragern zum eigenen Gebrauch zu Zwecken der Forschung herstellen, soweit dies zur Verfolgung nicht kommerzieller Zwecke gerechtfertigt ist.
(3) Jedermann darf von Werken, die im Rahmen der Berichterstattung uber Tagesereignisse veroffentlicht werden, einzelne Vervielfaltigungsstucke zum eigenen Gebrauch herstellen, sofern es sich nur um eine analoge Nutzung handelt.
(4) Jede naturliche Person darf von einem Werk einzelne Vervielfaltigungsstucke auf anderen als den in Abs. 1 genannten Tragern zum privaten Gebrauch und weder fur unmittelbare noch mittelbare kommerzielle Zwecke herstellen.
(5) Eine Vervielfaltigung zum eigenen oder privaten Gebrauch liegt vorbehaltlich der Abs. 6 und 7 nicht vor, wenn sie zu dem Zweck vorgenommen wird, das Werk mit Hilfe des Vervielfaltigungsstuckes der 0ffentlichkeit zuganglich zu machen. Zum eigenen oder privaten Gebrauch hergestellte Vervielfaltigungsstucke durfen nicht dazu verwendet werden, das Werk damit der offentlichkeit zuganglich zu machen.
(6) Schulen und Universitaten durfen fur Zwecke des Unterrichts beziehungsweise der Lehre in dem dadurch gerechtfertigten Umfang Vervielfaltigungsstucke in der fur eine bestimmte Schulklasse beziehungsweise Lehrveranstaltung erforderlichen Anzahl herstellen (Vervielfaltigung zum eigenen Schulgebrauch) und verbreiten; dies gilt auch fur Musiknoten. Auf anderen als den im Abs. 1 genannten Tragern ist dies aber nur zur Verfolgung nicht kommerzieller Zwecke zulassig. Die Befugnis zur Vervielfaltigung zum eigenen Schulgebrauch gilt nicht fur Werke, die ihrer Beschaffenheit und Bezeichnung nach zum Schul- oder Unterrichtsgebrauch bestimmt sind.
(7) Der Offentlichkeit zugangliche Einrichtungen, die Werkstucke sammeln, durfen Vervielfaltigungsstucke herstellen, auf anderen als den im Abs. 1 genannten Tragern aber nur, wenn sie damit keinen unmittelbaren oder mittelbaren wirtschaftlichen oder kommerziellen Zweck verfolgen (Vervielfaltigung zum eigenen Gebrauch von Sammlungen), und zwar
1. von eigenen Werkstucken jeweils ein Vervielfaltigungsstuck; ein solches Vervielfaltigungsstuck darf statt des vervielfaltigten Werkstucks unter denselben Voraussetzungen wie dieses ausgestellt (§ 16 Abs. 2), verliehen (§ 16a) und nach § 56b benutzt werden;
2. von veroffentlichten, aber nicht erschienenen oder vergriffenen Werken einzelne Vervielfaltigungsstucke; solange das Werk nicht erschienen beziehungsweise vergriffen ist, durfen solche Vervielfaltigungsstucke ausgestellt (§ 16 Abs. 2), nach § 16a verliehen und nach § 56b benutzt werden.(8) Die folgenden Vervielfaltigungen sind - unbeschadet des Abs. 6 - jedoch stets nur mit Einwilligung des Berechtigten zulassig:
1. die Vervielfaltigung ganzer Bucher, ganzer Zeitschriften oder von Musiknoten; dies gilt auch dann, wenn als Vervielfaltigungsvorlage nicht das Buch, die Zeitschrift oder die Musiknoten selbst, sondern eine gleichviel in welchem Verfahren hergestellte Vervielfaltigung des Buches, der Zeitschrift oder der Musiknoten verwendet wird; jedoch ist auch in diesen Fallen die Vervielfaltigung durch Abschreiben, die Vervielfaltigung nicht erschienener oder vergriffener Werke sowie die Vervielfaltigung unter den Voraussetzungen des Abs. 7 Z 1 zulassig;
2. die Ausfuhrung eines Werkes der Baukunst nach einem Plan oder Entwurf oder der Nachbau eines solchen Werkes.§ 42a. Auf Bestellung durfen unentgeltlich einzelne Vervielfaltigungsstucke auch zum eigenen Gebrauch eines anderen hergestellt werden. Eine solche Vervielfaltigung ist jedoch auch entgeltlich zulassig,
1. wenn die Vervielfaltigung mit Hilfe reprographischer oder ahnlicher Verfahren vorgenommen wird;
2. wenn ein Werk der Literatur oder Tonkunst durch Abschreiben vervielfaltigt wird;
3. wenn es sich um eine Vervielfaltigung nach § 42 Abs. 3 handelt.自己利用あるいは私的利用のための複製
第42条 第1項 あらゆる者は、自己利用のために、紙あるいは類似の媒体上に若干数の著作物の複製を作ることができる。
第2項 あらゆる者は、その目的が商業目的でない限りにおいて、研究目的のために、第1項で挙げられている以外の媒体にも若干数の著作物の複製を作ることができる。
第3項 あらゆる者は、アナログ利用のみにつき、自己利用のために、時事報道の範疇で公表された著作物について若干数の複製を作ることができる。
第4項 あらゆる自然人は、私的利用のために、第1項で挙げられている以外の媒体にも若干数の著作物の複製をすることができる。ただし、直接的であれ間接的であれ、商業的な目的のためである場合は、この限りでない。
第5項 複製物によって著作物を公衆にアクセス可能とする目的の場合、第6項および第7項は留保されるが、自己利用あるいは私的利用として複製することはできない。自己利用あるいは私的利用のために作られた複製物を、その著作物を公衆にアクセス可能とするような形で利用することは許されない。
第6項 学校と大学は、授業あるいは教育のために、それによって正当化される範囲において、ある限られた学級のため、あるいは、教育の実施に必要な限りの数において、複製(個々の学校の利用のための複製)を作り、配布することができる。このことは、楽譜にも認められる。第1項で挙げられている以外の媒体上への複製については、非商業目的である場合のみ許される。この個々の学校のための複製の権能は、学校あるいは教育利用に当てられる性質と特徴を有する著作物には及ばない。
第7項 公衆にアクセス可能とされた、著作物を集める施設は、第1項で挙げられている以外の媒体上にも、複製を作ることができる。ただし、直接的にも間接的にも経済的あるいは商業的な目的を追求することがなく、かつ、次の場合に限る。
1.所有する著作物からの一つの複製;このような複製物は、複製著作物の代わりに、それと同じ条件で、展示され(第16条第2項)、貸し出され(第16a条)、第56b条(訳注:図書館での録音録画媒体の利用を定めている)の通りに利用されて良い。
2.公表されているが、刊行されていない、あるいは絶版の著作物から若干数の複製;著作物が刊行されていない、あるいは絶版である限り、このような複製物は、展示され(第16条第2項)、第16a条の通りに貸し出され、第56b条の通りに利用されて良い。第8項 次の複製は-第6項の規定にかかわらず-常に権利者の許可のみによって認められる:
1.本、雑誌あるいは楽譜の全ての複製;このことは、その本、雑誌あるいは楽譜自身が複製見本として使われず、どのような手段で作られたものであれ、本、雑誌あるいは楽譜の複製物が使われない場合にも適用する; ただし、書き写しによる複製、刊行されていない、あるいは絶版の著作物の複製並びに第7項1.の規定の適用を受ける複製については許される;
2.図面、図案あるいはモデルからの建築物の作成。第42a条 求めに応じて、他の者の自己利用のために無償で複製物を作ることは許される。次のような場合は、有償でも認められる:
1.複写あるいは類似の手段を使ってなされる場合;
2.文学あるいは音楽作品を書き写す場合;
3.第42条第3項に規定されている複製に関する場合。
私的複製関連規定は、どこの国も似ているようで、微妙に異なっているが、オーストリア著作権法の特徴はどこかとなると、私的複製関連規定で、自己利用と私的利用、あらゆる者とあらゆる自然人を書き分けている点だろうか。しかし、別にこのような区別をしていたからと言って、オーストリア著作権法が、特に変わった内容を規定しているということは無い。第1~3項の、自己利用のための紙による少数コピー、研究目的の少数コピー、報道記事の少数コピーは、法人にも認められるが、第4項で規定されている広く一般的な私的複製は自然人にのみ認められると解釈されるというだけの話である。
そのまま条文を移せるとは思わないが、法人に対して自己利用目的・研究目的の少数コピーが認められている点は、日本でも参考にしても良いに違いない。企業等における内部少数利用・研究目的利用のためのより一般的な権利制限がないことが、今の日本における著作権問題をさらにややこしいものとしているのは間違いないのだ。
なお、オーストリアについても、違法コピーは問題になっているものと思うが、ダウンロード違法化がされたという話はなく、またされそうな気配もない。フランスやドイツがダウンロード違法化や3ストライクポリシーで混乱する中、オーストリアもその様子見をしている大多数の国の中に分類されるのではないかと思う。
次回は、この続きとして、オーストリア著作権法の私的複製補償金関連規定を紹介したいと思っている。(オーストリアも、ヨーロッパの例に洩れず、私的複製補償金に関してはタチの悪い国に属するが。)
(1月17日の追記:検討会に出された修正版と何の違いも見られないが、総務省から最終版の違法有害報告書が公表された(リリース、パート1(pdf)、2(pdf)、3(pdf)、4(pdf))ので、念のためにリンクを張っておく。同時に、この報告書の概要となっている「『安心ネット作り』促進プログラム」も公表されている(リリース、プログラム本文(pdf))ので、これもリンクを張っておく。)
(1月19日の追記:4行目の誤変換を修正した。まじっく様、ご指摘ありがとうございます。)
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投稿: まじっく | 2009年1月18日 (日) 23時11分