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2009年1月31日 (土)

第151回:イギリス文化省の「デジタル・ブリテン」中間報告書に含まれている海賊版対策

 前回のついでに、イギリスの文化大臣が3ストライクポリシーの採用に否定的な見解を述べたとするTIMESのネット記事を紹介したが、別にイギリスは海賊版対策をあきらめた訳ではなく、イギリス文化省から、この1月29日に海賊版対策を含む「デジタル・ブリテン」中間報告書(イギリス文化省のリリース公表HP本文(pdf))が公表されているので、今回は、その内容の紹介をしておきたいと思う。

 メインは通信政策だが、知財関連の話も、第3章「デジタルコンテンツ」(第36~52ページ)に書かれている。その中でも特にインターネットにおける海賊版対策に関する計画11~13を訳すと以下のようになる(翻訳は拙訳)。

ACTION 11
By the time the final Digital Britain Report is published the Government will have explored with interested parties the potential for a Rights Agency to bring industry together to agree how to provide incentives for legal use of copyright material; work together to prevent unlawful use by consumers which infringes civil copyright law; and enable technical copyright-support solutions that work for both consumers and content creators. The Government also welcomes other suggestions on how these objectives should be achieved.

ACTION 12
Before the final Digital Britain Report is published we will explore with both distributors and rights-holders their willingness to fund, through a modest and proportionate contribution, such a new approach to civil enforcement of copyright (within the legal frameworks applying to electronic commerce, copyright, data protection and privacy) to facilitate and co-ordinate an industry response to this challenge. It will be important to ensure that this approach covers the need for innovative legitimate services to meet consumer demand, and education and information activity to educate consumers in fair and appropriate uses of copyrighted material as well as enforcement and prevention work.

ACTION 13
Our response to the consultation on peer-to-peer file sharing sets out our intention to legislate, requiring ISPs to notify alleged infringers of rights (subject to reasonable levels of proof from rights-holders) that their conduct is unlawful. We also intend to require ISPs to collect anonymised information on serious repeat infringers (derived from their notification activities), to be made available to rights-holders together with personal details on receipt of a court order. We intend to consult on this approach shortly, setting out our proposals in detail.

計画11
 デジタル・ブリテン最終報告書が公表されるまでに、著作物の合法的な利用にインセンティブをどのようにして与えるかということについて各業界に合意をもたらすべく、政府は、関係者とともに、権利エージェンシーの可能性を探り、著作権法を民事的に侵している消費者の違法利用を防止し、消費者とクリエーターの双方に有効な著作権を支える技術的解決をもたらすためにともに努める。政府はまたこの目的の達成のための他の提案も歓迎する。

計画12
 デジタル・ブリテン最終報告書が公表される前に、(電子商取引、著作権、データ保護、プライバシーに適用される法的枠組みの中で)この試みに応える企業の支援・連携させるこのような新たな著作権の民事的エンフォースのアプローチに、販売業者と権利者の、適度かつ釣り合いの取れた分担での出資意向を、我々は、彼らとともに探る。

計画13
 ピア・ツー・ピアに関する協議から、我々は、(権利者からの合理的なレベルの証拠に基づいて)権利侵害の疑いがある者に、彼らの行為が違法なものであるという通知を出すことを、ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)に義務づける立法をするべきという結論に達した。我々はまた、裁判所の命令に基づいて個人情報を権利者に開示できるよう、(通知後も)深刻な侵害を繰り返す者に関して匿名情報を集めることをISPに義務づけることも考えている。

 確かにフランスのようにネット切断型の対策ではないが、イギリスも、ISPに警告通知を出すことや侵害を繰り返すユーザーの情報を収集することを義務づけようとしているなど、ISPの著作権警察化を図ろうとしている点ではさほど変わらない。

 このような対策においては、警告通知や情報収集のコスト負担が大きな問題となるのだが、この報告書を読んでも、イギリスがどう考えているのかは良く分からない。当たり前の話だが、警告通知などの全コストをISP、消費者あるいは国家負担とすると、権利者団体によって警告通知要請が乱発され、イギリスでも混乱をまねくことになるに違いないのである。(フランスの3ストライク法案は無論費用負担の面でも批判されている(Numeramaの記事PC INPACTの記事1記事2参照)。第97回で書いたように、ドイツはダウンロード違法化による刑事訴訟の乱発で懲りたのか、結局、プロバイダー責任制限型の情報開示手続きを整備する際、訴訟の前に権利者自身でまず警告を出すこと、警告で相手に請求できるコストの上限を100ユーロにするなどの濫用防止策を取った。)

 また、権利エージェンシーというのも良く分からないが、説明を読む限りでは、権利者やISPなどの間の協力の中で作られる、効果的かつバランスの取れたエンフォースメント手段を行使する主体らしい。通信の秘密やプライバシーなどの基本的な権利の枠組みを守る中でやれる限りのことはやれば良いと思うが、ISPの警告通知義務化・情報収集義務化と合わせて考えると、政府機関では無いにせよ、この権利エージェンシー創設の動きもどうも不穏である。

 この報告書も日本の政府の報告書と同じで具体性に欠けるので、何が本当に実現するのか良く分からないが、このようなイギリスの動きに加え、RTEの記事によると、アイルランドでは、民間ベースで勝手にネット切断型の違法コピー対策が取られるようであるし、CNETの記事Ecransの記事も参照)によると、アメリカでも、ネット切断まで行かないものの、いくつかのISPが権利者からのテイクダウンノーティスをユーザーに転送することに合意しそうな気配があり、フランスの著作権検閲機関創設型の対策と並行する形で、英米では、今年、民間ベースと称して、似たような警告通知(ネット切断の可能性も含め)の取り組みが押し進められることになりそうである。そして本当にこのような取り組みが進めば、英米でもやはり混乱が生じることになるだろうが、英米は裁判(判例法)の国なので、裁判で時間をかけて軌道修正して行くことになるのではないかと私は思う。

 最後に、報告書から、まさに正鵠を射たものとして、「消費者が求める形で合法なコンテンツを提供することが、恐らく最も重要な鍵となるだろう。短長期的に、権利者は、今一度、技術革新によって彼らと消費者の間で相互尊重が可能となることを見るに違いない。ビジネスの中で、消費者とクリエータはともに、感動の参加と享受と賞賛に支払い、報いて来たのだ。これは歴史に裏打ちされたことであり、これはビジネスの革新によって成功裏に克服されなくてはならないことなのである。」(第42ページ)という言葉を、引用しておこう。イギリス政府もまたこの言葉に従っているようにあまり見えないのは残念だが。

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目次5

 単なる目次のエントリその5である。(相変わらず変わり映えのしないこのブログを読んで下さっている方々に感謝。)

第121回:青少年ネット規制法の施行令案パブコメ募集(2008年10月22日)

第122回:私的複製補償金委員会改革を含むフランスのデジタル経済成長計画「デジタルフランス2012」(2008年10月25日)

第123回:フランスのデジタル経済成長計画「デジタルフランス2012」に関する補足(2008年10月26日)

第124回:知財本部によるフェアユース導入の提言(2008年10月30日)

第125回:知財本部・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対する意見募集の開始(2008年10月31日)

第126回:ダウンロード違法化問題の現状(2008年11月 5日)

第127回:文化庁・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理に対する提出パブコメ(2008年11月 8日)

第128回:文化庁・法制問題小委員会の中間まとめに対する提出パブコメ(2008年11月 8日)

第129回:現行の著作権登録制度の問題点(2008年11月12日)

第130回:知財本部・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対する提出パブコメ(2008年11月14日)

第131回:青少年インターネット規制法の施行令案に対する意見(2008年11月14日)

第132回:日本のインターネットを終了させないために(2008年11月19日)

第133回:内閣官房・「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対するパブコメ募集(11月28日〆切)(2008年11月23日)

第134回:内閣官房・「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対する提出パブコメ(2008年11月27日)

第135回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その1:児童ポルノ規制関連部分)(2008年11月29日)

第136回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その2:プロバイダーの責任制限範囲の拡大、検閲機関創設案、天下り先の第3者機関が定める標準的な違法情報対策の仕組み・技術・違法性の判断の押しつけ関連部分)(2008年11月30日)

第137回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その3:「e-ネットづくり!」宣言・総務省版インターネット・ホットラインセンター創設案関連部分)(2008年12月 1日)

第138回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その4:国際連携・産学連携組織・基礎調査関連部分)(2008年12月 2日)

第139回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その5:目次・その他)(2008年12月 2日)

第140回:各種知財政策に関する動向(特許の存続期間の例外・審査基準・新しいタイプの商標・営業秘密・医療関係発明・知財本部基本方針パブコメ)(2008年12月 5日)

第141回:イスラエル著作権法におけるフェアユース・私的複製関連規定(2008年12月10日)

第142回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対する提出パブコメ(2008年12月16日)

第143回:文化庁天下りリスト(2008年12月17日)

第144回:知財本部・第3期基本方針策定に関する意見募集に対する提出パブコメ(2008年12月23日)

第145回:今年の落ち穂拾い(2008年12月27日)

第146回:経産省・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会「営業秘密に係る刑事的措置の見直しの方向性について(案)」に対する提出パブコメ(2009年1月 7日)

第147回:共謀罪創設のための法改正案に含まれているウィルス作成罪等の創設、あらゆる電磁的記録の差し押さえ・令状無しのアクセス記録保持命令の可能化(2009年1月11日)

第148回:オーストリア著作権法の私的複製関連規定(2009年1月16日)

第149回:オーストリアの私的複製補償金関連規定(2009年1月22日)

第150回:スペインの私的複製関連規定(2009年1月29日)

<番外目次>
番外その14:前通常国会・今臨時国会に提出されている自民党の児童ポルノ規制法改正案と関連請願(2008年11月18日)

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2009年1月29日 (木)

第150回:スペインの私的複製関連規定

 今回はスペインの私的複製関連規定の紹介をしたいと思う。

 スペイン著作権法(pdf)から関連部分を以下に訳出する(翻訳は拙訳)。

CAPITULO II. LIMITES.

Articulo 31. Reproducciones provisionales y copia privada.

1. No requeriran autorizacion del autor los actos de reproduccion provisional a los que se refiere el articulo 18 que, ademas de carecer por si mismos de una significacion economica independiente, sean transitorios o accesorios y formen parte integrante y esencial de un proceso tecnologico y cuya unica finalidad consista en facilitar bien una transmision en red entre terceras partes por un intermediario, bien una utilizacion licita, entendiendo por tal la autorizada por el autor o por la Ley.

2. No necesita autorizacion del autor la reproduccion, en cualquier soporte, de obras ya divulgadas cuando se lleve a cabo por una persona fisica para su uso privado a partir de obras a las que haya accedido legalmente y la copia obtenida no sea objeto de una utilizacion colectiva ni lucrativa, sin perjuicio de la compensacion equitativa prevista en el articulo 25, que debera tener en cuenta si se aplican a tales obras las medidas a las que se refiere el articulo 161. Quedan excluidas de lo dispuesto en este apartado las bases de datos electronicas y, en aplicacion del articulo 99.a, los programas de ordenador.
...

Articulo 34. Utilizacion de bases de datos por el usuario legitimo y limitaciones a los derechos de explotacion del titular de una base de datos.
1. El usuario legitimo de una base de datos protegida en virtud del articulo 12 de esta Ley o de copias de la misma, podra efectuar, sin la autorizacion del autor de la base, todos los actos que sean necesarios para el acceso al contenido de la base de datos y a su normal utilizacion por el propio usuario, aunque esten afectados por cualquier derecho exclusivo de ese autor. En la medida en que el usuario legitimo este autorizado a utilizar solo una parte de la base de datos, esta disposicion sera aplicable unicamente a dicha parte. Cualquier pacto en contrario a lo establecido en esta disposicion sera nulo de pleno derecho.

2. Sin perjuicio de lo dispuesto en el articulo 31, no se necesitara la autorizacion del autor de una base de datos protegida en virtud del articulo 12 de esta Ley y que haya sido divulgada:
a. Cuando tratandose de una base de datos no electronica se realice una reproduccion con fines privados.
...

Articulo 39. Parodia.
No sera considerada transformacion que exija consentimiento del autor la parodia de la obra divulgada, mientras no implique riesgo de confusion con la misma ni se infiera un dano a la obra original o a su autor.

Articulo 40. Tutela del derecho de acceso a la cultura.
Si a la muerte o declaracion de fallecimiento del autor, sus derechohabientes ejerciesen su derecho a la no divulgacion de la obra, en condiciones que vulneren lo dispuesto en el articulo 44 de la Constitucion, el Juez podra ordenar las medidas adecuadas a peticion del Estado, las Comunidades Autonomas, las Corporaciones locales, las instituciones publicas de caracter cultural o de cualquier otra persona que tenga un interes legitimo.

Articulo 40 bis. Disposicion comun a todas las del presente capitulo.
Los articulos del presente capitulo no podran interpretarse de manera tal que permitan su aplicacion de forma que causen un perjuicio injustificado a los intereses legitimos del autor o que vayan en detrimento de la explotacion normal de las obras a que se refieran.

第2章 権利制限
第31条 一時的複製と私的複製

第1項 独立した経済的意味を持たず、一時的あるいは付随的で、技術的プロセスと一体不可分をなし、その唯一の目的が、仲介として第3者間のネットワーク通信をか、この法律あるいは著作権者によって許可される合法的な利用を可能とすることにある場合、一時的な第18条(訳注:複製の定義規定)に規定されている複製行為は、著作権者の許可を必要としない。

第2項 合法的にアクセスした著作物から私的利用目的のため自然人によってなされ、得られた複製物の利用が何ら収集あるいは営利を目的としてないとき、どのような媒体に対する複製であれ、著作権者の許可を必要としない、ただし、第161条(訳注:私的複製と技術的保護手段回避規制の間の調整規定)に規定されている手段が適用されているかどうかを考慮した上で第25条の適正な補償がされなくてはならない。本項の規定から、電子的データベースと、第99条aに規定されている、コンピュータープログラムは除く。

(中略:第31条の2…公共の安全、公的手続き、障害者のための権利制限、第32条…教育のための権利制限、第33条…時事報道に関する権利制限)

第34条 合法的な利用者とデータベースの所有者の利用権に対する制限
第1項
 この法律の第12条(訳注:データベースを保護の対象とすると規定している)で保護を受けるデータベースあるいはそのコピーの合法的な利用者は、そのデータベースの著作権者の許可無く、そのデータベースの内容にアクセスするために必要な、利用者自身のための通常の利用に必要なあらゆる行為を行うことが可能であり、ここに著作権者の排他的権利が及ぶことは常に無い。合法的な利用者がデータベースの一部のみを使うことを許可されている場合、本規定はその部分のみに適用される。本規定に反する契約は全て無効である。

第2項 第31条の規定を害してはならず、次の場合は、本法律の第12条の保護を受ける公表されたデータベースの著作権者の許可を必要としない:
a.非電子的データベースを使い、私的な目的のために複製がなされる場合。

(中略:第34条第2項bとc…教育や公共の安全、行政司法手続きのためのデータベースの利用、第35条…報道付随あるいは公共の場所に置かれた著作物の権利制限、第36条…放送のための権利制限、第37条…図書館等のための権利制限、第38条…国家の公的活動と宗教的儀式のための権利制限)

第39条 パロディー
 元の著作物と混同の恐れがなく、元の著作物あるいはその著作権者に対して害をもたらさない限り、公表された作品のパロディーは、著作権者の同意を必要とする変形とは見なされない。

第40条 文化アクセス権の保障
 著作権者の死あるいは死の宣言後、権利保有者による著作物の非公表の権利の行使によって、憲法の第44条の規定(訳注:文化アクセス権の保障を規定している)が危うくなる場合、国家、地方自治体、文化的性格を有する公的機関、あるいは正当な利害を有する他の者の求めに応じ、裁判所は適切な措置を命じることができる。

第40条の2 本章の全てに共通の規定
本章の各条は、著作権者の利益を不当な害を与え、著作物の通常の利用を妨げる形の適用を許すように解釈されてはならない。

 確かに、スペインは、私的複製を合法的にアクセスした著作物からの複製に限定しており、文化庁と権利者団体の大好きなダウンロード違法化を行った、数少ない非道国家の一つに属するが、第40回第80回でも書いた通り、スペインがこの合法アクセス要件をまともにエンフォースしようとした、あるいは、している様子は全く無い。このようなダウンロード違法化によって、スペインで違法ダウンロードが減ったという話も無論聞かない。(ただし、このような合法アクセス要件は明文で存在していたので、第80回で、スペインについて、フランスのように3ステップテスト要件を入れただけでダウンロード違法化国とされたのではないかとした点は間違っていた。ここで謹んで訂正する。)

 また、私的複製からデータベースとプログラムが除かれて別規定となっている点も実に奇妙である。上のデータベースに関する第34条も変だが、プログラムについて第99条で、

Articulo 99. Contenido de los derechos de explotacion.
Sin perjuicio de lo dispuesto en el articulo 100 de esta Ley los derechos exclusivos de la explotacion de un programa de ordenador por parte de quien sea su titular con arreglo al articulo 97, incluiran el derecho de realizar o de autorizar:
a. La reproduccion total o parcial, incluso para uso personal, de un programa de ordenador, por cualquier medio y bajo cualquier forma, ya fuere permanente o transitoria. Cuando la carga, presentacion, ejecucion, transmision o almacenamiento de un programa necesiten tal reproduccion debera disponerse de autorizacion para ello, que otorgara el titular del derecho.
...

第99条 利用権の内容
この法律の第100条(バグの除去、セキュリティ、研究、バージョンアップ、相互運用性の確保等ためのプログラム用の権利制限)の規定を害することが無ければ、第97条の規則の権利者も含め、コンピュータープログラムの利用の排他的権利を有する者は、次のことを実現あるいは許可する権利を有する:
a.私的利用のためも含め、あらゆる媒体と形式への、恒久的あるいは一時的な、コンピュータープログラムの部分的あるいは全体的複製。プログラムのロード、表示、実行、送信あるいは保存がそのような複製を必要とする場合は、権利者はそのための許可を与えているものと見なす。
(後略)

と、プログラム用の権利制限が優先するとはしているものの、私的複製まで制限し得るとしている点など、不当かつ無意味にユーザーに厳しい。(権利者団体なり、ソフトウェア企業団体なりの間の不毛な角突き合いの結果、こうなっただけだろうが。)

 しかし、スペインが、私的複製と技術的保護手段回避規制の間の調整規定の第161条で、

Articulo 161. Limites a la propiedad intelectual y medidas tecnologicas.
1. Los titulares de derechos sobre obras o prestaciones protegidas con medidas tecnologicas eficaces deberan facilitar a los beneficiarios de los limites que se citan a continuacion los medios adecuados para disfrutar de ellos, conforme a su finalidad, siempre y cuando tales beneficiarios tengan legalmente acceso a la obra o prestacion de que se trate. Tales limites son los siguientes:
a. Limite de copia privada en los terminos previstos en el articulo 31.2.
...

第161条 知的財産権の制限と技術的保護手段
第1項 著作権者、あるいは、保護を受ける有効な技術的保護手段の提供者は、以下に挙げる権利制限の受益者に対し、受益者が合法的に問題の著作物にアクセスした場合、その目的に適う形で、その益を受けられるよう適切な容易化措置を取らなければならない。
a.第31条第2項の規定にある私的複製の権利制限
(後略)

と、DRM回避規制に対して私的複製の権利制限がある程度優先し得るという考え方を示している点は興味深い。各国のDRM回避規制規定の紹介まではまだ手が回っていないが、第69回で取り上げたベルギーや第87回で取り上げたイタリアなども私的複製の強行規定性をある程度肯定する条文の書き方をしており、良く調べてみれば、私的複製の方が優先するとしている国ももっと出てくるのではないかと思う。(日本ではあっさりと著作権法第30条第1項第2号でDRM回避規制の方を優先させてしまったが、第45回で書いたように、この条文は撤廃されるべきだと私は思っている。)

(なお、スペインのパロディーに関する権利制限規定もなかなか面白いと思ったので一緒に訳した。この第39条は、パロディーに関して簡潔明瞭にして要を得た悪くない規定ぶりだと私は思う。)

 やはり今のところ、ダウンロード違法化に関する限り、どこの国であれ本当にポジティブな効果があったという話は全く聞かず、スペインもまた、ドイツとは正反対の意味でダウンロード違法化の反面教師になっているとしか私には思えないのである。

 最後に少し、最近のニュースも紹介しておきたい。まず、特許庁が、またぞろ特許法の抜本的な法改正をすると言い出している(朝日のネット記事フジサンケイビジネスアイのネット記事参照)が、この26日の第1回の研究会の資料を見ても一体何をしたいのだか良く分からない有様である。どこの役所も、ニーズを無視して無意味に抜本的な法改正をと言い出すのは本当にどうにかして欲しい。

 また、インターネット録画機「ロクラク」について、知財高裁でこれを合法とする判決が出された(知財情報局の記事時事通信のネット記事47newsの記事日経のネット記事判決文(pdf)参照)。問答無用で最高裁まで行くと思われるのでぬか喜びはできないが、日本でもこのような判決が出され始めたことは注目に値する。

P2Pとかその辺のお話」で既に紹介されているが、TIMESの記事によると、イギリスは3ストライクポリシーの採用に及び腰のようである。この混乱必死のポリシーに関して及び腰でない方がおかしいのだが、知財政策上の今年一番の世界的波乱要因として、このポリシーを強力に推進しようとしているフランスの政策動向には本当に要注目である。

 次回は、他の話を挟むかも知れないが、これまた極めて厄介な、スペインの私的複製補償金関連規定を紹介しようかと思っている。

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2009年1月22日 (木)

第149回:オーストリアの私的複製補償金関連規定

 今回は、前回の続きとして、オーストリア著作権法中の私的録音録画補償金関連規定の紹介をしたいと思う。

 関連部分の条文は以下の通りである(翻訳は拙訳)。

§ 42b. (1) Ist von einem Werk, das durch Rundfunk gesendet, der offentlichkeit zur Verfugung gestellt oder auf einem zu Handelszwecken hergestellten Bild- oder Schalltrager festgehalten worden ist, seiner Art nach zu erwarten, dass es durch Festhalten auf einem Bild- oder Schalltrager nach § 42 Abs. 2 bis 7 zum eigenen oder privaten Gebrauch Vervielfaltigt wird, so hat der Urheber Anspruch auf eine angemessene vergutung (Leerkassettenvergutung), wenn Tragermaterial im Inland gewerbsmassig entgeltlich in den Verkehr kommt; als Tragermaterial gelten unbespielte Bild- oder SchallTrager, die fur solche Vervielfaltigungen geeignet sind, oder andere Bild- oder SchallTrager, die hiefur bestimmt sind.

(2) Ist von einem Werk seiner Art nach zu erwarten, dass es mit Hilfe reprographischer oder ahnlicher Verfahren zum eigenen Gebrauch Vervielfaltigt wird, so hat der Urheber Anspruch auf eine angemessene vergutung (Reprographievergutung),
1. wenn ein Gerat, das seiner Art nach zur Vornahme solcher Vervielfaltigungen bestimmt ist (Vervielfaltigungsgerat), im Inland gewerbsmassig entgeltlich in den Verkehr kommt (geratevergutung) und
2. wenn ein Vervielfaltigungsgerat in Schulen, Hochschulen, Einrichtungen der Berufsbildung oder der sonstigen Aus- und Weiterbildung, Forschungseinrichtungen, offentlichen Bibliotheken oder in Einrichtungen betrieben wird, die Vervielfaltigungsgerate entgeltlich bereithalten (Betreibervergutung).

(3) Folgende Personen haben die vergutung zu leisten:
1. die Leerkassetten- beziehungsweise geratevergutung derjenige, der das Tragermaterial beziehungsweise das Vervielfaltigungsgerat von einer im In- oder im Ausland gelegenen Stelle aus als erster gewerbsmassig entgeltlich in den Verkehr bringt; wer das Tragermaterial beziehungsweise das Vervielfaltigungsgerat im Inland gewerbsmassig entgeltlich, jedoch nicht als erster in den Verkehr bringt oder feil halt, haftet wie ein Burge und Zahler; von der Haftung fur die Leerkassettenvergutung ist jedoch ausgenommen, wer im Halbjahr SchallTrager mit nicht mehr als 5.000 Stunden Spieldauer und BildTrager mit nicht mehr als 10.000 Stunden Spieldauer bezieht; hat der Beklagte im Inland keinen allgemeinen Gerichtsstand, so sind die Gerichte, in deren Sprengel der erste Wiener Gemeindebezirk liegt, zustandig;
2. die Betreibervergutung der Betreiber des Vervielfaltigungsgerats.

(4) Bei der Bemessung der vergutung ist insbesondere auf die folgenden Umstande Bedacht zu nehmen:
1. bei der Leerkassettenvergutung auf die Spieldauer;
2. bei der geratevergutung auf die Leistungsfahigkeit des gerats;
3. bei der Betreibervergutung auf die Art und den Umfang der Nutzung des Vervielfaltigungsgerats, die nach den Umstanden, insbesondere nach der Art des Betriebs, dem Standort des gerats und der ublichen Verwendung wahrscheinlich ist.

(5) vergutungsanspruche nach den Abs. 1 und 2 konnen nur von Verwertungsgesellschaften geltend gemacht werden.

(6) Die Verwertungsgesellschaft hat die angemessene Vergutung zuruckzuzahlen
1. an denjenigen, der Tragermaterial oder ein Vervielfaltigungsgerat vor der Ver?u?erung an den Letztverbraucher in das Ausland ausfuhrt;
2. an denjenigen, der Tragermaterial fur eine Vervielfaltigung auf Grund der Einwilligung des Berechtigten benutzt; Glaubhaftmachung gen?gt.

第42b条 第1項
 放送を通じて送られるか、公衆にアクセス可能とされるか、あるいは、商業目的で生産された録音録画媒体に固定された著作物について、その形式から、第42条第2項から第7項に規定されている、自己利用あるいは私的利用のために、録音録画媒体への固定を通じて複製されることが期待されるとき、複製媒体が国内で商業的に有償で取引されている場合、著作権者は、適切な補償金(ブランクカセット補償金)の請求権を有する。このような複製に適した空の録音録画媒体、あるいはこのことに当てられる他の録音録画媒体はここでいうところの複製媒体と見なされる。

第2項 その形式から、著作物が、複写あるいは似たような手続きによって自己利用のために複製されると期待されるとき、以下の場合に、著作権者は、適切な補償金(複写補償金)請求権を有する。
1.その形からそのような複製の作成に当てられる機器(補償金対象機器)が、国内で商業的に有償で取引されている場合(機器補償金)と、
2.複製機器が、学校、高校、職業教育、他の専門教育、あるいは高等専門教育機関、研究機関、公的図書館あるいは機関の中で提供され、複製機器が有償で用意されている場合(提供補償金)。

第3項 次の者が補償金を支払う。
1.ブランクカセット補償金あるいは機器補償金については、複製媒体あるいは複製機器を、国内あるいは外国に置かれた営業所から、最初に商業目的で有償で取引に供した者;複製媒体あるいは複製機器を国内で商業目的で有償でだが、最初でなく取引に供した、あるいは販売した者は、保証人あるいは購買者として責任を有する;ただし、ブランクカセット補償金の支払い義務については、半年で5000時間以下の録画時間の録画媒体、10000時間以下の録画時間の録画媒体しか納入しない者はこの義務の対象外とする;被請求者に一般的な国内の裁判管轄地が無い場合、ウィーン第一区にある裁判所が管轄となる;
2.提供補償金については、複製機器の提供者。

第4項 補償金の額については、特に次の事項を考慮する。
1.ブランクカセット補償金については、その記録時間;
2.機器補償金については、機器の複製能力;
3.提供補償金については、その環境、特にその営業の形式、機器が置かれている場所と通常の利用から考えられる、複製機器の利用の形式と状況。

第5項
 第1項と第2項の補償金請求権は、著作権管理団体のみ行使し得る。

第6項
 著作権管理団体は、この適切な補償金を次の者に返還する。
1.複製媒体あるいは複製機器を外国の最終消費者への販売のために輸出する者
2.権利者の同意に基づく複製のために複製媒体を使用する者;信じるに足りるとできれば十分である。

 オーストリアも、私的録音録画媒体だけではなく、複写機などにまで補償金を賦課し、著作権管理団体に青天井の補償金請求権を与え、当事者間で話がつかない場合は最終的には全て裁判で型をつけるという、ドイツ式の極めてタチの悪い法制を取っている。(なお、オーストリアに私的録音録画機器補償金は無いため、例えば、MP3プレーヤーは専用録音媒体として課金対象となるという仕切りをしているようである。)

 結果、やはり補償金の料率や対象に関しては揉めるだけ揉めるしかなく、第63回で取り上げたEUの資料にも書かれていたように、2005年7月に、PCのHDDは多くの場合著作権で保護される作品のコピーに使われないとして、PCのHDDには課金しないとする最高裁判決が出されるまでに至ったのだろう。(この判決に関しては、heise.deの記事wcm.atの記事判決文(pdf)も参照。)

 また、オーストリアの著作権管理団体austro mechanaのHPに、この団体が徴収している、あるいはしようとしている私的録音録画補償金料率が載っている(2008年版(pdf)2009年版(pdf))が、これもまた、どのように決まっているのかさっぱり分からない。私の知る限り、補償金の料率と対象について、具体的かつ妥当な基準はどこの国を見ても無い。

 特に、2008年版の料金表と2009年版の料金表を比べてみると、PCの内蔵HDDについては最高裁で否定されたにもかかわらず、ほとぼりが覚めたと思ったのか、非道にもぬけぬけと、2009年版で汎用USBメモリやPCの外付けHDDも課金対象に加えるようとしていることが分かる。しかし、PCのHDDが多くの場合著作権で保護される作品のコピーに使われないなら、汎用USBや外付けHDDなどなおさら使われないだろうし、この有様では、オーストリアでも、補償金に関する裁判闘争がさらに激しさを増すのではないかと私は予想する。

 オーストリアでは、メーカーが支払い義務者となっているが、返還制度も存在している。今回日本では補償金改革は流れてしまったが、欧米諸国のようにメーカーを支払い義務者にすれば、返還制度が無くなり、返還制度の問題点が解決するといった主張はデタラメも良いところであり、全く取り上げるに値しない。また、オーストリアでは納入数量から例外規定を設けているが、日本の現行制度についても、今後、コストの面からこのような数量等による例外を設ける話が検討されても良いだろう。

(なお、複写機等の補償金料率は、literar mechanaのHPに載っている。ただし、ドイツで最高裁まで行って単なるプリンターは私的複製補償金の対象外と決定されたことを考えても、オーストリアでも同様に、複写機等の補償金について揉め続けているのではないかと思う。)

 オーストリアの話はあまりニュースにならないが、もし何かあれば、また紹介したいと思う。

 最後に少し最近のニュースの紹介もしておくと、経産省から、青少年ネット規制法の対象機器を定める告示がパブコメにかかっている(電子政府の該当ページ意見公募要領(doc)告示概要(doc)種類告示(jtd)場合告示(jtd))。ここまで細かな話になって来ると、一般ユーザーレベルでどうこう言うことはあまり無いのだが、対象機器の種類として、カメラなども入っていて良いのか(「データ収集装置」もどのようなものを想定しているのかいまいち良く分からない)、18歳以上の目視により監視される蓋然性が高い場合としては車載ナビだけで良いのかという点は気にかかっている。

 IFPIから2009年版のレポートが出ている(IFPIのリリースレポート本文(pdf)概要(pdf))ので、これもリンクを張っておく。RIAAが対ユーザー直接訴訟戦略をほぼあきらめる中、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)に対する世界的な圧力はさらに強まりそうである。イギリスもISPに著作権検閲をやらせることを考えているフシがあり(afterdawn.comの記事参照)、さらに、3ストライクポリシーについては、イタリアがフランスと一緒に推進することに合意したというNumeramaの記事もあり、フランスが中心となるだろうが、今年は、周りの国も巻き込んで、ヨーロッパはこの類の政策で混乱することになるのだろう。

 当たり前のことと思うが、ダウンロードは同じ曲数だけのCDの売り上げ分の損失にはならないとする判断がアメリカの裁判所で示されている(Techbahnの記事tgdailyの記事参照)。

 米最高裁が、児童オンライン保護法を違憲として完全に否定したというニュースもあった(CNETの記事参照)。規制強化派は、この手の自分たちに都合の悪い国際動向に無視を決め込むのではないかと思うが、連中の好きな欧米、特にアメリカの話であり、こうした動きを決して無視しないよう、今後、政府与党に適宜突っ込んで行く必要があるだろう。

 また、オランダでは、P2Pについてポジティブな経済的効果を認める報告書も出されているようである(Numeramaの記事参照)。

 場合によっては他のことについて書くかも知れないが、まだ紹介していない国は沢山あるので、各国著作権法紹介のシリーズをしばらく続けようかと思っている。

(1月24日の追記:著作権団体が集まって著作者検索ポータルを作ったらしい(ITmediaの記事internet watchの記事参照)。どの著作者がどこの団体に所属して、どのような権利を委託しているのかをはっきりさせるのは良いことだと思うが、無論、このことは保護期間延長問題の本質と関係しない。また、記事によると、著作権団体の代表から、保護期間延長を求めるのは金や利益の問題ではないという主旨の発言があったようだが、金や利益を問題とせずに財産権の延長を求めることの完膚なきまでのナンセンス(プライドの問題に関わる人格権は既に無期限なので、延長のしようが無い)を無視して、どうして堂々とそのような発言ができるのか私には全く理解できない。

 公正取引委員会から、かなり力の入ったアニメ産業の実態調査報告書が出されている(概要本文(上)本文(下)internet watchの記事も参照)。政策的に即座にどうこうなる話を書いている訳ではないが、コンテンツ業界の実態を知る上ではなかなか興味深い資料なので、これも念のためにリンクを張っておく。)

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2009年1月16日 (金)

第148回:オーストリア著作権法の私的複製関連規定

 変則的になるが、重要なパブコメ結果などが出ているので、最初に最近のニュースの紹介からして行きたいと思う。

 まずは、文化庁から、法制問題小委員会と過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の報告書案に対するパブコメ結果(法制小委分のリリース電子政府の該当ページパブコメ結果(pdf)意見全体(pdf)、過去小委分のリリース電子政府の該当ページパブコメ結果(pdf)意見全体(pdf))が出ている。法制問題小委員会のパブコメ結果を見ると、個人からはほとんどダウンロード違法化に反対する声とパブコメの形骸化を懸念する声しか見られないが、今日(1月16日)の最後の法制問題小委員会(開催案内)や、1月26日の上位の著作権分科会(開催案内)でも、文化庁はなお無理矢理ダウンロード違法化を押し通してくることだろう。だが、今の政局の混迷を見ても、この問題の先はまだ長い。

 次に、総務省の違法・有害報告書案についても、1月14日に開催された、第10回の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」(議事次第)で取りまとめが行われ(Internet watchの記事マイコミニュースの記事も参照)、提出された意見(概要(pdf)全体(pdf))を受けて、小手先の修正(pdf)を加えられただけで大筋全く変わりのない報告書案(pdf)が出されている。(最終版は今日(1月16日)公表されるらしいが、ほとんど変更はないのではないかと思う。)

 意見では、単純所持規制や創作物規制への懸念も多く見られるが、総務省の答えは、児童ポルノの単純所持の禁止及び擬似児童ポルノの規制の当否については、検討会における議論の対象外とにべもない。そもそも検討の対象外なら、規制よりに書くべきではないと思うが、この点は残念ながら修正されなかった。児童ポルノの法益侵害の部分も、民主党の規制派議員の一人である円より子参議院議員の国会発言のみを引用して、児童ポルノ規制法は「児童を性欲の対象としてとらえることのない健全な社会を維持することをも その目的としている」と法律を超えた解釈を追加している点も、さらに不安を募らせる。児童ポルノ規制関連の動きに関しては、引き続き最大限の注意を払って行く必要がある。

 意見に対する他の回答もほとんどは取るに足らないお為ごかしばかりだが、 「e-ネットづくり!」宣言関連部分の指摘に対して、総務省が「御指摘の『天下り利権の強化』は決してあってはならないと認識して」いると、日本の官庁にしては珍しく、天下り利権の強化に対する反対を明言している点だけは素直に評価しておきたい。無論、この言葉が嘘にならないよう総務省の動きを今後も十分見張って行かないといけないが。

(なお、総務省の回答によると、インターネットホットラインセンターには、平成20年12月22日現在、警察のOBは一人も在籍していないらしいので、このセンターについては、今後このブログでは、天下りを取って、半官検閲センターとだけ言うことにする。今現在天下り先でないとしても、その運用の問題点が解消される訳ではなく、さらに今後天下り先とするねらいもあるだろうことを考えると、やはりこのセンターは速やかに廃止されるべきと私は思っている。)

 知財本部からは、第10回(平成20年度第5回)の「知的財産による競争力強化専門調査会」(議事次第)でも、意見募集の結果(pdf)が出され、第3期の基本方針の検討がされている。項目毎にまとめられた概要なので良く分からないが、この結果を見る限り、残念ながら、ここでも、個人レベルの意見が反映されそうな気配は無い。

 第140回で少し書いたが、特許庁の1月9日の「新しいタイプの商標に関する検討ワーキンググループ」で、音や動画でも商標を認めようとする報告書案(pdf)が出されている(時事通信のネット記事フジサンケイビジネスアイの記事も参照)のでリンクを張っておく。

 知財政策ということでは、文科省がiPS細胞に対する特許取得の支援拡大をするという記事(読売のネット記事)もあった。もはや完全に国民・文化の敵と化した文化庁に何かを期待する方が間違っているのだろうが、文部科学省・文化庁には、ダウンロード違法化のようなバカげた無法政策を捨て、こうした地道な施策のみやっていてもらいたいと心底思っているのは私だけではあるまい。

 経団連からは、優先政策事項(添付の解説資料)が出されている。知財政策については、解説資料中に、「知的財産政策を強化し、世界特許の構築に向けた制度・運用の国際調和・相互承認の推進、模倣品・海賊版対策の強化などを行う。中長期的観点から、わが国の先進的技術の国際標準化を目指し、官民一体としての国際標準総合戦略を推進し、競争力の強化を図る。併せて、デジタル化・ネットワーク化時代に相応しい著作権制度を整備する。政府の「経済成長戦略大綱」に基づき、約13.6兆円となっているコンテンツ産業の市場規模を10年後に約5兆円拡大する。 」と書かれているくらいだが、政官業の腐敗のトライアングルの一角の頂点に立つ組織が提言する優先政策事項なので、念のためにリンクを張っておく。

 さて、前置きが長くなったが、今年も地道に各国著作権法の紹介を続けて行きたいと思っており、今回は、オーストリア著作権法の私的複製関連規定を取り上げたいと思う。

 以下、翻訳(拙訳)である。

Vervielfaltigung zum eigenen und zum privaten Gebrauch

§ 42. (1) Jedermann darf von einem Werk einzelne Vervielfaltigungsstucke auf Papier oder einem ahnlichen Trager zum eigenen Gebrauch herstellen.

(2) Jedermann darf von einem Werk einzelne Vervielfaltigungstucke auf anderen als den in Abs. 1 genannten Tragern zum eigenen Gebrauch zu Zwecken der Forschung herstellen, soweit dies zur Verfolgung nicht kommerzieller Zwecke gerechtfertigt ist.

(3) Jedermann darf von Werken, die im Rahmen der Berichterstattung uber Tagesereignisse veroffentlicht werden, einzelne Vervielfaltigungsstucke zum eigenen Gebrauch herstellen, sofern es sich nur um eine analoge Nutzung handelt.

(4) Jede naturliche Person darf von einem Werk einzelne Vervielfaltigungsstucke auf anderen als den in Abs. 1 genannten Tragern zum privaten Gebrauch und weder fur unmittelbare noch mittelbare kommerzielle Zwecke herstellen.

(5) Eine Vervielfaltigung zum eigenen oder privaten Gebrauch liegt vorbehaltlich der Abs. 6 und 7 nicht vor, wenn sie zu dem Zweck vorgenommen wird, das Werk mit Hilfe des Vervielfaltigungsstuckes der 0ffentlichkeit zuganglich zu machen. Zum eigenen oder privaten Gebrauch hergestellte Vervielfaltigungsstucke durfen nicht dazu verwendet werden, das Werk damit der offentlichkeit zuganglich zu machen.

(6) Schulen und Universitaten durfen fur Zwecke des Unterrichts beziehungsweise der Lehre in dem dadurch gerechtfertigten Umfang Vervielfaltigungsstucke in der fur eine bestimmte Schulklasse beziehungsweise Lehrveranstaltung erforderlichen Anzahl herstellen (Vervielfaltigung zum eigenen Schulgebrauch) und verbreiten; dies gilt auch fur Musiknoten. Auf anderen als den im Abs. 1 genannten Tragern ist dies aber nur zur Verfolgung nicht kommerzieller Zwecke zulassig. Die Befugnis zur Vervielfaltigung zum eigenen Schulgebrauch gilt nicht fur Werke, die ihrer Beschaffenheit und Bezeichnung nach zum Schul- oder Unterrichtsgebrauch bestimmt sind.

(7) Der Offentlichkeit zugangliche Einrichtungen, die Werkstucke sammeln, durfen Vervielfaltigungsstucke herstellen, auf anderen als den im Abs. 1 genannten Tragern aber nur, wenn sie damit keinen unmittelbaren oder mittelbaren wirtschaftlichen oder kommerziellen Zweck verfolgen (Vervielfaltigung zum eigenen Gebrauch von Sammlungen), und zwar
1. von eigenen Werkstucken jeweils ein Vervielfaltigungsstuck; ein solches Vervielfaltigungsstuck darf statt des vervielfaltigten Werkstucks unter denselben Voraussetzungen wie dieses ausgestellt (§ 16 Abs. 2), verliehen (§ 16a) und nach § 56b benutzt werden;
2. von veroffentlichten, aber nicht erschienenen oder vergriffenen Werken einzelne Vervielfaltigungsstucke; solange das Werk nicht erschienen beziehungsweise vergriffen ist, durfen solche Vervielfaltigungsstucke ausgestellt (§ 16 Abs. 2), nach § 16a verliehen und nach § 56b benutzt werden.

(8) Die folgenden Vervielfaltigungen sind - unbeschadet des Abs. 6 - jedoch stets nur mit Einwilligung des Berechtigten zulassig:
1.  die Vervielfaltigung ganzer Bucher, ganzer Zeitschriften oder von Musiknoten; dies gilt auch dann, wenn als Vervielfaltigungsvorlage nicht das Buch, die Zeitschrift oder die Musiknoten selbst, sondern eine gleichviel in welchem Verfahren hergestellte Vervielfaltigung des Buches, der Zeitschrift oder der Musiknoten verwendet wird; jedoch ist auch in diesen Fallen die Vervielfaltigung durch Abschreiben, die Vervielfaltigung nicht erschienener oder vergriffener Werke sowie die Vervielfaltigung unter den Voraussetzungen des Abs. 7 Z 1 zulassig;
2. die Ausfuhrung eines Werkes der Baukunst nach einem Plan oder Entwurf oder der Nachbau eines solchen Werkes.

§ 42a. Auf Bestellung durfen unentgeltlich einzelne Vervielfaltigungsstucke auch zum eigenen Gebrauch eines anderen hergestellt werden. Eine solche Vervielfaltigung ist jedoch auch entgeltlich zulassig,
1. wenn die Vervielfaltigung mit Hilfe reprographischer oder ahnlicher Verfahren vorgenommen wird;
2. wenn ein Werk der Literatur oder Tonkunst durch Abschreiben vervielfaltigt wird;
3. wenn es sich um eine Vervielfaltigung nach § 42 Abs. 3 handelt.

自己利用あるいは私的利用のための複製

第42条 第1項 あらゆる者は、自己利用のために、紙あるいは類似の媒体上に若干数の著作物の複製を作ることができる。

第2項 あらゆる者は、その目的が商業目的でない限りにおいて、研究目的のために、第1項で挙げられている以外の媒体にも若干数の著作物の複製を作ることができる。

第3項 あらゆる者は、アナログ利用のみにつき、自己利用のために、時事報道の範疇で公表された著作物について若干数の複製を作ることができる。

第4項 あらゆる自然人は、私的利用のために、第1項で挙げられている以外の媒体にも若干数の著作物の複製をすることができる。ただし、直接的であれ間接的であれ、商業的な目的のためである場合は、この限りでない。

第5項 複製物によって著作物を公衆にアクセス可能とする目的の場合、第6項および第7項は留保されるが、自己利用あるいは私的利用として複製することはできない。自己利用あるいは私的利用のために作られた複製物を、その著作物を公衆にアクセス可能とするような形で利用することは許されない。

第6項 学校と大学は、授業あるいは教育のために、それによって正当化される範囲において、ある限られた学級のため、あるいは、教育の実施に必要な限りの数において、複製(個々の学校の利用のための複製)を作り、配布することができる。このことは、楽譜にも認められる。第1項で挙げられている以外の媒体上への複製については、非商業目的である場合のみ許される。この個々の学校のための複製の権能は、学校あるいは教育利用に当てられる性質と特徴を有する著作物には及ばない。

第7項 公衆にアクセス可能とされた、著作物を集める施設は、第1項で挙げられている以外の媒体上にも、複製を作ることができる。ただし、直接的にも間接的にも経済的あるいは商業的な目的を追求することがなく、かつ、次の場合に限る。
1.所有する著作物からの一つの複製;このような複製物は、複製著作物の代わりに、それと同じ条件で、展示され(第16条第2項)、貸し出され(第16a条)、第56b条(訳注:図書館での録音録画媒体の利用を定めている)の通りに利用されて良い。
2.公表されているが、刊行されていない、あるいは絶版の著作物から若干数の複製;著作物が刊行されていない、あるいは絶版である限り、このような複製物は、展示され(第16条第2項)、第16a条の通りに貸し出され、第56b条の通りに利用されて良い。

第8項 次の複製は-第6項の規定にかかわらず-常に権利者の許可のみによって認められる:
1.本、雑誌あるいは楽譜の全ての複製;このことは、その本、雑誌あるいは楽譜自身が複製見本として使われず、どのような手段で作られたものであれ、本、雑誌あるいは楽譜の複製物が使われない場合にも適用する; ただし、書き写しによる複製、刊行されていない、あるいは絶版の著作物の複製並びに第7項1.の規定の適用を受ける複製については許される;
2.図面、図案あるいはモデルからの建築物の作成。

第42a条 求めに応じて、他の者の自己利用のために無償で複製物を作ることは許される。次のような場合は、有償でも認められる:
1.複写あるいは類似の手段を使ってなされる場合;
2.文学あるいは音楽作品を書き写す場合;
3.第42条第3項に規定されている複製に関する場合。

 私的複製関連規定は、どこの国も似ているようで、微妙に異なっているが、オーストリア著作権法の特徴はどこかとなると、私的複製関連規定で、自己利用と私的利用、あらゆる者とあらゆる自然人を書き分けている点だろうか。しかし、別にこのような区別をしていたからと言って、オーストリア著作権法が、特に変わった内容を規定しているということは無い。第1~3項の、自己利用のための紙による少数コピー、研究目的の少数コピー、報道記事の少数コピーは、法人にも認められるが、第4項で規定されている広く一般的な私的複製は自然人にのみ認められると解釈されるというだけの話である。

 そのまま条文を移せるとは思わないが、法人に対して自己利用目的・研究目的の少数コピーが認められている点は、日本でも参考にしても良いに違いない。企業等における内部少数利用・研究目的利用のためのより一般的な権利制限がないことが、今の日本における著作権問題をさらにややこしいものとしているのは間違いないのだ。

 なお、オーストリアについても、違法コピーは問題になっているものと思うが、ダウンロード違法化がされたという話はなく、またされそうな気配もない。フランスやドイツがダウンロード違法化や3ストライクポリシーで混乱する中、オーストリアもその様子見をしている大多数の国の中に分類されるのではないかと思う。

 次回は、この続きとして、オーストリア著作権法の私的複製補償金関連規定を紹介したいと思っている。(オーストリアも、ヨーロッパの例に洩れず、私的複製補償金に関してはタチの悪い国に属するが。)

(1月17日の追記:検討会に出された修正版と何の違いも見られないが、総務省から最終版の違法有害報告書が公表された(リリースパート1(pdf)2(pdf)3(pdf)4(pdf))ので、念のためにリンクを張っておく。同時に、この報告書の概要となっている「『安心ネット作り』促進プログラム」も公表されている(リリースプログラム本文(pdf))ので、これもリンクを張っておく。)

(1月19日の追記:4行目の誤変換を修正した。まじっく様、ご指摘ありがとうございます。)

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2009年1月11日 (日)

第147回:共謀罪創設のための法改正案に含まれているウィルス作成罪等の創設、あらゆる電磁的記録の差し押さえ・令状無しのアクセス記録保持命令の可能化

 第145回の追記でも触れたが、先月、犯罪閣僚会議で、犯罪計画2008が特に問題箇所の変更はないまま決定されており、共謀罪の創設を含む法改正案についても今年は注意を高めておくに越したことはない。

 共謀罪自体は、国会でも修正が入るほどの大トピックとして、いろいろなところに書かれており、これ以上何も言うことが無いくらいなので、ここでは、共謀罪の陰に隠れているがやはり重要な問題点である、ウィルス作成罪等の創設や、あらゆる電磁的記録の差し押さえ・捜査機関による令状無しのアクセス記録保持命令の可能化の部分について犯罪計画案に対する提出パブコメについて少し補足をしておきたいと思う。(念のために書いておくと、提出パブコメに書いたように私も共謀罪創設には反対である。)

(1)ウィルス作成罪等の創設
 アニメ画像1枚の著作権違反でウィルス作成者が別件逮捕されたのは記憶に新しいが、このような別件逮捕をして恬として恥じない政府に相応しく、今なお継続審議となっている法案(概要(pdf)要綱(pdf)新旧対照条文(pdf)理由(pdf)法改正案(改め文pdf)修正案1修正案2修正案3))中のウィルス作成罪等に関する規定もひどいものである。

この法案は、刑法の法改正として、

第十九章の二不正指令電磁的記録に関する罪(新設)
(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二
 人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

 前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。

 前項の罪の未遂は、罰する。

(不正指令電磁的記録取得等)
第百六十八条の三
 前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

という規定を追加しようとしているが、読めば分かる通り、コンピュータ/プログラムが使用者の意図に沿うべき動作をするかどうかという純主観的要件に全てがかかってしまっているため、このような要件では、ソフトウェアの通常のバージョンアップや不正コピー対策ですら恣意的に該当するとされてしまいかねない。

 ウィルス作成罪等について、人がどのような意図でコンピュータ/プログラムを使用するかは、他の誰にも知り得ないことであるため、プログラムの作成者・提供者から見たとき、今の法案の規定は完全にお手上げであり、罪刑法定主義等の観点からも問題があり、今のままでは情報産業全体に甚大な萎縮効果をもたらす可能性が高いと、このような非客観的かつ曖昧な要件しか含まず、恣意的な運用しか招きようのない危険な形で刑罰が規定されることはあってはならないことであると私は考えているのである。

(2)あらゆる電磁的記録の差し押さえ・捜査機関による令状無しのアクセス記録保持命令の可能化
 この法改正案は、刑事訴訟法に以下のような条文を追加する改正も含んでいる。

第九十九条
2(新設)
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
(中略)

第百九十七条
3(新設)
捜査については、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、九十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう求めることができる。この場合において、当該電磁的記録について差押え又は記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。

4(新設) 前二項の規定による求めを行う場合において、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる。
(後略)

 差し押さえるべき物がコンピューターである場合には、このコンピューターと接続されているあらゆる記録媒体上の情報を差し押さえを可能としようとし、捜査機関による令状無しのアクセス記録保持命令についても可能としようとしているのだが、昨今のインターネットの状況を考えると、ほとんどインターネット上のあらゆるサーバー上の情報が差し押さえの対象となり得、差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強く、また、令状無しのアクセス記録保持命令についても捜査権の濫用が懸念される。

 捜索する場所と押収する物の範囲を曖昧にし、令状無しで捜査用強制命令を出すことを可能とする、このような刑事訴訟法の基本的枠組みの変更は、憲法第35条の、

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

という令状主義・国民の権利をないがしろにするものであり、引いては捜査機関による濫用によって通信の秘密やプライバシーの侵害にもつながるのではないかと私は考えているのである。

 共謀罪の陰に隠れて、これらの問題点があまり議論されていないのは残念だが、サイバー犯罪条約と国際組織犯罪条約締結のための法改正の問題点は共謀罪ばかりではない。のっけから迷走しているとは言え、今国会の情勢はいくら気をつけ過ぎても気をつけ過ぎということはない。

 まだ年初であり、大したニュースはないが、いくつか紹介しておくと、「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」という民間協議団体が、その政策提言案について意見を求めている(ITproの記事マイコミニュースの記事internet watchの記事も参照)。番外その8のついでに突っ込んだ「デジタル・コンテンツ法有識者法フォーラム」のバカげたネット権創設の提言よりはマシだが、やはり既存のコンテンツのネット流通が進んでいないことを問題としている点でピントがずれていると私は思う。この提言には、会長として中山信弘東大名誉教授、副会長として角川歴彦角川グループ会長、世耕弘成参議院議員、和田洋一スクウェア・エニックス社長という錚々たるメンバーが名を連ねており、その政府与党に対する影響力を考えても、残念ながら今年も、コンテンツ流通という無意味なキーワード(第78回参照)に引き摺られて日本の知財政策・コンテンツ政策は大いに迷走することとなるのだろう。

 「チラシの裏(3週目)」など、既にいろいろなところで取り上げられているが、「子どもの人権と表現の自由を考える会」が、児童ポルノ法改正問題に関する各政党への質問状とその回答(民主党、共産党、国民新党、公明党が回答。自民、社民、新党日本は無回答。)を公開している(ITmediaの記事も参照)ので、念のために、ここでもリンクを張っておく。今後選挙で票を投じる際にも参考になるもので、非常に有り難い。

 文部科学省の今年の天下り状況も公表されていた(リリース再就職状況(pdf)。相変わらず学校・教育関係への天下りが多い。)ので、念のため、リンクを張っておく。

 次回は、各国著作権法の紹介の続きをしようかと考えている。

(2月24日夜の追記:taffy様、コメントありがとうございます。

 ただ、少年による強姦犯の摘発件数増に関しては、様々な要因が考えられるので、この数字だけでは何とも言えないかと思います。情報規制の強化と犯罪件数の関係については、常に慎重に考えるべきだと私は思っています。

 また、「チラシの裏(3週目)」様で既に細かな突っ込みをされていますが、児童ポルノ関係の話も引き続き危険な状態が続いています。taffy様も是非できることをされるよう、どうかよろしくお願い致します。)

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2009年1月 7日 (水)

第146回:経産省・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会「営業秘密に係る刑事的措置の見直しの方向性について(案)」に対する提出パブコメ

 前回の落ち穂拾いで書き漏もらしたが、経産省の産業構造審議会・知的財産政策部会・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会の報告書案も1月30日〆切でパブコメ(電子政府の該当ページ意見公募要領(pdf)報告書案本文(pdf)参考資料(pdf))にかかっていた。

 この検討会の方向性については、第107回第140回でも取り上げ、既にパブコメも書いて出しており、さらに細々とした突っ込みをするほどのことはないので、大したものではないが、提出したパブコメだけここに載せておく。

 今年も、児童ポルノ法改正やダウンロード違法化問題などの動きに加え、特許庁が漠然と大幅な法改正の検討を言い出す(日経のネット記事参照)など、知財政策・情報政策にかかる暗雲は残念ながら当分霽れそうにない。次回からも、気になっていることについて書いていくつもりである。

(1月7日夜の追記:先日文化庁で過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会が開かれているが、保護期間延長問題について先送りのまま報告案がとりまとめられたようである(internet watchの記事参照)。)

(以下、提出パブコメ)

氏名:兎園
連絡先:

意見:
・該当箇所
 報告書案「営業秘密に係る刑事的措置の見直しの方向性について(案)」全体

・意見内容
 不正競争防止法における、現行の営業秘密侵害罪における「不正の競争の目的」の一般的な「図利加害目的」への目的要件の差し替え及び営業秘密侵害に関する刑事処罰範囲の拡大に反対する。

・理由
 不正競争防止法の法目的は、その第1条にも書かれているように、あくまで不正の競争の防止にあるのであって、一般的な図利加害行為の防止にあるのではない。営業秘密侵害罪における目的要件を「不正の競争の目的」から一般的な「図利加害目的」へ差し替えるような法改正は、そもそもの法目的・法主旨・保護法益を超えるものとして完全に不適切なものである。

 不正アクセスによって取得した営業秘密をインターネット上で一般公開することによって保有者に損害を与えようとすること等が営業秘密侵害罪の対象外であることなどが問題であるとしているが、このような一般的な不正アクセス行為・図利加害行為はそもそも不正アクセス防止法・刑法の威力業務妨害罪等によって対処されるべき問題であって、不正競争防止法の改正によって対処されるべきものではない。

 営業秘密を管理する任務を負う者が、一般的な図利加害目的で、その管理任務に違背して営業秘密を領得することについても、やはり、契約や刑法の背任罪等によって対処されるべき問題である。

 そもそもの法目的・法主旨・保護法益を超えることにつながる、営業秘密侵害罪の目的要件の差し替え及び刑事処罰範囲の拡大については慎重の上に慎重を期すべきである。

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