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2008年11月27日 (木)

第134回:内閣官房・「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対する提出パブコメ

内閣官房の「「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対して意見を提出したので、ここに載せておく。

(以下、提出パブコメ)

1.氏名及び連絡先
氏名:兎園(個人)
連絡先:

2.概要
(1)児童ポルノを理由とした新たな規制、特に単純所持規制・創作物規制の検討に反対する。
(2)青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正を求める。
(3)インターネット・ホットラインセンターの廃止を求める。
(4)国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の締結のための法改正案に反対するとともに、これらの条約の締結に反対する。
(5)模倣品・海賊版拡散防止条約の検討において、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項をこの条約に盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけることを求める。
(6)各種の重要政策に関するパブコメについて、必ず、十分な周知策と、最低でも1ヶ月ほどの期間を取るようにしてもらいたい。今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。

3.意見及び理由
(1)児童ポルノ規制について
意見:
 児童ポルノを理由とした新たな規制、特に単純所持規制・創作物規制の検討に反対する。
 特に、児童ポルノに関して新たな規制は必要なく、第6ページの項目「第1-5-③ 児童ポルノ対策等の推進」中の「新たな規制を検討する」という記載を削除するべきである。もし検討に関する記載を残すのであれば、現行でも広すぎる児童ポルノの定義の厳格化のみを検討するとするべきである。

理由:
 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。
 同じく推進派は「性的好奇心を満たす目的で」等の精神的要件で単純所持が限定できるとしきりに繰り返すが、一人しか行為に絡まない、個人的な情報の所持や情報アクセスに関する限り、「性的好奇心を満たす目的で」、「みだりに」などの精神的要件は、エスパーでもない限り、証明も反証もできないものであり、法律上の要件として客観性を全く欠き、恣意的な運用しか生みようがない危険極まりないものである。このような情報の単純所持規制の危険性は回避不能であり、罪刑法定主義にも反する。閲覧とダウンロードと所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持規制はすることは有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものである。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。
 また、アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。
 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。極めて危険な単純所持規制を含む上、創作物規制などさらなる規制強化の含みすら持たせてある、現国会で継続検討中の、与党から提出されている児童ポルノ規制法改正案は、速やかに廃案にされるべきである。
 警察なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことであり、憲法で禁止されている検閲に該当するブロッキングのような規制も導入されるべきではない。
 児童ポルノ法に関しては、既に、提供・販売、提供・販売目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことがあるとしたら、現行ですら曖昧な児童ポルノの定義の厳密化のみである。

(2)青少年ネット規制法及び出会い系サイト規制法について
意見:

 青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正を求める。
 特に、第6ページの項目「第1-5-④ 少年を取り巻く有害環境の浄化」において、青少年ネット規制法の運用に関し、政府全体で規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強めると明記し、出会い系サイト規制法の運用について、「インターネット異性紹介事業」の定義を、サイトの運営方針及びシステムから出来る限り客観的に判断し、この法律を別件逮捕のツールとしないと明記するべきである。
 また、第25ページの項目「第5-1-② インターネット上の有害情報から青少年を守るための対策の推進」中の、基本的な計画について、きちんと十分な期間を取ってパブコメにかけてもらいたい。
 そして、第26ページの項目「第5-1-④ 違法・有害情報への対応の検討」において、制定・改正経緯におけるきちんとした立法事実の無検討・憲法違反の看過を踏まえ、青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正の検討を速やかに行うと明記するべきである。

理由:
 そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。去年から今年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立した今の青少年ネット規制法による規制は、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、次の法改正の検討時には速やかに法律の廃止が検討されるべきである。
 また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
 特に、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、政府全体で、特に公正取引委員会において、規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強めるべきであり、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。出会い系サイト規制法は、その曖昧さから別件逮捕のツールとして使われ、この制度によって与えられる不透明な許認可権限による、警察の出会い系サイト業者との癒着・天下り利権の強化を招く恐れが極めて強い。これらの危険な法律の運用については慎重の上に慎重が期されるべきである。
 政府与党にあっては今までの行いを猛省し、法律の廃止・元の形への再改正の検討とともに、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、主として、第26ページの項目「第5-1-③ 情報モラル教育及び広報啓発活動の推進」に記載されていることに注力してもらいたい。

(3)インターネット・ホットラインセンターについて
意見:

 インターネット・ホットラインセンターの廃止を求める。
 特に、第26ページの項目「第5-2-① インターネット・ホットラインセンターの体制強化等の推進」中、「インターネット・ホットラインセンターの体制を強化し、サイバーパトロールの民間委託等を推進する」という記載を削除するべきである。もしインターネット・ホットラインセンターに関する記載を残すのであれば、その廃止を検討するとするべきである。

理由:
 サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。
 インターネットホットラインセンターは警察庁からの受託金収入で運営されているとの話もあり、無駄な天下り団体として税金の浪費になっている可能性が高い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。

(4)国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正について
意見:

 現時点で国会に提出されている、国民の基本的な権利に対する致命的な問題を抱えていると考えられる、国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の締結のための法改正案に反対するとともに、やはり国民の基本的な権利に対する致命的な問題を抱えていると考えられる、これらの条約の締結に反対する。
 特に、第19ページの項目「第3-4-⑥ 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に向けた法整備」、第28ページの項目「第5-3-② サイバー犯罪に関する条約の締結に向けた法整備等の推進」の両項目は削除するべきである。もしこれらの条約及び法改正に関する記載を残すのであれば、憲法に規定されている国民の基本的な権利との関係から、現時点で国会に提出されている法改正案については廃案とすることを検討し、日本としてこれらの条約の締結をしないことを検討するとするべきである。

理由:
 国際組織犯罪防止条約の締結には、共謀罪の創設が必要とされているが、現状でも大規模テロなどについてはすでに殺人予備罪があるので共謀罪がなくとも対応でき、その他、個別の立法事実があればそれに沿った形で個別の犯罪についての予備罪の適否を論ずるべきであって、広範かつ一般的な共謀罪を創設する立法事実はない。実行行為に直接つながる行為によって、法益侵害の現実的危険性を引き起こしたからこそ処罰されるという我が国の刑法学の根幹を揺るがすものである共謀罪は、決して導入されてはならない。組織要件の厳密化にしても、今現在国会に提出されている修正案のような、その目的や意思のみによる限定は客観性を全く欠き、やはり恣意的な運用しか招きようのない危険なものである。このような危険な法改正を必要とする国際組織犯罪防止条約は日本として締結するべきものではない。
 サイバー犯罪条約は、通信記録や通信内容等の情報の保全・捜索・押収・傍受等について広範かつ強力な手段を法執行機関に与えることを求めているが、このような要請は、我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものであり、この条約も日本として締結するべきものではない。現国会に提出されている法改正案中でも、差し押さえるべき物がコンピューターである場合には、このコンピューターと接続されているあらゆる記録媒体とそこに記録されている情報を差し押さえ可能であるとされているが、昨今のインターネットの状況を考えると、差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強く、裁判所の許可無く捜査機関が通信履歴の電磁的記録の保全要請をすることが出来るとしている点も、捜査機関による濫用の懸念が強く、このような刑事訴訟法の枠組みの変更は、通信の秘密やプライバシー、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がない限り、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利、といった我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものと私は考える。また、ウィルス作成等に関する罪についても、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」電磁的記録という要件は、客観性のない人の意図を要件にしている点でやはり曖昧に過ぎ、このような客観性のない曖昧な要件でウィルス作成等に関する刑罰が導入されるべきではない。
 現国会でも継続審議とされているが、このように危険な点が多く含まれている法改正案は廃案とするべきであり、留保・解釈を最大限に活用しても、憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くことになるだろう、これらの条約は、日本として締結するべきものではない。

(5)模倣品・海賊版拡散防止条約について
意見:

 模倣品・海賊版拡散防止条約の検討において、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項をこの条約に盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけることを求める。
 特に、第5ページの項目「第1-4-⑤ 模倣品・海賊版対策の推進」にこのことを明記するべきである。

理由:
 そのような条項がよもや真面目に検討されることはないと思うが、どこかの国が、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設することといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項をこの条約に入れるよう求めて来る懸念がある。そのような非人道的な条項の検討による有害無益な混乱を避けるため、そのような条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけてもらいたい。

(6)報告書全体・パブコメそのものについて
意見:

 各種の重要政策に関するパブコメについて、必ず、内容に関する十分な周知策と、最低でも1ヶ月ほどの期間を取るよう政府は厳に自戒してもらいたい。
 今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。

理由:
 上で述べたように、このように危険な検討項目を多く計画に書き込み、その内容に関して十分な周知もしないままに、11日間という短期間でパブコメを終了し、その方向性を既成事実化しようとしたことは、あまりにも国民をないがしろにしており、到底許せるものではなく、私は、一国民として政府のこのような行為に対する猛省を求める。今後は、各種重要政策に関する計画について、必ず、その内容について十分な周知策が取られるとともに、最低でも1ヶ月ほどのパブコメ期間を取るよう、政府は厳に自戒してもらいたい。
 今後は、政府において、この計画において私が指摘した項目における検討のような、恣意的な運用しか招きようのない危険極まりない規制強化の検討ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。
 最後に、「頂いたコメントを重く受け止めて推進する」などという官僚の遁辞を私は求めているのではないと、この意見中で反対すると書いた点については、その方向性に完全に反対しているのだと念を押しておく。

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