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2008年11月30日 (日)

第136回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その2:プロバイダーの責任制限範囲の拡大、検閲機関創設案、天下り先の第3者機関が定める標準的な違法情報対策の仕組み・技術・違法性の判断の押しつけ関連部分)

 前回に引き続き、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)(本文1)のパブコメ(12月17日〆切。総務省のリリース意見募集要領電子政府の該当ページinternet watchの記事参照。)の話である。

 細かな文章への突っ込みは全部まとめて後にするが、ひとまず大枠の方向性に関する部分を全て指摘して行こう。この違法・有害報告書案の「2.安心を実現する基本的枠組の整備」の「(1)安心ネット利用のための基本法制の整備等」で、検討されている案は、

  • プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大
  • 行政機関による措置制度
  • 自主的取組促進法制

の3つであるが、「プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」について勝手にニーズが少ないと断定したり、「行政機関による措置制度」と称して文字通りの検閲機関の創設を検討したり、「自主的取組促進法制」と称して、天下り先となるだろう第3者機関が定める違法情報対策の標準的な仕組み・技術・違法性の判断を広くプロバイダーに押しつけようとしていたりと、ここでも髄まで腐り切った総務省の厄人は天下り利権を拡大しようと有害無益な規制強化をねらって来ている

 「プロバイダー責任制限法の適用範囲の拡大」については、第31ページの「(b) 自主的取組を促進する法制等の在り方」・「a)プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」以下で、

 プロバイダ責任制限法の適用を社会的法益侵害情報に拡大し、プロバイダ等が、社会的法益を侵害する違法な情報だと考えて削除したところ、実はその情報は違法ではなかったという場合について、プロバイダ等において違法と信じるに足りる相当な理由があった場合には、削除したことによる発信者に対する損害賠償責任を制限するという方策が考えられる。
(脚注:なお、社会的法益侵害情報については、原則として権利を侵害された者が存在しないため、通常は当該情報を放置した場合における権利者に対する損害賠償責任の制限を検討する余地はない。)

と書いた上で、必要性・実効性について、

 この点、大手のプロバイダ等を中心に、既に自主的対応として違法情報の削除が進んでおり、プロバイダ責任制限法の適用拡大がなされても、それによって直ちに削除の件数が大幅に増えることは見込めないとの指摘がある。また、ガイドラインや約款に沿って送信防止措置をとっている限り、現実に発信者から損害賠償責任を問われる法的リスクはそれほど高くないことからか、プロバイダ責任制限法の適用を拡大すべきというニーズは多くない。さらに、プロバイダ責任制限法の適用を拡大して自主的な削除を促しても、インターネット・ホットラインセンターの削除要請にも応じずに違法情報を放置するようなプロバイダ等に対しては効果が限定されているとも考えられる。

と書いているが、そもそも、表現・情報の自由は民主主義の最重要の基礎であり、被害者を伴わない表現・情報に対する規制にほとんど正当化の余地はないのであり、そもそもここで社会的法益侵害と権利侵害という類型分けを使うこと自体不適切である。また、「権利侵害情報の例としては、名誉毀損情報、プライバシー侵害情報及び著作権や商標権を侵害する情報などがあり、社会的法益侵害情報の例としては児童ポルノ公然陳列罪、わいせつ物公然陳列罪(刑法第175条)、麻薬特例法違反、覚せい剤取締法違反など薬物関連法に係る情報などがある」(第18ページ)、「児童ポルノ関係の情報については、社会的法益侵害情報と整理されるが、被害児童が存在するため権利侵害の側面もある」(第24ページ)と、総務省が、勝手に児童ポルノ規制の法益を、実在の児童の権利侵害・実在の児童保護から、一般的な社会的法益とやらに勝手にすり替えようとしていることも決して看過できない

 この報告書では、プロバイダー責任制限法の適用範囲を拡大すべきとするニーズが多くないともしているが、意味不明の社会的法益侵害と権利侵害の区別による是非や発信者との関係での責任の問題だけを取り上げているから奇妙なことになるので、この問題において本当に重要なことは、第132回で書いたように、被侵害者との関係において、民事的な責任制限だけではなく、刑事罰リスクまで含め、明確なプロバイダーのセーフハーバーを作ることである。さらに言えば、今現在、動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕された「第(3)世界」事件の司法判断次第で、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあること、間接侵害事件や著作権幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であることを考えると、間接侵害や著作権幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することが喫緊の課題であると私は考えている。

 また、当たり前の話だが、内閣官房への提出パブコメでも書いたように、サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官天下り検閲センターを廃止するとともに、法律によって明確に制約を受ける警察にきちんと取り締まりと削除要請ができる人員を確保することが検討されなくてはならない。

(第45~46ページで、アメリカのDMCAのノーティス&テイクダウン的制度に触れ、「なお、アメリカDMCAのように対象事件を著作権侵害など一定の事件に限定するという考え方はあり得るが、違法情報の中の特定の一分野に関してのみ、他との均衡を崩してまで特別な扱いをすることを正当化するには相応の立法事実が求められること、我が国には通知の濫用に対する制度的な担保がないことから、一定の事件に限定するとしても直ちに導入することは困難と思われる。」と総務省は勝手に否定的な見解を述べているが、別にアメリカのノーティス&テイクダウン制度をそっくりそのまま日本に輸入しなければならない理由もなく、上であげた「ブレイクTV」事件や「第(3)世界」事件を考えても、著作権について特に早急に手当をしておくべき十分な立法事実があると私は考えている。)

 また、「行政機関による措置制度」については、第33ページの「b)行政機関による措置制度」以下で書かれているが、特にその制度イメージは、

行政機関の登録を受けた民間の機関が、一般国民からの通報等を端緒としてインターネット上の情報について違法と判断した場合、当該情報に係るプロバイダ等に対してその旨を伝え、送信防止措置をとるよう依頼する。
行政機関の登録を受けた民間の機関から送信防止措置依頼を受けたプロバイダ等が依頼に応じない場合、同機関の申し出により、行政機関が、必要に応じて法所管大臣に規定の解釈について照会したり、警察に送信防止の当否について照会したりしつつ、申出に係る情報が法令に違反するかどうかを判断し、当該プロバイダ等に対して、違法情報が蔵置されている旨を通知する。
上記②の行政機関からの通知を受けた者が送信防止措置をとらない場合には、行政機関はその者に送信防止措置をとるよう勧告、命令するなど何らかの措置をとる。この勧告・命令を受けた管理者は、技術的に可能な場合には、その勧告、命令に係る違法情報につき、一定期間内に送信防止措置を講ずる義務を負う

と書かれているが、これは、ほとんど青少年ネット規制法案の初期案の悪夢を彷彿とさせる、行政主導の検閲機関創設案である。さすがにこの案については否定的な見解も多く書かれているが、そもそも、このような問題が大き過ぎる検閲機関創設案が、役所で検討されること自体異常なことと思わなくてはならない。

前回も書いたが、特に、第34ページの脚注で憲法上の検閲の禁止について、過去の最高裁の判決を引いてあたかも狭く解釈ができるかの如きことが書かれているが、学説上は必ずしもそのような狭い解釈が取られている訳ではなく、この最高裁判決自体、昨今のインターネットの普及を踏まえたものでなく今日もなお通用するかどうか怪しいものである。今日ではインターネット上でしか発表・流通の機会を持たない表現物が既に多く存在しているのであり、例え事後規制だろうと、そのような表現物の発表・流通を完全に抑制しかねない規制は、やはり検閲に該当すると考える方が妥当だと私は考えている。)

 そして、「自主的取組促進法制」と称して、第36~47ページ、「c)自主的取組にインセンティブを与える形での責任制限等の方策」以下で、総務省は有害無益な規制強化案を延々とこねくり回している。この部分に書かれていることは本当に理解不能であり、到底読むに耐えないのだが、第36~47ページで総務省の役人が言いたいだろうことを推し量って掻い摘むと、その案は、総務省言うところの「社会的法益侵害」について発信者との関係で責任制限の範囲を拡大する替わりに、自主的な取組と称して、アクセスログの保存、違法情報対策に関する標準的な仕組み・技術、天下り先の第3者機関による違法性の有無の判定を広くプロバイダーに押しつけることにあるようである。

 上で「a)プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」の内容について書いたことをここでもう一度繰り返すことはしないが、「a)プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」では、発信者の関係で責任制限範囲を拡大するニーズがないとしながら、ここでは、発信者との関係のみで責任範囲を拡大することがインセンティブになるとしているところなど、総務省の役人の考えは心底理解に苦しむ。また、現行のプロバイダー責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)でも、プロバイダーが、侵害の事実を知りながら、技術的に可能であるにも関わらず不特定の者に対する送信防止措置を取らなけらない場合、その責任追求を免れないのであり、被侵害者との関係で、違法な情報を放置した場合に、現行法よりも責任追及を容易にするとしている点も全く理解不能である。(この容易化措置は、あまりにも理解不能であるため、要点として考えることすらできなかった。)

 プロバイダー責任制限の要件に、権利侵害とは無関係な行政あるいは第3者の関与をもたらすような要件を追加することは、有害無益かつ危険な規制強化にしかならない。「自主的」と称するやはりごまかしの言葉に騙されてはいけない。違法情報対策に関する標準的な仕組み・技術の導入を要件とした途端、その仕組みや技術の認定に天下り先となる第3者機関が必ずしゃしゃり出て来、結局天下り利権の強化・税金のムダな浪費の拡大・技術の発展の有害無益な阻害にしかつながらないのである。表現の自由・検閲の禁止等々との関係から、天下り先の第3者機関による違法性の有無の判定を法律でプロバイダーに押しつけることなど断じて許されないことである。

 アクセスログの保存も、プロバイダー責任制限の文脈の中で語られるべきスジの話ではない。アクセスログの保存は、それ自体で別途きちんと検討されなくてはならない話である。

 最後の結論でも、

(d) 結論 自主的取組を促進する法制の在り方についての考え方
 社会的法益侵害情報については、法制度こそ存在しないものの、違法情報ガイドラインやモデル条項等の策定及びホットラインセンターの活動等を通して自主的取組の体制が整備されてきており、ホットラインセンターの削除依頼に対する応答率も相当高いものとなっている。また、今後の更なる自主的取組の進展も期待される。

 もっとも、自主的取組についても、違法性判断の困難性や法的責任の不明確性など法制度上の課題が全くないわけではなく、自主的取組を法制面からさらに後押しするという観点から、現行法制度の見直しについて検討する余地はあると考えられた。そこで、まず、①プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大、②行政機関による措置制度の2つの方策につき検討したところ、①については、導入にあたっての課題は少ないが、必要性、実効性の点でなお検討の余地があり、②については、法的に整理を要する点や運用上の問題など導入にあたって解決すべき課題が多い一方で、自主的取組の現状と今後の更なる進展を考慮すれば、同制度の必要性については慎重に見極めるのが相当と思われた。
ここで、第三の方策として③自主的取組促進法制という方策が考えられるところ、過度の法的規制を避けつつ、自主的対応にインセンティブを与え、不適切な管理をするプロバイダ等の責任を問いやすくするという考え方は、自主的取組を法制面から支援する方策として、基本的には望ましい方向性を持っているといえるが、理論的根拠・正当性、対象の範囲、要件の具体的内容など検討すべき課題は多岐にわたり、議論も必ずしも十分に深まっていないことから、今後、現実に法制化が可能かどうかも含め十分な検討が不可欠であり、今後の議論が待たれる

 以上より、当面は、自主的取組の進展及びその成果を見守りつつ、③の方策の具体的検討を含めて各種法的措置に関わる課題につき議論を深めていくことが、2011 年度までに、青少年インターネット利用環境整備法関連の取組の評価が行われるまでの間、取り組むべきことと考えられる。

と、天下り先の第3者機関による、違法情報対策に関する標準的な仕組み・技術・違法性の有無の判定のプロバイダーへの押しつけに、総務省は並々ならない執着心を示している。腐り切った総務省の役人の危険な規制強化へのとどまるところのない欲望に対する怒りを描写するに足る言葉はもはや存在しないくらいである。

 この部分についても、論外の検閲機関創設案に反対するとともに、「社会的公益侵害」・「権利侵害」という意味不明の区別を用いた検討を白紙に戻し、プロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきと、特に、著作権侵害については、最近の事件から考えて、間接侵害や著作権侵害幇助罪まで含めて、著作権法にきちんとした明確なセーフハーバーが早急に作られるべきと、さらに、そのセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政なり天下り先となる第3者機関なりの関与を必要とすることは、表現の自由の不当な侵害につながり、税金のムダな浪費と技術の発展の阻害につながるだけの危険かつ有害無益な規制強化であり、絶対にあってはならないことであると釘を刺しておく必要があると私は思っている。

 突っ込みどころはまだまだ尽きないので、次回もこの報告書についてである。

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コメント

もう12月に入りますが、それにしても今年は規制法案の多い年でしたね。
それらのほとんどを警察が支持しているという事態に至ってはもうため息しかでません。
兎園様の論理的で説得力のある文章にはとても及びませんが、せめて援護射撃ぐらいはやってみせようと思います。

投稿: taffy | 2008年11月30日 (日) 23時23分

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