第135回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その1:児童ポルノ規制関連部分)
次から次へと危険極まりない話が出てくるのは本当にどうにかして欲しいと思うが、今度は総務省から、12月17日〆切で、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)(本文1、2、3、4、5)に対するパブコメの募集がかかった(総務省のリリース、意見募集要領、電子政府の該当ページ、internet watchの記事)。(内閣官房の犯罪計画案よりは長いが、パブコメ期間についてはおよそ20日間とやはり短いので注意が必要である。)
この総務省の違法・有害報告書案は、危険度において、内閣官房の犯罪計画案に劣らないどころか、それを上回り、しかも、あまりにも長い上、随所に理解不能の論旨の混乱が見られ、ほとんど読むに耐えないというという非道極まるものである。そのため、ページ順に指摘して行くと訳が分からなくなるので、この報告書案についてはエントリを分けて、各論点毎に問題点を指摘して行きたい。最初に、今回は、今一番危険性が高いと考えられる児童ポルノ関連の記載についてである。
まず、「2.安心を実現する基本的枠組の整備」中の第23~24ページの「(1)安心ネット利用のための基本法制の整備等」の「3)自主的取組を促進する法制の在り方」で、
主要な社会的法益侵害情報のうち、児童ポルノ公然陳列については、海外から対策を求める声が上がっており、国会においても児童ポルノ禁止法改正案が提出され、警察庁も2008年度の総合セキュリティ対策会議の検討課題として「インターネット上での児童ポルノの流通に関する問題とその対策」を取り上げるなど国内外で問題意識の高まりがみられる。児童ポルノ関係の情報については、社会的法益侵害情報と整理されるが、被害児童が存在するため権利侵害の側面もあることから、他の類型の社会的法益侵害情報と比較して、緊急に対処する必要性が高い場合が少なくないとの指摘もある。
と根拠なく規制強化のニーズを騙り(海外からの声として、根拠のない米シーファー大使の発言など持ってくるあたりタチの悪さの極みである)、第25ページで、
なお、社会的法益侵害情報といっても類型ごとに緊急性や問題性の度合いや内容は様々であり、社会的法益侵害情報全般でなく、例えば児童ポルノのような優先度の高いと考えられるものについて個別の対処を検討するという考え方もありうるのではないか。
と一方的に児童ポルノ規制強化を正当化している点も看過できないが、具体的な児童ポルノ対策について書かれている「3.民間における自主的取組の促進」の「(2)児童ポルノの効果的な閲覧防止策の検討」の内容と来たら、ほとんど狂っているとしか思われない記載のオンパレードである。
まず、3の「(2)児童ポルノの効果的な閲覧防止策の検討」の第91ページ以下の前置きで、批准未了のサイバー犯罪条約(そもそも、児童ポルノの所持等に関しては留保条項もある)や欧米諸国の狂った規制のみを例に挙げ、内閣府の印象操作調査を引き、インターネット・ホットラインセンターにおける通報件数のみを使って日本における児童ポルノ事件数が多いかの如き印象操作を行っていることからして到底許せるものではないが、第92~93ページの、
1)現在の児童ポルノに対する取組
インターネット上に児童ポルノ画像等をアップロードすることは、我が国の法律上児童ポルノ公然陳列罪(児童ポルノ規制法第7条第4項)に該当する犯罪行為であり、警察が当該行為者を検挙することが最も根本的な対策であることはいうまでもない。しかしながら、被害児童保護の見地からは、行為者の検挙と併せて、インターネット上での児童ポルノ情報の流通・拡散を可能な限り抑止することも重要である。インターネット上の児童ポルノ情報の流通・拡散の抑止という見地からは、アップロードされている情報を削除することが最も確実である。この点、これまで述べたとおり、児童ポルノ情報を含む社会的法益を侵害する違法な情報に対しては、違法情報ガイドラインやモデル条項の策定及びインターネット・ホットラインセンターの活動などを通して、プロバイダ等による自主的な削除が進められており、相応の成果を上げているところである。しかしながら、プロバイダ等による自主的な削除は、基本的に日本国内に存在するサーバに蔵置されている情報に限られ、海外のサーバに蔵置されている児童ポルノ情報については対応が困難である。上述のとおり、インターネット・ホットラインセンターに通報のあった児童ポルノ情報の約3分の1が海外のサーバに蔵置されていたことを考えれば、この点は大きな課題といえる。
アップロードされた児童ポルノ情報を削除することの他に、ユーザーが閲覧できないようにすることによっても児童ポルノ情報の流通・拡散を抑止することが可能であるところ、大手のISPでは、閲覧防止の手段としてユーザーに対してフィルタリングサービスを提供している。フィルタリングとは、ユーザーがあるサイトにアクセスしようとする場合に、ユーザー側のハードやISP側の通信設備に設定されたフィルターにおいて、ユーザーからリクエストのあったURLと予め作成されている閲覧規制リストとを照合し、規制対象に該当する場合には、接続を拒否するという仕組みである。使用される規制リストについては、専門の業者が収集・分類して作成する方式が一般的であり、児童ポルノ情報についても、いわゆるアダルト系の情報の一内容として閲覧規制リストに載せられているのが通常である。規制リストは日々更新されてISPやユーザーに提供されている。
この手法によれば、閲覧規制リストにさえ載せれば海外のコンテンツにも対応可能であり、また、閲覧規制リストに抵触するもののみ接続を拒否するものであるから、閲覧規制リストが正確である限り、問題のない情報まで接続拒否されるおそれは少ない。
他方、通信の宛先をISPなどの媒介者が照合することになるので、通信の秘密と抵触するおそれがあり、利用に当たってはユーザーによる設定又は同意を前提とせざるをえない。そのため、児童ポルノ情報の閲覧を望まず、フィルタリングサービスを自ら設定し又は使用に同意するユーザーに対しては抑止効果があるが、児童ポルノ情報の閲覧を希望し、積極的にインターネット上の児童ポルノ情報を探索するようなユーザーは、フィルタリングサービスを提供されても利用も同意もしないのが通常と思われ、こうしたユーザーに対する抑止効果は期待できないという欠点を持つ。
フィルタリング以外の閲覧防止策としては、検索エンジンを提供するプロバイダの画像検索におけるセーフサーチの機能がある。これは、画像検索において、ポルノ画像など一定の画像を自動的に解析するなどの方法で検出し、検索結果から除外するという手法であり、検索エンジンでは標準設定とされている場合が多い。この手法によれば、国内外を問わず、ポルノ画像として検出されれば検索結果に現れないため、アクセスがしづらくなり、情報流通を抑制する効果がある。しかし、フィルタリングと同様にセーフサーチ機能を利用するかどうかはあくまでもユーザーの意思に委ねられており、標準設定で適用されることとしていても、ユーザーが適用をオフにすれば機能しなくなるから、やはり閲覧を希望するユーザーに対しての抑止効果は期待できない。
このように、現在でも、さまざまな児童ポルノ対策の取組みがなされているが、現行の取組みは、海外のコンテンツへの対応が困難であり、ユーザーの設定や同意を必要とするため積極的に児童ポルノの閲覧を希望するユーザーに対する抑止効果が限定的であるといった課題を抱えている。
という記載に至ってはもはや絶句するしかない。総務省は、ロリコンを思想犯罪化し、国民の情報・表現・思想等々の最も基本的な精神的自由と安全を脅かすと宣言して来たのだ。ここで、拡散・流通といった姑息な言葉による見え透いたごまかしに騙されてはいけない。内閣官房へのパブコメでも書いたし、何度も繰り返して来たことだが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ないのである。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。海外サーバーの児童ポルノコンテンツについても、児童ポルノの提供が罪になっていない主要国もないのであろうから、日本の警察なりが海外の捜査機関に協力すれば良いだけの話である。例え児童ポルノだろうが、新たな思想犯罪を作り、国民の情報・表現・思想等々の最も基本的な精神的自由と安全を脅かす理由には全くならない。
さらに、第93ページ以下の「2)海外における児童ポルノ対策の現状」で狂ったキリスト教欧米諸国の規制のみを取り上げた上で、第96ページ以下の「3)今後とりうる手法」において、ブロッキングについて、
DNSポイズニング方式、ハイブリッドフィルタリング方式のいずれも、今後の児童ポルノ情報の閲覧防止策として期待の持てる手法といえるが、どちらの方式にも一長一短あり、それぞれに解決すべき課題を抱えている。それらの課題の具体的な解決策については、今後の議論を待つ必要があるが、DNSポイズニング方式におけるオーバーブロッキングの点は、例えば特に悪質な児童ポルノ関係サイトに限定してブロックするなど、運用上の工夫によりある程度回避することが可能ではないかと考えられる。又はイブリッドフィルタリング方式については、現状では通信の秘密との関係の整理は容易ではないが、児童ポルノの単純所持が違法化される法改正の動向によっては、整理できる可能性もある。
なお、別の視点として、適法なサイトやファイルが誤ってブロッキングの対象となってしまった場合の扱いについても併せて考えておく必要がある。現行法の「児童ポルノ」の定義については、個別の事例において該当するか否かの判断が難しいという指摘がなされている。「児童ポルノ」の定義については立法措置等により可能な限り明確化・客観化が図られることが望ましいが、児童ポルノか否か判然としないコンテンツの出現は不可避であり、誤って適法な情報がブロッキングの対象となる事態は起こりうる。しかも、ブロッキングの対象とされた場合でも、自分のサイトがブロッキング対象となっているかどうかは、当然に知りうるわけではない。そのため、自分のサイト等がブロッキングされているかどうかを知りうる手段を用意するとともに、ユーザーからの反論を受け付け、必要に応じて規制対象リストから除外できるようにする仕組みが必要になると考えられる。
と勝手に肯定的に評価し、検閲に該当するとしか思えないブロッキングの導入を既定路線としようとしている点も度し難い。総務省なり警察庁なりの下心はブロッキングサイト指定機関への天下りにあるのだろうが、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利)や通信の秘密、検閲の禁止と言った国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないブロッキングもまた導入されてはならない規制の一つである。
(なお、第34ページには、憲法上の検閲の禁止について、過去の最高裁の判決を引いてあたかも狭く解釈ができるかの如きことが書かれているが、学説上は必ずしもそのような狭い解釈が取られている訳ではなく、この最高裁判決自体、昨今のインターネットの普及を踏まえたものでなく今日もなお通用するかどうか怪しいものである。今日ではインターネット上でしか発表・流通の機会を持たない表現物が既に多く存在しているのであり、ブロッキングのような規制は、例え事後規制だろうと、そのような表現物の発表・流通を完全に抑制しかねないものであり、やはり検閲に該当すると考える方が妥当だと私は考えている。)
そして最後に、第99~100ページで、このような破綻した論理展開の帰結として、
4)今後のインターネット上の児童ポルノ情報対策の方向性
インターネット上の児童ポルノ情報についての対策としては、インターネット上に児童ポルノ情報をアップロードした者を検挙することが最も根本的な対策であり、また、流通・拡散の抑止の観点からは当該情報を削除することが最も確実な対策であるから、これらの方策の必要性はいささかも減じておらず、引き続き、警察による取締り強化とプロバイダ等による自主的な削除の促進が求められる。フィルタリングなど現在とられている閲覧防止策についても、更なる普及の促進と性能の向上を図る必要があるところ、フィルタリングの性能向上にあたっては、閲覧規制リストの精度の向上が重要である。現在、閲覧規制リストは個々のISPやフィルタリング事業者単位で作成しているが、精度の更なる向上のためには、事業者同士のほか、児童ポルノ問題に取り組んでいる国内外の団体、警察などの行政機関との連携を強め、情報の共有を図っていくことが不可欠である。
また、ブロッキングについては、今後の閲覧防止策として期待できるものであるが、解決すべき課題を抱えている。ブロッキングを実効性と実現可能性を兼ね備えた方策とするためには、今後、海外における運用実態の調査研究をしつつ、これを踏まえて課題の解決方法について検討を深めること、趣旨に賛同するISPの協力を得て実証実験等を実施し、実際の効果や弊害を測定すること等の作業が不可欠である。
今後、これまでも述べてきた民間の自主的取組を進める産学連携の新たな組織に、児童ポルノ情報対策を進める枠組みを設け、これに警察、総務省などが協力して検討を行っていくことが望ましい。できれば本年度中に、具体的な作業部会等を設置し、必要な調査を進めながら、2009 年度中には、例えば、実証事業への着手など、次のステップに進めるよう、関係者間で協力すべきである。
と非常に危険な方向性を示しており、この違法・有害報告書案のパブコメにも、児童ポルノ対策については今以上の規制は必要ないこと、特に単純所持規制・創作物規制のような情報・表現に関する国民の基本的な権利を侵害する危険な規制は導入するべきでないこと、やはり情報・表現に関する国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないブロッキングについても、その実証実験すらするべきではないこと等の意見を出す必要があると私は思っている。
既に「チラシの裏(3週目)」で突っ込まれている通り、「児童の性的搾取に反対する世界会議」が児童ポルノの閲覧まで犯罪化しろという狂った魔女狩り宣言をまとめようとしているなど、児童ポルノ規制関係は、今非常に危険な状態にあり、まずは、児童ポルノ関連部分を取り上げたが、この総務省の違法・有害報告書案は、全て白紙に戻して検討し直すべきだと思うくらい危険な点が山盛りなので、次のエントリも引き続きこの報告書案の話をする。
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