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2008年11月 8日 (土)

第128回:文化庁・法制問題小委員会の中間まとめに対する提出パブコメ

 文化庁・文化審議会著作権分科会・法制問題小委員会の中間まとめに対するパブコメも書いて提出したので、ここに載せておく。

(以下、提出パブコメ)

 法制問題小委員会中間まとめについて下記の通り、意見を提出します。

     記

1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:
4.連絡先:

5.該当ページおよび項目名:
(1)第2節 私的使用目的の複製の見直しについて(11~20ページ)
(2)第3節 リバース・エンジニアリングに係る法的課題について(21~39ページ)
(3)第4節 研究開発における情報利用の円滑化について(40~49ページ)
(4)第5節 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて(50~62ページ)
(5)中間まとめ全体

6.意見
(1)「第2節 私的使用目的の複製の見直しについて(11~20ページ)」に対する意見
 第11~12ページにおいて、平成19年12月18日時点のペーパーを意見募集後の私的録音録画小委員会の論点整理として固定化しようとしているが、このペーパーは8720通にも及ぶパブコメを完全に無視して文化庁が勝手に作ったもので、同日の小委員会に出席していた消費者代表委員からも激しい批判を浴びたものであり、平成19年度の私的録音録画小委員会の論点整理として全く不適切なものである。最終報告書においては、この論点整理に関する記載は全て削除するか、平成1月23日時点の「私的録音録画小委員会の審議の経過について」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/08012413/001.htm参照)の内容のみをもって平成19年度の私的録音録画小委員会の整理とするべきである。

 また、第16ページの「② 利用者保護について」で、利用者保護対策が進んでいるかの如き印象操作を行っているが、日本レコード協会の権利者団体のエルマークもあくまで日本レコード協会所属のレコード会社と、その音楽配信サイトが何らかのライセンスを結んでいることを示すものに過ぎず、どこまで行っても、エルマークのありなしはそのサイトのコンテンツが著作権法上適法に提供されたものか、違法に提供されたものかを示すクライテリアたり得ない上、自らが作製した著作物を離れてサイトそのものを違法と著作権者団体が認定することは、明らかに権利の乱用であり、到底認められるべきことではない。最終報告書においては、この部分に、このような否定的評価も明記するべきである。

 そもそも、平成19年度の私的録音録画小委員会中間整理に対するパブコメにおいて、ダウンロード違法化に対する大多数の反対意見はダウンロードの違法化をするなと言っているのであって、意見を重く受け止めてダウンロードを違法化して欲しいなどとする意見ではカケラもないのであり、このような意見のすりかえは決して許されない。

 去年のパブコメでは、ダウンロード違法化について、①そもそも著作権という私法が私的領域に踏み込むこと自体がおかしい、②家庭内の複製行為を取り締まることはほとんどできず、このような法改正には実効性がない、③通常の録音録画物について違法合法を区別することはできない、④特に、インターネット利用では、キャッシュとして自動的になされるコピーがあるなど、違法合法を外形的に区別できないため、ダウンロードが違法と言われても一般ユーザーにはどうしたら良いのかさっぱり分からず、このような法改正は社会的混乱しかもたらさない、⑤ダウンロードはその行為に1個人しか絡まないため、エスパーでも無い限り「情を知って」の要件は証明も反証もできないものであり、この要件は司法判断でどう倒されるか分からず、場合によってはインターネットへのアクセスそのものに影響を及ぼし兼ねないこのような法改正は極めて危険である、⑥そもそも違法流通は送信可能化権による対応が可能である上、この送信可能化権との関係でダウンロードによる損害額がどう算定されるのかもよく分からない、⑦パロディの著作物のダウンロードについて、ごく普通のユーザーにまでリスクを負わせるのはおかしい、⑧研究など公正利用として認められるべき目的の私的複製まで影響を受ける、といった懸念・不信がユーザーなどから示されているが、このうち、④の問題が、わずかに、本中間まとめにおいてブラウザキャッシュなどが権利制限の対象されるべきとされていることで、かろうじて緩和されそうなことを除き、去年から状況にほとんど変化はないのであり、ダウンロード違法化の合理的な根拠はほとんど全くと言って良いほど何もないのである。

 国際的に見てもダウンロードを違法化している国は決して多くなく、ダウンロード違法化をした上でエンフォースを試みたただ一つの国であるドイツでは、エンフォースに失敗し、その実効性は何らあがっておらず、フランスは、条文に3ステップテストを入れただけでダウンロードについてまだ最高裁の結論が出ていないところで、俗に3ストライクアウト法案と呼ばれるバランスを欠いた取組を無理矢理押し進めようとしているが、最近のEUの通信に関するディレクティブでネット切断型の対策を否定されるなどその先行きは不透明となっており、判例法の国アメリカでも、P2P訴訟が猖獗を極め、何ら出口は見えていないなど、欧米の動向も、この点に関しては混乱するだけ混乱しており、反面教師にしかならない。国際条約にダウンロードを明確に違法化すべきと明記されている訳でもなく、ダウンロード違法化が国際潮流になっているなどということは今もってない。

 プログラムも含め、あらゆる著作物のダウンロード違法化に、私は今なお完全に反対する。このような有害無益な法改正の方針は、技術の発展の真の意味を全く理解しておらず、一般国民の行動原理とモラルとも乖離した、天下り役人の独善的な妄想に基づくものでしかない。違法ダウンロードによる権利者の経済的不利益が大きいとする根拠も薄弱であり、違法ダウンロードについては、拙速な法改正は行わず、解釈論による対応なども検討しつつ、様々な司法判断や状況が積み重なってきたときに改めて立法の是非を判断するべきである。

(2)「第3節 リバース・エンジニアリングに係る法的課題について(21~39ページ)」に対する意見
 第23ページに、「国際的に見ても、リバース・エンジニアリングの取扱いに関して大きな議論が存在する状況ではなくなってきている」と書かれているが、同じ中間まとめ中にある諸外国の立法例だけを見ても、ドイツ、フランス、スイス、イギリス、オーストラリア、アメリカ等があげられており、最終報告書においては、このような不適切な記載は削除するべきである。

 技術的な調査・解析は、権利者の利益を害するどころか、技術の発展を通じて社会全体を裨益するものであり、著作権法によってこのような利用まで萎縮することは、その法目的に照らしても本来あってはならないことである。遅きに失した感すらあり、このリバース・エンジニアリングに関する権利制限を早期に確実に導入することを私は求める。

(3)「第4節 研究開発における情報利用の円滑化について(40~49ページ)」に対する意見
 上でも書いたことだが、技術的な試験・研究は、権利者の利益を害するどころか、技術の発展を通じて社会全体を裨益するものであり、著作権法によってこのような利用まで萎縮することは、その法目的に照らしても本来あってはならないことである。さらに、主として情報解析分野のみについて一定の条件の下で権利制限を行うべきとしている点は権利制限の範囲としてあまりにも狭く不十分である。この点については、研究開発のための広く一般的な権利制限を早期に確実に導入することを私は求める。研究開発のための広く一般的な権利制限は、特に、技術動向に対する柔軟な対応が必要とされるため、列挙型ではなく、一般的な制約要件のみを設けた包括的なものとされるべきである。

 さらに、特にインターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意味を持つものである。一般フェアユース条項についてもその検討を進め、可能な限り早期に導入することを私は求める。

(4)「第5節 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて(50~62ページ)」に対する意見
 利用者の通常の機器利用において生じる一時的蓄積について法的安定性を高めることもまた必要なことであり、この機器利用時の一時的蓄積に対する権利制限もまた早期に確実に導入することを私は求める。この点について今整理されている以上の要件は不要であり、法的安定性と萎縮効果の防止の必要性を十分に認識し、これ以上の要件を追加することは厳に戒められるべきである。

 通信過程における一時的蓄積等についても権利制限はやはり同様に必要であり、これを早期に確実に導入することを私は求める。特に、この点については、技術動向への柔軟な対応ができない機能列挙型の権利制限ではなく、著作物の通常の利用を害さず、権利者の正当な利益を不当に害しない限りにおいて、というような一般的な制約要件を設けた上で、全ての蓄積等の行為について包括的に権利を及ぼさないこととされるべきである。

 また、この第5節には、諸外国の立法例が引用されていないが、去年の著作権分科会報告書にも書かれている通り、EUディレクティブから、英仏独を含む各国の立法例があり、きちんと諸外国の立法例を参考として引用するべきである。

(5)中間まとめ全体について
 繰り返すが、私は、ダウンロードの違法化をするなと言っているのであって、意見を重く受け止めてダウンロードを違法化して欲しいなど言っているのではない。この点について腐った天下り役人の遁辞など全く求めていない。本来法改正は立法府の権限であるが、いやしくも立法を議論する以上、一般国民のコモンセンスに反する法律、守られようがない法律は百害あって一利ないという法哲学の初歩は知っていてもらいたい。どんな法律であれ、作ればその通りに国民が動くなどということはない。技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、ダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正を押し通せば、結局、ダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードがさらに進行するだけであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。どう転ぼうが、ダウンロード違法化は百害あって一利ない最低の法改正である。

 それに対し、本中間まとめで取り上げられている権利制限は、どれも社会全体を裨益し、経済はおろか、引いては文化の発展にも寄与するものである。次の法改正においては、ダウンロード違法化を除き、権利制限のみの法改正のみを是非行ってもらいたい。

 文化庁あるいは文部科学省にあっては、パブコメを無視せず、真に公平かつ妥当な国民視点に基づく検討が行われるよう、今後、その審議会運営の正常化を真摯に行うことを、私は一国民として強く求める。文化庁あるいは文部科学省がこのような正常化が不可能であるとするなら、これは、行政府が特定業界との癒着を断ち切ることが不可能であると告白したに等しく、私は一国民として、今後真に公平かつ妥当な国民視点に基づく著作権法改正の検討を直接立法府で行うべきであると立法府に求めていくと最後に付言しておく。

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