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2008年11月19日 (水)

第132回:日本のインターネットを終了させないために

 著作権法改正で気をつけるべきことについては第28回に書いたのだが、最近はインターネットの利用そのものを危険なものとしかねない法改正が政官において平然と検討されていたりするので、今まで書いてきたこととかなり重複するが、ここでもう少し範囲を広げて、特にインターネットとの関連で私が気をつけていることを、まとめて書いておきたいと思う。

(1)ネット事業・利用のために著作権法上より明確なセーフハーバーを作ること
 現在、プロバイダー責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」。関連情報Webサイト)によって、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の民事上の損害賠償責任にある程度のセーフハーバーが作られているが、動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕された「第(3)世界」事件を考えても、現在のプロバイダー責任制限法では、もはやセーフハーバーとして不十分だろう。今現在、これらの事件の司法判断によっては、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるのである。

 プロバイダー責任制限法を改正して、刑事罰まで含めてプロバイダーの責任を制限することが検討されても良いだろうが、間接侵害事件や著作権幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、それでも十分な対策とはならない。この問題については、間接侵害や著作権幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定しない限り、本質的な解決にはならないのである。(ここで本当に必要なことは、著作権侵害とならない場合を明文化することであって、著作権侵害となる場合を明文化することではないということはいくら注意しても注意しすぎではない。法律は実運用・解釈まで考えなくてはならないものであり、黒の範囲を明文化しても残りの範囲が白となるとは限らないのである。この違いをごまかして、不当な利権の拡大を後押しする、法律屋の転倒レトリックに騙されてはいけない。)

 また、ネット上の様々な利用については、事業者だけではなく、常にユーザーにも不当に過大な著作権リスクが発生していることも、もはや目をつぶっていることはできない。今現在、限定列挙で権利制限の対象とされている類型以外についても、公正と考えられる利用形態についてやスジの悪い訴えについては、現状親告罪であることが多少のセーフハーバーとなり、さらに司法において黙示の許諾や権利の濫用である程度妥当に処理されるものと期待していたが、アニメ画像一枚の利用による別件逮捕すら正当化されるというのでは、親告罪であることや司法判断にそこまでの期待はできない。この点についても地道な緩和策が取られる必要があり、特に、文化庁と権利者団体がつるんで、どんな些細な権利制限もなかなか進めようとせず、進めても不当なまでにその要件を厳しくするという状況下では、著作物のネット上での利用に関する不当に過大な民事・刑事のリスクを軽減するために、一般フェアユース条項の導入は必要不可欠と私は考えている。

(2)情報アクセスの権利・情報アクセスにおけるプライバシーを守ること
 情報アクセスの権利(知る権利)は、表現の自由に含まれている重要な権利であり、例え民事罰のみであろうと、情報にアクセスしただけで何らかのリスクが発生する法律には私は断固として反対する。個人が私的に情報にアクセスしただけでは、どんな被害も発生し得えないのであり、個人が私的にどのような情報にアクセスしたかということもプライバシーとしてきちんと守らなくてはならないのである。

 ダウンロード違法化問題では、常に、ネットにアップされることによって生じる被害と、ダウンロードの被害を混同する主張が権利者団体によって繰り返され、癒着した天下り役人がそれをそのまま政府の報告書に書いている訳だが、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とダウンロードとを混同することは絶対に許されない。さらに、このダウンロード違法化問題においては、既にネット上では「情報アクセス=複製」となっていることもきちんと考慮に入れられなくてはならない。

 刑事罰が絡むだけに影響も大きい児童ポルノの単純所持規制問題でも、規制派は常に、頒布による被害と単純所持を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で頒布及び頒布目的の所持まで規制されているのであり、この問題においても、頒布によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ないのである。

 何度でも繰り返すが、一人しか行為に絡まない、個人的な情報アクセスに関する限り、「情を知って」、「性的好奇心を満たす目的で」、「みだりに」などの精神的要件は、エスパーでもない限り、証明も反証もできないものであり、法律上の要件として客観性を全く欠き、恣意的な運用しか生みようがない危険極まりないものである。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報アクセスに関する情報をどうして他人が知って良いということがあるだろう。ネット上においても、通信の秘密やプライバシーが守られなくてはならないのは言うまでもないことである。

 情報アクセスの権利は、著作権法上のDRM回避規制とも絡む。私的な領領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)は、情報アクセスそのもののためにDRMを回避しなければならない場合があることを、個私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無いということを無視して、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである。一般フェアユース条項が導入されれば、この点も法的に少しは軽減されるものと思うが、本来導入されるべきではなかったこのような規制は撤廃が検討されてしかるべきである。

 また、日本のISPの自主規制による、ネット切断型違法コピー対策(違法ダウンロード対策ではない)は、第73回で取り上げてい以来、大きな動きになっていないが、このような対策が過剰規制となり、社会的混乱がもたらされることも十分想定されるのであり、今のところダウンロード違法化問題の陰に隠れているが、ダウンロード違法化問題の推移とフランスの動向次第で、著作権団体がこのような対策を強力に押してくる可能性もあり、決して油断は出来ない。

(3)表現の自由そのものを守ること
 さらに、検閲の禁止・通信の秘密とも密接に絡む話だが、民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくするような検討までなされているのは、本当に救いがたいことである。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ないのであり、公的あるいはそれに準じる検閲(事後抑制型の検閲を含む)機関がそれを一方的に決めることなど絶対にあってはならないのである。(第76回で書いたように、個人的には現行刑法のわいせつ物規制すらもはやほとんど正当化根拠を失っていると思っている。なお、第51回にも書いたように、無論、表現の自由には、自己の責任において匿名で表現を発表する権利も含まれている。)

 人権擁護法案や、創作物の規制への含みを持つ与党の児童ポルノ改正法案が危険極まりないのは言わずもがな、ほぼフィルタリング義務化だけ(これだけでも不当であり、およそ運用に細心の注意が払われなくてはならないのだが)に留まった青少年ネット規制法についても、その経緯を考えると、今後の検討で、また突拍子もない規制強化案が飛び出して来かねない。番外その8で書いたように、経団連にすらダメ出しされ、また青少年ネット規制法の成立によってネット規制の最後の根拠すら無くなった所為か、その後は割とおとなしいが、第35回で取り上げた、総務省の放送と通信の融合法制の話や、恐らく今後も著作権団体が強行に主張してくるだろう技術的・法律的な著作権検閲の話にも目を光らせておかなくてはならないだろう。

 リアルの規制については他所におまかせするが、特に最近、目に余る有害無益な法規制の話が多すぎる。最近の国籍法改正問題にしてもダガー規制問題にしても、国会議員なり官僚なりが、バランスを欠いた結論ありきの検討でムダに世の中を混乱させているのは、本当に許し難い。永遠に続く権利の闘争に休息はない。

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コメント

またしてもネット規制の強化を目論んでいるようです。

「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対する意見の募集(パブリックコメント)について 王様を欲しがったカエル

http://toriyamazine.blog100.fc2.com/blog-entry-182.html

それにしても

>一応要約しておくと、
>
>1)防犯ボランティアと称して警察の手駒になる自警団を管轄に置きたい。
>
>2)生活安全産業と称して、警察絡みの防犯グッズを商店街や個人に売りさばきたい。
>
>3)退職警察官を、スクールガードと称して学校に常駐させたい。

警察という組織は放っておくとなんでもかんでも手を広めようとするんですね…。
憂鬱です。
「青少年」や「安全」を旗頭にすればなんでも通ると思ってるんでしょうか。

投稿: taffy | 2008年11月23日 (日) 11時46分

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