第133回:内閣官房・「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対するパブコメ募集(11月28日〆切)
内閣官房が「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対するパブコメを11月28日〆切で募集している(内閣官房のリリース、本文(pdf)、電子政府の該当HP)。
既に、「表現の数だけ人生が在る」や「王様を欲しがったカエル」、「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)(2つめの関連エントリ)」、「チラシの裏(3週目)」、「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」等でも取り上げられており、重なるところもあるが、このパブコメもまた政府に対して意見を言う重要な機会の一つと思うので、ここでも取り上げたいと思う。(taffy様、情報ありがとうございます。)
この11日間という短期間で国民の意見を聞いたことにする姑息さもさることながら、その内容は、平成15年当時の「犯罪に強い社会の実現のための行動計画(pdf)」と比べても格段に危険な項目が増えている。対応会議は犯罪対策閣僚会議(開催状況)となっているが、内容のメインライターは警察庁だろう。危険な規制強化を主導しているのが警察そのものであることに、不安は募るばかりである。
(1)表現・情報規制関係項目
まず、第6ページに、以下のような児童ポルノ規制法に関する記載がある。(以下、全て赤字・強調は私が付けたもの。)
第1-5-③ 児童ポルノ対策等の推進(第6ページ)
最新の技術を駆使した児童ポルノ事犯に対処するため、国際的な動向を踏まえ、捜査に携わる警察職員の技能水準の向上、体制や資機材の強化を図るとともに、インターネットを介して売買される児童ポルノの根絶を図るため、買受捜査を一層強化する。また、児童ポルノの排除に向けた国民運動を展開するとともに、国民の意識調査や諸外国の規制調査等を行い、児童ポルノに対する新たな規制について検討する。
特に、児童ポルノに対する新たな規制について検討するとされていることは度し難い。児童ポルノについて新たな規制は必要ないのであり、ここについては、単純所持規制・創作物規制に対する反対とともに、新たな規制の検討をしないようにすること、かえって必要なことは児童ポルノの定義の厳格化であると釘を差しておきたい。
また、同第6ページと、第25~26ページには、フィルタリング義務化を軸とする青少年ネット規制法や出会い系サイト規制法に関する以下のような言及がある。
第1-5-④ 少年を取り巻く有害環境の浄化(第6ページ)
「青少年の非行問題に取り組む全国強調月間」や「全国青少年健全育成強調月間」において、「有害環境の浄化」を重点項目の一つとして、関係機関・団体と地域住民等とが相互に協力・連携を図りつつ各種取組を進めるとともに、有害環境の浄化を図るなどの各種取組を集中的に実施するよう広報・啓発活動を実施する。また、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律に基づく取組を推進するとともに、出会い系サイトその他のサイトの利用に起因する児童の犯罪被害を防止するため、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律の効果的な運用及びサイト事業者による自主的な取組を推進する。さらに、フィルタリング事業者、保護者等に対する犯罪情報の提供を促進する。第5-1-② インターネット上の有害情報から青少年を守るための対策の推進(第25ページ)
青少年が安全に安心してインターネットを活用できる環境の整備等に関する法律に基づき、インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議を設置し、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画を策定するとともに、同計画に基づき、フィルタリングの普及促進、インターネットの適切な利用に関する教育及び保護者等に対する広報啓発を推進する。また、フィルタリングの性能及び利便性の向上に向けた事業者の取組を支援し、青少年がインターネットを利用する場合におけるフィルタリングの更なる導入促進を図る。第5-1-③ 情報モラル教育及び広報啓発活動の推進(第26ページ)
地域、家庭及び学校における情報モラル教育の推進のため、保護者等を対象とした講座を通信事業者等と連携して全国で実施し、インターネット上の違法・有害情報の現状及びフィルタリングの重要性等に関する理解向上を図る。また、違法・有害情報対策に関する情報提供サイトの構築・充実化等を行い、効果的な情報提供に努める。さらに、小中学校の新学習指導要領において、各教科等の指導において、情報モラルを身に付けることを新たに規定するなど、義務教育において情報モラル教育の充実を図ることとし、各教科等における具体的な指導に当たって教員の参考となる手引きの作成、情報モラルの指導実践事例等を紹介する教員向けのウェブサイトの普及等により、新学習指導要領の円滑かつ確実な実施を図る。第5-1-④ 違法・有害情報への対応の検討(第26ページ)
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の施行状況等を踏まえ、インターネット上の違法・有害情報対策の在り方について検討する。
本来主として情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきと、あらゆる者の反対を受けながら、一部の寄生議員と規制官庁の暴走のみによって成立した青少年ネット規制法など、一国民・一ユーザー・一消費者として全く評価できないものである。これらの法律の運用においては慎重の上に慎重を期すとともに、情報モラル・リテラシー教育にこそ注力し、今後の検討においては、青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の改正前の形への再改正が速やかに検討されるべきであるとする意見を出すつもりである。また、裁判で有罪が確定した等の事情により公開情報となっているものであれば良いだろうが、通常役所が業務上知り得た情報を、そのまま外に流すことには法律とモラル上極めて大きな問題があるのであり、フィルタリング事業者等への犯罪情報の提供についても注意しておきたいところである。(この点については、青少年ネット規制法施行令案への提出パブコメ、出会い系サイトに関する警察庁研究会報告書に対する提出パブコメ、出会い系サイト規制法ガイドラインに対する提出パブコメなども参照頂ければと思う。)
また、本当に自主的な取組の支援はともかく、やはり第26ページの「2 違法・有害情報を排除するための自主的な取組への支援」内の、
第5-2-① インターネット・ホットラインセンターの体制強化等の推進(第26ページ)
インターネット上に氾濫する違法・有害情報により効果的に対応するため、インターネット・ホットラインセンターの体制を強化し、サイバーパトロールの民間委託等を推進するとともに、違法・有害情報の削除等の措置を講じるサイト管理者、サーバ管理者及び通信事業者に関する法的責任の負担軽減方策や自主的対応への支援の在り方について検討する。また、有害情報簡易通報システムの開発・実証等により、サイト管理者、インターネット関連事業者、NPO、利用者等が協力して、違法・有害情報を効率的に特定・選別できる環境の整備を図る。
というインターネットホットラインセンターの体制強化だけはいただけない。警察庁研究会提出パブコメでも書いたが、勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良いと私は考えているのである。
また、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(翻訳条文(pdf)、外務省の説明書(pdf)、外務省の解説HP)と、サイバー犯罪に関する条約(翻訳条文(pdf)、外務省の説明書(pdf))に関する話が、それぞれ第19ページと第28ページに載っている。
第3-4-⑥ 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に向けた法整備(第19ページ)
近年急速に複雑化・深刻化している国際組織犯罪に適切に対処するため、平成15年9月に発効した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約について、我が国においても、本条約の締結に伴う法整備を早期に完了させ、本条約の速やかな締結を目指す。第5-3-② サイバー犯罪に関する条約の締結に向けた法整備等の推進(第28ページ)
情報技術分野の急速な発達に伴い急増したサイバー犯罪に適切に対処するため、平成16年7月に発効したサイバー犯罪に関する条約について、我が国においても、法整備を早期に完了させ、速やかな締結を目指す。
国際組織犯罪防止条約は、Wiki(条約、共謀罪)にも書かれているように、共謀罪の創設などが絡み、サイバー犯罪条約は、2004年の日弁連の意見書にも書かれているように、人権保障の観点から、国民のプライバシーや通信の秘密に対する重大な制約となる危険性が大きい。これらの条約を締結するための法改正は内閣提出法案として、第159回国会に提出された後、第163回国会に再提出され、今なお継続審議中(概要(pdf)、要綱(pdf)、新旧対照条文(pdf)、理由(pdf)、法改正案(改め文pdf)、修正案1、修正案2、修正案3)である。これらの条約や法案への突っ込みも書き出すと切りがないのだが、これらについては、刑法の根幹に関わる話であり、プライバシーや通信の秘密などの国民の基本的な権利が危うくなる懸念が非常に強く、今のまま法案が通され、条約を締結するべきではないと私も考えている。
(2)知財関係項目
本来、このブログの主旨からすると、こちらの方がメインになるはずだが、第5ページには、模倣品・海賊版対策条約の話が出ている。
第1-4-⑤ 模倣品・海賊版対策の推進(第5ページ)
模倣品・海賊版の氾濫による知的財産の侵害を阻止し、消費者の安心・安全が損なわれることを防ぐため、「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」構想の早期実現に向けた取組を加速するとともに、「知的財産推進計画2008」(平成20年6月18日知的財産戦略本部決定)に基づき、外国市場対策の強化、水際及び国内での取締りの強化、国民の理解促進、官民連携体制の強化等を図る。また、国境を越えて氾濫するインターネットを利用した模倣品・海賊版については、国内の取締りを強化するだけでなく、海外の模倣品・海賊版の通信販売サイト等の取締りを強化するよう国際社会への働き掛けを推進する。
この条約に関しては、具体的な話が良く分からないので、何とも言えないところがあるのだが、知財本部への提出パブコメに書いたように、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項をこの条約に盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけてもらいたいということを、念のため、ここでも指摘しておきたいと思う。
(3)その他
知財はおろか、表現・情報規制とも関係なくなってしまうが、ついでに、他にも最近騒がれていることと関連していくつか目に付いた項目をピックアップしておくと、第14ページには、「2 新たな在留管理制度による不法滞在者等を生まない社会の構築」として、以下のような項目が並んでいる。
① 新たな在留管理制度の創設
② 円滑かつ厳格な出入国審査の実施
③ 入国・在留審査等に際しての日本語能力の考慮
④ 不法滞在者の摘発強化と退去強制の効率化
⑤ 不法滞在者等の排除のための新たな在留管理制度の効果的な運用
⑥ 不法入国等及びこれらを助長する犯罪等の取締り強化及び関係法令の整備
直接国籍法改正の話が書いてある訳ではないが、偽装認知をどう防ぐかということは法改正だけではなく法運用の問題でもあり、国籍法改正問題・在留管理制度問題に興味を持っている方は、ここにもパブコメを出しておいても良いのではないかと思う。
また、第22ページには、
第4-3-① 厳格な銃砲刀剣類行政の推進(第22ページ)
法制度の整備を含め、猟銃等の所持許可の厳格な審査及び不適格者の発見と排除を徹底するとともに、実包を含めた保管管理の適正化を図る。また、事故等を防止するため、所持者に対し、講習会等の機会を通じて、適切な使用、保管の指導を行う。さらに、厳格な銃砲刀剣類行政を推進する基盤を築くため、銃砲登録照会業務の高度化を図るとともに、銃砲刀剣類行政に携わる担当者の教育の充実等を図る。
と、銃砲刀類に関する法制度の整備の話が書かれ、さらに、知財の海賊でない本物の海賊対策について、第33ページに、
第6-7-② 海賊対策の強化(第33ページ)
従来からの東南アジア周辺海域における海賊対策に加え、近年のソマリア沖・アデン湾等の被害の状況等を踏まえ、これを抑止し取り締まるため、法制度上の枠組みの検討を含め、関係省庁が連携して各種対策を推進する。
という項目がある。それぞれ、ダガー規制問題や自衛隊海外派遣問題などについて関心がある方も、この計画へパブコメを出しておいて損はないだろう。
政府が山のように似たようなパブコメをロクな周知もなく極短期間で募集することにも怒りを覚えるが、安全な国を作ると称して、国民の基本的な権利まで危うくする不当な規制強化を押し進め、国をより危険にしようとして恬として恥じない天下り役人と寄生議員のやり口には、本当に憤りしか覚えない。
また、提出次第、私のパブコメはここに載せたいと思っている。
(11月26日の追記:模倣品対策条約に関する項目番号が間違っていたことに気がついたので訂正した:第1-1-⑤→第1-4-⑤。)
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