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2008年11月30日 (日)

第136回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その2:プロバイダーの責任制限範囲の拡大、検閲機関創設案、天下り先の第3者機関が定める標準的な違法情報対策の仕組み・技術・違法性の判断の押しつけ関連部分)

 前回に引き続き、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)(本文1)のパブコメ(12月17日〆切。総務省のリリース意見募集要領電子政府の該当ページinternet watchの記事参照。)の話である。

 細かな文章への突っ込みは全部まとめて後にするが、ひとまず大枠の方向性に関する部分を全て指摘して行こう。この違法・有害報告書案の「2.安心を実現する基本的枠組の整備」の「(1)安心ネット利用のための基本法制の整備等」で、検討されている案は、

  • プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大
  • 行政機関による措置制度
  • 自主的取組促進法制

の3つであるが、「プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」について勝手にニーズが少ないと断定したり、「行政機関による措置制度」と称して文字通りの検閲機関の創設を検討したり、「自主的取組促進法制」と称して、天下り先となるだろう第3者機関が定める違法情報対策の標準的な仕組み・技術・違法性の判断を広くプロバイダーに押しつけようとしていたりと、ここでも髄まで腐り切った総務省の厄人は天下り利権を拡大しようと有害無益な規制強化をねらって来ている

 「プロバイダー責任制限法の適用範囲の拡大」については、第31ページの「(b) 自主的取組を促進する法制等の在り方」・「a)プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」以下で、

 プロバイダ責任制限法の適用を社会的法益侵害情報に拡大し、プロバイダ等が、社会的法益を侵害する違法な情報だと考えて削除したところ、実はその情報は違法ではなかったという場合について、プロバイダ等において違法と信じるに足りる相当な理由があった場合には、削除したことによる発信者に対する損害賠償責任を制限するという方策が考えられる。
(脚注:なお、社会的法益侵害情報については、原則として権利を侵害された者が存在しないため、通常は当該情報を放置した場合における権利者に対する損害賠償責任の制限を検討する余地はない。)

と書いた上で、必要性・実効性について、

 この点、大手のプロバイダ等を中心に、既に自主的対応として違法情報の削除が進んでおり、プロバイダ責任制限法の適用拡大がなされても、それによって直ちに削除の件数が大幅に増えることは見込めないとの指摘がある。また、ガイドラインや約款に沿って送信防止措置をとっている限り、現実に発信者から損害賠償責任を問われる法的リスクはそれほど高くないことからか、プロバイダ責任制限法の適用を拡大すべきというニーズは多くない。さらに、プロバイダ責任制限法の適用を拡大して自主的な削除を促しても、インターネット・ホットラインセンターの削除要請にも応じずに違法情報を放置するようなプロバイダ等に対しては効果が限定されているとも考えられる。

と書いているが、そもそも、表現・情報の自由は民主主義の最重要の基礎であり、被害者を伴わない表現・情報に対する規制にほとんど正当化の余地はないのであり、そもそもここで社会的法益侵害と権利侵害という類型分けを使うこと自体不適切である。また、「権利侵害情報の例としては、名誉毀損情報、プライバシー侵害情報及び著作権や商標権を侵害する情報などがあり、社会的法益侵害情報の例としては児童ポルノ公然陳列罪、わいせつ物公然陳列罪(刑法第175条)、麻薬特例法違反、覚せい剤取締法違反など薬物関連法に係る情報などがある」(第18ページ)、「児童ポルノ関係の情報については、社会的法益侵害情報と整理されるが、被害児童が存在するため権利侵害の側面もある」(第24ページ)と、総務省が、勝手に児童ポルノ規制の法益を、実在の児童の権利侵害・実在の児童保護から、一般的な社会的法益とやらに勝手にすり替えようとしていることも決して看過できない

 この報告書では、プロバイダー責任制限法の適用範囲を拡大すべきとするニーズが多くないともしているが、意味不明の社会的法益侵害と権利侵害の区別による是非や発信者との関係での責任の問題だけを取り上げているから奇妙なことになるので、この問題において本当に重要なことは、第132回で書いたように、被侵害者との関係において、民事的な責任制限だけではなく、刑事罰リスクまで含め、明確なプロバイダーのセーフハーバーを作ることである。さらに言えば、今現在、動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕された「第(3)世界」事件の司法判断次第で、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあること、間接侵害事件や著作権幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、プロバイダー責任制限法によるセーフハーバーだけでは不十分であることを考えると、間接侵害や著作権幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定することが喫緊の課題であると私は考えている。

 また、当たり前の話だが、内閣官房への提出パブコメでも書いたように、サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官天下り検閲センターを廃止するとともに、法律によって明確に制約を受ける警察にきちんと取り締まりと削除要請ができる人員を確保することが検討されなくてはならない。

(第45~46ページで、アメリカのDMCAのノーティス&テイクダウン的制度に触れ、「なお、アメリカDMCAのように対象事件を著作権侵害など一定の事件に限定するという考え方はあり得るが、違法情報の中の特定の一分野に関してのみ、他との均衡を崩してまで特別な扱いをすることを正当化するには相応の立法事実が求められること、我が国には通知の濫用に対する制度的な担保がないことから、一定の事件に限定するとしても直ちに導入することは困難と思われる。」と総務省は勝手に否定的な見解を述べているが、別にアメリカのノーティス&テイクダウン制度をそっくりそのまま日本に輸入しなければならない理由もなく、上であげた「ブレイクTV」事件や「第(3)世界」事件を考えても、著作権について特に早急に手当をしておくべき十分な立法事実があると私は考えている。)

 また、「行政機関による措置制度」については、第33ページの「b)行政機関による措置制度」以下で書かれているが、特にその制度イメージは、

行政機関の登録を受けた民間の機関が、一般国民からの通報等を端緒としてインターネット上の情報について違法と判断した場合、当該情報に係るプロバイダ等に対してその旨を伝え、送信防止措置をとるよう依頼する。
行政機関の登録を受けた民間の機関から送信防止措置依頼を受けたプロバイダ等が依頼に応じない場合、同機関の申し出により、行政機関が、必要に応じて法所管大臣に規定の解釈について照会したり、警察に送信防止の当否について照会したりしつつ、申出に係る情報が法令に違反するかどうかを判断し、当該プロバイダ等に対して、違法情報が蔵置されている旨を通知する。
上記②の行政機関からの通知を受けた者が送信防止措置をとらない場合には、行政機関はその者に送信防止措置をとるよう勧告、命令するなど何らかの措置をとる。この勧告・命令を受けた管理者は、技術的に可能な場合には、その勧告、命令に係る違法情報につき、一定期間内に送信防止措置を講ずる義務を負う

と書かれているが、これは、ほとんど青少年ネット規制法案の初期案の悪夢を彷彿とさせる、行政主導の検閲機関創設案である。さすがにこの案については否定的な見解も多く書かれているが、そもそも、このような問題が大き過ぎる検閲機関創設案が、役所で検討されること自体異常なことと思わなくてはならない。

前回も書いたが、特に、第34ページの脚注で憲法上の検閲の禁止について、過去の最高裁の判決を引いてあたかも狭く解釈ができるかの如きことが書かれているが、学説上は必ずしもそのような狭い解釈が取られている訳ではなく、この最高裁判決自体、昨今のインターネットの普及を踏まえたものでなく今日もなお通用するかどうか怪しいものである。今日ではインターネット上でしか発表・流通の機会を持たない表現物が既に多く存在しているのであり、例え事後規制だろうと、そのような表現物の発表・流通を完全に抑制しかねない規制は、やはり検閲に該当すると考える方が妥当だと私は考えている。)

 そして、「自主的取組促進法制」と称して、第36~47ページ、「c)自主的取組にインセンティブを与える形での責任制限等の方策」以下で、総務省は有害無益な規制強化案を延々とこねくり回している。この部分に書かれていることは本当に理解不能であり、到底読むに耐えないのだが、第36~47ページで総務省の役人が言いたいだろうことを推し量って掻い摘むと、その案は、総務省言うところの「社会的法益侵害」について発信者との関係で責任制限の範囲を拡大する替わりに、自主的な取組と称して、アクセスログの保存、違法情報対策に関する標準的な仕組み・技術、天下り先の第3者機関による違法性の有無の判定を広くプロバイダーに押しつけることにあるようである。

 上で「a)プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」の内容について書いたことをここでもう一度繰り返すことはしないが、「a)プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大」では、発信者の関係で責任制限範囲を拡大するニーズがないとしながら、ここでは、発信者との関係のみで責任範囲を拡大することがインセンティブになるとしているところなど、総務省の役人の考えは心底理解に苦しむ。また、現行のプロバイダー責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)でも、プロバイダーが、侵害の事実を知りながら、技術的に可能であるにも関わらず不特定の者に対する送信防止措置を取らなけらない場合、その責任追求を免れないのであり、被侵害者との関係で、違法な情報を放置した場合に、現行法よりも責任追及を容易にするとしている点も全く理解不能である。(この容易化措置は、あまりにも理解不能であるため、要点として考えることすらできなかった。)

 プロバイダー責任制限の要件に、権利侵害とは無関係な行政あるいは第3者の関与をもたらすような要件を追加することは、有害無益かつ危険な規制強化にしかならない。「自主的」と称するやはりごまかしの言葉に騙されてはいけない。違法情報対策に関する標準的な仕組み・技術の導入を要件とした途端、その仕組みや技術の認定に天下り先となる第3者機関が必ずしゃしゃり出て来、結局天下り利権の強化・税金のムダな浪費の拡大・技術の発展の有害無益な阻害にしかつながらないのである。表現の自由・検閲の禁止等々との関係から、天下り先の第3者機関による違法性の有無の判定を法律でプロバイダーに押しつけることなど断じて許されないことである。

 アクセスログの保存も、プロバイダー責任制限の文脈の中で語られるべきスジの話ではない。アクセスログの保存は、それ自体で別途きちんと検討されなくてはならない話である。

 最後の結論でも、

(d) 結論 自主的取組を促進する法制の在り方についての考え方
 社会的法益侵害情報については、法制度こそ存在しないものの、違法情報ガイドラインやモデル条項等の策定及びホットラインセンターの活動等を通して自主的取組の体制が整備されてきており、ホットラインセンターの削除依頼に対する応答率も相当高いものとなっている。また、今後の更なる自主的取組の進展も期待される。

 もっとも、自主的取組についても、違法性判断の困難性や法的責任の不明確性など法制度上の課題が全くないわけではなく、自主的取組を法制面からさらに後押しするという観点から、現行法制度の見直しについて検討する余地はあると考えられた。そこで、まず、①プロバイダ責任制限法の適用範囲の拡大、②行政機関による措置制度の2つの方策につき検討したところ、①については、導入にあたっての課題は少ないが、必要性、実効性の点でなお検討の余地があり、②については、法的に整理を要する点や運用上の問題など導入にあたって解決すべき課題が多い一方で、自主的取組の現状と今後の更なる進展を考慮すれば、同制度の必要性については慎重に見極めるのが相当と思われた。
ここで、第三の方策として③自主的取組促進法制という方策が考えられるところ、過度の法的規制を避けつつ、自主的対応にインセンティブを与え、不適切な管理をするプロバイダ等の責任を問いやすくするという考え方は、自主的取組を法制面から支援する方策として、基本的には望ましい方向性を持っているといえるが、理論的根拠・正当性、対象の範囲、要件の具体的内容など検討すべき課題は多岐にわたり、議論も必ずしも十分に深まっていないことから、今後、現実に法制化が可能かどうかも含め十分な検討が不可欠であり、今後の議論が待たれる

 以上より、当面は、自主的取組の進展及びその成果を見守りつつ、③の方策の具体的検討を含めて各種法的措置に関わる課題につき議論を深めていくことが、2011 年度までに、青少年インターネット利用環境整備法関連の取組の評価が行われるまでの間、取り組むべきことと考えられる。

と、天下り先の第3者機関による、違法情報対策に関する標準的な仕組み・技術・違法性の有無の判定のプロバイダーへの押しつけに、総務省は並々ならない執着心を示している。腐り切った総務省の役人の危険な規制強化へのとどまるところのない欲望に対する怒りを描写するに足る言葉はもはや存在しないくらいである。

 この部分についても、論外の検閲機関創設案に反対するとともに、「社会的公益侵害」・「権利侵害」という意味不明の区別を用いた検討を白紙に戻し、プロバイダー責任制限法に関し、被侵害者との関係において、刑事罰リスクも含めたプロバイダーの明確なセーフハーバーについて検討するべきと、特に、著作権侵害については、最近の事件から考えて、間接侵害や著作権侵害幇助罪まで含めて、著作権法にきちんとした明確なセーフハーバーが早急に作られるべきと、さらに、そのセーフハーバーの要件において、標準的な仕組み・技術や違法性の有無の判断を押しつけるような、権利侵害とは無関係の行政なり天下り先となる第3者機関なりの関与を必要とすることは、表現の自由の不当な侵害につながり、税金のムダな浪費と技術の発展の阻害につながるだけの危険かつ有害無益な規制強化であり、絶対にあってはならないことであると釘を刺しておく必要があると私は思っている。

 突っ込みどころはまだまだ尽きないので、次回もこの報告書についてである。

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2008年11月29日 (土)

第135回:総務省・「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)に対するパブコメ募集(その1:児童ポルノ規制関連部分)

 次から次へと危険極まりない話が出てくるのは本当にどうにかして欲しいと思うが、今度は総務省から、12月17日〆切で、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」最終取りまとめ(案)(本文1)に対するパブコメの募集がかかった(総務省のリリース意見募集要領電子政府の該当ページinternet watchの記事)。(内閣官房の犯罪計画案よりは長いが、パブコメ期間についてはおよそ20日間とやはり短いので注意が必要である。)

 この総務省の違法・有害報告書案は、危険度において、内閣官房の犯罪計画案に劣らないどころか、それを上回り、しかも、あまりにも長い上、随所に理解不能の論旨の混乱が見られ、ほとんど読むに耐えないというという非道極まるものである。そのため、ページ順に指摘して行くと訳が分からなくなるので、この報告書案についてはエントリを分けて、各論点毎に問題点を指摘して行きたい。最初に、今回は、今一番危険性が高いと考えられる児童ポルノ関連の記載についてである。

 まず、2.安心を実現する基本的枠組の整備中の第23~24ページの「(1)安心ネット利用のための基本法制の整備等」「3)自主的取組を促進する法制の在り方」で、

 主要な社会的法益侵害情報のうち、児童ポルノ公然陳列については、海外から対策を求める声が上がっており、国会においても児童ポルノ禁止法改正案が提出され、警察庁も2008年度の総合セキュリティ対策会議の検討課題として「インターネット上での児童ポルノの流通に関する問題とその対策」を取り上げるなど国内外で問題意識の高まりがみられる。児童ポルノ関係の情報については、社会的法益侵害情報と整理されるが、被害児童が存在するため権利侵害の側面もあることから、他の類型の社会的法益侵害情報と比較して、緊急に対処する必要性が高い場合が少なくないとの指摘もある

と根拠なく規制強化のニーズを騙り(海外からの声として、根拠のない米シーファー大使の発言など持ってくるあたりタチの悪さの極みである)、第25ページで、

 なお、社会的法益侵害情報といっても類型ごとに緊急性や問題性の度合いや内容は様々であり、社会的法益侵害情報全般でなく、例えば児童ポルノのような優先度の高いと考えられるものについて個別の対処を検討するという考え方もありうるのではないか

と一方的に児童ポルノ規制強化を正当化している点も看過できないが、具体的な児童ポルノ対策について書かれている3.民間における自主的取組の促進「(2)児童ポルノの効果的な閲覧防止策の検討」の内容と来たら、ほとんど狂っているとしか思われない記載のオンパレードである。

 まず、3の「(2)児童ポルノの効果的な閲覧防止策の検討」の第91ページ以下の前置きで、批准未了のサイバー犯罪条約(そもそも、児童ポルノの所持等に関しては留保条項もある)や欧米諸国の狂った規制のみを例に挙げ、内閣府の印象操作調査を引き、インターネット・ホットラインセンターにおける通報件数のみを使って日本における児童ポルノ事件数が多いかの如き印象操作を行っていることからして到底許せるものではないが、第92~93ページの、

1)現在の児童ポルノに対する取組
 インターネット上に児童ポルノ画像等をアップロードすることは、我が国の法律上児童ポルノ公然陳列罪(児童ポルノ規制法第7条第4項)に該当する犯罪行為であり、警察が当該行為者を検挙することが最も根本的な対策であることはいうまでもない。しかしながら、被害児童保護の見地からは、行為者の検挙と併せて、インターネット上での児童ポルノ情報の流通・拡散を可能な限り抑止することも重要である。

 インターネット上の児童ポルノ情報の流通・拡散の抑止という見地からは、アップロードされている情報を削除することが最も確実である。この点、これまで述べたとおり、児童ポルノ情報を含む社会的法益を侵害する違法な情報に対しては、違法情報ガイドラインやモデル条項の策定及びインターネット・ホットラインセンターの活動などを通して、プロバイダ等による自主的な削除が進められており、相応の成果を上げているところである。しかしながら、プロバイダ等による自主的な削除は、基本的に日本国内に存在するサーバに蔵置されている情報に限られ、海外のサーバに蔵置されている児童ポルノ情報については対応が困難である。上述のとおり、インターネット・ホットラインセンターに通報のあった児童ポルノ情報の約3分の1が海外のサーバに蔵置されていたことを考えれば、この点は大きな課題といえる。

 アップロードされた児童ポルノ情報を削除することの他に、ユーザーが閲覧できないようにすることによっても児童ポルノ情報の流通・拡散を抑止することが可能であるところ、大手のISPでは、閲覧防止の手段としてユーザーに対してフィルタリングサービスを提供している。フィルタリングとは、ユーザーがあるサイトにアクセスしようとする場合に、ユーザー側のハードやISP側の通信設備に設定されたフィルターにおいて、ユーザーからリクエストのあったURLと予め作成されている閲覧規制リストとを照合し、規制対象に該当する場合には、接続を拒否するという仕組みである。使用される規制リストについては、専門の業者が収集・分類して作成する方式が一般的であり、児童ポルノ情報についても、いわゆるアダルト系の情報の一内容として閲覧規制リストに載せられているのが通常である。規制リストは日々更新されてISPやユーザーに提供されている。

 この手法によれば、閲覧規制リストにさえ載せれば海外のコンテンツにも対応可能であり、また、閲覧規制リストに抵触するもののみ接続を拒否するものであるから、閲覧規制リストが正確である限り、問題のない情報まで接続拒否されるおそれは少ない。

 他方、通信の宛先をISPなどの媒介者が照合することになるので、通信の秘密と抵触するおそれがあり、利用に当たってはユーザーによる設定又は同意を前提とせざるをえない。そのため、児童ポルノ情報の閲覧を望まず、フィルタリングサービスを自ら設定し又は使用に同意するユーザーに対しては抑止効果があるが、児童ポルノ情報の閲覧を希望し、積極的にインターネット上の児童ポルノ情報を探索するようなユーザーは、フィルタリングサービスを提供されても利用も同意もしないのが通常と思われ、こうしたユーザーに対する抑止効果は期待できないという欠点を持つ。

 フィルタリング以外の閲覧防止策としては、検索エンジンを提供するプロバイダの画像検索におけるセーフサーチの機能がある。これは、画像検索において、ポルノ画像など一定の画像を自動的に解析するなどの方法で検出し、検索結果から除外するという手法であり、検索エンジンでは標準設定とされている場合が多い。この手法によれば、国内外を問わず、ポルノ画像として検出されれば検索結果に現れないため、アクセスがしづらくなり、情報流通を抑制する効果がある。しかし、フィルタリングと同様にセーフサーチ機能を利用するかどうかはあくまでもユーザーの意思に委ねられており、標準設定で適用されることとしていても、ユーザーが適用をオフにすれば機能しなくなるから、やはり閲覧を希望するユーザーに対しての抑止効果は期待できない

 このように、現在でも、さまざまな児童ポルノ対策の取組みがなされているが、現行の取組みは、海外のコンテンツへの対応が困難であり、ユーザーの設定や同意を必要とするため積極的に児童ポルノの閲覧を希望するユーザーに対する抑止効果が限定的であるといった課題を抱えている

という記載に至ってはもはや絶句するしかない。総務省は、ロリコンを思想犯罪化し、国民の情報・表現・思想等々の最も基本的な精神的自由と安全を脅かすと宣言して来たのだ。ここで、拡散・流通といった姑息な言葉による見え透いたごまかしに騙されてはいけない。内閣官房へのパブコメでも書いたし、何度も繰り返して来たことだが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ないのである。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ること自体、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。海外サーバーの児童ポルノコンテンツについても、児童ポルノの提供が罪になっていない主要国もないのであろうから、日本の警察なりが海外の捜査機関に協力すれば良いだけの話である。例え児童ポルノだろうが、新たな思想犯罪を作り、国民の情報・表現・思想等々の最も基本的な精神的自由と安全を脅かす理由には全くならない。

 さらに、第93ページ以下の「2)海外における児童ポルノ対策の現状」で狂ったキリスト教欧米諸国の規制のみを取り上げた上で、第96ページ以下の「3)今後とりうる手法」において、ブロッキングについて、

 DNSポイズニング方式、ハイブリッドフィルタリング方式のいずれも、今後の児童ポルノ情報の閲覧防止策として期待の持てる手法といえるが、どちらの方式にも一長一短あり、それぞれに解決すべき課題を抱えている。それらの課題の具体的な解決策については、今後の議論を待つ必要があるが、DNSポイズニング方式におけるオーバーブロッキングの点は、例えば特に悪質な児童ポルノ関係サイトに限定してブロックするなど、運用上の工夫によりある程度回避することが可能ではないかと考えられる。又はイブリッドフィルタリング方式については、現状では通信の秘密との関係の整理は容易ではないが、児童ポルノの単純所持が違法化される法改正の動向によっては、整理できる可能性もある

 なお、別の視点として、適法なサイトやファイルが誤ってブロッキングの対象となってしまった場合の扱いについても併せて考えておく必要がある。現行法の「児童ポルノ」の定義については、個別の事例において該当するか否かの判断が難しいという指摘がなされている。「児童ポルノ」の定義については立法措置等により可能な限り明確化・客観化が図られることが望ましいが、児童ポルノか否か判然としないコンテンツの出現は不可避であり、誤って適法な情報がブロッキングの対象となる事態は起こりうる。しかも、ブロッキングの対象とされた場合でも、自分のサイトがブロッキング対象となっているかどうかは、当然に知りうるわけではない。そのため、自分のサイト等がブロッキングされているかどうかを知りうる手段を用意するとともに、ユーザーからの反論を受け付け、必要に応じて規制対象リストから除外できるようにする仕組みが必要になると考えられる

と勝手に肯定的に評価し、検閲に該当するとしか思えないブロッキングの導入を既定路線としようとしている点も度し難い。総務省なり警察庁なりの下心はブロッキングサイト指定機関への天下りにあるのだろうが、総務省なり警察なり天下り先の検閲機関・自主規制団体なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことである。例えそれが何であろうと、情報の単純所持や単なる情報アクセスではいかなる被害も発生し得えないのであり、自主的な取組という名目でいくら取り繕おうとも、憲法に規定されている表現の自由(知る権利・情報アクセスの権利)や通信の秘密、検閲の禁止と言った国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないブロッキングもまた導入されてはならない規制の一つである。

(なお、第34ページには、憲法上の検閲の禁止について、過去の最高裁の判決を引いてあたかも狭く解釈ができるかの如きことが書かれているが、学説上は必ずしもそのような狭い解釈が取られている訳ではなく、この最高裁判決自体、昨今のインターネットの普及を踏まえたものでなく今日もなお通用するかどうか怪しいものである。今日ではインターネット上でしか発表・流通の機会を持たない表現物が既に多く存在しているのであり、ブロッキングのような規制は、例え事後規制だろうと、そのような表現物の発表・流通を完全に抑制しかねないものであり、やはり検閲に該当すると考える方が妥当だと私は考えている。)

 そして最後に、第99~100ページで、このような破綻した論理展開の帰結として、

4)今後のインターネット上の児童ポルノ情報対策の方向性
 インターネット上の児童ポルノ情報についての対策としては、インターネット上に児童ポルノ情報をアップロードした者を検挙することが最も根本的な対策であり、また、流通・拡散の抑止の観点からは当該情報を削除することが最も確実な対策であるから、これらの方策の必要性はいささかも減じておらず、引き続き、警察による取締り強化とプロバイダ等による自主的な削除の促進が求められる。

 フィルタリングなど現在とられている閲覧防止策についても、更なる普及の促進と性能の向上を図る必要があるところ、フィルタリングの性能向上にあたっては、閲覧規制リストの精度の向上が重要である。現在、閲覧規制リストは個々のISPやフィルタリング事業者単位で作成しているが、精度の更なる向上のためには、事業者同士のほか、児童ポルノ問題に取り組んでいる国内外の団体、警察などの行政機関との連携を強め、情報の共有を図っていくことが不可欠である。

 また、ブロッキングについては、今後の閲覧防止策として期待できるものであるが、解決すべき課題を抱えている。ブロッキングを実効性と実現可能性を兼ね備えた方策とするためには、今後、海外における運用実態の調査研究をしつつ、これを踏まえて課題の解決方法について検討を深めること、趣旨に賛同するISPの協力を得て実証実験等を実施し、実際の効果や弊害を測定すること等の作業が不可欠である。

 今後、これまでも述べてきた民間の自主的取組を進める産学連携の新たな組織に、児童ポルノ情報対策を進める枠組みを設け、これに警察、総務省などが協力して検討を行っていくことが望ましい。できれば本年度中に、具体的な作業部会等を設置し、必要な調査を進めながら、2009 年度中には、例えば、実証事業への着手など、次のステップに進めるよう、関係者間で協力すべきである。

非常に危険な方向性を示しており、この違法・有害報告書案のパブコメにも、児童ポルノ対策については今以上の規制は必要ないこと、特に単純所持規制・創作物規制のような情報・表現に関する国民の基本的な権利を侵害する危険な規制は導入するべきでないこと、やはり情報・表現に関する国民の基本的な権利を侵害するものとならざるを得ないブロッキングについても、その実証実験すらするべきではないこと等の意見を出す必要があると私は思っている。

 既に「チラシの裏(3週目)」で突っ込まれている通り、「児童の性的搾取に反対する世界会議」が児童ポルノの閲覧まで犯罪化しろという狂った魔女狩り宣言をまとめようとしているなど、児童ポルノ規制関係は、今非常に危険な状態にあり、まずは、児童ポルノ関連部分を取り上げたが、この総務省の違法・有害報告書案は、全て白紙に戻して検討し直すべきだと思うくらい危険な点が山盛りなので、次のエントリも引き続きこの報告書案の話をする。

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2008年11月27日 (木)

第134回:内閣官房・「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対する提出パブコメ

内閣官房の「「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対して意見を提出したので、ここに載せておく。

(以下、提出パブコメ)

1.氏名及び連絡先
氏名:兎園(個人)
連絡先:

2.概要
(1)児童ポルノを理由とした新たな規制、特に単純所持規制・創作物規制の検討に反対する。
(2)青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正を求める。
(3)インターネット・ホットラインセンターの廃止を求める。
(4)国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の締結のための法改正案に反対するとともに、これらの条約の締結に反対する。
(5)模倣品・海賊版拡散防止条約の検討において、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項をこの条約に盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけることを求める。
(6)各種の重要政策に関するパブコメについて、必ず、十分な周知策と、最低でも1ヶ月ほどの期間を取るようにしてもらいたい。今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。

3.意見及び理由
(1)児童ポルノ規制について
意見:
 児童ポルノを理由とした新たな規制、特に単純所持規制・創作物規制の検討に反対する。
 特に、児童ポルノに関して新たな規制は必要なく、第6ページの項目「第1-5-③ 児童ポルノ対策等の推進」中の「新たな規制を検討する」という記載を削除するべきである。もし検討に関する記載を残すのであれば、現行でも広すぎる児童ポルノの定義の厳格化のみを検討するとするべきである。

理由:
 児童ポルノ規制の推進派は常に、提供による被害と単純所持を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で、ネット上であるか否かにかかわらず、提供及び提供目的の所持まで規制されているのであり、提供によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ない。
 同じく推進派は「性的好奇心を満たす目的で」等の精神的要件で単純所持が限定できるとしきりに繰り返すが、一人しか行為に絡まない、個人的な情報の所持や情報アクセスに関する限り、「性的好奇心を満たす目的で」、「みだりに」などの精神的要件は、エスパーでもない限り、証明も反証もできないものであり、法律上の要件として客観性を全く欠き、恣意的な運用しか生みようがない危険極まりないものである。このような情報の単純所持規制の危険性は回避不能であり、罪刑法定主義にも反する。閲覧とダウンロードと所持の区別がつかないインターネットにおいては、例え児童ポルノにせよ、情報の単純所持規制はすることは有害無益かつ危険なもので、憲法及び条約に規定されている「知る権利」を不当に害するものである。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報所持・情報アクセスに関する情報を他人が知ることは、通信の秘密や情報アクセスの権利、プライバシーの権利等の基本的な権利からあってはならないことである。
 また、アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現に対する規制対象の拡大は、児童保護という当初の法目的を大きく逸脱する、異常規制に他ならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現において、いくら過激な表現がなされていようと、それが現実の児童被害と関係があるとする客観的な証拠は何一つない。いまだかつて、この点について、単なる不快感に基づいた印象批評と一方的な印象操作調査以上のものを私は見たことはないし、虚構と現実の区別がつかないごく一部の自称良識派の単なる不快感など、言うまでもなく一般的かつ網羅的な表現規制の理由には全くならない。アニメ・漫画・ゲームなどの架空の表現が、今の一般的なモラルに基づいて猥褻だというのなら、猥褻物として取り締まるべき話であって、それ以上の話ではない。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ない。民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくすることは絶対に許されない。
 単純所持規制にせよ、創作物規制にせよ、両方とも1999年当時の児童ポルノ法制定時に喧々囂々の大議論の末に除外された規制であり、規制推進派が何と言おうと、これらの規制を正当化するに足る立法事実の変化はいまだに何一つない。極めて危険な単純所持規制を含む上、創作物規制などさらなる規制強化の含みすら持たせてある、現国会で継続検討中の、与党から提出されている児童ポルノ規制法改正案は、速やかに廃案にされるべきである。
 警察なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことであり、憲法で禁止されている検閲に該当するブロッキングのような規制も導入されるべきではない。
 児童ポルノ法に関しては、既に、提供・販売、提供・販売目的での所持が禁止されているのであるから、本当に必要とされることは今の法律の地道なエンフォースであって有害無益な規制強化の検討ではない。児童ポルノ規制法に関して検討すべきことがあるとしたら、現行ですら曖昧な児童ポルノの定義の厳密化のみである。

(2)青少年ネット規制法及び出会い系サイト規制法について
意見:

 青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正を求める。
 特に、第6ページの項目「第1-5-④ 少年を取り巻く有害環境の浄化」において、青少年ネット規制法の運用に関し、政府全体で規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強めると明記し、出会い系サイト規制法の運用について、「インターネット異性紹介事業」の定義を、サイトの運営方針及びシステムから出来る限り客観的に判断し、この法律を別件逮捕のツールとしないと明記するべきである。
 また、第25ページの項目「第5-1-② インターネット上の有害情報から青少年を守るための対策の推進」中の、基本的な計画について、きちんと十分な期間を取ってパブコメにかけてもらいたい。
 そして、第26ページの項目「第5-1-④ 違法・有害情報への対応の検討」において、制定・改正経緯におけるきちんとした立法事実の無検討・憲法違反の看過を踏まえ、青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の法改正前の形への再改正の検討を速やかに行うと明記するべきである。

理由:
 そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。去年から今年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立した今の青少年ネット規制法による規制は、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、次の法改正の検討時には速やかに法律の廃止が検討されるべきである。
 また、出会い系サイト規制法の改正は、警察庁が、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、改正法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したものであり、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされて可決され、成立したものである。憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
 特に、青少年ネット規制法の規制は、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、政府全体で、特に公正取引委員会において、規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強めるべきであり、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用が検討されるべきである。出会い系サイト規制法は、その曖昧さから別件逮捕のツールとして使われ、この制度によって与えられる不透明な許認可権限による、警察の出会い系サイト業者との癒着・天下り利権の強化を招く恐れが極めて強い。これらの危険な法律の運用については慎重の上に慎重が期されるべきである。
 政府与党にあっては今までの行いを猛省し、法律の廃止・元の形への再改正の検討とともに、ネットにおける各種問題は情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきものという基本に立ち帰り、主として、第26ページの項目「第5-1-③ 情報モラル教育及び広報啓発活動の推進」に記載されていることに注力してもらいたい。

(3)インターネット・ホットラインセンターについて
意見:

 インターネット・ホットラインセンターの廃止を求める。
 特に、第26ページの項目「第5-2-① インターネット・ホットラインセンターの体制強化等の推進」中、「インターネット・ホットラインセンターの体制を強化し、サイバーパトロールの民間委託等を推進する」という記載を削除するべきである。もしインターネット・ホットラインセンターに関する記載を残すのであれば、その廃止を検討するとするべきである。

理由:
 サイト事業者が自主的に行うならまだしも、何の権限も有しないインターネット・ホットラインセンターなどの民間団体からの強圧的な指摘により、書き込みなどの削除が行われることなど本来あってはならないことである。このようなセンターは単なる一民間団体で、しかもこの団体に直接害が及んでいる訳でもないため、削除を要請できる訳がない。勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良い。
 インターネットホットラインセンターは警察庁からの受託金収入で運営されているとの話もあり、無駄な天下り団体として税金の浪費になっている可能性が高い。このような無駄な半官検閲センターに国民の血税を流すことは到底許されないのであって、その分できちんとした取り締まりと削除要請ができる人員を、法律によって明確に制約を受ける警察に確保するべきである。

(4)国際組織犯罪防止条約・サイバー犯罪条約及びこれらの締結に必要な法改正について
意見:

 現時点で国会に提出されている、国民の基本的な権利に対する致命的な問題を抱えていると考えられる、国際組織犯罪防止条約及びサイバー犯罪条約の締結のための法改正案に反対するとともに、やはり国民の基本的な権利に対する致命的な問題を抱えていると考えられる、これらの条約の締結に反対する。
 特に、第19ページの項目「第3-4-⑥ 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に向けた法整備」、第28ページの項目「第5-3-② サイバー犯罪に関する条約の締結に向けた法整備等の推進」の両項目は削除するべきである。もしこれらの条約及び法改正に関する記載を残すのであれば、憲法に規定されている国民の基本的な権利との関係から、現時点で国会に提出されている法改正案については廃案とすることを検討し、日本としてこれらの条約の締結をしないことを検討するとするべきである。

理由:
 国際組織犯罪防止条約の締結には、共謀罪の創設が必要とされているが、現状でも大規模テロなどについてはすでに殺人予備罪があるので共謀罪がなくとも対応でき、その他、個別の立法事実があればそれに沿った形で個別の犯罪についての予備罪の適否を論ずるべきであって、広範かつ一般的な共謀罪を創設する立法事実はない。実行行為に直接つながる行為によって、法益侵害の現実的危険性を引き起こしたからこそ処罰されるという我が国の刑法学の根幹を揺るがすものである共謀罪は、決して導入されてはならない。組織要件の厳密化にしても、今現在国会に提出されている修正案のような、その目的や意思のみによる限定は客観性を全く欠き、やはり恣意的な運用しか招きようのない危険なものである。このような危険な法改正を必要とする国際組織犯罪防止条約は日本として締結するべきものではない。
 サイバー犯罪条約は、通信記録や通信内容等の情報の保全・捜索・押収・傍受等について広範かつ強力な手段を法執行機関に与えることを求めているが、このような要請は、我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものであり、この条約も日本として締結するべきものではない。現国会に提出されている法改正案中でも、差し押さえるべき物がコンピューターである場合には、このコンピューターと接続されているあらゆる記録媒体とそこに記録されている情報を差し押さえ可能であるとされているが、昨今のインターネットの状況を考えると、差し押さえの範囲が過度に不明確になる懸念が強く、裁判所の許可無く捜査機関が通信履歴の電磁的記録の保全要請をすることが出来るとしている点も、捜査機関による濫用の懸念が強く、このような刑事訴訟法の枠組みの変更は、通信の秘密やプライバシー、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がない限り、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利、といった我が国の憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くものと私は考える。また、ウィルス作成等に関する罪についても、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える」電磁的記録という要件は、客観性のない人の意図を要件にしている点でやはり曖昧に過ぎ、このような客観性のない曖昧な要件でウィルス作成等に関する刑罰が導入されるべきではない。
 現国会でも継続審議とされているが、このように危険な点が多く含まれている法改正案は廃案とするべきであり、留保・解釈を最大限に活用しても、憲法に規定されている国民の基本的な権利に対する致命的な侵害を招くことになるだろう、これらの条約は、日本として締結するべきものではない。

(5)模倣品・海賊版拡散防止条約について
意見:

 模倣品・海賊版拡散防止条約の検討において、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項をこの条約に盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけることを求める。
 特に、第5ページの項目「第1-4-⑤ 模倣品・海賊版対策の推進」にこのことを明記するべきである。

理由:
 そのような条項がよもや真面目に検討されることはないと思うが、どこかの国が、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設することといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項をこの条約に入れるよう求めて来る懸念がある。そのような非人道的な条項の検討による有害無益な混乱を避けるため、そのような条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけてもらいたい。

(6)報告書全体・パブコメそのものについて
意見:

 各種の重要政策に関するパブコメについて、必ず、内容に関する十分な周知策と、最低でも1ヶ月ほどの期間を取るよう政府は厳に自戒してもらいたい。
 今後は、恣意的な運用しか招きようのない危険な規制強化の検討ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。

理由:
 上で述べたように、このように危険な検討項目を多く計画に書き込み、その内容に関して十分な周知もしないままに、11日間という短期間でパブコメを終了し、その方向性を既成事実化しようとしたことは、あまりにも国民をないがしろにしており、到底許せるものではなく、私は、一国民として政府のこのような行為に対する猛省を求める。今後は、各種重要政策に関する計画について、必ず、その内容について十分な周知策が取られるとともに、最低でも1ヶ月ほどのパブコメ期間を取るよう、政府は厳に自戒してもらいたい。
 今後は、政府において、この計画において私が指摘した項目における検討のような、恣意的な運用しか招きようのない危険極まりない規制強化の検討ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。
 最後に、「頂いたコメントを重く受け止めて推進する」などという官僚の遁辞を私は求めているのではないと、この意見中で反対すると書いた点については、その方向性に完全に反対しているのだと念を押しておく。

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2008年11月23日 (日)

第133回:内閣官房・「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対するパブコメ募集(11月28日〆切)

 内閣官房が「犯罪に強い社会の実現のための新たな行動計画(仮称)」(案)に対するパブコメを11月28日〆切で募集している(内閣官房のリリース本文(pdf)電子政府の該当HP)。

 既に、「表現の数だけ人生が在る」や「王様を欲しがったカエル」、「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)2つめの関連エントリ)」、「チラシの裏(3週目)」、「カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの虚業日記」等でも取り上げられており、重なるところもあるが、このパブコメもまた政府に対して意見を言う重要な機会の一つと思うので、ここでも取り上げたいと思う。(taffy様、情報ありがとうございます。)

 この11日間という短期間で国民の意見を聞いたことにする姑息さもさることながら、その内容は、平成15年当時の「犯罪に強い社会の実現のための行動計画(pdf)」と比べても格段に危険な項目が増えている。対応会議は犯罪対策閣僚会議開催状況)となっているが、内容のメインライターは警察庁だろう。危険な規制強化を主導しているのが警察そのものであることに、不安は募るばかりである。

(1)表現・情報規制関係項目
 まず、第6ページに、以下のような児童ポルノ規制法に関する記載がある。(以下、全て赤字・強調は私が付けたもの。)

第1-5-③ 児童ポルノ対策等の推進(第6ページ)
 最新の技術を駆使した児童ポルノ事犯に対処するため、国際的な動向を踏まえ、捜査に携わる警察職員の技能水準の向上、体制や資機材の強化を図るとともに、インターネットを介して売買される児童ポルノの根絶を図るため、買受捜査を一層強化する。また、児童ポルノの排除に向けた国民運動を展開するとともに、国民の意識調査や諸外国の規制調査等を行い、児童ポルノに対する新たな規制について検討する

特に、児童ポルノに対する新たな規制について検討するとされていることは度し難い。児童ポルノについて新たな規制は必要ないのであり、ここについては、単純所持規制・創作物規制に対する反対とともに、新たな規制の検討をしないようにすること、かえって必要なことは児童ポルノの定義の厳格化であると釘を差しておきたい。

 また、同第6ページと、第25~26ページには、フィルタリング義務化を軸とする青少年ネット規制法や出会い系サイト規制法に関する以下のような言及がある。

第1-5-④ 少年を取り巻く有害環境の浄化(第6ページ)
 「青少年の非行問題に取り組む全国強調月間」や「全国青少年健全育成強調月間」において、「有害環境の浄化」を重点項目の一つとして、関係機関・団体と地域住民等とが相互に協力・連携を図りつつ各種取組を進めるとともに、有害環境の浄化を図るなどの各種取組を集中的に実施するよう広報・啓発活動を実施する。また、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律に基づく取組を推進するとともに、出会い系サイトその他のサイトの利用に起因する児童の犯罪被害を防止するため、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律の効果的な運用及びサイト事業者による自主的な取組を推進する。さらに、フィルタリング事業者、保護者等に対する犯罪情報の提供を促進する

第5-1-② インターネット上の有害情報から青少年を守るための対策の推進(第25ページ)
 青少年が安全に安心してインターネットを活用できる環境の整備等に関する法律に基づき、インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議を設置し、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画を策定するとともに、同計画に基づき、フィルタリングの普及促進、インターネットの適切な利用に関する教育及び保護者等に対する広報啓発を推進する。また、フィルタリングの性能及び利便性の向上に向けた事業者の取組を支援し、青少年がインターネットを利用する場合におけるフィルタリングの更なる導入促進を図る。

第5-1-③ 情報モラル教育及び広報啓発活動の推進(第26ページ)
 地域、家庭及び学校における情報モラル教育の推進のため、保護者等を対象とした講座を通信事業者等と連携して全国で実施し、インターネット上の違法・有害情報の現状及びフィルタリングの重要性等に関する理解向上を図る。また、違法・有害情報対策に関する情報提供サイトの構築・充実化等を行い、効果的な情報提供に努める。さらに、小中学校の新学習指導要領において、各教科等の指導において、情報モラルを身に付けることを新たに規定するなど、義務教育において情報モラル教育の充実を図ることとし、各教科等における具体的な指導に当たって教員の参考となる手引きの作成、情報モラルの指導実践事例等を紹介する教員向けのウェブサイトの普及等により、新学習指導要領の円滑かつ確実な実施を図る。

第5-1-④ 違法・有害情報への対応の検討(第26ページ)
 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律の施行状況等を踏まえ、インターネット上の違法・有害情報対策の在り方について検討する

本来主として情報モラル・リテラシー教育によって解決されるべきと、あらゆる者の反対を受けながら、一部の寄生議員と規制官庁の暴走のみによって成立した青少年ネット規制法など、一国民・一ユーザー・一消費者として全く評価できないものである。これらの法律の運用においては慎重の上に慎重を期すとともに、情報モラル・リテラシー教育にこそ注力し、今後の検討においては、青少年ネット規制法の廃止及び出会い系サイト規制法の改正前の形への再改正が速やかに検討されるべきであるとする意見を出すつもりである。また、裁判で有罪が確定した等の事情により公開情報となっているものであれば良いだろうが、通常役所が業務上知り得た情報を、そのまま外に流すことには法律とモラル上極めて大きな問題があるのであり、フィルタリング事業者等への犯罪情報の提供についても注意しておきたいところである。(この点については、青少年ネット規制法施行令案への提出パブコメ出会い系サイトに関する警察庁研究会報告書に対する提出パブコメ出会い系サイト規制法ガイドラインに対する提出パブコメなども参照頂ければと思う。)

 また、本当に自主的な取組の支援はともかく、やはり第26ページの「2 違法・有害情報を排除するための自主的な取組への支援」内の、

第5-2-① インターネット・ホットラインセンターの体制強化等の推進(第26ページ)
 インターネット上に氾濫する違法・有害情報により効果的に対応するため、インターネット・ホットラインセンターの体制を強化し、サイバーパトロールの民間委託等を推進するとともに、違法・有害情報の削除等の措置を講じるサイト管理者、サーバ管理者及び通信事業者に関する法的責任の負担軽減方策や自主的対応への支援の在り方について検討する。また、有害情報簡易通報システムの開発・実証等により、サイト管理者、インターネット関連事業者、NPO、利用者等が協力して、違法・有害情報を効率的に特定・選別できる環境の整備を図る。

というインターネットホットラインセンターの体制強化だけはいただけない。警察庁研究会提出パブコメでも書いたが、勝手に有害と思われる情報を収集して、直接削除要請などを行う民間団体があるということ自体おかしいと考えるべきであり、このような有害無益な半官検閲センターは即刻廃止が検討されて良いと私は考えているのである。

 また、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(翻訳条文(pdf)外務省の説明書(pdf)外務省の解説HP)と、サイバー犯罪に関する条約(翻訳条文(pdf)外務省の説明書(pdf))に関する話が、それぞれ第19ページと第28ページに載っている。

第3-4-⑥ 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に向けた法整備(第19ページ)
 近年急速に複雑化・深刻化している国際組織犯罪に適切に対処するため、平成15年9月に発効した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約について、我が国においても、本条約の締結に伴う法整備を早期に完了させ、本条約の速やかな締結を目指す

第5-3-② サイバー犯罪に関する条約の締結に向けた法整備等の推進(第28ページ)
 情報技術分野の急速な発達に伴い急増したサイバー犯罪に適切に対処するため、平成16年7月に発効したサイバー犯罪に関する条約について、我が国においても、法整備を早期に完了させ、速やかな締結を目指す

国際組織犯罪防止条約は、Wiki(条約共謀罪)にも書かれているように、共謀罪の創設などが絡み、サイバー犯罪条約は、2004年の日弁連の意見書にも書かれているように、人権保障の観点から、国民のプライバシーや通信の秘密に対する重大な制約となる危険性が大きい。これらの条約を締結するための法改正は内閣提出法案として、第159回国会に提出された後、第163回国会に再提出され、今なお継続審議中概要(pdf)要綱(pdf)新旧対照条文(pdf)理由(pdf)法改正案(改め文pdf)修正案1修正案2修正案3)である。これらの条約や法案への突っ込みも書き出すと切りがないのだが、これらについては、刑法の根幹に関わる話であり、プライバシーや通信の秘密などの国民の基本的な権利が危うくなる懸念が非常に強く、今のまま法案が通され、条約を締結するべきではないと私も考えている。

(2)知財関係項目
 本来、このブログの主旨からすると、こちらの方がメインになるはずだが、第5ページには、模倣品・海賊版対策条約の話が出ている。

第1-4-⑤ 模倣品・海賊版対策の推進(第5ページ)
 模倣品・海賊版の氾濫による知的財産の侵害を阻止し、消費者の安心・安全が損なわれることを防ぐため、「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」構想の早期実現に向けた取組を加速するとともに、「知的財産推進計画2008」(平成20年6月18日知的財産戦略本部決定)に基づき、外国市場対策の強化、水際及び国内での取締りの強化、国民の理解促進、官民連携体制の強化等を図る。また、国境を越えて氾濫するインターネットを利用した模倣品・海賊版については、国内の取締りを強化するだけでなく、海外の模倣品・海賊版の通信販売サイト等の取締りを強化するよう国際社会への働き掛けを推進する。

この条約に関しては、具体的な話が良く分からないので、何とも言えないところがあるのだが、知財本部への提出パブコメに書いたように、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項をこの条約に盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけてもらいたいということを、念のため、ここでも指摘しておきたいと思う。

(3)その他
 知財はおろか、表現・情報規制とも関係なくなってしまうが、ついでに、他にも最近騒がれていることと関連していくつか目に付いた項目をピックアップしておくと、第14ページには、「2 新たな在留管理制度による不法滞在者等を生まない社会の構築」として、以下のような項目が並んでいる。

① 新たな在留管理制度の創設
② 円滑かつ厳格な出入国審査の実施
③ 入国・在留審査等に際しての日本語能力の考慮
④ 不法滞在者の摘発強化と退去強制の効率化
⑤ 不法滞在者等の排除のための新たな在留管理制度の効果的な運用
⑥ 不法入国等及びこれらを助長する犯罪等の取締り強化及び関係法令の整備

 直接国籍法改正の話が書いてある訳ではないが、偽装認知をどう防ぐかということは法改正だけではなく法運用の問題でもあり、国籍法改正問題・在留管理制度問題に興味を持っている方は、ここにもパブコメを出しておいても良いのではないかと思う。

 また、第22ページには、

第4-3-① 厳格な銃砲刀剣類行政の推進(第22ページ)
 法制度の整備を含め、猟銃等の所持許可の厳格な審査及び不適格者の発見と排除を徹底するとともに、実包を含めた保管管理の適正化を図る。また、事故等を防止するため、所持者に対し、講習会等の機会を通じて、適切な使用、保管の指導を行う。さらに、厳格な銃砲刀剣類行政を推進する基盤を築くため、銃砲登録照会業務の高度化を図るとともに、銃砲刀剣類行政に携わる担当者の教育の充実等を図る。

と、銃砲刀類に関する法制度の整備の話が書かれ、さらに、知財の海賊でない本物の海賊対策について、第33ページに、

第6-7-② 海賊対策の強化(第33ページ)
 従来からの東南アジア周辺海域における海賊対策に加え、近年のソマリア沖・アデン湾等の被害の状況等を踏まえ、これを抑止し取り締まるため、法制度上の枠組みの検討を含め、関係省庁が連携して各種対策を推進する。

という項目がある。それぞれ、ダガー規制問題や自衛隊海外派遣問題などについて関心がある方も、この計画へパブコメを出しておいて損はないだろう。

 政府が山のように似たようなパブコメをロクな周知もなく極短期間で募集することにも怒りを覚えるが、安全な国を作ると称して、国民の基本的な権利まで危うくする不当な規制強化を押し進め、国をより危険にしようとして恬として恥じない天下り役人と寄生議員のやり口には、本当に憤りしか覚えない。

 また、提出次第、私のパブコメはここに載せたいと思っている。

(11月26日の追記:模倣品対策条約に関する項目番号が間違っていたことに気がついたので訂正した:第1-1-⑤→第1--⑤。)

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2008年11月19日 (水)

第132回:日本のインターネットを終了させないために

 著作権法改正で気をつけるべきことについては第28回に書いたのだが、最近はインターネットの利用そのものを危険なものとしかねない法改正が政官において平然と検討されていたりするので、今まで書いてきたこととかなり重複するが、ここでもう少し範囲を広げて、特にインターネットとの関連で私が気をつけていることを、まとめて書いておきたいと思う。

(1)ネット事業・利用のために著作権法上より明確なセーフハーバーを作ること
 現在、プロバイダー責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」。関連情報Webサイト)によって、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の民事上の損害賠償責任にある程度のセーフハーバーが作られているが、動画投稿サイト事業者がJASRACに訴えられた「ブレイクTV」事件や、レンタルサーバー事業者が著作権幇助罪で逮捕された「第(3)世界」事件を考えても、現在のプロバイダー責任制限法では、もはやセーフハーバーとして不十分だろう。今現在、これらの事件の司法判断によっては、間接侵害や著作権侵害幇助のリスクが途方もなく拡大し、甚大な萎縮効果・有害無益な社会的大混乱が生じかねないという非常に危険な状態にあるのである。

 プロバイダー責任制限法を改正して、刑事罰まで含めてプロバイダーの責任を制限することが検討されても良いだろうが、間接侵害事件や著作権幇助事件においてネット事業者がほぼ直接権利侵害者とみなされてしまうのでは、それでも十分な対策とはならない。この問題については、間接侵害や著作権幇助罪も含め、著作権侵害とならない範囲を著作権法上きちんと確定しない限り、本質的な解決にはならないのである。(ここで本当に必要なことは、著作権侵害とならない場合を明文化することであって、著作権侵害となる場合を明文化することではないということはいくら注意しても注意しすぎではない。法律は実運用・解釈まで考えなくてはならないものであり、黒の範囲を明文化しても残りの範囲が白となるとは限らないのである。この違いをごまかして、不当な利権の拡大を後押しする、法律屋の転倒レトリックに騙されてはいけない。)

 また、ネット上の様々な利用については、事業者だけではなく、常にユーザーにも不当に過大な著作権リスクが発生していることも、もはや目をつぶっていることはできない。今現在、限定列挙で権利制限の対象とされている類型以外についても、公正と考えられる利用形態についてやスジの悪い訴えについては、現状親告罪であることが多少のセーフハーバーとなり、さらに司法において黙示の許諾や権利の濫用である程度妥当に処理されるものと期待していたが、アニメ画像一枚の利用による別件逮捕すら正当化されるというのでは、親告罪であることや司法判断にそこまでの期待はできない。この点についても地道な緩和策が取られる必要があり、特に、文化庁と権利者団体がつるんで、どんな些細な権利制限もなかなか進めようとせず、進めても不当なまでにその要件を厳しくするという状況下では、著作物のネット上での利用に関する不当に過大な民事・刑事のリスクを軽減するために、一般フェアユース条項の導入は必要不可欠と私は考えている。

(2)情報アクセスの権利・情報アクセスにおけるプライバシーを守ること
 情報アクセスの権利(知る権利)は、表現の自由に含まれている重要な権利であり、例え民事罰のみであろうと、情報にアクセスしただけで何らかのリスクが発生する法律には私は断固として反対する。個人が私的に情報にアクセスしただけでは、どんな被害も発生し得えないのであり、個人が私的にどのような情報にアクセスしたかということもプライバシーとしてきちんと守らなくてはならないのである。

 ダウンロード違法化問題では、常に、ネットにアップされることによって生じる被害と、ダウンロードの被害を混同する主張が権利者団体によって繰り返され、癒着した天下り役人がそれをそのまま政府の報告書に書いている訳だが、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とダウンロードとを混同することは絶対に許されない。さらに、このダウンロード違法化問題においては、既にネット上では「情報アクセス=複製」となっていることもきちんと考慮に入れられなくてはならない。

 刑事罰が絡むだけに影響も大きい児童ポルノの単純所持規制問題でも、規制派は常に、頒布による被害と単純所持を混同する狂った論理を主張するが、例えそれが児童ポルノであろうと、情報の単純所持ではいかなる被害も発生し得えない。現行法で頒布及び頒布目的の所持まで規制されているのであり、この問題においても、頒布によって生じる被害と所持やダウンロード、取得、収集との混同は許され得ないのである。

 何度でも繰り返すが、一人しか行為に絡まない、個人的な情報アクセスに関する限り、「情を知って」、「性的好奇心を満たす目的で」、「みだりに」などの精神的要件は、エスパーでもない限り、証明も反証もできないものであり、法律上の要件として客観性を全く欠き、恣意的な運用しか生みようがない危険極まりないものである。そもそも、最も根本的なプライバシーに属する個人的な情報アクセスに関する情報をどうして他人が知って良いということがあるだろう。ネット上においても、通信の秘密やプライバシーが守られなくてはならないのは言うまでもないことである。

 情報アクセスの権利は、著作権法上のDRM回避規制とも絡む。私的な領領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)は、情報アクセスそのもののためにDRMを回避しなければならない場合があることを、個私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無いということを無視して、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである。一般フェアユース条項が導入されれば、この点も法的に少しは軽減されるものと思うが、本来導入されるべきではなかったこのような規制は撤廃が検討されてしかるべきである。

 また、日本のISPの自主規制による、ネット切断型違法コピー対策(違法ダウンロード対策ではない)は、第73回で取り上げてい以来、大きな動きになっていないが、このような対策が過剰規制となり、社会的混乱がもたらされることも十分想定されるのであり、今のところダウンロード違法化問題の陰に隠れているが、ダウンロード違法化問題の推移とフランスの動向次第で、著作権団体がこのような対策を強力に押してくる可能性もあり、決して油断は出来ない。

(3)表現の自由そのものを守ること
 さらに、検閲の禁止・通信の秘密とも密接に絡む話だが、民主主義の最重要の基礎である表現の自由や言論の自由、思想の自由等々の最も基本的な精神的自由そのものを危うくするような検討までなされているのは、本当に救いがたいことである。どんな法律に基づく権利であれ、権利の侵害は相対的にのみ定まるものであり、実際の被害者の存在しない創作物・表現に対する規制は何をもっても正当化され得ないのであり、公的あるいはそれに準じる検閲(事後抑制型の検閲を含む)機関がそれを一方的に決めることなど絶対にあってはならないのである。(第76回で書いたように、個人的には現行刑法のわいせつ物規制すらもはやほとんど正当化根拠を失っていると思っている。なお、第51回にも書いたように、無論、表現の自由には、自己の責任において匿名で表現を発表する権利も含まれている。)

 人権擁護法案や、創作物の規制への含みを持つ与党の児童ポルノ改正法案が危険極まりないのは言わずもがな、ほぼフィルタリング義務化だけ(これだけでも不当であり、およそ運用に細心の注意が払われなくてはならないのだが)に留まった青少年ネット規制法についても、その経緯を考えると、今後の検討で、また突拍子もない規制強化案が飛び出して来かねない。番外その8で書いたように、経団連にすらダメ出しされ、また青少年ネット規制法の成立によってネット規制の最後の根拠すら無くなった所為か、その後は割とおとなしいが、第35回で取り上げた、総務省の放送と通信の融合法制の話や、恐らく今後も著作権団体が強行に主張してくるだろう技術的・法律的な著作権検閲の話にも目を光らせておかなくてはならないだろう。

 リアルの規制については他所におまかせするが、特に最近、目に余る有害無益な法規制の話が多すぎる。最近の国籍法改正問題にしてもダガー規制問題にしても、国会議員なり官僚なりが、バランスを欠いた結論ありきの検討でムダに世の中を混乱させているのは、本当に許し難い。永遠に続く権利の闘争に休息はない。

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2008年11月18日 (火)

番外その14:前通常国会・今臨時国会に提出されている自民党の児童ポルノ規制法改正案と関連請願

 今のところ、他の重要法案や事案でしばらく国会が空転してくれそうではあるが、解散総選挙がかなり伸びそうなこともあり、児童ポルノ規制法改正問題は今なお危険な情勢にある。自分用に作ったメモなのだが、衆議院参議院のHPの前通常国会と今臨時国会の児童ポルノ規制法改正関連の情報は、まとめて探すのが結構面倒なので、ここにも載せておきたいと思う。

 なお、第169回の通常国会で提出された児童ポルノ規制法改正法案の継続審議には、国会法の以下の第47条第2項と第68条で定められている閉会中の委員会審査による継続審議を使っている。今国会で議決されなかった場合も、また継続審議にされる可能性が高く、この問題に関しては法案が完全に廃案にされるまで気は抜けない。

第47条第2項 常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に付託された案件(懲罰事犯の件を含む。)については、閉会中もなお、これを審査することができる。

第68条 会期中に議決に至らなかつた案件は、後会に継続しない。但し、第47条第2項の規定により閉会中審査した議案及び懲罰事犯の件は、後会に継続する。

 参考までに、この関連資料中に出てくる議員の名前を最初にまとめておく。(この問題に関してきちんと反対をして下さる議員がいるのは本当に有り難い。ただし、第96回で書いたように民主党案の児童ポルノの取得罪も単純所持罪と同じく危険であることに変わりはなく、関係議員もこれだけではないので念のため。)

<改正法案提出者>
 森山眞弓wiki公式HP):自民・衆・栃木2区
 他2名

<単純所持及び創作物の規制に反対する請願の紹介議員>
 保坂展人wiki公式HP):社民・衆・東京ブロック(次回衆院選では東京8区で公認予定)
 鈴木 寛wiki公式HP):民主・参・東京都
 中村哲治wiki公式HP):民主・参・奈良県
 松浦大悟wiki公式HP):民主・参・秋田県

<単純所持の規制を求める請願の紹介議員>
 有村治子wiki公式HP):自民・参・比例19年
 亀井郁夫wiki公式HP):国民新・参・広島県
 島尻安伊子wiki公式HP):自民・参・沖縄県

<単純所持及び創作物規制を求める請願の紹介議員>
 自見庄三郎wiki公式HP):国民新・参・比例19年

<アダルトゲームの規制を求める請願の紹介議員>
 村井宗明wiki公式HP):民主・衆・北陸信越ブロック(次回衆院選では、富山1区で公認予定)
 下田敦子wiki公式HP):民主・参・比例16年
 円より子wiki公式HP):民主・参・比例16年

<日本を児童ポルノ大国と決めつける米シーファー大使の発言を批判した議員>
 吉田泉wiki公式HP):民主・衆・東北ブロック(次回衆院選では、福島5区で公認予定)

法律案は改め文で読みにくいので、現行法から、条文の形に書き直した。赤字強調部が追加部分である。変更のない条文は省略している。) 

(1)法律(提出者:森山眞弓(自民)他2名)
(適用上の注意)
第三条 この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならないなければならない

第六条の二(新規) 何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管してはならない。

(児童ポルノ所持、提供等)
第七条 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者も、同様とする。
2 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項第一項と同様とする。
 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
 第五項第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

(児童の年齢の知情)
第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条、第六条、第七条第二項から第七項まで及び前条から前条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

(国民の国外犯)
第十条 第四条から第六条まで、第七条第一項から第六項第五項まで並びに第八条第一項及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。

(両罰規定)
第十一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第五条、第六条又は第七条第二項から第七項から第七条までの罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

(捜査及び公判における配慮等)
第十二条 第四条から第六条まで、第七条及び第八条第八条までの罪に係る事件の捜査及び公判に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、児童の人権及び特性に配慮するとともに、その名誉及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、職務関係者に対し、児童の人権、特性等に関する理解を深めるための訓練及び啓発を行うよう努めるものとする。

(記事等の掲載等の禁止)
第十三条 第四条から第六条まで、第七条及び第八条第八条までの罪に係る事件に係る児童については、その氏名、年齢、職業、就学する学校の名称、住居、容貌等により当該児童が当該事件に係る者であることを推知することができるような記事若しくは写真又は放送番組を、新聞紙その他の出版物に掲載し、又は放送してはならない。

(教育、啓発及び調査研究)
第十四条 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることにかんがみ、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発に努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。

(インターネットの利用に係る事業者の努力)
第十四条の二 インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信又はその情報の閲覧等のために必要な電気通信役務(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これによりいったん国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることにかんがみ、捜査機関への協力、当該事業者が有する管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。

(国際協力の推進)
第十七条 国は、第四条から第八条までの規定に係る行為の防止及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進その他の国際協力の推進に努めるものとする。

(2)附則
(施行期日等)
第一条 この法律は、平成二十年十一月二十日から施行する。
2 この法律による改正後の第七条第一項の規定は、この法律の施行の日から一年間は、適用しない。

(検討)
第二条 政府は、漫画、アニメーション、コンピュータを利用して作成された映像、外見上児童の姿態であると認められる児童以外の者の姿態を描写した写真等であって児童ポルノに類するもの(次項において「児童ポルノに類する漫画等」という。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットを利用した児童ポルノに係る情報の閲覧等を制限するための措置(次項において「インターネットによる閲覧の制限」という。)に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとする。

2 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

(調整規定)
第三条 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律(平成二十年法律第▼▼▼号)の施行の日がこの法律の施行の日後となる場合には、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律の施行の日の前日までの間における児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律(平成十六年法律第百六号)附則第三条の規定の適用については、同条中「第七条第四項」とあるのは「第七条第五項」と、「第五項」とあるのは「第六項」と、「第六項」とあるのは「第七項」とする。

第四条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)の一部を次のように改正する。
 第四条第一項第二号ホ中「第八条まで」を「第六条まで、第七条又は第八条」に改める。
 第三十五条及び第三十五条の二中「第七条」を「第七条第二項から第七項まで」に改める。

(刑事訴訟法の一部改正)
第五条 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の一部を次のように改正する。
 第百五十七条の四第一項第二号及び第二百九十条の二第一項第二号中「第八条まで」を「第六条まで、第七条若しくは第八条」に改める。

(3)理由
 児童ポルノに係る行為の実情、児童の権利の擁護に関する国際的動向等にかんがみ、児童ポルノをみだりに所持すること等を一般的に禁止するとともに、自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持等を処罰する罰則を設け、あわせて、インターネットの利用に係る事業者について児童ポルノの所持、提供等の行為の防止措置に関する規定を整備する等の必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

(4)法律案要綱
第一 適用上の注意規定の明確化
 この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならないものとすること。(第三条関係)

第二 児童ポルノ所持等の禁止等
 一 児童ポルノ所持等の禁止
   何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又はこれに係る電磁的記録を保管してはならないものとすること。(第六条の二関係)
 二 自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則
  1 自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処するものとすること。同様の目的で、これに係る電磁的記録を保管した者も、同様とすること。(新第七条第一項関係)
  2 1に係る国民の国外犯は、これを処罰するものとすること。(第十条関係)

第三 インターネットの利用に係る事業者の努力
 インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信又はその閲覧等のために必要な電気通信役務を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これによりいったん国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることにかんがみ、捜査機関への協力、その管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとすること。(第十四条の二関係)

第四 その他
 一 施行期日等
  1 この法律は、平成二十年十一月二十日(国際連合において「世界の子どもの日」と定められている日)から施行するものとすること。(附則第一条第一項関係)
  2 第二の二の1(自己の性的好奇心を満たす目的での児童ポルノ所持等についての罰則)は、この法律の施行の日から一年間は、適用しないものとすること。(附則第一条第二項関係)
 二 検討
  1 政府は、児童ポルノに類する漫画等(漫画、アニメ、CG、擬似児童ポルノ等をいう。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進するとともに、インターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧の制限に関する技術の開発の促進について十分な配慮をするものとすること。(附則第二条第一項関係)
  2 児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、1の調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとすること。(附則第二条第二項関係)
 三 その他
   その他所要の規定の整備を行うこと。

(5)関連請願
<第170回臨時国会>
(衆議院)

件名児童買春・児童ポルノ禁止法改正に当たり、拙速を避け、極めて慎重な取り扱いを求めることに関する請願
受理番号:40
紹介議員:保坂展人(社民)
署名者通数:255名
付託委員会:法務委員会

件名美少女アダルトアニメ雑誌及び美少女アダルトアニメシミュレーションゲームの製造・販売を規制する法律の制定に関する請願
受理番号:120/153
紹介議員:村井宗明(民主)
署名者通数:10,449名
付託委員会:法務委員会

(参議院)
件名:児童買春・児童ポルノ禁止法改正に当たって、拙速を避け、極めて慎重な取扱いを求めることに関する請願 
受理番号:303/328/378
紹介議員:中村哲治(民主)/松浦大悟(民主)/鈴木寛(民主)
受理年月日:H20.10. 30/H20.10.31/H20.11.10
付託年月日:H20.11. 7/H20.11.14
付託委員会:法務委員会
要旨
 「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「同法」)の改正に当たり、児童ポルノという法の呼称ゆえに誤解の多い同法をより適切な形に改めるよう求め、国民的議論と合意形成が十分でない現況での児童ポルノ単純所持罪の新設といった罰則の強化などに対して、慎重な取扱いを要請する。
 ついては、国民的な認識が不十分なまま、議論を尽くさない拙速な法改正とならないよう、次の事項について実現を図られたい。

一、「児童ポルノ」の定義を、精密かつ明確なものとすること。
二、画像・映像等の「所持、取得」に関して新たな罰則を設けないこと。
三、「イラスト」等の被害者の存在しない創作物を、同法の範囲に含めないこと。
四、法律名を「児童性虐待防止法」等の適切なものに改め、法律名に「児童ポルノ」の言葉を用いないこと。
五、「三年を目途」とする法改正検討の要請を削除し、必要が生じたときに改正を検討すること。

<第169回通常国会>
(衆議院)

件名児童買春、児童ポルノ禁止法改悪反対に関する請願
受理番号:4943
紹介議員:保坂展人(社民)
署名者通数:151名
付託委員会:青少年問題に関する特別委員会
審査結果:審査未了 

(参議院)
件名:美少女アダルトアニメ雑誌及び美少女アダルトアニメシミュレーションゲームの製造・販売を規制する法律の制定に関する請願
受理番号:2525/2550
紹介議員:円より子(民主)/下田敦子(民主)
受理年月日:H20. 5.14/H20. 5.15
付託年月日:H20. 5.23
付託委員会:内閣委員会
審査結果:審査未了
要旨
 街中に氾濫(はんらん)している美少女アダルトアニメ雑誌やゲームは、小学生の少女をイメージしているものが多く、このようなゲームに誘われた青少年の多くは知らず知らずのうちに心を破壊され、人間性を失っており、既に幼い少女が連れ去られ殺害される事件が起きている。これらにより、幼い少女たちを危険に晒(さら)す社会をつくり出していることは明らかで、表現の自由以前の問題である。社会倫理を持ち合わせていない企業利潤追求のみのために、幼い少女を危険に晒している商品を規制するため、罰則を伴った法律の制定を急ぐ必要がある。
 ついては、美少女アダルトアニメ雑誌及び、美少女アダルトアニメシミュレーションゲーム製造及び販売規制の罰則を伴った法律を制定されたい。

件名:青少年健全育成のための有害図書類・有害情報に関する法整備を求めることに関する請願
受理番号:3262/3422/3469
紹介議員:島尻安伊子(自民)/有村治子(自民)/亀井郁夫(民主)
受理年月日:H20. 6. 3/H20. 6. 4/H20. 6. 5
付託年月日:H20. 6. 6/H20. 6.10/H20. 6.10
付託委員会:内閣委員会
審査結果:審査未了
要旨
 インターネット上に有害情報(残虐サイト、犯罪や殺人、ポルノや自殺サイト等)が氾濫(はんらん)し、青少年が犯罪に巻き込まれる例が相次いでいる。有害図書類・有害情報をこれ以上放置しておくことはできない。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、児童ポルノの単純所持の禁止を始め、有害図書規制の法制化をすること。
二、インターネット上の有害情報を削除するシステムをつくること。
三、携帯電話会社等には、フィルタリングサービスの提供を義務付けること。
四、罰則規定を設け、法律の実効性を確実なものとすること。

件名:児童買春、児童ポルノ禁止法改悪反対に関する請願
受理番号:3557
紹介議員:松浦大悟(民主)
受理年月日:H20. 6. 5
付託年月日:H20. 6.10
付託委員会:法務委員会
審査結果:審査未了
要旨
 現在、自民、民主、公明党などにおいて児童ポルノの所持、取得を新たに規制・罰則化する、イラスト等の創作物も児童ポルノの範囲に含めるか議論されている。そもそも児童ポルノの厳密な定義を行うことは非常に難しく、その上所持、取得にまで規制・罰則を設けることは、多くの冤罪(えんざい)発生や、捜査権の濫用、プライバシーの侵害や、監視国家化が引き起こされる可能性が高く、市民生活が著しく脅かされることを危惧(きぐ)する。また、イラスト等の被害者の存在しない創作物も、規制・処罰範囲に含めるべきとの議論は、実在する児童を守る、本来の保護法益から外れ、憲法に定められた表現の自由を害する。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、「児童買春、児童ポルノ禁止法」を改正しないこと。

件名:子供ポルノ問題に関する請願
受理番号:3662
紹介議員:自見庄三郎(民主)
受理年月日:H20. 6. 6
付託年月日:H20. 6.10
付託委員会:内閣委員会
審査結果:審査未了
要旨
 児童買春・児童ポルノ等禁止法の施行以来、毎年数百件の児童ポルノ事件が摘発され、増加の一途をたどっており、子供に性的ポーズを取らせた映像がアダルトビデオとして、欧米では法律等で禁じられている子供への性的虐待を描いたアニメ・漫画やゲームソフト、また児童ポルノをタイトルとするビデオが販売されるなど、子供の性が成人向けの商品として取引されているが、現行法では、警察も有効な打つ手を持ち得ない。「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」で、日本は子どもポルノの一大生産国・輸出国であるばかりでなく、そうした状況に取り組んでいない加害国と非難され、その後、政府・市民で取り組んだ反子供買春・ポルノ・人身売買キャンペーンの成果として現行法が成立し、その取組と成果が国際的に評価された。しかし、昨今のインターネットや携帯電話の驚異的な発達や普及は、環境を激変させ、日本のみならず、世界の子供たちも子どもポルノという名の被害にさらされ続けている。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、児童買春・児童ポルノ等禁止法の処罰対象となるか否かを問わず、子供に対する性的虐待を性目的で描写した写真、動画、漫画、アニメーションなどを製造、譲渡、貸与、広告・宣伝する行為に反対すること。
二、メディア、各種通信事業、IT事業、ソフト・コンテンツ製造・制作・販売等の各業者、業界、並びに関連団体による上記一に示す著作物等の流布・販売を自主的に規制・コントロールする官民を挙げた取組を応援するとともに、より一層取り組むこと。

件名:子供ポルノ問題のための、児童買春・児童ポルノ等禁止法の改正、厳格な適用等に関する請願
受理番号:3663
紹介議員:自見庄三郎(民主)
受理年月日:H20. 6. 6
付託年月日:H20. 6.10
付託委員会:法務委員会
審査結果:審査未了
要旨
 児童買春・児童ポルノ等禁止法の施行以来、毎年数百件の児童ポルノ事件が摘発され、増加の一途をたどっており、子供に性的ポーズを取らせた映像がアダルトビデオとして、欧米では法律等で禁じられている子供への性的虐待を描いたアニメ・漫画やゲームソフト、また児童ポルノをタイトルとするビデオが販売されるなど、子供の性が成人向けの商品として取引されているが、現行法では、警察も有効な打つ手を持ち得ない。「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」で、日本は子どもポルノの一大生産国・輸出国であるばかりでなく、そうした状況に取り組んでいない加害国と非難され、その後、政府・市民で取り組んだ反子供買春・ポルノ・人身売買キャンペーンの成果として現行法が成立し、その取組と成果が国際的に評価された。しかし、昨今のインターネットや携帯電話の驚異的な発達や普及は、環境を激変させ、日本のみならず、世界の子供たちも子どもポルノという名の被害にさらされ続けている。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、政府・国会に対し、児童買春・児童ポルノ等禁止法の改正を含め、下記各点に対する早急な対応をすること。
 1 他人への提供を目的としない児童ポルノの入手・保有(単純所持)を禁止し処罰の対象とすること(第七条)。
 2 被写体が実在するか否かを問わず、児童の性的な姿態や虐待などを写実的に描写したものを、準児童ポルノとして違法化すること(第二条)。具体的には、アニメ、漫画、ゲームソフト及び一八歳以上の人物が児童を演じる場合もこれに含むこと。
 3 国及び地方公共団体による児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育及び啓発を義務付けること(第一四条)。
 4 児童ポルノ等の被害から、心身に有害な影響を受けた児童の保護のための体制を整備すること。そのために具体的な計画の策定を国に義務付け、担当省庁に実施結果を国会に報告する義務を課すこと(第一六条)。
二、検察・裁判所始めすべての法曹・司法関係者に対し、子どもポルノが子供の人権並びに福祉に対する重大な侵害行為であるとの基本認識の下、児童買春・児童ポルノ等禁止法事犯に対し厳格に同法を適用し、刑を科すこと。

(6)第169回通常国会・平成20年4月10日の青少年問題に関する特別委員会における吉田泉議員(民主)の質問と井上美昭警察庁審議官・秋元義孝外務省審議官・上川陽子男女共同参画担当大臣の応答

○吉田(泉)委員 民主党の吉田泉です。

 私の方からは、最近、議論が始まりました児童買春、児童ポルノ禁止法、これに関連してお伺いをいたします。

 この法律は、制定されたのが平成の十一年、その後、平成十六年に改正をされました。それからもう四年が経過しましたので、いわゆる予定された見直しの時期に来ているという段階であります。

 そうしたところ、去る一月三十日、アメリカのシーファー駐日大使が、読売新聞でしたが、この件で投稿をされました。そして、そこで、日本の児童ポルノ法の所有を非合法化する方向で法改正をすべきだと。ここで大使が言っている所有というのはいわゆる単純所持ということだと思いますが、そういう方向で日本の法律を改正すべきだ、こういう主張をされたわけであります。それが一つのきっかけになったと思いますが、法改正の検討が始まっているという段階だと思います。

 私は、これは大変異例の展開だ、外国の大使から指摘を受けて法改正というのは異例の展開だなと思っているわけでございます。本格的な法改正論議はいずれされるわけですが、きょうはその前段ということで、いわゆる現状認識、特に日本はいまだに児童買春、児童ポルノ大国であるのか、もしそうだとしたら、我々は今すぐ何をやらなければならないのか、そういう問題意識から質疑をしていきたいというふうに思います。

 まず、全体の状況ですけれども、この問題に関して国際的な動きを振り返りますと、平成十二年、いわゆる議定書というものがニューヨークで策定されました。これは児童の売買、買春、ポルノに関する児童の権利条約の選択議定書という議定書であります。それによって、各国の法整備に関する共通の目標ができたということだと思います。それから八年たったわけでありますが、各国ともこの法整備に、そしてそれに基づく取り締まりに努力をしてまいりました。

 そこで、まず、八年たって、その間、児童の売買、買春、ポルノに関して、国内、海外ともにこの状況というのがどういうふうに改善されてきたのでしょうか。特に、日本はかつては、法の制定時には、児童ポルノ製造、販売の輸出国である、もしくは児童買春ツアーをアジアに送り出している加害国である、さらには、世界に出回っている児童ポルノの八〇%が日本製だ、そういう指摘を受けておりました。また、国内でも援助交際というのが大変大きな社会問題になっていた時期でありますが、十年近くたって、それらの状況は今全体としてどうなっているのか、お伺いいたします。

○井上政府参考人 お答えいたします。

 平成十一年十一月の児童買春、児童ポルノ禁止法施行後、平成十九年末までに検挙いたしました児童買春事件の検挙件数及び検挙人員は、一万二千二百三十五件、八千百三十七人、児童ポルノ事件の検挙件数及び検挙人員は、二千五百五十五件、千八百二十五人となっております。

 特に、児童ポルノ事件につきましては、平成十七年から検挙件数、検挙人員とも大幅に増加をし、現在まで高水準で推移をしております。この増加につきましては、平成十六年の同法の改正による取り締まりの強化などが要因の一つとして挙げられるものと認識をしております。

 また、国外犯の検挙状況につきましては、これまで、タイ、カンボジア、フィリピンでの日本人による児童買春、児童ポルノ禁止法違反事件で十件、十六名を検挙しております。その内訳は、児童買春事件が六件、六名、児童ポルノ事件が四件、十名となっております。

○吉田(泉)委員 できたら、世界全体の児童売買、買春の状況もお聞きしたかったんですが、手元のデータがないということであります。ことしはブラジルでまたこの国際会議があるということですから、何か世界全体の被害状況というのはあるんじゃないかとは思うんですが、きょうは残念ながらいただけませんでした。全体として世界の状況はよくわからない、日本については、取り締まりの強化もあって児童ポルノの検挙件数が高水準にある、そういうお話でした。

 次の質問ですけれども、この申し上げた選択議定書を日本は四年前に締結したわけであります。締結したということは、この議定書が要求している法整備を完了したという意味であります。よく議論になります日本のアニメーションについても、現行の法律では「その他の物」ということで、一応法の対象にした。そこまで日本は法整備をしたわけであります。

 一方、世界全体を見ますと、児童の権利条約に参加している国というのは百九十四カ国あるわけですが、この選択議定書を締結している国というのは今のところ百二十六カ国だそうであります。ということは、全体で六五%ぐらいの国しかまだこの法整備が済んでいないということだと思います。特に、G8の中でも、ドイツ、イギリス、こういう国がまだ締結をしていない、ロシアに至ってはまだその議定書に署名もしていない、こういう状況であります。

 外務省は、よその国のことですけれども、何か事情があると思うんですが、そういう事情をどう見ておられるのか、お伺いします。

○秋元政府参考人 委員御指摘の選択議定書は、児童の売買、児童買春及び児童ポルノに係る一定の行為の犯罪化、それから裁判権の設定をすること等を規定しているわけでございます。

 委員御指摘のとおり、現在百二十六カ国が締結しておりますけれども、この議定書をより多くの国が締結することは、議定書の実効性を高めていくという観点から大変望ましいことだというふうに考えております。

 ただ、個々の国がこれを締結するかどうかにつきましては、この議定書の意義と国内実施の可能性につきそれぞれの国が判断するということになっておりますために、委員がおっしゃいましたドイツそれから英国、ロシア、こういう国がこの議定書をなぜこれまで締結してこなかったのか、そういう具体的な理由は承知しておりません。

○吉田(泉)委員 事情はわからないということですね。

 各国いろいろな事情があるということしかわかりませんが、例えばアメリカも、この議定書の親条約というんですか、上位の条約である児童の権利条約、こちらに実はまだ参加していない。その中で、G8の中で日本とロシアだけが単純所持を禁じていない、大変この二つの国が法整備がおくれている、こういう印象を世界から持たれているんじゃないかということを、私、客観的に見て、日本はそれなりにきちんとやっておるんだというところをもう少しはっきりさせる必要があるんじゃないか、そんなふうに思っているところです。

 さらに、私の手元にある幾つかのデータを挙げてみたいんですが、各国の比較の数字ですね。一つは強姦数であります。これは児童も含めた、十八歳以上の人も含めた数字ではございますけれども、国連の犯罪統計によると、十万人当たりの強姦認知件数、一番多いのがカナダ七十八人、次がアメリカ三十二人。一方、日本は二人弱だというわけですね。G8の中で一番低い。しかも、日本の場合は四十年前と比べて十分の一ぐらいに減っているという数字が一つあります。

 それから、二つ目の数字は、児童ポルノの利用度。これの各国比較ですが、これはイタリアの児童保護団体の数字ですが、アメリカが全体の二三%を占める、ドイツが一五%、ロシアは八%。それに対して、日本は二%弱。これもまたG8で一番低い、児童ポルノの利用度ですね。

 三番目の数字は、今度は児童ポルノの発信度です。これは、英国のインターネット監視財団という半官半民の財団、これの数字によると、アメリカが全体の五四%、ロシアが二八%、ヨーロッパが八%、アジアが七%。日本はそのアジアの中に入っているわけですから、これも日本はせいぜい数%というデータがあります。

 何かこういう数字を見ますと、私は、日本は、性犯罪、そして児童ポルノの利用さらには発信、いずれもG8の中では一番低いレベルにあるんじゃないかというふうに推測したわけであります。ところが、シーファー大使の御発言に戻りますけれども、この新聞の投稿文の中で大使は、日本とアメリカが児童ポルノの二大消費国である、こういうふうに言っているわけであります。

 外務省に、これをどう見たらいいのか、一体、大使はどういう事実に基づいてこういうことを言っておられると推測されるのか、お伺いします。

○秋元政府参考人 委員御指摘のとおり、いろいろなNGOが出しています統計というのはありますけれども、国際的に認知された公的な統計というのは、残念ながらない。したがいまして、正確な国別の比較を行うことは難しいんだろうと思います。そういうことで、シーファー大使がいかなる統計に基づいて日米は児童ポルノの二大消費国だと述べているかということは、わかりません。

 他方、児童ポルノというのは、今日、インターネットの普及によりまして、国境に制約されることなく発信、流通されております。したがいまして、多くの国が協力して取り組むべきだということは言うまでもないことなんだと思います。

 シーファー大使の発言を私どもが解釈する立場にはございませんけれども、恐らくこの問題は、供給の側のみならず、需要の面からも取り組む必要があり、したがいまして、児童ポルノの国内での消費という問題を抱える日米両国が協力して取り組むべきだという考え方を述べたものだと理解しております。

○吉田(泉)委員 共通で取り組むべき課題であることは間違いないんですが、世界で二大消費国だ、こう言われたからには、やはりこちら側も、もし反論が必要なら反論する必要があるんじゃないか、そこだけ申し上げたいと思います。

 それから、シーファー大使の投稿文の中で、こういうことも言っているんですね。成人ポルノと違って、子供は自発的に当事者となったのではない、報酬も得ていない、児童ポルノの多くの被害者は十二歳未満である、小学生である、こう言っているんです。

 ただ、日本で一番問題になっているのは、中学校、高校生の援助交際ですよね。そういう意味では、この大使の指摘、大半が十二歳以下だという指摘は、日本ではちょっと事実と言えないのではないかと思うんですが、これは警察庁の方に国内の事情を伺います。

○井上政府参考人 平成十九年中に検挙いたしました児童ポルノ事件で保護した児童は三百四名であります。被害児童の年齢別の統計はとっておりませんが、学職別では、未就学が六名、小学生二十七名、中学生百七名、高校生百四十六名、有職少年六名、無職少年十二名となっております。

 お尋ねの十二歳未満の被害児童数は、最大限で、未就学に小学生を加えた三十三名、一〇・九%というふうな数字になっております。

 以上であります。

○吉田(泉)委員 そうしますと、日本の国内の状況には大使のこの発言はそぐわないんじゃないかと思うんですが、なぜこうなるかというと、やはり大使が考えている児童ポルノというものと我々が法律で考えている児童ポルノの何か定義の食い違いというようなものが背景にあるんじゃないか、そこをこれからの法改正論議の中でもう少しはっきりさせる必要があるんじゃないか、こんなふうに思うところであります。

 最後になりますけれども、上川大臣に最後に御所見をちょうだいしたいんですが、このシーファー大使の御発言の中にこういう言い方があるんですね。児童ポルノを見ることと子供への性的虐待というのは大きく関係しているんだと。見ること自体が虐待につながりやすいんだ、こういう発言があります。いわば、大使の主張である単純所持というのを禁止すれば性的虐待というのも減るはずだ、こういう大使の持論でありますが、実は、その両方の関係、根拠というのは、余り科学的に明らかにされていない、統計学的に明らかにされていないという指摘もございます。それから、先ほどから申し上げている国際的な議定書でも、この単純所持というのを禁止しなくちゃいけないということにはなっていないと私は思います。

 今後、この単純所持というものをどう扱うか、大きな議論になっていくと思いますが、上川大臣、青少年の健全育成担当大臣として、この児童買春、児童ポルノの問題に関して、今まで出たような被害の状況等を踏まえて、御所見をお伺いしたいと思います。

○上川国務大臣 児童買春そして児童ポルノにつきましては、児童の心身の健やかな成長を阻害するという意味で、極めて重大な問題であるというふうに思っております。大人が児童に対し性的な搾取やまた性的な虐待を行うという意味で、断じて許しがたいものであるというふうに認識をいたしております。

 児童買春や児童ポルノの被害の現状につきましては先ほど報告がありましたが、私は、数ということ、量ということではなくて、やはり質的な意味で、このことが起きているということ自体は大変許しがたいというふうに思っております。

 また同時に、海外からインターネットで情報が流通していくグローバルなネット社会でありまして、そういう中で、子供たちがその意味での犠牲になっていくということについては、やはり国際的な連携の中でしっかりと取り組んでいくべきことではないかというふうに思っております。

 この問題につきましては、先ほど委員からの御指摘のとおり、児童ポルノの単純所持の規制等につきまして、議員立法によっての改正ということで議論がされていると承知しておりまして、こうした議論の動向をしっかりと見守りたいというふうに思っております。

 また、児童買春、児童ポルノ法、この法律を所管する各関係の省庁が力を合わせて取り締まりや保護等の取り組みが行われている、このことがやはり青少年の健全な育成ということについて大変大事なことでございますので、こうした取り組みについての一層の連携をとって子供を守っていきたいというふうに思っております。

 世界的な子供をめぐる問題につきましては、最悪の状態の児童労働ということの中の一つとしてこの問題を取り上げられ、また、人身取引の一つの大きな消費というか、人身取引の目的がこの児童ポルノの問題にもかかわってくるということであります。そういう意味では、それにかかわる需要側のところを取り締まることによって供給のところの根をとめることができる、こういう相互の連関があるというふうに考えておりますので、そういった点もまず議論をしっかりとしていただきたいと思いますし、また、そういう中で、子供たちをしっかりと育てていく環境整備ということについてはさらに心を尽くしていきたいというふうに思っております。

○吉田(泉)委員 終わります。

 ありがとうございました。

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2008年11月14日 (金)

第131回:青少年インターネット規制法の施行令案に対する意見

 青少年ネット規制法の施行令案についても意見を提出したので、ここに載せておく。

(問い合わせてみたところ、インターネット提出フォームが再開された。フォームが一時停止していたのは、どうやら何かのミスだったらしい。)

(以下、提出パブコメ)

 意見募集の対象とされている「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律施行令(案)」では、法律で定められている各種義務の例外を定める要件の中に契約者数あるいは販売台数の要件が含まれており、インターネットサービスプロバイダーの場合で契約者数5万未満と、インターネット接続機器メーカーの場合で、経済産業省告示で定める種類毎の機器の前年度販売数1万台未満と定めているが、関連資料を読んでもこれらの数値の根拠は全く不明確である。

 まず、総務省の規制事前評価書には、この規制事前評価書には契約者5万という数字の根拠が書かれていない。さらに、利用者に追加コストが発生しないとしている点も全く賛同できない。プロバイダー等に「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又は青少年有害情報フィルタリングサービスを提供(紹介)することが求められるため、事務手続の見直しや適切なサポート体制構築のための費用が発生する。また、自ら青少年有害情報フィルタリングサービスを新たに提供する場合には、そのための費用も必要となる」のであれば、プロバイダー等も別に慈善事業ではないのだから、そのコストは必ず利用者に転嫁されるのである。

 経産省の規制事前評価書では、販売台数基準を10万台とする案と1万台とする案を比較して1万台という案を選択しているが、10万台としたときのカバー率がPCで9割としながら、1万台としたときのカバー率を書いておらず、また、フィルタリング容易化としてどこまで追加コストが発生するのかの詳細も不明であり、一体どういう評価をしたのだか、さっぱり良く分からない。また、この規制が、PCのみならず、ブラウザを組み込んだ各種携帯デバイスなども対象となるだろうことが考慮されておらず、このような不十分な評価で安易に規制の基準を定めることは危険極まりない。

 この規制の評価において、総務省のデタラメな携帯電話フィルタリング大臣要請や経産省のPSE法のデタラメな運用によって生じた無用の社会的混乱の教訓が何ら活かされていないとしか言いようが無く、これらの両省庁にあっては、今までの姿勢を猛省し、このフィルタリング等義務化に関する事前評価を完全にやりなおし、この規制を最小限に止めることを再検討してもらいたい。また、機器の使用が十八歳以上の者に監視される蓋然性が高いと認められる場合や、細かな機種指定やを行う告示もまた非常に重要であり、この経産省告示をきちんとパブコメにかけることも私は求める。

 このフィルタリング規制が具体的にどのような影響を及ぼすかは、実際に運用されて行かないと分からないところもあるが、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長することにつながる恐れが強く、政府全体で、特に公正取引委員会において、規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強め、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売について独禁法の適用を検討してもらいたい。

 しかし、そもそも、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだったはずである。去年から今年にかけて大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する一部の議員と官庁の思惑のみから成立した今の青少年ネット規制法による規制は、一ユーザー・一消費者・一国民として全く評価できないものであり、次の法改正の検討時には速やかに法律の廃止が検討されてしかるべきである。

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第130回:知財本部・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対する提出パブコメ

 知財本部のデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対するパブコメも書いて提出したので、ここに載せておく。

(これで後、個人的に出さなくてはならないと考えているパブコメで残っているのは、第121回で取り上げた青少年ネット規制法施行令に関するパブコメなのだが、11月16日が〆切であるにもかかわらず、そのインターネット提出フォームが何故か今使えない。問い合わせもしようと思っているところだが、既に問い合わせた等で何かご存じの方がいたら教えて頂けないだろうか。)

(以下、提出パブコメ)

(1)「Ⅱ.権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」(9~13ページ)について
(意見概要)
 一般フェアユース条項について、ユーザーに対する意義からも、可能な限り早期に導入することを求める。

(意見全文)
 一般フェアユース条項について、ユーザーに対する意義からも、可能な限り早期に導入することを求める。特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意義を持つものである。最終報告を作るにあたっては、検討の上ユーザーにとっての一般フェアユース条項の意義も書き込んでもらいたい。

 フェアユースの導入によって、私的複製の範囲が縮小されることはあってはならないことであり、実際の規定にあたっては、要件はアメリカの規定と同程度とするとともに、現行の各種権利制限規定もそのまま残すべきである。なお、一般フェアユース条項を導入している国は、アメリカの他にも台湾やイスラエルなどがあり、これらの国の規定も参考になるだろう。

 また、権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、公正という概念で刑事罰の問題を解決できるのかとする意見もあるようだが、かえって、このような現状の過剰な刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。現在親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、アニメ画像一枚の利用で別件逮捕されたり、セーフハーバーなしの著作権侵害幇助罪でサーバー管理者が逮捕されたりすることは、著作権法の主旨から考えて本来あってはならないことである。政府にあっては、著作権法の本来の主旨を超えた過剰リスクによって、本来公正として認められるべき事業・利用まで萎縮しているという事態を本当に深刻に受け止め、一刻も早い改善を図ってもらいたい。

(2)「Ⅲ-1.コンテンツの技術的な制限手段の回避に対する規制の在り方について」について(15~17ページ)
(意見概要)
 ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないこれ以上の規制強化に反対する。著作権法第30条第1項第2号の撤廃の検討を求める。

(意見全文)
 根拠なく、本報告案の第15ページに、コンテンツの利用をコントロールするための技術的手段「を回避した利用によるコンテンツ産業への経済的損失が拡大している」、第17ページに、「アクセス・コントロールの回避行為については、(中略)違法コンテンツのダウンロード等と相まって、その被害は増大してきていると考えられる」と書かれているが、DRM回避やダウンロードによって経済的損失が拡大しているとするに足る根拠は無く、最終報告では、これらの記載は削除・訂正されるべきである。コンテンツへのアクセスあるいはコピーをコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけでは経済的損失は発生し得ず、また、ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によって既にカバーされているものであり、その被害とDRM回避やダウンロードとを混同することは絶対に許されない。

 この報告書案にも書かれていることだが、この7月にゲームメーカーがいわゆる「マジコン」の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴していることなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。現状でも、不正競争法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ない。最終報告においては、このような危険な規制強化に関する検討は即刻止めると明記してもらいたい。

 DRM回避規制に関しては、このような有害無益な規制強化の検討ではなく、まず、個私的なDRM回避行為自体によって生じる被害は無く、個々の回避行為を一件ずつ捕捉して民事訴訟の対象とすることは困難だったにもかかわらず、文化庁の片寄った見方から一方的に導入されたものである、私的な領領域でのコピーコントロール回避規制(著作権法第30条第1項第2号)の撤廃の検討を行うべきである。

(3)「Ⅲ-2.インターネット・サービス・プロバイダの責任の在り方について」(18~22ページ)について
(意見概要)
 プロバイダに対する標準的な著作権侵害技術導入の義務付けに反対する。間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法へのセーフハーバー規定の速やかな導入を求める。

(意見全文)
 22ページに、動画投稿サイト運営者等特定のプロバイダに標準的なレベルの技術的な侵害防止措置の導入を義務付けるという対応策が書かれているが、このような義務化は非常に危険である。いたちごっこで不断の変更を余儀なくされる著作権侵害防止技術に対し、標準を定めて皆に選択の余地なく押しつけることは、まずもって、天下り役人の規制利権をムダに拡大し、無意味に技術の発展を阻害することにしかつながらないのであり、最終報告では、この部分にこのような否定的な評価も明記するとともに、このような方向性で検討を進めないことと明記するべきである。この点に関しては、逆に、検閲の禁止や表現の自由から技術による著作権検閲の危険性の検討を始めてもらいたい。

 また、現在動画投稿サービスがJASRACに訴えられている(「TVブレイク」事件)が、削除要請に応じて削除していたとしても間接侵害とみなされ、プロバイダ責任制限法上免責が受けられないこととなるおそれがあるのは、ネット事業の法的安定性を考えたとき大問題である。さらに、最近、著作権侵害幇助罪でレンタルサーバー事業者が逮捕された(「第(3)世界」事件)が、著作権法の本来の主旨に照らしてネット事業の刑事罰リスクが不必要に高まることも絶対あってはならないことである。これらの「TVブレイク」事件や「第(3)世界」事件の推移次第で、甚大な萎縮効果・莫大な国家的損失が発生することになると考えられ、政府にあっては、これらの事件の結果を待つことなく、現行のプロバイダー責任制限法あるいはその法改正による対応には自ずと限界があることも考慮し、損害賠償責任のみならず、間接侵害や刑事罰・著作権侵害幇助も含め著作権法にきちんとしたセーフハーバー規定を設ける検討を即刻本格化させてもらいたい。言うまでもなく、上で書いたことと同様、このセーフハーバー規定においても、その要件に標準レベルの技術的な侵害防止措置の導入の義務付けなどが組み込まれるべきではない。

(4)「Ⅲ-3.著作権法におけるいわゆる「間接侵害」への対応について」(23~25ページ)について
(意見概要)
 間接侵害の明確化は、ネット事業・利用の著作権法上のセーフハーバーを確定するために必要十分な限りにおいてのみなされるべきである。

(意見全文)
 セーフハーバーを確定するためにも間接侵害の明確化はなされるべきであるが、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしてはならない。特に、著作権法に明文の間接侵害一般規定を設けることは絶対にしてはならないことである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害一般規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、無意味かつ危険な社会的混乱を来すことは目に見えているからである。

(5)「Ⅲ-4.国際的な制度調和等について」(26~28ページ)について
(意見概要)
 模倣品・海賊版拡散防止条約の検討で、プライバシーや情報アクセスの権利といった基本的権利を守るとする条項を盛り込むよう日本から各国に積極的に働きかけてもらいたい。

(意見全文)
 27~28ページに書かれている「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)(仮称)について、そのような条項がよもや真面目に検討されることはないと思うが、もしどこかの国が、税関において個人のPCや携帯デバイスの内容をチェック可能とすることや、インターネットで著作権検閲を行う機関を創設することといった、個人の基本的な権利をないがしろにする条項をこの条約に入れるよう求めて来たときには、そのような非人道的な条項は除くべきであると、かえって、プライバシーや情報アクセスの権利といった国際的・一般的に認められている個人の基本的な権利を守るという条項こそ条約に盛り込むべきであると日本から各国に積極的に働きかけてもらいたい。

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2008年11月12日 (水)

第129回:現行の著作権登録制度の問題点

 最近巷を騒がせている小室事件については、個別の事件としてスルーしようかと思っていたのだが、意外と政策的にもその余波が長く続きそうなので、ここで少し、現行の著作権登録制度の問題点について書いておきたいと思う。

 小室事件の詳細自体は沢山記事になっているのでここでは立ち入らないが、この事件で、

  • 音楽家が著作権を音楽出版社に譲渡し、音楽出版社がその譲渡された著作権をさらに著作権管理団体に預けるのが通常のケースである現行の音楽著作権ビジネスでは、現行の著作権登録制度はほとんど利用されていない。
  • そのため、かえって著作権の多重譲渡詐欺において現行制度が悪用される可能性がある。
  • 専門家のチェックを経ない契約で億単位の金が動いても不思議ではないと思わせるような雰囲気が著作権業界にはある。

ということがクローズアップされていることは大きい。(なお、JASRACへの登録は民々の信託契約に過ぎず、JASRACへの登録と、文化庁への法定著作権登録とは別物である。著作権と、著作権使用料請求権も異なるので、念のため。)

 現行の著作権登録制度については、文化庁のHP(登録原簿そのものが見られる訳ではないが、登録状況検索もある)に載っている、「登録の手引き」(pdf)に詳しいが、要するに、現行制度においては、著作権の多重譲渡の場合、どの著作権譲渡契約が早く締結されたかにかかわらず、文化庁への登録における登録名義人が著作権者として法律上取り扱われることになるのである(法的には「第3者対抗要件」と呼ばれるものである。著作権法第77条参照)。

 逆に言うと、現行の登録制度のメリットは、この第3者対抗要件にしかないのだが、その手続きは、著作権法第78条

(登録手続等)
第七十八条 第七十五条第一項、第七十六条第一項、第七十六条の二第一項又は前条の登録は、文化庁長官が著作権登録原簿に記載して行う。
 文化庁長官は、第七十五条第一項の登録を行なつたときは、その旨を官報で告示する。
 何人も、文化庁長官に対し、著作権登録原簿の謄本若しくは抄本若しくはその附属書類の写しの交付又は著作権登録原簿若しくはその附属書類の閲覧を請求することができる。
 前項の請求をする者は、実費を勘案して政令で定める額の手数料を納付しなければならない。
 前項の規定は、同項の規定により手数料を納付すべき者が国等であるときは、適用しない。
 第一項に規定する登録に関する処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。
 著作権登録原簿及びその附属書類については、行政機関情報公開法の規定は、適用しない。
 著作権登録原簿及びその附属書類に記録されている保有個人情報(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十八号)第二条第三項に規定する保有個人情報をいう。)については、同法第四章の規定は、適用しない。
 この節に規定するもののほか、第一項に規定する登録に関し必要な事項は、政令で定める。

や、著作権法施行令の第20条以下

(申請書)
第二十条 登録の申請をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を文化庁長官に提出しなければならない。
 申請者の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
 代理人により登録を申請するときは、その氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあつては代表者の氏名
 著作物の題号(題号がないとき又は不明であるときは、その旨)又は実演、レコード、放送番組若しくは有線放送番組の名称(名称がないとき又は不明であるときは、その旨)
 登録の目的が著作権、出版権若しくは著作隣接権又はこれらの権利を目的とする質権(以下この章において「著作権等」という。)に関するときは、その権利の表示(これらの権利の一部に関するときは、その部分の表示を含む。)
 登録の原因及びその発生年月日
 登録の目的
 登録の申請に係る著作物、実演、レコード、放送又は有線放送に関する登録がされているときは、その登録の年月日及び登録番号(登録の年月日及び登録番号が不明であるときは、その旨)

(添付資料)
第二十一条 前条の申請書には、次に掲げる資料を添付しなければならない。
 申請者が登録権利者若しくは登録義務者の相続人その他の一般承継人であるとき、又は登録名義人の表示の変更若しくは更正の登録を申請するときは、戸籍の謄本又は抄本、登記事項証明書、住民票の写しその他当該事実を証明することができる書面
 代理人により登録を申請するときは、その権限を証明する書面
 登録の目的に係る著作権等が登録名義人から登録義務者に相続その他の一般承継により移転したものであるときは、戸籍の謄本又は抄本、登記事項証明書その他当該事実を証明することができる書面
 登録の目的が著作権等に関するときは、その登録の原因を証明する書面
 登録の原因について第三者の許可、認可、同意又は承諾を要するときは、これを証明する資料
 登録の変更、更正若しくは抹消又は抹消した登録の回復を申請する場合において、登録上の利害関係を有する第三者があるときは、その者の承諾書又はその者に対抗することができる裁判の謄本若しくは抄本
(以下略)

を読んだけでも分かるように、書類も煩雑(文化庁のHPに様式一式(doc)がアップされているが、この様式を定めているのは施行規則である。)で電子化も不十分なら、国に支払う手続き費用も、登録免許税登録免許税法で定められている。)として、著作権の移転の登録1件につき18000円もかかるという、制度ユーザーにとってすら使う気が起こらないだろうほどのヘビーコスト仕様となっている。(なお、この登録税の額がどういう理屈で決まっているのか良く分からないが、著作隣接権の移転の登録では1件9000円、信託の登録では1件3000円となっている。)

 このような手続きコストを考えると、権利の発生に登録が必須となっている特許の場合と違い、メリットとして第3者対抗しか得られない現行の登録制度は、ビジネス上見合わず、ほとんど利用されていないのも無理はないが、小室氏の関連楽曲の販売が停止されたこと(恐らく背景は、自粛がどうこうという話ではなく、権利関係が確定するまで、ビジネスが出来ないという理由ではないかと思う。)ことからも分かるように、権利関係が確定出来ないと安定してビジネスは出来ないのであり、この事件によって、著作権譲渡をその基本とする著作権ビジネス全体が実は非常に不安定な土台の上に立っているということが露呈してしまったことは、実は大問題である。ビジネスが法的に不安定であることは、ユーザーにとっても決して良いことではないだろう。

 だからと言って、著作権の性質上、権利の発生に登録を必須とすると言った議論や、第56回で書いたように登録制度にさらなるインセンティブを付けるといった議論もナンセンスであり、実際のところ、この著作権譲渡と登録制度の問題は、即効性の解決策がある話ではない。(なお、現行の著作権ビジネスの慣行を考えると、このような第3者対抗のためのみの登録制度は廃止して、全て契約ベースで判断した方がかえってビジネス上は安全性が高まるのではないかと思うが、全体的なバランスを考えると、それもまた難しいのではないかと思う。)

 文部科学大臣は、現行制度には問題がないが周知が不徹底だったと言ったよう(毎日のネット記事日刊スポーツのネット記事参照)だが、即効性の解決策がないのは確かにそうかも知れず、専門家への相談の必要性や現行制度の周知が重要であることもまたその通りだろうが、メリットに比して現行の登録手続きの煩雑さ・料金の高さは目に余るものがあり、制度的対応の検討もまた重要ではないかと私は思う。予算の面から難しいのかも知れないが、登録免許税の減額、登録に必要な項目・書類の削減、登録手続き・登録原簿の電子化や、電子認証・電子(カード)決済の採用による省力化など、やってやれなくはないだろう。ビジネス上も、タイムロスと直接雇用人件費以外のコストは割と簡単に全体のコストに組み入れられるはずである。詐欺自体は無くしようがないにしても、制度及び運用上より詐欺がやりにくくすることは出来るに違いない。

 実のところ、このような登録制度の見直しの検討は、平成17年1月24日の「著作権法に関する今後の検討課題」で、法制問題小委員会・契約・利用ワーキングチームで「今後の登録制度の利用の促進を図る観点から、登録手続の電子化の推進に関して検討する」とされた後、実に3年以上も文化庁がまともに取り上げていないものである。(去年の法制問題小委員会の中間まとめ(pdf)で登録による利用ライセンシーの保護の話が出てきているが、この話は、登録制度の電子化とは直接関係がない。)これもまた、文化庁が如何に恣意的に政策の検討を進めるかの証左の一つだが、ダウンロード違法化のような有害無益な施策ではなく、政府には、このような地道な施策のみを推進してもらいたいと思っているのは私だけではあるまい。著作権登録制度の問題については、あまり一般ユーザーから言い出す話でもなく、即座に解が出てくる話でもないが、今後、その電子化・省力化の検討が進むことを個人的には期待している。

 (恐らくこのブログを読んで下さっている中に億単位の金で著作権ビジネスをやろうとしている方はいないのではないかと思うし、士業規制にも多分に気にくわないところがあるのだが、それでも少額のコストをケチって巨額の詐欺に合うのはバカバカしいので、念のため、もし著作権について何か大きな契約をするということがあるなら、著作権に詳しい弁理士・弁護士・司法/行政書士などの専門家に相談してから事を進めることをお勧めしておく。なお、特許の登録制度にもまだ問題はあるのだが、著作権ほどではないので、また別の機会を見て取り上げたいと思う。)

 最後に、一つだけニュースの紹介もしておくと、レンタルサーバーの管理者が著作権侵害幇助罪に問われ逮捕された(時事通信のネット記事産経のネット記事internet watchの記事JASRACのリリース参照)。起訴されるのかどうかまだ良く分からないが、裁判になったとして、サーバー管理者の責任について刑事上もきちんとセーフハーバーが設けられるようであれば良いが、下手な裁判官や弁護士にぶち当たると、日本のネット事業・利用のリスクをこの上なく高める判決が出されかねない危うさがこの事件にはある。各種サーバー事業に関する危険性だけではなく、そもそもそのような判決自体も出されてはならず、ダウンロード違法化もなされてはならないものと考えるが、仮定の話として、サーバーの管理者が著作権侵害幇助罪に問われ得、サーバーのアクセスログが証拠として一般あるいは権利者団体に開示されて良いというような無茶な判決が出されたとして、さらにダウンロード違法化までされていたとしたら、「情を知って」の要件は証明も反証も不可能であるから、権利者団体により、アクセスログの入手のためのサーバー管理者への刑事訴訟と、プロバイダーへの情報開示請求と、個別のユーザーに対する民事訴訟が濫発され、社会的混乱を無意味に招きかねないいう懸念すら覚えるのである。考えすぎと言われるかも知れないが、この事件の重要性は極めて高い。

(11月13日の追記:Intellectual Property Watchの記事によると、韓国も、フランスの3ストライクアウト式の違法コピー対策を含む著作権法改正案をこの11月に国会審議にかけようとしているらしい。韓国が明確なダウンロード違法化をしたという話も聞かず、翻訳でも違法複製とあるだけなので、これがダウンロードを意味するのか、アップロードを意味するのか良く分からないが、記事中でリンクが張られているIPLEFTの記事で紹介されている部分だけからすると、少なくとも、違法複製を繰り返し行っているユーザーのアカウント停止命令をプロバイダーに出す権限を韓国の文化大臣に与えようとしているようである。さすがの韓国でも、これは国会でもめるのではないかと、本当にこのような法改正がなされたら混乱を来すのではないかと思うが、さらに詳しいことが分かるようであれば、この話も時期を見て紹介したいと思う。)

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2008年11月 8日 (土)

第128回:文化庁・法制問題小委員会の中間まとめに対する提出パブコメ

 文化庁・文化審議会著作権分科会・法制問題小委員会の中間まとめに対するパブコメも書いて提出したので、ここに載せておく。

(以下、提出パブコメ)

 法制問題小委員会中間まとめについて下記の通り、意見を提出します。

     記

1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:
4.連絡先:

5.該当ページおよび項目名:
(1)第2節 私的使用目的の複製の見直しについて(11~20ページ)
(2)第3節 リバース・エンジニアリングに係る法的課題について(21~39ページ)
(3)第4節 研究開発における情報利用の円滑化について(40~49ページ)
(4)第5節 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて(50~62ページ)
(5)中間まとめ全体

6.意見
(1)「第2節 私的使用目的の複製の見直しについて(11~20ページ)」に対する意見
 第11~12ページにおいて、平成19年12月18日時点のペーパーを意見募集後の私的録音録画小委員会の論点整理として固定化しようとしているが、このペーパーは8720通にも及ぶパブコメを完全に無視して文化庁が勝手に作ったもので、同日の小委員会に出席していた消費者代表委員からも激しい批判を浴びたものであり、平成19年度の私的録音録画小委員会の論点整理として全く不適切なものである。最終報告書においては、この論点整理に関する記載は全て削除するか、平成1月23日時点の「私的録音録画小委員会の審議の経過について」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/08012413/001.htm参照)の内容のみをもって平成19年度の私的録音録画小委員会の整理とするべきである。

 また、第16ページの「② 利用者保護について」で、利用者保護対策が進んでいるかの如き印象操作を行っているが、日本レコード協会の権利者団体のエルマークもあくまで日本レコード協会所属のレコード会社と、その音楽配信サイトが何らかのライセンスを結んでいることを示すものに過ぎず、どこまで行っても、エルマークのありなしはそのサイトのコンテンツが著作権法上適法に提供されたものか、違法に提供されたものかを示すクライテリアたり得ない上、自らが作製した著作物を離れてサイトそのものを違法と著作権者団体が認定することは、明らかに権利の乱用であり、到底認められるべきことではない。最終報告書においては、この部分に、このような否定的評価も明記するべきである。

 そもそも、平成19年度の私的録音録画小委員会中間整理に対するパブコメにおいて、ダウンロード違法化に対する大多数の反対意見はダウンロードの違法化をするなと言っているのであって、意見を重く受け止めてダウンロードを違法化して欲しいなどとする意見ではカケラもないのであり、このような意見のすりかえは決して許されない。

 去年のパブコメでは、ダウンロード違法化について、①そもそも著作権という私法が私的領域に踏み込むこと自体がおかしい、②家庭内の複製行為を取り締まることはほとんどできず、このような法改正には実効性がない、③通常の録音録画物について違法合法を区別することはできない、④特に、インターネット利用では、キャッシュとして自動的になされるコピーがあるなど、違法合法を外形的に区別できないため、ダウンロードが違法と言われても一般ユーザーにはどうしたら良いのかさっぱり分からず、このような法改正は社会的混乱しかもたらさない、⑤ダウンロードはその行為に1個人しか絡まないため、エスパーでも無い限り「情を知って」の要件は証明も反証もできないものであり、この要件は司法判断でどう倒されるか分からず、場合によってはインターネットへのアクセスそのものに影響を及ぼし兼ねないこのような法改正は極めて危険である、⑥そもそも違法流通は送信可能化権による対応が可能である上、この送信可能化権との関係でダウンロードによる損害額がどう算定されるのかもよく分からない、⑦パロディの著作物のダウンロードについて、ごく普通のユーザーにまでリスクを負わせるのはおかしい、⑧研究など公正利用として認められるべき目的の私的複製まで影響を受ける、といった懸念・不信がユーザーなどから示されているが、このうち、④の問題が、わずかに、本中間まとめにおいてブラウザキャッシュなどが権利制限の対象されるべきとされていることで、かろうじて緩和されそうなことを除き、去年から状況にほとんど変化はないのであり、ダウンロード違法化の合理的な根拠はほとんど全くと言って良いほど何もないのである。

 国際的に見てもダウンロードを違法化している国は決して多くなく、ダウンロード違法化をした上でエンフォースを試みたただ一つの国であるドイツでは、エンフォースに失敗し、その実効性は何らあがっておらず、フランスは、条文に3ステップテストを入れただけでダウンロードについてまだ最高裁の結論が出ていないところで、俗に3ストライクアウト法案と呼ばれるバランスを欠いた取組を無理矢理押し進めようとしているが、最近のEUの通信に関するディレクティブでネット切断型の対策を否定されるなどその先行きは不透明となっており、判例法の国アメリカでも、P2P訴訟が猖獗を極め、何ら出口は見えていないなど、欧米の動向も、この点に関しては混乱するだけ混乱しており、反面教師にしかならない。国際条約にダウンロードを明確に違法化すべきと明記されている訳でもなく、ダウンロード違法化が国際潮流になっているなどということは今もってない。

 プログラムも含め、あらゆる著作物のダウンロード違法化に、私は今なお完全に反対する。このような有害無益な法改正の方針は、技術の発展の真の意味を全く理解しておらず、一般国民の行動原理とモラルとも乖離した、天下り役人の独善的な妄想に基づくものでしかない。違法ダウンロードによる権利者の経済的不利益が大きいとする根拠も薄弱であり、違法ダウンロードについては、拙速な法改正は行わず、解釈論による対応なども検討しつつ、様々な司法判断や状況が積み重なってきたときに改めて立法の是非を判断するべきである。

(2)「第3節 リバース・エンジニアリングに係る法的課題について(21~39ページ)」に対する意見
 第23ページに、「国際的に見ても、リバース・エンジニアリングの取扱いに関して大きな議論が存在する状況ではなくなってきている」と書かれているが、同じ中間まとめ中にある諸外国の立法例だけを見ても、ドイツ、フランス、スイス、イギリス、オーストラリア、アメリカ等があげられており、最終報告書においては、このような不適切な記載は削除するべきである。

 技術的な調査・解析は、権利者の利益を害するどころか、技術の発展を通じて社会全体を裨益するものであり、著作権法によってこのような利用まで萎縮することは、その法目的に照らしても本来あってはならないことである。遅きに失した感すらあり、このリバース・エンジニアリングに関する権利制限を早期に確実に導入することを私は求める。

(3)「第4節 研究開発における情報利用の円滑化について(40~49ページ)」に対する意見
 上でも書いたことだが、技術的な試験・研究は、権利者の利益を害するどころか、技術の発展を通じて社会全体を裨益するものであり、著作権法によってこのような利用まで萎縮することは、その法目的に照らしても本来あってはならないことである。さらに、主として情報解析分野のみについて一定の条件の下で権利制限を行うべきとしている点は権利制限の範囲としてあまりにも狭く不十分である。この点については、研究開発のための広く一般的な権利制限を早期に確実に導入することを私は求める。研究開発のための広く一般的な権利制限は、特に、技術動向に対する柔軟な対応が必要とされるため、列挙型ではなく、一般的な制約要件のみを設けた包括的なものとされるべきである。

 さらに、特にインターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では公正利用の類型を拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で重要な意味を持つものである。一般フェアユース条項についてもその検討を進め、可能な限り早期に導入することを私は求める。

(4)「第5節 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて(50~62ページ)」に対する意見
 利用者の通常の機器利用において生じる一時的蓄積について法的安定性を高めることもまた必要なことであり、この機器利用時の一時的蓄積に対する権利制限もまた早期に確実に導入することを私は求める。この点について今整理されている以上の要件は不要であり、法的安定性と萎縮効果の防止の必要性を十分に認識し、これ以上の要件を追加することは厳に戒められるべきである。

 通信過程における一時的蓄積等についても権利制限はやはり同様に必要であり、これを早期に確実に導入することを私は求める。特に、この点については、技術動向への柔軟な対応ができない機能列挙型の権利制限ではなく、著作物の通常の利用を害さず、権利者の正当な利益を不当に害しない限りにおいて、というような一般的な制約要件を設けた上で、全ての蓄積等の行為について包括的に権利を及ぼさないこととされるべきである。

 また、この第5節には、諸外国の立法例が引用されていないが、去年の著作権分科会報告書にも書かれている通り、EUディレクティブから、英仏独を含む各国の立法例があり、きちんと諸外国の立法例を参考として引用するべきである。

(5)中間まとめ全体について
 繰り返すが、私は、ダウンロードの違法化をするなと言っているのであって、意見を重く受け止めてダウンロードを違法化して欲しいなど言っているのではない。この点について腐った天下り役人の遁辞など全く求めていない。本来法改正は立法府の権限であるが、いやしくも立法を議論する以上、一般国民のコモンセンスに反する法律、守られようがない法律は百害あって一利ないという法哲学の初歩は知っていてもらいたい。どんな法律であれ、作ればその通りに国民が動くなどということはない。技術的・外形的に違法性の区別がつかない以上、ダウンロード違法化は法規範としての力すら持ち得ない。このような法改正を押し通せば、結局、ダウンロード以外も含め著作権法全体に対するモラルハザードがさらに進行するだけであり、これを逆にねじ曲げてエンフォースしようとすれば、著作権検閲という日本国として最低最悪の手段に突き進む恐れしかない。どう転ぼうが、ダウンロード違法化は百害あって一利ない最低の法改正である。

 それに対し、本中間まとめで取り上げられている権利制限は、どれも社会全体を裨益し、経済はおろか、引いては文化の発展にも寄与するものである。次の法改正においては、ダウンロード違法化を除き、権利制限のみの法改正のみを是非行ってもらいたい。

 文化庁あるいは文部科学省にあっては、パブコメを無視せず、真に公平かつ妥当な国民視点に基づく検討が行われるよう、今後、その審議会運営の正常化を真摯に行うことを、私は一国民として強く求める。文化庁あるいは文部科学省がこのような正常化が不可能であるとするなら、これは、行政府が特定業界との癒着を断ち切ることが不可能であると告白したに等しく、私は一国民として、今後真に公平かつ妥当な国民視点に基づく著作権法改正の検討を直接立法府で行うべきであると立法府に求めていくと最後に付言しておく。

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第127回:文化庁・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理に対する提出パブコメ

 文化庁・文化審議会著作権分科会・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理に対するパブコメを書いて提出したので、ここに載せておく。

(以下、提出パブコメ)

過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会中間整理について下記の通り、意見を提出します。

     記

1.個人/団体の別:個人
2.氏名:兎園
3.住所:
4.連絡先:

5.該当ページおよび項目名:
(1)第2章第3節 権利者不明の場合の利用の円滑化について(19~37ページ)
(2)第2章第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について(38~48ページ)
(3)第3章 保護期間の在り方について(51~97ページ)

6.意見
(1)「第2章第3節 権利者不明の場合の利用の円滑化について(19~37ページ)」に対する意見
 権利者が不明であることによって著作物が死蔵され、社会全体にとっての損失となる事態を防ぐために、権利者不明の場合の利用の円滑化について必要な制度的な対応が取られることを期待する。その際には、特に、余計なコストを発生させることがないA案(権利者の捜索について相当の努力を払っても権利者と連絡することができない場合に、著作物の利用をできることとする)を軸に検討が進められるべきである。ここで、第3者機関を介在させた場合、天下りの温床となり、その手続きコストによって貴重な社会的コストがムダに浪費されることになると考えられ、B案には全く賛同できない。

 また、「写り込み」等の場合についても、権利制限の見直しなどの検討が今後進むことを期待する。

(2)「第2章第4節 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について(38~48ページ)」に対する意見
 図書館の権利制限について、国立国会図書館における納本直後のデジタル化を法改正で認める方針とされていることに賛成する。しかし、国会図書館はあらゆる資料の保存という特殊な使命を帯びているのは確かにその通りであるが、他の図書館も、多かれ少なかれ資料の保存を目的としていることに変わりはなく、同時に、他の図書館についても、納本直後の資料のデジタル化を認めるようにすることを検討するべきである。デジタル化された資料の館内閲覧やコピーサービスのルール等について、関係者間で協議し、著作物の通常の利用を妨げず著作者の正当な利益を不当に害しない形にするならなおさらである。

 また、記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となり、事実上閲覧が不可能となってしまう事態が生じていることから、新しい媒体に移し替えて保存する必要があるという問題点について、このようなデジタル化が現行法上可能であることを早期に明確化するべきである。同時に、他にも、文化庁の異様に厳格な条文解釈によって、本来認められるべき公正な利用まで萎縮しているということがないかということを全権利制限条項についてきちんと洗い直し、問題のある権利制限条項の解釈について同様の対応を検討するべきである。

(3)「第3章 保護期間の在り方について(51~97ページ)」に対する意見
 ひ孫の孫くらいのことまで考えて創作をしている人間がいるとも思われず、文化の多様化のためにはこれ以上の延長はほとんど何の役にも経たず、経済的にも、著作者の死後50年を経てなお権利処理コストを上回る財産的価値を保っている極めて稀な著作物のために、このコストを下回るほとんど全ての著作物の利用を阻害することは全く妥当でない。

 また、実演家の著作隣接権の保護期間延長についても、今のところ賛成する理由は何一つない。

 レコード屋と放送局という流通業者の著作隣接権の保護期間の延長は論外である。レコード会社や放送局の著作隣接権は、彼らが強い政治力を持っていたことから無理矢理ねじ込まれた権利に過ぎず、その目的は流通コストへの投資を促すことのみにあったものであるが、インターネットという流通コストの極めて低い流通チャネルがある今、独占権というインセンティブで流通業者に投資を促さねばならない文化上の理由はほぼ無くなっているのである。

 著作権の保護期間の延長について私は完全に反対する。文化庁と権利者団体を除けばほぼ否定的な結論が出そろっているこの問題について、検討が先延ばしにされたこと自体残念であり、最終報告書においては、この問題についてこれ以上検討する必要はないとするべきである。

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2008年11月 5日 (水)

第126回:ダウンロード違法化問題の現状

 文化庁などへのパブコメのための個人的なメモに近く、特に目新しいことは含まれていないが、今後の参考に、特にダウンロード違法化問題に関する現状のまとめを書いておきたいと思う。

 見えないところで何が行われているかまでは分からないが、目に見える限りでは、9月19日の第9回の法制問題小委員会の中間整理案(11月10日を〆切としてパブコメにかかっている。第119回参照)で、

第2節 私的使用目的の複製の見直しについて
(中略)
3 検討結果
 以上のように、本小委員会としては、私的録音録画小委員会の検討の成果を踏まえることを基本としつつも、この課題が、理論的には録音・録画に限定される問題ではないことを踏まえ、録音・録画以外の著作物の私的複製について、それと同様の取扱いとすべきかどうかを主として検討してきた。この点に関しては、プログラムの著作物(特にゲームプログラム)について関係者からの要望が強く寄せられており、現在のところ、違法複製物からの複製の実態が相当量にのぼっていることが報告されている状況にある。その他の分野の著作物については、現在のところ大きな要望は寄せられていない。
 一方、私的録音録画小委員会における検討は、私的録音録画補償金制度の見直しを主たる検討事項としている中で行われてきた経緯があり、私的複製の範囲の見直し以外の検討事項も含めた同小委員会全体の取りまとめが行われていないことから、これらの検討事項間の関係をどのように考えていくのか、同小委員会の検討の方向性も踏まえるべきものと考えられる。
 プログラムの著作物等の他の著作物の取扱いについては、このような周辺状況も勘案しながら、また利用者に混乱を生じさせないとの観点にも配意して、場合によっては、検討の熟度に応じて段階的に最終的な取扱いを判断していくことも視野に入れつつ検討を行っていくことが適当と考える。

と書かれた後、10月20日の私的録音録画小委員会(第4回)で、

第2章 著作権法第30条の範囲の見直し
第1節 中間整理の概要
第2節 違法録音録画物,違法配信からの私的録音録画

 中間整理以降の意見募集の結果と,中間整理後に行われた利用者の懸念への対応策の集中的検討を踏まえ,対応策をまとめる

第3節 適法配信事業者から入手した著作物等の録音録画物からの私的録音録画
 中間整理以降の論点整理の内容等を踏まえ,対応策をまとめる。

第3章 今後の進め方
 今年度の本小委員会での検討結果を総括し,私的録音録画問題の解決に向けての対応方法等をまとめる。

という内容の報告書骨子案に基づいて、第119回の追記に書いたように、ダウンロード違法化を行うという方針を確認したところというのが現在の状態である。

 保護期間延長とiPod課金という、天下り先の権利者団体の収入が多少増すことがあるかも知れないが全体として文化的にも経済的にもマイナスにしかなりようがない、有害無益な保護強化策が様々な事情で流れたために、文化庁としては、保護強化策の選択肢として唯一残されたダウンロード違法化に賭けて来たのだろう。

 骨子案には、集中検討を行うなどと調子の良いことを書いているが、ダウンロード違法化の内容自体は、違法な録音録画物を情を知ってダウンロードする行為を私的複製の権利制限から外すということで、去年から何も変わっておらず、恐らく変えようもない(去年から、刑事罰はつかず、録音録画に限るということだった。プログラムが入るかどうかという点は新しい論点だが。)。このような既定路線ありきの中でいくら集中的に検討しようが、大騒動時のパブコメで示された利用者の懸念・不信感はほとんど払拭されないどころか、さらに増すだけのことだろう。

 去年の中間整理に対して、自分のパブコメで書いたダウンロード違法化問題に関する問題点(第20回参照)と、文化庁に提出された他のパブコメに書かれた懸念(第44回参照)から気になったものを合わせ、私なりに箇条書きにまとめると、

  1. そもそも著作権という私法が私的領域に踏み込むこと自体がおかしい。
  2. 家庭内の複製行為を取り締まることはほとんどできず、このような法改正には実効性がない。
  3. 通常の録音録画物について違法合法を区別することはできない。
  4. 特に、インターネット利用では、キャッシュとして自動的になされるコピーがあるなど、違法合法を外形的に区別できないため、ダウンロードが違法と言われても一般ユーザーにはどうしたら良いのかさっぱり分からず、このような法改正は社会的混乱しかもたらさない。
  5. 情を知ってという条件も、司法判断でどう倒されるか分からず、場合によってはインターネットへのアクセスそのものに影響を及ぼし兼ねないこのような法改正は極めて危険である。
  6. そもそも違法流通は送信可能化権による対応が可能である上、この送信可能化権との関係でダウンロードによる損害額がどう算定されるのかもよく分からない。
  7. パロディの著作物のダウンロードについて、ごく普通のユーザーにまでリスクを負わせるのはおかしい。
  8. 研究など公正利用として認められるべき目的の私的複製まで影響を受ける。

となる(もし興味があれば、キャッシュの問題について第42回、知る権利について第75回もご覧頂ければと思う。)。

 このうち、3の違法合法の区別については、法制小委員会の報告書でプログラムのダウンロード違法化の検討のところで、

② 利用者保護について
 前述のとおり、私的録音録画小委員会では、第30条の改正を行う際には、利用者保護対策を措置すべきとしており、その中では、
・権利者が許諾したコンテンツを扱うサイト等に関する情報の提供、警告・執行方法の手順に関する周知、相談窓口の設置など
・適法マークの推進
といった対応を権利者が行うこととされている。
 これについては、録音・録画の分野においては、例えば、社団法人日本レコード協会が、適法な音楽配信事業者であることを識別するための「エルマーク」を導入するとともに、エルマーク配布先である当該事業者に関する情報をHPに掲載し、利用者への情報提供に努めるなど、その取組が進められている。

とあたかも利用者保護の取組が進んでいるかのような印象操作が行われているが、日本レコード協会の権利者団体の適法マークは実質無意味である上、自らが作製した著作物を離れてサイトそのものを違法と著作権者団体が認定することは、明らかに権利の乱用であり、到底認められるべきことではない。(突っ込むのもバカバカしいのだが、録画(映像)はどうなっているのか良く分からないし、エルマークもあくまで日本レコード協会所属のレコード会社と、その音楽配信サイトが何らかのライセンスを結んでいることを示すものに過ぎないので、どこまで行っても、エルマークのありなしはそのサイトのコンテンツが著作権法上適法に提供されたものか、違法に提供されたものかを示すクライテリアたり得ない。)

 7や8のパロディや研究目的の私的複製などについては、一般フェアユース条項で救われる部分も出てくるのではないかと思っていたが、ThinkCのシンポジウムで知財本部の委員も務めている中山信弘先生が次の通常国会での成立は難しいと発言しており、これもあやしくなって来ている。(ITmediaの記事internet watchの記事参照。やはり記事によると、元著作権課長の甲野氏が「権利を侵害するかしないかは刑事罰がかかるかかからないかの問題でもあり、厳密に条文を書こうとすると大変な手間。『公正な』という概念で刑事罰の問題を解決できるのか。実現のためにはいろいろな壁がある」と発言したらしい。これが典型的な役人の考え方だと思うが、親告罪であることが多少セーフハーバーになっているとはいえ、かえって、アニメ画像一枚でも捕まり得るという現状の刑事罰リスクからも、フェアユースは必要なものと私は考える。)

 ただ、今現在検討されている機器利用時の複製に対する権利制限で、4のキャッシュの問題は少しは緩和されることになるだろう。ただし、これも、法制問題小委員会の報告書で、ブラウザキャッシュに対する権利制限の適用について、「ブラウザキャッシュの例では、一般に行われている視聴方法でブラウザによりオンラインの著作物等を視聴している限りにおいては、その際に生じる蓄積物(ブラウザキャッシュ)を作成する行為は、本要件に該当すると考えられるが、例えば、ユーザーが設定を変更して、ブラウザで予定されている範囲を超えて視聴等を行うことを意図して蓄積する場合や、蓄積後に他のアプリケーションを用いて視聴等を行うなどしてこの蓄積物をいわば独立した複製物として視聴に供するような場合には、本要件には該当しないものと考えられる(ただし、このような場合であっても、私的使用目的の場合(第30条)など、他の権利制限規定の対象となる場合はありうる)。」と書かれているものの、条文に書かれる話でもなく、この適用自体かなり曖昧であり、この権利制限とダウンロード違法化が一緒にされた場合、その後に、権利者団体がいわゆる動画投稿サイトの単なる視聴ユーザーにまで難癖をつけに来る可能性があることには注意しておいた方が良い。

 詳しくは第40回第80回で書いたことや、他のエントリなどをご覧頂ければと思うが、ダウンロード違法化が国際潮流になっているなどということは今もってない。ダウンロード違法化をした上でエンフォースを試みたただ一つの国であるドイツでは、エンフォースに失敗し、その実効性は何らあがっていないし、フランスでは、条文に3ステップテストを入れただけでダウンロードについてまだ最高裁の結論が出ていないところで、3ストライクアウト法案という特殊な取組を押し進めようとしている(ecransの記事などによると、この法案はネット切断を残したまま上院を通り、次は下院での審議へと移るようである。)。判例法の国アメリカでも、P2P訴訟が猖獗を極め、何ら出口は見えていない。イギリスはイギリスで、ネット切断型の対策をプロバイダにやらせようとしていたりとバラバラである。欧米の動向も、この点に関しては混乱するだけ混乱しており、反面教師にしかならない。

 結局、フェアユース導入の情勢の微妙さも考慮に入れると、今のところ、ブラウザキャッシュがわずかに権利制限の対象となりそうなことを除き、去年から状況にほとんど変化はないのであり、ダウンロード違法化の合理的な根拠はほとんど全くと言って良いほど何もないのである。これから先は、文化庁と天下り先の著作権団体の政治力次第のところもあるが、これほど不合理な法改正を最後までごり押しするのは非常に困難ではないかと私は見ている。

 私的録音録画小委員会ではパブコメを募集しないようなので、私としては、多少変則的な形とはなるが、まずは上の法制問題小委員会へのパブコメで、他の論点と一緒に、ダウンロード違法化問題についても上のような問題点を指摘し、ダウンロード違法化反対の意見を提出したいと思っている。

(11月5日夜の追記:なお、上の法制問題小委員会の中間整理には、研究のための権利制限についても記載されているが、今のところ追加されそうなのは情報解析のためのみとあまりにも狭く、この問題ではほとんど考慮に入れるに値しない。無論、情報解析研究のための権利制限が重要でないということではないので、念のため。)

(11月6日の追記:また、第121回のついでに紹介した、検索エンジンを合法とするスペイン地裁の判決を含む記事として、フランスのjuriscom.netの記事判決文へのリンク(スペイン語))があったので、念のためにここにリンクを張っておく。)

(11月8日の追記:上では1行で済ませてしまったが、フランスの3ストライクアウト法案の上院通過について、「P2Pとかその辺の話」で詳細な記事の紹介がされているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。)

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