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2008年10月14日 (火)

第119回:文化庁・著作権分科会・法制問題小委員会の中間まとめと過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理に対する意見募集の開始

 文化庁から、今年度の法制問題小委員会の中間まとめと過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理の二つがこの9日から、11月10日を〆切としてパブコメにかかっている。(法制小委のパブコメについて、文化庁のリリース電子政府の該当ページ、過去小委のパブコメについても、文化庁のリリース電子政府の該当ページ参照)

 これらには、それぞれ大問題となっている著作権問題の2つの大論点、ダウンロード違法化と保護期間延長の取扱いが含まれており、決して見過ごすことは出来ない。ダウンロード違法化については多少トーンダウンした書き方になっており、保護期間延長についても両論併記の形になっているところを見ると、今回は文化庁もさすがに様々な情勢から様子見と決め込んだものと見えるが、両論点とも単なる先延ばしの記載であり、隙あらば権利者団体とつるんで文化庁が法改正をねじ込んで来ようとすることもまた間違いなく、安心できる状況にはないことを如実に示している。

(1)法制問題小委員会の中間まとめ
 およその内容については、概要を読んでもらっても良いのだが、法制小委の中間まとめの主な論点は以下の5つである。

  • デジタルコンテンツ流通促進法制
  • 私的使用目的の複製の見直し
  • リバース・エンジニアリングに係る法的課題
  • 研究開発における情報利用の円滑化
  • 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い

 大した方向性の出ていないコンテンツ流通促進法制に関する検討はともかく(第78回で書いたように、コンテンツ流通促進法制を検討すること自体無意味だと私は思っている。権利者不明の場合の著作物の取扱いは確かに重要だが、コンテンツ流通促進法制と称して大騒ぎをしている話とは論点がずれているだろう。)、私的使用目的の複製の見直しについて、即座にダウンロード違法化をするとは書かれていないものの、意見募集の結果をほぼ無視して大批判を浴び、その後一度もロクに議論していない、平成19年12月時点のペーパーを私的録音録画小委員会の意見募集後の論点整理(第11~12ページ参照)として固定化し、「検討の熟度に応じて段階的に最終的な取扱いを判断」すると、ダウンロード違法化を既定路線としようとしているなど相変わらず油断も隙もない。ダウンロード違法化には今なお完全に反対するという意見を私はまた出すつもりである。(去年の12月時点の話は、第39回参照。)

 また、リバース・エンジニアリングや、研究開発、機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて、権利制限を行うとされていることについては、遅きに失した感すらあり、できる限り早期に行ってもらいたいものと思うが、それぞれ、権利制限の範囲が十分かという問題がある。リバース・エンジニアリングの権利制限について、相互運用性の確保や障害の発見等の一定の目的のためのみで良いのか、研究開発について、情報解析分野のみとして良いのかと考えると、必ずしも十分ではないと私は思っているがどうだろうか。(無論、後で他の点も検討すると書いてあるのだが、一旦ある点について法改正をしてしまうと、さらに同じ点について追加の法改正をするということはまず当分有り得ないので、ここも勝負所である。是非、このパブコメには、情報系の研究者のみならず、自然科学一般・人文・社会系の研究者にも意見を出して欲しいと私は思っている。)

(2)過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理
 やはり概要を読んでもらっても良いのだが、過去小委の中間整理の論点は、以下の4点になるだろう。

  • 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化
  • 権利者不明の場合の利用の円滑化
  • アーカイブの円滑化
  • 保護期間延長問題

 中でも一番の大問題が、保護期間延長問題であることは間違いないが、この論点に関する限り、小委員会における完全にすれ違いの議論がほぼそのまま中間整理にも反映され、両論併記で先延ばしの記載となっている。今回は保護期間延長について即座に法改正という様子は無いが、文化庁と権利者団体を除けばほぼ否定的な結論が出そろっているこの問題について、先延ばしとされたこと自体残念であり、ここでも私は、延長に反対し、これ以上検討する必要はないとする意見を出すつもりである。

 他の点は保護期間延長問題と比べるとあまり騒がれていないが、権利者不明の場合の著作物の取扱いや、図書館における資料のデジタル化のための権利制限なども重要な問題である。

 権利者不明の場合の対応については、いまいち実現に向けた具体性に欠けるものの、A案(権利者を捜す相当な努力の後、使用)・B案(努力の後、第3者機関に使用料相当額を支払って使用)として制度的対応の案が書かれており、どちらが良いか、また別な案があるかということを考える必要があるだろう。(個人的には、余計な第3者機関などは無い方が良いと思うが、中間整理をもう少し良く読んで意見を考えるつもりである。)

 また、図書館の権利制限について、国立国会図書館における納本直後のデジタル化を法改正で認める方針とされているが、これも国会図書館のみで良いのかということがある。国会図書館はあらゆる資料の保存という特殊な使命を帯びているのは確かにその通りであるが、他の図書館も、多かれ少なかれ資料の保存を目的としていることに変わりはなく、納本直後の資料のデジタル化を認めても良いのではないだろうか。デジタル化された資料の館内閲覧やコピーサービスのルール等について、関係者間で協議し、通常の利用を妨げず著作者の正当な利益を不当に害しない形にするならなおさらである。

(図書館に関することでは、記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により、SPレコード、5インチフロッピーディスク、ベータビデオのように、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となり、事実上閲覧が不可能となってしまう事態が生じていることから、新しい媒体に移し替えて保存する必要があるという問題点が指摘され、これについては解釈変更で対応するとしているのだが、むしろ、こうした複製すら認めて来なかった文化庁の異様に厳格な権利制限の条文解釈にこそ問題があったとするべきだろう。なお、こうしたメディア移行の問題は、まだあまり私的複製問題との絡みでは指摘されていないが、そのうち私的複製問題とも大きく絡んでくることになるだろう。)

 私的録音録画小委員会の中間整理は今回は作られていないようだが、次回の私的録音録画小委員会は10月20日に開催されるようであるので、念のため一緒に紹介しておく。

 まだしばらく出す意見の内容は考えたいと思っているが、私のパブコメは提出次第ここに載せるつもりである。

(10月14日夕方の追記:グーグルのイメージ検索が著作権侵害に当たるという判決がドイツで出され、グーグルは控訴する予定とのcnetの記事があったので、ここにリンクを張っておく。両方とも地裁レベルの話と思われ、確定している訳でもないので、これ以上の紹介はしないが、上位裁判所での確定判決が出されたらまた取り上げたいと思う。なお、この裁判で問題にしているのはイメージ検索のみのようだが、通常の記事に対するグーグル検索は合法との判決がドイツでは最高裁で確定していることを考えると、最終的な判断はまた変わってくるのではないかと個人的には思っている。

 第88回で取り上げたニュージーランドの改正著作権法について、「P2Pとかその辺のお話」で、案の定ニュージーランドでインターネットサービスプロバイダーから反対の声が上がっているとの記事が紹介されているので、興味のある方は是非リンク先ご覧頂ければと思う。

 また、「著作権皇帝」法との批判を浴びているアメリカの改正著作権法は、残念ながらブッシュ大統領の署名によって成立してしまったようである(WIREDの記事PC MAGAZINEの記事参照)ので、次は、この法案(WIREDの記事中の法案(pdf)へのリンク)についてのエントリを書きたいと思う。)

(10月20日の追記(目次4のついでに書いたことの転記):47NEWSの記事internet watchの記事ITproの記事などによると、今日10月20日の文化庁・私的録音録画小委員会で、報告の骨子案が示され、iPod課金は先送りとなったものの、録音録画のダウンロード違法化についてはしぶとく来年の法改正を目指して報告書をまとめる方針とされたようである。最終的な報告書を見るまで何とも言えないが、去年壮絶なパブコメ無視をしたあげく、今年このような重要な法改正事項を含む私的録音録画小委員会の報告書をパブコメにかけようとしないなど、相変わらず文化庁の態度は国民をバカにしているとしか思えない。文化庁がこのような方針だとすると、第119回で取り上げた法制小委員会のパブコメの重要性は否が応でも高まる。時勢上あらゆることは流動的だが、できる限りのことをして行きたいと私は思っている。(追加参考記事:ITproの記事2ITmediaの記事。))

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