第125回:知財本部・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対する意見募集の開始
前回、フェアユース導入提言の部分を紹介したデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告書案(pdf)が、知財本部から即日、11月17日を〆切としてパブコメにかかった(知財本部のリリースページ、電子政府HPの該当ページ、意見募集要項(pdf)、個人用意見提出フォーム(団体用)参照)ので、今回はこの報告書案への突っ込みの続きを書きたいと思う。
報告書案(pdf)中の「Ⅰ.コンテンツの流通促進方策」で、案の定大した方向性は出されておらず、「Ⅱ.権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」で、フェアユース導入の提言がなされたところまでは良いのだが、この報告書案の「Ⅲ.ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化」に書かれている具体的な対応策には、かなり危ういものも含まれている。
まず、「1.コンテンツの技術的な制限手段の回避に対する規制の在り方について」の「(5)検討結果」では、
本専門調査会のヒアリングでは、機器等の製造事業者からは、現行制度の有用性の評価が十分になされておらず、規制強化という方向性を提起することは不適切ではないか、また、情報へのアクセスを技術的にコントロールする行為を法が奨励することとなることの妥当性について慎重な検討がなされるべきではないかなどの意見があった。
一方、権利者からは、ネットを通じて大量の違法コピーが行われていること、「マジコン」等の回避装置が若年層を含め一般的に広まっていることなどを背景に、現行制度の対象機器の範囲を見直すべきではないか、また、回避装置の提供行為を刑事罰の対象とすべきではないかなどの意見があった。
アクセス・コントロールの回避行為については、ユーザーの間でもかなりの規模で広まっており、違法コンテンツのダウンロード等と相まって、その被害は増大してきていると考えられる。
このため、現行制度の実効性の検証は当然行うべきであるが、コンテンツの経済的価値を損なうような行為については、国民の適切な情報アクセスの機会の確保にも留意しつつ、規制を見直し、被害を防止するための措置を講ずることが必要である。
対応案としては、例えば、不正競争防止法による規制を見直すことや、著作権法においてアクセス・コントロールの回避行為を位置付けることなどが考えられる。ただし、アクセス・コントロールにより保護される内容が著作物とは限らないこと、また、視聴やプログラムの実施は著作権法上の支分権の対象ではないことなどから、著作権法に位置付けることについては、慎重な検討が必要である。
と、不正競争法におけるDRM回避機器規制の強化(まず考えられることは、DRM回避機器の提供行為に対する刑事罰の導入だろうか)や、著作権法によるアクセスコントロール回避行為規制(論理的にはおかしいが、アクセスコントロールを回避して行う複製を私的複製の範囲から除外することを考えているのではないか)などの規制強化策に触れているのだが、現状でも、不正競争法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないだろう。(コピーコントロールとアクセスコントロールの違い、非常にややこしい規制の現状などについては、別途、第32回、第36回、第45回などをご覧頂ければと思う)。
(大体、勝手に根拠無く、アクセスコントロール回避行為によって、違法コンテンツによる違法コンテンツのダウンロードと相まって、被害が増大していると断定していることからしてどうかと思う点である。単にコンテンツへのアクセス(コピーではない)をコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけで一体どんな被害が発生するというのか。ダウンロード違法化の話でもそうだが、このような話になると途端に論理破綻を来す権利者団体などのデタラメな主張に国の報告書まで毒されているのは本当に救いがたい。ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によってカバーされるべきものであり、混同は許されない。
そもそも、私は、第45回で書いたように、著作権法における私的なコピーコントロール回避規制を撤廃するべきだとすら思っているのであり、この報告書案にも書かれていることだが、この7月に、ゲームメーカーが、違法コピーされたゲームソフトを起動させることができるいわゆる「マジコン」と呼ばれる機器の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴しているなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。なお、著作権法における私的なコピーコントロール回避規制の刑事罰化などは論外中の論外である。)
次に、「2.インターネット・サービス・プロバイダの責任の在り方について」の「(5)検討結果」には、
本専門調査会のヒアリングでは、プロバイダからは、権利者とは定期的に話合いの場を持っており、現在もファイル共有サービスの対策等の話合いが進められているため、プロバイダ責任制限法の改正よりも、むしろ現行枠組みの延長線上で各事業者の自主的な取組を広げていくことを検討することが現実的であるとの意見があった。また、著作権についてのみ法律上特別な扱いをするのは難しいのではないかとの意見もあった。
確かに、ネットオークションにおける模倣品・海賊版の対策については、権利者・事業者の自主的な取組が大きな成果をあげている。しかし、主に侵害の温床となっているのは業界団体の枠組みに属さないような事業者である場合が多く、その場合には自主的な取組の対応のみでは限界があることも考えられる。
また、権利者からは、違法コンテンツの削除は侵害の事後的な対応であり、これのみでは侵害量の減少にはつながらないことから、侵害行為を防止する技術的措置を合理的な範囲で義務付けることや、発信者情報の開示請求手続きの簡素化を図ることが必要などの意見があった。
このため、自主的な取組を発展させることと併せて、制度上の見直しについても検討を行い、実効性のある方策を構築することが必要と考える。
対応案としては、例えば、著作権侵害防止の観点からは、民間の自主的な取組や技術開発のレベルなども踏まえつつ、動画投稿サイト運営者等特定のプロバイダには合理的な範囲で標準的なレベルの技術的な侵害防止措置の導入を義務付けることが考えられる。
また、事業者の予見可能性を高める観点からは、プロバイダ責任制限法の損害賠償責任や著作権法における差止請求等の範囲の在り方を見直し、著作権侵害防止措置を導入していること等一定の要件を満たす事業者は、損害賠償請求や差止請求などを受けないこととする明確な免責規定を設けることが考えられる。
と書かれているのだが、自主的な取組の促進や今の手続きの簡素化はともかく、動画投稿サイト・プロバイダに対する標準的な著作権侵害防止技術の押しつけは非常に危ない。いたちごっこで不断の変更を余儀なくされる著作権侵害防止技術に対し、標準を定めて皆に選択の余地なく押しつけることは、まずもって、天下り役人の利権をムダに拡大し、無意味に技術の発展を阻害することにしかつながらないのである。
ネットにおける責任・リスク・権利のバランスの取り方は非常に難しく、まだ技術が発展途上であることもあり、当分は浮ついた検討が続く可能性が高いが、この点については、検閲の禁止や表現の自由から技術による著作権検閲の危険性を考えるという、もっと根本的なところからの逆検討がそろそろ本格的に始められても良い頃合いではないかと私は感じている。
また、「3.著作権法におけるいわゆる「間接侵害」への対応について」の「(5)検討結果」では、
侵害行為の主体に関する問題は複雑化していることから、侵害行為を抑制するとともに、利便性向上によるコンテンツの新たな需要を喚起するようなサービス等を安心して提供できるようにすることが必要である。また、この問題に関する裁判例は、必ずしも一致した認識に基づいているとは考えられない。
したがって、著作権法上のいわゆる「間接侵害」の明確化に関する検討を早急に進め、行為主体の考え方を始め差止請求の範囲を明確にすること等が必要である。
と書かれている。この点については、単に明確化とされているのでそれほど問題はないと思うが、個人的には、念のため、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしないよう釘を刺しておきたいと思っているところである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、余計かつ危険な混乱を来すことは目に見えているのだ。
(なお、具体的な内容が分からないので、何とも言えないのだが、「4.国際的な制度調和等について」で、合意形成に向けた取組を進めるとされている、「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)(仮称)」も注意しておいた方が良いだろう。国際条約であることを良いことにこっそりとロクでもない検討をしている疑いがある。)
これらの点は、法改正に向けてフェアユースほど踏み込んだ書き方がされている訳ではないが、フェアユースと一緒にパブコメで触れる必要があると私は思っている。
次回は、ダウンロード違法化問題に関する補足のエントリを書きたいと思う。
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