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2008年10月31日 (金)

第125回:知財本部・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の報告案に対する意見募集の開始

 前回、フェアユース導入提言の部分を紹介したデジタル・ネット時代における知財制度専門調査会報告書案(pdf)が、知財本部から即日、11月17日を〆切としてパブコメにかかった(知財本部のリリースページ電子政府HPの該当ページ意見募集要項(pdf)個人用意見提出フォーム団体用)参照)ので、今回はこの報告書案への突っ込みの続きを書きたいと思う。

 報告書案(pdf)中の「Ⅰ.コンテンツの流通促進方策」で、案の定大した方向性は出されておらず、「Ⅱ.権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」で、フェアユース導入の提言がなされたところまでは良いのだが、この報告書案の「Ⅲ.ネット上に流通する違法コンテンツへの対策の強化」に書かれている具体的な対応策には、かなり危ういものも含まれている。

 まず、「1.コンテンツの技術的な制限手段の回避に対する規制の在り方について」の「(5)検討結果」では、

 本専門調査会のヒアリングでは、機器等の製造事業者からは、現行制度の有用性の評価が十分になされておらず、規制強化という方向性を提起することは不適切ではないか、また、情報へのアクセスを技術的にコントロールする行為を法が奨励することとなることの妥当性について慎重な検討がなされるべきではないかなどの意見があった。
 一方、権利者からは、ネットを通じて大量の違法コピーが行われていること、「マジコン」等の回避装置が若年層を含め一般的に広まっていることなどを背景に、現行制度の対象機器の範囲を見直すべきではないか、また、回避装置の提供行為を刑事罰の対象とすべきではないかなどの意見があった。
 アクセス・コントロールの回避行為については、ユーザーの間でもかなりの規模で広まっており、違法コンテンツのダウンロード等と相まって、その被害は増大してきていると考えられる
 このため、現行制度の実効性の検証は当然行うべきであるが、コンテンツの経済的価値を損なうような行為については、国民の適切な情報アクセスの機会の確保にも留意しつつ、規制を見直し、被害を防止するための措置を講ずることが必要である。
 対応案としては、例えば、不正競争防止法による規制を見直すことや、著作権法においてアクセス・コントロールの回避行為を位置付けることなどが考えられる。ただし、アクセス・コントロールにより保護される内容が著作物とは限らないこと、また、視聴やプログラムの実施は著作権法上の支分権の対象ではないことなどから、著作権法に位置付けることについては、慎重な検討が必要である。

と、不正競争法におけるDRM回避機器規制の強化(まず考えられることは、DRM回避機器の提供行為に対する刑事罰の導入だろうか)や、著作権法によるアクセスコントロール回避行為規制(論理的にはおかしいが、アクセスコントロールを回避して行う複製を私的複製の範囲から除外することを考えているのではないか)などの規制強化策に触れているのだが、現状でも、不正競争法と著作権法でDRM回避機器等の提供等が規制され、著作権法でコピーコントロールを回避して行う私的複製まで違法とされ、十二分以上に規制がかかっているのであり、これ以上の規制強化は、ユーザーの情報アクセスに対するリスクを不必要に高める危険なものとしかなり得ないだろう。(コピーコントロールとアクセスコントロールの違い、非常にややこしい規制の現状などについては、別途、第32回第36回第45回などをご覧頂ければと思う)。

(大体、勝手に根拠無く、アクセスコントロール回避行為によって、違法コンテンツによる違法コンテンツのダウンロードと相まって、被害が増大していると断定していることからしてどうかと思う点である。単にコンテンツへのアクセス(コピーではない)をコントロールしている技術を私的な領域で回避しただけで一体どんな被害が発生するというのか。ダウンロード違法化の話でもそうだが、このような話になると途端に論理破綻を来す権利者団体などのデタラメな主張に国の報告書まで毒されているのは本当に救いがたい。ネットにアップされることによって生じる被害は公衆送信権によってカバーされるべきものであり、混同は許されない。

 そもそも、私は、第45回で書いたように、著作権法における私的なコピーコントロール回避規制を撤廃するべきだとすら思っているのであり、この報告書案にも書かれていることだが、この7月に、ゲームメーカーが、違法コピーされたゲームソフトを起動させることができるいわゆる「マジコン」と呼ばれる機器の販売業者を不正競争防止法に基づき提訴しているなどを考えても、現時点で、現状の規制では不十分とするに足る根拠は全くない。なお、著作権法における私的なコピーコントロール回避規制の刑事罰化などは論外中の論外である。)

 次に、「2.インターネット・サービス・プロバイダの責任の在り方について」の「(5)検討結果」には、

 本専門調査会のヒアリングでは、プロバイダからは、権利者とは定期的に話合いの場を持っており、現在もファイル共有サービスの対策等の話合いが進められているため、プロバイダ責任制限法の改正よりも、むしろ現行枠組みの延長線上で各事業者の自主的な取組を広げていくことを検討することが現実的であるとの意見があった。また、著作権についてのみ法律上特別な扱いをするのは難しいのではないかとの意見もあった。
 確かに、ネットオークションにおける模倣品・海賊版の対策については、権利者・事業者の自主的な取組が大きな成果をあげている。しかし、主に侵害の温床となっているのは業界団体の枠組みに属さないような事業者である場合が多く、その場合には自主的な取組の対応のみでは限界があることも考えられる。
 また、権利者からは、違法コンテンツの削除は侵害の事後的な対応であり、これのみでは侵害量の減少にはつながらないことから、侵害行為を防止する技術的措置を合理的な範囲で義務付けることや、発信者情報の開示請求手続きの簡素化を図ることが必要などの意見があった。
 このため、自主的な取組を発展させることと併せて、制度上の見直しについても検討を行い、実効性のある方策を構築することが必要と考える。
 対応案としては、例えば、著作権侵害防止の観点からは、民間の自主的な取組や技術開発のレベルなども踏まえつつ、動画投稿サイト運営者等特定のプロバイダには合理的な範囲で標準的なレベルの技術的な侵害防止措置の導入を義務付けることが考えられる。
 また、事業者の予見可能性を高める観点からは、プロバイダ責任制限法の損害賠償責任や著作権法における差止請求等の範囲の在り方を見直し、著作権侵害防止措置を導入していること等一定の要件を満たす事業者は、損害賠償請求や差止請求などを受けないこととする明確な免責規定を設けることが考えられる。

と書かれているのだが、自主的な取組の促進や今の手続きの簡素化はともかく、動画投稿サイト・プロバイダに対する標準的な著作権侵害防止技術の押しつけは非常に危ない。いたちごっこで不断の変更を余儀なくされる著作権侵害防止技術に対し、標準を定めて皆に選択の余地なく押しつけることは、まずもって、天下り役人の利権をムダに拡大し、無意味に技術の発展を阻害することにしかつながらないのである。

 ネットにおける責任・リスク・権利のバランスの取り方は非常に難しく、まだ技術が発展途上であることもあり、当分は浮ついた検討が続く可能性が高いが、この点については、検閲の禁止や表現の自由から技術による著作権検閲の危険性を考えるという、もっと根本的なところからの逆検討がそろそろ本格的に始められても良い頃合いではないかと私は感じている。

 また、「3.著作権法におけるいわゆる「間接侵害」への対応について」の「(5)検討結果」では、

 侵害行為の主体に関する問題は複雑化していることから、侵害行為を抑制するとともに、利便性向上によるコンテンツの新たな需要を喚起するようなサービス等を安心して提供できるようにすることが必要である。また、この問題に関する裁判例は、必ずしも一致した認識に基づいているとは考えられない。
 したがって、著作権法上のいわゆる「間接侵害」の明確化に関する検討を早急に進め、行為主体の考え方を始め差止請求の範囲を明確にすること等が必要である。

と書かれている。この点については、単に明確化とされているのでそれほど問題はないと思うが、個人的には、念のため、現行の条文におけるカラオケ法理や各種ネット録画機事件などで示されたことの全体的な整理以上のことをしないよう釘を刺しておきたいと思っているところである。確かに今は直接侵害規定からの滲み出しで間接侵害を取り扱っているので不明確なところがあるのは確かだが、現状の整理を超えて、明文の間接侵害規定を作った途端、権利者団体や放送局がまず間違いなく山の様に脅しや訴訟を仕掛けて来、今度はこの間接侵害規定の定義やそこからの滲み出しが問題となり、余計かつ危険な混乱を来すことは目に見えているのだ。

(なお、具体的な内容が分からないので、何とも言えないのだが、「4.国際的な制度調和等について」で、合意形成に向けた取組を進めるとされている、「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)(仮称)」も注意しておいた方が良いだろう。国際条約であることを良いことにこっそりとロクでもない検討をしている疑いがある。)

 これらの点は、法改正に向けてフェアユースほど踏み込んだ書き方がされている訳ではないが、フェアユースと一緒にパブコメで触れる必要があると私は思っている。

 次回は、ダウンロード違法化問題に関する補足のエントリを書きたいと思う。

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2008年10月30日 (木)

第124回:知財本部によるフェアユース導入の提言

 昨日(10月29日)、知財本部で第9回の知財規制緩和調査会(正式名称は、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」)が開催され、日本版フェアユースの導入を含む報告書案がほぼ了承された(47NEWSの記事internet watchの記事日経TechOnの記事日経PC Onlineの記事参照)。

 各種記事によると、これからパブコメにかかるらしいが、既に報告書案(pdf)知財本部のHPで公開されているので、その中で最も大きいフェアユース導入提言部分、「Ⅱ.権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」の「5.検討結果」の内容を以下に引いておきたいと思う。

(1)権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入について
 現行の著作権法は、著作物の公正な利用を図るという観点から、個別具体の事例に沿って権利制限の規定を定めている。しかしながら、近年の技術革新のスピードや変化の速い社会状況を考えれば、個別の限定列挙方式のみでは適切に実態を反映することは難しく、著作権法に定める枠組みが社会の著作物の利用実態やニーズと離れたものとなってしまうという懸念がある。
 例えば、情報通信技術を活用した新しい産業の創出という観点からは、現行の著作権法では個別の制限規定が想定していない新規分野への技術開発や事業活動について萎縮効果を及ぼしているという問題がある。この点については、本専門調査会のヒアリングにおいて、事業者から同旨の意見があったほか、権利制限の一般規定は著作物の利用のルールを事後に決するというものであって、それを導入することにより、創造的な事業への挑戦を促進すべきという意見もあった。
 また、ネット上の写真・動画への写り込みやウェブページ印刷などの行為は、形式的には違法となるが、権利者の利益を実質的に害しているとは考えられず、また、社会通念上も違法とすべきとは考えられない
 一方、本専門調査会のヒアリングでは、権利者からは、一般規定の導入により違法な利用行為が蔓延するのではないか、また、司法の判断によってしか解決できないこととなる結果、権利者に更なる負担を強いることになるのではないかという意見があった。

 以上のことから、個別の限定列挙方式による権利制限規定に加え、権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で、公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)を導入することが適当である。
 ただし、一般規定の導入に当たっては、
i) 日本人の法意識等に照らしリスクを内包した制度はあまり活用されないのではないか、
ii) 様々な要素により社会全体のシステムが構成されており、経済的効果について過大な期待をかけるべきではないのではないか、
iii) 一般規定の導入により結果として違法行為が増加することが懸念され、訴訟コストの増加も含め権利者の負担が増加するのではないか、
iv) 法体系全体との関係や諸外国の法制との間でバランスを欠くことはないか、
という点を踏まえつつ、実際の規定振りを検討する必要がある。

(2)個別規定と一般規定の関係
 権利制限の一般規定については、どのような場合が権利者の利益を不当に侵害しない公正な利用となるかは紛争当事者の主張・立証による裁判所の審理を通じて明らかになることとなる。
 一方、権利制限の個別規定は、審議会等の場での多数の有識者による審議や国会の手続きを経て確立された著作物の利用のルールであると言える。このため、利用者側の予見可能性や適正・迅速な裁判の確立という観点からすれば、法改正までの時間はかかるものの、個別具体的な規定の方が望ましいと考えられる。
 したがって、権利制限の一般規定が定められた後も、著作権法の体系においては引き続き、必要に応じて権利制限の個別規定を追加していくことが必要である。

(3)一般規定の規定振りについて
 一般規定の実際の規定振りについては、予見可能性を一定程度担保するためにも「公正な利用は許される」のような広範な権利制限を認めるような規定ではなく、「著作物の性質」「利用の目的及び態様」など具体的な考慮要素を掲げるべきである。

 権利者団体からの横槍が入ったものの、無事、日本版フェアユース規定を導入することが適当と、知財本部にしては珍しく踏み込んだ表現で、フェアユース導入が提言された。個別の権利制限を置き換える話ではないことも確認され、今後の検討は実際の規定振りに移ることとされている。これで、日本版フェアユース規定の導入がかなりの現実味を帯びてきた。

 ただ、この知財本部のフェアユース導入の「提言」は、単に行政レベルでの提言に過ぎず、これからどうなるかは全く予断を許さない。報告書案には、ネット事業者の意見と、著作権団体の意見しか書かれておらず、利用者の視点は当たり前のようになく、この報告書案もパブコメにかかったところで、一ユーザーから見た一般フェアユース条項の意味とを示し、導入賛成の意見を出さなくてはならないと私は感じている。一般フェアユース条項の導入で即刻何かが変わるというものでもないが、一般フェアユース条項は、情報化社会では、一般ユーザーも含め次第に大きな影響を及ぼして行くに違いないのだ。また、実際に条文を作る際にはアメリカの規定を大きく参考にすることになるのだろうが、規定振りをどうするかという点も非常に重要な点である。

(なお、最近の文化庁のダウンロード違法化の「決定」も同じく、行政レベルでの方針決定(去年の12月以来文化庁がしぶとく方針を変えていないだけなので、「決定」というより「確認」とでも言うべきところだろうが)に過ぎず、どうなるかはまだ何とも見えない。もう少し小さなレベルの法改正事項なら、全く何の議論にもならず国会でも素通しされる可能性が極めて高いのだが、あれだけの大騒ぎになったことを無視して最後までごり押しするのは、文化庁と権利者団体が全力でつるんでも至難ではないかと私は思っている。ダウンロード違法化や一般フェアユース条項導入のような大問題に関しては常に予断は出来ない。)

 この報告書の他の部分、DRM回避や、プロバイダー責任制限、間接侵害などに関する項目には、かなり危ういことも書かれているので、即刻パブコメにかかるようであれば、次回は、引き続きこの報告書案に関する突っ込みを、そうでなければ、ダウンロード違法化問題に関する補足を書きたいと思っている。

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2008年10月26日 (日)

第123回:フランスのデジタル経済成長計画「デジタルフランス2012」に関する補足

 この「デジタルフランス2012」(政府の公表ページ)で、補償金問題に関して、私的複製によって生じる経済的不利益の補償という補償金の意味を勝手に裏返して、文化的創造に必須のリソースであると書くなど、フランス政府も「複製=対価」の著作権神授説に相当蝕まれていると見える。政府がこのような立場を取っている限り、フランスでも私的複製問題はもめ続けることだろう。本来、この何ら客観的根拠を持たない私的複製補償金がフランスの権利者団体の収入の3分の1を占め、団体が補償金にしがみつかざるを得なくなっている状況の方が異常と思わなくてはならないはずだが。

 さて、今回は前回に続き、この計画中のその他の知財関連事項を少し紹介しておきたいと思う。まず、知財・コンテンツ関連の項目を多く含む、この計画の「2.デジタルのコンテンツの提供と製作を促進する」の項目を以下にざっと訳出する。(前回分もそうだが、翻訳は拙訳。)

2. Developper la production et l'offre de contenus numeriques

2.1 Ameliorer la diffusion des contenus cinematographiques, audiovisuels et musicaux

Action n°31 : Organiser un banc d'essai des technologies de marquage de contenus, en vue d'en faire mieux connaitre les performances aupres de l'ensemble des acteurs et d'en promouvoir ainsi l'usage.

Action n°32 : Creer un observatoire public des technologies de marquage de contenus.

Action n°33 : Constituer un groupe de travail, sous l'egide de l'autorite de regulation des mesures techniques (ARMT), dans le but de proposer un mode operatoire propre a la detection de contenus sous droit sur les sites d'hebergement en vue de leur protection et de leur valorisation.

Action n°34 : Creer un repertoire national des oeuvres protegees, ouvert a toutes les technologies de protection des oeuvres, permettant a tout ayant droit de declarer ses contenus sous droits et a toute plate-forme de connaitre les oeuvres protegees.

Action n°35 : Veiller au raccourcissement des delais de mise a disposition des contenus audiovisuels et generaliser la distribution numerique de musique sans dispositifs de protection bloquants conformement aux accords signes a l'Elysee le 23 novembre 2007.

Action n°36 : Favoriser la redaction et promouvoir une charte d'engagement des acteurs du web 2.0 a respecter le droit d'auteur et a mettre en oeuvre les principes techniques de protection des contenus, dans le prolongement des accords de l'Elysee et en lien avec les travaux du Conseil superieur de la propriete litteraire et artistique (CSPLA).

Action n°37 : Saisir le Conseil de la concurrence en vue de formuler, en s'appuyant sur l'expertise de l'ARCEP et du CSA, un avis sur les relations d'exclusivite entre activites de fournisseurs d'acces au reseau et de distribution de contenus et de services, portant notamment sur l'opportunite d'un cadre juridique specifique. L'ARCEP et le CSA pourront, a cette occasion, mener leurs travaux de facon concertee.

Action n°38 : Contribuer activement a la definition de standards interoperables permettant la protection de contenus audiovisuels et cinematographiques.
...

2.デジタルのコンテンツの提供と製作を促進する

2.1映画、映像、音楽コンテンツの配信を改善する

行動計画第31番:全プレーヤーのパフォーマンスを良く判断し、その使用を促進するため、コンテンツのウォーターマーク技術の試験場を作る。

行動計画第32番:コンテンツのウォーターマーク技術に関する公的なオブザーバー組織を作る。

行動計画第33番:その保護と評価を行い、インターネットにおける権利に基づくコンテンツ検知に適切なやり方を提案する目的で、技術的手段管理機関の下にワーキンググループを設置する。

行動計画第34番:全ての権利者が、その権利の下にあるコンテンツを宣言でき、あらゆるプラットフォームが何が保護される作品であるかを知ることができる、保護を受ける作品リストを国家レベルで作る。

行動計画第35番:2007年11月23日にエリゼ宮でサインされた協定に合致する保護ブロッキング手段を用いることなく、映像コンテンツを入手可能とする遅延期間を短くし、音楽のデジタル配信を普遍化することを目指す。

行動計画第36番:文化芸術財産権高等評議会(CSPLA)と協力し、エリゼ宮協定の延長線上にある、コンテンツ保護の技術的原則を実現し、著作権を尊重する、Web2.0プレーヤーとの契約の作成を促し、その締結を進める。

行動計画第37番:特別な法的枠組みの機会に基づき、ARCEP(電気通信郵便規制機関)とCSA(視聴覚高等評議会)の評価を基に、インターネットサービスプロバイダーの活動と、コンテンツ配信の間の排他的関係に関する意見を競争評議会に求める。その際、ARCEPとCSAは、その作業を協力して行って良い。

行動計画第38番:映像・映画コンテンツの保護を可能とする相互運用可能な標準の定義に積極的に寄与する。

(2.の後略部分の概要:
2.2 過去のパブリックコンテンツを配信する・・・公共データへのアクセスのための単一ポータルサイトを作ること、フランス語圏諸国で協力を進めること、「孤児」と呼ばれる作品の利用に障害を生じさせない方法を研究すること、フランスの文化機関がパブリンクドメインの作品を利用する際の条件を定義することなど(行動計画第39~42番)。

2.3 データに関するネット事業者の責任を明確化する・・・ネットサービス事業者の責任を明確にし、権利者とプラットフォームプレーヤーとの間の協力に枠組みを与えること、スパムやフィッシング対策を進めること、プラットフォームにおけるデータ保護並びに人格毀損や中傷的なビデオの削除に関する勧告を発することなど(行動計画第43~45番)。

2.4私的複製委員会を改革する(前回参照。)

2.5 文章と出版の配信を確かなものとする・・・デジタルコンテンツの相互運用性に関する条件を決定するため、専門的な研究を組織すること、価格の決定に関する共通ルールを提案するために、市場メカニズムに関する調査を推進すること、物理媒体の場合に既に適用されている消費税をデジタルブックにまで拡張することについてヨーロッパレベルで調査を推進すること、図書館におけるデジタル利用の条件を改善することなど(行動計画第53~55番)。

2.6ビデオゲーム分野を開発する・・・ヨーロッパ視聴監督機関に、ビデオゲーム分野を追加することを提案すること、プログラムとの混乱が見られ著作権法上不明確となっている、ビデオゲームの法律的取扱いを明確にすること、フランスの制作会社への就職を促すために学生への情報提供を改善すること、ビデオゲーム補助に特化した地域ファンドの創設を促すことなど(行動計画第56~62番)。

2.7 プログラム分野を開発する・・・プログラムに関する情報網を作ること、プリインストールシステムと、プログラムの価格の分離表示を推進すること、PCと利用プログラムの分離販売を可能とすることなど(行動計画第63~65番)。

2.8 携帯利用の非接触サービスを奨励する・・・2009年に電子マネーサービスなどの携帯非接触サービスを含むセットサービスを開始することなど(行動計画第66~70番)。

2.9 デジタルシミュレーションの開発と利用を加速する・・・行動計画スーパーコンピューターを用いたシミュレーション研究をより推進することなど(行動計画第71~75番)。)

 DRMの技術開発自体は別に悪いことではないが、DRMと規制の絡みは非常にやっかいであり、3ストライク法案のことも考えると、フランスがまた変なDRM規制を言い出して来ないとも限らないことには注意が必要だろう。また、「正規品の豊富な提供こそ、海賊に対する最高の防塞である」のは本当にその通りだと思うが、既存のビジネスモデルにしがみつく権利者側にネット配信までの遅延期間を短縮させることは至難だろうし、コンテンツDBは、日本での検討を考えても、コストの面から頓挫するのではないかと思われる。そして、フランスの計画でチラホラ散見される通信・放送とコンテンツに関する競争政策的な観点は非常に重要なのだが、日本では規制業種と癒着した政官によって、この観点が常にスルーされる傾向があるのは極めて残念なところである。

 また、「3.デジタルサービスと利用を多様化する」という章では、電子ID国民カードの開発などいわゆる政府の電子化に関する取り組みや、学校教育におけるデジタル利用の促進の話などが書かれているのだが、その中の「3.2 個人データの保護を保証する」には、以下のような、個人データ保護に関する項目が並んでいる。

Action n°79 : Inviter le groupe de travail, mis en place dans le cadre du Conseil national de la consommation, en coordination avec la CNIL, sur la protection des donnees personnelles a rendre ses propositions au 1er semestre 2009.

Action n°80 : Inviter la CNIL a mettre en place une campagne de sensibilisation "informatique et libertes".

Action n°81 : Inciter a l'elaboration, sur les plans europeen et international, de recommandations, voire de standards definissant une duree de conservation maximale des donnees personnelles detenues par les moteurs de recherche.

Action n°82 : Promouvoir la protection des donnees personnelles au plan international.

行動計画第79番:個人情報保護に関する作業グループ消費全国評議会の枠組みの中に設置し、CNIL(情報自由全国委員会)と協力して、2009年上半期に個人データ保護に関する提案をさせる。

行動計画第80番:CNILに、「情報と自由」に関する啓蒙キャンペーンを行わせる。

行動計画第81番:ヨーロッパ及び国際的な枠組みにおいて、特に、検索エンジンによって保持される個人情報の最大保持期間を定める基準について検討することを求める。

行動計画第82番:個人情報保護を国際的な枠組みへと進める。

 ネットにおける個人情報保護に関する話も極めて重要なのだが、これもまたバランスの取り方が非常に難しいところである。検索エンジンと個人情報保護・プライバシー保護の関係一つ取っても決して簡単な問題ではない。日本でもグーグルストリートビューの話が大騒ぎになっているが、ネットにおける個人情報保護・プライバシー保護問題も、これから国際的な議論が盛り上がるだろうことを見越して考えの整理を進めておいた方が良いかも知れない。

 また、「3.3 あらゆる形式のサイバー犯罪に対抗する」中には、ネット上で販売される海賊版・模倣品に対する対策を強化することや、警察の情報関連犯罪捜査の中央化を進めること、税関検査官や情報専門捜査官の数を増やすこと、インターネット犯罪に関する教育サイトを開設することといった事項に並んで、

Action n°87 : Introduire a l'occasion de la loi d'orientation et de programmation pour la performance de la securite interieure (LOPPSI).
Un delit d'usurpation d'identite sur les reseaux de communications electroniques.
Une disposition permettant, en accord avec les fournisseurs d'acces Internet, de bloquer sur signalement des sites pedopornographiques.
Des peines alternatives d'interet general pour les hackers condamnes sans intention de malveillance.

行動計画第87番:必要に応じて、国内安全パフォーマンス向上・プログラム法を導入する。
(電気通信網におけるID詐取の犯罪化。インターネットサービスプロバイダーの協力を受け、児童ポルノサイトのブロッキングを可能とする規定の導入。悪意なく処罰されるハッカーに対する公益に基づく量刑変更の可能化。)

という項目があるのだが、これは非常にタチが悪い。これは知財の話ではなく、情報・表現規制の話になってしまうが、フランスにおいても、児童ポルノサイトブロッキングのような、運用に困難を極め、バランスを欠く規定が導入されないことを、私は祈っている。

 全フランス国民に高速ネット網へのアクセスを与えるとしていることは、3ストライク法案と矛盾しているようにも思うのだが、この計画には、海賊版対策の強化についても書かれており、フランスが3ストライク法案をあきらめた様子はない。最近のフランスのPC IMPACTの記事1記事2によっても、フランス上院の文化委員会では、第116回で取り上げたEU議会の決定を受けて、強力なフィルタリングの導入と引き換えにネットへのアクセスを残すような修正案や、そもそもEU法にインターネットアクセス権が基本権として明記されている訳ではないとEU議会修正項目の解釈による無視の可能性について検討しているようである。個人的には、フィルタリング強制の修正案も、EU議会修正項目の解釈による無視も、両方ともテクニカルに苦しい気がするが、フランスはEUの主要国の一つであり、どんな強権を発動してくるとも知れない、引き続きフランスの政策動向は要注目である。

 次回は、選挙までまだ少し余裕がありそうなので、ダウンロード違法化問題に関する追加のエントリを書きたいと思っている。

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2008年10月25日 (土)

第122回:私的複製補償金委員会改革を含むフランスのデジタル経済成長計画「デジタルフランス2012」

 前回のついでに少し書いたが、フランス政府(担当大臣はエリック・ベッソン氏)がこの10月20日に、私的複製補償金改革を含む「デジタルフランス2012」なる計画を公表している(フランス政府の公表ページ計画本文ITR MANAGEMENTの記事NetEcoの記事clubic.comの記事参照)で、今回はこの話を取り上げる。

 この計画は、フランスにおけるデジタル経済の発展のため、2012年までフランス人全てに35ユーロ/月以下の値段で512kbit/s以上の高速ネット環境へのアクセスを与えることや、いわゆるホワイトスペースを活用すること、光ファイバー網整備に関する規制を単純化すること、衛星による地上波の再送信を皆が受けられるようにすること、地上デジタル受信機の購入などに対する補助を行うこと、放送のデジタル化によって出来る空き帯域(790-862Hz)を高速インターネットアクセスに使うことなどを軸に、全150項目以上に及ぶ行動計画をまとめたものである。

(ちなみに、この計画によると、フランスの高速インターネットの普及率は61%で、オランダ(74%)、スイス(69%)に比べ欧州内でイギリスと並び3位の後塵を拝しているそうである。また、フランスの放送完全デジタル化予定日は2011年末らしいが、放送側のカバー率が2008年7月時点で82.2%となっているものの、世帯側は着手済みで57.8%に過ぎず、完全デジタル化が済んでいる世帯となると29.9%と低迷し、さらに29.1%は完全アナログの状態に留まるなど、放送のデジタル化ではフランスも苦しんでいることが見て取れる。)

 通信・放送・電波政策に関する計画としても興味深いのだが、ここでは、特に私的複製問題に関する部分として、「2.デジタルコンテンツの提供と製作の促進」(第31~67ページ)から、「2.4 私的複製委員会の改革」の項目を以下に訳して紹介する。

2.4 Reformer la commission pour copie privee

"L'exception de copie privee" est une faculte a laquelle les consommateurs sont tres attaches. La remuneration pour copie privee, qui constitue la contrepartie necessaire de l'atteinte au droit de propriete que constitue l'exception, represente une ressource essentielle pour le financement de la creation culturelle et artistique. Le principe de la fixation de son assiette et de son taux par une commission, composee a parite de representants des consommateurs et des industriels d’une part, et des artistes et ayants droit de la culture d’autre part, conforme au modele dominant dans l’Union europeenne, merite d’etre sauvegarde.

Cependant, plusieurs raisons conduisent a proposer une amelioration du fonctionnement actuel de la commission. La revolution numerique a fait exploser le nombre et la diversite des supports capables de copier les oeuvres. La fixation du montant de la remuneration est devenue plus complexe, amenant la commission a mener un nombre croissant de travaux, dans un calendrier resserre. De nouveaux acteurs sont apparus, qui sont concernes par la copie privee sans etre membres de la commission, comme les fabricants et importateurs de materiels de telephonie mobile. A l'inverse, certains membres de la commission ne participent plus a ses travaux.

Par ailleurs, plusieurs recours ont ete deposes devant les juridictions contre les decisions de la commission. La Commission europeenne mene quant a elle une reflexion sur les adaptations a proposer pour ce dispositif, et les moyens d’eviter une evasion du produit de la remuneration pour copie privee qui decoule de l’achat transfrontalier ("marche gris").

Action n°46 : Afficher le montant de la remuneration pour copie privee du prix de vente, afin de renforcer la transparence et d'informer les consommateurs sur la finalite de la remuneration pour copie privee. Les notices de vente porteraient un message explicatif.

Action n°47 : Doter la commission de moyens propres, affectes a la realisation d'etudes independantes, portant sur l'usage par les consommateurs des supports de copie assujettis a la remuneration.
Cette dotation permettait a la commission d'eclairer le processus de decision en toute objectivite. Les representants des industriels, des consommateurs et des ayants droit demeurent bien entendu libres de produire des etudes complementaires.

Action n°48 : Permettre au president de la commission de demander une seconde lecture d'une decision, cette seconde deliberation devant etre prise a la majorite qualifiee des deux tiers des membres. Cette disposition devrait permettre de faciliter l'emergence de consensus.

Action n°49 : Designer le president de la commission, ainsi que les organisations appelees a proposer des representants au sein de la commission par arrete conjoint des trois ministeres concernes.
Cette mesure permettra de renforcer la legitimite de la commission. Les organisations representatives des "industriels", "consommateurs" et "ayants droit" seront ainsi designees par arrete conjoint du ministre charge de la Culture, du ministre charge de l'Industrie et du ministre charge de la Consommation.
Le president pourra etre nomme parmi les membres du Conseil d’Etat, de la Cour de cassation ou de la Cour des comptes, par arrete
conjoint des trois ministres.

Action n°50 : Introduire la disposition selon laquelle un mandat de membre se perd de plein droit, en cas de trois absences consecutives non justifiees aupres du president.
Cette mesure permettra de renforcer l’assiduite aux reunions.

Action n°51 : Ouvrir la commission aux secteurs de l'economie nouvellement assujettis.
Cette mesure ne necessite pas de modification normative. Elle pourra etre mise en oeuvre a l’occasion du prochain renouvellement, au printemps 2009, des organisations designees pour sieger au sein de la commission.

2.4 私的複製委員会の改革
 「私的複製の例外」は、消費者に非常に密接に結びついた権能である。私的複製補償金は、例外によって生じる知的所有権の被害に対する必要な補償を構成するものであり、文化的芸術的創造の出資に必須のリソースとなっている。消費者とメーカーによって片側が代表され、アーティストと著作権者がもう片側を代表する委員会による、その対象と料率の決定原理は、EUにおける多数派のモデルにかなっており、救われるに値する。

 しかしながら、多くの理由から、この委員会の現在の仕組みの改善を我々は提案する。デジタル革命は、作品を複製することのできる媒体の数と多様性を爆発的に増やした。補償金の額の決定はより複雑になり、タイトなスケジュールの中での、委員会の仕事の数が増えることとなった。携帯電話のメーカーや輸入者など、委員会のメンバーになっていないが、私的複製問題にかかわる新たなプレーヤーも現れた。反対に、委員会のあるメンバーは、その仕事にもはや参加していない。さらに、様々な訴えが委員会の決定に対して提起されもした。欧州委員会も、これについて、その適切な仕組みの提案をするべく考察を巡らせ、国境を越える購入から生じる私的複製補償金対象の回避(「グレーマーケット」)を避けるための手段を模索している。

行動計画第46番:透明性を高め、私的複製補償金の行き先について消費者に知らせるため、販売価格に対する補償金額の表示を行う。販売表示に説明書きを加える。

行動計画第47番:補償金の対象となっている複製媒体の消費者による用途について、独立した調査を実行する適切な手段を、委員会に付与する。
(この付与は、決定過程を完全に客観的なものとして示すことを委員会に可能とするものである。メーカー、消費者、権利者が補足の調査をすることもまた自由と考える。)

行動計画第48番:委員長は決定の再読を求められるものとし、この2回目の審議は、メンバーの3分の2の多数によって可決されるものとする。この規則で、コンセンサスの形成が容易になる。

行動計画第49番:関係する3省庁の共同省令によって、委員会の委員長、並びに、委員会における代表を提案するべく呼ばれる組織を指定する。
(この手法で、委員会の正当性を強化することができる。「メーカー」、「消費者」と「権利者」の代表組織は、文化担当相、産業担当相、消費者担当相の合同令によって指定される。
委員長も、3省合同令によって、国務院、破棄院あるいは会計院のメンバーから指名される。)

行動計画第50番:委員会における、正当化されない3回連続の欠席により、メンバーの代理権は失われるとする規定を導入する。
(この手段により、集会への精励を促進することができる。)

行動計画第51番:新たに対象となる経済分野の者に対して、委員会を開く。
(この手段は、法令改正を必要としない。委員会に参加する組織を新たに指定する、2009年の春の次のメンバー入れ替えの機会に実施できる。)

 第105回で書いたように、消費者の訴えにより、行政裁判所で私的複製補償金委員会の決定が一部破棄する決定が下されるなど、補償金問題が炎上して来ているために、フランス政府はこのような改革提案をして来たと見える。この計画を見る限り、フランス政府としては、補償金問題について、対象と料率を決定する私的複製補償金委員会の改革でお茶を濁したいと見えるが、この程度では、フランスにおける補償金問題の火の手が収まることはないのではないかと私は思う。

 補償金額を表示(莫大な補償金を徴収しながら、フランスはこの程度のこともやっていなかったのかとあきれるが)した途端、その対象と額に対する消費者の怒りはさらに高まることだろうし、消費者が用途に関する客観的調査だけでごまかされることもないだろう。どこの国であれ、消費者が本当に求めているのは、媒体の用途に関する客観的調査のみではなく、それを踏まえた私的複製による権利者に対する実害の客観的調査である。関係省庁の合同令によってメンバーを指定するのは良いが、権利者団体が、歪み切った「複製=対価」の観念に基づき何でもかんでも補償金の世界を主張し、消費者が、私的複製によって生じた権利者の実害に基づく対象と額の決定を主張し、メーカーがDRMの普及促進による補償金縮小を主張するという、各者のスタンスの完全なすれ違いの状況は、欧州でも日本でも変わりはなく、例え決定の再読を委員長が求めたところで、そもそものスタンスが違うところでコンセンサスを取ることは不可能に近いに違いない。(権利者側のメンバー比率を3分の2以上にすれば話は別だが、それこそ不当の極みであって、3省庁の合同指定ではそのような比率はまず通らないだろう。)

 この計画は計画の段階に過ぎず、この通り実現されるかどうかもあやしいが、フランスの消費者・国民も、この程度のお茶濁しの改革でごまかされることはないだろうし、フランスでも補償金問題の火はまだまだ燃え続けることと私は予想する。

 このデジタルフランス2012にはもう少し知財関連事項が含まれているので、次回も続けて、この話の補足を書きたいと思っている。

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2008年10月22日 (水)

第121回:青少年ネット規制法の施行令案パブコメ募集

 大騒動になったあげく、ユーザーから、ネット企業から、メディア企業から、とにかくあらゆる者から大反対されながらも、有害無益なプライドと利権の確保を最優先する寄生議員と規制官庁の思惑のみから成立した法律が青少年ネット規制法(正式名称は、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」)であるが、その施行令が11月16日〆切でパブコメにかかっている(電子政府の該当ページ総務省のリリース意見募集概要意見募集要領インターネット投稿フォームITmediaの参考記事参照)。

 施行令案概要)自体は、以下のような携帯電話フィルタリング義務、PC等のフィルタリング容易化義務等について以下のような例外を定める、シンプルなものである。

○携帯電話ネット接続フィルタリング義務の例外(法律第2条第7項):

  • ブラウザによる閲覧のために提供されていない場合
  • 企業や団体に提供される場合

○インターネットサービスプロバイダー(ISP)の、申し出に応じたフィルタリングソフトあるいはサービスの提供義務の例外(法律第18条):

  • 契約者数5万未満

○インターネット接続機器メーカーの、フィルタリング容易化義務の例外(法律第19条):

  • 機器にあらかじめブラウザが組み込まれていない場合
  • 機器の使用が十八歳以上の者に目視により監視される蓋然性が高いと認められる場合として経産省告示で定める場合
  • 機器が専ら事業のために使用されると認められる場合
  • 前年度の機器の販売数量1万台未満(機器の種類は、経産省告示で指定)

 総務省が、その規制事前評価書要旨)において、自分たちの大臣要請によって生じた混乱のことも忘れ、ぬけぬけと携帯電話におけるフィルタリングは既に概ね実施されており、携帯電話事業者に大きな追加費用は発生しないと書いていることも腹立たしいが、利用者に追加コストが発生しないとしている点はさらにいただけない。「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又は青少年有害情報フィルタリングサービスを提供(紹介)することが求められるため、事務手続の見直しや適切なサポート体制構築のための費用が発生する。また、自ら青少年有害情報フィルタリングサービスを新たに提供する場合には、そのための費用も必要となる」のであれば、ISPも別に慈善事業ではないのだから、そのコストは必ず利用者に転嫁されるのである。5万という数字の根拠も不明である。

 経産省の規制事前評価書要旨)では、販売台数基準を10万台とする案と1万台とする案を比較して1万台という案を選択しているが、10万台としたときのカバー率がPCで9割としながら、1万台としたときのカバー率を書いておらず、また、フィルタリング容易化としてどこまで追加コストが発生するのかの詳細も不明であり、一体どういう評価をしたのだか、さっぱり良く分からない。また、この規制には、PCのみならず、ブラウザを組み込んだ各種携帯デバイスなどの機器も含まれるだろうことも忘れてはならない。細かな機種指定を行うだろう経産省告示もまたこの規制において非常に重要な意味を持ってくることに注意が必要である。

 しかし大体、フィルタリングサービスであれ、ソフトであれ、今のところフィルタリングに関するコスト・メリット市場が失敗していない以上、かえって必要なことは、不当なフィルタリングソフト・サービスの抱き合わせ販売の禁止によって、消費者の選択肢を増やし、利便性と価格の競争を促すことだろう。今の法規制は、一部の寄生議員と規制官庁の暴走の結果としか思えず、一ユーザー・一消費者・一国民として私は全く評価できない。

 このフィルタリング規制が具体的にどのような影響を及ぼすかは、実際に運用されて行かないと分からないところもあるが、どこをどう運用しても、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売を助長し、その選択肢を潰して消費者・国民全体の不利益を拡大する方向にしか、例え大した利権とならないとしても、不当な規制による不競争利益を山分けにすることをその基本構造とする、政官業の不透明な癒着による腐敗をさらに押し進める方向にしか働きようはないのではないかと私は思う。

 本来政令レベルで言うことではないのだが、私は、次の法改正時に速やかに法律の廃止が検討されるべきであるということに加え、規制を理由にした不当な便乗商法に対する監視を強め、フィルタリングソフト・サービスの不当な抱き合わせ販売については独禁法の適用を検討すること、規制対象機種を指定する経産省告示もきちんとパブコメにかけることなどを意見として出そうと考えている。(私のパブコメは提出次第ここに載せるつもりである。)

 最後に少し最近のニュースの紹介もしておくと、まず、内閣府では、「青少年インターネット環境の整備等に関する検討会」なる検討会が始まった(internet watchの記事内閣府のHP参照)。何が出てくるのか知れないが、恐らくこの検討会が、青少年ネット規制法の第12条に規定されている「青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画」のベースを作りに来ると思うので、注意しておくに越したことはないだろう。

 また、スペインのExpancion.comの記事delitosinformaticos.comの記事によると、スペインではバルセロナ地裁が、検索エンジンは著作権法上合法という判断を下したようである。

 次回は、デジタルフランス2012と称する、私的複製補償金の改革を含む通信政策提案(無論、補償金問題をメインポイントとしている訳ではないが)がフランス政府から昨日(10月20日)公表された(フランス政府の公表ページITR MANAGEMENTの記事NetEcoの記事clubic.comの記事参照)ので、この話を取り上げたいと思っている。

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2008年10月20日 (月)

目次4

 単なる目次のエントリその4である。(この変わり映えのしないブログを読んで下さっている方々に感謝。)

 次のエントリもじきに載せるつもりだが、47NEWSの記事internet watchの記事ITproの記事などによると、今日10月20日の文化庁・私的録音録画小委員会で、報告の骨子案が示され、iPod課金は先送りとなったものの、録音録画のダウンロード違法化についてはしぶとく来年の法改正を目指して報告書をまとめる方針とされたようである。最終的な報告書を見るまで何とも言えないが、去年壮絶なパブコメ無視をしたあげく、今年このような重要な法改正事項を含む私的録音録画小委員会の報告書をパブコメにかけようとしないなど、相変わらず文化庁の態度は国民をバカにしているとしか思えない。文化庁がこのような方針だとすると、第119回で取り上げた法制小委員会のパブコメの重要性は否が応でも高まる。時勢上あらゆることは流動的だが、できる限りのことをして行きたいと私は思っている。(追加参考記事:ITproの記事2ITmediaの記事。)

第91回:中国・韓国・台湾・インド・ベトナムの私的複製関連規定(2008年5月 7日)

第92回:文化庁からただよう腐臭(2008年5月 9日)

第93回:知財本部・知財規制緩和調査会の資料の紹介(2008年5月13日)

第94回:B-CASと独禁法、ダビング10の泥沼の果て(2008年5月15日)

第95回:特許政策に関する動向あるいはiPS細胞狂想曲(2008年5月19日)

第96回:ネット規制法と児童ポルノ規制強化法の自民党案と民主党案の比較(2008年5月25日)

第97回:ドイツの知財法改正(プロバイダー責任制限・コスト付加型の情報開示手続の整備)(2008年5月27日)

第98回:文化審議会という茶番(2008年5月30日)

第99回:フィルタリング利権の確保に走る自民党と民主党(2008年6月 3日)

第100回:児童ポルノ所持の取り締まりという現代の魔女狩り(2008年6月 7日)

第101回:ネット規制法案全文の転載(2008年6月11日)

第102回:カナダの著作権法改正案(2008年6月17日)

第103回:知財計画2008の文章の確認(2008年6月20日)

第104回:フランスの3ストライクアウト法案(2008年7月 5日)

第105回:欧州著作権関係動向2題(欧州委員会による著作権料徴収団体間の競争の決定・実演家保護期間延長の提案と、フランス行政裁判所による補償金に関する政府決定の一部破棄)(2008年7月18日)

第106回:IPアドレスはプライバシーか。(2008年7月30日)

第107回:経産省「技術情報等の適正な管理の在り方に関する研究会」報告書(2008年8月 6日)

第108回:公職選挙法とネットの関係(2008年8月11日)

第109回:総務省「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」に対する意見(2008年8月12日)

第110回:著作物再販制度の謎(2008年8月21日)

第111回:アメリカの3つの重要裁判(私的複製の範囲の広がり・オープンソースライセンスの有効性・フェアユースの重要性)(2008年8月26日)

第112回:警察庁・出会い系サイト規制法ガイドラインと施行規則の改正案(2008年8月31日)

第113回・警察庁・出会い系サイト規制法ガイドライン案に対する提出パブコメ(2008年9月 4日)

第114回:知財関連の予算要求(2008年9月 9日)

第115回:EUでの私的複製補償金に関する関係者への新たな意見募集への回答(2008年9月14日)

第116回:EU議会によるフランスの3ストライク法案の否定(2008年9月30日)

第117回:アメリカにおけるフェアユースの要件(2008年10月 4日)

第118回:PCを私的複製補償金の対象外とするドイツ最高裁の確定判決・フランスの3ストライクアウト法案の今後(2008年10月 9日)

第119回:文化庁・著作権分科会・法制問題小委員会の中間まとめと過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理に対する意見募集の開始(2008年10月14日)

第120回:アメリカで成立した知財改正法(PRO-IP法)(2008年10月18日)

<番外目次>
番外その11:「日本の奇怪な審議会(有識者会議)システム(第89回)」についての津田大介氏のコメント(2008年5月16日)

番外その12:ユーザーから見た放送・音楽業界のビジネスモデルに対する疑問(2008年5月23日)

番外その13:欠陥放送規格ダビング10(2008年6月26日)

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2008年10月18日 (土)

第120回:アメリカで成立した知財改正法(PRO-IP法)

 前回の追記で少し書いたが、残念ながら、アメリカで知財法の改正が大統領の署名を得て成立してしまったので、今回は、このアメリカの法改正について突っ込みを入れておきたいと思う。(前回、WIREDの記事PC MAGAZINEの記事へリンクを張ったが、さらに日本語の参考記事として、CNETの記事AFPの記事IP NEXTの記事に、英語の参考記事として、ホワイトハウスのプレスリリースへのリンクを張っておく。)

 一番のトンデモ改正事項であった司法省(国家)に民事訴訟提起権を与えるという事項こそ削除されたものの、この改正法で創設される知財エンフォースメントコーディネーターが何をしてくるか得体の知れないところがあるのも確かに事実である。

 このPRO-IP法(正式名称は、"Prioritizing Resources and Organization for Intellectual Property Act"、直訳すれば、「知財のためのリソース・組織強化法」になるが、単なる語呂合わせで決めた名前だろう。原文はアメリカ著作権局のpdfファイルアメリカ議会図書館の改正法案ページなど参照。現行のアメリカ著作権法の条文も著作権局のHPで見られる。)の章立ては以下の通りである。

第1章 民事知財法の強化
第2章 刑事知財法の強化
第3章 知財侵害に対する連邦の取り組みの調整と戦略的プランニング
第4章 司法省強化プログラム
第5章 その他

 第1章では、民事事件において、著作権侵害品だけではなく、製造販売の記録なども押収できるとすること(改正法の第102条:著作権法の第503(a)条の改正)や、商標法の法定賠償額を倍額に引き上げること(第104条:商標法の第53(c)の改正。なお、去年最もトンデモ視されていた、著作権法における法定賠償額の計算方法の変更は入っていない。)、著作権侵害品の輸入だけではなく輸出も侵害とすること(第105条:著作権法第6章の改正)などが書かれている。

 また、第2章では、刑事事件における没収などについて、知財(商標・著作権)侵害品と侵害品を製造するための道具・デバイス・装置について可能と今まで割と限定的な書き方がされていたものを、侵害品と侵害品の製造・取引に使われるあらゆる物品などと漠然とした書き方に変え、侵害によって故意に人の死を引き起こした場合は終身刑まで可能とする(第202~206条:刑法における財産権侵害規定の改正)などの改正を加えている。知財侵害で故意に人の死を引き起こすなどという現実的にあり得るとも思えないケースを想定して最高刑を終身刑とすることもどうかと思うが、特に改正法の第206条の、以下のような、没収物件の規定の曖昧さは、刑事事件や行政事件において、ユーザーやネット事業者にとって相当致命的な運用を招く恐れがあるように私は思う。(アメリカのことなので、最終的には裁判で何らかのセーフハーバーが作られることと思うが、それまでかなりの運用の混乱が生じるのではないだろうか。)

(1) PROPERTY SUBJECT TO FORFEITURE.-The following property is subject to forfeiture to the United States Government:
(A) Any article, the making or trafficking of which is, prohibited under section 506 of title 17, or section 2318, 2319, 2319A, 2319B, or 2320, or chapter 90, of this title.
(B) Any property used, or intended to be used, in any manner or part to commit or facilitate the commission of an offense referred to in subparagraph (A).
(C) Any property constituting or derived from any proceeds obtained directly or indirectly as a result of the commission of an offense referred to in subparagraph (A).

(1)没収対象財産-次の財産は合衆国政府の没収の対象となる:
(A)この章(訳注:刑法)の第2318条、2319条、2319A条、2320条あるいは第90章、又は、第17章(訳注:著作権法)の第506条で禁止されている、あらゆる物品、及び、その製造あるいは取引をするあらゆる物品。
(B)どんな形あるいは部分であれ、、小段落(A)に記載されている犯罪行為をなすか、これを容易とすることに、使用されたか、使用されることを目的としたあらゆる財産。
(C)小段落(A)に記載されている犯罪行為の結果として、直接的であれ間接的であれ得られた利益を構成するか、そこから派生した財産。

 第3章には、知財エンフォースメントコーディネーターなどについて規定されているのだが、その第301条の規定に、

SEC. 301. INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT COORDINATOR.
(a) INTELLECTUAL PROPERTY ENFORCEMENT COORDINATOR.-
The President shall appoint, by and with the advice and consent of the Senate, an Intellectual Property Enforcement Coordinator (in this title referred to as the "IPEC") to serve within the Executive Office of the President. As an exercise of the rulemaking power of the Senate, any nomination of the IPEC submitted to the Senate for confirmation, and referred to a committee, shall be referred to the Committee on the Judiciary.

(b) DUTIES OF IPEC.-
(1) IN GENERAL.-The IPEC shall-
(A) chair the interagency intellectual property enforcement advisory committee established under subsection (b)(3)(A);
(B) coordinate the development of the Joint Strategic Plan against counterfeiting and infringement by the advisory committee under section 303;
(C) assist, at the request of the departments and agencies listed in subsection (b)(3)(A), in the implementation of the Joint Strategic Plan;
(D) facilitate the issuance of policy guidance to departments and agencies on basic issues of policy and interpretation, to the extent necessary to assure the coordination of intellectual property enforcement policy and consistency with other law;
(E) report to the President and report to Congress, to the extent consistent with law, regarding domestic and international intellectual property enforcement programs;
(F) report to Congress, as provided in section 304, on the implementation of the Joint Strategic Plan, and make recommendations, if any and as appropriate, to Congress for improvements in Federal intellectual property laws and enforcement efforts; and
(G) carry out such other functions as the President may direct.

第301条 知財エンフォースメントコーディネーター
(a)知財エンフォースメントコーディネーター
 大統領は、上院の助言と可決を受け、知財エンフォースメントコーディネーター(以下、「IPEC」と略す)を大統領府に任命する。上院の規則制定権に従い、IPECの指名は全て、可決のために上院に送られ、委員会に付託されるが、付託先は司法委員会である。

(b)IPECの責務-
(1)一般的に、IPECは、
(A)段落(b)(3)(A)に規定される省庁横断知財エンフォースメント諮問委員会の委員長を務め;
(B)第303条の規定の下で諮問委員会によって作成される侵害対策戦略総合計画の作成を調整し;
(C)段落(b)(3)(A)で列挙されている省庁の求めに応じて、戦略総合計画の実施を支援し;
(D)知財エンフォースメント政策を調整し、他の法律と一致させるために必要な限度で、省庁の基本的な政策・解釈事項に対する政策的ガイダンスの発行に助言をし;
(E)法律に規定された範囲で、国内外の知財エンフォースメントプログラムに関する報告を、大統領と議会に対して行い;
(F)第304条に規定されているように、総合戦略計画の実施について、議会へ報告し、適切なときに、合衆国における財法とエンフォースメント努力に関する改善について提案を行う。

とあるように、権利の直接エンフォースこそ含まれていないものの、その権限はかなり漠とした形で書かれており、選ばれた人間の政治力次第ではかなりのことが出来ると思われる。特に、議会に直接報告・提言をできる権限は大きいだろう。(なお、この第301条の第(2)段落では、IPECは権利の直接エンフォースをしないことが、第(3)段落では、諮問委員会は知財関連の各省庁から代表が選ばれて構成されることが書かれている。)

 第303条で規定されている総合戦略計画の内容も、知財のエンフォースにおける構造的欠陥を指摘することなど、知財の保護強化のことしか頭になく、このようなコーディネーターや計画の創設は、アメリカを知財のさらなる保護強化へと闇雲に邁進させることにしか、今のアメリカにおける著作権戦争の混乱をなおさら助長することにしかつながらないのではないかというのが私の予想である。(日本の知財本部も保護強化を図ることしかほぼ考えて来なかったことを考え合わせて見ると良い。公正利用の権利制限などの知財規制の緩和が、日本政府内でそれなりの具体性とともに検討され出したのはごく最近になってからのことである。)

 どんな盾にも両面はあるので、知財の行き過ぎた保護強化に伴い生じている問題があるということもまた忘れてはいけない重要な点なのだが、アメリカでも、この認識は政治レベルにまでなかなか浸透しないと見えるのは非常に残念である。

 アメリカ国内だけでやっててくれる分だけなら好きにやっててもらっても良いのだが、国際的な知財エンフォースメントも含めて計画を作り、報告をするとされている点は特に気味が良くない。人によっては日本に対する知財保護強化の圧力が強まることも十分以上に考えられる。きちんとした合理的な判断が出来る人物がこのポストに選ばれることを私は祈っているが、アメリカの政策動向は引き続き要注意である。

(なお、第4章では、知財エンフォースのために各州へ助成金が出されることや、FBIの人員が増強されることなどが規定されている。)

 さて、去年から今年の夏にかけて大騒ぎとなった青少年ネット規制法の政省令案がパブコメ(総務省のプレスリリース電子政府の該当ページinternet watchの記事参照)にかかっているので、次回はこの話を。

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2008年10月14日 (火)

第119回:文化庁・著作権分科会・法制問題小委員会の中間まとめと過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理に対する意見募集の開始

 文化庁から、今年度の法制問題小委員会の中間まとめと過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理の二つがこの9日から、11月10日を〆切としてパブコメにかかっている。(法制小委のパブコメについて、文化庁のリリース電子政府の該当ページ、過去小委のパブコメについても、文化庁のリリース電子政府の該当ページ参照)

 これらには、それぞれ大問題となっている著作権問題の2つの大論点、ダウンロード違法化と保護期間延長の取扱いが含まれており、決して見過ごすことは出来ない。ダウンロード違法化については多少トーンダウンした書き方になっており、保護期間延長についても両論併記の形になっているところを見ると、今回は文化庁もさすがに様々な情勢から様子見と決め込んだものと見えるが、両論点とも単なる先延ばしの記載であり、隙あらば権利者団体とつるんで文化庁が法改正をねじ込んで来ようとすることもまた間違いなく、安心できる状況にはないことを如実に示している。

(1)法制問題小委員会の中間まとめ
 およその内容については、概要を読んでもらっても良いのだが、法制小委の中間まとめの主な論点は以下の5つである。

  • デジタルコンテンツ流通促進法制
  • 私的使用目的の複製の見直し
  • リバース・エンジニアリングに係る法的課題
  • 研究開発における情報利用の円滑化
  • 機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱い

 大した方向性の出ていないコンテンツ流通促進法制に関する検討はともかく(第78回で書いたように、コンテンツ流通促進法制を検討すること自体無意味だと私は思っている。権利者不明の場合の著作物の取扱いは確かに重要だが、コンテンツ流通促進法制と称して大騒ぎをしている話とは論点がずれているだろう。)、私的使用目的の複製の見直しについて、即座にダウンロード違法化をするとは書かれていないものの、意見募集の結果をほぼ無視して大批判を浴び、その後一度もロクに議論していない、平成19年12月時点のペーパーを私的録音録画小委員会の意見募集後の論点整理(第11~12ページ参照)として固定化し、「検討の熟度に応じて段階的に最終的な取扱いを判断」すると、ダウンロード違法化を既定路線としようとしているなど相変わらず油断も隙もない。ダウンロード違法化には今なお完全に反対するという意見を私はまた出すつもりである。(去年の12月時点の話は、第39回参照。)

 また、リバース・エンジニアリングや、研究開発、機器利用時・通信過程における蓄積等の取扱いについて、権利制限を行うとされていることについては、遅きに失した感すらあり、できる限り早期に行ってもらいたいものと思うが、それぞれ、権利制限の範囲が十分かという問題がある。リバース・エンジニアリングの権利制限について、相互運用性の確保や障害の発見等の一定の目的のためのみで良いのか、研究開発について、情報解析分野のみとして良いのかと考えると、必ずしも十分ではないと私は思っているがどうだろうか。(無論、後で他の点も検討すると書いてあるのだが、一旦ある点について法改正をしてしまうと、さらに同じ点について追加の法改正をするということはまず当分有り得ないので、ここも勝負所である。是非、このパブコメには、情報系の研究者のみならず、自然科学一般・人文・社会系の研究者にも意見を出して欲しいと私は思っている。)

(2)過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の中間整理
 やはり概要を読んでもらっても良いのだが、過去小委の中間整理の論点は、以下の4点になるだろう。

  • 多数権利者が関わる場合の利用の円滑化
  • 権利者不明の場合の利用の円滑化
  • アーカイブの円滑化
  • 保護期間延長問題

 中でも一番の大問題が、保護期間延長問題であることは間違いないが、この論点に関する限り、小委員会における完全にすれ違いの議論がほぼそのまま中間整理にも反映され、両論併記で先延ばしの記載となっている。今回は保護期間延長について即座に法改正という様子は無いが、文化庁と権利者団体を除けばほぼ否定的な結論が出そろっているこの問題について、先延ばしとされたこと自体残念であり、ここでも私は、延長に反対し、これ以上検討する必要はないとする意見を出すつもりである。

 他の点は保護期間延長問題と比べるとあまり騒がれていないが、権利者不明の場合の著作物の取扱いや、図書館における資料のデジタル化のための権利制限なども重要な問題である。

 権利者不明の場合の対応については、いまいち実現に向けた具体性に欠けるものの、A案(権利者を捜す相当な努力の後、使用)・B案(努力の後、第3者機関に使用料相当額を支払って使用)として制度的対応の案が書かれており、どちらが良いか、また別な案があるかということを考える必要があるだろう。(個人的には、余計な第3者機関などは無い方が良いと思うが、中間整理をもう少し良く読んで意見を考えるつもりである。)

 また、図書館の権利制限について、国立国会図書館における納本直後のデジタル化を法改正で認める方針とされているが、これも国会図書館のみで良いのかということがある。国会図書館はあらゆる資料の保存という特殊な使命を帯びているのは確かにその通りであるが、他の図書館も、多かれ少なかれ資料の保存を目的としていることに変わりはなく、納本直後の資料のデジタル化を認めても良いのではないだろうか。デジタル化された資料の館内閲覧やコピーサービスのルール等について、関係者間で協議し、通常の利用を妨げず著作者の正当な利益を不当に害しない形にするならなおさらである。

(図書館に関することでは、記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により、SPレコード、5インチフロッピーディスク、ベータビデオのように、媒体の内容を再生するために必要な機器が市場で入手困難となり、事実上閲覧が不可能となってしまう事態が生じていることから、新しい媒体に移し替えて保存する必要があるという問題点が指摘され、これについては解釈変更で対応するとしているのだが、むしろ、こうした複製すら認めて来なかった文化庁の異様に厳格な権利制限の条文解釈にこそ問題があったとするべきだろう。なお、こうしたメディア移行の問題は、まだあまり私的複製問題との絡みでは指摘されていないが、そのうち私的複製問題とも大きく絡んでくることになるだろう。)

 私的録音録画小委員会の中間整理は今回は作られていないようだが、次回の私的録音録画小委員会は10月20日に開催されるようであるので、念のため一緒に紹介しておく。

 まだしばらく出す意見の内容は考えたいと思っているが、私のパブコメは提出次第ここに載せるつもりである。

(10月14日夕方の追記:グーグルのイメージ検索が著作権侵害に当たるという判決がドイツで出され、グーグルは控訴する予定とのcnetの記事があったので、ここにリンクを張っておく。両方とも地裁レベルの話と思われ、確定している訳でもないので、これ以上の紹介はしないが、上位裁判所での確定判決が出されたらまた取り上げたいと思う。なお、この裁判で問題にしているのはイメージ検索のみのようだが、通常の記事に対するグーグル検索は合法との判決がドイツでは最高裁で確定していることを考えると、最終的な判断はまた変わってくるのではないかと個人的には思っている。

 第88回で取り上げたニュージーランドの改正著作権法について、「P2Pとかその辺のお話」で、案の定ニュージーランドでインターネットサービスプロバイダーから反対の声が上がっているとの記事が紹介されているので、興味のある方は是非リンク先ご覧頂ければと思う。

 また、「著作権皇帝」法との批判を浴びているアメリカの改正著作権法は、残念ながらブッシュ大統領の署名によって成立してしまったようである(WIREDの記事PC MAGAZINEの記事参照)ので、次は、この法案(WIREDの記事中の法案(pdf)へのリンク)についてのエントリを書きたいと思う。)

(10月20日の追記(目次4のついでに書いたことの転記):47NEWSの記事internet watchの記事ITproの記事などによると、今日10月20日の文化庁・私的録音録画小委員会で、報告の骨子案が示され、iPod課金は先送りとなったものの、録音録画のダウンロード違法化についてはしぶとく来年の法改正を目指して報告書をまとめる方針とされたようである。最終的な報告書を見るまで何とも言えないが、去年壮絶なパブコメ無視をしたあげく、今年このような重要な法改正事項を含む私的録音録画小委員会の報告書をパブコメにかけようとしないなど、相変わらず文化庁の態度は国民をバカにしているとしか思えない。文化庁がこのような方針だとすると、第119回で取り上げた法制小委員会のパブコメの重要性は否が応でも高まる。時勢上あらゆることは流動的だが、できる限りのことをして行きたいと私は思っている。(追加参考記事:ITproの記事2ITmediaの記事。))

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2008年10月 9日 (木)

第118回:PCを私的複製補償金の対象外とするドイツ最高裁の確定判決・フランスの3ストライクアウト法案の今後

(1)PCを私的複製補償金の対象外とするドイツ最高裁の確定判決
 前回、PCは補償金の対象外とする判決が確定したというニュース(ドイツのWELT ONLINEの記事PC WELTの記事参照)を紹介したが、今回は少しその補足をしておきたいと思う。

 ドイツの最高裁のHPには、判決文が載るはずのリンクがあるのだが、なかなか載りそうにないので、今のところは、最高裁のプレスリリースからその概要について紹介しておきたいと思う。(判決文が読めるようになって何かあればさらに補足するつもりである。)

 この「コンピューターは補償金の対象外(Keine Geratevergutung fur Computer)」というタイトルのプレスリリースによると、PCに対する補償金の支払いを求めて訴えていたのはVG Wort(ドイツの文芸著作権管理協会)であり、訴えられていたのは富士通ジーメンスであるが、この判決では、1台あたり12ユーロ(元々VG WORTが求めていたのは30ユーロ)の補償金支払いを命じた控訴審の判決を破棄し、上告を却下している。特に、その理由の概要の部分には、以下のように書かれている。(翻訳は拙訳。)

Der BGH hat entschieden, dass fur PCs keine Vergutungspflicht nach § 54a Abs. 1 Satz 1 UrhG a.F. besteht, weil diese Gerate nicht im Sinne dieser Bestimmung zur Vornahme von Vervielfaltigungen durch Ablichtung eines Werkstucks oder in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung bestimmt sind. Mit einem PC konnen weder allein noch in Verbindung mit anderen Geraten fotomechanische Vervielfaltigungen wie mit einem herkommlichen Fotokopiergerat hergestellt werden. Soweit mit einem PC Vervielfaltigungen erstellt werden, geschieht dies auch nicht in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung. Unter Verfahren vergleichbarer Wirkung im Sinne des § 54a Abs. 1 Satz 1 UrhG a.F. sind - wie der BGH bereits entschieden hat (BGHZ 174, 359 Tz. 16 ff. - Drucker und Plotter) - nur Verfahren zur Vervielfaltigung von Druckwerken zu verstehen. Soweit ein PC im Zusammenspiel mit einem Scanner als Eingabegerate und einem Drucker als Ausgabegerat verwendet wird, ist er zwar geeignet, Druckwerke zu vervielfaltigen. Innerhalb einer solchen, aus Scanner, PC und Drucker gebildeten Funktionseinheit, ist jedoch - wie der BGH gleichfalls bereits entschieden hat (BGHZ 174, 359 Tz. 9 ff. - Drucker und Plotter) - nur der Scanner im Sinne des § 54a Abs. 1 UrhG a.F. zur Vornahme von Vervielfaltigungen bestimmt und damit vergutungspflichtig. Eine entsprechende Anwendung des § 54a Abs. 1 UrhG a.F. auf PCs kommt - so der BGH - gleichfalls nicht in Betracht. Einer entsprechenden Anwendung dieser Regelung steht entgegen, dass der Urheber digitaler Texte oder Bilder anders als der Autor von Druckwerken haufig mit deren Vervielfaltigung zum eigenen Gebrauch einverstanden ist. Insofern besteht keine Veranlassung, dem Urheber einen Vergutungsanspruch zu gewahren, der lediglich einen Ausgleich fur Vervielfaltigungen schaffen soll, die ohne seine Zustimmung erfolgt sind. Es ware auch deshalb nicht gerechtfertigt, den Anwendungsbereich der Regelung uber ihren Wortlaut hinaus auf Drucker auszudehnen, weil ansonsten die Hersteller, Importeure und Handler sowie letztlich die Erwerber die wirtschaftliche Last der urheberrechtlichen Vergutung fur Gerate zu tragen hatten, die im Vergleich zu den von der gesetzlichen Regelung erfassten Geraten nur zu einem wesentlich geringeren Anteil fur urheberrechtsrelevante Vervielfaltigungen eingesetzt werden.

当裁判所は、PCについては、著作権法第54a条第1段落第1項以下に定められている補償金の支払い義務はないものと決定した。なぜなら、これらの機器は、この規定の意味において、ある作品の複写あるいは同じような働きの処理を通じてなされる複製の実行に特に用いられるものではないからである。PCによっては、単体でも、他の機器と合わさっても、通常のコピー機のように光学的な複製を作成することはできない。PCによって、複製が作成される場合、それは、複写と同じような働きの処理において生じたものではない。著作権法第54a条第1段落第1項以下の意味における、複写と同じような働きの処理を行っているとは-当裁判所が既に決定したように(BGHZ 174, 359 Tz. 16 ff.-プリンターとプロッターについての判決参照)-印刷物の複製処理のみを指すものと解される。PCは、入力装置としてのスキャナーと出力装置としてのプリンターと協働して使用されて始めて、それは印刷物を複写するのに適していると言える。スキャナー、PCとプリンターの中では-同様に、当裁判所が既に決定したように(BGHZ 174, 359 Tz. 16 ff.-プリンターとプロッターについての判決参照)-スキャナーのみが、著作権法第54a条第1段落第1項以下の意味における、複製の実行をしていると認められ、これのみが補償金の支払い義務の対象である。PCに関しては、著作権法第54a条第1段落第1項以下のふさわしい適用もまた無視されてはならないと当裁判所は判断する。印刷物の作者以外のデジタルの文章や写真の著作者は、個々の利用においてこのような複製がなされることに良く同意していると考えられることに、この規定をふさわしく適用することはできない。その同意がない限りにおいて、著作者には、その同意が無ければなされ得ない複製に対する補償として与えられる補償金請求権が認められているのである。したがって、そのことからも、法律の文言における規則の適用範囲をプリンターを超えて拡張することは妥当ではない。さもなければ、製造業者、輸入者、販売者はおろか終いには購入者まで、機器に対する著作権補償金の経済的負担をしなければしなければならなくなってしまうであろうからである。法の規定から把握される機器と比較して、その適用範囲は、著作物に関係する複製に対し、より少なく本質的な部分に限られるのである。

 プレスリリースの概要であるためか、論理的に少し分かりにくいところもあるが、ドイツも補償金に関するゴタゴタにうんざりしたのか、これだけでも、PCとプリンターとスキャナーの3重課金など、欲の皮の突っ張り過ぎもいい加減にしろという語気が伝わってくるようである。個人的にはスキャナー課金すらいかがなものかと思うが、よほどのことがない限りドイツでも少なくとも単体プリンターとPCは、今後も補償金の対象外とされて行くことだろう。(ドイツのプリンターに関する最高裁判決は、第38回で少し触れた。この判決は旧法の適用に関するものであるが、恐らく新著作権法(第15回参照)における補償金額決定においても尊重されることと思われる。)

(2)フランスの3ストライクアウト法案の今後
 第116回で紹介したように、EU議会によって、フランスの3ストライク法案は否定された訳だが、フランスとEUの間で今現在妙な緊張感が高まっているので、その後の話を少し書いておきたいと思う。

 第29回第30回で紹介したように、もともとこの3ストライク法案は大統領レベルで言い出した話なので、そのプライドから引くに引けなかったのか、サルコジ大統領は、先週の金曜日に、この件に関してEU委員会のバローゾ委員長に向けて、3ストライク法案を否定する修正条項の削除に対する助力を求める手紙を送っている。(フランスのecransの記事で手紙の全文が読める。この記事によると、大臣レベルでの交渉もあったらしいが不調に終わったので、このような非常手段に出たものらしい。)

 ところが、この手紙に対しては、この修正条項が88%の多数の議員の支持を受けて成立したものであり、委員会としてはこれを尊重するという断りの説明が、その後EU委員会から発表され、今現在サルコジ大統領としては面目丸つぶれの状態になっているのである。しかも、修正条項の文章は、プライバシーや所有権、情報と表現の自由といった様々な基本的権利の間で正しいバランスが取られる余地が各加盟国に残されるよう入念に書かれたものであり、フランスとしても受け入れられるだろうと思うが、どうしてもと言うなら、フランス政府として、EU理事会において他の26の加盟国の閣僚の前で、修正条項についてのその見解を議論にかけてはどうかと考えるとのだめ押しまでついている有様である。(やはりフランスのecransの記事Le Figaroの記事Nouvel Obsの記事参照。そもそも、記事中のEU委員会の情報とメディア担当スポークスマンのセルマイヤー氏の説明によると、EU議会の議決後は、EU自体のバランスが危うくなる場合しかEU委員会はディレクティブ等の拒否はできないそうであり、この大統領の手紙は実に奇怪なものと言わざるを得ない。)

 Numeramaの記事GNTの記事などを読むと、この修正条項を主導したEU議員のギュイ・ボノ氏も、このようなフランスの動きに対して、「フランス大統領は、欧州市民全体の共通の利益を代表し、推進するものと考えられるところ」、「その代わりに、魔法の杖の一振りで修正条項138を消し去ることを欧州委員会に求めるなど、サルコジはまたも民主主義の妨げとなった」、「自由を殺す法律を無理矢理押し通すために、ここまで民衆の代表を足蹴にするなど、人権の国の大統領に相応しいとは思えない」、「欧州委員会はサルコジの犬ではない」、「サルコジがフランスにおいて君主として振る舞うことに慣れているにせよ、ヨーロッパは彼の王国ではない。」と反発を強め、例えEU理事会で差し戻されたとしても、議会で同じ修正条項をまた入れるとしており、EUとフランスの間のこの件に関する緊張感は当面続くのではないかと思われる事態になっている。

 今後は、11月27日に開かれるEU理事会(各加盟国の閣僚級のメンバーで構成され、各々が拒否権を持っている)で、EU議会へのディレクティブの差し戻しがされるかどうかということが焦点になるが、フランス単独で拒否権を行使するのはかなり難しく、やはり、フランスの3ストライク法案はほぼ完全に葬られたと思って良いのではないかと私は思っている。ただし、EU委員会に直接手紙を書いてしかも拒絶されるというかなりの醜態をさらしたサルコジ大統領が何をやってくるかは想像がつかないところもあり、フランスとEUの動きからは今後も目は離せない。(11月18日にこの3ストライクアウト法案は、フランス上院に回される予定だったそうだが、その予定もどうなるか。そもそも足下の金融危機でEU全体がぐらついている中、マイナーな知財の話で緊張感を高めてどうするのかという気もするが。)

 次回こそ選挙向けの話をと思っているが、解散総選挙が延びそうな気もするので、別な話をまた挟むことになるかも知れない。

(10月20日の追記(第117回に書いたものと同じ):コメントでいろは様から教えて頂いたドイツのIT企業団体BITKOMの補償金裁判まとめ(pdf)によると、確かに、プリンター補償金裁判においてVG WORT側は憲法裁判所にさらに上告しているようであり、PCでも憲法裁判所へさらに上告される可能性があることを考えると、確定というのは言い過ぎだったかも知れない。ただ、憲法裁判所がこのレベルの問題をわざわざ取り上げてプリンターやPCに補償金を賦課しないのは憲法違反だと判断する可能性は相当低く、ほぼ確定していると言っても良いのではないかとも思うので、一応文章はそのままにしておく。(いろは様コメント・情報ありがとうございました。))

(10月30日の追記:いろは様から、この判決は旧法に関するものであり、新法には適用されないのではないかとするコメントを頂いたので、念のために、ドイツ最高裁のプレスリリースの最後の部分も以下に訳出しておく。(ドイツの最近の法改正については、第13回第15回をご覧頂ければと思う。)

Nach der seit dem 1. Januar 2008 geltenden Regelung, die im entschiedenen Fall noch nicht anzuwenden war, besteht ein Vergutungsanspruch hinsichtlich samtlicher Geratetypen, die zur Vornahme von bestimmten Vervielfaltigungen zum eigenen Gebrauch benutzt werden (§ 54 Abs. 1 UrhG). Der Vergutungsanspruch hangt demnach nicht mehr davon ab, dass die Gerate dazu bestimmt sind, ein Werk "durch Ablichtung eines Werkstucks oder in einem Verfahren vergleichbarer Wirkung" zu vervielfaltigen.

本件では適用されないが、2008年1月1日から施行される規定は、特定の用途のために、規定されている複製の実行に使用される、複合タイプの機器に関する補償金請求権を定めている(著作権法第54条第1項)。この補償金請求権はもはやこれに対しては認められない、そこで定められている機器は、「複写あるいは同じような働きの処理を通じて」作品を複製するものなのである。

 確かに判決は旧法の適用に関するもので、今後どうなるかは読みづらいところもあるのだが、今まさに新法の適用をどうするかということでもめている中、このような判決が出されたことはやはり大きいのではないかと私は考えている。)

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2008年10月 4日 (土)

第117回:アメリカにおけるフェアユースの要件

 フェアユースの話はいろいろなところで既に山ほどされているので、あまり書くこともないかと思っているのだが、何かの参考になるかも知れないと思うので、ここでもアメリカにおけるフェアユースの要件の話をしておきたいと思う。

 フェアユースは条文としては、アメリカ著作権法第107条に、以下のように書かれている。(日本語は、著作権情報センターのHPを参考に拙訳。)

§107. Limitations on exclusive rights: Fair use
Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. In determining whether the use made of a work in any particular case is a fair use the factors to be considered shall include -

(1) the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purposes;
(2) the nature of the copyrighted work;
(3) the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole; and
(4) the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work.

The fact that a work is unpublished shall not itself bar a finding of fair use if such finding is made upon consideration of all the above factors.

第107条 排他的権利の制限:フェアユース
 第106条および第106A条の規定にかかわらず、批評、注釈、報道、教育(教室利用の複数コピーの作成を含む)、研究または調査のような目的のための、著作物のフェアユース(コピーまたは録音利用その他第106条に規定されている手段による利用を含む)は、著作権侵害とならない。特定のケースで著作物の利用がフェアユースに当たるか否かを決定する場合には、以下の要素を考慮しなくてはならない-

(1)その利用が商業性を有するかまたは非営利教育目的かを含め、利用の目的および性質;
(2)著作物の性質;
(3)著作物全体に対する利用された部分の量と本質性;
(4)著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響。

上記の全ての要素を考慮してフェアユースが認められた場合、著作物が未公表であるという事実自体は、そのような認定を妨げるものではない。

 wikiにも書かれている通り、このフェアユース規定は、150年以上も前から判例法として確立して来たものを1976年に成文化したということであり、条文を読むと何だか分かったような気にもなるが、アメリカが150年以上かけても、フェアユースの要件はここまでしか厳密化できていないということであり、おそらくこれ以上時間をかけても法律レベルでこれ以上明確化することは難しいに違いない。

 利用が非営利に近ければ近いほど、利用著作物が独立の著作物としての性質を有すれば有するほど、利用された部分が少なく本質的でなければないほど、元の著作物の市場に与える影響が少なければ少ないほど、フェアユースが認められやすくなるということで、山のように判例と解釈がついているが、実際のところ、「公正」とは何かということは社会的なバランスによって決まるしかない以上、この手の一般条項の要件はいくら書いたところで定義はそれほど明確になるものではなく、要するに、判例としてフェアユースとされることが定着しているものはOK、それ以外はケースバイケースということである。

 したがって、結局何がフェアユースかとなると結局例示とならざるを得ないのだが、アメリカでおよそフェアユースの中に入れられているものとしては、条文中にも上げられている例も含め、研究、教育、引用、批評、報道、パロディ、裁判所などの手続きにおける利用、タイムシフト視聴(私的録音録画)、リバースエンジニアリング、検索エンジンなどがあげられるだろう。(無論、それぞれ山ほど注釈がついている。アメリカのフェアユース判例に関しては、知財本部の「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」(第6回)に提出された奥邨教授の資料も参考になるだろう。)

 また、ナップスターのように中央サーバーがあるような形態のP2Pはフェアユースと認められなかったが、その後もその他の形態のP2Pユーザーに対して、ダウンロードをどう考えるかということも含め、泥沼の訴訟合戦が繰り広げられており、P2P関係訴訟はその決着を見るまで大分かかりそうな状態である。

 さらに、最近、アメリカでDVDコピーソフトが訴えられた(cnetの記事internet watchの記事ITmediaの記事ITproの記事日経のネット記事参照)ことからも分かるように、フェアユースとDRM回避規制の関係整理もなかなか厄介である。(DVDリッピングがアメリカの著作権法でどう取り使われることになるのか、この裁判の結果も要注目である。)

 他にもアメリカの著作権法には、第108条の図書館の権利制限以下、いくつかの権利制限がある。これらの中にはフェアユースの一般条項に包含されている利用形態も含まれている気がするが、これは1976年の制定当時、特にもめていた利用形態を抜き出した結果であるらしい。これらについては、例えば、図書館の権利制限などは、法改正を求めるレポートが出されている(アメリカ政府の研究グループのHP参照)ことなどを考えても、当時の様々な政治力の綱引きが反映され、逆に細か過ぎる規定ぶりとなった結果、かえって今の時代に合わなくなっているという奇妙な事態になっていると見える。(教育と図書館における複製については、アメリカ著作権局ブックレットにまとめられている各種ガイドラインなどもある。なお、第111条の放送の再送信規定は、法律制定当時、最高裁判決でケーブルテレビによる地上波の再送信はロイヤリティを払わずできるとされてしまっていたため、関係者による激闘の結果、成立した妥協条項であるらしい。)

 日本で今、日本版フェアユースの導入が知財本部で議論されている訳だが、その議論を見る限り、完全にアメリカ型にして他の権利制限規定と引き換えで入れるという話ではなく、第91回で紹介した台湾のように、今までの権利制限の個別規定に追加する形でフェアユース規定を入れるということになるのだと思われる。このような入れ方をする限り、既存の規定との関係整理は厄介だが、利用者から見て導入に損は全くないだろう。(ダウンロード違法化の問題が端的に象徴しているように、必ずしも完全に公正な利用とは言えないが、権利制限の対象としておくべきものもあり、フェアユースが私的複製など他の権利制限規定と引き換えに導入されるとなると話は別である。)

 無論、フェアユースは万能ではないし、個々の司法判断に対する依存度も大きくなるが、特に、インターネットのように、ほぼ全国民が利用者兼権利者となり得、考えられる利用形態が発散し、個別の規定では拾い切れなくなるところでは、フェアユースのような一般規定は保護と利用のバランスを取る上で大きな意味を持つことになるに違いない。

 internet watchの記事によると、著作権分科会で、権利者団体側の委員は、フェアユース規定の導入によって、今まで利用料を支払っていた人によって、「フェアユースなら使える」と、裁判が起こされて社会が混乱するなどの懸念を表明したらしいが、これは、本来利用料を払う必要のないはずの公正利用についてまで裁判による解決の道すら封じ、今まで通り利用料をふんだくり続けたいと言っていることに他ならないということに彼らは気づかないのだろうか。著作物の公正な利用まで著作権法によって阻害されることは、法律の主旨から考えても、本来あってはならないことのはずであるが。

(今の日本の慣習を考えると、その利用がアメリカでフェアユースとされることが既に定着しているなどのよほどの事情がないと、裁判にまで踏み込まず、今まで通りの話し合いがなされる気がするのだがどうだろうか。確かに個別規定の意味が薄れるという懸念はあるのだが、もともと文化庁と権利者団体がスクラムを組んで個別規定すらなかなか入れず、入れたとしても必要以上に厳格な要件が追加されていたというのでは、このような一般規定の議論を招いたのはほとんど彼らの自業自得と言って良い。フェアユースの議論に参加させて欲しいと権利者団体側が言っているよう(ITmediaの記事internet watchの記事マイコミジャーナルの記事)だが、やはりロクな意見を言ってこないだろうことは想像に難くない。)

 解散総選挙が近い中で、いろいろなことが流動的になっているが、日本版フェアユースの導入は是非今後も地道に検討を続けてもらいたい課題の一つである。

(なお、一般フェアユース規定の導入はまだ時間がかかるかも知れないが、少なくとも、文化審議会の今の整理でまとめられている(同じinternet watchの記事時事通信のネット記事参照)各種権利制限規定については必ず入れて欲しいものである。)

 さて、最後に少し知財政策関連のニュースの紹介もしておきたい。

 ベルギーでは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が裁判でトラフィックのブロック・フィルタリングを命じられたものの、現実的に不可能と反対するという事態になっているという記事や、アメリカでは、著作権侵害をしていたとみなされたユーザーを一方的にネットから遮断するというかなり問題のある取り組みをしているISPがあるという記事や、ドイツでは、オンラインストレージサービスのRapidshareが裁判所に全ファイルのチェックを命じられたとする記事などが、「P2Pとかその辺の話」で紹介されているので、興味のある方は是非リンク先をご覧頂ければと思う。ネットと著作権の問題にまだまだ解は見えない。

  さらに、ドイツでは、PCは補償金の対象外ということが、ドイツの最高裁で確定したようである(ドイツのWELT ONLINEの記事PC WELTの記事ドイツ最高裁のプレスリリース参照)ので、ここで一緒に紹介しておく。当たり前の話だが、さすがにドイツでも何でもかんでも補償金の世界はおかしいと気づかれて来たようである。

 また、ITmediaの記事などによると、アメリカでは、ネットラジオ局に対する過大な著作権料請求を軽減しようとする法律を通したりもしている。

 次回は、様子を見て選挙向けの話を書こうかと思っているところだが、詳細が分かれば上のドイツ最高裁の判決の話を取り上げるかも知れない。

(10月20日の追記:コメントでいろは様から教えて頂いたドイツのIT企業団体BITKOMの補償金裁判まとめ(pdf)によると、確かに、プリンター補償金裁判においてVG WORT側は憲法裁判所にさらに上告しているようであり、PCでも憲法裁判所へさらに上告される可能性があることを考えると、確定というのは言い過ぎだったかも知れない。ただ、憲法裁判所がこのレベルの問題をわざわざ取り上げてプリンターやPCに補償金を賦課しないのは憲法違反だと判断する可能性は相当低く、ほぼ確定していると言っても良いのではないかとも思うので、一応文章はそのままにしておく。(いろは様コメント・情報ありがとうございました。))

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