第113回・警察庁・出会い系サイト規制法ガイドライン案に対する提出パブコメ
内容は前回書いたこととあまり変わらないが、警察庁の出会い系サイト規制法ガイドライン案へのパブコメ募集に対して、下記の通り、意見を提出したので、念のためにここに載せておく。
記
1.氏名:兎園
2.連絡先:
3.意見:
最初に、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、出会い系サイト規制強化法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したことに対する猛省を私は警察庁に求めたい。また、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされたことは残念でならないが、憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。
定義に関するガイドラインにおいて、法律に定義されている「インターネット異性紹介事業」における「相互の連絡」を一対一の連絡に限り、連絡がサービスの中に組み込まれている必要があり、また、サイト開設者がサイトの運営方針として「異性交際希望者」を対象としてサービスを提供している必要があると、ある程度限定的に解釈しているものの、サイトの運営方針の判断は常に難しい上、第2ページに記載されているように「異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があ」るともされているのでは、このガイドラインでも恣意的な出会い系サイトの認定がされる可能性はぬぐえない。
書き込みを知って放置したか、知らずに放置したかは必ず水掛け論になるとなるところであり、また、第4~5ページに典型例としてあげられている、極めてありふれた書き込みを放置しただけで、出会い系サイトに該当するとされる可能性があり、さらに、新法の第32条に規定されているように届け出をせずに出会い系サイト事業を行ったとしてサイト管理者が処罰される可能性まで出てくるのは本来あってはならないことである。
本来、このようなガイドラインによって届け出の必要性を判断すること自体ナンセンスであり、今回の改正法の実運用は非常に困難であると思われるが、最低限、定義に関するガイドラインから、「異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があ」るとする記載(及び同等の記載)を削除し、「インターネット異性紹介事業」の認定は、サイトの運営方針及びシステムから出来る限り客観的に判断されるということを明確にしてもらいたい。
特に、この法律を別件逮捕のツールとすることがないよう、また、ガイドラインの変更等によって、これ以上「インターネット異性紹介事業」の定義を広げることがないよう、警察には厳に自戒して法運用を行ってもらいたい。
これは本来立法府に求めるべきことであるが、今後は、そもそも出会い系サイトを定義して届け出制を課すこと自体に無理があるとの認識に立ち、今回の出会い系サイト規制法の改正については、速やかに元に戻されるべきであると私は考えているということを念のためもう一度繰り返しておく。
最後に、今回の出会い系サイト規制法改正につながった警察庁の報告書「出会い系サイト等に係る児童の犯罪被害防止の在り方について」に対して私が提出したパブコメの最終部分を以下に引用する。今後、警察においても、今回の法改正のような有害無益な施策ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。
「結局、届出制の導入の提言は、本当の問題解決につながる地道な取り組みをないがしろにして、このような制度によって与えられる許認可権限によって、インターネットホットラインセンターのような存在意義自体怪しい天下り団体を通じた不透明な行政指導を正当化し、出会い系サイト業者との癒着と天下り利権の強化を図ろうとする警察官僚の悪辣なたくらみを露骨に反映したものとしか思われない。このような社会全体にとって全く有害無益な規制の導入は、一国民として到底承伏することはできないものである。
最後に、出会い系サイトの問題を放置するべきだなどということを言いたいがために、このパブコメを書いている訳ではないことを示すために、このような有害無益な報告書の提言の替わりに、以下のような地道な施策を私はここで提案する。
①現行の出会い系サイト規制法の運用においても、これが過度の規制とならないように気をつけること。そもそも出会い系サイトの定義が本質的には不可能であることを考え、現行法の事業規制すら、過剰規制となっているのではないかという観点から再点検を行うこと。
②有害無益な半官検閲センターであるインターネットホットラインセンターを廃止すること。
③ネット由来の犯罪に対する警察への通報窓口(ネット由来の犯罪なのであるから、警察でメールアドレスを一つ用意するだけでも良い。民間団体に過ぎないインターネットホットラインセンターへの通報など論外である。)を一元化し、この窓口を周知徹底すること。
④海外サーバーを経由して行われる事案に対応するため、海外現地警察との協力体制を構築すること
⑤警察官の弾力配置により、ネット由来の犯罪に対応する警察官を増員し、この警察官に対して技術と法律と情報リテラシーに関する教育を徹底すること
⑥法律によって明確に制限を受ける警察の権限による、児童の不正誘引と売春誘引の書き込みに対する取り締まりを強化すること
⑦未成年のフィルタリング原則導入に関しては、国民の選択肢を潰してまで導入しなければならないとする理由をまず明確にすること。(これを明確にできないようであれば、導入はしないこと。)
⑧(これは警察庁だけに言うことではないだろうが)ネットにおける情報を自ら取捨選択する能力を身につけるための、国民的な情報リテラシー教育を充実させること」
パブコメは以上だが、「P2Pとかその辺のお話」で、いわゆる模倣品・海賊版対策条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement: ACTA)の議論がG8レベルで進んでいるという記事を取り上げているので、興味がある方はリンク先をご覧頂ければと思う。条約の内容の詳細が明らかにされていないのでコメントしづらいのだが、Wikiなどによると、税関におけるパーソナルデバイス内のデータの検査など、かなり危険な規定も含め議論されているようであり、注意しておくに越したことはないだろう。
また、DRM回避規制やダウンロード違法化を含むカナダの著作権法改正案が、総選挙の実施によってひとまずお蔵入りになりそうだとするNational Postの記事もあった。カナダにおいて、今後の著作権法改正がどうなるかは、選挙における保守派とリベラル派の勝敗の如何にもよりそうである。
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