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2008年9月14日 (日)

第115回:EUでの私的複製補償金に関する関係者への新たな意見募集への回答

 第63回で紹介したEUでの私的複製補償金に関する関係者への新たな意見募集(質問状参考資料)の回答がEUのサイト公表されているので、遅ればせながら、今回はその紹介をしておきたいと思う。

 読んでみれば分かると思うが、別に欧州だからといって大した回答が出されている訳ではない。無論、域内統一経済圏の構成という日本にはない大目標・大論点があることを忘れてはならないが、それを除けば、補償金の対象・徴収・分配などについて日本と似たような論点に基づいて、各関係者がやはり似たようなことを言っているのである。

 著作権団体は、著作権神授説を振りかざして何でもかんでも補償金の世界が正しいと主張し、メーカーは、補償金が不要となる用途もあり、DRMの普及を推進して補償金は縮小廃止するべきと主張し、消費者は、現在の補償金は私的複製による実害に基づいて支払われているものでなくそもそも不当だと主張しているので、恐らく何らかの形で検討が進んだとしても、やはり同じ構図でデッドロックに入るものと思われる。

 欧州全域+αから130もの回答が提出されており、個別の国の話は今まで紹介してきたことと重なってしまうので、ここでは、著作権団体、メーカー、消費者からそれぞれ代表的と思われるところにリンクを張っておく。(なお、回答の数を見ると、ドイツ・フランス・スペインなど巨額の補償金が徴収され、かつ、そのことが問題になりつつある国からの関係者の回答が特に多い。)

 著作権団体の回答としては、欧州作詞者作曲者団体連合(GESAC: European Grouping of Societies of Authors and Composers)の回答や、欧州レコード協会(RIAE: Recording Media Industry Association of Europe)の回答などが代表的なものだろうか。内容も、補償金を正当化して責任をメーカーや消費者に転嫁している点では日本の著作権団体とあまり違いはない。ただ、RIAEなどが、ダウンロードの問題を強調し、インターネット補償金を提唱しているのは、即座に取り上げられるとは思わないのだが、今後非常に厄介なものとなる可能性があるだろう。

 また、メーカー代表は、EICTA(EU ICT Association)の回答になるだろう。やはり用途やDRMによって補償金不要となるケースがあり、補償金は見直されるべきなどと、日本のメーカーと同じ主張を展開している。

 消費者団体としては、欧州消費者組合(BEUC: European Consumers’Organisation)から、やはり力の入った回答が出されている。主な主張として、第12回で紹介した3点(補償金制度は、私的複製によってもたらされる実害を反映するべきであり、仮定に基づいていてはならない/消費者は明確に複製の権利を持つべき/違法ファイル交換の問題については、消費者のプライバシーを尊重する形での合理的な解決策を検討するべき)はそのままだが、さらに、消費者には技術的発展のあらゆる利益を受ける権利があることが明示的に確認されるべきという点も追加されている。

 これらの資料には様々なデータも付いているが、日本においても補償金問題の検討は完全にデッドロックにおちいっているので、残念ながら、このようなデータが日本の私的録音録画補償金委員会の俎上に上る可能性は低そうである。

(なお、日系企業としては、キャノンエプソン沖電気といったプリンター・コピー機メーカーからそれぞれ回答が出されており、欧州ではマルチファンクションプリンター・コピー機などへの補償金賦課が日系企業の大きな負担となっていることがうかがわれる。)

 繰り返しになるが、この資料をざっと見ただけでも、著作権団体・メーカー・消費者の各関係者は、日本と大体同じことを言っており、欧州でも、消費者やメーカーが納得して補償金を支払っているなどということは全くないということが分かるし、各関係者からの実にバラバラな回答を見たところでEUも困っているのだろう、今のところEUレベルでの補償金問題の検討がその後大きな動きになっているという話も聞かない。今後何かの動きがあれば紹介して行きたいと思うが、補償金制度に関する改革はEUレベルではほとんど不可能ではないかというのが私の正直な感想である。(なお、スペインやオーストリアなどの個別の国の私的複製規定の紹介はまた別途地道にやって行きたいと思っているので念のため。)

 最後に、著作権侵害の取り締まりを強化する法案がアメリカの上院委員会で審議されたというIP NEXTの記事があったので紹介しておく。英語版のcnetの記事によると、委員会レベルでは通ったらしい。この法案については、Public Knowledgeの記事などでも批判されており、アメリカの特殊な法事情に起因するところもあるだろうが、検察に侵害者への民事的な訴追を行う権利を与えるなど実に奇怪な点が多い。アメリカで変な法律が提出されては成立せずに消えて行くのは良くあることなので、今回は記事へのリンクを張るだけにしておくが、これもまた大きな話になるようなら別途取り上げたいと思っている。

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