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2008年9月30日 (火)

第116回:EU議会によるフランスの3ストライク法案の否定

 「P2Pとかその辺の話」で既に紹介されているので、リンク先の記事を読んでいただければ十分かとも思うが、EU議会とフランスの3ストライク法案の関係の話は、念のため、ここでも触れておきたいと思う。

 EU議会のプレスリリースに、この9月24日にEU議会を通過した通信に関するディレクティブ改正案の概要が載っているが、これによると、この改正案は、エマージェンシーコールの番号や機器などの制約条件などをより消費者に知らしめること、契約の最長期間は2年とし、1年後からはキャンセルができるようにすること、通信機器の技術仕様が域内貿易における制約とならないようにすること、プライバシーも含め情報保護に関する法制の域内統一を一層図ること、深刻な場合は自身の個人情報に対する侵害について知らされること、ユーザーには著作権侵害などの非合法行為に関する情報が知らされることなど様々な修正事項が含まれているようである。

 欧州における通信規制ということでは、これらの事項はかなり重要なことばかりなのだが、それはさておき、フランスの3ストライク法案との関係では、通過した改正案の内の一つの中に、

Amendment 138
Proposal for a directive  amending act
Article 1 - point 8 - point e a (new)
Directive 2002/21/EC Article 8 - paragraph 4 - point ga (new)

(ea)  In paragraph 4, point (ga) is added:
"(ga) applying the principle that no restriction may be imposed on the fundamental rights and freedoms of end-users without a prior ruling of the judicial authorities, notably in accordance with Article 11 of the Charter of Fundamental Rights of the European Union on freedom of expression and information, save when public security is threatened, in which case the ruling may be subsequent.

修正138(2002/21/EC第8条第4段落への新規追加)

”(ga)判決が事後のものとなるであろう、公共の安全が脅かされる場合を除き、特に、表現と情報の自由に関する欧州連合憲章第11条に従い、司法当局の事前の判決なくしてエンドユーザーの基本的な権利及び自由に対してはいかなる制限も課され得ないという原則を適用すること。”

という修正項目が入ったことが、決定的な意味を持っている。ディレクティブ自体山ほどあって非常に分かりにくいのだが、これは電気通信ネットワークとサービスの共通の枠組みに関するディレクティブの第8条の最後に追加される新規項目である。

(なお、欧州連合憲章第11条は、

ARTICLE 11 FREEDOM OF EXPRESSION AND INFORMATION
1. Everyone has the right to freedom of expression. This right shall include freedom to hold opinions and to receive and impart information and ideas without interference by public authority and regardless of frontiers.
2. The freedom and pluralism of the media shall be respected.

第11条 表現と情報の自由
1.あらゆる者は表現の自由に関する権利を有する。この権利は、公権力の干渉を受けず、国境に関わりなく、意見を持つ自由、情報を受け、伝える自由を含む。
2.メディアの自由と多様性も尊重される。

というものである。日本でも情報の自由は表現の自由の中にほぼ包含されているものと私は理解しているが、欧州では、EU憲章レベルで、情報の自由が表現の自由と一緒に明記されているということは大きい。)

 まだ、EU議会の可決が行われただけで、さらにディレクティブとして成立するためにはEU理事会を通過する必要があるが、議会で573対74の圧倒的多数によって可決されたこともあり、上の1文を理由にEU理事会がEU議会へ改正案差し戻しの判断をするとも考えがたい。結局、情報の自由に関する制限に関しては行政判断ではなく司法判断を必須とする上の1文がディレクティブ改正案に挿入されたおかげで、第104回などで紹介した、フランスの3ストライク法案のような、行政機関創設型の著作権検閲・ネット切断は欧州ではほぼ完全に息の根を止められたと見て良いだろう。フランスは、裁判所における司法判断を活用する形に大幅に修正をしてくるかも知れないが、それはもはや完全に別物の法案に違いない。(今のEU理事会議長国はフランスであるため、フランスがこのディレクティブ改正案にひどい難癖をつけてきたり、ディレクティブを解釈で無視してきたりする可能性はなきにしもあらずだが。)

 また、フランスの各種記事(le mondeのネット記事generation ntの記事leJDD.frの記事ZDnetの記事ギュイ・ボノ氏のサイトの記事)によると、この修正は、第83回で紹介したレポートに名を冠しているギュイ・ボノ氏が中心となって入れたようであるが、それにしても、この第83回で紹介したレポートの内容といい、今回のディレクティブ改正案に対するタイムリーな修正といい、ギュイ・ボノ氏の手腕は大したものである。ボノ氏のこのような活躍には心からの拍手を送りたいと思う。

 最後に、少し間が空いてしまったが、国内外の最近の動向の紹介もしておきたいと思う。

 まず、文化庁の文化審議会では、著作権の保護期間延長問題を先送りにした上で、権利制限を中心に法改正を行うべきとする報告書をまとめるようである(47newsの記事internet watchの記事1記事2参照)。本当に非常にタチの悪い話を全て先送りにして、権利制限を中心にするようなら、突っ込みどころは少なくなるだろうが、決して油断はできない。またパブコメにかかったところで中間整理の内容について取り上げるつもりである。

 知財本部では、日本版フェアユースの議論が続いている(ITproの記事参照)。先行きは不透明だが、この議論も法改正に向けて地道に続けてもらいたいものと思う。

 また、総務省の情報通信審議会では、B-CAS見直しの議論が続けられている(AV watchの記事参照)。この問題の本質もなかなか理解されないが、B-CAS問題というこの時限爆弾はいつか総務省の上でいつか破裂することになるだろう。

 アメリカでは、上院委員会を通過した知財エンフォース法に対して、9月23日には、司法省が反対意見の表明をしたものの、知財エンフォースコーディネータを作るといった変な修正を入れて上院は法案を通したようである(cnetの記事computerworldの記事PC MAGAZINEの記事参照)。やはり記事によると、下院は下院で別の法案を通しているそうであり、上院の奇妙な法案がそう簡単に通るとも思えず、当分揉めるだけ揉めることになるのだろう。

 アメリカでは、著作物を送信可能な状態にしただけでは必ずしも著作権侵害を構成しないとする判断が地裁で示されたり(cnetの記事参照)と、P2P関連訴訟でも当分混迷が続きそうである。

 次回は、アメリカにおけるフェアユースの話か、選挙に向けた話を書こうと思っている。

(9月30日の追記:修正が入ったのかどうか良く分からないが、wired visionの記事network worldの記事によると、残念ながら、上で書いた知財エンフォースメント法は下院も通過し、この日曜日に大統領に送られていたようである。司法省・ブッシュ政権が明示的に反対していることもあり、この法案に関しては、大統領が拒否権を行使するかどうか要注目である。また、この法案が成立した場合は、ここでもその内容の紹介をしたいと思う。

 なお、いわゆる孤児作品法(Orphan Works Act)が上院を通過したとするpdnの記事もあったので、念のためリンクを張っておく。)

(9月31日の追記:アメリカの知財エンフォースメント法については、さらに日本語版のcomputer worldの記事にもなっていた。)

(10月7日の追記:コメント欄に何故か書き込めないので、ここで匿名希望様のコメントへのコメントを。

「おっしゃる通り、抵触するでしょう。フランス国内でも批判されていますが、フランスでも、行政の権限が強く、一部の政治力の強い団体の声が反映され易いといった事情から、閣議決定までされたものと思います。ただ、まだ法律が成立した訳ではありませんし、EU議会の決定を受けて、法案成立のハードルはかなり高くなったものと思います。例え成立したとしても、裁判になった場合、表現の自由などとの関係から、法案そのものの是非が問われるでしょう。

ただ、確かにフランスの3ストライク法案はバランスを失していると思いますが、表現の自由や通信の秘密といった基本的な権利も無制限ではなく、他の権利とのバランスが取られなくてはならないものであるということもまたご承知おき下さい。

表現の自由については、また別途エントリーを立てて書きたいと思っているところです。」)

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2008年9月14日 (日)

第115回:EUでの私的複製補償金に関する関係者への新たな意見募集への回答

 第63回で紹介したEUでの私的複製補償金に関する関係者への新たな意見募集(質問状参考資料)の回答がEUのサイト公表されているので、遅ればせながら、今回はその紹介をしておきたいと思う。

 読んでみれば分かると思うが、別に欧州だからといって大した回答が出されている訳ではない。無論、域内統一経済圏の構成という日本にはない大目標・大論点があることを忘れてはならないが、それを除けば、補償金の対象・徴収・分配などについて日本と似たような論点に基づいて、各関係者がやはり似たようなことを言っているのである。

 著作権団体は、著作権神授説を振りかざして何でもかんでも補償金の世界が正しいと主張し、メーカーは、補償金が不要となる用途もあり、DRMの普及を推進して補償金は縮小廃止するべきと主張し、消費者は、現在の補償金は私的複製による実害に基づいて支払われているものでなくそもそも不当だと主張しているので、恐らく何らかの形で検討が進んだとしても、やはり同じ構図でデッドロックに入るものと思われる。

 欧州全域+αから130もの回答が提出されており、個別の国の話は今まで紹介してきたことと重なってしまうので、ここでは、著作権団体、メーカー、消費者からそれぞれ代表的と思われるところにリンクを張っておく。(なお、回答の数を見ると、ドイツ・フランス・スペインなど巨額の補償金が徴収され、かつ、そのことが問題になりつつある国からの関係者の回答が特に多い。)

 著作権団体の回答としては、欧州作詞者作曲者団体連合(GESAC: European Grouping of Societies of Authors and Composers)の回答や、欧州レコード協会(RIAE: Recording Media Industry Association of Europe)の回答などが代表的なものだろうか。内容も、補償金を正当化して責任をメーカーや消費者に転嫁している点では日本の著作権団体とあまり違いはない。ただ、RIAEなどが、ダウンロードの問題を強調し、インターネット補償金を提唱しているのは、即座に取り上げられるとは思わないのだが、今後非常に厄介なものとなる可能性があるだろう。

 また、メーカー代表は、EICTA(EU ICT Association)の回答になるだろう。やはり用途やDRMによって補償金不要となるケースがあり、補償金は見直されるべきなどと、日本のメーカーと同じ主張を展開している。

 消費者団体としては、欧州消費者組合(BEUC: European Consumers’Organisation)から、やはり力の入った回答が出されている。主な主張として、第12回で紹介した3点(補償金制度は、私的複製によってもたらされる実害を反映するべきであり、仮定に基づいていてはならない/消費者は明確に複製の権利を持つべき/違法ファイル交換の問題については、消費者のプライバシーを尊重する形での合理的な解決策を検討するべき)はそのままだが、さらに、消費者には技術的発展のあらゆる利益を受ける権利があることが明示的に確認されるべきという点も追加されている。

 これらの資料には様々なデータも付いているが、日本においても補償金問題の検討は完全にデッドロックにおちいっているので、残念ながら、このようなデータが日本の私的録音録画補償金委員会の俎上に上る可能性は低そうである。

(なお、日系企業としては、キャノンエプソン沖電気といったプリンター・コピー機メーカーからそれぞれ回答が出されており、欧州ではマルチファンクションプリンター・コピー機などへの補償金賦課が日系企業の大きな負担となっていることがうかがわれる。)

 繰り返しになるが、この資料をざっと見ただけでも、著作権団体・メーカー・消費者の各関係者は、日本と大体同じことを言っており、欧州でも、消費者やメーカーが納得して補償金を支払っているなどということは全くないということが分かるし、各関係者からの実にバラバラな回答を見たところでEUも困っているのだろう、今のところEUレベルでの補償金問題の検討がその後大きな動きになっているという話も聞かない。今後何かの動きがあれば紹介して行きたいと思うが、補償金制度に関する改革はEUレベルではほとんど不可能ではないかというのが私の正直な感想である。(なお、スペインやオーストリアなどの個別の国の私的複製規定の紹介はまた別途地道にやって行きたいと思っているので念のため。)

 最後に、著作権侵害の取り締まりを強化する法案がアメリカの上院委員会で審議されたというIP NEXTの記事があったので紹介しておく。英語版のcnetの記事によると、委員会レベルでは通ったらしい。この法案については、Public Knowledgeの記事などでも批判されており、アメリカの特殊な法事情に起因するところもあるだろうが、検察に侵害者への民事的な訴追を行う権利を与えるなど実に奇怪な点が多い。アメリカで変な法律が提出されては成立せずに消えて行くのは良くあることなので、今回は記事へのリンクを張るだけにしておくが、これもまた大きな話になるようなら別途取り上げたいと思っている。

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2008年9月 9日 (火)

第114回:知財関連の予算要求

 知財関連予算は国家予算全体と比べると問題にならない位少ないので、今までほとんど予算関係の話はしてこなかったのだが、各省から来年度の概算要求の資料が出てきているので、念のため、ここで予算関係の話をまとめて書いておきたいと思う。

(知財関連全てとなると、本当は種苗法を抱えている農水省など他の省庁の資料も見ないといけないのだが、ここでは、知財・情報・コンテンツに関連する主要3省庁(経済産業省・総務省・文部科学省)を取り上げたい。)

 経済産業省HPの概算要求資料の中の「平成21年度 知的財産政策関係概算要求の概要」(知財情報局の記事も参照)によると、特許を中心とする知財関係の予算要求は、1228億円と去年と同じ額であり、その半分以上が、特許審査の迅速化・特許関連の情報システム開発に使われるという内容になっている。

 ただ、もう少し知財・情報・コンテンツ関連ということでもう少し広く取ると、関係予算は他にも多少ちらばっており、「平成21年度 経済産業政策の重点」では、第14ページからの「イノベーションによる新しい国富の創造」という項目で、「イノベーション創造機構」と称する何をしたいのだか良く分からない機構の創設のために財投会計で500億円要求していたり、次世代検索エンジン開発のために去年と同じ41億円を要求していたり、第16ページからの「グローバルな活力の取り込み」という項目で、コンテンツ関連予算として、JAPAN国際コンテンツフェスティバルなどの開催のために数十億円くらいを要求していたりするので、注意が必要である。(なお、予算とどれほど関係しているのか分からないが、同資料中には、技術情報の流出防止についても書かれている。)

 特許審査の遅延という大問題を抱え、その処理に実務的にコストを割かざるを得ない特許関連の予算はさておくとしても(情報システム開発で大手ITベンダーと癒着するのではないかなど多少不安はあるのだが)、他の予算は単なるばらまきにしかならないのではないかという疑念はぬぐえない。この要求がそのまま通るかどうかは良く分からないが、特にイノベーション創造機構の創設など、天下り先をまたムダに作りたいとしか見えないひどい話である。

 また、総務省についても見ていくと、日経のネット記事によると、地デジ対策に総額600億円、中でも受信機対策に128億円と大幅な増額を要求しているらしいが、総務省HPにアップされている概要資料では地デジ対策の予算額は「2011年地上デジタル放送への完全移行に向けた総合対策」に11.9億円と書かれているだけで、どうなっているのか良く分からない。受信機対策も電波利用財源と書かれているだけで、いくら要求しているのか不明である。地デジ対策に、携帯電話から徴収される税金が大部分を占める電波利用財源を充当すること自体どうかと思うが、電波利用料にしても限りある財源なので、総務省はどこから金をかき集めてくるつもりなのか。そしてまた、3年間同額程度の予算で生活保護世帯を中心に百数十万世帯程度に受信機・アンテナ対策を施したとしても、対策としては恐らく不十分だろう。これでは、大多数を占める一般消費者の混乱は避けられないに違いない。

 また、IP NEXTの記事(読売の転載記事)によると、サイバー特区の導入のために20億円(総務省の概要資料ではユビキタス特区という言葉が使われ、40億円の予算要求がされてているが、同じものかどうかは不明)を要求しているらしいが、著作権者が認めたものを利用者が加工・編集できるのは当たり前の話なので、何が特区なのか良く分からない上、今ネット上で様々な場が既に作られている以上に、20億円もかけて一体何を作るつもりなのかさっぱり良く分からない。

 総務省の他の情報関係予算も、地道なインフラ整備を除けば、経産省とかぶり、やはり単なるばらまきにしかならないのではないかと思われるものが多い。

(しかし、総務省の概要資料だが、国の資料に大真面目に「クリエイティブ産業の強化」として、「国内の知的資産をデジタル化し、ネット上で共有・利用できる仕組みを構築する『デジタル文明開化プロジェクト』を産学官の関係機関と連携して総合的に推進し、日本の情報自給率を向上」すると書かれているのはどうにかならないものか。とにかく何でも良いから目新しいキーワードを作れば良いというものではないだろう。)

 文部科学省のHPでは文化庁の資料がアップされていないので、詳細は不明だが、「平成21年度 概算要求主要事項」によると、「文化芸術創造プランの推進」に181億円程度を、「日本文化の戦略的発信」に525億円程度を要求している。これらの予算要求も実際にどれくらいが確保されるのか分からないが、文化・著作権関係団体へのばらまきに使われることになるのだろう。

 なお、各省庁とも、ネット上の違法・有害情報対策として、同じような内容で予算を要求しているのはどうかと思うが、文科省が、その予算において「情報モラル教育の推進」に多少なりとも力を入れようとしていることが見て取れることは素直に評価したい。

 予算については、財源をどうするか、負担者・受益者間のバランスをどうするか、コストに見合うだけの国民的なメリットがあるかという観点から、国全体で施策のバランスを図らなくてはいけないはずだが、知財・情報・コンテンツ関連だけを取ってもそれが出来ているとはあまり言えない状況なのは、何とも残念である。

 知財に限らず、他の予算についても、問題の根は一緒である。高度経済成長期くらいまでならいざ知らず、経済的に成長し、主要インフラも整い、世界企業をいくつも抱えるようになった今となっては、本当に国家レベルで効率を度外視して行わなければならない事業を除き、国家が的はずれな予算額で事業・産業振興に乗り出す意味はもはや無くなっているだろう。非競争的にノーリスクでばらまかれる金は、ほぼ、既得権益者の無為を助長し、国家全体の経済原則による効率化を妨げ、問題を無意味に先延ばしすることにしかつながらないのである。

 比較の問題で知財問題が埋もれてしまうのはやむを得ず、もはや知財問題を超えてしまうのだが、今後、与野党ともに、選挙向けにハリボテのばらまき政策を打ち出してくることが容易く想像されるのには実にうんざりさせられる。既得権益・利権保護・路線を踏襲するのはいい加減止めにしてもらいたいと私は心から思う。小泉元総理が後に残し、安倍前総理が役人に厳しい政治をモットーに手をつけて失敗し、福田総理が役人に優しい政治を進めて国民の信頼を失った年金、道路、天下りなどの各種大問題は、さらなる予算のばらまきによって先延ばしにすることが許されるようなレベルの問題ではもはや無くなっている。政治に向けられている国民の目は非常にシビアであり、選挙の1票は常に各国民の手の中にある。次の総選挙では良くも悪くも国民の審判が下されることになるだろう。

(9月10日の追記:いまさら感が漂うが、経産省も「コンテンツ取引と法制度のあり方に関する研究会」と称して、私的複製やDRMなどコンテンツの取引と制度に関する検討をこの9月1日から始めたようなので、念のため、ITproの記事開催趣旨等第1回議事要旨等へリンクを張っておく。

(9月14日の追記:まじっく様、ありがとうございます。指摘箇所の誤記を直しました。)

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2008年9月 4日 (木)

第113回・警察庁・出会い系サイト規制法ガイドライン案に対する提出パブコメ

 内容は前回書いたこととあまり変わらないが、警察庁の出会い系サイト規制法ガイドライン案へのパブコメ募集に対して、下記の通り、意見を提出したので、念のためにここに載せておく。

     記

1.氏名:兎園
2.連絡先:

3.意見:
 最初に、どんなコミュニケーションサイトでも人は出会えるという誰にでも分かることを無視し、届け出制の対象としては事実上定義不能の「出会い系サイト事業」を定義可能と偽り、出会い系サイト規制強化法案の閣議決定を行い、法案を国会に提出したことに対する猛省を私は警察庁に求めたい。また、他の重要法案と審議が重なる中、国会においてもその本質的な問題が見過ごされたことは残念でならないが、憲法上の罪刑法定主義や検閲の禁止にそもそも違反している、今回の出会い系サイト規制法の改正については、今後、速やかに元に戻すことが検討されるべきである。

 定義に関するガイドラインにおいて、法律に定義されている「インターネット異性紹介事業」における「相互の連絡」を一対一の連絡に限り、連絡がサービスの中に組み込まれている必要があり、また、サイト開設者がサイトの運営方針として「異性交際希望者」を対象としてサービスを提供している必要があると、ある程度限定的に解釈しているものの、サイトの運営方針の判断は常に難しい上、第2ページに記載されているように「異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があ」るともされているのでは、このガイドラインでも恣意的な出会い系サイトの認定がされる可能性はぬぐえない。

 書き込みを知って放置したか、知らずに放置したかは必ず水掛け論になるとなるところであり、また、第4~5ページに典型例としてあげられている、極めてありふれた書き込みを放置しただけで、出会い系サイトに該当するとされる可能性があり、さらに、新法の第32条に規定されているように届け出をせずに出会い系サイト事業を行ったとしてサイト管理者が処罰される可能性まで出てくるのは本来あってはならないことである。

 本来、このようなガイドラインによって届け出の必要性を判断すること自体ナンセンスであり、今回の改正法の実運用は非常に困難であると思われるが、最低限、定義に関するガイドラインから、「異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があ」るとする記載(及び同等の記載)を削除し、「インターネット異性紹介事業」の認定は、サイトの運営方針及びシステムから出来る限り客観的に判断されるということを明確にしてもらいたい。

 特に、この法律を別件逮捕のツールとすることがないよう、また、ガイドラインの変更等によって、これ以上「インターネット異性紹介事業」の定義を広げることがないよう、警察には厳に自戒して法運用を行ってもらいたい。

 これは本来立法府に求めるべきことであるが、今後は、そもそも出会い系サイトを定義して届け出制を課すこと自体に無理があるとの認識に立ち、今回の出会い系サイト規制法の改正については、速やかに元に戻されるべきであると私は考えているということを念のためもう一度繰り返しておく。

 最後に、今回の出会い系サイト規制法改正につながった警察庁の報告書「出会い系サイト等に係る児童の犯罪被害防止の在り方について」に対して私が提出したパブコメの最終部分を以下に引用する。今後、警察においても、今回の法改正のような有害無益な施策ではなく、地道な施策の検討が進むことを期待する。

「結局、届出制の導入の提言は、本当の問題解決につながる地道な取り組みをないがしろにして、このような制度によって与えられる許認可権限によって、インターネットホットラインセンターのような存在意義自体怪しい天下り団体を通じた不透明な行政指導を正当化し、出会い系サイト業者との癒着と天下り利権の強化を図ろうとする警察官僚の悪辣なたくらみを露骨に反映したものとしか思われない。このような社会全体にとって全く有害無益な規制の導入は、一国民として到底承伏することはできないものである。

 最後に、出会い系サイトの問題を放置するべきだなどということを言いたいがために、このパブコメを書いている訳ではないことを示すために、このような有害無益な報告書の提言の替わりに、以下のような地道な施策を私はここで提案する。

①現行の出会い系サイト規制法の運用においても、これが過度の規制とならないように気をつけること。そもそも出会い系サイトの定義が本質的には不可能であることを考え、現行法の事業規制すら、過剰規制となっているのではないかという観点から再点検を行うこと。
②有害無益な半官検閲センターであるインターネットホットラインセンターを廃止すること。
③ネット由来の犯罪に対する警察への通報窓口(ネット由来の犯罪なのであるから、警察でメールアドレスを一つ用意するだけでも良い。民間団体に過ぎないインターネットホットラインセンターへの通報など論外である。)を一元化し、この窓口を周知徹底すること。
④海外サーバーを経由して行われる事案に対応するため、海外現地警察との協力体制を構築すること
⑤警察官の弾力配置により、ネット由来の犯罪に対応する警察官を増員し、この警察官に対して技術と法律と情報リテラシーに関する教育を徹底すること
⑥法律によって明確に制限を受ける警察の権限による、児童の不正誘引と売春誘引の書き込みに対する取り締まりを強化すること
⑦未成年のフィルタリング原則導入に関しては、国民の選択肢を潰してまで導入しなければならないとする理由をまず明確にすること。(これを明確にできないようであれば、導入はしないこと。)
⑧(これは警察庁だけに言うことではないだろうが)ネットにおける情報を自ら取捨選択する能力を身につけるための、国民的な情報リテラシー教育を充実させること」

 パブコメは以上だが、「P2Pとかその辺のお話」で、いわゆる模倣品・海賊版対策条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement: ACTA)の議論がG8レベルで進んでいるという記事を取り上げているので、興味がある方はリンク先をご覧頂ければと思う。条約の内容の詳細が明らかにされていないのでコメントしづらいのだが、Wikiなどによると、税関におけるパーソナルデバイス内のデータの検査など、かなり危険な規定も含め議論されているようであり、注意しておくに越したことはないだろう。

 また、DRM回避規制やダウンロード違法化を含むカナダの著作権法改正案が、総選挙の実施によってひとまずお蔵入りになりそうだとするNational Postの記事もあった。カナダにおいて、今後の著作権法改正がどうなるかは、選挙における保守派とリベラル派の勝敗の如何にもよりそうである。

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