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2008年8月12日 (火)

第109回:総務省「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」に対する意見

 デジタル放送に関するコピー制御について書かれている、総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」(本文概要意見募集要項)に対して、下記のような意見を出したので、念のため、ここにも載せておく。(この話も進んでいるようでほとんど進んでいないので、内容は去年提出したパブコメとほぼ同じである。)

    記

(ページ)
第1ページ~第45ページ 第1章 デジタル放送におけるコピー制御ルールとその担保手段の在り方

(意見)
 私は一国民として、デジタル放送におけるコピー制御の問題について、以下の通りの方向性を基本として検討し直すことを強く求める。

1.無料地上波からB-CASシステムを排除し、テレビ・録画機器における参入障壁を取り除き、自由な競争環境を実現すること。
2.あまねく見られることを目的とするべき、基幹放送である無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしを基本とすること。
3.これは立法府に求めるべきことではあるが、無料地上波については、ノンスクランブル・コピー制限なしとすることを、総務省が勝手に書き換えられるような省令や政令レベルにではなく、法律に書き込むこと。
4.B-CASに代わる機器への制度的なエンフォースの導入は、B-CASに変わる新たな参入障壁を作り、今の民製談合を官製談合に切り替えることに他ならず、厳に戒められるべきこと。コンテンツの不正な流通に対しては現在の著作権法でも十分対応可能である。

 なお、審議会の場等で権利者団体の代表が「対価の還元」という前中間答申中の文言をあげつらい、コピーワンス緩和は補償金拡大を前提にしているかの如き発言を繰り返しているが、あくまで、補償金制度は、私的録音録画によって生じる権利者への経済的不利益を補償するものであって、メーカーなどの利益を不当に権利者に還元するものではない。上記1~4以外の方向性を取り、ダビング10のように不当に厳しいコピー制御が今後も維持され続けるようであれば、録画補償金は廃止しても良いくらいであり、全く議論の余地すらない。上記1~4が実現されたとしても、補償金の対象範囲等は私的な録音録画が権利者にもたらす「実害」に基づいて決められるべきであるということは言うまでもない。
 また、近年総務省が打ち出している放送関連施策には国民本意の視点が全く欠けており、今のままでは地上デジタルへの移行など到底不可能であるとほとんどの国民が思っているであろうことを付言しておく。


(理由)
 去年の中間答申と同じく、この中間答申では過去のコピーワンス導入経緯についての説明が故意に省かれているが、総務省は過去の情報通信審議会において、コピーワンスの導入のために無料地上波にB-CASシステムを導入するのが適当という結論(http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020124_1.html「BSデジタル放送用受信機等が対応可能なコンテンツ権利保護方式(素案)についての意見募集の結果」参照。)を出し、平成14年6月に省令改正(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/denpa_kanri/020612_1.html「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式の一部を改正する省令案について」参照。)まで行って、その導入を推進している。無料の地上放送へのB-CASシステムとコピーワンス運用の導入は、この省令改正によってもたらされたものである。
 このB-CASシステムは談合システムに他ならず、これは、放送局・権利者にとっては、視聴者の利便性を著しく下げることによって、一旦は広告つきながらも無料で放送したコンテンツの市場価格を不当につり上げるものとして機能し、国内の大手メーカーとっては、B-CASカードの貸与と複雑な暗号システムを全てのテレビ・録画機器に必要とすることによって、中小・海外メーカーに対する参入障壁として機能している。
 本来あまねく見られることを目的としていた無料地上波の理念をねじ曲げ、放送局と権利者とメーカーの談合に手を貸したあげく、さらにこれを隠すという総務省の行為は、見下げ果てたものであり、現在の方向性に国民本位の考え方など欠片も見られないことの証左でもある。
 総務省は素直に過去の失策を認めるべきであり、この過去の審議会の詳細な議事録を公開し、この事実を元にした再検討を進めるべきであることは言うまでもない。

 コピー制限なしとすることは認められないとする権利者の主張は、消費者のほとんどが録画機器をタイムシフトにしか使用しておらず、コンテンツを不正に流通させるような悪意のある者は極わずかであるということを念頭においておらず、一消費者として全く納得がいかない。消費者は、無数にコピーするからコピー制限を無くして欲しいと言っているのではなく、わずかしかコピーしないからこそ、その利便性を最大限に高めるために、コピー制限を無くして欲しいと言っているのである。消費者の利便性を下げることによって権利者が不当に自らの利潤を最大化しようとしても、インターネットの登場によって、コンテンツ流通の独占が崩れた今、消費者は不便なコンテンツを選択しないという行動を取るだけのことであり、長い目で見れば、このような主張は自らの首を絞めるものであることを権利者は思い知ることになるであろう。

 最近運用が開始されたダビング10に関しても、補償金の不当な拡大をせずに運用されるのであれば良いが、大きな利便性の向上なくして、より複雑かつ高価な機器を消費者が新たに買わされるだけの弥縫策としか言いようがなく、一消費者・一国民として納得できるものでは全くない。
 さらに、ダビング10機器に関しては、テレビ(チューナー)と録画機器の接続によって、全く異なる動作をする(接続次第で、コピーの回数が9回から突然1回になる)など、公平性の観点からも問題が大きい。

 現在の地上無料放送各局の歪んだビジネスモデルによって、放送の本来あるべき姿までも歪められるべきではない。そもそもあまねく視聴されることを本来目的とする、無料の地上放送においてコピーを制限することは、視聴者から視聴の機会を奪うことに他ならず、このような規制を良しとする談合業界及び行政に未来はない。

 コピー制限技術はクラッカーに対して不断の方式変更で対抗しなければならないが、その方式変更に途方もないコストが発生する無料の地上放送では実質的に不可能である。インターネット上でユーザー間でコピー制限解除に関する情報がやりとりされる現在、もはや放送に無料の地上放送にDRMをかけていること自体が社会的コストの無駄であるとはっきりと認識するべきである。無料の地上放送におけるDRMは本当に縛りたい悪意のユーザーは縛れず、一般ユーザーに不便を強いているだけである。

 制度的エンフォースメントにしても、正規機器の認定機関が総務省なりの天下り先となり、その天下りコストがさらに今の機器に上乗せされるだけで、しかも不正機器対策には全くならないという最低の愚策である。

 法的にもコスト的にも、どんな形であれ、全国民をユーザーとする無料地上放送に対するコピー制限は維持しきれるものではない。本来立法府に求めるべきことではあるが、このようなバカげたコピー制限に関する過ちを二度と繰り返さないため、無料の地上放送についてはスクランブルもコピー制御もかけないこととする逆規制を、政令や省令ではなく法律のレベルで放送法に入れることを私は一国民として強く求める。

 なお、付言すれば、本来、B-CASやコピーワンス、ダビング10のような談合規制の排除は公正取引委員会の仕事であると思われ、何故総務省及び情報通信審議会が、談合規制の緩和あるいは維持を検討しているのか、一国民として素直に理解に苦しむ。今後、立法府において、行政と規制の在り方のそもそも論に立ち返った検討が進むことを、私は一国民として強く望む。

 総務省への提出パブコメは以上だが、特許庁の「イノベーションと知財政策に関する研究会」も報告書(発表資料政策提言報告書プレスリリース)をまとめたようなので、念のためにリンクを張っておく。この研究会については第95回で書いたこともあり、この内容についてはまたどこかで取り上げるかも知れない。

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