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2008年8月11日 (月)

第108回:公職選挙法とネットの関係

 立候補でもしない限り、普通は気にしないと思うが、選挙は公職選挙法によってがんじがらめに規制されている。政治に対する参入規制となっている政治活動規制についても言いたいことはあるのだが、今回は特に公職選挙法による規制とネットの関係に絞って話をしたいと思う。

 ネットとの関係で特に問題となるのは、公職選挙法第13章で規定されている選挙運動に関する各種規制だろう。特に、選挙運動に関する文書図画の頒布・掲示については、第142条~第143条に規定されており、頒布は、届け出た葉書・ビラ等に限られ(枚数も限定されている。新聞広告は)、文書図画の掲示は、選挙事務所・選挙運動カー等で使用されるポスター、看板の類に限られるとしている。

 立候補者とその支援団体は当然このような規制を受けるため、選挙運動期間中は政治家のブログ更新が止まったりする訳だが、この規制は第146条(赤字強調は私がつけたもの)で、

(文書図画の頒布又は掲示につき禁止を免れる行為の制限)
第百四十六条  何人も、選挙運動の期間中は、著述、演芸等の広告その他いかなる名義をもつてするを問わず、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として、公職の候補者の氏名若しくはシンボル・マーク、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくは反対する者の名を表示する文書図画を頒布し又は掲示することができない
2  前項の規定の適用については、選挙運動の期間中、公職の候補者の氏名、政党その他の政治団体の名称又は公職の候補者の推薦届出者その他選挙運動に従事する者若しくは公職の候補者と同一戸籍内に在る者の氏名を表示した年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これに類似する挨拶状を当該公職の候補者の選挙区(選挙区がないときはその区域)内に頒布し又は掲示する行為は、第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為とみなす。

と一般にも拡張されており、この条文中の「第百四十二条又は第百四十三条の禁止を免れる行為として」かどうかの解釈次第だとは思うが、ユーザーがネットで選挙運動期間(候補者の届け出の日から選挙の前日まで)中に立候補者の支持や反対を唱えることも場合によっては法律違反とされる可能性があるので、注意が必要である。(第147条で規定されているように選挙管理委員会に撤去を求められるか、第243条で規定されているように2年以下の禁錮あるいは50万円以下の罰金を科される可能性がある。)

 また、第151条の5で「何人も、この法律に規定する場合を除く外、放送設備(広告放送設備、共同聴取用放送設備その他の有線電気通信設備を含む。)を使用して、選挙運動のために放送をし又は放送をさせることができない。」ともされているので、これも放送の定義次第だとは思うが、ここで、動画共有サイトにおける投稿動画などが引っかかる可能性があるだろう。(この放送規制違反は2年以下の禁錮あるいは30万円以下の罰金:第235条の4)

(なお、第138条の2で選挙に関する署名運動(1年以下の禁錮あるいは30万円以下の罰金:第239条)も、第138条の3では選挙に関する人気投票の公表(2年以下の禁錮あるいは30万円以下の罰金:第242の2条)も禁止されている。)

 第148条で、選挙の公正を害しない限りにおいて新聞・雑誌に対し報道・評論を掲載する自由を妨げるものではないと明文で規定している訳だが、新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであり、第三種郵便物の承認のあるものであり、当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年以来そうであったもので、引き続き発行するものと、ブログ等は無論のこと、大手ネットメディアですら入らない、あまりにも狭い規定となっている。第151条の3で放送についても同様の規定があるが、放送法を参照しており、当然のことながら、動画サイトなどは入らないだろう。

 ネットというメディアが存在しなかったときは、このように紙媒体の定期有償刊行物あるいは放送法上の放送のみに対し、報道・評論の自由を妨げないという規定を設けておけば良かったのかも知れないが、今となってはこの規定は完全に時代遅れである。明文の規定を今後も維持し続けようとするなら、定義は難しくなるかも知れないが、時代に合わせ、各種ネットメディアも含まれるように書き直されなくてはならないだろう。また、このネット時代に、立候補者によるネット選挙運動を禁止する理由もない、同じく許される行為を限定列挙する形になるのだろうが、ネット選挙運動も明文で解禁されてしかるべきだろう。

 公職選挙法自体、相当ややこしい規制法であり、ネットに対して図らずも規制色を持ったことに利益を受けている者(ネットユーザーを政治の支持基盤とせず、支持基盤として期待もしてしない者など)もいるので、本当に改正されるまでは時間がかかると思うが、紙媒体であろうが、ネットだろうが、実名だろうが、匿名だろうが、報道・批評・表現の本質に変わりはない。表現の自由は、憲法に規定されている権利であり、民主主義を支える最も重要な自由として、その代表を選ぶ選挙において、その公平を害しない限りにおいて、あらゆる媒体に最大限認められなくてはならないものであることは言うまでもない。もし、公職選挙法が杓子定規に解釈され、各種ネットメディアに不当な規制の圧力がかけられるようなら、公職選挙法自体憲法違反とされなくてはならない

(そうは言っても、リスクを負い切れない個人ユーザーなどの中には、安全サイドに立ちたいという人もいると思うので、そのようなユーザーには、政治家に関するネット批評・支持/反対表明はなるべく選挙運動期間前に前倒しで行っておくことをお勧めしておく。ただし、選挙の公正を害しても表現の自由が守られるべきなどと言うつもりもなく、当然のことながら、誰であろうと、選挙における威力妨害や虚偽表示などは、第225条や第235条に規定されているように取り締まられてしかるべきと思うので、念のため。)

 第90回で書いた国会法についてと同じく、公職選挙法の改正もすぐにでもしてもらいたいと思うが、このような法律によるネット選挙運動の規制がどうあれ、次回の総選挙はユーザーのレベルで本格的なネット選挙と化すだろうことは想像に難くない。もはやネットの力は無視し切れるものでは、不当な理由で規制し切れるものではなくなっているのだ。例え任期満了まで待ったとしても1年と少し、私もネットユーザーの一人として、選挙の準備を進めて行く。利権のみによって今権力の座にある者達も、ネットの力を、情報の力を、表現の力を明らかに思い知ることだろう。

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