第105回:欧州著作権関係動向2題(欧州委員会による著作権料徴収団体間の競争の決定・実演家保護期間延長の提案と、フランス行政裁判所による補償金に関する政府決定の一部破棄)
また、少し間が空いてしまったが、今回は、欧州における著作権関係の動きを2つ紹介しておきたい。
(1)欧州委員会による著作権料徴収団体間の競争の決定と実演家保護期間延長の提案
欧州委員会の動きについては日本語の記事にもなっている(ITmediaの記事、Internet watchの記事など)ので、既に知っている方、読んでいる方も多いと思うが、欧州委員会は、欧州で国毎に別々に存在している著作権料徴収団体間で競争がなされなければならないとする決定と実演家の保護期間延長(50年から95年へ)の提案を、この水曜に同時に出したようである(EUのプレスリリース1、2、AFPの記事(フランス語)、PCINpactの記事(フランス語)、tom's hardwareの記事(ドイツ語)など参照)。
個別の記事にされていると分かりにくいのだが、この競争の決定と延長の提案が同時に出されていることには注意しておかなくてはならないだろう。これらは欧州なりのアメとムチの政策と考えられるのであって、延長の方だけを取り上げて国際動向を論じるなど欧州統一の大きな動きを無視して個別の動向のみを取り上げるのは、常に間違いの元である。
実際には日本語の記事かEUのプレスリリースを直接読んでもらうのが早いと思うが、この競争の決定は、著作権団体における契約中で、他の国の著作権団体への著作権者の移動や選択を禁じる条項(著作権協会国際連合CISAC(International Confederation of Societies of Authors and Composers)に所属する欧州24団体中23団体がこのような契約をしているそうである)と、著作物の利用者に、国毎に各著作権団体との契約を強制する条項(24団体中17団体がこのような相互契約をしているそうである)を排除せよというもので、見方にもよるとは思うが、かなり大胆なものであると私は思う。
実際には、欧州と一括りにされることが多いと言っても、言語・文化は国毎に違い、即座に競争が促進されるとも思えないが、欧州を単一の市場として機能させるためには、このような決定は必要なものであり、欧州市場に大きな影響を与えて行くのではないかと思われる。延長も提案されただけで成否は不明なので無論注視して行かなくてはならないが、このような欧州単一市場を目指した決定が今後どのような影響を生むのかは実に注目に値するだろう。
(2)フランス行政裁判所による補償金に関する政府決定の一部破棄
また、先週11日には、フランスの行政裁判所(コンセイユ・デタ)で、補償金に関する政府決定の一部を破棄するという判決が出されているのでこれも一緒に紹介しておこう(Echo du Netの記事、silicon.frの記事、コンセイユ・デタのニュースリリース、判決参照)。
)。
記事などによると、要するに、コンセイユ・デタは、私的複製補償金は、合法の私的複製に対する補償に限られるのであって、非合法なコピーに関する補償まで含めて考えていた前回の料率決定は誤りであり破棄されるべきであるという決定をしたようである。
これもよくよく考えれば当たり前の話であるが、私的録音録画補償金を非合法なコピーまで含めた補償だとする法律の主旨の誤認混同が欧州における高額な補償金額につながっている可能性があるのは見過ごせない。(日本でもたまにこの点を混同した主張を見かけるが、法律の主旨から言うとこれは誤認である。)
ただし、これはあくまで6ヶ月の猶予つきの前回の料率決定の破棄でしかなく、この間に、またフランスの補償金委員会で新たな料率決定をしなければならず、著作権団体側も反対してもめることになると思われるので、特にこの判決でフランスの補償金がなくなる訳でもないだろう。しかし、このような判決が出されたことを考えると、フランスでもこれ以上の料率上げは難しくなるのではないかと思われる。
日本でも、補償金問題など各種著作権問題について当分デッドロックが続きそうな状況だが、今後の検討において、文化庁や著作権団体が歪んだ形で国際動向を伝えることがないよう私は願っている。今回紹介したような動向からも、欧州各国がもはや著作権の保護強化のみを単純に考えている訳ではないと分かるはずである。知財政策の決定においても、競争政策的な観点を無視しては、常に独占は弊害も生み得るものであることを忘れてはならないのだ。
次回は、特に大きな動きがなければ、IPアドレスはプライバシーかという問題について、私なりに考えたことを書いてみたいと思っている。
少し紹介が遅れたが、総務省のダビング10に関する情報通信審議会答申が今パブコメにかかっている。私も今書く内容を考えているところだが、〆切は8月12日とまだ大分余裕があるので、地デジのコピー制御に関して政府にもの申したい人は是非提出することをお勧めする。
(7月21日の追記:他の知的財産権は、著作権問題ほど喫緊の問題をかかえている訳ではないので、上で書かなかったが、やはり同日にEUは特許他の工業所有権に関する戦略(pdf)も発表しているので念のためにここにリンクを張っておく。)
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コメント
かなり古い記事へのコメントですみません。
「フランス行政裁判所による補償金に関する政府決定の一部破棄」の件ですが、日本でもダウンロード違法化がもうすぐ施行されるわけで、そうすると「現在の補償金の額は無効!」ということになるように思うのですが、いかがでしょうか。
1月以降にレコーダーを買って、不当利得返還請求を補償金管理協会に仕掛けてみたりすると、補償金制度の崩壊が一気に進んだりしないですかね(笑)。
投稿: とおりすがり | 2009年11月25日 (水) 21時57分
とおりすがり様
返信コメントが遅くなってしまい申し訳ありません。
マジレスすると、インターネットの普及まで考慮して私的録音録画補償金の料率を決定していたのなら、あり得ない立論ではないのですが、今までそのようなことが考慮された形跡は全く無いので、そのような不当利得返還請求は難しいのではないかと思います。
そもそも、せいぜいMDくらいしか普及していなかった時代に作った制度と料率を今までごまかしごまかし使って来たことに問題があるので、制度は既に破綻しています。今行われている私的録画補償金管理協会(SARVH)と東芝の間の訴訟で崩壊が確実に進むでしょう。
投稿: 兎園 | 2009年11月27日 (金) 21時21分