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2008年7月30日 (水)

第106回:IPアドレスはプライバシーか。

 IPアドレスそのものは、インターネットにおいてどうしても使用せざるを得ないものであり、テクニカルにプライバシーではあり得ない。しかし、このIPアドレスと個人を結びつける情報は無論のこと、IPアドレスから個人が特定される可能性がある以上、ある特定のIPアドレスがインターネット上でどのようなコンテンツを利用・視聴していたかの情報もまた、IPアドレスそのものと同一視することはできないものであり、これらの情報は、通信の秘密や、プライバシー権によってきちんと保護されるべき性質のものだろう。

(個人情報保護法(正式名称は「個人情報の保護に関する法律」)で保護される「個人情報」は、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」と定義されているので、このような法律も絡んでくる。)

 今回言いたいことはこれで尽きており、当たり前のことのようにも思われるのだが、技術的なことを良く理解していない政治家や官僚、裁判官が、IPアドレスそのものと、IPアドレスと結びついた情報の性質を混同して、通信の秘密やプライバシーの観点から見て非常に危険な法律や判決を出しかねないという恐れを常に私は感じるのだ。

 日本ではまだそこまでひどい話は聞かないが、前々回、少し紹介したwired visionの記事でリンクが張られているグーグル対バイアコムの訴訟に対するアメリカのニューヨーク地裁の判決など、グーグルのエンジニアのブログ記事("Are IP adresses personal")でIPアドレスは個人を特定する情報と結びつかない限り、個人情報たり得ないと書かれていることを引いて、IPアドレス込みでユーザーのユーチューブ視聴情報の開示を命じており、典型的な論理の飛躍を示している。

(その後どういう経緯があったのかは分からないが、IPアドレスを隠したデータを開示するというところで落ち着いたようである(The New York Timesの記事参照)が、もしIPアドレス込みで情報が開示されたら、アメリカのことなので、ダウンロード行為がフェアユースかというところから争いになっている対ユーザー訴訟にさらに火を注ぐことになっただろう。)

 立法・行政・司法に携わる人間には、ネットに関する技術を、情報の価値は常にその組み合わせで生じるのであり、情報に関する限り、一部分ずつを取り出しても保護には値しないが、組み合わされると保護されるべき性質が出て来得るという、情報の性質を良く理解してもらいたいと心から思うのだが、最近のニュースを見る限り日本もお寒い状態であり、ユーザーとして出来ることは限られているのだが、何でも気をつけておくに越したことはない。

(当たり前のことだが、最低限、各種ネットサービス事業者の利用規約は良く読み、個人情報の打ち込みは十分注意して行うことを私は強くお勧めする。)

 最後に、ここ1週間くらいで結構溜まってしまっていた各種記事の紹介もしておきたい。

 まず、フランスでは、マルチメディア携帯に関するフランス補償金委員会の課金の決定は、携帯電話利用者による実際のデジタル利用を考慮していないとして、携帯電話関連団体も、この決定の取り消しを求めてフランス行政裁判所(コンセイユ・デタ)における補償金訴訟に参加することを決めたとするSilicon.frの記事があった。フランスでも、別に消費者やメーカーは納得して補償金を支払っている訳ではないのだ。(同記事によると、スペインではフィリップスによって、オーストリアではアマゾンによって、オランダではImationによって訴訟が起こされているそうである。)

 なお、補償金問題については、権利者団体がまた会見を開いたようだ(AV watchの記事ITproの記事Internet watchの記事ITmediaの記事参照)が、今の時点で、消費者の理解を全く得られていない主張を判で押したように繰り返すことに何の意味があるのか、さっぱり理解不能である。

 また、「P2Pとかその辺のお話」で既に紹介されているので、リンク先をご覧頂ければ十分と思うが、イギリスでは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が違法な利用をしていると思われるユーザーに警告を出すことに合意したというニュース(computer activeの記事wired blogの記事参照)があった。ただし、フランスの3ストライク法案と違い、ISPの自主的な取り組みに過ぎず、ユーザーのネットアクセスを遮断したり、ユーザーの情報をコンテンツホルダーに開示したりすることはないと思われることは注意しておいた方が良い。

 英仏独で、違法コピー対策がバラバラな時点で、EUレベルでこの点について今大きな政策判断がなされるとは思えないのだが、EUの会合でも、ISPが契約の際、利用者にネット上での違法コピー行為に対するリスクを伝えるようにするべきなどと、ISPの義務が問題にされており(le Journal du Netの記事heise onlineの記事参照)、ヨーロッパにおけるISPに対する圧力は当分続くのだろう。

 なお、EUの保護期間延長問題については、ヨーロッパ法学界の錚々たるメンバーが、タイムズに、「著作権の保護期間延長はイノベーションの敵である」と直球のタイトルで反対の記事を出している。

 また、実効性はかなり疑問であるが、韓国では、さらにネット規制を強化する動きもあるよう(マイコミジャーナルの記事参照)なので、これも念のために紹介しておく。

 経産省が、国家秘密保護法を作るという報告書をまとめた(産経のネット記事プレスリリース報告書の概要本文)という話もある。公務員の規制強化となるだけならともかく、民間の規制強化になりそうな話もあり、この報告書については、内容を良く読んでから、またコメントしたい。

 次回は上の経産省の報告書についてか、公職選挙法とネットの関係についてかどちらか先に書けた方を載せたいと思っている。

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2008年7月18日 (金)

第105回:欧州著作権関係動向2題(欧州委員会による著作権料徴収団体間の競争の決定・実演家保護期間延長の提案と、フランス行政裁判所による補償金に関する政府決定の一部破棄)

 また、少し間が空いてしまったが、今回は、欧州における著作権関係の動きを2つ紹介しておきたい。

(1)欧州委員会による著作権料徴収団体間の競争の決定と実演家保護期間延長の提案
 欧州委員会の動きについては日本語の記事にもなっている(ITmediaの記事Internet watchの記事など)ので、既に知っている方、読んでいる方も多いと思うが、欧州委員会は、欧州で国毎に別々に存在している著作権料徴収団体間で競争がなされなければならないとする決定と実演家の保護期間延長(50年から95年へ)の提案を、この水曜に同時に出したようである(EUのプレスリリース1AFPの記事(フランス語)PCINpactの記事(フランス語)tom's hardwareの記事(ドイツ語)など参照)。

 個別の記事にされていると分かりにくいのだが、この競争の決定と延長の提案が同時に出されていることには注意しておかなくてはならないだろう。これらは欧州なりのアメとムチの政策と考えられるのであって、延長の方だけを取り上げて国際動向を論じるなど欧州統一の大きな動きを無視して個別の動向のみを取り上げるのは、常に間違いの元である。

 実際には日本語の記事かEUのプレスリリースを直接読んでもらうのが早いと思うが、この競争の決定は、著作権団体における契約中で、他の国の著作権団体への著作権者の移動や選択を禁じる条項(著作権協会国際連合CISAC(International Confederation of Societies of Authors and Composers)に所属する欧州24団体中23団体がこのような契約をしているそうである)と、著作物の利用者に、国毎に各著作権団体との契約を強制する条項(24団体中17団体がこのような相互契約をしているそうである)を排除せよというもので、見方にもよるとは思うが、かなり大胆なものであると私は思う。

 実際には、欧州と一括りにされることが多いと言っても、言語・文化は国毎に違い、即座に競争が促進されるとも思えないが、欧州を単一の市場として機能させるためには、このような決定は必要なものであり、欧州市場に大きな影響を与えて行くのではないかと思われる。延長も提案されただけで成否は不明なので無論注視して行かなくてはならないが、このような欧州単一市場を目指した決定が今後どのような影響を生むのかは実に注目に値するだろう。

(2)フランス行政裁判所による補償金に関する政府決定の一部破棄
 また、先週11日には、フランスの行政裁判所(コンセイユ・デタ)で、補償金に関する政府決定の一部を破棄するという判決が出されているのでこれも一緒に紹介しておこう(Echo du Netの記事silicon.frの記事コンセイユ・デタのニュースリリース判決参照)。
)。

 記事などによると、要するに、コンセイユ・デタは、私的複製補償金は、合法の私的複製に対する補償に限られるのであって、非合法なコピーに関する補償まで含めて考えていた前回の料率決定は誤りであり破棄されるべきであるという決定をしたようである。

 これもよくよく考えれば当たり前の話であるが、私的録音録画補償金を非合法なコピーまで含めた補償だとする法律の主旨の誤認混同が欧州における高額な補償金額につながっている可能性があるのは見過ごせない。(日本でもたまにこの点を混同した主張を見かけるが、法律の主旨から言うとこれは誤認である。)

 ただし、これはあくまで6ヶ月の猶予つきの前回の料率決定の破棄でしかなく、この間に、またフランスの補償金委員会で新たな料率決定をしなければならず、著作権団体側も反対してもめることになると思われるので、特にこの判決でフランスの補償金がなくなる訳でもないだろう。しかし、このような判決が出されたことを考えると、フランスでもこれ以上の料率上げは難しくなるのではないかと思われる。

 日本でも、補償金問題など各種著作権問題について当分デッドロックが続きそうな状況だが、今後の検討において、文化庁や著作権団体が歪んだ形で国際動向を伝えることがないよう私は願っている。今回紹介したような動向からも、欧州各国がもはや著作権の保護強化のみを単純に考えている訳ではないと分かるはずである。知財政策の決定においても、競争政策的な観点を無視しては、常に独占は弊害も生み得るものであることを忘れてはならないのだ。

 次回は、特に大きな動きがなければ、IPアドレスはプライバシーかという問題について、私なりに考えたことを書いてみたいと思っている。

 少し紹介が遅れたが、総務省のダビング10に関する情報通信審議会答申が今パブコメにかかっている。私も今書く内容を考えているところだが、〆切は8月12日とまだ大分余裕があるので、地デジのコピー制御に関して政府にもの申したい人は是非提出することをお勧めする。

(7月21日の追記:他の知的財産権は、著作権問題ほど喫緊の問題をかかえている訳ではないので、上で書かなかったが、やはり同日にEUは特許他の工業所有権に関する戦略(pdf)も発表しているので念のためにここにリンクを張っておく。)

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2008年7月 5日 (土)

第104回:フランスの3ストライクアウト法案

 フランスで、俗に3ストライク法案と言われているものが、先月の18日に閣議決定され、これから国会審議にかかって行くと思われるので、遅ればせながら、今回はこの話を取り上げたいと思う。

 この3ストライク法案に関しては、去年の11月、第29回第30回で最初の原案と大統領演説などを紹介したが、フランス語のWikiなどに書かれていることなどを参考に、その後の経緯を少しまとめておくと、この法案については、第83回で紹介したように、欧州議会で可決されたボノレポートによって否定されたり、政府内の検討で自由情報委員会や通信管理委員会が否定的な意見を出したりもした後、最終的に、政府提出法案の審査をする国務院(コンセイユ・デタ)が法案に好意的な判断をし、閣議決定に至ったようである。さらに、この6月にはSVMという雑誌が行ったネットでの反対署名運動で3万人以上の署名が集まる一方で、権利者団体であるSACEMは法案の支持を表明するなど、フランスでもまた、ユーザー・インターネットプロバイダー・権利者団体が対立してロビー合戦が繰り広げられているようである。

 法案自体は、フランス文化省のHPに公開されている(プレスリリース文化大臣の演説法案(pdf))ので、ポイントとなる部分を訳してみると以下のようになるだろうか。(これらは知財法に対する新規追加部分である。)

...
Art. L. 331-12. - La Haute Autorite pour la diffusion des oeuvres et la protection des droits sur internet est une autorite administrative independante.

Art. L. 331-13. - La Haute Autorite assure :
1°Une mission de protection des oeuvres et des objets auxquels est attache un droit d'auteur ou un droit voisin a l'egard des atteintes a ces droits commises sur les reseaux de communications electroniques utilises pour la fourniture de services de communication au public en ligne ;

2°Une mission d'observation de l'offre legale et de l'utilisation illicite de ces oeuvres et .objets sur les reseaux de communication electronique utilises pour la fourniture de services de communication au public en ligne ;

3°Une mission de regulation dans le domaine des mesures techniques de protection et d'identification des oeuvres et des objets proteges par le droit d'auteur ou par les droits voisins.

Art. L. 331-14. - La Haute Autorite est composee d'un college et d'une commission de protection des droits.

Sauf disposition contraire, les missions confiees a la Haute Autorite sont exercees par le college.

Dans l'exercice de leurs attributions, les membres du college et de la commission de protection des droits ne recoivent d'instruction d'aucune autorite.
...

Art. L. 331-16. - La commission de protection des droits est chargee de prendre les mesures prevues aux articles L. 331-24 a L. 331-29, et a l'article L. 331-3 1.
...

Art. L. 331-23. - Les mesures prises par la commission de protection des droits sont limitees a ce qui est necessaire pour mettre un terme au manquement a l'obligation definie a l'article L. 336-3.

Art. L. 331-24. - Lorsqu'elle est saisie de faits susceptibles de constituer un manquement a l'obligation definie a l'article L. 336-3, la commission de protection des droits peut envoyer a l'abonne, sous son timbre et pour son compte, par la voie electronique et par l'intermediaire de la personne dont l'activite est d'offrir un acces a des services de communication au public en ligne ayant conclu un contrat avec l'abonne, une recommandation lui rappelant les prescriptions de l'article L. 336-3, lui enjoignant de respecter cette obligation et l'avertissant des sanctions encourues en cas de renouvellement du manquement.

En cas de renouvellement, dans un delai de six mois a compter de I'envoi de la recommandation visee a l'alinea precedent, de faits susceptibles de constituer un manquement a I'obligation definie a l'article L. 336-3, la commission peut assortir l'envoi d'une nouvelle recommandation, par la voie electronique, d'une lettre remise contre signature ou de tout autre moyen propre a etablir la preuve de la date d'envoi de cette recommandation et celle de sa reception par I'abonne.

Le bien-fonde des recommandations adressees en vertu du present article ne peut etre -conteste qu'a l'appui d'un recours dirige contre une decision de sanction prononcee en application de l'article L. 331-25.

Art. L. 331-25. - Lorsqu'il est constate que I'abonne a meconnu l'obligation definie a l'article L. 336-3 dans l'annee suivant la reception d'une recommandation adressee par la commission dans les conditions definies a l'article L. 331-24, la commission peut, apres une procedure contradictoire, prononcer, en fonction de la gravite des manquements et de l'usage de l'acces, I'une des sanctions suivantes :

1°La suspension de l'acces au service pour une duree de trois mois a un an assortie de l'impossibilite, pour I'abonne, de souscrire pendant la meme periode un autre contrat portant sur l'acces a un service de communication au public en ligne aupres de tout operateur ;

2°Une injonction de prendre des mesures de nature a prevenir le renouvellement du manquement constate et a en rendre compte a la Haute Autorite, le cas echeant sous astreinte.

La commission peut decider que la sanction mentionnee au 2" fera I'objet d'une insertion dans les publications, journaux ou supports qu'elle designe. Les frais sont supportes par les personnes sanctionnees.

Les sanctions prises en application du present article peuvent faire l'objet d'un recours en annulation ou en reformation par les parties en cause devant les juridictions judiciaires.

Un decret en Conseil d'Etat fixe les conditions dans lesquelles les sanctions peuvent faire l'objet d'un sursis a execution.

Un decret determine les juridictions competentes pour connaitre de ces recours.
...

Art. L. 336-3. - Le titulaire d'un acces a des services de communication au public en ligne a l'obligation de veiller a ce que cet acces ne fasse pas l'objet d'une utilisation a des fins de reproduction, de representation, de mise a disposition ou de communication au public d'oeuvres ou d'objets proteges par un droit d'auteur ou par un droit voisin sans l'autorisation des titulaires des droits prevus aux livres Ier et II lorsqu'elle est requise.

Le fait, pour la personne titulaire d'un acces a des services de communication au public en ligne, de manquer a l'obligation definie au premier alinea peut donner lieu a sanction, dans les conditions definies par l'article L. 331-25.

La responsabilite du titulaire de l'acces ne pourra etre retenue dans les cas suivants :
1°Si le titulaire de l'acces a mis en oeuvre les moyens de securisation definis en application de I'article L. 331-30 ;

2°Si l'atteinte visee au premier alinea est le fait d'une personne qui a frauduleusement utilise I'acces au service de communication au public en ligne, a moins que cette personne ne soit placee sous l'autorite ou la surveillance du titulaire de I'acces ;

3°En cas de force majeure.

(前略)
第331の12条 インターネットにおける作品の流通と権利の保護に関する公的機関は、独立の行政機関である。

第331の13条 公的機関は次のことを行う:
1°公衆への通信サービスとして提供される電気通信網の上で、これらの権利に対してなされる侵害に関して、著作権あるいは著作隣接権の保護を受ける作品と対象の保護の仕事;

2°公衆への通信サービスとして提供される電気通信網の上でなされるこれらの作品と対象の合法な提供と非合法な利用の監視の仕事;

3°著作権あるいは著作隣接権によって保護を受ける作品と対象の特定と保護に使われる技術的保護手段の領域における監視の仕事。

第331の14条 公的機関は、コレージュと権利保護委員会で構成される。

 反する規定がない限り、公的機関に委ねられた仕事は、コレージュによって実行される。

 その権限の実行に関して、コレージュと権利保護委員会のメンバーは、いかなる機関の指示も受けない。

(第331の15条:コレージュのメンバーを規定)

第331の16条 権利保護委員会は、第331の24条から第331の29条までと第331の31条に規定された処置を取る役割を負う。

(第331の16条の後半~第331の24条まで:権利保護委員会のメンバーの規定や、公的機関はデータ収集のための秘密保持義務を負う調査員を擁することなどを規定。)

第331の23条 権利保護委員会によって取られる処置は、第336条の3に規定されている義務の懈怠を終わらせるのに必要なだけに限られる。

第331の24条 第336条の3に規定されている義務違反を構成すると思われる事実が認められたときには、権利保護委員会は、契約者に、その名の下、その予算で、電子的に、あるいは、契約者と契約を結んでいる、回線による公衆通信サービスへのアクセスを提供する活動をしている者の仲介によって、第336の3条に規定されている規則を思い出させる勧告を送り、これらの義務を尊重することを求め、懈怠が繰り返される場合には罰則が科されることを警告する。

 前段に規定された勧告の送付から数えて6ヶ月以内に、第336の3条に定義されている義務の懈怠をなすと思われる事実が繰り返し認められた場合、委員会は、電子的に、署名など勧告の送付日時と契約者の受け取り日時を確定するのに適当な手段が取られた手紙を発送することができる。

 本条に規定されている通り発送された勧告の合理性は、第331の25条の適用により発される罰則の決定に対する訴えにおいてのみ、確かめられ得る。

第331の25条 契約者が、第331の24条に定義された条件で委員会が出した勧告を受け取ってから1年後においても、第336の3条に定義された義務を無視したと認められたとき、委員会は、抗弁の手続きの後、アクセスの利用と懈怠の重大性に応じ、次の罰を発することができる:

1°同期間、あらゆるオペレーターの下でなされる、回線による公衆通信サービスへのアクセスについての他の契約をすることも契約者にとって不可能となることが伴う、3ヶ月のアクセス停止;

2°聞かない場合は強制力を伴う、認められた懈怠の繰り返しを防ぎ、公的機関に報告をさせる性質の処置を取る命令;

 委員会は、2°に述べられている罰則が、指定する出版物、定期刊行物あるいはメディアの記事の対象となることを決定することができる。

 本条の適用になる罰則は、当事者による裁判所への破棄あるいは変更の訴えの対象となる。

 国務院の政令で、罰則が執行猶予の対象となり得る条件が定められる。

 政令でこれらの訴えをなす管轄裁判所は決定される。

(第331の26条~:罰則の執行条件や、契約に第336の3条のことを書き込み、必要な期間インターネットサービスプロバイダー(ISP)の義務などを規定。特に、第331の29条には、公的機関のアクセス遮断命令に従わなかった場合、ISPは5000ユーロの罰金が科され得るとも書かれている。)

第336の3条 回線による公衆通信サービスへのアクセスを有する者は、求めに応じ、そのアクセスが、著作権あるいは著作隣接権の保護を受ける作品あるいは対象の、第1章と第2章に規定されている権利を有する者の許可の無い、複製、上演、提供、あるいは公衆への通信を目的とする利用の対象とされないように見張る義務を有する。

 回線による公衆通信サービスへのアクセスを有する者が、第1段落に定義されている義務を怠ったとする事実があれば、第331の25条で定義されている条件で、罰則が科され得る。

 次の場合は、アクセスを有する者の責任は維持されない:

1°アクセスを有する者が、第331の30条の適用を受けるセキュリティ手段を利用した場合;(訳注:第331の30条では、公的機関が第336の3条の義務の懈怠を防ぐのに有効なセキュリティ手段のリストを作ることになっている。)

2°第1段落に規定されている侵害が、アクセスを有する者の管理監督下にない者によって、回線による公衆通信サービスへのアクセスが不正に利用されたと認められた場合;

3°やむを得ず強制された場合。
(後略)

 一見それなりに例外規定を設けているようにも見えるのだが、具体的な義務を定めている第336の3条で複製まで対象となっているのは非常に大きく、ここで複製が対象となっているということは、ダウンロードも処罰の対象となり得ることを意味しているだろう。

 また、この公的機関の検閲権限と処罰権限の大きさも問題であり、数ヶ月とは言え、ブラックリスト化が行われ、その間あらゆるISPとの契約ができず完全にインターネットへのアクセスが遮断されたり、その事実が公表されたりするのは、インターネット社会においては致命的である。

 念のため、前回も紹介したネット記事など(Numeramaの記事rue89の記事SVMの反対運動記事)などで書かれているこの法案に対する批判の概要も以下に載せておこう。(これらは私がまとめたものであるとお断りしておく。)

  • 既に海賊版対策の法律は存在しているのであり、この法案は、海賊ではなく大衆を処罰することを目的としている。
  • このように類を見ない著作権検閲がインターネットなされるのは問題が大きく、このような法案はネットでの創造をよりアングラなものとするだけである。
  • インターネットの合法利用まで阻害する。
  • 抗弁の不可能な警告によって、インターネットへのアクセス遮断の可能性が発生する。
  • インターネットへのアクセス遮断は、この情報化社会において必要不可欠な接続を奪うものである。
  • ユーザーのアクセス遮断だけではなく、フィルタリングやアクセス制限など、ISPに対するものも含め、あらゆる手段が取られ得る。
  • ユーザーのブラックリスト化は、アクセス遮断以上のものをもたらす。
  • 技術的な問題が考えられておらず、処罰対象の人数の多さを考えるとコスト的にも現実的でない。
  • EU議会の政策に反しており、インターネットの文化と経済の発展について、より国際的な議論が必要である。

 これらの批判は批判で非常にもっともであり、著作権保護ばかりを考えて、ユーザー保護やインターネットへのアクセス遮断の致命性をフランス政府が理解していないのは非常に残念なことである。ただ、フランスでも、これからもユーザーなどの反対運動が続けられて行くであろうし、廃案になるかどうかまでは分からないが、前回のDADVSI法(フランスの前回の著作権法改正:この改正についてもいつかまとめておきたいと思っている。)における経緯を考えても、この法案がそのまま通る可能性は低いに違いないし、何か動きがあれば、随時その検討状況の紹介もして行きたいと私は思っているところである。

 最後に、少し世界の著作権関係のニュースも紹介しておくと、まず、第102回で紹介したが、カナダでもひとまず国会が閉幕し、著作権法の改正は先送りとなったようである(The Gazette (Montreal)の記事参照)。これで少しは落ち着くだろうが、国会が再開されたらカナダでもこの改正問題がまた大きく取り上げられることだろう。

 アメリカでは、ユーチューブ対バイアコムの訴訟で、ユーチューブ側にユーザーの閲覧情報の開示が命じる判決が地裁で出されている(AFPの記事Wired Visionの記事参照)。これも地裁レベルの話であり、恐らく控訴がなされるので確定ではないとおもわれるが、非常に厳しいものである。ユーチューブを見ているだけで訴訟の危険にさらされるのは、アメリカでも保たないだろうし、最高裁に至るまでの過程で何らかの修正がなされることだろうが、これもまた世界的に影響を与えかねない非常に危険な裁判として今後注視して行く必要がある。

 また、ダビング10の運用も開始されたが、案の定、早速不具合の報告などもされている(中日新聞の記事参照)。メーカーや権利者団体などには悪いが、この地デジのコピー制御の問題もまだ終わりではないと思っているのは、私だけではないだろう。

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