第100回:児童ポルノ所持の取り締まりという現代の魔女狩り
今、国会情勢が流動的なこともあり、これからどうなるかは分からないが、昨日(6月6日)は、ネット規制法が超スピードで衆議院で可決される(日経のネット記事、ITmediaの楠正憲氏の記事参照)とともに、自民党の法務部会で単純所持罪を含む児童ポルノ規制強化法案(自民党のニュース記事、マイコミジャーナルの記事参照)が強引にとりまとめられるという最低最悪の一日だった。
6月6日の国会のネット中継を見ると分かるが、ネット規制法の審議は全部合わせても30分も無く、青少年問題特別委員会で、通り一遍の無意味な答弁が各政党から出され、異議なしとされて取りまとめられた後、委員長提出という形で即日本会議にかけられ、本会議では質疑すらされず委員長の説明だけで全会一致で可決されるという出来レースぶりである。
青少年問題特別委員会で玄葉委員長が関係者からの意見を聴取しつつ取りまとめたという説明をしていたが、政官とこれに連なる規制強化派以外、これほど急いでネット規制をして欲しいなどと言っていたものは一人としていなかったと私は記憶している。前回書いた通り、このネット規制法には、総務省の携帯電話フィルタリング義務化要請以来の数々の混乱の種が全て含まれているのだ。個人的には、来週、国会審議が空転することに賭けたいが、非常に気分が悪い。時間がかかるだろうが、このように、実質的な国会審議を省く与野党談合が可能な立法システムこそ改められるべきだと私は言い続けるだろう。
児童ポルノ規制強化に関しても、既にかなり騒がれており、単純所持規制の危険性も規制に対して慎重な国会議員には伝わっているものと思うが、規制強化派は全く聞く耳を持たずに、やはり規制ありきで全てを押し進めようとしているようである。自民党のニュース記事でも、背景として、単純所持が児童への性的虐待などを誘発しているという、いまだかつて証明されたことがなく、表現の快不快を規制の可不可と勘違いしている規制強化派の脳内妄想理論と、G8諸国で日本とロシアだけが単純所持規制を行っていないという、これもまた全く法改正の根拠たり得ない理屈を相変わらず持ち出しているというひどさである。
児童ポルノ規制に関しては、つい最近も、国際刑事警察機構(ICPO)が、国際的ワンクリック捜査作戦を実行し、オーストラリアが70人以上を逮捕したと得々と発表する(AFP BBの記事参照)など、欧米を中心に完全に集団ヒステリーの状態に落ち入っている。このような取り締まりは、ほとんど、キリスト教道徳の押し売り、魔女狩りに近い。
繰り返しになるが、どう考えても、いかなる情報についてであれ、情報の単純所持を規制するのは明らかに異常である。完全に個人・家庭内に閉じる情報の所持に関しては、「性的好奇心を満たす目的」や「みだりに」といった主観的な要件は証明も反証もできないものであり、法運用の恣意性・冤罪は絶対に避けられない。ICPOレベルですらロリコンを思想犯罪とみなしているフシがあるのでは、このような規制はなおさら危険なものとなるに違いない。
児童保護は無論重要だが、インターネット時代にあっては、児童保護もまた相対的に考えられなくてはならないのである。欧米の児童ポルノ所持規制も必ず歴史に断罪されることになるだろう。政官の規制強化派は7月のサミットで欧米に自慢気に媚びを売れるネタが欲しいのかも知れないが、危険極まりない情報の単純所持規制など、将来的には国際的な恥になりこそすれ誇れるものでは全くない。キリスト教国を中心にまだ中世の暗黒は続いているのかも知れないが、このような現代の魔女狩りサークルに日本は絶対に参加してもらいたくないと私は思う。
(児童ポルノの単純所持規制問題については、法政大学社会学部の白田秀彰准教授が、「単純所持宣言 / その他、性規制について」という痛快な小論を発表されているので、是非一読をお勧めする。)
来週も国会情勢から目が離せないが、ネット規制法・児童ポルノの単純所持規制法が成立しない・提出されないことを私は心から祈っている。
(6月8日の追記:白田先生の小論について、法政大学のHPへのアクセスが今非常に不安定なため、一時的な便宜のためににWeb魚拓へのリンクも張ったが、この魚拓へのリンクは、法政大学のリンクの方が安定し次第削除するつもりであることを、念のためお断りしておく。)
(6月9日の追記:Web魚拓へのリンクは削除した。
また、ネット規制法について、ヤフーなどネット大手5社が再度懸念を表明し(ITmediaの記事、ケータイwatchの記事参照)、新聞協会も再度懸念を表明した(ITmediaの記事、internet watchの記事参照)というニュースがあったので、リンクを張っておく。)
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