第99回:フィルタリング利権の確保に走る自民党と民主党
ネット規制法に関して、与野党が今国会での成立を目指すことで合意したとするニュースがあった(時事通信のネット記事、東京新聞のネット記事、毎日のネット記事1、記事2、朝日のネット記事)。
これらの記事に書かれていることから、与野党が合意した法案骨子をまとめると以下のようになるだろうか。
<各者の義務>
・携帯電話会社:18歳未満の子供へのフィルタリングサービス提供義務。(保護者による解除可。)
・PCメーカー:フィルタリングソフトのプリインストール義務。
・サーバー管理者・サイト管理人:子供が有害情報に触れないようにする努力義務。
・保護者:子供がネットを適正に利用できるよう教育する努力義務。
・フィルタリングサービス提供・ソフト開発事業者:子どもの発達に応じたきめ細かいサービスの提供を行う努力義務。
・政府:有害サイト対策・フィルタリングに関する関係閣僚会議の設置・基本計画の策定。有害サイト対策を行う事業者や団体などに財政支援。
<その他>
・有害情報の選別基準は民間の第3者機関が策定。(国による第3者機関の登録・指定などはなし。)
・ただし、著しく性的感情を刺激する、著しく残虐性を助長する、著しく自殺や犯罪を誘発する、などの有害情報の例示は恐らくあり。
・フィルタリングソフトの普及促進や技術開発などを行う民間団体は総務省または経産省に登録可能。
・罰則はなし。
第96回を見てもらえば分かるかと思うが、この与野党合意は、自民党案の第3者機関の登録・指定という一番問題が大きかった部分が除かれているだけで、後は自民党案と民主党案の寄せ集めに過ぎない。第3者機関の登録・指定が無くなったので多少国の関与は弱まったが、代わりに突如として、意味不明のフィルタリングソフトの普及や開発などを行う民間団体の登録が出てくるなど、案の定、両党とも密室談合で利権を作ろうとすることを止める気はないらしい。
とにかく義務化を盛り込んで、フィルタリングについては、法律で国の関与を既成事実化し、フィルタリングを口実に税金を天下り団体に垂れ流して、政官で利権の確保を図ろうとしていることがあまりにも見え透いているのには、心底うんざりさせられる。
(さらに細かなことを言えば、PCへのフィルタリングへのプリインストール義務化も本当に大丈夫かという疑問がある。普通に大人が自分用にPCを買う場合には不要だろうし、いかなる場合にも抱き合わせで買わされるとしたら、愚かしい限りである。このような不当な抱き合わせ販売を法律で後押しするのはいかがなものかと思う。この問題ではメーカーの声は全然聞こえてこないのだが、補償金問題で消費者の声を代弁すると言い切ったメーカーは一体どう考えているのか。)
第96回でも書いた通り、この法改正の根拠は極めて薄弱である。昨日今日でも、新聞協会に加えて、民放連も反対を表明(時事通信のネット記事参照)し、支援を受けられるだろう有害サイト対策団体のモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)すら、法規制の必要性から検討してもらいたいとの意見を出す有様(internet watchの記事、ITmediaの記事、意見本文)であり、とにかくネット規制に関しては、政官の規制強化派以外からは、ほとんど反対の意見しか聞こえてこないのである。
6月6日に衆院通過、来週中に参院での可決、成立を目指すという情報が載っている記事もあるが、どう考えても、この法案は生煮えも良いところで、拙速に成立させても混乱をもたらすだけであり、他の重要法案を放っておいてまで、来週までに無理矢理採決しなければならないものとも思えない。今を逃すと後がないとばかりに成立を焦っていることからして、いかに、この法規制が、法規制のための法規制に過ぎず、その根拠が薄弱であるか分かろうというものである。
成立するもしないも予断を許さないが、このように、フィルタリング利権の確保とネット規制の既成事実化を焦ることで、ネット規制に関する限り、自民党も民主党も株を下げた。だが、いずれにせよ、この問題で規制推進派の国会議員と規制反対派の国会議員の名前は、ネットで相当いぶり出された。規制推進派の諸氏よ、解散総選挙は遠からずある、国民の審判が下される日になって頭を下げても手遅れだと思え。もはや利権政治だけがまかり通る時代ではないのだ。
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