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2008年6月26日 (木)

番外その13:欠陥放送規格ダビング10

 ダビング10の開始日時が7月4日の午前4時と確定したというニュースが流れている(AV watchの記事朝日新聞の記事参照)。権利者団体側が、補償金問題を切り離すという条件つきで譲歩したので開始と決まったようである。補償金問題を棚上げにして実施できるようであれば、ダビング10を実施してもらっても構わないのだが、このダビング10については書き足りないところもあるので、この機会に番外としてもう少しだけ書いておきたいと思う。

 第18回にも書いたような、ユーザーから見たときの機器の動作のわかりにくさという点だけではなく、このダビング10規格は、放送規格として非常にトリッキーに作られており、反対側から見てもテクニカルに危ういのではないかと私は危惧している。

 ダビング10の仕組みは、増田和夫氏の記事(日経トレンディの記事1記事2参照)に詳しいが、要するに、今の無料地上放送のコピーワンス信号を全てダビング10信号に読み替え、有料放送に新たにコピーワンスを示す信号を新たに付加するという方式で、放送局とメーカーはダビング10を実現しようとしているのだ。

 恐らく、放送局とメーカーのコスト負担の問題から、このような変則的な信号運用をすることになったのだろうと思うが、この場合、ある時間を境に同じ信号に対して異なる動作を機器にさせないといけないため、ダビング10への動作切り替えタイマーを放送波でセットすることが必須となる。そのためのファームウェアアップデート放送波が送出されている時に、完全に電源コードが抜かれ、録画機が起動不能となっていたりしたら、アップデートはなされないだろうし、メーカー・機種毎に、このアップデート放送波の送出時間が違うことも混乱の種となるだろう切り替えタイマーに機器内の時計を使っている場合、その時計をきちんとセットしていないとやはりまともに動作しないに違いない。メーカーも、ダビング10タイマーを機器に組み込んでいても、コピーワンスへ戻す機能は組み込んでいないだろうから、一旦ダビング10を開始した後に問題が起きて、元のコピーワンスに戻そうとしても、ほぼ不可能である。メーカーに頑張ってもらうしかない話だが、店頭在庫のダビング10セットをどうするかということもあるだろう。

 妥協の産物であり仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、このような規格は技術的にはほぼ欠陥規格と言っても差し支えない。技術と事情に詳しいユーザーは対応もできるし、まだ納得も行くだろうが、本当の一般ユーザーに、ダビング10対応のためにユーザー側でしなければならない作業や、メーカー・機種によっても対応時期が違うといったアンバランスがどこまで理解・納得されるかはなはだ心許ない。このような運用はユーザーフレンドリーとは言い難く、実施時に、かなりの混乱が生じるだろう。

 この6月24日に、権利者団体は、このダビング10譲歩で自分たちこそ消費者重視だと、メーカーを非難する記者会見を開いたようである(AV watchの記事internet watchの記事ITmediaの記事参照)。メーカーもメーカーだが、闇雲に自らの主張を繰り返し、役所を使って圧力をかけてきていたのは権利者団体も全く一緒であり、これはどっちもどっちだろう。大した利便性の向上もなく、社会的にそれほど大きなインパクトがあるとも思えないダビング10の実施を、コストの多くをメーカーと消費者に押しつけた上で認めて大きな譲歩をしたと言われても、消費者としては鼻白む思いがするだけである。

 ただ、ダビング10が本当のゴールでないという点だけは、私も全く同意する。総務省の情報通信審議会のデジタルコンテンツ委員会や、その上の情報政策部会などでも、消費者代表から、B-CASや補償金などに対するそもそもの疑問が提起されており(AV watchの記事ITmediaの記事参照)、地上デジタル放送のDRM・著作権に関する問題は、ダビング10程度の弥縫策でどうにかなる問題ではないことが、どこの場でも明らかになりつつある。

 ダビング10に関しては、実施してみなければ本当にどのような問題が発生するか、消費者・ユーザーが全体としてどう反応するかということは分からないが、補償金問題などを棚上げにして実施できるのであれば、混乱を最小限に抑えるよう、メーカーなどには周知と消費者対応をしっかりやってもらいたいと思う。何にせよ、私的録音録画補償金問題やB-CAS問題などの本当の大問題は全て棚上げ・先送りにされたのだ、先は長い。私は一ブロガーに過ぎないが、この問題については何年かかろうと追いかけつづけるつもりである。

 最後に、世界の著作権関連ニュースの紹介もしておくと、EUの著作権保護期間延長に関する検討も今特に大きく動いている様子はないが、欧州法学界の錚々たるメンバーが延長反対の意見をEUに送ったとのニュース(gulliの記事(ドイツ語))があった。

 また、どこまで真面目に考えているのかは分からないが、インターネットサービスプロバイダーに著作権侵害を監視させる規制をEUが考えているとする記事(techradar)もある。欧州が独仏政府を中心に著作権検閲をやりたがっているのはネットを見ていても伝わってくるのだが、著作権はそこまで強い権利ではないし、あってもならない。随時紹介して行きたいと思っているが、このようなEUの知財保護強化の動きは気をつけておく必要があるだろう。

 次回は、ネットユーザーを公的機関が監視・違法な著作物をやりとりしているユーザーに警告メールを送信・3度の違反でユーザーのネット切断を行うという、いわゆる3ストライクアウト法案が、先週フランスで閣議決定されたというニュースがあった(rue89の記事Le Pointの記事ZDnetの記事参照)ので、この動きについて紹介できればと思っている。

(6月29日の追記:匿名希望N様からのコメントを受け、上の文章に少し手を入れた。)

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2008年6月20日 (金)

第103回:知財計画2008の文章の確認

 この6月18日に2008年版の知財計画(本文参考資料パブコメ結果概要団体提出パブコメ個人提出パブコメ)が知財本部で決定された(internet watchの記事日経のネット記事知財情報局の記事参照)。

 今年も、こんな分厚い計画を作ることに何の意味があるのかと思うほど分厚い計画になっているが、この計画は、政府における知財政策検討のエンサイクロペディアとして、政府内の感触を掴むには非常に便利なものなので、第71回などで指摘した箇所が、どう変わったかを、今回は確認して行きたいと思う。(なお、私が提出したパブコメは第79回に載せた。)

 まず、ダウンロード違法化問題については、第90ページで、

②利用と保護のバランスに留意しつつ適正な国内制度を整備する
ⅰ)コンテンツの利用を円滑化するため、次の事項について2008年度中に法的措置を講ずる
a)権利者不明のコンテンツの利用を円滑に進めるための対策
b)違法複製されたコンテンツからの私的複製の許容範囲の見直し
c)障害者による著作物の利用促進のための権利制限規定の整備
また、著作物のライセンシーの保護等の在り方、いわゆる間接侵害の明確化、法定損害賠償及び複数の権利者が関わるコンテンツに関する望ましい権利行使の在り方等について、2007年度の検討成果を踏まえてさらに検討
を進め、2008年度中に結論を得る。
(文部科学省)

という記載になった(赤字強調は私が付けたもの)。ダウンロード違法化をしないことと書き込まれなかったのは残念であり、この記載を見る限り、文化庁はやはりダウンロード違法化を諦めてはいないと見えるので、この点は、ユーザーにとって最大の著作権問題の一つとして、今年も引き続き動きを注視して行かなくてはならないだろう。また、様々なサービスに対する影響が大きい間接侵害に関する議論なども、文化庁の文化審議会で議論されると考えられるので、やはり気をつけておく必要がある。

 また、保護期間延長問題については、第91ページで、

ⅳ)著作物の保護期間の延長や戦時加算の取扱いなど保護期間の在り方について、保護と利用のバランスに留意した検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。
(文部科学省)

と去年と同じ内容で、期限だけを2008年度と先延ばしにした形になっている。著作権保護期間延長問題については、役所以外では既にほぼ結論が出ているように思われるが、文化庁としては問題の引き延ばしをしたいのだろう

 最近何かと騒がしい私的録音録画補償金問題とコピーワンス問題については、第91ページに、

④私的録音録画補償金制度の見直しについて結論を得る
2007年度における検討の成果を踏まえ、技術的保護手段の進展やコンテンツ流通の変化等を勘案しつつ見直しを進め、私的録音録画補償金制度の見直しについて2008年度中に結論を得る。
(文部科学省、経済産業省)

⑤技術革新のメリットを享受できるプロテクションシステムの採用を促す
コンテンツの流通を促進するに当たり、技術革新のメリット・利便性を国民が最大限に享受できるようにするとの観点も踏まえ、視聴者利便の確保と著作権の適切な保護を図り、あわせてコンテンツビジネスが拡大するよう、バランスのとれたプロテクションシステムの策定・採用を促進するため、以下の取組を進める。
a)デジタル放送のコンテンツ保護に関するルール及びその担保手段の在り方について、権利者が安心してコンテンツを提供できる環境整備の観点やユーザーにとっての使いやすさへの配慮等を踏まえて検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。
b)民間事業者において動画配信サービス等のプロテクションシステムを検討する場合は、権利者が安心してコンテンツを提供できる環境やユーザーの使いやすさに配慮したルールの採用を奨励する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

と書かれており、去年より短く整理されているが、ここも2008年度中と先延ばしの記載である。個人からのパブコメでは結構言及されていたのだが、ここで、B-CAS問題に関する検討が書き込まれなかったのは残念である。

 特に、ダビング10については、権利者団体側が、HDD課金を棚上げとして、容認する発言を総務省の情報通信審議会でしたようであり(日経のネット記事ITproの記事AV watchの記事internet watchの記事マイコミジャーナルの記事ITmediaの記事参照)、来月実施される公算が高くなっている。ブルーレイ課金など、省庁間の不透明なプロセスで物事を決めようとすること自体どうかと思うが、確かに今のまま膠着状態を続けていても誰も得をしないので、訳の分からない不当な課金抜きで弥縫策としてダビング10を実施できるならしてもらっても構わない。ただ、このダビング10の実施で、さらに地デジ関係のDRM・著作権問題はさらに混乱し、混迷を深めるのではないかと私は予想する。

 また、第92ページには、ネット規制法との関連が明記されている訳ではないが、フィルタリング促進について以下のように書かれている。

⑦青少年を有害情報から守るための取組を奨励・支援する
有害なコンテンツから青少年を守るため、フィルタリングシステムの構築など業界の自主的な取組を促進するとともに、学校関係者、保護者、関係業界に対する広報啓発活動や連携強化を促進する。
(警察庁、総務省、文部科学省、経済産業省)

 ネット規制法が成立したこともあり、ここに書かれている省庁がそれぞれフィルタリングに関する予算などを計上してくることだろう。天下り利権の無意味な拡大につながらないよう、特に、これらの各省庁のフィルタリング関連施策には目を光らせておく必要がある。

 さらに、これは今年からだと思うが、違法ファイル交換について、以下のように書かれている。

②違法コンテンツ配信の根絶に向けた取組を推進する
ⅰ)2008年度から、Winny等のファイル共有ソフトを用いて著作権を侵害してファイル等を送信していた者に対し、警告メールを送付するなど電気通信事業者と権利者団体が連携した侵害行為を排除する仕組みづくりを支援する。
(警察庁、総務省、文部科学省)
ⅱ)ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害事犯に対し、著作権団体との連携を強化し、効果的な取締りを実施する。
(警察庁)

 今のところファイル交換におけるアップローダー対策として書かれており、各関係者の地道な取り組みを否定するつもりは全くないが、警察庁・総務省・文化庁が絡む検討でロクなアウトプットが出てきたためしがないので、ここも要注意だろう。

 また、いわゆる著作物の公正利用の類型、フェアユース関連は、第85~86ページに、

②ネット検索サービス等に係る法的課題を解決する
次世代をリードする情報の検索・解析・信憑性検証技術の開発・国際標準化による先進的な事業の出現を促進するとともに、ネット検索サービスが円滑に展開されるよう2008年度中に法的措置を講ずる。また、利用者に応じて、適した商品等の情報を提供するサービスが円滑に提供できるよう、利用者のプライバシーを保護しつつ利用者に関する情報を安心・安全に収集・蓄積・活用するための方策等について検討を行い、2008年度中に一定の結論を得る。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

③コンテンツ配信に伴うサーバー上の複製行為等に係る法的課題を解決する
コンテンツ配信の通信過程において端末やサーバー等で生じる一時的な蓄積について、通常の通信過程における機器の利用であって権利者の利益を不当に害しない場合は著作権法上権利を及ぼさない措置を導入するなど、一時的蓄積等に係る法的課題を解決するための検討を行い、2008年度中に法的措置を講ずる。
(文部科学省)

④研究開発における情報利用の円滑化に係る法的課題を解決する(再掲)
ネット等を活用して膨大な情報を収集・解析することにより高度情報化社会の基盤的技術となる画像・音声・言語・ウェブ解析技術等の研究開発が促進されること等を踏まえ、これらの科学技術によるイノベーションの創出に関連する研究開発については、権利者の利益を不当に害さない場合において、必要な範囲での著作物の複製や翻案等を行うことができるよう2008年度中に法的措置を講ずる。
(文部科学省)

⑤リバース・エンジニアリングに係る法的課題を解決する
革新的ソフトウェアの開発や情報セキュリティの確保に必要な範囲において、コンピュータ・ソフトウェアのリバース・エンジニアリングの過程で生じる複製・翻案を行うことができるよう2008年度中に法的措置を講ずる。
(文部科学省)

(3)デジタル・ネット時代に対応した知財制度を整備する
デジタル・ネット時代に対応したコンテンツ産業の振興を図るため、新たなコンテンツの利用形態を視野に入れた流通促進の枠組み、包括的な権利制限規定の導入も含めて新たな技術進歩や利用形態等に柔軟に対応し得る知財制度の在り方、ネット上の違法な利用に対する対策強化等について早急に検討を行い、2008年度中に結論を得る。また、コンテンツ市場の拡大に向けて、既存のメディアにとらわれない新規事業の創出など、デジタル・ネット時代に対応した新たなビジネスモデルの構築に向けた取組を支援する。
(内閣官房、総務省、文部科学省、経済産業省)

と書かれ(赤字強調は私がつけたもの)、図書館での著作物のデジタル利用については、第95ページに、

(4)国立国会図書館のデジタルアーカイブ化と図書館資料の利用を進める
国立国会図書館において行われている貴重な図書等のデジタル化やインターネット情報資源等を収集保存し、ネット上で一般ユーザーの利用に供する取組について、その促進が図られるよう一層の連携を進める。
このため、権利者の経済的利益や出版ビジネスとの関係を考慮しつつ、国立国会図書館における蔵書のデジタル化の推進に必要な法的措置を2008年度中に講ずるとともに、国立国会図書館と他の図書館等との連携や図書館等利用者への資料提供の在り方については、関係者間の協議を促進し、2008年度中に一定の結論を得る。
(文部科学省、関係府省)

と書かれている。包括的なフェアユース規定の導入がどうなるかは予断を許さないが、少なくとも、検索エンジンや研究目的などの個別の権利制限規定については、是非、早期に導入してもらいたいと思う。著作権法によって、情報の公正利用が阻害され、文化と経済の正常な発展が阻害されているという状態は、一刻も早く解消されてしかるべきなのだから。

 著作権問題の本質は、技術の発展によって生まれた新たな公正利用の類型に全く対応できていない今の著作権法によって、文化と経済の発展に素直に寄与する情報の公正利用が阻害されていることにあり、既存のコンテンツのネット流通が進まないことにある訳ではないということがなかなか理解されないのは残念であるが、コンテンツ流通促進法についても、

①デジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を整備する
放送事業者と権利者団体間の契約ルールの策定やコンテンツ関連情報の集約化など2007年度中に一定の結論が得られた事項については実施に向けた取組を支援するとともに、権利処理の円滑化等のデジタルコンテンツの流通に関する課題や国際的枠組みについて引き続き検討を行い、最先端のデジタルコンテンツの流通を促進する法制度等を1年以内に整備し、クリエーターへの還元を進め、創作活動の活性化を図る。
(総務省、外務省、文部科学省、経済産業省)

と1年以内に何かの法制度等を整備すると書かれている。今年も、コンテンツ流通が知財政策上のキーワードの一つとして取り沙汰されるのだろうが、コンテンツ流通はビジネスマターであって政策マターではない。政官の政策担当者が、政策マターとビジネスマターの分離が全く出来ていないことも、また、今の政府における政策検討を迷走させている一つの要因となっているだろう。

 最後に、ここで著作隣接権の検討という記載が削除されなかったのは残念であるが、情報通信法については、第85ページに、

①通信と放送の垣根を越えた新たなサービスへ対応する
通信・放送の法体系の見直しについては、コンテンツの生産・流通・消費を最大化する方向で検討を行い、2010年を目途に結論を得る。また、通信・放送の法体系の見直しの状況を踏まえ、新たなコンテンツの創作への寄与等を考慮しつつ、利用者からみたサービスの形態に応じた、権利関係の規定の見直しや著作隣接権の在り方の検討を2008年度から開始する。
(総務省、文部科学省、経済産業省)

 と書かれている。この情報通信法に関については、表現の自由や通信の秘密の点からして疑問だらけなペーパーを総務省が作ってきているので、その点をまず注意するべきだが、著作権に関する点でも非常に危うい。著作隣接権をネットで発生させることは百害あって一利ない最低の施策と私は断言できる。

 著作権問題に関しては、結論が出ていた著作権の非親告罪化についての記載が消え、どの記載においても、明確に規制強化寄りとならなかったのは最低限良かったとしても、私的録音録画問題を中心に、本当に国民本位の検討をするとまで役所の意識が進んでいないことが見て取れるのは非常に残念である。公正利用の各類型に対する権利制限一つとっても安心はできない。実際に知財に関する規制緩和の法改正がなされ、安定した運用がなされるまで、私は一国民として厳しい目を向け続けるだろう。今年も、主戦場となるだろう私的録音録画問題を中心に、私は地道に追いかけて行くつもりである。

(今回は、著作権問題中心に紹介したが、無論、第95回で取り上げたような、特許など他の知財権に関することも書かれているので、参考になりそうな点は随時紹介して行きたいと思う。)

 なお、児童ポルノ法に関する記載は去年も今年も知財計画中にはないのだが、個人提出のパブコメには、児童ポルノ法の改悪反対の意見が多く見られる。フィルタリングなど、コンテンツに関係していさえすればと、何でも計画の中に取り込んでしまっている知財本部も悪いのだが、このような民意について、政官の政策担当者はどう考えているのだろうか。

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2008年6月17日 (火)

第102回:カナダの著作権法改正案

 6月12日に、カナダで、著作権法の改正案が政府から提出されたというニュースがあった(Canadian Pressの記事1記事2GLOBE AND MAILの記事marketwireの記事NATIONAL POSTの記事1記事2ITmediaの記事カナダ政府のニュースリリース参照)ので、今回は、この話を取り上げたい。

 第34回で少しだけ書いたように、カナダでは著作権法改正に対する反対運動もあり、政府内で改正法案の見直しをしていたようである。この法改正に、タイムシフトやプレースシフトのための権利制限や、教育・研究目的のための権利制限などの追加が含まれているということまでは良いのだが、今回公表された案では、カナダでの反対運動の中心の問題点だったDRM回避規制に加えて、ダウンロード違法化まで加えられて来るなど、全く評価できない改正も含まれており、ユーザーからの批判が高まっているものと見える。

 政府としては、法定賠償金額(今までは最高2万ドル)を、非商用レベルの侵害で500ドルに、さらに著作権侵害と知らずにダウンロードやDRM回避をした場合について200ドルまで下げることで、権利者と利用者の間のバランスを取ったとしているようだが、上でリンクを張った記事などでも、当然、エンフォースや実効性の面で問題がある等、日本と全く同じ指摘を関係者から受けている

(また、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の責任制限も同時に行っているが、ある程度の書式が整っていれば、ISPは権利者からの侵害ノーティスをそのまま侵害していると思われる者に転送しなければならず、情報を開示するかどうか自体は裁判所で決まるものと思われるが、訴訟のために侵害していると思われる者を特定する情報を6ヶ月間保持しなければならないなど、ISPの義務もかなり重い。) 

 カナダの現行法のフェアディーリング規定は、研究あるいは私的学習の目的に限られるなど、イギリス型の狭いものだが、記事などによると、単なるダウンロードユーザーの個人情報開示を認めないとする判例もカナダにはあるようであり、このような法改正案では、今まで判例の積み重ねなどで事実上認められてきたことが認められなくなり、対ユーザー訴訟の乱発を招くのではないかとユーザーが強い懸念を抱くのも無理はない

  法案自体公表されているPDF版現行法)ので、念のため、問題箇所の翻訳もしておくと、改正法案は、フェアディーリングとして、例えば映像に対して、以下のような権利制限を追加するものである。(赤字強調は私が付加したもの。なお、音楽についても同様の権利制限の追加が書かれている。そもそも言葉からして矛盾している気がするが、私的利用目的の侵害の場合の法定損害賠償額については、新第38.1条に書かれている。)

Reproduction onto Another Medium or Device
29.21 (1) It is not an infringement of copyright for an individual to reproduce a work or other subject-matter that is a photograph or is contained in a book, newspaper, periodical or videocassette, or any substantial part of such a work or other subject-matter, onto another medium or device, if the following conditions are met:

(a) the copy of the work or other subjectmatter of which the reproduction is made is not an infringing copy;
(b) the individual legally obtained the photograph, book, newspaper, periodical or videocassette, otherwise than by borrowing it or renting it, and owns the medium or device on which it is reproduced;
(c) the individual, in order to make the reproduction, did not circumvent a technological measure or cause one to be circumvented, within the meanings of the definitions “circumvent” and “technological measure” in section 41;
(d) the individual
(i) reproduces the work or other subjectmatter no more than once for each device that the individual owns, whether the reproduction is made directly onto the device or is made onto a medium that is to be used with the device, and
(ii) prints no more than one copy of the work, if the work is in digital form;
(e) the individual does not give the reproduction away; and
(f) the reproduction is used only for private purposes.

(2) If the individual has downloaded the work or other subject-matter from the Internet and is bound by a contract that governs the extent to which the individual may reproduce the work or other subject-matter, the contract prevails over subsection (1) to the extent of any inconsistency between them.

(3) Subsection (1) does not apply if the individual gives away, rents or sells the photograph, book, newspaper, periodical or videocassette without first destroying all reproductions of the work or other subject-matter that the individual has made under that subsection.

(4) Subsection (1) does not apply if the reproduction is made for the purpose of doing any of the following in relation to the work or other subject-matter:
(a) selling or renting out, or by way of trade exposing or offering for sale or rental;
(b) distributing, whether or not for the purpose of trade;
(c) communicating to the public by telecommunication;
or
(d) performing, or causing to be performed, in public.

他のメディアあるいはデバイスへの複製
第29.21条 (1)次の条件が満たされていれば、作品、あるいは、写真、新聞、雑誌、あるいはビデオカセットに含まれている他の対象物、あるいは、作品あるいは他の対象物の本質的な部分の、メディアあるいはデバイスへの個人的な複製は、著作権侵害を構成しない

(a)複製が作られる元の作品あるいは他の対象物の複製が侵害品でないこと
(b)複製する者が、貸し借りをせず、写真、本、雑誌やビデオカセットを合法に入手し、複製がなされるメディアあるいはデバイスを所有していること;
(c)「回避」と「技術的手段」を、第41条に定義されている意味のものとして、複製する者が、複製のために、技術的手段を回避していないこと、あるいは、技術的保護手段の回避をもたらさないこと
(d)複製する者が、
(i)複製が直接デバイスになされるか、デバイスと一緒に使われるメディアになされるかによらず、所有しているデバイスに、作品あるいは他の対象物を1度以上複製をせず、
(ii)もし、作品がデジタル形式の場合には、1部以上作品を印刷しないこと;
(e)複製する者が、複製物を他に与えないこと;そして
(f)複製物が個人的な目的のためのみに私用されること。

(2)複製をする者が作品あるいは他の対象物をインターネットからダウンロードし、その者がその作品あるいは他の対象物を複製可能な範囲を決める契約に縛られている場合は、契約は、その間の不一致によらず、(1)項を上書きする。

(3)まず最初に、この項の下に作られた作品あるいは他の対象物の複製を全て破棄せずに、複製をする者が、写真、本、新聞、雑誌、あるいはビデオカセットを他へ与え、貸し、あるいは売る場合には、(1)項は適用されない。

(4)作品あるいは他の対象物との関係で、次のようなことをする目的で複製がなされる場合には、(1)項は適用されない。
(a)販売、レンタル、あるいは商売のための展示や販売のための提供やレンタルのため;
(b)商売のためであるかどうかによらず、頒布のため;
(c)通信手段によって公衆に伝達するため;
(d)公衆の前で、実演するあるいは実演されるようにするため;

 いくら、法定賠償額が引き下げられたとはいえ、侵害品と知らずに複製していたとしても、あるいは知らずにDRM回避をしていたとしても、もし裁判になったら、200ドルという損害賠償を押しつけられるのは、ユーザーにとって不当なものとしか言いようがないだろうし、そもそも、ダウンロードユーザーや家庭内のDRM回避ユーザーに対しては、エンフォースや実効性の問題も大きい。

 これで、法改正の検討で混乱している日本に次いで、カナダもダウンロード違法化をしようと考えている国に名乗りを上げた訳だが、カナダにおけるネットの草の根の著作権法改正反対運動の大きさを考えても、この法案がそのまま通る可能性は低いだろう。ドイツの混乱を見ても、ダウンロード違法化は正しい選択肢とは到底思えないのである。

 政府が著作権保護強化を後押しし、権利者団体が歓迎し、ユーザー・消費者が反発するという構図は、今のところ、世界中のいろいろな国で大なり小なり見られるが、このような構図が見えること自体、時代の変化を感じさせるものである。著作権法はネット社会における基本的な法律の一つであり、権利保護強化だけを考えていれば良いものではないと皆が気づき始めている。カナダでは以前の著作権法改正はネットの草の根の運動で止まったし、今回のものも止まるだろう。ユーザーの声で、世界的にも流れは変わりつつあるし、流れは変えられるのだ。日本でも、著作権問題の火を消してはならない。

(6月17日夜の追記:相変わらずの内容なので一々突っ込む気にもならないが、権利者団体が懲りもせずに、メーカーに公開質問状を出している(AV watchの記事internet watchの記事ニュースリリース公開質問状本文)ので、念のためにリンクを張っておく。MIAUからも、ダビング10と補償金問題に関するアンケート結果発表されているが、各関係者の意識の隔たりが極めて大きいことがほぼ明白になっている今のタイミングで、なお消費者パッシング・メーカーバッシングの公開質問状を再度出すことに何の意味があるのか、権利者団体の神経は私には本当に理解できない。

 ソースは朝日なので、本当かどうか良く分からないが、現時点でHDD課金は見送るものの、ブルーレイ課金については文科省・経産省が合意したとする朝日のネット記事もあったので、念のために紹介しておく。この話が本当であるとして、ブルーレイ課金は現行のDVD課金の延長にある話なので、法律改正をしなくとも両省庁が合意すれば対象媒体・機器の追加は出来るものと思われるが、私的録音録画補償金制度のそもそもの意義が問われているところで、課金対象の拡大を利権官庁だけで合意しようとするのは本当にいかがなものかと思う。)

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2008年6月11日 (水)

第101回:ネット規制法案全文の転載

 今日ようやく衆議院のHPに、ネット規制法案がアップされたので、リンク先を見てもらえば済む話だが、今回は、念のために、その全文を転載する。

 この10日に、参議院の内閣委員会を通り、11日には本会議にかけられる予定のようであるが、大手ネット企業やメディア企業なども含め多くの関係者が懸念を表明している中、この法案の内容は、その懸念が払拭されているとは全く言い難いものである。毎日のネット記事などでも、参議院の内閣委員会の様子が少し報道されているが、意見陳述人の中でも、民間代表という位置づけだろう、テレビ朝日の渡辺氏と慶応大学の中村教授が明確に法案に反対しているにもかかわらず、全会一致で可決されるというひどさである。元警察官僚の竹花氏が一人で「大多数が納得できる内容で、国全体の有害情報対策の基盤になる」と支持したらしいが、ネット企業からもメディア企業からもユーザーからもネット規制の必要性が聞こえてくるどころかほとんど反対しか聞こえてこない中で、法案について大多数の人間が納得できると豪語するとは、元規制官僚の思考回路は全く理解不能としか言いようがない。(そもそも何故ここで竹花氏が呼ばれるのか私には良く分からない。他に厚顔にもこの法案への賛成を国会で発言できる人間がいなかったためだろうか。)

 法案は、案の定、第96回第99回で書いたことが、ほぼそのまま当てはまる内容となっている。このような法案は、現時点でのフィルタリング利権の確保に加えて、さらなる規制強化への布石と思って間違いない。いい加減ムダな会議や計画の作成、天下り団体への税金垂れ流しは止めにしてもらいたいと思うが、法案中には、有害情報の例示もあり、総務大臣要請以来の、携帯電話のフィルタリング義務化移行の混乱に加えて、有害情報の発信が行われたと知ったときに青少年への閲覧防止措置とその記録を取るサーバー管理者の努力義務や、携帯電話を除くインターネット機器一般へのフィルタリングソフトプリインストール義務の取扱いなどもかなり厄介な問題となるだろう。

 青少年による閲覧を参議院の委員会でも民間代表の意見を無視するなど、もはや国会という立法府のモラルは完全に地に落ちた。本当に規制が必要なのは、ネットなどより、国会議員という立法官の方である。

 単純所持規制を含む児童ポルノ規制強化法案が与党から国会に提出される(時事通信のネット記事毎日のネット記事参照)など、ネット周りの規制議論は最悪の状態が続いている。私も反対を止めるつもりはないが、今の状況は本当にひどすぎる。

(6月11日夜の追記:心から不成立を願っていたが、非常に残念なことに、今日の参議院で首相問責決議案可決前の駆け込みでネット規制法も可決された(ITmediaの記事参照)。しかし、法律は作れば終わりというものではない。次の選挙・法改正・法律の廃止へ向けて、法律の実運用の監視と問題点の指摘、この問題でいぶり出された国会における規制強化派と規制反対派の整理など、私も一国民・一ユーザーとして地道にやって行くつもりである。)

<以下転載(赤字強調は私がつけたもの)>

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案
目次
 第一章 総則(第一条―第七条)
 第二章 インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議等(第八条―第十二条)
 第三章 インターネットの適切な利用に関する教育及び啓発活動の推進等(第十三条―第十六条)
第四章 青少年有害情報フィルタリングサービスの提供義務等(第十七条―第二十三条)
 第五章 インターネットの適切な利用に関する活動を行う民間団体等
  第一節 フィルタリング推進機関(第二十四条―第二十九条)
  第二節 インターネットの適切な利用に関する活動を行う民間団体等の支援(第三十条)
第六章 雑則(第三十一条)
 附則
   第一章 総則
 (目的)
第一条 この法律は、インターネットにおいて青少年有害情報が多く流通している状況にかんがみ、青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得に必要な措置を講ずるとともに、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの性能の向上及び利用の普及その他の青少年がインターネットを利用して青少年有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくするための措置等を講ずることにより、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにして、青少年の権利の擁護に資することを目的とする。
 (定義)
第二条 この法律において「青少年」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「保護者」とは、親権を行う者若しくは後見人又はこれらに準ずる者をいう。
3 この法律において「青少年有害情報」とは、インターネットを利用して公衆の閲覧(視聴を含む。以下同じ。)に供されている情報であって青少年の健全な成長を著しく阻害するものをいう。
4 前項の青少年有害情報を例示すると、次のとおりである。
 一 犯罪若しくは刑罰法令に触れる行為を直接的かつ明示的に請け負い、仲介し、若しくは誘引し、又は自殺を直接的かつ明示的に誘引する情報
 二 人の性行為又は性器等のわいせつな描写その他の著しく性欲を興奮させ又は刺激する情報
 三 殺人、処刑、虐待等の場面の陰惨な描写その他の著しく残虐な内容の情報

5 この法律において「インターネット接続役務」とは、インターネットへの接続を可能とする電気通信役務(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。以下同じ。)をいう。
6 この法律において「インターネット接続役務提供事業者」とは、インターネット接続役務を提供する電気通信事業者(電気通信事業法第二条第五号に規定する電気通信事業者をいう。以下同じ。)をいう。
7 この法律において「携帯電話インターネット接続役務」とは、携帯電話端末又はPHS端末からのインターネットへの接続を可能とする電気通信役務であって青少年がこれを利用して青少年有害情報の閲覧をする可能性が高いものとして政令で定めるものをいう。
8 この法律において「携帯電話インターネット接続役務提供事業者」とは、携帯電話インターネット接続役務を提供する電気通信事業者をいう。
9 この法律において「青少年有害情報フィルタリングソフトウェア」とは、インターネットを利用して公衆の閲覧に供されている情報を一定の基準に基づき選別した上インターネットを利用する者の青少年有害情報の閲覧を制限するためのプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)をいう。
10 この法律において「青少年有害情報フィルタリングサービス」とは、インターネットを利用して公衆の閲覧に供されている情報を一定の基準に基づき選別した上インターネットを利用する者の青少年有害情報の閲覧を制限するための役務又は青少年有害情報フィルタリングソフトウェアによって青少年有害情報の閲覧を制限するために必要な情報を当該青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを作動させる者に対してインターネットにより継続的に提供する役務をいう。
11 この法律において「特定サーバー管理者」とは、インターネットを利用した公衆による情報の閲覧の用に供されるサーバー(以下「特定サーバー」という。)を用いて、他人の求めに応じ情報をインターネットを利用して公衆による閲覧ができる状態に置き、これに閲覧をさせる役務を提供する者をいう。
12 この法律において「発信」とは、特定サーバーに、インターネットを利用して公衆による閲覧ができるように情報を入力することをいう。
 (基本理念)
第三条 青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策は、青少年自らが、主体的に情報通信機器を使い、インターネットにおいて流通する情報を適切に取捨選択して利用するとともに、適切にインターネットによる情報発信を行う能力(以下「インターネットを適切に活用する能力」という。)を習得することを旨として行われなければならない。
2 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する施策の推進は、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの性能の向上及び利用の普及、青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者による青少年が青少年有害情報の閲覧をすることを防止するための措置等により、青少年がインターネットを利用して青少年有害情報の閲覧をする機会をできるだけ少なくすることを旨として行われなければならない。
3 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する施策の推進は、自由な表現活動の重要性及び多様な主体が世界に向け多様な表現活動を行うことができるインターネットの特性に配慮し、民間における自主的かつ主体的な取組が大きな役割を担い、国及び地方公共団体はこれを尊重することを旨として行われなければならない。
 (国及び地方公共団体の責務)
第四条 国及び地方公共団体は、前条の基本理念にのっとり、青少年が安全に安心してインターネットを利用することができるようにするための施策を策定し、及び実施する責務を有する。
 (関係事業者の責務)
第五条 青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者は、その事業の特性に応じ、青少年がインターネットを利用して青少年有害情報の閲覧をする機会をできるだけ少なくするための措置を講ずるとともに、青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。
 (保護者の責務)
第六条 保護者は、インターネットにおいて青少年有害情報が多く流通していることを認識し、自らの教育方針及び青少年の発達段階に応じ、その保護する青少年について、インターネットの利用の状況を適切に把握するとともに、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用その他の方法によりインターネットの利用を適切に管理し、及びその青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得の促進に努めるものとする。
2 保護者は、携帯電話端末及びPHS端末からのインターネットの利用が不適切に行われた場合には、青少年の売春、犯罪の被害、いじめ等様々な問題が生じることに特に留意するものとする。
 (連携協力体制の整備)
第七条 国及び地方公共団体は、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策を講ずるに当たり、関係機関、青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者及び関係する活動を行う民間団体相互間の連携協力体制の整備に努めるものとする。
   第二章 インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議等
(設置及び所掌事務)
第八条 内閣府に、インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議(以下「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 第十二条第一項の基本計画を作成し、及びその実施を推進すること。
二 前号に掲げるもののほか、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する重要事項について審議すること。
(組織)
第九条 会議は、会長及び委員をもって組織する。
2 会長は、内閣総理大臣をもって充てる。
3 委員は、内閣官房長官、関係行政機関の長及び内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第九条第一項に規定する特命担当大臣その他の国務大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者をもって充てる。
 (資料提出の要求等)
第十条 会議は、その所掌事務を遂行するために必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 会議は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
 (政令への委任)
第十一条 前二条に定めるもののほか、会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
(基本計画)
第十二条 会議は、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定めなければならない。
2 基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
 一 青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策についての基本的な方針
 二 インターネットの適切な利用に関する教育及び啓発活動の推進に係る施策に関する事項
 三 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの性能の向上及び利用の普及等に係る施策に関する事項
 四 青少年のインターネットの適切な利用に関する活動を行う民間団体等の支援その他青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするための施策に関する重要事項
3 会議は、第一項の規定により基本計画を定めたときは、遅滞なく、基本計画を公表しなければならない。
4 前項の規定は、基本計画の変更について準用する。
   第三章 インターネットの適切な利用に関する教育及び啓発活動の推進等
(インターネットの適切な利用に関する教育の推進等)
第十三条 国及び地方公共団体は、青少年がインターネットを適切に活用する能力を習得することができるよう、学校教育、社会教育及び家庭教育におけるインターネットの適切な利用に関する教育の推進に必要な施策を講ずるものとする。
2 国及び地方公共団体は、青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得のための効果的な手法の開発及び普及を促進するため、研究の支援、情報の収集及び提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
 (家庭における青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用の普及)
第十四条 国及び地方公共団体は、家庭において青少年によりインターネットが利用される場合における青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用の普及を図るため、必要な施策を講ずるものとする。
 (インターネットの適切な利用に関する広報啓発)
第十五条 前二条に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、青少年の健全な成長に資するため、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアによる青少年有害情報の閲覧の制限等のインターネットの適切な利用に関する事項について、広報その他の啓発活動を行うものとする。
 (関係者の努力義務)
第十六条 青少年のインターネットの利用に関係する事業を行う者その他の関係者は、その事業等の特性に応じ、インターネットを利用する際における青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得のための学習の機会の提供、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの利用の普及のための活動その他の啓発活動を行うよう努めるものとする。
   第四章 青少年有害情報フィルタリングサービスの提供義務等
 (携帯電話インターネット接続役務提供事業者の青少年有害情報フィルタリングサービスの提供義務)
第十七条 携帯電話インターネット接続役務提供事業者は、携帯電話インターネット接続役務を提供する契約の相手方又は携帯電話端末若しくはPHS端末の使用者が青少年である場合には、青少年有害情報フィルタリングサービスの利用を条件として、携帯電話インターネット接続役務を提供しなければならない。ただし、その青少年の保護者が、青少年有害情報フィルタリングサービスを利用しない旨の申出をした場合は、この限りでない
2 携帯電話端末又はPHS端末をその保護する青少年に使用させるために携帯電話インターネット接続役務の提供を受ける契約を締結しようとする保護者は、当該契約の締結に当たり、携帯電話インターネット接続役務提供事業者に対しその旨を申し出なければならない。
 (インターネット接続役務提供事業者の義務)
第十八条 インターネット接続役務提供事業者は、インターネット接続役務の提供を受ける者から求められたときは、青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又は青少年有害情報フィルタリングサービスを提供しなければならない。ただし、青少年による青少年有害情報の閲覧に及ぼす影響が軽微な場合として政令で定める場合は、この限りでない。
 (インターネットと接続する機能を有する機器の製造事業者の義務)
第十九条 インターネットと接続する機能を有する機器であって青少年により使用されるもの(携帯電話端末及びPHS端末を除く。)を製造する事業者は、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを組み込むことその他の方法により青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又は青少年有害情報フィルタリングサービスの利用を容易にする措置を講じた上で、当該機器を販売しなければならない。ただし、青少年による青少年有害情報の閲覧に及ぼす影響が軽微な場合として政令で定める場合は、この限りでない。
 (青少年有害情報フィルタリングソフトウェア開発事業者等の努力義務)
第二十条 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを開発する事業者及び青少年有害情報フィルタリングサービスを提供する事業者は、青少年有害情報であって閲覧が制限されないものをできるだけ少なくするとともに、次に掲げる事項に配慮して青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを開発し、又は青少年有害情報フィルタリングサービスを提供するよう努めなければならない。
一 閲覧の制限を行う情報を、青少年の発達段階及び利用者の選択に応じ、きめ細かく設定できるようにすること。
二 閲覧の制限を行う必要がない情報について閲覧の制限が行われることをできるだけ少なくすること。
2 前項に定めるもののほか、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを開発する事業者及び青少年有害情報フィルタリングサービスを提供する事業者は、その開発する青少年有害情報フィルタリングソフトウェア又はその提供する青少年有害情報フィルタリングサービスについて、その性能及び利便性の向上に努めなければならない。
 (青少年有害情報の発信が行われた場合における特定サーバー管理者の努力義務)
第二十一条 特定サーバー管理者は、その管理する特定サーバーを利用して他人により青少年有害情報の発信が行われたことを知ったとき又は自ら青少年有害情報の発信を行おうとするときは、当該青少年有害情報について、インターネットを利用して青少年による閲覧ができないようにするための措置(以下「青少年閲覧防止措置」という。)をとるよう努めなければならない
 (青少年有害情報についての国民からの連絡の受付体制の整備)
第二十二条 特定サーバー管理者は、その管理する特定サーバーを利用して発信が行われた青少年有害情報について、国民からの連絡を受け付けるための体制を整備するよう努めなければならない。
(青少年閲覧防止措置に関する記録の作成及び保存)
第二十三条 特定サーバー管理者は、青少年閲覧防止措置をとったときは、当該青少年閲覧防止措置に関する記録を作成し、これを保存するよう努めなければならない。
   第五章 インターネットの適切な利用に関する活動を行う民間団体等
    第一節 フィルタリング推進機関
(フィルタリング推進機関の登録)
第二十四条 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの性能の向上及び利用の普及を目的として、次に掲げるいずれかの業務(以下「フィルタリング推進業務」という。)を行う者は、総務大臣及び経済産業大臣の登録を受けることができる。
一 青少年有害情報フィルタリングソフトウェア及び青少年有害情報フィルタリングサービスに関する調査研究並びにその普及及び啓発を行うこと。
二 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの技術開発の推進を行うこと。

2 前項の登録(以下単に「登録」という。)を受けようとする者は、総務省令及び経済産業省令で定めるところにより、総務大臣及び経済産業大臣に申請をしなければならない。
3 次の各号のいずれかに該当する者は、登録を受けることができない。
 一 第二十六条の規定により登録を取り消され、その取消しの日から起算して二年を経過しない者
 二 法人で、その役員のうちに前号に該当する者があるもの
4 総務大臣及び経済産業大臣は、第二項の申請をした者が次に掲げる要件のすべてに適合しているときは、登録をしなければならない。
一 インターネットの利用を可能とする機能を有する機器を有し、かつ、次のいずれかに該当する者がフィルタリング推進業務を行うものであること。
イ 一年以上青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの開発又は青少年有害情報フィルタリングサービスに関する実務に従事した経験を有する者
ロ イに掲げる者と同等以上の能力を有する者
二 フィルタリング推進業務を適正に行うために次に掲げる措置がとられていること。
  イ フィルタリング推進業務を適正に行うための管理者を置くこと。
  ロ フィルタリング推進業務の管理及び適正な実施の確保に関する文書が作成されていること。
5 登録は、フィルタリング推進機関登録簿に次に掲げる事項を記載してするものとする。
 一 登録年月日及び登録番号
 二 登録を受けた者(以下「フィルタリング推進機関」という。)の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
 三 フィルタリング推進機関がフィルタリング推進業務を行う事務所の所在地
6 フィルタリング推進機関は、前項第二号又は第三号に掲げる事項を変更しようとするときは、総務省令及び経済産業省令で定めるところにより、その旨を総務大臣及び経済産業大臣に届け出なければならない。
 (業務の休廃止)
第二十五条 フィルタリング推進機関は、フィルタリング推進業務を休止し、又は廃止したときは、総務省令及び経済産業省令で定めるところにより、その旨を総務大臣及び経済産業大臣に届け出なければならない。
2 前項の規定によりフィルタリング推進業務を廃止した旨の届出があったときは、当該フィルタリング推進機関に係る登録は、その効力を失う。
 (登録の取消し)
第二十六条 総務大臣及び経済産業大臣は、フィルタリング推進機関が次の各号のいずれかに該当するときは、登録を取り消すことができる。
 一 第二十四条第三項第二号に該当するに至ったとき。
 二 第二十四条第四項各号のいずれかに適合しなくなったと認めるとき。
 三 第二十四条第六項又は前条第一項の規定に違反したとき。
 四 不正の手段により登録を受けたとき。
 五 次条の規定による報告若しくは資料の提出をせず、又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたとき。
 (報告又は資料の提出)
第二十七条 総務大臣及び経済産業大臣は、フィルタリング推進業務の適正な運営を確保するために必要な限度において、フィルタリング推進機関に対し、その業務の状況に関し報告又は資料の提出を求めることができる。
 (公示等)
第二十八条 総務大臣及び経済産業大臣は、次に掲げる場合には、その旨を官報に公示しなければならない。
 一 登録をしたとき。
 二 第二十四条第六項の規定による届出があったとき。
 三 第二十五条第一項の規定による届出があったとき。
 四 第二十六条の規定により登録を取り消したとき。
2 総務大臣及び経済産業大臣は、前項の規定による公示をしたときは、当該公示の日付及び内容をインターネットの利用その他の方法により公表するものとする。
 (総務省令及び経済産業省令への委任)
第二十九条 この節に規定するもののほか、フィルタリング推進機関及びフィルタリング推進業務に関し必要な事項は、総務省令及び経済産業省令で定める。
    第二節 インターネットの適切な利用に関する活動を行う民間団体等の支援
第三十条 国及び地方公共団体は、次に掲げる民間団体又は事業者に対し必要な支援に努めるものとする。
 一 フィルタリング推進機関

 二 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアの性能に関する指針の作成を行う民間団体
 三 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを開発し又は提供する事業者及び青少年有害情報フィルタリングサービスを提供する事業者
 四 青少年がインターネットを適切に活用する能力を習得するための活動を行う民間団体
 五 青少年有害情報に係る通報を受理し、特定サーバー管理者に対し措置を講ずるよう要請する活動を行う民間団体
 六 青少年有害情報フィルタリングソフトウェアにより閲覧を制限する必要がないものに関する情報を収集し、これを青少年有害情報フィルタリングソフトウェアを開発する事業者その他の関係者に提供する活動を行う民間団体

 七 青少年閲覧防止措置、青少年による閲覧の制限を行う情報の更新その他の青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関し講ぜられた措置に関する民事上の紛争について、訴訟手続によらずに解決をしようとする当事者のために公正な第三者としてその解決を図るための活動を行う民間団体
 八 その他関係する活動を行う民間団体

   第六章 雑則 
 (経過措置の命令への委任)
第三十一条 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置を定めることができる。
   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
 (経過措置)
第二条 この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。
 (検討)
第三条 政府は、この法律の施行後三年以内に、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
第四条 インターネットを利用して公衆の閲覧に供することが犯罪又は刑罰法令に触れる行為となる情報について、サーバー管理者がその情報の公衆による閲覧を防止する措置を講じた場合における当該サーバー管理者のその情報の発信者に対する損害の賠償の制限の在り方については、この法律の施行後速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
 (内閣府設置法の一部改正)
第五条 内閣府設置法の一部を次のように改正する。 
  第四条第三項第二十六号の次に次の一号を加える。
  二十六の二 青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(平成二十年法律第   号)第十二条第一項に規定する基本計画の作成及び推進に関すること。
  第四条第三項第二十七号中「青少年」を「前号に掲げるもののほか、青少年」に改める。
  第四十条第三項の表中 
「食育推進会議
 食育基本法」
 を
「 インターネット青少年有害情報対策・環境整備推進会議
青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律
食育推進会議
食育基本法」
 に改める。

     理 由
 インターネットにおいて青少年有害情報が多く流通している状況にかんがみ、青少年が安全に安心してインターネットを利用できるようにするため、青少年のインターネットを適切に活用する能力の習得に必要な措置を講ずるとともに、フィルタリングソフトの性能の向上及び利用の普及その他の青少年がインターネットを利用して青少年有害情報を閲覧する機会をできるだけ少なくするための措置等を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

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2008年6月 7日 (土)

第100回:児童ポルノ所持の取り締まりという現代の魔女狩り

 今、国会情勢が流動的なこともあり、これからどうなるかは分からないが、昨日(6月6日)は、ネット規制法が超スピードで衆議院で可決される(日経のネット記事ITmediaの楠正憲氏の記事参照)とともに、自民党の法務部会で単純所持罪を含む児童ポルノ規制強化法案(自民党のニュース記事マイコミジャーナルの記事参照)が強引にとりまとめられるという最低最悪の一日だった。

 6月6日の国会のネット中継を見ると分かるが、ネット規制法の審議は全部合わせても30分も無く、青少年問題特別委員会で、通り一遍の無意味な答弁が各政党から出され、異議なしとされて取りまとめられた後、委員長提出という形で即日本会議にかけられ、本会議では質疑すらされず委員長の説明だけで全会一致で可決されるという出来レースぶりである。

 青少年問題特別委員会で玄葉委員長が関係者からの意見を聴取しつつ取りまとめたという説明をしていたが、政官とこれに連なる規制強化派以外、これほど急いでネット規制をして欲しいなどと言っていたものは一人としていなかったと私は記憶している。前回書いた通り、このネット規制法には、総務省の携帯電話フィルタリング義務化要請以来の数々の混乱の種が全て含まれているのだ。個人的には、来週、国会審議が空転することに賭けたいが、非常に気分が悪い。時間がかかるだろうが、このように、実質的な国会審議を省く与野党談合が可能な立法システムこそ改められるべきだと私は言い続けるだろう。

 児童ポルノ規制強化に関しても、既にかなり騒がれており、単純所持規制の危険性も規制に対して慎重な国会議員には伝わっているものと思うが、規制強化派は全く聞く耳を持たずに、やはり規制ありきで全てを押し進めようとしているようである。自民党のニュース記事でも、背景として、単純所持が児童への性的虐待などを誘発しているという、いまだかつて証明されたことがなく、表現の快不快を規制の可不可と勘違いしている規制強化派の脳内妄想理論と、G8諸国で日本とロシアだけが単純所持規制を行っていないという、これもまた全く法改正の根拠たり得ない理屈を相変わらず持ち出しているというひどさである。

 児童ポルノ規制に関しては、つい最近も、国際刑事警察機構(ICPO)が、国際的ワンクリック捜査作戦を実行し、オーストラリアが70人以上を逮捕したと得々と発表する(AFP BBの記事参照)など、欧米を中心に完全に集団ヒステリーの状態に落ち入っている。このような取り締まりは、ほとんど、キリスト教道徳の押し売り、魔女狩りに近い。

 繰り返しになるが、どう考えても、いかなる情報についてであれ、情報の単純所持を規制するのは明らかに異常である。完全に個人・家庭内に閉じる情報の所持に関しては、「性的好奇心を満たす目的」や「みだりに」といった主観的な要件は証明も反証もできないものであり、法運用の恣意性・冤罪は絶対に避けられない。ICPOレベルですらロリコンを思想犯罪とみなしているフシがあるのでは、このような規制はなおさら危険なものとなるに違いない。

 児童保護は無論重要だが、インターネット時代にあっては、児童保護もまた相対的に考えられなくてはならないのである。欧米の児童ポルノ所持規制も必ず歴史に断罪されることになるだろう。政官の規制強化派は7月のサミットで欧米に自慢気に媚びを売れるネタが欲しいのかも知れないが、危険極まりない情報の単純所持規制など、将来的には国際的な恥になりこそすれ誇れるものでは全くない。キリスト教国を中心にまだ中世の暗黒は続いているのかも知れないが、このような現代の魔女狩りサークルに日本は絶対に参加してもらいたくないと私は思う。

(児童ポルノの単純所持規制問題については、法政大学社会学部の白田秀彰准教授が、「単純所持宣言 / その他、性規制について」という痛快な小論を発表されているので、是非一読をお勧めする。)

 来週も国会情勢から目が離せないが、ネット規制法・児童ポルノの単純所持規制法が成立しない・提出されないことを私は心から祈っている。

(6月8日の追記:白田先生の小論について、法政大学のHPへのアクセスが今非常に不安定なため、一時的な便宜のためににWeb魚拓へのリンクも張ったが、この魚拓へのリンクは、法政大学のリンクの方が安定し次第削除するつもりであることを、念のためお断りしておく。)

(6月9日の追記:Web魚拓へのリンクは削除した。

 また、ネット規制法について、ヤフーなどネット大手5社が再度懸念を表明し(ITmediaの記事ケータイwatchの記事参照)、新聞協会も再度懸念を表明した(ITmediaの記事internet watchの記事参照)というニュースがあったので、リンクを張っておく。)

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2008年6月 3日 (火)

第99回:フィルタリング利権の確保に走る自民党と民主党

 ネット規制法に関して、与野党が今国会での成立を目指すことで合意したとするニュースがあった(時事通信のネット記事東京新聞のネット記事毎日のネット記事1記事2朝日のネット記事)。

 これらの記事に書かれていることから、与野党が合意した法案骨子をまとめると以下のようになるだろうか。
 
<各者の義務>
携帯電話会社:18歳未満の子供へのフィルタリングサービス提供義務。(保護者による解除可。)

PCメーカー:フィルタリングソフトのプリインストール義務

サーバー管理者・サイト管理人:子供が有害情報に触れないようにする努力義務

保護者:子供がネットを適正に利用できるよう教育する努力義務

フィルタリングサービス提供・ソフト開発事業者:子どもの発達に応じたきめ細かいサービスの提供を行う努力義務。

政府:有害サイト対策・フィルタリングに関する関係閣僚会議の設置・基本計画の策定。有害サイト対策を行う事業者や団体などに財政支援

<その他>
有害情報の選別基準は民間の第3者機関が策定。(国による第3者機関の登録・指定などはなし。)

・ただし、著しく性的感情を刺激する、著しく残虐性を助長する、著しく自殺や犯罪を誘発する、などの有害情報の例示は恐らくあり

フィルタリングソフトの普及促進や技術開発などを行う民間団体は総務省または経産省に登録可能

罰則はなし

 第96回を見てもらえば分かるかと思うが、この与野党合意は、自民党案の第3者機関の登録・指定という一番問題が大きかった部分が除かれているだけで、後は自民党案と民主党案の寄せ集めに過ぎない。第3者機関の登録・指定が無くなったので多少国の関与は弱まったが、代わりに突如として、意味不明のフィルタリングソフトの普及や開発などを行う民間団体の登録が出てくるなど、案の定、両党とも密室談合で利権を作ろうとすることを止める気はないらしい

 とにかく義務化を盛り込んで、フィルタリングについては、法律で国の関与を既成事実化し、フィルタリングを口実に税金を天下り団体に垂れ流して、政官で利権の確保を図ろうとしていることがあまりにも見え透いているのには、心底うんざりさせられる。

(さらに細かなことを言えば、PCへのフィルタリングへのプリインストール義務化も本当に大丈夫かという疑問がある。普通に大人が自分用にPCを買う場合には不要だろうし、いかなる場合にも抱き合わせで買わされるとしたら、愚かしい限りである。このような不当な抱き合わせ販売を法律で後押しするのはいかがなものかと思う。この問題ではメーカーの声は全然聞こえてこないのだが、補償金問題で消費者の声を代弁すると言い切ったメーカーは一体どう考えているのか。)

 第96回でも書いた通り、この法改正の根拠は極めて薄弱である。昨日今日でも、新聞協会に加えて、民放連も反対を表明(時事通信のネット記事参照)し、支援を受けられるだろう有害サイト対策団体のモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)すら、法規制の必要性から検討してもらいたいとの意見を出す有様(internet watchの記事ITmediaの記事意見本文)であり、とにかくネット規制に関しては、政官の規制強化派以外からは、ほとんど反対の意見しか聞こえてこないのである。

 6月6日に衆院通過、来週中に参院での可決、成立を目指すという情報が載っている記事もあるが、どう考えても、この法案は生煮えも良いところで、拙速に成立させても混乱をもたらすだけであり、他の重要法案を放っておいてまで、来週までに無理矢理採決しなければならないものとも思えない。今を逃すと後がないとばかりに成立を焦っていることからして、いかに、この法規制が、法規制のための法規制に過ぎず、その根拠が薄弱であるか分かろうというものである。

 成立するもしないも予断を許さないが、このように、フィルタリング利権の確保とネット規制の既成事実化を焦ることで、ネット規制に関する限り、自民党も民主党も株を下げた。だが、いずれにせよ、この問題で規制推進派の国会議員と規制反対派の国会議員の名前は、ネットで相当いぶり出された。規制推進派の諸氏よ、解散総選挙は遠からずある、国民の審判が下される日になって頭を下げても手遅れだと思え。もはや利権政治だけがまかり通る時代ではないのだ。

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