« 番外その12:ユーザーから見た放送・音楽業界のビジネスモデルに対する疑問 | トップページ | 第97回:ドイツの知財法改正(プロバイダー責任制限・コスト付加型の情報開示手続の整備) »

2008年5月25日 (日)

第96回:ネット規制法と児童ポルノ規制強化法の自民党案と民主党案の比較

 青少年ネット規制法の自民党案が明らかになったという報道があった(時事通信のネット記事読売のネット記事1記事2スポーツニッポンのネット記事毎日のネット記事参照)。

 自民党案は、報道だけでは詳細が良く分からないのだが、これで、ネット規制法と児童ポルノ規制強化法に関して、与野党の案が揃ったことになると思われるので、参考のために、分かる限りで比較してみたいと思う。(私には各種報道以上の情報ソースがないが、崎山伸夫氏のブログで最近の自民党案についてより細かく分析されているので、一読をお勧めする。)

(1)ネット規制法
 ネットに原案をきちんと載せている(民主党のHP原案)ので、民主党の方が印象が良いと言えば良いが、両党とも思考回路はそれほど変わらないので、当初の議論からするとかなりトーンダウンしているとはいえ、どちらの案でも、このままではかなり危険な規制となるだろうと私は踏んでいる。分かる限りでポイントを比較してみると、以下のようになるだろうか。

<有害情報の定義>
自民党:なし(恐らく例示はあるのではないか。)
民主党:例示あり

<携帯電話フィルタリング義務化>
自民党:あり(親によって解除可能)
民主党:あり(親によって解除可能)

<PCメーカーのフィルタリングソフトプリインストール義務化>
自民党:不明
民主党:あり

<インターネットサービスプロバイダー(ISP)のフィルタリングソフト提供義務化>
自民党:不明
民主党:あり

<フィルタリングソフト開発事業者>
自民党:技術支援(恐らく)
民主党:支援(財政支援含む)+利用者の選択に応じてきめ細かく設定でき、不必要な閲覧制限ができるだけ少なくするソフトを開発する努力義務

<フィルタリング基本計画>
自民党:あり
民主党:なし

<フィルタリング閣僚会議>
自民党:あり
民主党:なし

<サイト管理者とISPの義務>
自民党:不明
民主党:有害情報があると知ったとき、子どもにより有害情報の閲覧がされないようにする措置を講ずる努力義務

<民間の第3者機関>
自民党:有害サイト認定機関を政府が登録・指定・財政支援
民主党:有害情報通報機関、フィルタリング性能指針作成機関などへの支援(財政支援含む)

<罰則>
自民党:なし
民主党:なし

<ネット教育推進>
自民党:不明
民主党:あり

 両党とも、罰則を無くして、フィルタリングを中心に据えてきているあたりで、かなりのトーンダウンを感じるが、総務省の携帯フィルタリング義務化要請で混乱に次ぐ混乱が引き起こされている(今もなお実施は延期されている)ことも忘れ、平然と法案に義務化を組み込んでいるあたりで、不信感しか覚えない。大臣要請によってもたらされた今の混乱状態で、フィルタリング義務化を法律化することは、さらに混乱に拍車をかけるだけだろう。自民党案の基本計画や閣僚会議も予算のムダとしか思えないが、携帯電話の混乱を見る限り、民主党案の携帯電話以外のフィルタリングソフト提供義務化もかなりの混乱をもたらすのではないかと思われる。

 民主党案で、例示とは言え「著しく・・・する」といった表現で有害情報が定義可能と考えられているのも頭が痛い。罰則がないとしても、このような有害情報があると通知されたときのサイト管理者・ISPの対応はかなり難しく、努力義務を盾に、警察などの息がかかった民間の通報団体が事実上のネット検閲団体と化し、表現に対するかなりの萎縮効果が発生しかねない

 自民党案のように、政府が有害サイト認定機関を登録・指定・財政支援するなら、完全に半官のネット検閲センターが出来ることになる。このような登録検閲センターが天下り先となることは間違いないだろうし、自民党案ではネット表現における政府の関与は極めて強いものとなることは疑いない。フィルタリングとの関係も法律に書き込むことで利権を作るつもりかも知れないが、情報の有害性の判断は常に相対的なものであり、政府のお墨付きを得た天下り機関が一方的に特定のサイトを有害と決めつけることなど到底許されることではない

 情報の有害性の判断は常に相対的にしかなし得ないものであるから、本当の犯罪行為を除けば、本来、情報発信者と、情報によって被害を受けたと考える者、情報発信の場を提供している者の3者の間の調停に国が関与する余地はない。既に、各種インターネット関連法があり、プロバイダー責任制限法もある。これ以上に何が必要なのかが私には常に分からないのだ。これらの法律が使いにくいというなら、その法律を改正するべき話であって、青少年保護にかこつけて特別法を作る話ではない。法規制のための法規制など、私は全くして欲しいと思わない。

(2)児童ポルノ規制強化法
 ネット規制法に比べると、児童ポルノ規制強化法の論点は割と単純だが、刑罰をともなうだけにその影響は極めて大きい。与党案(47NEWSの記事参照)と民主党案(朝日のネット記事参照)を、分かる限りで比べてみると、以下のようになる。

<単純所持規制>
与党:あり(自己の性的好奇心を満たす目的で児童ポルノを所持・保管)
民主党:あり(みだりに収集)

<有償購入規制>
与党:なし(ただし、単純所持規制でカバーされるものと思われる)
民主党:あり

<ISPの協力・努力義務>
与党:あり
民主党:恐らくなし

<定義の厳格化>
与党:なし
民主党:「他人が児童の性器などを触る行為または児童が他人の性器などを触る行為に係る児童の姿態」との現行規定を「性器などをことさらに強調するなどして示す」ものに改め、「衣服の全部または一部を着けない児童の姿態」という規定をあいまいだとして削除

<創作物規制・インターネットブロッキング措置のための調査>
与党:あり
民主党:恐らくなし

 各党の単純所持規制へのこだわりは非常にタチが悪い。情報の単純所持は完全に個人に閉じる行為なので、「性的好奇心を満たす目的」かどうかなどは、証明も反証もできない要件であり、児童ポルノウィルスや電子メール、サイト管理などにおける問題も含め、国民視点で考えたとき、このような要件は全く冤罪防止とならない。民主党案の「みだりに収集」も同じであり、その収集行為が「みだりに」なされたものかどうかは、誰にも証明も反証もできないものである。

(ただ、定義の厳格化を行おうとしている点では、民主党案は高く評価したい。このように範囲を限定した上で、有償購入までを規制するというのなら、まだ理解できるのだが、「みだりに収集」することを規制対象としていることは全くいただけない。「収集」とすることで規制強化前に所持していたものについては規制の対象外となるのかも知れないが、ネットの特性を考えると、やはり収集規制も、単純所持規制と同じく危険なものと言わざるを得ない。)

 両法とも、民主党の方がマシと言えばマシだが、比較の問題だろう。与野党とも、規制のコスト・メリットをまじめに考えているとはあまり思えない。自民党も、民主党も、その思考回路はあまり変わらず、放っておくと必ず規制強化の方へ行くと思われるので、非常に厄介である。各党に意見を送るなど、私も地道に反対を続けて行く。

(2009年7月1日の追記:このエントリは去年の5月25日時点での情報で書いたものであり、今現在の与野党の児童ポルノ規制法の改正案については、それぞれ、番外その14第162回を参照頂ければと思う。)

|

« 番外その12:ユーザーから見た放送・音楽業界のビジネスモデルに対する疑問 | トップページ | 第97回:ドイツの知財法改正(プロバイダー責任制限・コスト付加型の情報開示手続の整備) »

規制一般」カテゴリの記事

児童ポルノ規制」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 第96回:ネット規制法と児童ポルノ規制強化法の自民党案と民主党案の比較:

« 番外その12:ユーザーから見た放送・音楽業界のビジネスモデルに対する疑問 | トップページ | 第97回:ドイツの知財法改正(プロバイダー責任制限・コスト付加型の情報開示手続の整備) »