第92回:文化庁からただよう腐臭
今日、文化庁の文化審議会・私的録音録画小委員会で、私的録音録画問題についての検討がされた(ITmediaの記事1、記事2、internet watchの記事、日経TechOnの記事、マイコミジャーナルの記事、Phile webの記事、ITproの記事、cnetの記事参照)。
ITmediaの記事に文化庁の資料がそのまま転載されているが、この資料ときたら、もはや消費者・ユーザー軽視どころではなく、消費者・ユーザー無視の極みとしか言いようのないひどいものである。1消費者・1ユーザーとして、この資料に対する憤りは尽きないし、このブログでさんざん繰り返してきたことを繰り返すのもどうかと思うが、これには最低限でも次のような怒りの疑問・意見をぶつけざるを得ない。
- もはやペーパーに「消費者」の語すら全然出てこないが、いつから補償金制度は権利者団体の思い込みでしかない架空の不利益にもとづいて勝手に拡大されるものとなったのか。
- 中間整理の良いとこ取りを文化庁は勝手にやっているが、去年のこの中間整理に対する厖大なパブコメはどこに行ったのか。ダウンロード違法化問題ほどではないにせよ、決して少なくない数のパブコメが補償金制度そのものに対して強い不信感を示していたのである。
- iPodや純粋なHDDレコーダーのような、そもそも物理的に家庭内・個人に閉じる利用しか考えられない機器に対して補償金を課す理由に納得性が全くない。
- 対象機器・媒体の範囲・料率についても、評価機関の意見を聞いてやはり文化庁が決定するとしているが、天下り利権の保持・拡大のことしか考えていない腐り切った文化庁による範囲・料率の勝手な決定など全く信用できない。
さらに、コピーワンスなら補償金がいらないということも文化庁は示しているが、複製が1個だけに限定されるような場合にはもはや補償金がいらないということであれば、純粋なHDDレコーダーなど本当に物理的に1個しか複製が作れないのだから、課金されるいわれは全くないだろう。これが、DVDレコーダーとの一体型レコーダーなら、既にDVDレコーダーとして課金されており、DVDも媒体として課金されているのである。これだけでも、このペーパーが課金のための課金を言っているに過ぎないことが分かるのだ。文化庁の役人の低劣ぶりと来たら全くお話にならない。
いくらお題目のところに見てくれの良さそうなことを並べたところで、煎じ詰めれば、このペーパーの言っていることは、単に天下り先の著作権関係団体に好きに使える小遣いをもっとあげたいから、消費者から広く選択の余地なく金を巻き上げたいというものでしかない。このような天下り団体の既得権益を拡大したいがために作られた案に騙される国民などもはやいない。
委員会が紛糾したのも当然であり、その場で、試案に対して、メーカー団体の代表から、縮小と言っているのに、判断基準が不明確で、制度が拡大することになる懸念が表明され、消費者・ユーザー代表から、音楽CDと無料放送のみが対象なら、従来の機器についても料率は下げる方向で見直されなくてはならない、補償金がどのようなプロセスを経て誰の手に渡っているのかが現状では見えず、きちんとした情報公開をしない限り対象機器を増やすといった話は消費者の理解が得られないという批判が出たのも、当たり前の話である。
全く委員会での指摘の通り、補償金の用途・分配については不透明なままであり、資料の軽薄さを見ても文化庁が消費者の批判を真摯に受け止めているとは全く思えない。文化審議会でも、以前の平成17年の第5回法制問題小委員会で、私的録音補償金の分配の流れと私的録画補償金分配の流れという資料が公開されたきり、真面目にこの論点について取り組んだ形跡がない。
これらの資料からだけでも、各権利者団体がそれぞれ5%から20%の高額の分配手数料を取っていることが分かるのだが、このような高額の手数料は額面通りに分配コストに使われているとは到底受け取りがたい。キャッシュで入ってくるものに管理手数料がかかる訳もない。著作物としての利用率が高いものほど複製されているという近似でほぼ各権利者への利用料分配に一定の率で上乗せするくらいしか分配のやり方はないと思うが、それなら近似式・分配の計算式を立てるだけの話で、このコンピュータ全盛のご時世にさほど余計なコストがかかる訳もない。要するに、このような高額の「手数料」はそのままほぼ団体の純利益・不労所得になっているとしか、分配そのものも不透明なのは無論だが、ここにもピンハネのからくりが存在しているとしか思われない。補償金数十億円マイナス20%の共通目的事業金に対する5~20%なので、団体全部で数億くらいになるだろうか。政治力だけで偉くなった団体のボスと天下り役人で山分けするには十分な原資だろう。
また、共通目的事業に関する論点についても、ほとんど真面目に取り上げられていないが、私的録音補償金管理協会(SARAH)のHPの一覧や、私的録画補償金管理協会(SARVH)の資料を見ても、制度の周知広報のようなものを除けば、何故共通目的と言えるのか良く分からない個別の著作権関係団体のイベントや調査への支出も多く、この用途も極めて不透明と言わざるを得ない。
さらに言えば、やはり文化庁所管の著作権情報センター(CRIC:給料をもらっているかどうかなど不明だが、第81回で取り上げた衆議院調査によると天下りの非常勤理事が1人いる)に、SARAH、SARVHの共通目的事業の事業の多く(平成18年度のCRICの収支計算書によると、共通目的基金受託事業で約2億円、共通目的基金の助成事業で約3000万円と、合わせて共通目的事業全体の3分の一近くになる。さらに言えばCRICの事業収入総額の半額以上をこの委託事業が占めるのもどうかと思われる点である。)が委託され、そこで実施されているというのも不透明性をさらに高めている。両補償金管理協会が自主事業と委託事業を何で分けているのかは良く分からず、これは、事実上、天下り団体に手数料という名の上前を2重か3重にピンハネさせるための不透明な事業の迂回実施としか思われないのである。(前回、あるものを使わないのは損なので有り難く使わせてもらったが、外国著作権法の翻訳なども、別にこのような不透明な資金でやることはないだろう。)
無論、文化庁と権利者団体が、補償金の意味を、私的録音録画によって権利者にもたらされる経済的な不利益の補償から関係者間の利益分配へと必死にすり替えようとしていることも腹立たしいことこの上ない(知的財産はノーリスクハイリターン、座っているだけで儲かる打ち出の小槌ではない)のだが、このような利権団体と天下り役人による補償金の不透明な利権分配にも私は腐敗臭を否応なく感じるのだ。このように不透明・不公正な補償金の分配に憤りを感じない消費者・ユーザー・国民など一人もいないに違いない。
御用学者は御用学者で文化庁案を懸命に擁護しているようだが、文化庁案で補償金が拡大されたら拡大されただけ、それは必ず利権団体の既得権益となるので、縮小されようがない。このような不労所得を増やすための既得権益の拡大など、経済のためはおろか、文化のためにも絶対ならないと私は断言できる。諸外国の例を見ても、DRMを考慮するといった曖昧な規定は、消費者・ユーザー・国民のためのセーフハーバーとならず、何の役にも立たない。縮小というのなら、今の時点で範囲・料率の両方の面ではっきりと縮小すべきであるし、最低限現状のまま拡大しないようにすることは必須である。まだ、文化庁が案を示しただけだが、この補償金問題はこのような腐臭を放つ案で片付く問題ではないし、片付けてもならない。御用学者と利権団体代表の群れの中では本当に大変なことと思うが、消費者・ユーザー代表の各委員には是非最後までその主張を貫き通してもらいたい、その主張に私は心からエールを送る。
なお、今日(5月9日)の午後には、知財本部の知財規制緩和調査会の第2回、来週の火曜(5月13日)には、総務省のデジタルコンテンツ委員会と知財政策関連の検討会が続くが、これらも要注目である。
本当は、アメリカなどで話題になっている孤児作品法案の話などもしたかったのだが、それはまたどこかで別途紹介することにしたい。
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