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2008年5月 3日 (土)

第90回:国会法と議員立法、この日本の不透明な立法システム

 今ネット関連で話題になっているものとして、児童ポルノ法の規制強化と、青少年ネット規制法があるが、これらは内閣から提出されるものではなく、議員立法という形で提出することができないかと政党の議員レベルで検討されているものである。

 ニュースから様々な動きを見ていても、一体何が内閣立法とされ、何が議員立法とされるのかの基準はよく分からない。何となく各官庁・議員の利権と慣習で決まっているだけではないかと思われるが、このように立法に複数のルートがあることも、日本の政策決定・立法システムを極めて不明朗かつ曖昧なものとしている。本当にどうにかしてもらいたいと思うが、内閣立法だろうが、議員立法だろうが、国会で可決されなければ法律とならないのは無論のことなので、今回は、国会関係の法律・ルールの紹介をしておきたい。

 国会は憲法の第4章で定められているるが、細かな国会の運営は、国会法や、衆議院規則参議院規則などに従って行われているが、この立法プロセスも不透明極まるものである。

 まず、法案提出については、国会法の第56条で、

第56条  議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。

とされている通り、法律上、法案提出にはまず、提出者1名に加えて、衆議院で議員20~50人の賛成が、参議院で議員10~20人の賛成が必要とされている。

 しかし、何故か慣習上、法案提出には党の機関承認が必要とされ、かつ最高裁でも、この機関承認は問題ないとされているので、各党の上層部が所属議員の法案提出に対して事実上の拒否権を持っているというのが、実情のようである。(政策空間のネット記事参照。確かにこんな慣習も無くした方が良い。)

 さらに、西川伸一氏の好著「新内閣法制局」によると、法案提出には、議院法制局(衆議院と参議院のそれぞれにある)の審査も通すことが必要とされるようである。やはり同書によると、法制局は、与野党の議員の適当な要望を聞いて、既存の法制と適合するように具体的な条文を作ったりするといったことにも関わるそうである。

 要するに、各党内と各党間、国会事務局内の極めて不透明な立案プロセスを経て、党として法案を出しても良いと承認されてから始めて法案は国会に提出されることになるので、どうやっても、ここで各党には国民の目の届かないことを良いことに利権を作り、後の審議はなるべく省略しようとするバイアスがはたらくことになる

 その後は、国会法の同じ第56条の第2項以下で、

第56条
第2項  議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する。但し、特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。
第3項 委員会において、議院の会議に付するを要しないと決定した議案は、これを会議に付さない。但し、委員会の決定の日から休会中の期間を除いて七日以内に議員二十人以上の要求があるものは、これを会議に付さなければならない。
第4項 前項但書の要求がないときは、その議案は廃案となる。
第5項 前二項の規定は、他の議院から送付された議案については、これを適用しない。

と規定されているように、議院の委員会へ法案が回される。(ここで、国会法第56条の2の議案の本会議における趣旨説明要求を逆手に取ってこの付託を妨害するという工作がされることもあるようである。)

 この第3項と4項で書かれているように、この委員会で本会議に付する必要がないとされた法案は廃案となるのだが、別にここで議論することが必要とされている訳ではないので、与野党で結託して、法案を通すとされたら議論もなくそのまま法案が通るのである。(この委員会は、国会法の第40条以下と、衆議院規則・参議院規則の第7章に、各省庁に対応する形の、内閣委員会、総務委員会等々という形で設けられている常任委員会と、特別に設けられる特別委員会とがある。国会法の第45条で規定されているように、委員はその比率に応じて各会派の議員に割り当てられている。内閣提出の法案も、大体各委員会に付託される。児童ポルノ法や青少年ネット規制法は、「青少年問題に関する特別委員会」が担当している。)

 この委員会の審議で本会議に法案が付されるべきとなれば、委員会からその旨が報告され、本会議での審議に移る。そして、本会議で賛成多数で可決されればもう一方の議院に法案は回され、そこで同じことが繰り返されて可決されれば、法律は成立ということになる。

 また、法案提出に関しては、国会法の第50条の2で

第50条の2  委員会は、その所管に属する事項に関し、法律案を提出することができる。
第2項 前項の法律案については、委員長をもつて提出者とする。

とも規定されているので、委員会からの法案提出という形が取られることもあるようである。与野党の間で調整が済んでおり、与野党一致となるのが明らかな法案が、この委員会提出法案とされるらしいが、何が議員提出の法案とされ、何がこの委員会提出法案とされるのかの基準も良く分からない。このこともまた立法プロセスの不透明度を高めている。

 行政の審議会システムも不透明だが、この国会の立法システムも非常に不透明なものと言わざるを得ない。要するに、各党の議員・ボス間の非公式な協議・裏取引で事前に合意さえ作ってしまえば、委員会だろうが、本会議だろうが、実質的な審議をほとんどせずに法案を通せるようになっているのである。国民の声が届きにくいのも無理はない。もはや、このような政治家だけで好きに利権を作れるシステムが容認される時代ではない。

 今の政治家が、完全に政治利権にたかる寄生虫と化していることは、ガソリン増税法可決のゴタゴタを見ていても明らかであり、このような立法システムの透明度そのものをあげるよう、私は求めていかなくてはならないと感じている。何せ立法を握っている者たちを相手に求めるのであるから、時間がかかるかも知れないが、立法のための1票は国民の手の中にあるのだ、最後不可能ではないと私は信じている。

 そのため、今の国会法の第51条で、

第51条 委員会は、一般的関心及び目的を有する重要な案件について、公聴会を開き、真に利害関係を有する者又は学識経験者等から意見を聴くことができる。
第2項 総予算及び重要な歳入法案については、前項の公聴会を開かなければならない。但し、すでに公聴会を開いた案件と同一の内容のものについては、この限りでない。

と委員会は基本的に公聴会を開くことができるとされているのを改めて、全ての法案について公聴会を開かなくてはならないとしてはどうかと私は考えている。誰から話を聞くかの決定は委員長なりがすることになるだろうが、公聴会には誰でも手をあげられ、かつ、その応募者と決定者の両方のリストを公表することでかなり透明度があがるに違いない。また、公聴会を省略することを許すにしても、その場合はパブリックコメントの募集とそれを踏まえた審議と結果の公表を義務づけるべきだろう。委員会の審議を省略して、直接本会議にかける場合も、同様に必ず公聴会を開かなくてはならないとした方が良いと私は思う。

 また、第52条で、委員会については、基本的に議員と委員長の許可を得たものしか傍聴が許されないとされているが、これも誰でも傍聴できるようにしてもらいたいと私は思う。よほどのことがない限り、審議はオープンした方が良いに決まっている。

 統制されない権力は必ず腐敗する。必要なのは、権力による統制ではなく、権力の統制である。事実上各党の密室談合で法律が決まるような今の国会のシステムは腐敗の温床にしかなっていないのだ。個別の法案についての議論も極めて重要だが、今の立法システムの透明化こそ真に必要なことであると、その透明化のための国会法改正を次期選挙の争点の一つにしてもらいたいと私は考えている。

 最後に、児童ポルノ法と青少年ネット規制法についても書いておくと、まだ、法案提出に至っていないようだが、規制強化派の非常識と狂気は想像を絶しており、デタラメかつ危険な情勢が続いている。

 児童ポルノ法に関しては、与党チームの会合では、単純所持規制に、サイトのブロッキングまで追加するという気違い染みた案を取りまとめてきた(読売のネット記事1記事2東京新聞のネット記事日経のネット記事参照)。繰り返すが、罰則は「性的好奇心を満たす目的」で所持している場合に限定すると言っても、ダウンロード違法化問題と同じく、情報の所持は個人的な行為なので、このような目的はエスパーでもない限り証明も反証もできないものであり、このような限定で法律の運用が可能だと思っている時点で狂っている。ブロッキングも警察なりの恣意的な認定により、全国民がアクセスできなくなるサイトを発生させるなど、絶対にやってはならないことであり、このような案が出てくること自体私には空恐ろしいことと思われる。これが検閲に当たらないとしたら、何が検閲に当たるのか。児童ポルノ法に関しては、既に、提供・販売、提供・販売目的での所持が禁止されているのであるから、今の法律の地道なエンフォースこそ必要なのであって、危険な規制強化・情報統制など絶対にされてはならないことである。(特に、国会の4月10日の青少年特別委員会で児童ポルノに関するシーファー発言のデタラメを突いた吉田議員には、私も心からの拍手を送りたいと思う。)

 青少年ネット規制法に関しても、番外その10の頭で少し紹介したが、大どころの反対が出そろったとは言え、何せ政治家は無意味にプライドだけは高い生き物なので、与野党内・国会周辺での理屈を超えた訳の分からない攻防はまだまだ続くだろう。総務省に近いと思われる自民党の総務部会で、携帯電話でのフィルタリング義務化を柱とする案をまとめた(日経のネット記事参照)り、他の報道(リンク切れなのでリンクは張らないが)によると、内閣部会で高市議員のプロジェクトチーム案の劣化版をまとめたり、国会の青少年特別委員会で参考人を呼んだり(委員会ニュース参照)と、デタラメな状況にあり、当分目が離せる状況にない。

 ここまで政府・各党がデタラメかつ不合理なことをやってくるとなると、私も、一国民・一ネットユーザーとして、解散総選挙を期待する他ない。内閣の支持率は20%を切ったが、今のまま行けば、10%を割ってもおかしくはない。別に情報政策に限らず、今の政府・与党に期待できることはもはや何一つない。解散総選挙は早ければ早いほど良い。即刻、サミット前にも解散してもらいたいと思う。国民の期待を裏切る政府・政党などいらないのだ。

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コメント

おつかれ様です
大変解り易い記事で参考にさせて頂きました

狂気の改正案を闇討ちの様に国民に広く問う事なく、捏造データでロビー活動して一気に通そうとするのは正にテロと呼べます。

http://crs-024.cocolog-wbs.com/blog/2008/03/post_f2bc.html

①調査を行った機関は過去に複数の捏造を行っている
(『新情報センター 捏造』で検索)
②なぜか今回は面接方式という不可解な世論調査
③事情に詳しい20~30代の解答がやたらと少ない
④4割近くが無効
⑤「面接を受けたと思われる人の書き込みによると、世論調査とは名ばかりの誘導が多く、
根拠を示した上で明確に反対の意思を示したら追い出されてしまったらしい。
同僚に問うたところ、同じ理由で追い出された人がいた」

私のWEB上の調査では次の様になって居ります
......① ② ③ ④
賛成.. . 2.0 2.7 12.2 26.8
反対.. .94.7 92.8 86.2 73.2
不明.. . 3.2 4.5 1.6
合計%..100.0 100.0 100.0 100.0
母集団数 1,079 36,390 1,852 不明

①WEBアンケート(2008.04.21~04.27)
②yahooコメント(2008.03.07) 2008.04.18の反対はより強烈
③mr.アンケート
④livedoor世論調査 (不明項無し)
http://shiawase7.sakura.ne.jp/zipoyoron.htm

投稿: 鏡のようなブーメラン | 2008年5月 5日 (月) 16時13分

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