第91回:中国・韓国・台湾・インド・ベトナムの私的複製関連規定
中国・韓国・台湾・インド・ベトナムなどのアジアの国々の著作権法に関しては、文化庁所管の著作権情報センターのHPにも、かなり最近のバージョンの著作権法の翻訳(大体2006年以降のもの)が載っているにもかかわらず、これらのアジアの国々の規定を、文化庁が私的録音録画問題の検討において紹介したことは一度もない。
紹介しないのは、これらの国々では、私的複製が認められているにもかかわらず、私的録音録画補償金制度が存在しないため、これらの国々も混ぜると、彼らの言うところの補償金の国際動向に関する主張が破綻するからか、日本の官庁にありがちなパターンで、脊髄反射的に欧米偏重をしているからかとしか思われないが、どちらにせよ、文化庁の知能レベルの低さにはほとほと呆れるばかりである。だが、折角各国の著作権法の翻訳を著作権情報センターのHPに載せてくれているので、今回は、そこから分かるアジア各国の私的複製関連規定を紹介して行きたいと思う。(以下の私的複製に関する規定は、著作権情報センターのHPの翻訳からの引用である。)
(1)中国
中国の著作権法(翻訳、原文)で、権利制限は、その第22条と第23条に規定されている。
あまり充実しているとは言い難いものの、引用や教育、点字といった良くある権利制限と並び、私的複製についても、第22条(1)として、「個人の学習、研究または鑑賞のために他人の既に公表された著作物を使用すること」は権利制限の対象とされている。「個人の」という限定がかかっているのは狭く感じるが、「鑑賞」目的でも良いとされているので、学習や研究目的のみとしているほど狭い訳でもない。また、このような規定があるからと言って、私的録音録画補償金制度は中国に存在していないし、補償金制度の導入を検討しているという話も聞かない。
(2)韓国
韓国の著作権法(翻訳、原文(現行条文))にはかなり改正が入っているようなので、もし翻訳が可能なら、改正事項の紹介などもしたいと思うが、私的複製に関しては、その第27条(現行条文では第30条にずれたようだが、内容は変わっていない)で、「公表された著作物を、営利を目的としないで個人的に利用する場合、又は家庭及びこれに準ずる限定された範囲内において利用する場合は、その利用者はその複製をすることができる。但し、一般公衆の使用に供するために設置された複写機器による複製については、この限りでない。」と、日本と似た形で規定されている。
特に、韓国では、DRM回避をともなう複製を私的複製でないとしていない(DRM回避機器規制は入っているようである)上、私的録音録画補償金制度もない。また、補償金制度を導入する検討がなされているという話も聞かない。そのために韓国がベルヌ条約違反だと非難されているということもない。
また、韓国については、著作権法保護期間を伸ばしたり、著作権フィルタリングの懈怠を処罰するような法制を考えているという報道もあった(LAITの記事、マイコミジャーナルの記事参照)が、その後どうなっているのかは良く分からない。(上の現行条文を見た限りでは、保護期間延長はまだ入っていないようである。)
なお、韓国は、日本のように著作権法でコンピュータプログラムを保護するのではなく、コンピュータプログラムのために特別に保護法を作っているという点も特徴的である。(このようにすると、保護期間延長によってプログラムの保護期間まで伸びるという理不尽がなくなるなどの利点が確かにあるだろう。)
(3)台湾
台湾の著作権法(翻訳、原文)も、その簡潔さにおいて中国に近いような気もするが、権利制限に関しては、中国より充実しており、私的複製に関しても、第51条で「既に公表された著作物は、個人または家庭内の非営利目的として、かつ、合理的な範囲内において、図書館および公衆の使用に供される機器以外の機器を利用して複製することができる。」と家庭内の複製まで含めて明らかに私的複製の権利制限内に含めている。私的録音録画補償金制度もない。
また、台湾の著作権法は権利制限の限定列挙という形を取りながらも、第65条に合理的利用の一般規定があり、利用の目的及び性質、著作物の性質、利用される部分の実質と量、比率、市場及び著作物の価値に対する影響を特に基準として、一般的に合理的利用は著作財産権の侵害を構成しないとしているのは注目に値する。これは、ほぼアメリカのフェアユース条件を書いていると思うが、限定列挙型の権利制限を取り、かつ、このような一般規定をおいている国はすぐ隣にもあるのだ。
なお、台湾でも著作権法にプロバイダーの責任制限を導入しようとする動きがあるよう(台湾知的財産局のHP参照)だが、これが今どういう状態になっているのかは良く分からない。
(4)インド
インドの著作権法(翻訳、原文(英語))では、第52条で著作権侵害とならない行為を列挙しており、フェアディーリングの中に、「研究を含む私的使用」があげられている。
ここで、フェアディーリングの1種とされていることから見ても、インドはイギリス著作権法の影響を受けているのだと思われ、また、「研究を含む」としていることからしても、研究のみではないと考えられるが、私的使用という語でどこまでの範囲が含まれるのかは良く分からない。無論、インドにも私的録音録画補償金制度はない。
(5)ベトナム
ベトナムの著作権法(知的財産権法)(翻訳、原文(英語))の規定ぶりも変わっており、知的財産法の第32条の、無許諾無償の複製が認められる場合の中に、引用などと並んで「個人の学術研究を目的として、複製を作成すること」(著作権情報センターの翻訳では「のみ」とか「自ら」とか余計な限定がついていたので、原文を見て外した。)もあげられているのである。この規定を見る限り、許されるのは個人の研究目的のみと、ベトナムは私的複製について特に厳しい。ただ、同じく、ベトナムにも私的録音録画補償金制度は存在していない。
これだけでは何とも言えないが、これらの国々を見ると、何故か共産主義国・社会主義国の方が、全体的に著作権法の規定が簡単で、私的複製について厳しいように見える。だが、何にせよ、どこの国を見たところで私的複製を全く認めていない国はない上に、国際的に見て私的複製と補償金が必ずセットになっているということはないのである。文化庁の言う国際動向など、自分たちに都合の良い国だけを取り上げたデタラメに過ぎない。明日の私的録音録画でもまた、権利者団体と癒着し、骨の髄まで腐り切った文化庁はデタラメを言いつってくることだろうが、所管団体の著作権情報センターでアジア各国の著作権法の翻訳研究をやっている時点でもはや自己矛盾をきたしているだろう、国民を舐めるのもいい加減にしてもらいたい。
最後に、本来目次に書くことではなかったので、昨日の「目次3」に書いたことをそのままここに転載しておく。
最近の私的録音録画補償金問題に関する朝日のネット記事で書かれていることに関する突っ込みを入れておきたい。この記事によると、5月8日の私的録音録画小委員会で、相変わらず、権利者団体と癒着した文化庁は、携帯音楽プレーヤーとハードディスク内蔵型録画機器を課金対象にするべきというペーパーを作り、権利者団体がダビング10の拒否という秘策で揺さぶりをかけるらしいが、文化庁も権利者団体もこんな適当な詐欺が今の時代に通用すると思っている時点でバカまる出しである。iPod課金とダビング10の間には関係がないし、コピーワンスにせよ、ダビング10にせよ、実質的に全国民に転嫁されるコストで不当に厳しいコピー制限を課している機器に、さらに補償金まで賦課しようとするのは不当の上塗りである。iPodや純粋なHDDレコーダーにしても技術の進展も踏まえて、なおその課金を正当化するに足る理屈は未だに何一つ示されていない。間違っているのは、いかなる場合でも「複製=対価」の等式が成立するという文化庁と権利者団体の歪み切った観念の方である。一ユーザー・一消費者・一国民として言わせてもらうが、私的録音録画問題に関する限り、妥協の余地など一切ない。私の見る限りユーザー・消費者からほとんど全くと言って良いほど期待されていないダビング10の拒否などいくらしてもらっても構わないが、そもそも不当だったものについて権利者団体が何かしらの権利を持っていると主張することからして間違っている。そんなことを持ち出すなら、そもそもの諸悪の根源たるB-CASの排除から、検討してもらいたいと思う。このような記事を読む限り、相変わらず、補償金問題に関しては、合理的な話し合いの余地などなさそうである。
なお、アメリカでも著作権保護促進法が下院を通過したらしいというニュース(IPNextの記事、法改正案参照)があったので、アメリカのことなのでどうなるか分からないが、一緒に紹介しておく。また、このようなアメリカの動きについても、何か参考になる点があれば、また別途紹介したいと思う。
他のネタと一緒にするかも知れないが、恐らく、次回は、この文化庁の私的録音録画小委員会での検討のフォローになるのではないかと思う。
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