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2008年4月10日 (木)

第83回:EU議会におけるボノ氏の文化産業レポートの採決

 今日、文化産業に関して、フランスの社会学者ギュイ・ボノ氏が中心になってまとめた報告が、EU議会で採決されるようである。

 電子フロンティア財団(EEF)の記事ZeroPaidの記事golemの記事(ドイツ語)Ecransの記事(フランス語)によると、この報告(3月版)には以下のような重要な修正が加えられ、票決がなされる見込みとのことである。

Christofer Fjellner氏他の修正案:
Paragraph 22 a (new)
Calls on the Commission and the Member States to recognise that the Internet is a vast platform for cultural expression, access to knowledge, and democratic participation in European creativity, bringing generations together through the information society; calls on the Commission and the Member States, therefore, to avoid adopting measures conflicting with civil liberties and human rights and with the principles of proportionality, effectiveness and dissuasiveness, such as the interruption of Internet access.

Michel Rocard, Guy Bono氏他の修正案:
Paragraph 22 a (new)
22a. Calls on the Commission and the Member States to recognise that the internet offers a vast arena for cultural expression, access to knowledge and democratic participation in European creativity, which builds bridges between generations in the information society, and, in consequence, to avoid the adoption of measures running counter to human rights, civic rights and the principles of proportionality, effectiveness and deterrent effect, such as interruption of access to the internet.

両方とも英語版から取ったが、これらの違いはほとんど翻訳の問題なので、一緒に訳してしまうと、

22a(追加)
(EU議会は、)インターネットは、ヨーロッパの創造性において、文化的な表現、知識へのアクセスと民主的な参加のための広大な場を提供し、情報社会における世代間の橋渡しをするものであると認めること、及び、その結果として、インターネットへのアクセスの停止のような、人権、市民権とバランス・有効性・抑止効果の原理に抵触するような手段を採用しないことを、EU委員会と各加盟国に求める

となる(赤字強調は無論私が付けたもの)。

 法的拘束力はないのかも知れないが、この採決は、ヨーロッパの今後の政策に影響を与えることになるだろう。スウェーデン議員のジークフリート氏のブログ記事によると、フランス型の違法コピー対策をスウェーデン政府は拒否したそうだが、同じ記事で氏が指摘しているように、確かに、EU議会でこのような決定を行うことは、フランスが、その著作権検閲型の違法コピー対策をヨーロッパ全土に広めようとすることを牽制し、インターネットの全体性を確保するために非常に重要なことであるに違いない。

 何度も繰り返して来たことだが、このことは何も著作権に限った話ではない。インターネット時代に本当に求められることは、このようなバランスの視点であり、著作権神授説に基づいて著作権を絶対視することでも、児童保護・青少年保護といった本来相対的に考えられるべきイデオロギーを絶対視することでもない。利権と、悪意よりタチの悪い善意によって歪み切った今の日本の政官に、このようなバランスの視点が完全に欠けていることは、いくら断罪してもしすぎではない

 本来相対的に考えられるべき価値判断・道徳判断を絶対視し、さらに自ら印象操作を用い、あるいは他者の印象操作に乗じて、有害無益な何らかの法規制を正当化しようとする者は全て、インターネットユーザーの、今の日本の文化と産業の最先端を担う者たちの、全日本の文化と産業の敵であると私は断言してはばからない。

 今騒がれている規制強化案など、何一つ固まっていないし、決まってもいない。今年の規制強化の動きは尋常ではないが、この動きを主導している、あるいはこの動きに乗じている規制強化派など、真の多数派では全くないと私は確信している。私が言いたいことなど、ほとんど上のEU議会の修正文一行に尽きているが、この一行を否定する者がいるだろうか。

 戦端を開いたのは規制強化派なのだ、もはや遠慮することはない。リアルの利権屋が牙を剥き、あらゆる常識と良識を踏みにじり、ネットで作り得ない利権を作ろうとしてくるなら、私は、ネットからリアルの利権を切り崩しにかかろう。売国奴の利権屋どもめ、インターネットに打ち倒されるのは貴様らの方だ。

 最後に、MIAUが、青少年ネット規制法についてプレスリリースを出しているので、リンクを張っておく。この異常な規制強化の波の中で、インターネットユーザーの団体であるMIAUの存在は極めて大きい。MIAUには、規制強化に対する防波堤として、またネットユーザーの前線基地として是非頑張ってもらいたい。私もMIAUには心からの期待と応援と協力を惜しまない。

 ついでに、今まで突っ込んで来たことをここで繰り返すことはしないが、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討委員会」の中間取りまとめ骨子(案)と、警察庁の「総合セキュリティ対策会議」の報告書が公表されているのでリンクを張っておく。読んでいただければ分かると思うが、本当にロクなことは書かれていない。

 次回は、途中で止まっていたベルギーの著作権法の紹介の続きを書きたいと思っている。

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