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2008年4月29日 (火)

第89回:日本の奇怪な審議会(有識者会議)システム

 日々、知財政策関連の動きをフォローしていて、日本の審議会システムほど奇怪なものもないとつくづく思う。とにかく、内閣からも法案が提出できるのを良いことに、行政の審議会という名の有識者会議で、行政判断はおろか、立法判断まで示され、かつ、放っておくとそれがそのまま法律になったりするので、油断も隙もあったものではないのだ。
 
 知財関係に限っても、著作権法関連では、文部科学省(文化庁)の文化審議会著作権分科会に、

・法制問題小委員会
・私的録音録画小委員会
・過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会

の3つの小委員会があり、特許・意匠・商標・不正競争防止法関連では、経産省(特許庁)の産業構造審議会知的財産政策部会に、

・特許制度小委員会
・商標制度小委員会
・意匠制度小委員会
・技術情報の保護等の在り方に関する小委員会

と4つの小委員会があり、さら情報通信法、コピーワンス問題や地上デジタル放送問題については、総務省の情報通信審議会に、

通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会
デジタルコンテンツの流通の促進等に関する検討委員会
地上デジタル放送推進に関する検討委員会

があり、さらにダメ押しのような形で、内閣官房に、知的財産戦略本部が設けられ、そこで、

・デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会
・コンテンツ・日本ブランド専門調査会
・有識者本部員会合

などが設けられていると言う状態である(さらにワーキンググループとかワーキングチームとか称してさらに小さな検討会が作られたりもする)。このような2重3重の多重検討は、ほとんどわざと検討を分かりにくくして国民に対して嫌がらせをしているとしか思えない。しかも、協力すると見せかけて仲が悪いのは役所の常で、全部微妙に違うことを言うという念の入れようである。

 これらの審議会あるいは本部には根拠法があり、例えば、文化審議会については、文部科学省設置法で、

(文化審議会)
第30条  文化審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。
1  文部科学大臣又は文化庁長官の諮問に応じて文化の振興及び国際文化交流の振興(学術及びスポーツの振興に係るものを除く。)に関する重要事項(第三号に規定するものを除く。)を調査審議すること。
2  前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣又は文化庁長官に意見を述べること。

と規定されているが、行政の権限を考えると当たり前の話で、無論、どこの審議会であれ、審議会で決定された方針を元に法改正案を役所が国会に提出することと法律に書かれているなどということは全くない。(なお、コピーワンス問題は多少異なり、法改正の問題ではなく、完全な民々規制問題で、総務省なり情報通信審議会なりにその変更を決定する権限が全くないことがその隠された問題点の一つであるため、運用開始が延期(日経トレンディネットの記事参照)になるのも無理はない話である。だからこそ、本当に必要なのはノンスクランブル・コピーフリーを放送局にエンフォースする逆法規制であると私は考えているのだ。また、知財本部の根拠は、知的財産基本法である。)

 このような根拠法のある審議会とは別に、各省は何故か勝手に懇談会とか研究会とか称して検討会を開けることになっており、このような研究会の例としては、ネット関連で、総務省の、

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会
インターネット政策懇談会(いわゆるネットワークの中立性の話を検討している)

や、警察庁の

総合セキュリティ対策会議

もある。さらには、関係省庁の連絡会議と称して、内閣官房にIT安心会議などといった何をしているんだか良く分からない会議まで設けられている。(これとは別にIT基本法を根拠とするIT戦略本部もある。)

 昔の中央省庁改革当時の方針を見ても、懇談会で聴取した意見については、答申、意見書等合議体としての結論と受け取られるような呼称を付さないとしているが、守られているのは名称だけであり、別に根拠法のある審議会でないからといって、法改正の検討・事実上の決定がされない訳ではないということは、警察庁の出会い系サイト等に係る児童の犯罪被害防止研究会で出会い系サイト規制法の強化が検討され、かつ閣議決定までされたことを見ても分かることである。この出会い系サイト規制強化法の問題点は第50回で指摘した通りだが、この法案は今衆議院を通過して参議院に回されている。)

 国民に対する嫌がらせとしか思えないデタラメな状況だが、このような審議会という名の有識者会議システムこそ、行政・立法・司法の役割分担を曖昧にし、官僚の無責任な政策決定を許す今の日本システムの核心である。とにかく、とにかく各省庁の所管法令の改正が内閣立法によってなされなければならない理由は何もないのだが、各省庁とも自分の所管法令の改正権限は自分にあるとばかりに、国民の目が届かないのを良いことに好き勝手をやろうとしてくるのだ。特に、文化庁や総務省、警察庁の検討を見ているだけでも分かるし、書いていてバカバカしくも思うのだが、審議会のメンバーの人選や議事・ペーパー・日程はほぼ役所が決められることを利用して、自分たちに都合良く審議を誘導するために役人たちが使ってくる手口は、以下のようなものがある。(見事にまとめておられるので、その快著「さらば財務省!」で、高橋洋一氏が書いている手口をほぼそのまま箇条書きにさせてもらった。)

・役所と反対の意見を持つ者はなるべく始めから外す。

・審議会が開かれる前にあらかじめ説明を行い、委員の発言を思惑通りに誘導する。

・役所に都合の悪い論点は議論のためのペーパーからわざと落とす。

・委員自らまとめてきたペーパーは、役所に都合の良いように書き直す。

・反対意見を持つ委員が来られない日に審議会をわざと設定する。

・意に反する結論が出そうになると、「結論が出なかった」として結論そのものを潰す。

・人数を水増しして一人あたりの発言時間を少なくし、委員が実質的なことを何も言えないようにする。

・結論がまとまらなければ、座長一任という形にして、役所が結論をまとめる。

・結論を出したくないときは、議題をわざと沢山上げて、議論をかき回す。

 さらに、役人どもはこのような審議会における事務局権限(「庶務権」というらしい。)に加えて、

・自分たちに都合の良いように情報をリークして、マスコミに報道させ、既成事実として政策を誘導する。

・新任大臣にはあらかじめ発言してはいけないことを説明して、役所の意図とは異なる発言をしないようにさせる。

というようなことまで駆使して、自分たちに都合の良い政策を実現しようとして来る。このような手口を使って不合理を無理に押し通すには相当のコストがかかっていはずだが、それだけのコストをかけて役人どもが必死に守ろうとしているのが、国益でも何でもなく、単なる天下り利権なのだから、私は日本の未来に暗雲が立ちこめるのを見る思いがするのだ。まがりなりにも難しい試験を通ったのであろうそれなりに優秀な人材のコストが、次官を頂点とする不合理な天下りシステムの中で、このような非創造的な仕事に使われ、ドブに捨てられているのは本当に日本の損失としか言いようがない

 文化庁や総務省、警察庁の検討を見るにつけ、このような審議会システムは極めて問題が大きいと思うのだが、これに代わるシステムがまだ作られていないこともあり、今も全ての官庁で惰性で続けられているのである。最終的には、我々の1票が真に立法に反映されるよう、我々も意識を改め、大局的な観点から合理的な立法判断をできる人間を国会議員として送り込んだ上で、立法権限を国会に集中して行かなければならないと思うが、今でもできることは何でもしておきたいと思う。

 マスコミも役所とぐるなので、マスコミの報道を見ても、役所が考えていることの裏は分からない。資料のネット公開をわざと遅らせることなども役所の手のうちなので、本当にタチが悪いが、ネットの存在によって透明性があがったおかげで、役所も昔ほど極悪非道をやりづらくなっているのは確かだろうし、この透明性向上の流れを止めてはならない。国民の目が注がれていることを示すことが第一である。パブコメも提出できる限り提出しよう。特定業界と癒着した天下り役人が押し進めようとする規制など、不合理なものは不合理、有害無益なものは有害無益と、私は言い続けよう。

 今の日本システムを変えられるかどうかは、国民一人一人の意識にかかっている。もし、このブログなりを読んで政策関連のことに関心を持った方がいれば、是非、自ら今の日本の政策について調べてみてもらいたい。調べれば調べるほど役人の傍若無人ぶりに言いたいことが出てくるに違いないのだ。(別に知財政策・情報政策に限らず、年金だろうが、道路だろうが、役人のやっていることは一緒であり、各省庁の審議会を追っていけばそれなりのことは分かる。)

(なお、この25日に、「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の中間とりまとめが公表(公開資料概要本文)され、携帯フィルタリングについてもブラックリスト方式を原則とするよう大臣要請が上書きされたので、ここで突っ込んでおく。特に法規制の方針を出しておらずフィルタリング解除の第3者機関についても、行政は関与すべきではなく、複数の第3者機関が基準を提示することにより、様々な価値観を併存させることで、利用者の選択肢を増やすことにつながることが望ましいとしているのは良いのだが、その注釈で、前段階での作業を担うことや、第三者機関の財政的基盤を支えることなどの行政関与はむしろ必要と書いているなど、全く油断はできない。総務省のことだから、放っておくと、税金の投入などを口実にこの第3者機関を天下り先にしてくるだろう。最終報告までのパブコメでは、第3者機関を絶対に天下り先としないと明記するよう求めたいと私は思う。ブラックリスト方式のフィルタリングも消費者に選択肢として与えられる分には別に構わないが、この中間取りまとめ中で、第3者機関への申請者に審査料負担が求められるとしているとしているのもそんな単純に決めて良いことではない。フィルタリングのコスト負担の問題も考え出すと実に難しい話である。)

 正直なところ、良く分からないところも多いのだが、議員立法も最近騒動の種になっているので、次回は、国会法の話を書きたいと思っている。

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2008年4月27日 (日)

第88回:ニュージーランドとドイツの知財法改正案

 第84回のついでに、ニュージーランドで著作権法改正案が通ったという話を少しだけ紹介したが、念のため、もう少し詳しく紹介しておこう。また、ドイツでも知財法改正の動きがあるので、これも一緒に紹介する。Zeropaidの記事でも、これらの法改正の動きを一緒に取り上げているので、こちらを読んで頂いても構わない。(ただ、ニュージーランドとドイツの法改正の動きの背景につながりはないように私は思う。)

(1)ニュージーランド
 ニュージーランドの著作権法改正条文現行条文)には以下のようなことが含まれている。(他にも多くのことが含まれているので、本当に詳しいことは原文に当たって頂ければと思う。)

 その新80A条では、プログラムの逆コンパイルを権利制限の対象として付け加えている。独立したプログラムを作るために必要な情報を得る場合は、逆コンパイルは著作権侵害とは見なされないという規定である。逆コンパイルは、日本の著作権法でも厄介な問題だが、プログラム開発におけるその必要性を考えると、日本でもこのような権利制限を明確に設けることを考えても良いだろう。

 また、新81A条では、私的利用目的のための録音を明確に権利制限の対象としている。ただし、借りたものなどではなく、合法に入手した録音物からの複製であって、本人あるいは同じところに住む家族のための複製に限られると、日本より要件は厳密である。複製物は、元の所有者が持っていなければならないといったダメ押しの規定まである。

 新82~83条で、放送などについて、その基準のチェックや責任機関へ文句を言うための複製を権利制限の対象としているのも面白いが、第84条では、放送などのタイムシフトのための私的複製を明確に権利制限の対象としている。ただし、このタイムシフトの規定は、条文上、より便利な時間に見るために必要となる合理的な期間より長く保持している場合は適用されないともされている。

 これらの私的複製規定の充実にもかかわらず、ニュージーランドでは同時に補償金制度が導入されなかったということはもう一度強調しておく。常に「複製=対価」ではあり得ないし、完全に家庭内に閉じる私的複製についてまで、国際的に見て補償が必要とされているなどということも、文化庁が一方的に国民に押しつけようとしているデタラメの一つに過ぎない。

 さらに、このニュージーランドの新著作権法では、インターネットサービスプロバイダー(ISP)の責任とその制限についても規定しており、新92A条では、繰り返し侵害を行う者に対してアカウント停止を行うなどの適切なポリシーをISPは採用しなければならないとしている。

 また、第92B条で、単に侵害者がそのサービスを使ったというだけではISPは責任を問われないとしているが、第92C条で、著作権侵害の存在を知ったときは、すぐにそのデータを削除しない限り責任が出てくるということになる。また、削除するときには、ISPはすぐにユーザーにノーティスを送らなければならないといったことも書かれている。

 権利者からの著作権侵害ノーティスについても、第92CA条で記載要件が定められ、第92C条第2A項でこのノーティスを受け取ったかどうかも含め、裁判所が、ISPが著作権侵害があることを知っていたと考えられるかどうかを判断するということが規定されている。なお、著作権者と偽る行為も第112A条で規制の対象とされている。

 また、第92D条では、ISPによる単なるキャッシングは著作権侵害ではないとしているが、ただし、オリジナルが消されたことなどに気づいてもなおキャッシュを消さなかった場合は著作権侵害となることを定めている。

 読んでもらえれば分かると思うが、これらの規定は、かなりISPに対して厳しい。ISPにおける著作権侵害の判断の実運用は相当難しいのではないかと思われるし、アカウント停止などもこれがインターネットへの完全なアクセス停止を意味するとしたら、決して取られるべき措置ではないだろう。

 また、新226条以下で、技術的保護手段、いわゆるDRM回避規制を定めているが、ここで規制されているのは、DRM回避デバイスの製造・販売・貸与等のみ、DRM回避サービスの提供のみで、当然のことながら、DRM回避デバイスの所持や使用、DRM回避行為そのものは禁止されていない。DRMを回避して行う複製が私的複製でないとしていることもない。DRM回避機器・プログラムの所持や使用、DRM回避行為そのものを規制しようとするのはどう考えてもおかしい話である。

 このニュージーランドの新著作権法は、私的複製を充実させ、DRM回避規制も、その回避デバイスの製造等のみを規制し、私的領域に踏み込まないようにしているなど、全体的に見れば悪いということはないが、ISPに対してだけはかなり厳しいように思う。

(2)ドイツ
 ドイツでは、知財法の改正案が連邦議会を通過し、連邦参議院に送られているようである(tonspionの記事tariftipの記事)。

 ダウンロード違法化を世界に先駆けて行うなど、著作権法の世界で非道の限りを尽くし、社会的混乱を招いていたドイツだが、第80回でも書いたように、この3月11日に、憲法裁判所で、インターネットの通信ログの開示は、殺人やテロ、汚職などの重大な刑事事件において公的機関に認められるだけであるという判決が出されたことを受け、要するに、刑事告訴を通じてユーザーの情報開示をさせるという手が使えなくなったので、今になってISPにIPアドレスから、ユーザー情報を開示させる民事的な手続きを用意せざるを得なくなったようである。

 記事によると、このユーザー情報の開示を決めるのは裁判所で、しかも、開示されるのは、その著作権侵害行為が私的な範囲を超え、商業的なレベルのものであると裁判所が判断した場合に限られるとするようである。

 そして、この裁判所への申請費用は200ユーロとされ、開示を受けた後の最初の著作権侵害警告で要求できる弁護士費用の上限は100ユーロとされるようであり、無料の刑事告訴(要するに税金でまかなわれる)とは異なり、申請・警告の乱発を防ぐためのコストの概念も導入されるようである。

 実際まだ通った訳ではないが、 このような法案から見る限り、ドイツの方針転換は明らかだろう。ドイツのダウンロード違法化も結局、刑事告訴の乱発から社会的混乱を招き、憲法裁判所によってその手続きを否定され、プロバイダー責任制限・コスト付加型の民事的な情報開示手続きを整備せざるを得なくなるという結果に落ち着きつつある。アップロードも含めて行っているP2Pユーザーなど本当のアップロードユーザーに対してはどうだか分からないが、このような法案は、私的範囲に閉じる複製しかしていない単なるダウンロードユーザーに対しては権利行使をするのは間違っているということを認めるに等しいものである。

 このドイツの法案は、来月ドイツ連邦参議院で審議されるようなので、もし成立したら、また詳細を紹介したいと思う。

 最後に、ここ最近の知財政策関係のニュース記事の紹介もしておこう。

 まず、知財本部では、この4月24日に、「デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会」の第1回が開催された(ITproの記事マイコミニュースの記事)。具体的な検討はこれからになるだろうが、その資料を読んでも、デジタル化時代の公正利用のための権利制限の話が多く載っており、ここでの検討は、政府の知財規制緩和にかける意気込みを見る試金石となるだろう。何度も繰り返すが、本当の問題は、既存コンテンツのネットにおける正規流通が進んでいないことにあるのではなく、今の著作権法がネットによって新たに生まれた公正利用の類型に対応できておらず、このような利用まで萎縮させてしまっていることにあるのだ。(その参考資料には、主要各国の権利制限の一覧も示されている。少し元の翻訳資料が古いものも含まれているが、このような一覧を見ただけで、いかに今まで文化庁が権利制限をさぼっていたかが分かるだろう。文化庁は抵抗するかも知れないが、文化庁の検討会でも、この資料を使ってはどうかと思う。)

 また、総務省の違法・有害情報対策検討会では、4月25日に中間取りまとめ案が提示されたようである(internet watchの記事マイコミニュースの記事毎日のネット記事)。携帯コンテンツを審査する第3者機関に国は原則不介入ということを取りまとめには明記するそうだが、この「原則」という文字が、この第3者機関を天下り先にするのは構わないと聞こえるのは私だけだろうか。最終的に、利用者側の選択肢さえ確保されていれば良いのだが、いまいちその方向性は良く分からない。あの奇妙なフィルタリング強要大臣要請そのものの是非も含め、パブコメにかけられたときには、この検討会の取りまとめに関してもいろいろ書くことが出てくるに違いない。

 次回は、審議会システムについて書きたいと思っている。

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2008年4月24日 (木)

番外その10:地上放送のデジタル移行の経緯

 今回は変則的だが、いくつか大きなニュースがあったので、その紹介から。

 まず、JASRACが公正取引委員会の立ち入り検査を受けたというニュースがあった(日経のネット記事朝日のネット記事読売のネット記事)。今このときに公取の手が入るとは正直意外だったが、確かに、他社・他団体からの楽曲を使っても、びた一文まからない包括許諾契約というのも変なものである。公正透明な契約がなされるよう、業界慣行が是正されるのをここは素直に期待したい。

 また、MIAUなど12の団体と個人、think-filtering.comマイクロソフト・ヤフー・DeNAなどネット大手5社から、それぞれ多少ニュアンスは違うが、青少年ネット規制法に関する反対声明が出された(ITmediaの記事1記事2internet watchの記事)。錚々たるメンバーからこのように反対が続々と出されたのは非常に心強い。

 さて、地上放送のデジタル移行の理由については、池田信夫氏の地上デジタル放送FAQデジタルテレビ放送のWikiにも書かれているが、要するに、日本のアナログハイビジョンを見てこれに脅威を感じたアメリカがこの規格の排除のためにデジタル化を決めたので、これにさらに対抗して、日本が遅れをとるわけには行かないと総務省(当時は郵政省)が地上放送のデジタル化をごり押ししたという事情のようである。

 他にも、いろいろなところで書かれており、これ以上書く必要はあまりないかも知れないが、検索してリンクを辿るのは結構面倒なので、当時の検討会の議事要旨などでネット上で残っているものを、今回は、一通り辿って行きたいと思う。

 調べて行くと、最初に地上放送のデジタル化の方針が打ち出されたのは、1995年3月の郵政省の「マルチメディア時代における放送の在り方に関する懇談会」報告書のようであり、このとき、導入目標は漠然と2000年代前半とされていた。その後、1996年5月の電気通信審議会答申「高度情報通信社会構築に向けた情報通信高度化目標及び推進方策-西暦2000年までの情報通信高度化中期計画-」でも同じ目標をなぞっている。(下の「地上デジタル放送懇談会」の第2回の参考資料による。)

 これが1997年3月に発表された取組みでは、突然地上デジタル放送の開始時期目標が2000年以前と前倒しされ、移行のための地上デジタル放送検討会も開催するとしている。(途中に何があったか良く分からないが、1997年6月の電気通信審議会の答申「情報通信21世紀ビジョン」の資料などからも、1996年に英米が地上放送のデジタル化のための法整備をやっていることが分かるので、このことを知った郵政省がアメリカに負けるなとばかりに何も考えずに前倒しを決めたのではないかと思われる。)

 この検討会は「地上デジタル放送懇談会」として、1997年6月2日から第1回が開始され、第2回(7月16日)第3回(9月22日)第4回(11月5日)第5回(11月19日)第6回(12月19日)第7回(1998年2月20日)第8回(3月4日)第9回(4月22日)第10回(5月28日)第11回(6月17日)中間報告(6月17日、概要)、第12回(9月11日)と12回に渡り検討がなされ、報告(10月16日)報告書(10月26日)と報告書が出され、ここで事実上地上放送のデジタル完全移行の方針が完全に固まっている。

 この検討の中で、例えば、第4回でアンテナなどの問題が既に指摘されており、第12回の議事要旨に資料としてついている意見募集の結果概要の中には、国民にはデジタル化によるデメリットもあるがメリットも非常に多いと知らすべきとする意見も載っているが、最終報告書では、事前に良く周知しておけば買い換えてくれるのではないかとしているだけである。具体的に消費者側でどれだけのコストがかかるのかなどの試算もない。この検討会でユーザー・消費者に対する具体的なデメリット対策が検討されていたとは到底言えず、今の迷走はこのとき既に約束されていたと言って良い。

 また、この報告書には、10年間で212兆円の経済波及効果、約711万人の雇用創出などとどこから出てきたのかよく分からない数字が書かれているが、今にしても思えばデタラメも良いところである。基本的に大したメリットのない地上放送のデジタル移行にかかるコストを消費者に一方的に押し付けようとしても、そうは問屋がおろさないということは、今までの混乱・迷走によっても明確に示されていることである。(それに引き替え、放送事業者のコストに関しては約9300億円というやたらに具体的な数字が記載され、行政として金融・税制上の支援をすると書くなど、放送事業者に対しては甘く、どう考えてもユーザー・消費者・国民を舐めているとしか思えない。ちなみに、この優遇措置は1999年に法制化されている。)

 ただし、この1998年の報告書では、アナログ放送の終了時期として2010年を目安としながらも、受信機の普及世帯率として85%以上、放送地域カバー率100%という条件に沿って見直すとしていたので、この時点では、完全に期限を切ることは考えられていなかった。しかし、何故2011年7月24日という日付けでこれが切られるようになったのかという背景になると、極めて不透明である。

 上の報告書の後、郵政省は、さらに1999年9月から「地上デジタル放送に関する共同検討委員会」なる検討会で、アナ・アナ変換対策(予定の周波数帯を使っているアナログ放送局の周波数帯をどけて、地上デジタル放送のための周波数帯を空けること。1000億とか2000億とか莫大な費用がかかる)費用の問題を検討し、2000年4月にはこれを国費でまかなうべきという結論(日経BPの記事)を出した。

 この地上デジタル放送に関する共同検討委員会の時点でも、アナログ放送の終了を計画的に実施とするくらいで、ここでも厳格に期限を切ることは考えていなかったように見えるが、池田信夫氏のFAQに書かれていることなどによると、結局、このアナ・アナ変換費用を国費でまかなうという方針がガンになったようであり、この方針を押し通そうとする総務省と、民放の私有財産である中継局に国費を投入することは認められないとする財務省との、国民の目に全く見えないやりとりの中で、改正電波法の施行日から10年後(2011年7月24日)をアナログ停波の日とすることと引き換えに、アナ・アナ変換費用に国費を投入するという形で、当時の総務省・財務省間で理解不能のディールが成立したということのようである。日経BPの記事によると、2001年2月の閣議決定前の時点で10年という期限が切られることが確定していたようなので、これは有識者会議も、国会審議も関係ない、完全な官庁間ディールであると思われる。(少なくとも私には、今もって、アナログ停波の期限を切ることで、何故民間事業者への国費投入が認められるのかさっぱり理解できない。いまさら言っても始まらないが、本来なら、どんな条件であれ、このとき国費投入は認められるべきではなかったろう。)

 完全に期限を切らずに、デジタル化をニーズに従って進め、85%なり何なり適当なところまでデジタル受信機の普及が進んだところでアナログを停波するということにしておけば、まだ混乱は少なかったものと思われるのだが、このような経緯を見て行くと、訳の分からないメンツだのプライドだの利権だのを優先し、さらに国民より放送局の顔色ばかりをうかがい、今の迷走の原因を作ったのは、完全に総務省なりの役所であるとしか言いようがない。

 そろそろ、このようなプライドと利権のみによる政策の迷走は終わりにするときだろう。ごまかしをさらにごまかそうとしても、墓穴を掘るだけである。後3年少ししかないのだ、電波法を再改正して、アナログ停波の条件を書き直すことは絶対に必要になるであろうし、早ければ早いほど傷は浅くて済む。

 なお、この後の経緯についても興味があれば、第86回のB-CAS導入経緯番外その5の地上デジタル放送年表もご覧頂ければと思う。

 次回は審議会システムの話か、ニュージーランドの著作権法・ドイツの知財法改正の動きとその内容の紹介のどちらか、早く書けた方がら載せていくつもりである。

(4月27日の追記:アナ・アナ変換対策費用と何故電波法改正が関係あるかというと、この対策費用のために総務省が持ってきた財源の電波利用料は、電波法の第103条の2で用途がばっちり決まっているために、電波法を改正しない限り新しい用途に使うことができないからである(今の電波法の「特定周波数変更対策業務」がこれに当たる)。外からは良く分からないが、これも税金の1種なので、このような用途の追加については相当財務省との間でもめたに違いない。電波利用料のHP歳出歳入状況を見ると、結局、このような電波法改正が通ってしまったおかげで、携帯電話にかけられる税金(年額420円)が半分近くを占める電波利用料財源(平成18年度で660億円)の3分の一近くの200億円近くが民間放送局の中継局に投入されているという、要するに、携帯電話税で民間放送局のアナ・アナ変換対策費用がまかなわれているという異常な事態が今年に至るも続いていることが分かる。(無論放送局も電波利用料を払っている(放送局毎の電波利用料については河野太郎衆議院議員のブログで公開されている)が、全部で30億程度に過ぎない。)この電波利用料という名の携帯電話税は、携帯電話の料金の中にこっそり入っているのだと思うが、その料率の算定基準も含め不透明極まるものである。とにかく電波に関しても、調べれば調べるほど不透明かつ不当で許し難いことがボロボロ出てくる。)

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2008年4月22日 (火)

第87回:イタリア著作権法の私的録音録画補償金関連規定

 第85回の続きとして、今回は、イタリア著作権法の私的録音録画補償金関連規定の紹介をしたい。

 まず、第85回ではざっと流した、イタリア著作権法の、私的録音録画に関する第71条の6~8を翻訳すると以下のようになる。(翻訳は拙訳。もし誤訳等あれば、是非教えて頂きたい。)

Art. 71-sexies

1. E' consentita la riproduzione privata di fonogrammi e videogrammi su qualsiasi supporto, effettuata da una persona fisica per uso esclusivamente personale, purche senza scopo di lucro e senza fini direttamente o indirettamente commerciali, nel rispetto delle misure tecnologiche di cui all'articolo 102-quater.

2. La riproduzione di cui al comma 1 non puo essere effettuata da terzi. La prestazione di servizi finalizzata a consentire la riproduzione di fonogrammi e videogrammi da parte di persona fisica per uso personale costituisce attivita di riproduzione soggetta alle disposizioni di cui agli articoli 13, 72, 78-bis, 79 e 80.

3. La disposizione di cui al comma 1 non si applica alle opere o ai materiali protetti messi a disposizione dei pubblico in modo che ciascuno possa avervi accesso dal luogo e nel momento scelti individualmente, quando l'opera e protetta dalle misure tecnologiche di cui all'articolo 102-quater ovvero quando l'accesso e consentito sulla base di accordi contrattuali.

4. Fatto salvo quanto disposto dal comma 3, i titolari dei diritti sono tenuti a consentire che, nonostante l'applicazione delle misure tecnologiche di cui all'articolo 102-quater, la persona fisica che abbia acquisito il possesso legittimo di esemplari dell'opera o del materiale protetto, ovvero vi abbia avuto accesso legittimo, possa effettuare una copia privata, anche solo analogica, per uso personale, a condizione che tale possibilita non sia in contrasto con lo sfruttamento normale dell'opera o degli altri materiali e non arrechi ingiustificato pregiudizio ai titolari dei diritti.

Art. 71-septies

1. Gli autori ed i produttori di fonogrammi, nonche i produttori originari di opere audiovisive, gli artisti interpreti ed esecutori ed i produttori di videogrammi, e i loro aventi causa, hanno diritto ad un compenso per la riproduzione privata di fonogrammi e di videogrammi di cui all'articolo 71-sexies. Detto compenso e costituito, per gli apparecchi esclusivamente destinati alla registrazione analogica o digitale di fonogrammi o videogrammi, da una quota del prezzo pagato dall'acquirente finale al rivenditore, che per gli apparecchi polifunzionali e calcolata sul prezzo di un apparecchio avente caratteristiche equivalenti a quelle della componente interna destinata alla registrazione, ovvero, qualora cio non fosse possibile, da un importo fisso per apparecchio. Per i supporti di registrazione audio e video, quali supporti analogici, supporti digitali, memorie fisse o trasferibili destinate alla registrazione di fonogrammi o videogrammi, il compenso e costituito da una somma commisurata alla capacita di registrazione resa dai medesimi supporti.

2. Il compenso di cui al comma 1 e determinato con decreto del Ministro per i beni e le attivita culturali, sentito il comitato di cui all'articolo 190 e le associazioni di categoria maggiormente rappresentative dei produttori degli apparecchi e dei supporti di cui al comma 1. Per la determinazione del compenso si tiene conto dell'apposizione o meno delle misure tecnologiche di cui all'articolo 102-quater, nonche della diversa incidenza della copia digitale rispetto alla copia analogica. Il decreto e sottoposto ad aggiornamento triennale.

3. Il compenso e dovuto da chi fabbrica o importa nel territorio dello Stato allo scopo di trarne profitto gli apparecchi e i supporti indicati nel comma 1. I predetti soggetti devono presentare alla Societa italiana degli autori ed editori (SIAE), ogni tre mesi, una dichiarazione dalla quale risultino le cessioni effettuate e i compensi dovuti, che devono essere contestualmente corrisposti. In caso di mancata corresponsione del compenso, e responsabile in solido per il pagamento il distributore degli apparecchi o dei supporti di registrazione.

4. La violazione degli obblighi di cui al comma 3 e punita con la sanzione amministrativa pecuniaria pari al doppio del compenso dovuto, nonche, nei casi piu gravi o di recidiva, con la sospensione della licenza o autorizzazione all'esercizio dell'attivita commerciale o industriale da quindici giorni a tre mesi ovvero con la revoca della licenza o autorizzazione stessa.

Art. 71-octies

1. Il compenso di cui all'articolo 71-septies per apparecchi e supporti di registrazione audio e corrisposto alla Societa italiana degli autori ed editori (S.I.A.E.), la quale provvede a ripartirlo al netto delle spese, per il cinquanta per cento agli autori e loro aventi causa e per il cinquanta per cento ai produttori di fonogrammi, anche tramite le loro associazioni di categoria maggiormente rappresentative.

2. 1 produttori di fonogrammi devono corrispondere senza ritardo, e comunque entro sei mesi, il cinquanta per cento del compenso loro attribuito ai sensi del comma 1 agli artisti interpreti o esecutori interessati.

3. Il compenso di cui all'articolo 71-septies per gli apparecchi e i supporti di registrazione video e corrisposto alla Societa italiana degli autori ed editori (S.I.A.E.), la quale provvede a ripartirlo al netto delle spese, anche tramite le loro associazioni di categoria maggiormente rappresentative, per il trenta per cento agli autori, per il restante settanta per cento in parti uguali tra i produttori originari di opere audiovisive, i produttori di videogrammi e gli artisti interpreti o esecutori. La quota spettante agli artisti interpreti o esecutori e destinata per il cinquanta per cento alle attivita e finalita di cui all'articolo 7, corna 2, della legge 5 febbraio 1992, n. 93.

第71条の6

第1項 非営利で、間接的にも直接的にも非商用である場合であって、個人的な目的のために限り、第102条の4に規定されている技術的手段を尊重する形で、自然人によってなされる媒体への録音録画の私的な複製は許される。(訳注:第102条の4は技術的保護手段(DRM)を規定している。)

第2項 第1項に規定されている複製は第3者によってなされてはならない。私的利用のための自然人の録音録画を可能とするサービスをすることは、第13条、第72条、第78条の2、第79条と第80条の規定に従う複製行為についてのみ認められる。(訳注:第13条他は、著作権者・著作隣接権者に許諾権があることを定めている。)

第3項 作品が第102条の4に規定されている技術的手段によって守られ、あるいはアクセスが契約に基づいてなされ、かつ、個々に選ばれる時と場所で誰でもアクセス可能な形で公衆に入手可能とされている、作品あるいは保護を受ける物には、第1項の規定は適用されない。

第4項 作品あるいは保護を受ける物の通常の利用を害さず、権利者の正当な利益を害さない場合に限り、第3項の規定にかかわらず、第102条の4に規定されている技術的手段を適用した場合であっても、作品あるいは保護を受ける物の複製物を合法に入手した、あるいは、合法にアクセスした自然人には、アナログのみにせよ、私的利用のための私的複製ができることを、権利者は認めなければならない。

第71条の7

第1項 作者と録音の製作者、オーディオビジュアル作品の原製作者、実演家、録画の製作者、とその権利承継者は、第171条の6に規定されている録音録画の私的複製に対して補償を受ける権利を有する。この補償金は、アナログあるいはデジタルの録音録画のみを目的とする機器に対しては、その最終小売価格の一部とされ、マルチファンクション機器に対しては、その内部の録音録画に使用されるコンポーネントと等しい性質を持つ機器の価格によって、あるいは、それが不可能な場合には、機器の定価に基づいて計算される。アナログ媒体、デジタル媒体、録音録画に使用される固定あるいは携帯メモリーのような、録音録画媒体に対しては、媒体の記憶容量と比例する額とされる

第2項 第1項に規定されている補償金は、第190条に規定されている委員会と、第1項に規定されいている機器と媒体のメーカーの大多数代表する団体の意見を聞き、文化財産・文化活動大臣令によって定められる。補償金の決定に対しては、第102条の4に規定されている技術的手段を付加しているかいないかということ、及び、アナログコピーと比較したときのデジタルコピーの様々な影響が考慮される。

第3項 補償金は、第1項に指定される機器及び媒体によって利益を上げる目的で、国内で生産、または国内へ輸入する者によって支払われる。このことについて、3ヶ月毎に、イタリア著作権者編集者協会(SIAE)に、支払われるべき補償金と実施される譲渡に関する報告がなされ、これと同時に支払いがなされなくてはならない。補償金の支払いができなかった場合は、記録媒体あるいは機器の販売者も、その支払いに連帯責任を負う。

第4項 第3項に規定されている義務の違反は、課される補償金を倍にするという行政罰によって罰され、より重大な、再犯などのケースに対しては、商業あるいは工業活動の実行のためのライセンスあるいは許可を15日から3ヶ月の間停止するか、このライセンスあるいは許可を取り消すことによって罰される。

第71条の8

第1項 第71条の7に規定されている、録音機器と媒体のための補償金は、イタリア著作権者編集者協会(SIAE)に払われ、SIAEは、50%を著作権者とその権利承継者に、50%を録音の製作者に、その大多数を代表する団体を介するなどして分配する。

第2項 録音の製作者は、遅滞なく、いずれにせよ6ヶ月以内に、第1項であてがわれるその補償金の50%を、関係する実演家に渡さなくてはならない。

第3項 第71項の7に規定されている、録画機器と媒体のための補償金は、イタリア著作権者編集者協会(SIAE)に渡され、SIAEは、そのカテゴリーの大多数を代表する団体を介するなどして、その30%を権利者に、残りの70%を等分にして、オーディオビジュアル作品の原製作者、録音の製作者と実演家に分配する。実演家への分配分は、1992年第93号法の第7条第2項に規定されている活動と目的のためにその55%があてられる。

 イタリアにおいて、第71条の6第3項で、インターネット上でDRMや契約がある場合は、基本的に私的録音録画の権利制限の対象外としながらも、さらに第4項で、このような場合でも、著作物の通常の利用を害さず、権利者の正当な利益を害さない場合には、私的録音録画ができることを権利者は認めなくてはならないとしていることは注目に値する。第85回でもイタリアの著作権法では私的複製が強行規定に近い形で書かれていると少し述べたが、このように私的録音録画についても同じように強行規定に近い書き方がされているのは日本でも参考にされて良い。合法ダウンロードにせよ何にせよとにかく除外して私的複製の範囲を狭めればそれでOKということはないのだ。

 補償金についても、イタリアは、私的録音録画のみ、専用機器・媒体のみを対象とするなど、ヨーロッパの中ではおとなしい国に属する。SIAEの私的録音録画に関するページ(英語版イタリア語)やdritto d'autore.itの私的録音録画に関するFAQなどに料率の話が出ているが、専用媒体は容量に応じた額、専用機器は定率(3%)とバラバラであり、この料率も、導入当時(恐らく1993年)のヨーロッパの平均から決めたとのことであり、何ら客観的な基準では決まっていないことが分かる。(この料率などは、2003年第63号法で決まっているものが今も適用されているのではないかと思われる。)

 第71条の7の第2項で、補償金額の決定に当たっては、DRMを考慮することなどとされているが、全ての専用録音録画機器に対して3%という料率が課されていることを考えると、このような漠然とした規定は、イタリアでも、ほとんど何の役にも立っていないのだろう。

 上のSIAEの解説ページにも書かれているが、イタリアでは、法律には書かれているものの、メモリーに関しては補償金の運用が凍結され、事実上補償金徴収の対象外となっていることも指摘しておこう。経緯はよく分からないが、メモリーにまで補償金を課すことには、大きな反発を受けたのだろう。どこの国であれ、私的録音録画補償金制度は、その客観性・納得性の無さから言って、ユーザー・消費者・メーカーから反発を受けていないはずがないのだ。

 最後に念のため、第85回で書いた通り、明確なダウンロード違法化はイタリアではなされておらず、検討されている様子もなく、かえって、P2Pを多少合法化するような法改正がイタリアでなされているということももう一度繰り返しておく。文化庁はまた自分たちに都合の悪いことを全て隠してくることだろうが、イタリアの著作権法には、他の国で見られない規定が多く含まれており、日本でも参考にすべきところはあるものと私は考えている。

 なお、知財本部で、デジタル・ネット時代における知財制度専門調査会の第1回が4月24日に開催されるという案内が出ているので、念のためにリンクを張っておく。ここでの検討がどうなるのかはまだ分からないが、この検討会が今年の政府の知財規制緩和にかける意気込みの試金石となることだろう。

 次回は、まとめられれば、番外として、地上放送のデジタル移行そのものの経緯について書いてみたいと思っている。

(4月22日夜の追記:この点だけ取り出してどうこう言うことは間違っているが、別に隠すつもりもないので、念のため追記しておくと、イタリアも、料率などの点でおとなしいとは言えヨーロッパの一国であり、アメリカなどに比べれば当然補償金の対象は広く、アナログオーディオテープやビデオテープなどのアナログ専用録音録画媒体・機器にも課金されている。メモリーに対しては課金を凍結しているが、MP3プレーヤーは専用機器として一律3%の課金がされているようである。対象機器などについては、上のSIAEのサイトなどより、オランダの補償金管理協会(Stichting de Thuiskopie)が出している私的録音録画補償金国際調査(英語)の方が分かりやすいかも知れない(イタリアは第36~37ページ)。今のところ補償金制度見直しの話を聞かないが、専用と汎用の区別が曖昧になる中、汎用機器・媒体へのさらなる拡大の話が出れば、イタリアでもユーザー・消費者・メーカーから大反発を受けるのは必至だろう。私的録音録画補償金に関する限り、どこの国を見ても客観性・納得性は全くない。日本で、専用機器・媒体であってかつ機器と媒体が分離しているもののみを補償金の対象としていることは、補償金制度の無制限な拡大を防ぐ重要なセーフハーバーになっているのであり、ユーザー・消費者にとって、この仕切りは容易に動かされてはならないものである。)

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2008年4月17日 (木)

第86回:無料地上デジタル放送へのB-CASシステム導入経緯

 今回は、無料地上デジタル放送へのB-CASシステムの導入を可能とした平成14年6月の総務省令改正の経緯についてまとめておきたい。

 まず、平成14年6月26日の省令改正まで、地上デジタル放送の技術方式を定める総務省令「標準テレビジョン放送等のうちデジタル放送に関する送信の標準方式」でスクランブルに関する部分は、以下のようなものだった。(赤線強調は私が付けたもの。)

第3条 符号化された映像信号、音声信号及びデータ入力信号並びに関連情報(国内受信者(放送法(昭和25年法律第132号)第52条の4第1項に規定する国内受信者をいう。以下同じ。)が有料放送(同法第52条の4第1項に規定する有料放送をいう。以下同じ。)の役務の提供を受け、又はその対価として放送事業者が料金を徴収するために必要な情報及びその他総務大臣が別に告示する情報をいう。以下同じ。)(以下「符号化信号」という。)は、次の各号により伝送するものとする。

(中略)

第4条 有料放送を行う場合は、次の各号に規定する方式を組み合わせたスクランブル(国内受信者が設置する受信装置によらなければ受信することができないようにするために、信号波を電気的にかくはんすることをいう。以下同じ。)の方式によるものとする

 要するに、当時まで、スクランブルは有料放送の料金徴収を行うためのエンフォース手段としてのみ規定されていたので、有料放送でなければスクランブルはかけられなかったのである。B-CASのようなスクランブル・暗号受信システムを全国民がユーザーである無料の地上放送に適用することは、今でも無料の地上放送の主旨に反していると私は思っているが、このような主旨は、このような省令を見ても昔は認識されていたものと見える。しかし、これがどうして歪んだのかとなるとその経緯は実に不透明極まる。

 これを調べて行くと、何故か、情報通信審議会のサーバー型放送システム委員会という、BS放送とも地上放送とも関係ないサーバー型放送のシステムを検討していた審議会が、BSの料金徴収のエンフォース手段であったB-CASシステムを無料の地上放送に導入することを実質的に決めていたことが分かる。

 詳細は良く分からないが、ネット上に議事概要は残っているので、それを追っていくと、平成13年の6月25日の諮問を受けて、8月7日に第1回が始まり、8月8日にサーバー型放送の技術要件の募集を行うなど地上デジタル放送とは全く関係なくサーバー型放送の技術要件の検討をしているのだが、第2回(9月4日)で、構成員から、「地上デジタル放送の開始が2003年に迫っていることもあり、BSデジタル放送のコンテンツ権利保護方式だけでなく地上デジタル放送のコンテンツ権利保護方式についても先行検討の対象とするべき」という意見が出されて、総務省(事務局)が、「BSデジタル放送のコンテンツ権利保護方式が先行検討されれば、その方式は地上デジタル放送に適用することは可能と考えられる」と受けたあたりから雲行きがおかしくなってくる。

 第3回(10月5日)要求条件のとりまとめ(10月12日)第4回(11月9日)を経て第5回までの間に何があったのか分からないが、第5回(12月14日)で、突然ワーキンググループから、省令改正のための「権利保護方式のうちBSデジタル放送用受信機等が対応可能な方式」について説明がされ、その報告内容を基に情報通信技術分科会に対する委員会報告案及び一部答申案の作成を進めることが問答無用で決まっているのである。

(特に、この第5回の議事概要からは、「画質、音質、解像度の低い低品質なコンテンツは暗号なしで無料で提供し、高品質なコンテンツは暗号化して有料で提供するといったビジネスモデルが実現できるような仕組みが必要ではないか」との意見が構成員より出されているのに対し、回答は「検討したい」とだけで事実上の無視を決め込んでいることが分かる。)

 この報告書は、さらに12月18日から翌年1月8日という嫌がらせのような期間でパブコメにこっそりかけられ、その結果が1月24日に公表されているが、全国民に影響するこの報告書のパブコメは全部で6通という惨憺たる結果であり、ここで事実上、BS有料放送のためのユーザー管理・コピー制御であったB-CASシステムが地上放送に導入されることが決まってしまっている

 この意見募集の結果において、「BSデジタル放送の『1世代のみコピー可』は有料放送のみに限定して欲しい」とする個人の意見に対して、「現在のBSデジタル放送方式においても、そのコンテンツが有料放送であるか否かにかかわらず、『制限無しにコピー可』、『1世代のみコピー可』及び『コピー不可』のいずれかを放送事業者が指定できるようになっています。 素案の方式を実際の放送サービスで利用する場合も、個々のコンテンツに対し上記のいずれを指定するかについては、放送事業者が選択できるようにすべきものと本委員会は考えます」と総務省は回答しているが、今地上放送の全番組が放送局によってコピーワンス運用されていることを思えば、ごまかしの回答としか思われない。(今でも、番組毎にコピー制御を変えることはできるはずであるが、それができないとする放送局の説明には常に説得力がない。電波の希少性から放送事業者には常に談合バイアスがかかるので、このようなスクランブルやコピー制御ができないようにする明確な逆規制こそ、真に必要なものである。)

 そして、第6回(平成14年1月15日)で意見募集の結果の報告がされ、第7回(2月20日)で中間報告書と一部答申の原案が報告され、平成14年3月13日には、「BSデジタル放送用受信機等が対応可能なコンテンツ権利保護方式の技術的条件」という一部答申を情報通信審議会から受けて関係省令の整備を行うと総務省が言う(公表資料)という形で一連のセレモニーが完了している。

 特に、平成14年3月13日のサーバー型放送システム委員会の一つ上の会の情報通信技術分科会(第10回)議事録を読むと、国際的な整合はあるのかという委員の質問に対して、IEEE1394の話やアメリカでも強制規格となってはいないということを持ち出してはぐらかすという救いがたいやりとりがなされている。(無料放送も含め、あらゆる番組をコピーワンスにするという特殊な放送談合が世界のどこかでなされているという話は今もって聞かないし、ダビング10に至っては、その技術的な整合性のなさから、他の国で採用されることは絶対ないと断言できる。)

 さらに、この答申を受けて、平成14年4月17日に、省令の改正案が総務省の別の審議会である電波監理審議会に諮問され、パブコメにかけられ、6月12日にその意見募集の結果が公表され、6月26日の実際の省令改正で、「放送事業者が放送番組に関する権利を保護する受信装置によらなければ受信することができないようにするために必要な情報」も放送信号の中に伝送され得、有料放送の場合だけではなく、「放送番組に関する権利を保護しようとする場合」にも、「放送番組に関する権利を保護する受信装置によらなければ受信することができないようにするため」にスクランブルをかけて良いこととされたのである。(なお、実際にコピーワンス運用が導入されるのは、2004年の4月である。)

 こちらの省令改正案のパブコメ結果に至っては3件しかなく、NHKとメーカーの業界団体のJEITAと読売新聞社の各者が賛意を示すだけという、さらにひどいものである。上の報告書から、一部答申、さらに、このパブコメまで全て「BSデジタル放送用受信機等」と書かれているが、この「等」の中に、実は「地上デジタル放送用受信機」が入るということを当時どれだけの人間が理解していたろうか。このような省令改正が、B-CASという有料放送のためのスクランブル・暗号受信システムを、無料放送も含め全地上放送にまで導入することを目的としていたことをどれだけの国民が理解していたろうか。当時の行政の責任をいまさら言っても始まらないが、このようなやり口はほとんど詐欺に等しい。

(この後は、また地上デジタル放送とは関係なくなるのだが、サーバー型システム委員会はまだ、第8回(4月26日)第9回(6月7日)第10回(7月26日)第11回(8月23日)と続くので、念のためにリンクだけ張っておく。なお、この第10回の議事概要から、平成14年6月26日という改正省令の掲載官報の日付が分かる。)

 この改正省令から、さらに詳細な地上デジタル放送受信機の技術仕様を公益法人の電波産業会(ARIB)が定めている訳だが、第81回で取り上げた衆議院の天下り調査(2007年6月23日号のダイヤモンド記事でも同じである)によると、このARIBという公益法人は、全部で12人(職員9人、理事3人)の天下りポストを擁し、しかも全て常勤というかなり大口の天下り先となっている。

 要するに、このような天下りまで含めて考えると、B-CASシステムを無料の地上放送まで含めて適用することで、コンテンツと機器の双方を不当に高い値段で売りつけることを可能とする規制を全国民に一方的に押しつけ、全国民に転嫁されるそのコスト利権を放送局・メーカー・天下り役人で山分けにしているという官民密室談合の構図が浮かび上がってくるのだが、これは私のひが目ではなかろう。

 このような視聴者の利便性を不当に下げるDRMを含む放送規格と、私的録画補償金との関係も、このときに整理しておくべきだったはずであり、当時整理しなかったという行政の怠慢が今に至るも尾を引いている。コピーワンスにせよ、ダビング10になったにせよ、実質的に全国民に転嫁されるコストで、不当に厳しいコピー制御が課されている今の状態が維持されるなら、さらに私的録画補償金まで課されることは不当の上塗り以外の何物でもないと、今一度繰り返しておく。

 ダビング10も、結局この談合規格を維持しようとする動きから出てきたもので、本質的な解決になるものでは全くない。B-CASカード使用不正録画機器フリーオの登場によって、B-CASシステムとこれを前提にしたコピーワンス・ダビング10という規格は、実質的に死んだのであり、このような無意味な国内談合規格に最後の引導を渡すことこそ、今本当に必要とされていることだと私は考えている。

 コピーワンス問題についても、地上デジタル放送に対する私的録画補償金問題についても、このような経緯の詳細を明らかにした上で議論されなければならないと思うのだが、このような死に体の規格利権にたかるハイエナ規制官庁の総務省と文化庁に見られるのは利権確保・利権拡大のためのごまかしばかりで、誠実な態度は全く見られない。利権官庁の浅ましさにはほとほと呆れるばかりである。

 このB-CAS問題は、地上デジタル放送の根幹に関わる大問題の一つであり、ごまかされて良い問題では決してない。この話もまだまだ終わりは見えない。

 このような各者の行為が、具体的に独禁法のどの条項に引っかかるかという話も近いうちに別途書きたいと思っているが、次回は、また、各国著作権法紹介の話の続きを書くつもりである。

(4月19日の追記:大きなエントリを立てるにはまだ準備が必要なので、追記という形にするが、児童ポルノ法に関しては与党(自民・公明)のプロジェクトチームが単純所持規制を進めるという方針を決めたというニュースがあった(毎日新聞のネット記事日刊スポーツのネット記事)。今度は「性的好奇心を満たす目的」で所持する場合を規制すると言い、「本人が意図せずにパソコンなどに画像が残る場合」を適用対象外とすると言って、要件がころころ変わることからして、この規制が全くナンセンスであることを端的に示しているが、情報の所持は、完全に個人的な行為であるから、どんな要件にしようが、どんな適用除外を設けようが、その要件・適用除外該当性は証明も反証もできないのであり、このような情報所持規制の危険性は回避不能であると私は言い続ける。今、与野党・議員へ手紙を書くことや反対の署名運動をすることも勿論必須と思われるが、小寺氏がその「ネットユーザーに何ができる?」というエントリで述べているように、本当の勝負はそう遠くないと思われる次の選挙である。ネットは武器にもなるし、盾にもなる、草の根の情報共有活動は選挙で威力を発揮することだろう。バカなネット規制推進は票を失う、あるいは、合理的なネット規制反対は票につながるという事例を、次の選挙で作るのだ。

 また、総合科学技術会議からの報告などを受けて、知財本部で、医療技術特許の是非の問題の検討が進めらるようである(IP NEXTの記事日経のネット記事)。これは著作権問題ではないが、この点についても何かしら書けることがあればそのうち書きたいと思っている。)

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2008年4月15日 (火)

第85回:イタリア著作権法の私的複製関連規定

 文化庁で、「ヨーロッパにおける著作権侵害対策ハンドブック(イタリア共和国編)」がまとめられたというニュース(本文Markezineの記事)があったので、この機会に、2003年の改正と、この2008年1月の改正によって拡充されているものも含めて、現行のイタリアの権利制限規定について、ここでその簡単な紹介をしておきたいと思う。

 イタリア著作権法の現行条文イタリア著作者出版者協会が提供しているpdf版)でも、第65条の時事ニュースの利用、第66条の政治・行政上の演説の利用、第67条の立法・司法・行政手続における著作物の利用、第68条の基本的な私的複製や図書館での複写、第69条の文化振興・研究目的での資料の貸与、第70条の引用など、第71条の軍楽隊での利用の権利制限などについては、2001年改正当時とあまり違いはなく、著作権情報センターで見られる当時の翻訳をご覧頂ければと思う。

 これらに加えて、第56回で少し紹介したことだが、この1月に次のような重要な改正がされたことは特に注目に値するので、ここにもその訳文を再掲する。このような権利制限によって、教育研究目的で劣化版との限定はかかるものの、イタリアでのネットワークを通じた著作物の利用の自由度はかなり上がることだろう。

70. 1-bis E'consentita la libera pubblicazione attraverso la rete internet, a titolo gratuito, di immagini e musiche a bassa risoluzione o degradate, per uso didattico o scientifico e solo nel caso in cui tale utilizzo non sia a scopo di lucro. Con decreto del Ministro per i beni e le attivita culturali, sentiti il Ministro della pubblica istruzione e il Ministro dell'universita e della ricerca, previo parere delle Comissioni parlamentari competenti, sono definiti i limiti all'uso didattico di cui al presente comma.

第70条第1の2項 そして、その利用が営利のためになされるものでない場合に限り、研究あるいは教育のために、解像度を下げられた、あるいは質を下げた、画像と音楽は、無償で、インターネット網で自由に公開することが認められる。この項に記載された教育目的の利用は、公教育大臣と高等教育大臣の意見を聞き、あらかじめ国会の管轄委員会の意見を受けてから、文化活動・文化財大臣の命令によって定められ、制限される。

(イタリアでは、この部分の詳細を定めるための大臣令について、かなり開明的な提案が法学者からなされていることは、第70回のついでに少し書いたが、この大臣令についてまた分かったことがあれば書きたいと思う。)

 さらに、2003年の改正で追加された、第71条の2~10についても概略を紹介して行くと、まず、第72条の2で障害者の私的利用のための複製に関する権利制限が拡充されており、このような拡充が、前回に少し紹介したように、視聴覚障害者のために著作物の大規模なデジタル化を可能とする大臣令につながっているものと思われる。

 第71条の3では、研究目的で、図書館や博物館におかれる端末で、そのコレクションを利用するための権利制限が、第71条の4では、公共の病院や刑務所でなされる放送のための複製に関する権利制限が規定されている。

 また、第71条の5では、公安あるいは立法・司法・行政の正しい手続きのために、権利者はDRM解除をしなければならないこととされている。さらには、第71条の5の第2項では、権利者は、受益者の求めに応じて、私的複製などの各種権利制限の実行を可能とするために、権利者に、受益者代表団体との取り決めの締結も含め、適切な解決策を取らなければならないともされている。私的複製も含め、権利制限についてこのような強行規定に近い条項が含まれていることは、注目に値するだろう。

 第71条の6から8にかけて、私的録音録画とDRMの関係と、私的録音録画補償金とが規定されている。これらは少しややこしいのでまた回を分けて、別途翻訳つきで紹介したいと思うが、基本的には、第71条の6で、第3者の手によってなされる場合を除き、私的録音録画が認められるとした上で、第71条の7~8で、権利者にこの私的録音録画に対する補償金請求権が認められることと、イタリア著作者出版者教会がその徴収と分配に当たることが規定されている。

 最後に、第71条の9で、著作物の通常の利用を害さず、著作者の正当な利益を害しないことという、お決まりの逆制限がかかっている。文化庁はこのようなベルヌ条約のスリーステップテストをそのまま書いた逆制限を必ずダウンロード違法化と結びつけるが、このような逆制限と明確なダウンロード違法化とは直接結びつくものではない。イタリアでも、明確なダウンロード違法化はなされていないし、ダウンロード違法化が検討されるという話も聞こえて来ない

 権利制限について海賊版対策マニュアルに事細かに書く必要は全くないはずだが、このような地道なマニュアル作りにおいてすら、権利制限に否定的な見解ばかりを載せ、ヨーロッパのほとんどの国で著作権侵害罪が非親告罪であることなどを強調しながら、その見解の主語をわざと曖昧にして印象操作を行うなど、文化庁のバランス感覚の欠如は本当に救いがたいものがある。(第17ページで、著作権を著作者の創作行為から生じる絶対的な権利であると理解するようになると何の根拠もなく断定していたり、第28ページで、判例がどのレベルでどのような内容であるかについて触れずに、補償金制度に関する憲法上の疑義を否定した判例があることや、イタリアではパロディの権利制限がないことをわざわざ強調してみたりするなど、突っ込みどころは満載だが、いちいち突っ込んで行くことはバカバカしいし、意味もないのでしない。)

 文化庁が、今後の私的録音録画小委員会や、法制問題小委員会(次回は4月24日に開催されると案内が出ているが、そこでも私的複製を議論するらしい。)で、国際動向についてロクでもないことを言ってくることは目に見えているが、イタリアの最近の法改正だけを見ても、ヨーロッパでも知財の保護強化だけをやっている訳ではないことは明らかだと今一度繰り返しておく。インターネットで少し検索すれば誰でも分かることでごまかされる国民などもはやいないのだ。

 また、フランスでは、第61回で書いたように、案の定iPhoneに補償金が賦課されることが決定され、5月1日から徴収されることとなったようだ(Nouvel Obs.comの記事参照)が、第63回で紹介したように、EUレベルでも今年、私的複製補償金問題の検討をするとしており、第45回でも少し紹介したように、フランスでも小売業界や消費者団体から行政裁判所に訴訟が提起されている(PCINPACTの記事参照)ことに加え、さらにフランソワ・フィロン首相がエリック・ベッソンデジタル経済大臣への書簡で、「私的複製補償金に関する決定様式は、これを客観的で透明な手続きとするために調査されるに値する。この分野における提案をあなたがこの秋までにすることを私は求める。」と述べる(Numeramaの記事PCINPACTの記事参照。裏を返せば、この手紙は、今の決定様式は透明でも客観的でもないということを暗に言っているに等しい。)など、フランスでも補償金問題の収束の気配は全くない。また、フランスの著作権検閲型の違法コピー対策についてもさらにややこしいことになっており(numeramaの記事参照)、今後どうなるかはさっぱり読めないが、第83回でも取り上げた、EU議会によるフランスの違法コピー対策の否定決議のことを考えても、どこかで止まるのではないかと私は考えている。

 特許関係の政策ネタについても、機会があれば、まとめてどこかで書きたいと思っているが、特許法の改正が参議院で通ったというニュース(時事通信のネット記事)があったので、念のため、これもリンクを張っておこう。

 次回は、少しまたB-CASの話を書いてみたいと思っている。

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2008年4月11日 (金)

第84回:ベルギー著作権法の私的複製補償金関連規定

 かなり途中が空いてしまったが、今回は、第69回の続きとして、ベルギーの私的複製補償金関係の規定を紹介する。

 まず、ベルギー著作権法の私的複製補償金関連部分の規定を以下に訳す(翻訳は拙訳。私的複製関連規定そのものについては、第69回をご覧頂きたい)。

CHAPITRE IV. - (De la copie privee d'oeuvres et de prestations.)

Art. 55. Les auteurs, les artistes-interpretes ou executants et les producteurs de phonogrammes et d'oeuvres audiovisuelles ont droit a une remuneration pour la reproduction privee de leurs oeuvres et prestations, y compris dans les cas fixes aux articles 22, § 1er, 5, et 46, alinea 1er, 4, de la presente loi.
La remuneration est versee par le fabricant, l'importateur ou l'acquereur intracommunautaire de supports utilisables pour la reproduction d'oeuvres sonores et audiovisuelles ou d'appareils permettant cette reproduction lors de la mise en circulation sur le territoire national de ces supports et de ces appareils.
Le Roi fixe les modalites de perception, de repartition et de controle de la remuneration ainsi que le moment ou celle-ci est due.
Sous reserve des conventions internationales, la remuneration est repartie conformement a l'article 58, par les societes de gestion des droits, entre les auteurs, les artistes-interpretes et les producteurs.
Selon les conditions et les modalites qu'Il fixe, le Roi charge une societe representative de l'ensemble des societes de gestion des droits d'assurer la perception et la repartition de la remuneration.
Lorsqu'un auteur ou un artiste-interprete ou executant a cede son droit a remuneration pour copie privee sonore ou audiovisuelle, il conserve le droit d'obtenir une remuneration equitable au titre de la copie privee.
Ce droit d'obtenir une remuneration equitable ne peut faire l'objet d'une renonciation de la part des auteurs ou artistes-interpretes ou executants.
Le droit a remuneration vise a l'alinea 1er ne peut beneficier des presomptions visees aux articles 18 et 36.

Art. 56. La remuneration visee a l'article 55 est fixee par arrete royal delibere en Conseil des ministres et est calculee en fonction du prix de vente pratique par le fabricant, l'acheteur intra-communautaire ou l'importateur des appareils permettant la reproduction des oeuvres protegees et, le cas echeant, en fonction du prix des supports.
En l'absence d'un tel arrete, la remuneration est fixee a :
- 3 pour cent sur le prix de vente fixe au premier alinea pour les appareils permettant la reproduction des oeuvres protegees;
- 2 francs l'heure, sur les supports analogiques;
- 5 francs l'heure, sur les supports numeriques.

Art. 57. La remuneration visee a l'article 55 est remboursee selon les modalites fixees par le Roi :
1°aux producteurs d'oeuvres sonores et audiovisuelles;
2°aux organismes de radiodiffusion;
3°aux institutions reconnues officiellement et subventionnees par les pouvoirs publics aux fins de conserver les documents sonores ou audiovisuels;
4°aux aveugles, aux malvoyants, aux sourds et aux malentendants, ainsi qu'aux institutions reconnues, creees a l'intention de ces personnes;
5°aux etablissements d'enseignement reconnus, qui utilisent des documents sonores et audiovisuels a des fins didactiques ou scientifiques.
6°aux etablissements hospitaliers, penitentiaires et d'aide a la jeunesse reconnus.
Le remboursement n'est accorde que pour les supports destines a la conservation des documents sonores et audiovisuels et a leur consultation sur place.
En outre, apres avis de la commission des milieux interesses, le Roi peut determiner par arrete royal delibere en Conseil des Ministres, les categories de personnes, physiques ou morales :
1°soit qui beneficient d'un remboursement total ou partiel de la remuneration percue et repercutee sur les d'ordinateurs qu'elles ont acquis;
2°soit pour lesquelles les redevables de la remuneration vises a l'article 55 sont exoneres ou rembourses totalement ou partiellement de celle-ci pour les ordinateurs acquis par ces personnes.
Le remboursement ou l'exoneration de la remuneration, vises a l'alinea precedent doivent etre dument motives :
1°soit par la necessite de garantir, sans porter atteinte a la creation, l'acces le plus egal pour chacun aux nouvelles technologies de l'information et de la communication, des lors que la remuneration en question constituerait un obstacle a cet acces;
2°soit par la necessite de garantir l'acquisition d'ordinateurs par des personnes qui ne consacrent manifestement pas ce materiel aux reproductions visees a l'article 55.
Le Roi determine les conditions du remboursement ou de l'exoneration.

Art. 58. § 1. La remuneration visee a l'article 55 est attribuee, a raison d'un tiers, a chacune des categories suivantes :
- les auteurs;
- les artistes-interpretes ou executants;
- les producteurs de phonogrammes et d'oeuvres audiovisuelles.
§ 2. Les Communautes et l'Etat federal peuvent decider d'affecter trente pour cent du produit de la remuneration dont question au paragraphe precedent a la promotion de la creation d'oeuvres, par accord de cooperation en application de l'article 92bis, § 1er, de la loi speciale du 8 aout 1980 de reformes institutionnelles.

第4章 (作品と実演の私的複製について)

第55条 作者、実演家と録音録画物の製作者は、第22条第5項と第46条第4項に含まれる作品と実演の私的複製に対する補償金請求権を有する。
 補償金は、そのような媒体と機器を国内で流通させたときにこの複製ができる機器あるいは録音録画媒体のメーカー、輸入者あるいは仲介入手者によって支払われる。
 国王が、この補償金の徴収、分配、管理、並びに、これがいつから課されるかの形を定める。
 国際条約の留保の下、補償金は、第58条に一致する形で、著作権管理団体によって、作者、翻案家と製作者に分配される。
 定めた条件と形に従い、国王は、補償金の徴収と分配を著作権管理団体の集まりに委ねる。
 作者あるいは実演家は、私的な録音録画に対する補償金請求権を譲ったとしても、私的複製の名のもとに得られる補償と等価の補償を得る権利を保つ。
 この等価の補償を得る権利は、作者あるいは実演家の放棄の対象とはならない。
 第1段落の補償金請求権は、第18条と第36条に規定されている推定の利益を受けない。(訳注:第18条と第36条は作者や実演家が、それに反する取り決めがない限り、サブタイトルを付けたり再版をするためなどの独占利用権を製作者に譲るという規定。)

第56条 第55条に規定されている補償金は、閣議で討議される国王令によって定められ、メーカー、仲介販売者、あるいは、輸入者の設定する、保護を受ける作品の複製ができる機器の販売価格、、うまくいかない場合は、媒体の販売価格に従って計算される。
 このような王令が存在しない場合、補償金は以下の額となる:
-保護を受ける作品の複製ができる機器に対しては、前段で決まる販売価格の3%;
-アナログ媒体については時間あたり2フラン;
-デジタル媒体については時間あたり5フラン。

第57条 第55条の補償金は、国王の定める形により、以下の者に返還される:
1°録音録画物の製作者;
2°放送局;
3°公権力によって録音録画物を保存する義務を課されているよく知られた公的機関;
4°視聴覚障害者、並びに、これらの者の意思の下に作られたよく知られた機関;
5°教育研究目的のために録音録画物を使用する、よく知られた教育機関;
6°病院、監獄、よく知られた青少年援助機関。
 返還は、録音録画物の保存に使われた媒体とその場での援助の場合のみに認められる。
 さらに、関係者委員会の意見に従い、国王は、閣議で討議される国王令によって、以下のような自然人あるいは法人のカテゴリーを決めることができる:
1°入手したコンピュータに対して反映され、徴収された補償金の部分的あるいは全体的返還を受けられる者;
2°あるいは、第55項に規定されている補償金の義務を負った者であって、これらの者が入手したコンピュータに対する補償金を、部分的あるいは全体的に返還あるいは免除される者;
 前段落に規定されている、補償金の返還あるいは免除は、次のような正当な理由がなくてはならない:
1°問題の補償金が、情報通信に関する新技術への各々の完全に平等なアクセスを阻害する場合であって、創造性を害することなく、このアクセスを保障しなくてはならない場合;
2°あるいは、第55条に規定されている複製にこの物を明らかに使わない者に対してコンピュータの入手を保障しなければならない場合。

第58条 第1項 第55条に規定されている補償金は、第3者を考慮して、次のカテゴリーの各者に分配される:
-作者;
-実演家;
-録音録画物の製作者。

第2項 各市と連邦政府は、前段落の問題の補償金の全体額の30%を、1980年の制度改正特別法の第92条の2の適用と一致する形で、作品創造のプロモーションに当てることを決められる。

 これ以下の第5章で同じように描画媒体に関する補償金の規定が規定されており、コピー機などにも補償金を課しているなど、ベルギーは相当タチの悪い国に分類されるのだが、上で訳した部分を読んだだけでも、ベルギーでは、メーカーから補償金を徴収しているが、補償金の返還や免除も同時に存在していることが分かる。メーカーが補償金の負担者となっているヨーロッパでは、返還制度が存在していないので無問題などというのは、文化庁の脳内妄想以外の何物でもないのである。(この点はフランスも同じである。フランスではメーカーが補償金の負担者とされながら、返還制度が存在していることは、第21回の文化庁パブコメでも指摘した。フランスの補償金制度そのものに関しては、第16回参照。)

 ベルギーは、フランスより詳細に様々な返還条件を定めているが、さらに、第56条で、補償金の事実上の上限を定めていることも注目に値する。このような補償金の上限規定は、権利者団体の際限のない要求を抑止するためのセーフハーバーとして極めて重要である。

 天下りによる不透明な関係で権利者団体と完全に癒着した文化庁の報告など、もはや私は全く信じない。今後も、文化庁は自らの天下り利権確保のために、その歪み切った脳内妄想を国民に押しつけようとして来ることだろうが、このインターネット時代に、そんなごまかしは全く通用しない。私的録音録画問題は、そんなごまかしでどうにかなるような生やさしい問題ではないのである。(前回、スウェーデンで、フランス型の違法コピー対策が政府に否定されたらしいという話を紹介したが、ダウンロード違法化がされた国でこんなことが問題になる訳がない。スウェーデンやフィンランドがダウンロード違法化をしたということも、極めて怪しいと私はにらんでいる。)

 ついでに、参考のため、納得感のあるものではないが、上で規定されているところの国王令の一例として、デジタル録音録画媒体・機器に対する課金を決めたとおぼしき1996年の国王令(フランス語)へリンクを張っておく。

 最後に、ニュージーランドで著作権改正法案が通ったというニュース(Scoopの記事1記事2stuff.co.nzの記事ニュージーランド国会のHP改正条文現行条文)もあったので一緒に紹介しておく。教育目的や図書館のデジタルアーカイブに対する権利制限の拡充、ノーティスアンドテイクダウン手続きやDRM回避機器規制の導入など盛りだくさんの内容であるが、この改正によって、ニュージーランドでは、フォーマットシフトとタイムシフトが明確に認められるようになった(第81条と第84条)が、私的録音録画補償金制度は導入されていない。私的複製と補償金制度が必ずセットになるとするのも、文化庁のデタラメな脳内妄想の一つに他ならないのだ。(このニュージーランドの著作権法改正については、他にも参考になることがあれば、もっと詳しい紹介を別途したいと思う。)

 また、イタリアでは、視聴覚障害者のために著作物の大規模なデジタル化を可能とする大臣令を出したという記事(Punto-Indformaticoの記事(イタリア語))があったので、念のため、これも紹介しておこう。ヨーロッパでも、別に知財の保護強化だけを行っている訳ではないのだ。

 次回は、来週になると思うが、また他の国の著作権法の紹介をしたいと思っている。

(追記:児童ポルノ法の規制強化について単純所持規制導入に目的をしぼり、プロジェクトチームを与党(自公)で立ち上げるようだ(日経のネット記事毎日のネット記事)が、第70回第75回で書いたように、ダウンロード違法化問題と同じく、情報の所持は完全に個人的な行為のため、どんな要件を加えたところで、その要件はエスパーでもない限り証明も反証も不可能である。情報の単純所持規制の危険性は回避不能であり、絶対に導入されてはならない。児童ポルノ法の規制強化に関する動きも、さらに危険度が高まっていこそすれ、全く気が抜ける状態にはない。私も出すつもりであるが、この問題についても引き続き、与野党・議員へ意見を送ることを私は強く勧める。ただ、念のため繰り返しておくが、問題となるような画像を同封したり、添付したりはしないように。)

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2008年4月10日 (木)

第83回:EU議会におけるボノ氏の文化産業レポートの採決

 今日、文化産業に関して、フランスの社会学者ギュイ・ボノ氏が中心になってまとめた報告が、EU議会で採決されるようである。

 電子フロンティア財団(EEF)の記事ZeroPaidの記事golemの記事(ドイツ語)Ecransの記事(フランス語)によると、この報告(3月版)には以下のような重要な修正が加えられ、票決がなされる見込みとのことである。

Christofer Fjellner氏他の修正案:
Paragraph 22 a (new)
Calls on the Commission and the Member States to recognise that the Internet is a vast platform for cultural expression, access to knowledge, and democratic participation in European creativity, bringing generations together through the information society; calls on the Commission and the Member States, therefore, to avoid adopting measures conflicting with civil liberties and human rights and with the principles of proportionality, effectiveness and dissuasiveness, such as the interruption of Internet access.

Michel Rocard, Guy Bono氏他の修正案:
Paragraph 22 a (new)
22a. Calls on the Commission and the Member States to recognise that the internet offers a vast arena for cultural expression, access to knowledge and democratic participation in European creativity, which builds bridges between generations in the information society, and, in consequence, to avoid the adoption of measures running counter to human rights, civic rights and the principles of proportionality, effectiveness and deterrent effect, such as interruption of access to the internet.

両方とも英語版から取ったが、これらの違いはほとんど翻訳の問題なので、一緒に訳してしまうと、

22a(追加)
(EU議会は、)インターネットは、ヨーロッパの創造性において、文化的な表現、知識へのアクセスと民主的な参加のための広大な場を提供し、情報社会における世代間の橋渡しをするものであると認めること、及び、その結果として、インターネットへのアクセスの停止のような、人権、市民権とバランス・有効性・抑止効果の原理に抵触するような手段を採用しないことを、EU委員会と各加盟国に求める

となる(赤字強調は無論私が付けたもの)。

 法的拘束力はないのかも知れないが、この採決は、ヨーロッパの今後の政策に影響を与えることになるだろう。スウェーデン議員のジークフリート氏のブログ記事によると、フランス型の違法コピー対策をスウェーデン政府は拒否したそうだが、同じ記事で氏が指摘しているように、確かに、EU議会でこのような決定を行うことは、フランスが、その著作権検閲型の違法コピー対策をヨーロッパ全土に広めようとすることを牽制し、インターネットの全体性を確保するために非常に重要なことであるに違いない。

 何度も繰り返して来たことだが、このことは何も著作権に限った話ではない。インターネット時代に本当に求められることは、このようなバランスの視点であり、著作権神授説に基づいて著作権を絶対視することでも、児童保護・青少年保護といった本来相対的に考えられるべきイデオロギーを絶対視することでもない。利権と、悪意よりタチの悪い善意によって歪み切った今の日本の政官に、このようなバランスの視点が完全に欠けていることは、いくら断罪してもしすぎではない

 本来相対的に考えられるべき価値判断・道徳判断を絶対視し、さらに自ら印象操作を用い、あるいは他者の印象操作に乗じて、有害無益な何らかの法規制を正当化しようとする者は全て、インターネットユーザーの、今の日本の文化と産業の最先端を担う者たちの、全日本の文化と産業の敵であると私は断言してはばからない。

 今騒がれている規制強化案など、何一つ固まっていないし、決まってもいない。今年の規制強化の動きは尋常ではないが、この動きを主導している、あるいはこの動きに乗じている規制強化派など、真の多数派では全くないと私は確信している。私が言いたいことなど、ほとんど上のEU議会の修正文一行に尽きているが、この一行を否定する者がいるだろうか。

 戦端を開いたのは規制強化派なのだ、もはや遠慮することはない。リアルの利権屋が牙を剥き、あらゆる常識と良識を踏みにじり、ネットで作り得ない利権を作ろうとしてくるなら、私は、ネットからリアルの利権を切り崩しにかかろう。売国奴の利権屋どもめ、インターネットに打ち倒されるのは貴様らの方だ。

 最後に、MIAUが、青少年ネット規制法についてプレスリリースを出しているので、リンクを張っておく。この異常な規制強化の波の中で、インターネットユーザーの団体であるMIAUの存在は極めて大きい。MIAUには、規制強化に対する防波堤として、またネットユーザーの前線基地として是非頑張ってもらいたい。私もMIAUには心からの期待と応援と協力を惜しまない。

 ついでに、今まで突っ込んで来たことをここで繰り返すことはしないが、総務省の「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討委員会」の中間取りまとめ骨子(案)と、警察庁の「総合セキュリティ対策会議」の報告書が公表されているのでリンクを張っておく。読んでいただければ分かると思うが、本当にロクなことは書かれていない。

 次回は、途中で止まっていたベルギーの著作権法の紹介の続きを書きたいと思っている。

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2008年4月 9日 (水)

第82回:ネット規制法に対する反対

 前回も書いたことであり、今までの繰り返しになるが、念のためにもう一度書いておく。

 自民党や民主党の委員会やプロジェクトチームで青少年保護の名の下に取りまとめられたネット規制法案について、ネットでも条件闘争論や部分容認論のようなものを多少見かけるのだが、「らばQ」でも分かりやすくまとめられているように、これらのネット規制法案は、「青少年健全育成推進委員会」と称する少人数の検閲機関に、著しく何かを害するといった極めて広汎漠然とした規定で、ネット上のあらゆるコンテンツに対する検閲を行うことを可能とさせるもので、容認の余地など全くないものである。表現の自由が絶対だなどというつもりもないが、このような法律は、表現の自由と検閲の禁止に明らかに抵触しており、違憲も違憲、全くお話にならない(前回も引用したが、有害の規定ぶりと各者に課せられることについては、池田信夫氏のブログ記事cnetの記事にも書かれている)。

 また、良く引き合いに出される内閣府の調査(「有害情報に関する特別世論調査」(集計表))についても、何の予備情報も与えずに、単にインターネット上の有害情報を規制すべきかと個別面談で聞くというデタラメなものであり、このような調査に基づいて言えることなど何もない。(警察庁を抱える内閣府が、平然とこのようなデタラメな世論操作を行えるほど厚顔無恥な役所であるということは言えるだろうが。)

 第37回第51回でも書いたが、既に存在している様々な法規制を超えて、さらにインターネットに一般的かつ網羅的な表現規制を及ぼすに足る根拠は、規制強化派からはいまだもって何一つ示されていない。ネットの匿名性に関する話も私はネットにおける技術的な誤解を解くのが先だと私は思っている。単なる漠然とした不安など、法規制の根拠たり得ないのは無論のことである。

 政府による悪辣な印象操作・世論操作と、コミュニケーションそのものの問題をコミュニケーションの場の所為にする危険な問題のすり替えによって、有害無益な表現規制をネットに導入することは、必ずや日本の文化と産業に甚大なダメージを与え、将来にわたって国益を大きく損なうことになると私は断言する。

 このブログを読んで下さっている方々には、是非、ネット規制を容認する前に、本当のネットの問題はどこにあるのか、規制強化派の印象操作にごまかされていないかということをもう一度良く考えてみて頂きたい。ほとんどのネットユーザー・国民はほんの少し考えるだけで、このような規制は絶対反対しなければならないと思うことだろう。

 まだ、この問題については、自民党だろうが民主党だろうが、完全にまとまっているとは思えない。選挙において1票を投じるのは我々国民である、その力を示すことは難しいことでは全くなく、いつでも誰にでもできることである。インターネットによって、ようやく形を取り始めた声なき声、国民の真の声を萎縮させ、押し潰そうとするあらゆる勢力に、私は断固反対し続ける。そのような無法は絶対に許されない。

 最後に、最近の著作権関係の海外ニュースも少し紹介しておくと、まず、当たり前の話だが、イギリスでは、インターネットサービスプロバイダーが、我々は著作権警察ではないと違法コピー対策に対する圧力に反発を示しており(P2P.netの記事)、アメリカでも、侵害とするためには単に公衆送信可能化しただけでは足らないとする判決が出される(news.com)など、違法コピー問題は泥沼化の一途を辿っている。

 また、カナダでは、ネット上の材料を教育で使う場合に、それが著作権侵害にならないようにすることを、教育関係機関が求めており(infobourgの記事(フランス語))、どこの国でも、著作権戦争に終わりは見えない。

 次回は、かなり間が空いてしまったが、海外著作権法の紹介の続きをしたいと思っている。

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2008年4月 6日 (日)

第81回:天下りという腐敗の元

 知財政策その他あらゆる政策において、政官が次々と打ち出してくる有害無益な規制強化案には、一国民として心からの憤りを禁じ得ない。

 第70回第75回第76回で取り上げた児童ポルノ規制強化に加えて、規制強化派は有害サイト規制法案も無理矢理押し通そうとしている(池田信夫氏のブログ記事町田徹氏のネット記事未識魚氏のブログ記事cnetの記事OhmyNewsのインタビュー記事参照)。有害サイト規制についても、このような過度に広汎かつ漠然とした表現規制はそもそも違憲であることは言うまでもなく、そもそも「著しく」をつければ規制対象が限定されて明確になると思っている時点で、完全に狂っているが、これらの有害無益な規制の推進の陰にちらつくのはインターネットホットラインセンターを握る警察庁である。(第50回で取り上げた出会い系サイト規制強化法案もまた同断である。)

 4月3日に文化庁で私的録音録画小委員会が開催され(internet watchの記事ITmediaの記事cnetの記事参照)、記事によると、権利者団体と癒着した文化庁は、私的録音録画問題についてあと2回で方向性を示すつもりらしいが、今まで何年もかけてほとんど何の進展もなかった話が、あと2回かそこらで片付く訳がない。このようなことを平気で口にする時点でやはり何かが狂っていると思わなくてはならない。

 また、総務省の携帯サイトフィルタリングの話でも、最近の会合(マイコミジャーナルの記事参照)で、有害性判定第3者機関のことが議論されているようだが、これも総務省は当然天下り先とすることを考えているに違いない。(役所を辞めた人間が天下るのであれば、役人にしてみれば行政から「ある程度独立」しているのだろう。)

 とにかく、これらの現実を無視し、憲法すら無視した政官の言動の裏には、必ず天下り利権がちらつくが、このような法改正や規制を盾にした天下りなど再就職ポストを用いた汚職以外の何物でもない

 天下りの本当の実態については良く分からないが、先週の天下り白書(正式名称は「営利企業への就職の承認に関する年次報告」(プレスリリース本文目次)にごまかされてはいけない。これは、今の国家公務員法の第103条第2項で規定されているものを報告しているだけで、要するに関連私企業に直接再就職したケースしか載せているので、公益法人などの各種団体などへの天下りが全くカウントされていないのだ。

 これに対して、去年の6月23日号の週刊ダイヤモンドの「天下り全データ」という特集では、2万7882人という人数が示されているのであり、こちらの方がより実態に近いと思われる。中には他愛のない再就職も含まれているだろうが、2万5千人を超える元国家公務員が各省庁所管の各種独立行政法人や特殊法人、公益法人、企業などにうごめき、中でも次官などのハイレベルのOBたちが連綿と各省庁の人事や政策に影響を及ぼしているというのが、今の日本のおぞましい現状である。(元財務官僚の高橋洋一氏の最近の快著「さらば財務省!」でも、次官OBが現役に口を出す様子が少し描かれていた。)

 特に、この週刊ダイヤモンドの記事でも使われていた衆議院の天下り調査(正式名称は「中央省庁の補助金等交付状況、事業発注状況及び国家公務員の再就職状況に関する予備的調査」)から、最近著しい歪みを見せている上の3つの規制官庁(文化庁、総務省(通信放送関係)、警察庁)の天下り人数を、ここにもあげておくと、

文化庁:合計257人(内訳:非常勤職員1人、常勤職員22人、非常勤役員225人、常勤役員9人。天下り先:公益法人121。ダイヤモンドの記事が分かりやすいが、文部科学省全体では、天下り人数は3007人、天下り先団体数934と跳ね上がる。それも大学などの学校が多い。今日、文部科学省の元官僚が捕まったというニュースがあったが、日本の教育政策の今の歪みも大問題である。)

総務省(通信放送関係):合計405人(内訳:非常勤職員11人、常勤職員172人、非常勤役員150人、常勤役員72人。天下り先:公益法人85、独立行政法人1、特殊法人4、放送関連会社・放送局7。通信放送関係だけを取るため、情報通信政策局と総合通信基盤局と地方通信局が所管している団体と放送局を足した。総務省全体では、天下り人数は1858人、天下り先団体数223となる。)

警察庁:合計241人(内訳:非常勤職員12人、常勤職員80人、非常勤役員95人、常勤役員54人(天下り先:公益法人34、認可法人2。)

となる。最近の規制強化に関する策動を見る限り、これらの規制官庁に、規制をする者が自ら規制強化を推進したり、規制される者からみかじめ料として天下りコストを出させることはおかしいとする常識はもはや全く期待できない。個々の天下りがどうあれ、各官庁がこの天下り利権の維持拡大を至上命題とする限り、規制政策への歪みは出続けるだろう。このような有害無益な規制強化の動きしか生まない天下りなど即刻禁止されてしかるべきである。(ジャーナリストの方や各種政策ウォッチャーの方へ:この衆議院調査は、日本の国政の裏を読む第一級資料である。この調査は国会図書館でも簡単に閲覧できるので、もしご存じなければ、自分の興味がある省庁の分だけでも調べておくことをお勧めする。)

 また、若林亜紀氏の「ホージンノススメ」などによると、このような各種天下り法人で、政治家のパーティ券や著作を大量に買い込んだりすることも良くあるようであり、また、表立った形でないにせよ、政治献金をしている団体も多くあるのだろう。これで政官業の腐敗のトライアングルが完成する。(公共事業関係の団体の場合、さらに公共事業の配分でも議員との関係が作れるだろう。)

 天下りというとすぐ補助金との関係が取り沙汰されるが、何も、天下りは金のみに基づくわけではない。日銀やガソリン税、年金などの大利権に加えて、このような法規制による天下りも確実に国の政策を歪めているのだ。

 それにしても、刑法の第193条から198条に汚職の罪が定義されているが、天下り役人どもは、このような「ポストによる汚職」を「天下り」と言い換えれば犯罪でないとでも言うつもりか。援助交際と言ったからといって、売春は売春であろう。刑事訴訟法の第239条には、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と定められているが、この規定を天下り役人どもは何と考えているのか。公務員が法律の遵守を旨とするなら、即刻このような腐敗と癒着の温床を告発してもらいたい。

 法改正によって得られる利権・行政による恣意的な許認可権を盾に、役に立たない役人を民間に押しつけるなど、最低最悪の行為であり、一国民として到底許せるものではない。さらに、このような天下り役人が国の政策に影響を及ぼし、国が亡んでも自分たちの利権のみ伸ばせれば良いとばかりに、国益を著しく損なう違憲規制を立法しようとするに至っては、単なる汚職の域を超え、もはや国家反逆罪を構成すると言っても過言ではない。

 アメリカのスタンフォード大学のレッシグ教授は、著作権問題から政治腐敗の問題に移り、Change Congress運動を推進している。そのサイトの動画中でレッシグ教授がいみじくも述べているように、腐敗とは悪い人間がするものではなく、良い人間が悪いシステムの中でするものなのだ。腐敗の元は違えど、決してこの運動は対岸の火事ではない。岡光次官や守屋次官などいくらトップを逮捕したところで、システムそのものを変えない限り何の意味もない。本来こうした腐敗を取り締まるべき警察や検察からして天下りを行っているくらい、この天下りによる腐敗の根は深く、一朝一夕に取り除けるものではないが、天下り問題についても決して改革の手が緩められてはならない。

 去年の公務員改革法案(概要新旧対照条文)で、官民人材交流センターが導入され、再就職は全てこのセンター経由で行われることことになったが、どんな法律でも運用するのは役人である。このセンターが天下りセンターとなることは間違いないだろうが、重要なことは、この改正後の国家公務員改正法の第106条の25~第106条の27において、公益法人なども含めて公務員の再就職に関する報告が公表されることになっている点である。このデータの公表によって、天下り問題に対する批判はさらに高まることだろう。天下り役人どもよ、覚悟せよ、貴様ら有害無益な役人をのうのうと飼っておく社会的余裕はもはやないのだ。天下りを支えていたのは貴様らの才能でも有害無益な努力でもなく、民間活力と日本経済の自然成長であったと思い知れ。

(最近閣議決定された公務員改革法案(例えば東京新聞のネット記事毎日新聞のネット記事参照)も骨抜きの懸念が強いが、少しでも政官の癒着はやりにくくしておくべきだろうし、無駄に人事の硬直を招いていると言われるキャリア制度なども廃止されるべきだろう。公益法人についてもまず1000団体の役員報酬を公表させると報道されているが、このような情報公開は1000団体と言わず、全団体について行われるべきである。国民の目の届かないのを良いことに何をやっているか知れたものではない。)

 とにかく、最近の規制強化の動きは異常であり、しかも全て間違っていると私は断言するが、このような政策的な歪みの背景に天下り問題があり、この天下り問題についても役人どもはごまかしと骨抜きを図ろうとしていることは、是非、多くの人に知っておいてもらいたい。一つ一つの規制強化案についても、そもそも議論の根底から間違っていると私は言い続けるだろうが、この天下りという腐敗しきったシステムの問題も私は一緒に指摘し続ける。腐敗は元から断たない限り、止まらないのだ。

 なお、ついでに、アメリカの研究グループから、アメリカ著作権法の図書館に関する権利制限の拡充を求める詳細なレポートが提出されたというニュースがあったので、これも紹介しておこう。図書館に関する権利制限について興味がある方にとっては、非常に面白いレポートだと思われる。

(4月7日夜の追記:「中央省庁の補助金等交付状況、事業発注状況及び国家公務員の再就職状況に関する予備的調査」という衆議院調査の正式名称を書き忘れていたので上に追加した。)

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2008年4月 2日 (水)

第80回:主要各国の違法コピー対策のまとめ

 今週の木曜、4月3日に、私的録音録画小委員会の今年度の第1回が開催される。議題に「私的録音録画に関する海外の動向について」という項目があるが、今までの文化庁のセオリーだと、恐らく各国の違法コピー対策として権利者団体に都合の良い情報だけを垂れ流すだろうと思われるので、他の情報も含めてここに私なりの違法コピー対策に関する国際動向のまとめをしておきたいと思う。

(1)ダウンロードを明確に違法化した国
 私の確認できた限りで、ダウンロードを明確に違法化した国はドイツしかない第13回参照)。

(文化庁の前年度の私的録音録画小委員会の中間整理では、スペインもダウンロードの違法化を行っているかのような書き方がされていたが、今私に確認できているスペイン著作権法の条文では、その31条で集団的あるいは営利の利用でなければ私的複製が可能であるとされ、第40条の2で著作者の正当な利益を害さず、著作物の通常の利用も害しない場合に限ると限定されているというものであり、第16回で取り上げたフランスと同じく、ダウンロードを明確に違法化しているとは言い難い。これなら、第28回のおまけに書いたように、スペインのインターネット警察のボスが無料のダウンロードは犯罪ではないと言ったのも無理はない。各国著作権法紹介は途中でいろいろ挟まったために、ベルギーの途中で止まっているが、さらに詳しく調べた上で、スペイン、イタリアなどの私的複製規定の紹介も順次きちんとやりたいと思っている。とにかく文化庁の報告する国際動向は全く信用ならないので、同じくダウンロード違法化をしたと書かれているスウェーデンやフィンランドも怪しい。言語的なハードルは高いが、これらの国についても実際の条文を見てみなくてはならないだろう。)

 しかし、ドイツにしても、この2008年1月からこのダウンロード違法化の実運用が始まっている訳だが、この違法化によって何か実効性があがったという話は全く聞かない。かえって、この3月11日にドイツの憲法裁判所で、インターネットの通信ログの開示は、殺人やテロ、汚職などの重大な刑事事件において公的機関に認められるだけであるという判決が出された以上、もはやドイツにおいてこのダウンロード違法化条文の実効性はあがりようはないだろう。(以前、「P2Pとかその辺のお話」の記事へリンクを張ったが、参考に、さらに、ドイツ語のheise onlineの記事、ドイツの憲法裁判所のプレスリリース判決文へのリンクもここに張っておく。)

 今後、ドイツのダウンロード違法化の実運用が本当にどこへ向かうのかはまだよく分からないが、この憲法裁判所の判決を受けて、第13回第56回のついでに少し紹介したように、権利者団体の訴えが裁判所あるいは刑事当局によって落とされるという動きが加速するのではないかというのが私の読みである。(万単位で刑事告訴がなされているという事態は異常としか言いようがない。)

(2)著作権検閲機関を創設することによって、ダウンロードユーザーのアクセス禁止を法制化しようとしている国
 この著作権検閲機関型の違法コピー対策も、本気で導入しようと取り組んでいる国はフランスしかない第29回第30回参照)。

 私自身は、この対策も法律とすること自体難しく、本当に著作権検閲機関ができたとしても実運用は不可能ではないかと思っているが、このフランスの違法コピー対策については、第60回で取り上げたように、イギリスやオーストラリアくらいは興味を示している。ただ、イギリスについては、フランスほど案が具体的になっている様子はなく、オーストラリアに至っては、大臣が興味があるという発言をしただけで、その後の話を聞かない。(なお、オーストラリアの記事については「P2Pとかその辺のお話」で紹介されているので、興味のある方はリンク先をご覧頂きたい。)

(3)その他
 その他の国々については、無論ファイル共有サイトや有体複製物の販売などに対する取り締まりはされているが、特段目立った政策的な動きはない。恐らく、ヨーロッパを中心として、ほとんどの国は、このドイツのダウンロード違法化と、フランスの著作権検閲機関型の違法コピー対策導入の取り組みの様子を見ているところなのではないかと私は思う。

(ついでに紹介しておくと、導入されることはまずもってないと思うが、アメリカでは、音楽税が話題になっている(TechCrunchの記事1記事2参照)。以前少し話題になって叩かれ、そのまま1年以上放置されていた音楽税の話(TechCrnchの記事3参照)を、いまさら持ち出す時点で、アメリカの音楽会社のセンスを疑うが、これは要するにインターネット補償金であり、このような著作権補償金の最大の問題点は、常に「税」として要求される点である。どこまで著作物が自由に使えるのかを不明確にしたまま、選択の余地なくユーザーに税方式の補償金が押しつけられるというのでは、全くお話にならない。ただ、著作物の自由利用の範囲を明示した上で、ユーザーへオプションとして提供されるビジネス的な補償金の可能性は常にない訳ではない。流通コントロールによる非競争ビジネスのみを是としてきた著作権業界から、積極的にそのような提案がなされることはないだろうが。)

 フランスのtemps reelsの記事にうまくまとめられているが、違法コピーに対するヨーロッパの主要判決としては、上であげた3月11日のドイツの憲法裁判所の判決の他、P2Pユーザーの個人情報のインターネットサービスプロバイダーから著作権団体に対する情報開示は認められないという2008年1月のEU裁判所の判決ITmediaの記事EurActivの記事参照)あり、誰がファイル共有サービスを使っているかを確かめるため、IPアドレスやサービスにおけるユーザー名などを民間団体が収集することは違法だとする、イタリアのプライバシー保護機関の3月13日の決定もある(イタリア語のPunto Informaticoの記事参照)。

 さらに、イタリアでは、2007年1月に営利目的でないダウンロードを合法とする最高裁判決が出されたIBTimesの記事後、第56回のついでに紹介したように、非営利の場合に限り、研究・教育を目的として、音質を下げた音楽データをインターネットに無償で自由に公開して良いとするような法改正もなされている

 今回は、大体今まで取り上げてきたことをまとめただけのエントリではあるが、こうしてみると、知財保護強化に傾きがちのヨーロッパを中心に見たとしても、もはや知財保護強化だけが国際動向だなどと言える状況にはなく、行きすぎた著作権保護に対する逆風が世界的に吹き始めているのは間違いないだろう。守られるべき基本的権利は知財権・著作権のみではないのだ。

 とにかく日本での検討は、文化庁で検討され続けるだろうダウンロード違法化問題といい、第73回で取り上げた、違法アップロード者に対するアクセス禁止措置という客観性の担保が極めて難しいインターネットサービスプロバイダーの自主規制の話といい、常に本当の国際動向の上っ面を横滑りして行くようなデタラメな検討ばかりである。これらのような全国民に関わる重要問題について、真剣に国際動向を調べずに、あるいは自分たちに都合の良いこと以外は隠して推し進めようとする文化庁などの姿勢は本当に許し難い。

 この第1回の私的録音録画小委員会から、知財政策に関して疾風怒濤・狂乱の1年がまた始まる。これからも著作権の国際動向について私は地道に追いかけて行きたいと思っているが、このようなエントリが少しでも誰かの参考になっていれば幸いである。

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